9.その他

2018年8月26日 (日)

アルゴリズムが「私」を決める

著  者:ジョン・チェニー=リッポルド 訳:高取芳彦
出版社:日経BP社
出版日:2018年5月1日 第1版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 インターネットに接続された機器やサービスの利用によって、様々な情報が蓄積される。その情報をアルゴリズム(問題を解くための手順を定式化したもの)によって分析することで、ネット上の「私」の「属性」が決定される。例えば「女性」「40代」「日本人」「リベラルな思想」...。

 本当は「55歳」の「男性」かもしれないけれど、ネットワーク上には「40代」の「女性」として、実際の私とは別に「私」(カギかっこ付の私)が存在している。そういう状態をタイトルの「アルゴリズムが「私」を決める」は表している。ちなみに原書のタイトルは「WE ARE DATA(私たちはデータである)」。

 これはちょうどゲームの「Wii Sports」で体力測定をした結果の「体力年齢」のようなものだ。どれだけ素早く的確に反応できたかの「情報」を「アルゴリズム」で分析して「年齢」を算出する。本当の年齢と違っていても特に問題ない。問題ないどころか、実際より若く出れば喜ばれるぐらいだ。

 ところが本書は「問題あり」として例をあげる。例えば「犯罪リスク 高」と判定されて、警察の監視がついたらどうか?。これは実際にシカゴ警察で実施された。さらに、テロリストと判定されたら?米国によって中東で結婚式が爆撃されたことがあるけれど、それはデータによって「テロリストの会合」と判定されたから、と推測されている。

 この他にも本書は例をいくつも上げる。そして大きな問題は「自分がどのように判定されているかを、自分で知ることができない」ことだと言う。もちろん「どうしてそう判定されたか?」も分からない。だから身に覚えのないどんな不利益を被ることになっても、事前に準備することはもちろん、事後にも反論しようがない。

 怖い怖い。事例は多くは米国でのものだけれど、日本で同じことが行われいないとは言い切れない。いやその前に米国で行われているデータ収集の対象には、日本に住む私たちも入っている。

 「オンラインショッピングもSNSもしない。するのはメールとネット検索ぐらい」という人も安心できない。ネット検索の検索履歴やメール、通話の履歴、GPSの移動記録が蓄積されている。「無断では利用されないはずでしょ」というのは(脅かして申し訳ないけれど)人が良すぎる。

 最後に。著者は一つだけ「対応策」として、「TrackMeNot」というウェブアプリの利用を勧めている。どれほど役に立つのか疑問だけれど、やらないよりマシか。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「アルゴリズムが「私」を決める」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年8月23日 (木)

アメリカ人が語る アメリカが隠しておきたい日本の歴史

著  者:マックス・フォン・シュラー
出版社:ハート出版
出版日:2016年11月19日 第1刷 2017年1月15日 第4刷 発行
評  価:☆(説明)

 太平洋戦争(著者は「大東亜戦争」という呼称を使っている)の前後のアメリカ軍が、日本軍より攻撃的で残虐だった、ということを、アメリカ人である著者が「中立な立場で」述べる、という主旨の本。「アメリカが隠しておきたい」のは「日本の歴史」というよりは、「日本でのアメリカ軍の歴史」。

 最初に言っておくと、本書から得るものはほとんどない。一見するとアメリカ人自身によるアメリカの告発で、信頼性に富む新事実の暴露のようだけれど、実態は虚実がないまぜになった、戦前戦中の日本(軍)の礼賛本だ。「歴史修正主義」の本と言ってもいい。「嫌韓本」と言ってもいい。ページ数で6割ぐらいは韓国を貶める記述に割かれている。

 「虚実ないまぜ」と言ったけれど、正直に言うと、どの部分が「虚」でどの部分が「実」なのかよく分からない。数多くの「あまり知られていない事実」を指摘しているけれど、注釈や出典の記述が全くないので、確かめようがない。「元韓国人慰安婦は、イベント会場で痛ましいパフォーマンスを行った後に、裏口でお金が入った封筒をもらっている」なんて書かれても、そのまま信じることはできない。

 特徴的なパターンとして、ありえない命題を立てておいて、正しいかどうか検証する振りをして否定する、ということが多い。例えば命題として「日本人と会話すると「アメリカ人は優しい人たちで、絶対に悪いことをしない」とよく言われます」とか、9条に関して「日本が侵略された場合、抵抗しないで皆殺しにされても良い、と話していました」なんてのもある。読んでいて滅入ってしまった。

 ☆1つ。☆0個があればそうしたい。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「アメリカ人が語る アメリカが隠しておきたい日本の歴史」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年8月19日 (日)

読んだら、きちんと自分の知識にする方法

著  者:宮口公寿
出版社:明日香出版社
出版日:2011年1月26日 初版 2月7日 第10刷 発行
評  価:☆☆(説明)

 図書館で借りた本。そもそもこのブログを始めたきっかけの一つが、本を読んでも読んだ端から忘れてしまうので、もったいないと思ったこと。ブログの記事が思い出す糸口ぐらいにはなって、完全に(読んだことさえ)忘れてしまうことはなくなった。でも「自分の知識に」なっているとは言い難く、書名に魅かれて本書を手に取ったらしい。

 本書は「メモリー・リーディング」という、著者が考案した読書法を紹介した本。その根幹には「記憶術」を「1日5分のトレーニングを3週間すれば、ひと晩で100ページの本をかなり詳細に憶えることができる」というもの。

 その記憶術を乱暴にまとめると「イメージに変換して憶える」に尽きる。「携帯電話」「赤ちゃん」「チーズ」と憶えるのであれば、「携帯電話を食べている赤ちゃんからチーズの匂いがしている」イメージを思い浮かべる、といった具合。なるべく「大変だ」とか「やばい」とかの感情を持ち込むといいらしい。

 この記憶術の有効性は著者の折り紙付きで、著者のセミナーの参加者も実際に効果を上げているそうだから確かなものなのだろう。ちらりと疑いの気持ちが頭をもたげるけれど、それは私が自分で実践していないからだ。「記憶術」を身につけたい人は読むといい。

 その上でネガティブなことを言うけれど、私が思う「読んだ本を自分の知識にしたい」は、「記憶する」とはちょっと違うのだ。言葉にすると何か違ってしまうのだけれど、頑張って表現すると「自分で解釈・消化して身につけ」てこそ、「自分の知識」だと思う。本書は、私が期待していたものと違っていた。

 いいこともあった。憶えるのに「アウトプットは必ず必要」で、そのためにツイッター<フェイスブック<ブログ(<はおススメの度合い)に書けばいい、と書いてあった。図らずも既に私は、著者のおススメを実践していたわけだ。

 最後に。冒頭に「本書を手に取ったらしい」と書いた。「らしい」としたのは、図書館で本書を手に取った記憶がないからだ。にも関わらず、図書館の蔵書である本書が我が家にあった。私の「忘れてしまう」度合いは、「記憶術」どうこうの話ではないのかも知れない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「読んだら、きちんと自分の知識にする方法」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年7月11日 (水)

絶滅の人類史

著  者:更科功
出版社:NHK出版
出版日:2018年1月10日 第1刷 5月15日 第6刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 サヘラントロプス・チャデンシス、アルディピテクス・ラミダス、アウストラロピテクス・アファレンシス、ホモ・エレクトゥス。これらはすべて「人類」の「種名」だ。私たちホモ・サピエンス以外に、「人類」は少なくとも25種は存在していたけれど、すべて絶滅してしまった。人類の歴史は絶滅の歴史。本書のタイトルはそのことを表している。

 ここで言う「人類」は、私たちの祖先が、現在のチンパンジーに至る系統と分岐してから私たちに至るまでの系統に属するすべての種のこと。本書はその分岐があった約700万年前から、私たち以外の最後の「人類」である、ネアンデルタール人が絶滅する約4万年前までの、「人類」の歴史を概観する。大きなテーマはサブタイトルの「なぜ「私たち」が生き延びたのか?」

 「人類」の特徴は直立二足歩行なのだけれど、これは生存に有利な特徴とは言えず、現に進化の過程でこの特徴を獲得した種はない。視点が高くなって遠くまで見えるという利点はあるが、敵に見つかりやすいという欠点もある。四足歩行より走るのが遅いという欠点を合わせれば、肉食獣の餌食になる可能性が高い。

 それなのに「なぜ「私たち」が生き延びたのか?」。著者は、最新の研究成果を活用しながら、その理由を推論する。それはとても緻密で分かりやすい。アウストラロピテクスやホモ・エレクトゥスなど、断片的に「何となく知っていた」化石人類を、時間的に順序立てて、地理的な観点からもコンパクトに説明してもらえたのがとても良かった。

 最後に。ホモ・サピエンスは、約7000年の間、ネアンデルタール人と共存し交雑してもいた(現在のアフリカ人以外の人のDNAの約2%は、ネアンデルタール人由来だそうだ!)。ネアンデルタール人の方が、脳の容積が大きく体も頑丈だった。それなのに絶滅した原因の一つが、ホモ・サピエンスの存在であるのはまず確実。「ネアンデルタール人の悲哀」を感じた。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「絶滅の人類史」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年7月 1日 (日)

この星の忘れられない本屋の話

著  者:ヘンリー・ヒッチングズ 訳:浅尾敦則
出版社:ポプラ社
出版日:2017年12月7日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、13カ国16人の作家が「本屋」にまつわる体験を綴ったアンソロジー・エッセイ集。編者のヘンリー・ヒッチングズは、英国のノンフィクション作家・批評家。その著者の呼びかけに応じて、世界中の作家が、人生のある時点で個人的な関わりを持った本屋のことを、思い入れたっぷりに綴ったエッセイを寄稿した。

 例えば、ファン・ガブリエル・バスケスというコロンビアの小説家は、大学生だったころに通った2つの書店について書いている。そのころには小説家になる決意を固めていて、まだ書き始めてもいない自分の本が、その棚に並ぶことに思いを馳せていた、という。アルファベット順ならば、バルガス=リョサ(ラテンアメリカ文学の代表的な作家)の隣に並ぶ、そんなことを考えていたそうだ。

 このバスケスのエッセイに書いてあったことが、本書全体の傾向を言い表しているので引用する。「作家にとって本屋というのは自分を変えてくれた場所である。だから、作家にお気に入りの本屋を訊ねると、たいていの人は、現在よく行く店ではなくて、ノスタルジアをかきたててくれる店を選ぶと思う。

 この言葉どおり、本書でもほとんどの作家が、かつて通っていた本屋についての思い出を書いている。本書に共感を感じるのは、描かれているのがまだ作家になる前のエピソードだからだろう。つまりまだ「何者でもない」ころのことで、それは私自身の10代~20代の頃の本屋の思い出と重なるからだ。すべて外国の話だけれど、国や政治体制にはあまり関係ないらしい。

 そして作家たちが思い出を語る本屋の多くは今はもうない。オンライン販売や、その他のエンターテインメントに、経営を圧迫されて、本屋は今とても弱い立場に置かれている。そんな本屋への応援の意味もあるし、本書を読めば、本屋には何かを生み出す力があることがよくわかる。でも、状況はとても厳しい。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「この星の忘れられない本屋の話」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月13日 (水)

閉された言論空間

著  者:江藤淳
出版社:文藝春秋
出版日:1994年1月10日 第1刷 2016年2月5日 第13冊 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 先日の「世論」の100年前には及ばないけれど、こちらも初出は昭和57年(1982年)の雑誌連載というから、35年ほど前の著作になる。そんな前のものを読んでみようと思ったのは、今年の2月に読んだ「報道しない自由」という本で、本書のことを知ったからだ。「報道しない~」は、ほとんど得るものがない本だったけれど、そこで言及があった本書には興味が湧いた。

 本書は、作家の江藤淳さんが、米国の国立公文書館と、メリーランド大学の図書館の「プランゲ文庫」の資料を渉猟してまとめた論説。内容は、太平洋戦争の戦後の日本、つまり占領下の日本に対して米国が行った「検閲」の詳細と、それによる影響。文庫本1冊にまとめられているが、大変な労力をかけた一大事績だと思う。

 それを短く要約してしまうのは申し訳ないのだけれど、敢えて切り詰めてみる。米国は表向きには、占領下の日本の情報収集と、占領政策の安定化を目的として「検閲」を行った。しかしその真の目的は、日本人の心にはぐくまれて来た伝統的な価値体系の徹底的な組み換え、換言すれば「米国に都合のいい情報の刷り込み」だった。これが著者の主張だ。

 「報道しない~」の著者のような右派(こう言うと真正の右派の方に申し訳ないのだけれど)の論者が、本書を好んで引用するのは、著者が発見した文書に「格好のネタ」になりそうなことが書いてあるからだ。著者が発見した文書に「削除または掲載発行禁止の対象」の30項目のリストがあって、その項目に「SCAP(GHQ)が憲法を起草したことに関する批判」「朝鮮人に対する批判」「中国に対する批判」...とある。

 また、著者が「その当時起こったことが現在もなお起こりつづけている」という感覚を持っていることも、右派の共感を得ている。つまり、マスコミが「憲法改正反対」や「中国・韓国よりの記事」などの、「反日」報道をするのは、未だに占領下の米国のコントロールから脱していないから、というわけ。

 「一大事績」という気持ちに変わりはないけれど、本書には調査報告としては欠陥がある。それは「事実」と「意見」が区別されていないこと。例えば、上に書いた「真の目的は、日本人の心に~」という文章は、30項目のリストの後にあって、「一見して明らかなように」で始まっていて、まるで「事実」のように書いているけれど、どんなに読み返してみても「明らか」ではない。まぁ著者の「意見」か、それ以前の「感想」ぐらいのものだ。

 最後に。30項目のリストが記された文書について。詳しい出典が付いていたので、原文を入手したいと思い、米国国立公文書館に問い合わせたりして、国立国会図書館の憲政資料室にマイクロフィルムがあるらしいことがわかった。行って探してみると、該当する文書はあったのだけれど疑問が残るものだった。引き続き調べたい。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「閉された言論空間」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月 3日 (日)

追及力 権力の暴走を食い止める

著  者:望月衣塑子 森ゆうこ
出版社:光文社
出版日:2018年1月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 東京新聞の望月衣塑子記者と、自由党所属の参議院議員の森ゆうこさんの対談。望月さんは菅官房長官の会見での食い下がるような質問で有名になった。森さんは農林水産委員会で加計学園問題を問い質す姿が度々テレビのニュースで放送された。

 そのお二人が、「自分たちの原点」「森友・加計問題」「権力の暴走」「問う技術」「国難の本質」について語り合う。お二人は、安倍政権に対する厳しい姿勢だけでなく、(望月さんは2人森さんは3人のお子さんの)母親である、ということも共通している。子育ての話題はほとんどないけれど、互いに共感を感じていることはよく分かる。

 望月さんについては、以前に著書「新聞記者」を読んでいたこともあって、「新しく知る」という意味では、森さんについてが多かった。

 例えば、「基本的に答弁する人たちはみんな責任を負って対応していて、そこに対する敬意を忘れないようにしないといけない」とか、「追及される方もそれなりの事情があるわけで..」とか。相手の立場も尊重する気持ちを持って事に当たっていること。(この点では望月さんも同じ想いがある)

 例えば、小泉内閣の官房副長官だったころの安倍晋三さんや、第一次安倍内閣の総務大臣だった菅義偉さんとは、いい関係を持っていたこと。森さんにしてみれば「あのときは本当にお二人とも国民の皆さんを救おうと一所懸命でしたよね」と、今の変容をチクリと刺したいところらしい。

 森さんのところに「将来、恩返ししますから」と、高校生が奨学金の充実の陳情にきた話は、悲しく寂しかった。その他には、今治市職員の官邸訪問を示す文書の発見の一部始終とか、翻弄される官僚たちのこととか、望月さんから官邸記者クラブやありようとかの「ウラ話」的なことが話されて興味深い。

 最後に。政治的な方向性を共有して、共感を感じている二人が語り合っているのだから、その様はヌクヌクとして居心地がよさそうだ。こういう本は「シンパ」は褒めるけれど「アンチ」からは攻撃される。もうそこは変わらない。この本は両者の溝を深めるだけかもしれない、そう思うとむなしい。せめて「モリカケは、もうそろそろいいんじゃないの?」という「中間」の人に、少しでも響くといいのだけれど。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「追及力 権力の暴走を食い止める」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年5月30日 (水)

世論(上)(下)

著  者:W.リップマン 訳:掛川トミ子
出版社:岩波書店
出版日:1987年7月16日 第1刷 1992年2月5日 第7冊 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 NHKの「100分de名著」という番組の、今年の3月に放送(4月に再放送)されたスペシャル「100分deメディア論」で、国際ジャーナリストの堤未果さんが紹介していた本。刊行は1922年というからほぼ100年前。

 著者は、アメリカを代表するジャーナリスト。数多くの論説、著作、テレビ出演が評価され、ピュリッツァー賞をはじめ様々な賞を受賞している。ただし本書を記したのは33歳の時で、まだそのような評価が固まる前。とは言えこの前には、第一次世界大戦後のパリ講和会議に随行し「十四か条の平和原則」を執筆したというから、早くから才能を見出されていたのだろう。

 本書の前半は「世論」の形成の考察。その主張を短くまとめるとこうだ。

 「世論」を構成するのは一般市民の意見。現実世界はあまりに大きく複雑なので、一般市民はそれを正確に捉えることができないため、その「イメージ」に基づいて行動する。その「イメージ」は、メディア等が伝える時に歪められ、私たちが受け取る時にはステレオタイプによって歪められている。このように二重に歪められた「イメージ」を基にした意見で構成される「世論」は、当然、現実を正しく反映しない。

 特に「ステレオタイプ」についての考察が興味深いので引用する。

 われわれが現に見ているものがわれわれの予期していたものとうまく一致していれば、そのステレオタイプは将来にわたっていっそう強化される。ちょうど、日本人はずるいと前から知らされている人が、あいにくと不正直な日本人二人とたまたま続けさまに出くわしてしまったようなときがそれである。

 そして、もし現実の経験がステレオタイプと矛盾するときには..

 規則にはつきものの例外であるとして鼻先であしらい、証人を疑い、どこかに欠陥を見つけ、矛盾を忘れようと努める。

 テレビ番組の中で伊集院光さんが「今週発売の新刊の話ではないですよね?」と念を押したように、これはまったく現在の話を聞いているようだ。私自身が持つステレオタイプにも留意するよう肝に銘じたい。

 後半は、「世論」に関しての民主主義の分析と「あるべき姿」の考察。前半を踏まえて、「一般市民の一人一人が正確な情報に基づいた有効な意見を」などとは言わない。そういうことは「できるはずも機能するはずもないフィクション」として排して、比較的にだけれど現実的な考察がされている。こちらも興味深い。

 100分de名著スペシャル「100分deメディア論」ホームページ

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「世論(上)(下)」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月11日 (水)

同じ時代を生きて

著  者:武田志房、窪島誠一郎
出版社:三月書房
出版日:2017年12月20日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

  70代の男性お二人の対談。武田志房さんは、観世流の能楽師。重要無形文化財総合指定や旭日雙光章を受けていらっしゃる。窪島誠一郎さんは、「無言館」という戦没画学生慰霊美術館の館主。スナックの経営や小劇場の立ち上げなどを経て、美術館の設立に至る。

 能楽師の家に生まれて能の世界一筋の武田さんと、靴修理職人の家で育ち、傍目には自由に生きてきた窪島さん。接点は窪島さんが武田さんに、無言館近くの前山寺での薪能を依頼したことらしい。その時の武田さんの窪島さんに対する第一印象は「絶対しゃべりたくないって感じ」だったそうだ。

 ところが話し始めると「いろんなことが一致して、楽しくて面白くて」と。人と人の相性というのは分からないものだ。ただ、少年時代からの思い出を語り合う本書を読んでいると、その相性の一端を感じる。少年時代から青年期まで、二人は同じ時代に同じ場所で暮らしている。一致するのはそのことが大きい。

 ただ、それだけではなくて「一致しないこと」も、よい方向に作用しているように思う。武田さんの話に出てくる生活は「セレブ」と言っていい。窪島さんは武田さんのことを「高級マグロ」と言い、自分のことは「川魚」に例える。その距離感を敢えて埋めようとしないことが、二人を引き寄せあっているようだ。

 まぁ悪く言えば、年寄り二人が語り合っているだけ。読んでも何も得るものはないかもしれない。繰り言っぽいものもあるし。でも、私にとっては「無言館」についての窪島さんの、気が合う武田さんが相手でポロリと出た感じの、(たぶん)本音が垣間見られたのが収穫。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「同じ時代を生きて」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月 5日 (日)

都市と野生の思考

著  者:鷲田清一、山極寿一
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2017年8月12日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 京都市立芸術大学学長の鷲田清一さんと、京都大学総長の山極寿一さんの対談本。

 京都市の西と東に位置するそれぞれの大学のトップ、という現職の立場だけでなく、同年代(山極さんが2歳年下)で、京都大学の学生として過ごしたという青年時代、など、共通点の多いお二人。さらには、これまでにも多くの研究会で顔を合わせていたそうだ。

 しかし、鷲田さんは京都生まれで一旦京都を離れた人。山極さんは東京生まれで京都に来た人。もちろん専門も「哲学」と「ゴリラ研究」と、全く違う。この共通点と相違点の両方があることが、対談の話題に幅と面白さを与えている。山極さんから「ゴリラ」以外の深い話を伺うことができた。

 対談のテーマは「大学」「老いと成熟」「家と家族」「アートと言葉」「自由」「ファッション」「食」「教養」「AI時代の身体性」。このようにテーマは、とてもとても幅広いのだけれど、繰り返し言及される話題がいくつかある。一つは「多様性が安定性を担保する」ということだ。

 山極さんは、大学をジャングルに例える。ジャングルは陸上で生物の多様性が最も高い場所。その多様性が環境変化に対する安定性につながっている。大学も多彩な人材が集まって多様な研究を自由に行える場であるべき、という。多様性が安定性につながることは、もっと広く社会に対しても言える。

 また「自分の生活を自分で何とか築き上げる力」にも、繰り返し言及される。鷲田さんはこの力を「ブリコラージュ」という言葉で表現する。ありあわせのものを使って自分で何とかする、という意味の言葉。アーティストはそういうことをする、と鷲田さんは言う。ここでいう「アーティスト」の「アート」は「リベラル・アーツ」の「Arts」を含意して、「生きるための技術」を指すと考えていいだろう。

 実はこの「ブリコラージュ」という言葉は、文化人類学者のレヴィ=ストロースが、「野生の思考」という著書の中で使った言葉で、本書のタイトルは、この本のタイトルに「都市」をつけ足したもの。だから「ブリコラージュ」は本書のキーワードと言えるだろう。

 余談。帯にお二人の顔写真に重ねて「哲学者×ゴリラ」と書いてある。鷲田さんは「哲学者」だけれど、山極さんは「ゴリラ」ではない。でも違和感はない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「都市と野生の思考」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

0.トラックバックについて | 0.本の評価について | 1.ファンタジー | 11.トールキン | 12.C.S.ルイス(ナルニア国) | 13.ル・グウィン(ゲド戦記) | 14.ダイアナ・ウィン・ジョーンズ | 15.サトクリフ | 16.上橋菜穂子 | 17.P・ステュワート(崖の国) | 18.ガース・ニクス(王国の鍵) | 19.D・デュエイン(駆け出し) | 1A.たつみや章 | 1B.畠中恵 | 1C.小野不由美 | 1D.仁木英之(僕僕先生) | 1E.阿部智里(八咫烏) | 1F.荻原規子(RDG) | 1Z.その他ファンタジー | 2.小説 | 21.村上春樹 | 22.有川浩 | 23.森見登美彦 | 24.恩田陸 | 25.梨木香歩 | 26.万城目学 | 27.三浦しをん | 28.重松清 | 29.小川洋子 | 2A.あさのあつこ | 2B.近藤史恵 | 2C.和田竜 | 2D.高田郁 | 2E.瀬尾まいこ | 2F.辻村深月 | 2G.朝井リョウ | 2H.池井戸潤 | 2I.宮下奈都 | 2J.柚木麻子 | 2K.原田マハ | 3.ミステリー | 31.伊坂幸太郎 | 32.東野圭吾 | 33.森博嗣 | 34.加納朋子 | 35.三崎亜記 | 36.ダン・ブラウン | 37.ダレン・シャン | 38.フィリップ・プルマン | 39.小路幸也(バンドワゴン) | 3A.三上延(ビブリア古書堂) | 3B.ジェフリー・アーチャー | 3C.柳広司(Joker Game) | 3D.大沼紀子(まよパン) | 3F.中山七里 | 3G.海堂尊(田口・白鳥) | 4.エッセイ | 5.ノンフィクション | 51.塩野七生 | 52.感動コミック | 53.池上彰 | 54.グラハムハンコック | 6.経済・実用書 | 7.オピニオン | 71.香山リカ | 8.雑誌 | 9.その他