9.その他

2019年8月24日 (土)

戦争の記憶 コロンビア大学特別講義-学生との対話-

著  者:キャロル・グラック
出版社:講談社
出版日:2019年8月1日 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 過去の戦争に関する国際間の衝突を緩和するスタートラインが見えた、と感じた本。

 著者はコロンビア大学の教授。アメリカ人であるが、専門は「明治時代から現在までの日本の近現代史」。本書は、第二次世界大戦を各国の人がどのように記憶しているのか?をテーマにした講座における、多国籍の学生たちとの対話を収録したもの。

 このテーマの端緒は、日本と中国・韓国の関係に顕著なように、75年近く前に終結した戦争の影響が、なぜこうも現在にネガティブな形で存在しているのか?という疑問だ。その答えの一つが、立場によってあの戦争の捉え方が一致しない、ということだ。

 第二次世界大戦を、アメリカ人は、ドイツと日本の侵略に対抗した「良い戦争」と見る。日本人は、自国の指揮官によって悲惨な戦争に「巻き込まれた」と見る。韓国人は、日本による植民地搾取の極致と見る。中国人にとっては勇敢な抗日戦争、インドネシア人は戦後の独立へ続く出来事、と著者は考える。要するに自国に都合が良いように捉えて記憶している。

 各国で、この「国ごとに異なる自国に都合が良い記憶」を、政治的に利用する「記憶の政治」が行われている。それによって国と国との間で、感情的な敵対心を生んでいる。これへの対応の一つは、他国の「記憶」を尊重しつつ、それぞれの「記憶」に「歴史」を付け加えること。この講座で行われているのは、そのための「対話」だ。

 これは読むべき本だと思った。この本を読んで、まずは「自分たちは知らない」ことを認識するべきだ。それがよく分かる質問がある。「第二次世界大戦が始まった年は?」。(あくまで私の印象だけれど)日本人は終戦の年は知っていても、開戦の年は知らない人が多い。「知っている人」でも真珠湾攻撃の1941年と答える。日中戦争開始(1937年)や満州事変(1931年)と答える人は少ない。

 日本と中国・韓国で、あの戦争の捉え方が違うことはあまりによく知られたことだ。だから衝突するのだと思っている。しかし「捉え方」以前の問題として、日本人は中国との戦争のことを知らなすぎる。もっと言うと興味もない。これでは意見がぶつかるばかりで、対話は成り立たない。

 そして若者たちの頼もしさを感じた。講座に参加した学生の国籍は、日本、韓国、中国、アメリカ、カナダ、インドネシア。パールハーバーも広島・長崎も慰安婦も南京も俎上に上る。日本で悪名高い「反日教育」を受けた学生も含めて、彼らはちゃんと「対話」している。「対話のドアは常にオープンにしている」と言いながら、まともに話し合いができない政治家とは違う。

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2019年8月 8日 (木)

何度も読みたい広告コピー

出版社:パイ インターナショナル
出版日:2011年11月25日 初版第1刷 2012年8月5日 第4刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「アドミュージアム東京」という広告専門ミュージアムのライブラリーで見つけた本。

 1980年代にコピーライターのブームがあって、その頃に高校生~大学生で影響を受けた私は、「何度も読みたい広告コピー」というタイトルから、糸井重里さんの「おいしい生活」や、川崎徹さんの「ハエハエカカカ」とかの、キャッチコピーを思い浮かべた。あの頃、もしかしたら、自分にもこういう仕事ができるかもしれない、などと思っていた。

 本書は、その「キャッチコピー」の本ではない。キャッチコピーに続く文章「ボディコピー」をテーマとした本だ。出版社で選考した100余りの「名作ボディコピー」を、担当コピーライターが書いた「ボディコピーの考え方」と共に紹介する。極小の文字だけれど、クリエイティブディレクター、アートディレクターなどのスタッフや、代理店、デザイン事務所載っていて、ちょっとした広告図鑑になっている。

 紹介された広告の年代が明記されていないのだけれど、どうも2000年代から2011年までらしい。つまり10年ぐらい前。キャッチコピーにうっすら覚えがあっても、ボディコピーは全く覚えていない。そもそも読んでもいないかもしれない。

 その辺りことは、コピーライターさんも重々承知で、「読んでもらえない」とはっきりおっしゃる方もいた。それは「でも..」と言葉が続く。他の方も、読んでもらう工夫をしたり、「自分の中にある想い」を総動員したり。「読んでもらえない」とおざなりな仕事はしない(当たり前だけど)。担当コピーライターさんによる「ボディコピーの考え方」は、個性的で面白かった。

 ボディコピーの方も、それぞれに魅力的で引き込まれた。実は本書は活字がそもそも小さくて読みづらい。元の広告は新聞やポスターがA5サイズに縮小されて載っていて、ルーペなしでは読めない。でも全部、ルーペを使って読んだ。「磨き抜かれた言葉には力がある」そう実感した。

 ルーペを使って読んだ心に残ったボディコピーを引用。宝石・時計販売の会社の「時」をテーマにしたシリーズ広告の1つ。

 にんげんの時間 ひとりがすると1時間かかることを、/ふたりでやれば30分で終わる。/ひとりがすると1ヶ月かかることを、/30人でやれば1日で終わる。/人類が何千年かけても/まだできないこと。/みんなでやれば/1日で終わるかもしれない。/もう、平和なんて、/1日あればできるはず。

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2019年8月 4日 (日)

ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた

監修者:佐藤文香
著  者:一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同
出版社:明石書店
出版日:2019年6月21日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 感心したり反省したり、よく知っているつもりで理解が浅いことを知らされたりした本。

 一橋大学の「ジェンダー研究のゼミ」に所属している学生たちが、友人・知人から投げかけられた、29の問いに答えたもの。悩みながらも真正面から向き合った「真摯で誠実なQ&A集」と帯に書いてある。

 ゼミの指導教員で監修者でもある佐藤文香教授が「おわりに」で、本書出版の経緯を書いている。ゼミ生たちは、友人や知人、ときには家族からさまざまな「問い」を投げかけられ、うまく答えられず、時には険悪になってしまう。その都度「どういえばよかったんだろう」と思い悩む姿を見て「みんなでグッド・アンサーを考えて..」と提案した..。

 「問い」には、例えば「男女平等は大事だけど、身体の違いもあるし仕事の向き不向きはあるんじゃない?」という、男女平等の必要は理解しながらの疑問もあれば、「性欲って本能でしょ、そのせいで男性が女性を襲うのも仕方ないよね?」という、信じがたいものもある。でもこれも学生たちが実際に受けた「問い」なのだ。

 本書ではこれらの「問い」の一つ一つに、「ホップ」(ジェンダーっで聞いたこともない、と言う「初心者向け)、「ステップ」(およその知識は持っている中級者向け)、「ジャンプ」(ジェンダー研究の最新動向もおおむね理解している上級者向け)、の3段階の回答が用意されている。読みやすさと専門性を兼ね備えた上手い構成だ。私は自己判定で「中級者」だけれど、「ジャンプ」も興味深く読んだ。それによって、一段深い理解が必要なのだと分かったことも多い。

 答えが難しいと感じた「問い」も多い。例えば「フェミニストはなにかと女性差別というけど、伝統や文化も重んじるべきじゃない?」という問い。重んじられるべき「伝統」や「文化」はあるが、近代以降に創造されたものもあり決して絶対的なものではなく、女性差別を正当化できない、と一旦は答えが出る。しかしでは、もっと長く続く例えば千年続く伝統は?他の民族の伝統は?と思考を広げると簡単ではない。

 本書では、他の民族の伝統への批判には抑制的な意見で、逆に問題点を指摘している。そこには明確な答えはない。監修者の佐藤教授の言葉を拾うと、本書は「グッド・アンサー」であって「ベスト・アンサー」ではない。さらに議論を積み重ねることが大事なようだ。本書はその議論の基盤になるだろう。

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2019年7月24日 (水)

たった1枚の紙で「続かない」「やりたくない」「自信がない」がなくなる

著  者:大平信孝
出版社:大和書房
出版日:2018年12月31日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、目標実現の専門家。第一線で活躍するリーダーのメンタルコーチ。経営者、オリンピック出場選手、トップモデル、ベストセラー作家などの目標実現・行動革新もサポートしたとか。

 本書で紹介するのは、著者が開発した独自の目標実現法である「行動イノベーション」。「井戸メソッド」と「行動イノベーションシート」の2つからなる。「井戸メソッド」の方もツールはシートなので、2種類のシートに書き込んでいくだけ。実にシンプル。

 「行動イノベーション」が特徴的なのは、過去に注目したこと。「目標達成」自体が未来志向なわけで、「目標を立てて、それに達するスケジュールを考えて..」なんて、未来にフォーカスした方法論はたくさん聞いたけれど、本書で重視するのは過去。ただし過去の「素晴らしい体験や経験」。

 過去の「素晴らしい体験や経験」は、思い出すと「やる気」の補充につながるし、そこにはその人の「大切な価値観」が現れている。2種類のシートはそれを上手に引き出してくれる。これによって「正のスパイラル」と、目標達成のための「アクション」を作ろう、というわけ。

 試しにやってみた。まぁ目標が達成できたか?という評価には、もう少し時間がかかるとして、思った以上にとても楽しい作業だった。自分の「素晴らしい体験や経験」を一生懸命に思い出すなんて、自己愛が強すぎるようで躊躇われたけれど、やってみれば気にならなかった。

 「単なるノスタルジーに浸っているだけじゃないのか」という批判も心に浮かんだけれど、著者によるとそうではないらしいので、しばらく信用してみることにする。

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2019年7月18日 (木)

この数学,いったい いつ使うことになるの?

訳  者:森園子、猪飼輝子、二宮智子 原著者:Hal Saunders
出版社:共立出版
出版日:2019年5月30日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「この問いに正面から答えたんだ!でもまぁそうなるよな」と思った本。

 本書は「When Are We Ever Gonna Have to Use This?」という、英語の書籍の翻訳(契約上の理由で全編ではないらしい)。数学の教員であった著者が「いったいいつ使うことになるの?」という生徒の質問に答えるために、100の異なった職業の人々に訪問取材をし、約60の数学の項目のうち、どれをどのように用いているか聞いた結果だ。

 「一般的な算数・計算」「実用的な幾何学」「初歩の代数」の3つパートに分かれ、各パートはさらに例えば「一般的な算数・計算」なら「分数」「小数」「平均」「比率と割合」...と項目が細分化されている。各項目に最小で9問最大で71問もの算数・数学の問題がある。

 例えば「比率と割合」の第10問はこんな問題。「土木技師(に必要):難易度☆☆☆

 あるコンクリート材はセメント94ポンド(1袋)、水50ポンド、砂191ポンド、砂利299ポンドの混合からなる。混合したコンクリート材の重量は1立方フィートあたり151.2ポンドになる。1760立方フィートの壁にはセメントが何袋必要になるか?

 私が冒頭に書いた前半「この問いに正面から答えたんだ!」は、本書の試みへの称賛だ。これまでは「どんな仕事でも数学の知識が役に立つんだよ」などの抽象的な答えをして、それでは聞いた子どもは胸に落ちないのじゃないかと思う。そもそも「いつ使うの?」という問いには全く答えていない。それに対して本書は正面から具体例で答える試みだ。その子がどんな職業に就くかわからないけれど、具体例なら「その職業では数学を使うんだ」ということは納得するはずだ。

 後半「でもまぁそうなるよな」は、本書の試みの限界を感じた言葉だ。具体例は具体的であるがゆえに「ある/なし」がはっきりしてしまう。例えば「司書」には「一般的な算数・計算」の例はあるけれど、幾何学や代数の例は載っていない。数学の項目としても一次方程式以降に習う代数が載っていない。載っていないからと言って、必要ないわけではないけれど「必要ない」ように見えてしまう。

 しかし、すべての職業で高校数学までの全部が必要かというと、それも違うだろう。具体例を積み上げれば「ここからは不必要」も明らかになるかもしれないが、それはそれでいいと思う。数学に限らず、このような学校の教科を職業や生活と関連付けること、その具体例を積み上げること、こうした試みが継続されるといいと思う。

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2019年6月27日 (木)

世界一深い100のQ

著  者:ロジェ・ゲスネリほか 訳:吉田良子
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2018年8月22日 第1刷 発行
評  価:☆☆(説明)

 「まぁ確かにそうか」とか「そうなんだ!」と思いつつ「でも何なの?これは」と思った本。

 タイトルに魅かれて手に取った。世界一深い質問とその答えを100個も読むのは、さぞワクワクする体験だろうと。

 「まえがき」も「はじめに」もなく、目次の後の扉ページの裏にいきなり「Q.001 声帯移植はいつ可能になるのか?」と質問。続いて「古代から、神話や伝説の世界で語られてきた臓器移植は、いまや現実になっている。....」と回答。回答の末尾に回答者の名前と職業。この質問の回答者は「ジェラルド・ファン(耳鼻咽喉科医)」

 Q.002は「先史時代の人間は何を考えていたのか?」、Q.003は「数学がなかったら、我々の世界はどうなるか?」、Q.004は「反芻は何の役に立つのか?」、Q.005「人類は鳥インフルエンザで絶滅するのか?」、Q.006は「心配性の人間は暗記が得意か?」..。どうも何かの順番ではないらしい。ついでに言うと「深い」と言われてもピンとこない。(「数学がなかったら..」はちょっと深いかもしれない)

 というわけで「何なの?これは」と思った。タイトルに違えて「深い」とも思えない質問が脈絡なく登場する。答えの方も、腑に落ちたり落ちなかったり。はぐらかされたように感じるものもある。次はどんな質問かな?という興味も湧かない。

 ここで公正を期するために補足する。本書はフランスで出版された本の訳書で、回答者も恐らく全員フランス人だ。原題は「100 questions de science a croquer」で、「世界一深い」とはどこにも書いていない。「a croquer」は「絵に描きたいぐらい」「食べちゃいたぐらい」という意味らしい。

 一つだけ「ちょっと面白いな」質問があった。Q.051「遺伝子組み換え食品は健康にいいのか?」。市民感情としての懸念を考えれば「~健康に悪いのか?」となりそうだ。フランスが特に遺伝子組み換え食品に積極的ということもないと思うので、どうしてこうなったのだろう?その答えはたぶん、回答者が生物工学の研究者だからだ。(注:遺伝子組み換えが従来の交配による品種改良より危険、とする事実は今のところ見つかっていないそうだ)

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2019年6月16日 (日)

京大変人講座

著  者:酒井敏、小木曽哲、山内裕、那須耕介、川上浩司、神川 龍馬
出版社:三笠書房
出版日:2019年5月1日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「変人」と言うからどんなに変なのか?と思ったら、意外にも真っ当な話だったな、と感じた本。

 本書は、京都大学で2017年の5月から不定期に開催されている、一般開放の講座「京大変人講座」の7回目までをまとめたもの。この講座は今も続いていて、現在は7月にある第13回「文学でしか伝えられないことがある」の参加者を募集している。キャッチコピーは「京大では「変人」はホメ言葉です」

 全部で6章あって、1章ずつ6人の先生が自分の研究について執筆。章のタイトルを紹介する。「毒ガスに満ちた「奇妙な惑星」へようこそ」「なぜ鮨屋のおやじは怒っているのか」「人間は"おおざっぱ"がちょうどいい」「なぜ、遠足のおやつは"300円以内"なのか」「ズルい生き物、ヘンな生き物」「「ぼちぼち」という最強の生存戦略」

 1つだけ紹介。第4章「なぜ、遠足のおやつは"300円以内"なのか」。タイトルの関連から言うと、子どもたちは、300円という制約があることで、どのお菓子にしようか悩む「楽しさ」を味わえる。制約は「不便」だけれど、不便さには、ものの価値を上げ、モチベーションを上げる性質がある。

 この章の担当の川上先生の研究は「不便益=不便によってもたらされる利益」。不便だからこそいいこと、うれしいこと、を探すことをライフワークにしている。先生の専門はシステム工学で、様々なものの「便利で効率的」なあり方を研究されるのが一般的だと思う。それなのに不便なものを探している。紛れもなく変人である。

 変人だけれどふざけているわけではない。研究は筋の通ったものだし、社会への還元もある。いまや全国大会が開催される「ビブリオバトル」は、インターネット時代の「いつでも、どこでも、誰とでも」を裏返した「今だけ、ここだけ、僕らだけ」をスローガンに、先生の研究室の研究員が発案したものらしい。

 冒頭に「どんなに変なのか?と思ったら、意外にも真っ当」と、ネガティブな評価とも受け取れる書き方をしたけれど、そういうことでは決してない。「京大変人講座」の発起人の酒井先生が、こうおっしゃっている「目に見えてブッ飛んだ変人というのは"普通"をひどく意識しているものです」「あくまでも「ちょっと変」が重要」。私の「意外にも真っ当」は「ちょっと変」の言い換えだ。

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2019年5月19日 (日)

トコトンやさしい人工知能の本

編  者:産業技術総合研究所 人工知能研究センター
出版社:日刊工業新聞社
出版日:2016年12月26日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆(説明)

 人工知能について現状を「ひと通り浅く」知るのにはいい本だった。

 第1章「人口知能はこうして生まれた」から始まっ て「基礎技術」「応用例」「ディープラーニング」「未解決な問題」「社会の将来像」など、全部で66項目を見開きで紹介。例えば「基礎技術」は「機械学習」「教師なし学習」「ベイジアンネット」「サポートベクターマシン」など15項目あって、ページ数としては一番多い。

 さらに例えば「基礎技術」の項目のひとつは「画像認識」を紹介。白黒画像の中で「物体の個数」を数えるプログラムの説明をしている。2×2の4画素の組み合わせを調べることで「物体の個数-穴の個数」が分かることを解説。ちなみに、この方法では「物体の個数」は分からない。(思わず「分からんのかい!」とツッコミを入れてしまった)

 本書は「今日からモノ知り」というシリーズの一冊。意地悪な言い方をすれば「今日からモノ知り」になれるわけはないから、「モノ知りのフリ」ができるシリーズ。「ひと通り浅く」というのはそういう意味で、ある意味看板どおりでもある。チョイチョイと用語と意味を仕入れて、何かの時に披露すれば「モノ知りのフリ」はできる。

 言うなれば「それだけの本」。もちろんそういうニーズはあると思う。そんなニーズを持った人にはおススメ。ただしタイトルにある「トコトンやさしい」ということはないので注意。

 ちょっと辛めの評価を書いていて、追い打ちをかけるようだけれど、とても気になったことがあったので、最後にそれを。「小中学生からよくある質問」というコラムで「人工知能が人類よりも賢くなって、私たちを支配してしまうのですか?」という質問について。

 答えは「もう支配されています。コンビニの棚に並ぶ商品は、人口知能が「この商品は人間に買わせることができる」と判断したものです」と始まって、欲しい商品が近所のコンビニにちゃんとあって快適ですね、と続いて「人口知能に支配されるのも案外いいものですね」と結んでいる。小中学生をバカにしているとしか思えない。

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2018年12月16日 (日)

採用学

著  者:服部泰宏
出版社:新潮社
出版日:2016年5月25日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 お世話になっている会社の採用担当の方に教えてもらった本。

 「採用学」という言葉は聞きなれないけれど、それはそのはずで、著者がまさに今、確立に力をそそいでいる(つまりまだ確立されていない)学問領域。企業における人の採用を研究する。欧米には採用に関する膨大な研究蓄積があるけれど、日本ではいくつかの有益な知見が出始めたところらしい。

 著者はまず「良い採用」について考える。ポイントは3つ。1つ目は、高い仕事成果を上げる優秀な人材を得ること。少なくともランダムに採用した時より優秀でなければ、採用活動をする意味がない。2つ目は、会社に中長期的に留まるような人材を得ること。いくら優秀でもすぐに転職されては困る。3つ目は、組織を構成するメンバーに多様性が生じ、結果として活性化を導くこと。

 現在の企業の一般的な採用活動には、このポイントに照らして問題が多い。例えば、優秀な人材を取りこぼさないように、まずは大量にエントリーしてもらう「大規模候補者群仮説」。このために、雇用条件をあいまいにして間口を広げ、ネガティブな情報を伏せる。しかしこれは「魅力的でない求職者」が大量にエントリーするし、入社後の社員と会社の「期待のミスマッチ」を招いて、ポイントの2番目の「中長期的な定着」や、3番目の「活性化」を損なうことにつながる。

 私はごく小規模な職場で働いているので、このような形の採用活動には縁がないけれど、採用面接はする。その「面接」についても、興味深い指摘があった。面接では「コミュニケーション力」が重視されるが、「コミュニケーション力」は後からでも身につけられる、という。まぁ「即戦力」を求める場合は「後から~」なんて言ってられないのだけれど、もっと他に見るべきことがあるんじゃないの?ということだ。

 著者は、元々は経営や行動科学の研究者。考えてみれば「採用」は、「ヒト・モノ・カネ」の経営資源の一つである「ヒト」を得る活動。企業経営の根幹に関わることだ。それにしては、担当者の経験やカンによって進められていて、とても「科学的」とは言えない(と私は思う)。著者らによる「採用学」の知見をいち早く取り入れた企業が、業績を大きく伸ばすようになるかもしれない。

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2018年11月 7日 (水)

赤松小三郎ともう一つの明治維新

著  者:関良基
出版社:作品社
出版日:2016年12月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 まずタイトルにある「赤松小三郎」の説明から。赤松小三郎は幕末の上田藩士。慶応3年(1867年)5月に、「全国民に参政権を与える議会の開設」「法の下の平等」など、現行憲法につながる憲法構想を日本で初めて提案し、その実現に奔走した。しかし、一般の知名度がほぼゼロなだけではなく、幕末・明治維新研究者からも黙殺されてきた。

 著者は環境分野を専門とする研究者で、歴史学者でも憲法学者でもない。だから本書も「素人が何を言うか」という扱いを受ける可能性は高い。しかし、非専門家であるからこそ書けることもある。学会の「重鎮」とか「定説」とか「暗黙のタブー」とかに縛られることがないからだ。

 そして「赤松小三郎の黙殺」も、その「暗黙のタブー」の類だとする。本書では、赤松小三郎の生涯とその憲法構想を詳述した上で、その「暗黙のタブー」に切り込む。さらには返す刀で、現在の日本の改憲論議にまで一太刀を浴びせる。考えれば当然のことだけれど、歴史は現在まで連続しているのだ。

 これは様々な視点で重要な書籍だと思う。実は私は赤松小三郎についての知識がある。仕事で相当詳しく知った。だから本書も「赤松についての書籍が出版されて喜ばしいことだ。どんな内容か確認のために読んでおこう」という気持ちで読んだ。私の期待をはるかに凌ぐ充実ぶりと、示唆に富んだ内容だった。

 重要と思う視点の一つめは、もちろん赤松小三郎の再評価の視点だ。歴史や憲法の非専門家とはいえ、著者は研究者だから、資料の紹介や引用などの取り扱いがとても丁寧だ。また決して単純ではない問題なのに、論旨が明快なために難なく理解できる。歴史研究の議論のベースとしても、赤松の功績の普及のためのテキストとしても使える。

 ふたつめの視点は「憲法観」についての視点。現在の改憲論は、現行憲法を「GHQの押し付け」と規定することに論拠がある。しかし本当に現行憲法の精神は押し付けられたものなのか?という提議をする。赤松の憲法構想が「実現の一歩手前まで来ていた」とすれば、それは150年前に日本人が構想し手にしていたはずのものなのだ。

 最初は「赤松小三郎のことを知ってもらいたい」という想いで、本書を読んでもらいたいと思っていた。しかし改憲が現実のものになろうとしている今、憲法について考えるために、できるだけたくさんの人に読んでもらいたい。本書のサブタイトルは「テロに葬られた立憲主義の夢」

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