9.その他

2018年11月 7日 (水)

赤松小三郎ともう一つの明治維新

著  者:関良基
出版社:作品社
出版日:2016年12月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 まずタイトルにある「赤松小三郎」の説明から。赤松小三郎は幕末の上田藩士。慶応3年(1867年)5月に、「全国民に参政権を与える議会の開設」「法の下の平等」など、現行憲法につながる憲法構想を日本で初めて提案し、その実現に奔走した。しかし、一般の知名度がほぼゼロなだけではなく、幕末・明治維新研究者からも黙殺されてきた。

 著者は環境分野を専門とする研究者で、歴史学者でも憲法学者でもない。だから本書も「素人が何を言うか」という扱いを受ける可能性は高い。しかし、非専門家であるからこそ書けることもある。学会の「重鎮」とか「定説」とか「暗黙のタブー」とかに縛られることがないからだ。

 そして「赤松小三郎の黙殺」も、その「暗黙のタブー」の類だとする。本書では、赤松小三郎の生涯とその憲法構想を詳述した上で、その「暗黙のタブー」に切り込む。さらには返す刀で、現在の日本の改憲論議にまで一太刀を浴びせる。考えれば当然のことだけれど、歴史は現在まで連続しているのだ。

 これは様々な視点で重要な書籍だと思う。実は私は赤松小三郎についての知識がある。仕事で相当詳しく知った。だから本書も「赤松についての書籍が出版されて喜ばしいことだ。どんな内容か確認のために読んでおこう」という気持ちで読んだ。私の期待をはるかに凌ぐ充実ぶりと、示唆に富んだ内容だった。

 重要と思う視点の一つめは、もちろん赤松小三郎の再評価の視点だ。歴史や憲法の非専門家とはいえ、著者は研究者だから、資料の紹介や引用などの取り扱いがとても丁寧だ。また決して単純ではない問題なのに、論旨が明快なために難なく理解できる。歴史研究の議論のベースとしても、赤松の功績の普及のためのテキストとしても使える。

 ふたつめの視点は「憲法観」についての視点。現在の改憲論は、現行憲法を「GHQの押し付け」と規定することに論拠がある。しかし本当に現行憲法の精神は押し付けられたものなのか?という提議をする。赤松の憲法構想が「実現の一歩手前まで来ていた」とすれば、それは150年前に日本人が構想し手にしていたはずのものなのだ。

 最初は「赤松小三郎のことを知ってもらいたい」という想いで、本書を読んでもらいたいと思っていた。しかし改憲が現実のものになろうとしている今、憲法について考えるために、できるだけたくさんの人に読んでもらいたい。本書のサブタイトルは「テロに葬られた立憲主義の夢」

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2018年10月31日 (水)

わけあって絶滅しました。

著  者:丸山貴史
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2018年7月18日 第1刷 8月8日 第3刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 先日読んだ「理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ」は、「絶滅」という観点から生物の進化を捉えたものだったけれど、本書は「絶滅」そのものをテーマにした本。

 サブタイトルが「世界一おもしろい 絶滅したいきもの図鑑」。カンブリア紀から現代までに絶滅した60種の生物の「絶滅した理由」に加えて、絶滅しそうでしてない10種の「絶滅しない理由」を紹介。絶滅した(しない)理由を、その生物自身に聞く、というユニークな体裁になっている。

 ユニークなのは体裁だけではない。絶妙なキャラクター設定がされた、それぞれの生物の語り口が楽しい。例えば、隕石が落ちて絶滅したティラノサウルスは、こんな感じ。

 ありえねぇ。隕石が落ちてくるとかマジでありえねぇ。直径10kmて(笑)。地球にぶつかったとき、高さ300mの津波がきたからね。さすがにビビったわ、あれは。「地球とけた?」って思ったもん。

 砂が舞い上がって寒くなり、植物が育たなくなって、草食動物が死ぬと...

 生きようよそこは!いや生きてたらおれが食べるんだけれども!まぁしばらくはそいつらの死体を食ってたんだけど、さすがに続かないよね。結局死体もすぐになくなって、腹は減るわ、超寒いわで、絶滅よ。

 楽しめた。人間が理由の絶滅もいくつかあり、楽しんでばかりはいられないけれど。

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2018年10月11日 (木)

理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ

著  者:吉川浩満
出版社:朝日出版社
出版日:2014年10月31日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 新聞の記事で見かけて、これは面白そうだと思って手に取ってみた。

 本書はダーウィンの「進化論」について論じたもの。「進化論」と言えば「適者生存」つまり「適した者が生き残る」。生物の進化の歴史は、生き残った者のサクセスストーリーだ。ところが本書は、まず最初に「絶滅」という観点から生物の進化を捉えてみる。その観点を面白いと思った。

 40億年ともいわれる生命の歴史において、これまで地球上に出現した生物種の99.9%が絶滅したと考えられる。「適者生存」を裏返して考えると、絶滅した種は「適していなかった」ことになる。しかし、絶滅現象に関する考察をすると、突然の環境変化など「運が悪い」としか言いようのない事情が浮かび上がる。タイトルにある「理不尽」の含意はそういうことだ。

 この導入部の後、著者は「日常の世界で出会う進化論」、例えば「ダメなものは淘汰されるのさ」といった言説を「誤解」だと説明する中で、「適者生存」についての考察に入る。誰が生き延びるのか?それはもっとも適応した者だ。もっとも適応した者とは?それは生き延びた者だ。これではトートロジー(ある事柄を述べるのに同義語を繰り返す技法)ではないか?という論点をまず論じる。

 中盤からは、進化生物学会での「適応主義」を巡る、ドーキンスとグールドの論争に進む。「適応主義」というのは、すべての生物の特質は自然淘汰の結果として進化的な最適値に調整されている(適応している)とするもの。これを現在的な有用性を重視して適用すると「人間の足が2本あるのは半ズボンに適応したからだ」という珍説につながる。

 正直に言って、この論争のあたりから、論理の森に迷い込んだようになって、読み進めるのに難渋した。でも、数多くの気付きがあった。「進化論」は面白い。

 最後に、心に残った言葉。「99.9%絶滅」に絡んで、「みんな何処へ行った?」((c)中島みゆき)

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2018年9月 6日 (木)

ネコの選択

著  者:田中渉
出版社:アチーブメント出版
出版日:2018年4月1日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は「選択理論」という「より良い人間関係を築くための心理学」を、ネコの夫婦の危機を老ネズミが救う、という寓話に仕立てて紹介したもの。帯には「2人で実践すれば100%幸せになる!世界50カ国で夫婦の危機を救った話題の心理学」とある。

 私は本書で初めて「選択理論」を知った。本書を読んで私が理解した「選択理論」は次のようなもの。悪化した他人(夫婦も含めて)との関係を改善するためには、相手を変えようとするのではなく、自分の行動を変える。言い換えれば、理想とする姿に近づくための行動を「選択」する。

 その「選択」のために「相手が自分にして欲しいと思っていることは何か?」と問うてみる。ネコの夫婦は「相手にして欲しいこと」はたくさん言えるけれど、「相手がして欲しいこと」はさっぱり分からなかった。「自分はいつも精一杯やっている、これ以上何をしろと言うのか」と思っている。

 「相手がして欲しいこと」を知るためには、「生存の欲求」とか「愛・所属の欲求」などの「五つの基本的欲求」について考えるのだけれど、まぁこれ以上は本書を読むか「選択理論」と検索して調べてほしい。

 正直に言って現実味に乏しい。ネコの夫婦の寓話にしたのは、人間の夫婦の実際の会話とすると、空々しくなってしまうからではないかと思う。でも、とてもいいことが書いてある。人間関係、特に夫婦の関係改善に必要なことは、たぶんこの通りだ。お悩みの方は読んでみるといい。その場合は是非相手の方にも読んでもらおう。

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2018年8月26日 (日)

アルゴリズムが「私」を決める

著  者:ジョン・チェニー=リッポルド 訳:高取芳彦
出版社:日経BP社
出版日:2018年5月1日 第1版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 インターネットに接続された機器やサービスの利用によって、様々な情報が蓄積される。その情報をアルゴリズム(問題を解くための手順を定式化したもの)によって分析することで、ネット上の「私」の「属性」が決定される。例えば「女性」「40代」「日本人」「リベラルな思想」...。

 本当は「55歳」の「男性」かもしれないけれど、ネットワーク上には「40代」の「女性」として、実際の私とは別に「私」(カギかっこ付の私)が存在している。そういう状態をタイトルの「アルゴリズムが「私」を決める」は表している。ちなみに原書のタイトルは「WE ARE DATA(私たちはデータである)」。

 これはちょうどゲームの「Wii Sports」で体力測定をした結果の「体力年齢」のようなものだ。どれだけ素早く的確に反応できたかの「情報」を「アルゴリズム」で分析して「年齢」を算出する。本当の年齢と違っていても特に問題ない。問題ないどころか、実際より若く出れば喜ばれるぐらいだ。

 ところが本書は「問題あり」として例をあげる。例えば「犯罪リスク 高」と判定されて、警察の監視がついたらどうか?。これは実際にシカゴ警察で実施された。さらに、テロリストと判定されたら?米国によって中東で結婚式が爆撃されたことがあるけれど、それはデータによって「テロリストの会合」と判定されたから、と推測されている。

 この他にも本書は例をいくつも上げる。そして大きな問題は「自分がどのように判定されているかを、自分で知ることができない」ことだと言う。もちろん「どうしてそう判定されたか?」も分からない。だから身に覚えのないどんな不利益を被ることになっても、事前に準備することはもちろん、事後にも反論しようがない。

 怖い怖い。事例は多くは米国でのものだけれど、日本で同じことが行われいないとは言い切れない。いやその前に米国で行われているデータ収集の対象には、日本に住む私たちも入っている。

 「オンラインショッピングもSNSもしない。するのはメールとネット検索ぐらい」という人も安心できない。ネット検索の検索履歴やメール、通話の履歴、GPSの移動記録が蓄積されている。「無断では利用されないはずでしょ」というのは(脅かして申し訳ないけれど)人が良すぎる。

 最後に。著者は一つだけ「対応策」として、「TrackMeNot」というウェブアプリの利用を勧めている。どれほど役に立つのか疑問だけれど、やらないよりマシか。

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2018年8月23日 (木)

アメリカ人が語る アメリカが隠しておきたい日本の歴史

著  者:マックス・フォン・シュラー
出版社:ハート出版
出版日:2016年11月19日 第1刷 2017年1月15日 第4刷 発行
評  価:☆(説明)

 太平洋戦争(著者は「大東亜戦争」という呼称を使っている)の前後のアメリカ軍が、日本軍より攻撃的で残虐だった、ということを、アメリカ人である著者が「中立な立場で」述べる、という主旨の本。「アメリカが隠しておきたい」のは「日本の歴史」というよりは、「日本でのアメリカ軍の歴史」。

 最初に言っておくと、本書から得るものはほとんどない。一見するとアメリカ人自身によるアメリカの告発で、信頼性に富む新事実の暴露のようだけれど、実態は虚実がないまぜになった、戦前戦中の日本(軍)の礼賛本だ。「歴史修正主義」の本と言ってもいい。「嫌韓本」と言ってもいい。ページ数で6割ぐらいは韓国を貶める記述に割かれている。

 「虚実ないまぜ」と言ったけれど、正直に言うと、どの部分が「虚」でどの部分が「実」なのかよく分からない。数多くの「あまり知られていない事実」を指摘しているけれど、注釈や出典の記述が全くないので、確かめようがない。「元韓国人慰安婦は、イベント会場で痛ましいパフォーマンスを行った後に、裏口でお金が入った封筒をもらっている」なんて書かれても、そのまま信じることはできない。

 特徴的なパターンとして、ありえない命題を立てておいて、正しいかどうか検証する振りをして否定する、ということが多い。例えば命題として「日本人と会話すると「アメリカ人は優しい人たちで、絶対に悪いことをしない」とよく言われます」とか、9条に関して「日本が侵略された場合、抵抗しないで皆殺しにされても良い、と話していました」なんてのもある。読んでいて滅入ってしまった。

 ☆1つ。☆0個があればそうしたい。

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2018年8月19日 (日)

読んだら、きちんと自分の知識にする方法

著  者:宮口公寿
出版社:明日香出版社
出版日:2011年1月26日 初版 2月7日 第10刷 発行
評  価:☆☆(説明)

 図書館で借りた本。そもそもこのブログを始めたきっかけの一つが、本を読んでも読んだ端から忘れてしまうので、もったいないと思ったこと。ブログの記事が思い出す糸口ぐらいにはなって、完全に(読んだことさえ)忘れてしまうことはなくなった。でも「自分の知識に」なっているとは言い難く、書名に魅かれて本書を手に取ったらしい。

 本書は「メモリー・リーディング」という、著者が考案した読書法を紹介した本。その根幹には「記憶術」を「1日5分のトレーニングを3週間すれば、ひと晩で100ページの本をかなり詳細に憶えることができる」というもの。

 その記憶術を乱暴にまとめると「イメージに変換して憶える」に尽きる。「携帯電話」「赤ちゃん」「チーズ」と憶えるのであれば、「携帯電話を食べている赤ちゃんからチーズの匂いがしている」イメージを思い浮かべる、といった具合。なるべく「大変だ」とか「やばい」とかの感情を持ち込むといいらしい。

 この記憶術の有効性は著者の折り紙付きで、著者のセミナーの参加者も実際に効果を上げているそうだから確かなものなのだろう。ちらりと疑いの気持ちが頭をもたげるけれど、それは私が自分で実践していないからだ。「記憶術」を身につけたい人は読むといい。

 その上でネガティブなことを言うけれど、私が思う「読んだ本を自分の知識にしたい」は、「記憶する」とはちょっと違うのだ。言葉にすると何か違ってしまうのだけれど、頑張って表現すると「自分で解釈・消化して身につけ」てこそ、「自分の知識」だと思う。本書は、私が期待していたものと違っていた。

 いいこともあった。憶えるのに「アウトプットは必ず必要」で、そのためにツイッター<フェイスブック<ブログ(<はおススメの度合い)に書けばいい、と書いてあった。図らずも既に私は、著者のおススメを実践していたわけだ。

 最後に。冒頭に「本書を手に取ったらしい」と書いた。「らしい」としたのは、図書館で本書を手に取った記憶がないからだ。にも関わらず、図書館の蔵書である本書が我が家にあった。私の「忘れてしまう」度合いは、「記憶術」どうこうの話ではないのかも知れない。

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2018年7月11日 (水)

絶滅の人類史

著  者:更科功
出版社:NHK出版
出版日:2018年1月10日 第1刷 5月15日 第6刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 サヘラントロプス・チャデンシス、アルディピテクス・ラミダス、アウストラロピテクス・アファレンシス、ホモ・エレクトゥス。これらはすべて「人類」の「種名」だ。私たちホモ・サピエンス以外に、「人類」は少なくとも25種は存在していたけれど、すべて絶滅してしまった。人類の歴史は絶滅の歴史。本書のタイトルはそのことを表している。

 ここで言う「人類」は、私たちの祖先が、現在のチンパンジーに至る系統と分岐してから私たちに至るまでの系統に属するすべての種のこと。本書はその分岐があった約700万年前から、私たち以外の最後の「人類」である、ネアンデルタール人が絶滅する約4万年前までの、「人類」の歴史を概観する。大きなテーマはサブタイトルの「なぜ「私たち」が生き延びたのか?」

 「人類」の特徴は直立二足歩行なのだけれど、これは生存に有利な特徴とは言えず、現に進化の過程でこの特徴を獲得した種はない。視点が高くなって遠くまで見えるという利点はあるが、敵に見つかりやすいという欠点もある。四足歩行より走るのが遅いという欠点を合わせれば、肉食獣の餌食になる可能性が高い。

 それなのに「なぜ「私たち」が生き延びたのか?」。著者は、最新の研究成果を活用しながら、その理由を推論する。それはとても緻密で分かりやすい。アウストラロピテクスやホモ・エレクトゥスなど、断片的に「何となく知っていた」化石人類を、時間的に順序立てて、地理的な観点からもコンパクトに説明してもらえたのがとても良かった。

 最後に。ホモ・サピエンスは、約7000年の間、ネアンデルタール人と共存し交雑してもいた(現在のアフリカ人以外の人のDNAの約2%は、ネアンデルタール人由来だそうだ!)。ネアンデルタール人の方が、脳の容積が大きく体も頑丈だった。それなのに絶滅した原因の一つが、ホモ・サピエンスの存在であるのはまず確実。「ネアンデルタール人の悲哀」を感じた。

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2018年7月 1日 (日)

この星の忘れられない本屋の話

著  者:ヘンリー・ヒッチングズ 訳:浅尾敦則
出版社:ポプラ社
出版日:2017年12月7日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、13カ国16人の作家が「本屋」にまつわる体験を綴ったアンソロジー・エッセイ集。編者のヘンリー・ヒッチングズは、英国のノンフィクション作家・批評家。その著者の呼びかけに応じて、世界中の作家が、人生のある時点で個人的な関わりを持った本屋のことを、思い入れたっぷりに綴ったエッセイを寄稿した。

 例えば、ファン・ガブリエル・バスケスというコロンビアの小説家は、大学生だったころに通った2つの書店について書いている。そのころには小説家になる決意を固めていて、まだ書き始めてもいない自分の本が、その棚に並ぶことに思いを馳せていた、という。アルファベット順ならば、バルガス=リョサ(ラテンアメリカ文学の代表的な作家)の隣に並ぶ、そんなことを考えていたそうだ。

 このバスケスのエッセイに書いてあったことが、本書全体の傾向を言い表しているので引用する。「作家にとって本屋というのは自分を変えてくれた場所である。だから、作家にお気に入りの本屋を訊ねると、たいていの人は、現在よく行く店ではなくて、ノスタルジアをかきたててくれる店を選ぶと思う。

 この言葉どおり、本書でもほとんどの作家が、かつて通っていた本屋についての思い出を書いている。本書に共感を感じるのは、描かれているのがまだ作家になる前のエピソードだからだろう。つまりまだ「何者でもない」ころのことで、それは私自身の10代~20代の頃の本屋の思い出と重なるからだ。すべて外国の話だけれど、国や政治体制にはあまり関係ないらしい。

 そして作家たちが思い出を語る本屋の多くは今はもうない。オンライン販売や、その他のエンターテインメントに、経営を圧迫されて、本屋は今とても弱い立場に置かれている。そんな本屋への応援の意味もあるし、本書を読めば、本屋には何かを生み出す力があることがよくわかる。でも、状況はとても厳しい。

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2018年6月13日 (水)

閉された言論空間

著  者:江藤淳
出版社:文藝春秋
出版日:1994年1月10日 第1刷 2016年2月5日 第13冊 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 先日の「世論」の100年前には及ばないけれど、こちらも初出は昭和57年(1982年)の雑誌連載というから、35年ほど前の著作になる。そんな前のものを読んでみようと思ったのは、今年の2月に読んだ「報道しない自由」という本で、本書のことを知ったからだ。「報道しない~」は、ほとんど得るものがない本だったけれど、そこで言及があった本書には興味が湧いた。

 本書は、作家の江藤淳さんが、米国の国立公文書館と、メリーランド大学の図書館の「プランゲ文庫」の資料を渉猟してまとめた論説。内容は、太平洋戦争の戦後の日本、つまり占領下の日本に対して米国が行った「検閲」の詳細と、それによる影響。文庫本1冊にまとめられているが、大変な労力をかけた一大事績だと思う。

 それを短く要約してしまうのは申し訳ないのだけれど、敢えて切り詰めてみる。米国は表向きには、占領下の日本の情報収集と、占領政策の安定化を目的として「検閲」を行った。しかしその真の目的は、日本人の心にはぐくまれて来た伝統的な価値体系の徹底的な組み換え、換言すれば「米国に都合のいい情報の刷り込み」だった。これが著者の主張だ。

 「報道しない~」の著者のような右派(こう言うと真正の右派の方に申し訳ないのだけれど)の論者が、本書を好んで引用するのは、著者が発見した文書に「格好のネタ」になりそうなことが書いてあるからだ。著者が発見した文書に「削除または掲載発行禁止の対象」の30項目のリストがあって、その項目に「SCAP(GHQ)が憲法を起草したことに関する批判」「朝鮮人に対する批判」「中国に対する批判」...とある。

 また、著者が「その当時起こったことが現在もなお起こりつづけている」という感覚を持っていることも、右派の共感を得ている。つまり、マスコミが「憲法改正反対」や「中国・韓国よりの記事」などの、「反日」報道をするのは、未だに占領下の米国のコントロールから脱していないから、というわけ。

 「一大事績」という気持ちに変わりはないけれど、本書には調査報告としては欠陥がある。それは「事実」と「意見」が区別されていないこと。例えば、上に書いた「真の目的は、日本人の心に~」という文章は、30項目のリストの後にあって、「一見して明らかなように」で始まっていて、まるで「事実」のように書いているけれど、どんなに読み返してみても「明らか」ではない。まぁ著者の「意見」か、それ以前の「感想」ぐらいのものだ。

 最後に。30項目のリストが記された文書について。詳しい出典が付いていたので、原文を入手したいと思い、米国国立公文書館に問い合わせたりして、国立国会図書館の憲政資料室にマイクロフィルムがあるらしいことがわかった。行って探してみると、該当する文書はあったのだけれど疑問が残るものだった。引き続き調べたい。

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