7.オピニオン

2017年6月25日 (日)

質問する、問い返す 主体的に学ぶということ

著  者:名古谷隆彦
出版社:岩波書店
出版日:2017年5月19日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は通信社の記者。記者歴は20年以上。本書のタイトルは「質問する、問い返す」で、記者の仕事のすべての根幹にあるのは「質問するという営み」だと言う。教育現場を長く取材してきたそうで、本書の内容は「質問」と「教育」を掛け合わせてテーマをいくつか形成している。

 そのうちの一つだけを掘り下げたい。第2章「「正解主義」を越えて」という章。明示はされていないけれど、ここで言う「正解主義」とは、「必ず正解がある」ことを前提とした思考行動のこと、としてよいだろう。

 深刻な弊害の例をひとつ。選挙の投票を棄権した若者に理由を聞くと、「間違った投票をするかもしれないから」と答えた人がいるそうだ。その他にも「私のような理解の浅いものが投票してよいのか」という発言も。当然だけれども、投票に「正解」はない。(後になって「あれは間違いだった」と思うことがあるかもしれないけれど、その時点では分からない)

 「教育」に絡めて言うと、マークシートの選択式の大学入試センター試験は、「正解主義」の最たるものだ。そこを目指ざすためなのか、日本の教育は「正解を素早く導き出す」ことに注力する。ところが選挙の例を挙げるまでもなく、世の中の多くの問題には正解がない。その場合は自分の意見を構築しなくてはいけないのだけれど、そんな訓練は受けていない、という事態になっている。

 ちなみにフランスの大学入学資格試験には「哲学」という科目がある。例えば2015年の試験の問いは「人は自らの過去が形作ったものなのか」というわずか一文だけ。受験生はこれに4時間かけて答えるのだそうだ。自分の意見を形作るには「どうしてそう思うのか?」と、自分に何度も問い返さなくてはいけない。

 この後の章では、日本の教育の新しい方向性としての「主体的な学び・対話的な学び」について、いくつかの視点から論を展開している。なかなか示唆に富んだ指摘が多いので、教育に関心のある方は読んでみてはいかがかと思う。

 この後は書評ではなく、この本に関連して思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2017年6月11日 (日)

茶色の朝

著  者:フランク・パヴロフ 訳:藤本一勇 メッセージ:高橋哲哉
出版社:大月書店
出版日:2003年12月8日 第1刷  2004年4月10日 第6刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 ネットで話題になっていたので読んでみた。30ページほどの絵本に、12ページの「メッセージ」が付いている。

 主人公の「俺」は、友人から「愛犬を安楽死させなきゃならなかった」話を聞く。理由は「茶色の犬じゃなかったから」。この国では「茶色以外の犬、猫をとりのぞく」という法律が制定されたのだ。先月「俺」の白に黒のぶちの猫も始末された。その時は胸が痛んだが「あまり感傷的になっても仕方ない」と思い直した。茶色の猫を飼えばいいのだから。

 しばらくすると「街の日常」という新聞が廃刊になった。例の法律を批判していた新聞だ。それでもみんな、いままでどおり自分の生活を続けている。「俺」は思った。「きっと心配性の俺がばかなんだ」。その次は図書館の本、その次は...。

 「俺」は自らの破滅が身近に迫って、ようやく「抵抗すべきだったんだ」と気が付く。しかしすでに手遅れで、「俺」は「茶色の朝」を迎える。

 巻末の「メッセージ」によると、ヨーロッパでは「茶色」はナチスを連想させる色らしい。もう、多くを言う必要はないだろう。「こんなのおかしい」という気持ちを、騙し騙しして「大したことじゃない」と、流れに任せてしまったら、その流れの行き着く先は「茶色の朝」しかない。

 これも「メッセージ」によると、著者のフランク・パヴロフは、フランスで1990年代に、ジャン・マリー・ルペン率いる極右政党「国民戦線」の躍進に、危機感を覚えて本書を出版した。その後、多くの人が本書を読み「極右にノンを!」運動が盛り上がった。

 寓話による例えは、人の心に浸透しやすい。「物語には力がある」と言いたいところだけれど、過度の期待は禁物だ。お気づきだと思うが、先般のフランス大統領選挙で、マクロン大統領と共に決選投票に残ったマリーヌ・ルペン候補は、ジャン・マリー・ルペンの娘で後継者だ。すぐに忘れてしまうのは日本人だけではないらしい。

 さらに後ろ向きで恐縮だけれど、この絵本からメッセージを受け取るのは、元々極右思想に疑念を持っている人だけかもしれない。それでも本書を一人でも多くの人が目にするといいと思う。それが未来につながる希望。

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2017年6月 7日 (水)

すべての戦争は自衛意識から始まる

著  者:森達也
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2015年1月29日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 古い新聞記事をきっかけに本書を読んでみた。それは1925年の朝日新聞の4つの記事。「世論の反対に背いて治安維持法可決さる」「無理やりに質問全部終了 修正案討論に入る」「社会運動が同法案の為抑厭せられることはない」「定義はハッキリ下せぬがこの法律だけは必要だといふ」という文字が読み取れる。
※その記事はこちらで見られます

 最初はこの記事の画像をネットで見て、その真偽を確認するうちに、本書に紹介されていることを知った。この記事を見た時の私の気持ちに、共感してくださる方が多いことを祈る。「これは今の(共謀罪を巡る)状況にそっくりじゃないか」「歴史を繰り返しているんじゃないのか」ということ。本書を読むと、著者は私と同じ気持であったことが分かる。

 著者はノンフィクション映画監督で作家でもある。本書は著者がそれまでに書いた雑誌のエッセイや連載と書下ろしをまとめたもの。タイトルのとおり「自衛意識から戦争が始まる」ということを、繰り返し説明している。それはノンフィクション作家らしく、紛争や戦争の現場に足を運んで、人から聞き肌で感じた「実感」だ。

 例えば、パレスチナ避難民が暮らす難民キャンプ。例えば、南北に分断されたキプロスの境界線。その他には「かつての現場」である、アウシュビッツの収容所跡の博物館、南京大虐殺記念館、北朝鮮の戦勝記念館に。どこでも共通するのは、自分たちを「守る」ために戦い、そのためには「善良なままに人を殺す」そういう姿だ。

 本書にはその他に、知っておいた方が良い事柄がたくさん書いてある。例えば、南京大虐殺記念館にある「百人斬り超記録」という日本の新聞記事。日本の軍人がしていた「中国人を何人斬ったか競争」の状況を国内に報じていたのだ。例えば、韓国人なら誰でも知っているのに、日本人はほとんど知らない「乙未事変」。朝鮮の王妃が日本の公使に軍刀で殺害された事件だ。

 こういったことを「自虐史観」と非難する人たち向かっては、「呼びたければ呼べ」と著者は言う。振り返って「戦争はダメ!」という人にも「それだけではダメだ」と言う。「戦争のメカニズムを知らないと「戦争を回避するために抑止力を」というレトリックに対抗できない」。それではまた繰り返すことになる。...肝に銘じよう。もうすでに繰り返しが始まってしまっているのだから。

 最後にもう一つ。キプロスの分断された両側の地区に、若者たちが描いた「禁止マークに入った銃」と「ヘッドホン」の落書きがたくさんあるという。これは彼らの「銃は捨てる。音楽を聴く」というメッセージ。

 日本のネットなら「お花畑」と言われるだろう。「とことん話して、酒を飲んで..」と言った学生を袋叩きにしたように。正直言って私も「甘い」ように思うのだけれど、このことが本書の中で希望を一番感じたことだった。これが唯一、解決につながる道なのかもしれない。

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2017年6月 1日 (木)

日本をダメにしたB層の研究

著  者:適菜収
出版社:講談社
出版日:2015年11月1日 発行
評  価:☆☆(説明)

 ここのところ政府にとって都合の悪いことが次々と話題になっている。その割に支持率が下がらない。「どうして?」と思っているうちに「B層」という言葉が頭に浮かんだ。「たしか「B層の研究」っていう本があったよな」と思って、本書を探し出して読んでみた。

 「B層」というのは、2005年のいわゆる郵政選挙の時に、広告会社が作成したコミュニケーション戦略による概念。「構造改革に肯定的か否定的か」と「IQが高いか低いか」の2つの軸で、国民をABCDに分類し、「構造改革に中立から肯定的でIQが低い」層のことを「B層」と名付けている。

 国民の多数がこの層に属していて、この層は深く考えることなく、印象で物事を決めてしまう。だから「郵政民営化に賛成か反対か」「改革派か抵抗勢力か」と、問題を単純化してして、テレビで大量に投げかける、というのがその戦略。

 そうすると、具体的なことはよく分からないけれど(「改革派」の方がいい感じがするので)「郵政民営化賛成!改革派ガンバレ!」となって、その結果として自民党は圧勝、というワケ。「国民をバカにするな!」と憤りを感じるけれど、戦略通りに自民党は圧勝したわけだから、憤るだけ虚しいというものだ。

 ちょっと「B層」の説明が長くなってしまった。それで本書は、タイトルからして「日本をダメにした」と形容しているわけで、その「B層」を「研究」と称して、徹底的にバカにしている。それだけでなく「B層」を支持基盤にした、小泉さん以降の歴代の首相を、党を問わずバカ呼ばわりする。

 いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もあるし、著者は哲学や古典にも通じているようだ。しかし、こんなふうに他人を順番に俎上に載せて、次々と切って捨てているのでは、飲み屋で吠えている酔客のようで、心情的に距離を置きたくなった。

 繰り返すけれど、いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もある。積極的にはおススメしないけれど、私が上に書いたことを承知した上で、それでも興味があれば、読んでみてもいいかもしれない。

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2017年4月15日 (土)

日本3.0 2020年の人生戦略

著  者:佐々木紀彦
出版社:幻冬舎
出版日:2017年1月25日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は「NewsPicks」という経済情報に特化したニュース共有サービスの編集長。その前は「東洋経済オンライン」の編集長、その前は東洋経済新報社の記者。1979年生まれというから、年齢は現在30代後半。

 タイトルの「日本3.0」は「近代日本の第3ステージ」を表す。第1ステージは明治改元から敗戦まで、第2ステージは敗戦から立ち直った「奇跡の経済成長」。それが終わりを迎え、2020年ごろに「これまでとはまったく異なる思想、システム、人を必要とする」新しいステージが始まるそうだ。

 本書は、なぜ「日本3.0」を迎えるのか、その時代に国家は、経済は、仕事は、教育は、リーダーはどうあるべきか?を、少し暑苦しく感じるぐらい熱心に語る。その時代を牽引する(すべき)現在の30代の人たち(つまり自分たちから少し下の世代)を、「いい子ちゃんを卒業せよ」と鼓舞する。

 2020年ごろには、開国や敗戦に匹敵する「ガラガラポン革命」が起きるという著者は予想する。その根拠として「10のファクター」と「5つの社会変動」を挙げる。正直に言って漸進的な変化が多くて「ガラガラポン」にはならないだろうと思う。

 ただここ数年の政治や経済に「これまでのやり方ではムリ」という印象を強く感じる。何か新しいことが必要だし起きそうだ。それから著者が本書で言うリーダーや人材は、2020年ではなくて今すぐにでも必要だ(そもそも「3年後から必要」って予想も不自然だけど)。だからガラガラポン」が起きなくても、本書の主張は有益だと思う。

 最後に。著者の「経済紙の記者」という職業について。経済紙の記者は、駆け出しの頃から経営者に会える。一般的な会社員は、自分と釣り合った役職の人を相手にすることが多い。20代の平社員が大企業の社長や会長と会って話を聞く機会などまずない。ところが記者ならそういうことがある。

 まだ30代の著者が、これだけ社会全般を見渡す視野を身に着けている。本書の随所に取材した企業人の言葉の引用があるけれど、著者がこれまで会って来た先達たちから受けた薫陶が、そこに役立っているのだろうと思う。

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2017年3月26日 (日)

一汁一菜でよいという提案

著  者:土井善晴
出版社:グラフィック社
出版日:2016年10月25日 初版第1刷 2017年2月25日 第9刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の土井善晴さんは料理研究家。テレビ朝日「おかずのクッキング」や、NHK「きょうの料理」で料理の先生をしてらっしゃる。恥ずかしながら私は知らなかった。料理学校を開かれたお父さまの土井勝さんの名前はよく知っていたけれど。

 本書は著者が少し前から唱えている「一汁一菜」という料理のあり方の提案を論じたものだ。「一汁一菜でよい~」と「~でよい」が入っているのは「一汁三菜」に代表される、「きちんとした食事はおかずが何品以上」という固定観念へのアンチテーゼだからだ。

 必要ない人も多いと思うが「一汁○菜」について一応説明。食事の献立の話で、「汁」は汁物「菜」はおかずを表す。「一汁三菜」なら、「ご飯」と「みそ汁などの汁物」と「おかずが三品」。ということになる。著者が提案する「一汁一菜」ならおかずは一品だ。

 さらに言うと「一菜」は漬物でいいと著者は言う。さらにさらに言うと「具だくさんのみそ汁」は「一菜」を兼ねてもいい。その「具だくさんのみそ汁」には、何でも入れていい。ピーマンやトマトを入れてもいい。ベーコンやハム、鶏の唐揚げでもいい。(2017.4.1追記 著者のtwitterには「目玉焼き」を入れたみそ汁の写真がアップされている)

 とても共感した。著者のこの提案の根っこには、家庭で料理を作る人への暖かい眼差しがある。毎日の献立を考えるのが大変、仕事をしていると食事の支度が負担になる、簡単に済ませれば済ませたで後ろめたい。そういう人たちに「ご飯と具だくさんのみそ汁でいいんですよ」と言っているのだ。具体的なレシピもある。

 実際に夕食を「ご飯と具だくさんのみそ汁」にしてみると、確かに気が楽になった。もう一品か二品を簡単なものを作ってしまうぐらい、気持ちに余裕ができた。結果として「一汁三菜」になったけれど、気楽さはそのままだ。「何でも入れていい」は半信半疑だったけれど、実際にトマトやピーマンを入れたみそ汁を作ってみたが、これが美味しかった。

 最後に。本書は「一汁一菜の提案」から話を掘り下げかつ広げて、和食や日本の文化についても論じられている。散見される「日本人だけが..」という部分には違和感も感じたけれど、総じて興味深い考察だと思う。そういうところも楽しめる。

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2017年3月 1日 (水)

「つくる生活」がおもしろい

著  者:牧野篤
出版社:さくら舎
出版日:2017年1月15日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 サブタイトルは「小さなことから始める地域おこし、まちづくり」

 著者は今の社会を「不機嫌な社会」という。駅とか電車の車内とかの人の集まる場所の多くで、暴言や暴力や言い争いが絶えない。このイライラの原因の一つが「これまで社会の主流であった人々、とくに中年サラリーマン」の自信喪失、プライドの損傷にあるとする。

 競争しても努力しても上に上がれない。それでも比較優位を得ようとすると、誰かをつぶす(落とす)しかない。..あぁ何とも暗い気持ちになる。

 ただし本書の主題は、こうした何とも暗い話ではない。この状況の一方で「新しい動き」があって、そこでは人々は上機嫌だということだ。その主役は「これまで非主流であった、子ども、女性、高齢者、障害者」だという。そうした人たちが、何かを消費するのではなく、何かを作り出し作り出すことそのものを楽しんでいる、という。

 「やっぱりそうだよね」と思った。私は、品物やサービスを消費するのは楽しいけれど、自分で何かを作る方がさらに楽しい、と思っている。仕事で子どもたちに関わることが多く、その時に「作る側の人になる」という話をすることもある。その方が将来を考える時に役立つと思う気持ちもある。

 本書に話を戻す。紹介される事例は、住民が自分たちで道路の補修工事をする長野県下條村、現役を退いた男性たちが中心となった千葉県柏市のコミュニティ・カフェ、高校生がまちづくりに取り組む、島根県海士町や長野県飯田市など。最初は「やらされている感」があったものが、自らの意思で動くようになる。どうもそこに鍵があるらしい。

 また、タイトルの「つくる生活」というのは、目に見えるモノをつくるだけではなく、むしろ目に見えない、新しい関係や文化やそのための活動をつくる、ということ。私自身は、目に見えるモノをつくることを念頭に、「作る側の人になる」という話を、子どもたちにしていたけれど、確かに目に見えないことでも、つくることの楽しさは変わらないかもしれない。

 最後に。実は「新しい動き」の事例が紹介されるのは、本書が半分以上も進んだ第3章に入ってからだ。それまでには、高齢化社会の議論とそこから抜け落ちた問題点、「言葉」についての観念的な考察など、様々な論点が提示される。正直に言って、本書の主題との関連性がよくわからない。

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2017年2月15日 (水)

復刻新装版 憲法と君たち

著  者:佐藤功
出版社:時事通信社
出版日:2016年10月20日 初版 11月17日 第6刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は1955年に書かれたものを復刻した「復刻新装版」だ。著者は、その時の内閣法制局の依頼によって、日本国憲法の制定に深く関わった憲法学者。その著者が、小中学生に向けて書いた「憲法の本」だ。

 1955年というのは敗戦から10年、日本国憲法の施行から8年、という時。新しい憲法がようやく社会に浸透してきたころだ。しかしその時に既に、復古主義の改憲派と、新憲法の理念を尊重する護憲派が、激しく対立していたという。今、本書を復刻しようと考えた人がいる理由がここにあると思う。

 著者自身の説明によると本書に書いてある内容は「憲法とはどういうものだろう」「それはどいういうふうに発達してきたのだろう」「日本の今の憲法はどういうことを定めているのだろう」「なぜわたしたちは憲法を大事に守らなければならないのだろう」という4つのこと。

 これは実に貴重な本だと思う。ただし正直に言って面白い本ではない。子ども向けに平易な言葉で書かれているけれど、誰でもが読める本でもない。日本国憲法の話が出てくるのは、本書を半分以上も過ぎたあたりで、ここまで読むには集中力が必要だし、そのためには憲法に対する興味も必要だろう。

 それでも私が本書を「実に貴重」だと思うのは、2つの理由による。一つ目は、本書が私たちに大事なことを教えてくれるからだ。それは特に上に書いた4つの内容のうちの最後、「なぜわたしたちは憲法を大事に守らなければならないのだろう」ということ。

 このことは、もしかしたら今、憲法を擁護している人でさえ忘れているかもしれない。簡単に要約はできないけれど、敢えて言うと「人類にとっての価値あることだから」ということになる。それは「理解する」というより「感じる」必要がある。そのためには、先ほど「ここまで読むには集中力が必要」と、まるでムダで退屈な部分のように言った、本書の前半の部分が必要不可欠なのだ。

 もうひとつの理由。本書は、日本国憲法制定に立ち会った人の証言だからだ。上には「深く関わった」と簡単に書いたけれど、著者は、GHQ草案を日本に合うようにした憲法草案作りに尽力し、憲法改正担当大臣の秘書官を務めている。その人が、その時の子どもたち(私の両親の世代だ)に伝えようとしたことだ。それは世代を経て私たちに伝えようとしたことでもある。聞く価値があるはずだ。

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2017年1月22日 (日)

ライフ・シフト

著  者:リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 訳:池村千秋
出版社:東洋経済新報社
出版日:2016年11月3日 第1刷発行 11月29日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の一人のリンダ・グラットンさんは、前著「ワーク・シフト」で「2025年の働き方」を展望して見せた。テクノロジーやグローバル化などの要因が変化する中で、必要とされる「仕事」に関する考え方の「転換(シフト)」を考察したものだった。本書は、その考察をさらに広げて「人生」に関する考え方の「転換」をテーマとしたものだ。

 内容の紹介の前に2つ質問。その1「「人生」と聞いて何年ぐらいのものを思い浮かべますか?」。その2「仕事をリタイアするとして、何歳ぐらいを想定していますか?」。その1の答えは「80年ぐらい?」、その2は「65~70歳ぐらいまでにはなんとか..」と、私は思っていた。みなさんはどうだろう?

 厚労省の発表によると、日本の平成27年の平均寿命(ゼロ歳の平均余命)は男性が80.79年、女性は87.05年。年金受給開始年齢は65歳で、70歳への引き上げが取りざたされている。だから、私が思っていたことも、大きく間違えていないはず。

 本書の内容の紹介。序章に衝撃的な計算結果が載っている。それはある年に生まれた人が50%に減る年齢。2007年生まれの人は104歳、1997年生まれは101~102歳、1987年生まれは98~100歳...1957年でも89~94歳。ちなみにこれは「先進国」の値で、日本ではさらに3歳程度プラスされる。要するに今後は、半分の人は100歳まで生きる「100年ライフ」の世界になる、ということだ。私が思っていたこととはかなり違う。

 これを元に本書は「人生の組み立て」を考察する。これまでは「教育」「仕事」「引退」という3つステージで分けて、人生は組み立てられてきた。「100年ライフ」では、この3ステージのモデルでは無理がある、というのが本書の考察の基礎にある。

 例えば、これまでどおり65歳ぐらいで「引退」のステージに移ると、35年とか40年の長さになる。そんな長期間の経済負担に現役の時に備えるのは無理だ。また、引退年齢を思い切って80歳に引き上げると「仕事」のステージが60年近くなってしまう。様々なものの進歩の速さを思うと、そんな長期間有用な知識やスキルを、最初の「教育」のステージだけでは培えない。

 「ならばどうするか?」本書は、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーン、の3人を登場させ、それぞれの人生として「あるべき姿」を描き出す工夫をしている。これが参考にはなる。キーワードは「レクリエーション(娯楽)からリ・クリエーション(再創造)へ」

 しかし「理想的なロールモデル」が存在しない、ということも「100年ライフ」の特徴なので、自分の人生は自分で考えるしかない。備えておく必要があるのは確かなようだ。

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2017年1月 5日 (木)

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊

著  者:井上智洋
出版社:文藝春秋
出版日:2016年7月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年は「AI(人工知能)」についての理解を深めようと思った。何冊か見つけた本の中から本書を選んで、今年最初の1冊にした。

 2年ほど前から「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉を聞くようになった。このまま技術が進歩すると、1台のコンピュータの計算速度が、全人類の脳全てに比肩する時が来る。そうなるとAIが人間の知性を凌駕する。その時点のことを「シンギュラリティ」と呼び、おおむね2045年と予測されている。

 この「シンギュラリティ」を迎えると、社会の様々なことに大きな影響を与えるとされている。そのとき何が起きるのか?本書はそのうちの経済成長や雇用への影響についてを記す。著者はマクロ経済学者であるが、学生時代に計算機科学を専攻して人工知能に関連するゼミに属していた、という経歴の持ち主。このテーマにピッタリだ。

 本書は、第1章で「機械の叛乱の懸念」といった「機械VS.人間」の最近の話題から入って、第2章で、著者なりのAIについての今後の見通しを語る。続く第3章4章で、経済への影響について詳述する。このあたりで「なくなる仕事、残る仕事」が話題になり、2045年には「全人口の1割ほどしか労働しない」、言い換えると「人口の1割分の仕事しかない」社会が予想される。
 
 悲観的な予想に思うかもしれない。かつて「機械やコンピュータの導入が、仕事を奪う」と言われた。しかし、部分的には機械に代替されて失業があっても、全体的には市場が拡大し、新しい仕事が生み出されて、大きな問題にならなかった。「今回もそうなのではないか?」。しかし、著者はとても丁寧な説明によって、この考えが楽観的に過ぎると教えてくれる。

 ただし悲観にくれるのは早い。著者は、多くの人が失業して貧しくなるディストピアか、全ての人々が豊かさを享受できる社会か、私たちはまだ選べる、と言っている。第5章で、後者の選択の方法として「ベーシックインカム(BI)」を、著者は提言している。

 実はBIのことは帯にも「はじめに」にも書いてある。私は、BIについて最初はとても懐疑的だったのだけれど、読み終わってみると「これしかないんじゃないか」と、思うようになった。

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