71.香山リカ

2014年8月14日 (木)

劣化する日本人

著  者:香山リカ
出版社:KKベストセラーズ
出版日:2014年7月20日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の意見は私の考えと親和性があるらしく「その通りだ」と思うことも多く、本を読んで「なるほどそうか」と気付かされることもある。「ネット王子とケータイ姫」「しがみつかない生き方」がそうだった。全部読むつもりは全くないのだけれど、新刊が出ると気になって時々手に取って読んでみている。

 タイトルが挑戦的だ。誰だって「劣化する(した)」と言われていい気持ちはしないだろう。ただ「昔の日本人はこんなじゃなかった」という言い方は時々耳にするし、私も日々の暮らしの中やニュースに接してそう思うこともある。定量的な根拠はないのだけれど、少なくとも日本人は「変わった」んじゃないかと思う。

 著者はまず「劣化」の象徴として、小保方晴子さん、佐村河内守さん、片山祐輔被告らと、その事件を挙げる。科学の世界の頂点であんなズサンなことをする人がいるなんて、芸術の分野にあんな詐欺師がいるなんて、テレビに出てあんなに堂々とウソをつくなんて..「昔の日本人だったら考えられない!」というわけだ。

 その上で、これらの人は「突発的に生まれたモンスター」ではないとして、今の社会の「自分のことしか考えない」風潮を後半で考察する。この考察の部分はこれまでのように「その通りだ」「なるほどそうか」と思うことがあった。しかし前半の個々の事件の分析は、私としてはいただけなかった。

 その理由は、精神科医として知識の使い方に違和感、もっと言えば不快感を感じたからだ。「これは推測だが」「一般論だが」と但し書きをしながらであるが、それぞれの人に精神医学的な分析と評価を加えている。あとがきで「医療の倫理をやや逸脱した行為かもしれないが(中略)社会的意義を鑑みてあえて踏み切った」と説明はあるが、面談もせずに事実上の診断を加えそれを公表する行為はやはり不愉快だった。

 特に小保方さんに対する評価は容赦がなく、家族の職業まで持ち出して「自己愛パーソナリティ」の見立てを補強している。STAP現象が未だ「検証実験」の段階にある中で執拗な追い込みをする。「これは推測だが一般論として」こうしたことをする人は、小保方さんのことが「気に入らない」人なのではないか?と言えると思う。

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2012年10月31日 (水)

「独裁」入門

著  者:香山リカ
出版社:集英社
出版日:2012年10月22日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「独裁」入門、と言っても独裁者になるための手引書ではない。本書は、日本の現状を分析し、それが現代型の独裁者(ヒーロー)を生む危険性に警鐘を鳴らす本だ。

 日本の現状とは、長らく低迷を続けた上に先行きが不透明な経済、有効な対応ができない混乱した政治、さらに震災と原発事故の痛手を受け自信を失った社会といったものだ。将来が不安で自信を失い、政治(つまり現在のリーダー)に期待できないとすれば、「誰かに何とかしてほしい」と、人々がヒーローを待望するのは自然な成り行きとも言える。

 具体的な現象の1つとして著者は、白か黒かの二項対立、あるいは二者択一が好まれる、ということを挙げている。これには数年前のことになるが、2005年の衆院選での小泉元首相の「郵政民営化、イエスかノーか」という提示に続く、自民党の圧勝が思い起こされる。こうした問いかけはとにかく分かりやすい。あの時は小泉さんに任せれば大丈夫、と思った人も多いはずだ。

 しかし著者によると、このように分かりやすい二項対立・二者択一を好むのは、精神病理学的に見ると不安や葛藤を回避する、やや不健全な防衛メカニズムの働きにも見られるそうだ。様々な条件を考慮してより良い方法を探るのには、多くの心的エネルギーを使う。そのような余裕がなければ、2つの中から(それも一方が格段に良く思える)選んだ方が楽だ。そして良い方を選んだと思うことで安心もできる。

 こんな状況の中で、分かりやすい対立を示して「私に任せなさい」という人が現れたらどうなるか?著者は仮想の人物ではなく、今や政治の中心にいると言っても過言でない橋下徹大阪市長を、現実的な脅威として示す。これには正直言って驚いたが、それは私の無知によるもので、著者と橋下氏は現在かなり先鋭的に対立しているようだ。

 残念なのは、本書の多くの部分を、この対立から生まれた論争?(あまりかみ合っていないのだけれど)における、著者の主張に割いていることだ。これで本書は「香山リカvs橋下徹」の視点からしか見られなくなってしまった。テレビの生討論の持越しを書籍で、というのは分からないではない。テレビよりも書籍の方が、正確に主張が伝えられるだろう。でも、それはしない方が良かったと思う。

 本書で展開される精神病理学的な分析は、一考に値するもので、多くの人に冷静に受け入れてもらいた。それが、対立の構図の向こう側へ押しやられてしまった。それでだけでなく、「橋下徹は是か非か」という、著者自身が問題視する二者択一に自ら陥ってしまった。

参考:「体制維新-大阪都」のレビュー記事

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2011年5月12日 (木)

<不安な時代>の精神病理

著  者:香山リカ
出版社:講談社
出版日:2011年4月20日
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、テレビ出演も多いが、書籍や雑誌、新聞などの紙媒体でも度々お目にかかる。それらを読んで、私は「その通りだ」と思うことが多い。「なるほどそうか」という「気付き」もある。「ネット王子とケータイ姫」「しがみつかない生き方」を読んだ時もそうだった。

 本書の帯に多くのメッセージが踊る。「私を、日本をあきらめないために」「混迷する社会をどう生きるか」「精神科医からの緊急提言」「支え合う心、守るべき命、未曾有の出来事を乗り越えるためにできること」。「あとがき」によると、本書は昨年から執筆を始めて、途中で一時凍結の時期があって、震災によって再びの凍結を経て、出版に至ったそうだ。帯のメッセージは、「震災後」を意識して発信されたものなのだろう。

 前半は、日本の「国家、社会全体が「うつ病」にかかっている」という見立てを出発点として、経済、若者、親世代、高齢者の問題を順に論じる。デフレだから「うつ」になり、「うつ」だからデフレを起こす。原因と結果がグルグル回ってしまって、出口が見えない。しかも、若者、親世代、高齢者のそれぞが構造的な「不安」を抱えている。タイトルの「<不安な時代>の精神病理」は、こうしたことを言い表している。

 個人の「うつ病」の治療には「まず仕事を2ヶ月休んで..」という休養が欠かせない。しかし、あれだけの災厄を被っても、直接の被災地域以外は、企業も学校も休みにならず、週明けにはいつも通り株式市場が開いた。つまり「休めない」。この震災で著者は、底知れぬ力と共に、言い知れぬ恐ろしさを感じたそうだ。
 被災地の人々の「さぁ復興だ」という力強い声を聞けば、私たちは励まされるし、マスコミも前向きに伝え、世界からは賛辞が届く。それも、著者の目には、危ういものに見えるのかもしれない。

 後半は、「人の営み」の例としての精神医学の世界と、市場主義経済との相互関連を論じる。これはこれで見逃せないすごい事が書いてある。しかし、前半とのつながりや帯のメッセージとの関連が分かりにくく、出発点を忘れ、着地点を見失いそうになった。

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2009年8月11日 (火)

しがみつかない生き方

著  者:香山リカ
出版社:幻冬舎
出版日:2009年7月30日
評  価:☆☆☆(説明)

 新聞広告で見た本書の最終章のタイトル「<勝間和代>を目指さない」に目を奪われて即日に購入してしまった。勝間和代さんの「断る力」を読んだ時の私の思いにとても近い言葉だったからだ。その後、例によって同じ本を読んだ方を探すうちに、「勝間さんの本に出会って人生が変わりました!」という方のブログを幾つか見た。生活にハリがあってうらやましく思った。
 しかし「断る力」のレビューにも書いたとおり、「リターン・マキシマイズ」な勝間さんの生き方は、万人にとっての最上の生き方ではない、と思う。本書では著者はさらに一歩踏み込んで、多くの人が同じような成功を求めることの危険を、勝間さん自身の努力や成功を認める一方で鋭く指摘している。

 その他には「恋愛にすべてを捧げない」「仕事に夢をもとめない」「生まれた意味を問わない」といった章もある。「私は基本的にはパンのために、つまり衣食住のために働いている」という告白もあって、なんとも醒めた印象を受ける。また、大人たちが子どもや若者に盛んに発しているメッセージと相反する。
 しかし、著者は奇を衒ってこんなことを言っているのではない。1つにはこれまであまりに前向きなメッセージばかりが発せられ、その結果の閉塞感への風通しの意味がある。実際のところ、肩の力の抜けた著者のメッセージに、多くの人が実はホッとするのではないかと思う。
 もう1つは、精神科の診察室という著者の日常が大きく影響している。そこは問題を抱えた人と相対する空間であり、本人も認めているように、一般的な経験と比べてかなり偏りがある。そこでは本当に本書にあるようなメッセージが必要とされているのだろう。所々に「それは気にしすぎでは?」と思える箇所があるのは、私と著者の日常が違うからなのだ。

 著者の場合は「いまの社会を精神科医として見渡して思いついたことを、何とかして人に伝えたい。せっかくだからこれをみんなに言ってみようかな」というのが、本を書くときの動機の大半だそうだ。だから、自分とは違った知識と経験を持った人の話を聞くような気持ちで、本書を読んだらどうだろうか?きっと何かを感じられると思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。長いですが、お付き合いいただける方はどうぞ

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2004年12月24日 (金)

ネット王子とケータイ姫

著  者:香山リカ、森健
出版社:中央公論新社
出版日:2004年11月10日発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 この本の言わんとすることに全く異議が無い。私としては、ひどく常識的なことが、多くの引用を用いながら、解きほぐされている。
 中に登場するケータイがなければ暮らしていけないような「ケータイ姫」(メールにいつ何時でもすぐさま返事をしなくてはいけない。それがつながりの証だと思っている)の感性は異常だと思うが、現実に存在する。ならば、彼女を否定しても始まらない。現代のメディアと生活をテーマとして考えるなら、出発点、少なくとも前提にはしなくてはならない。
 この本が当たり前のことを書いてありながら有益だと思うのは、身の回りに非常識な見識がはびこっているからだ。「ゲーム脳」のことを、非科学的な説と言い切る意見があることを、つい最近まで知らなかった。「何だってやり続ければおかしなことになるだろう」ぐらいには、肯定の気持ちがあった。しかし、脳波の測定からα波β波の解説まで、全くデタラメなのだと言う。こんな話を基に、自治体がテレビやゲームを制限する政策決定をしてしまったら良い笑い者だ。
 しかし、あんなのはデタラメだ、と笑って済ませる問題ではない。子どもたちがネットの危険に晒されていることは、ゲーム脳とは別の次元で重要な問題なのだ。誰かが正しい方法で子どもたちにネットに対する耐性を身に付けさせなくては、悲劇は繰り返される。「危ないのはネットとカターナイフ」と言って、取り上げても意味ない。

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