7.オピニオン

2018年5月 2日 (水)

定年前後の「やってはいけない」

著  者:郡山史郎
出版社:青春出版社
出版日:2018年4月15日 第1刷 5月10日 第3刷
評  価:☆☆(説明)

 60歳で定年とすれば、私はあと5年あまり。まだまだ「定年前後」ではないのだけれど、一緒に仕事してきた先輩たちが次々に定年を迎え、こういう話題が身近になって、気の迷いで手に取ってしまった。

 著者はソニーの取締役、子会社の社長、会長、ソニー顧問を経て70歳で退職、現在は再就職を支援する人材派遣会社を経営している。80歳を越えてなお現役のビジネスマン。ちなみに著者の前著は「九十歳まで働く!」だ。

 著者の主張を一言で言うと「定年後も働ける限り働け」ということだ。90歳まで生きるとして、夫婦二人で定年後の30年間にかかる費用は約1億円。という試算がある。公的年金が月22万では2000万円ほど足りない。ではどうするか?著者の答えは明快。「働いて稼げばいい」

 定年後に働く、となれば再就職。その時の心得のひとつが「定年前の肩書や年収にとらわれない」こと。定年前の待遇や年収で雇う会社はまずない。前の会社も「そのポジションに給料を払っていたのであって、その人に払っていたのではない」「自分は人材として価値が高いと錯覚してしまっている」と手厳しい。

 その他、人生を45歳あたりで区切って「前半戦(第1ハーフ)」「後半戦(第2ハーフ)」に分けること(昔は「後半戦」はなかった)などは、「あぁそうだな」と思えた。ただし「そうは思えない」ことも多い。それは本書が「どういう人を対象にしているか」に、その原因があると思う。

 この本は「都会のビジネスエリートの男性」を対象にしている。どこにもそうは明言していないけれど、言葉の端々に現れている。第1ハーフが終る頃に「会社の役員になれるかどうかの評価が気になりだす」とか、「身のまわりのことができるようにしよう。円満な夫婦関係のためにも重要だ」とか。

 「都会の」の部分に至っては、「地方への移住」が「生活水準を下げる」方法として挙げられている。地方都市に住んで役員などには無縁の私が「そうは思えない」と感じるのも無理はない。「男性」しか合っていないのだから。☆2つ。

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2018年4月 8日 (日)

情報リテラシーのための図書館

著  者:根本彰
出版社:みすず書房
出版日:2017年12月1日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 タイトルに掲げられている「情報リテラシー」も「図書館」も、私の関心事なので読んでみた。

 最初に指摘しておくと、本書のサブタイトルが「日本の教育制度と図書館の改革」で、こちらの方が本書全体の内容をよく表している。「情報リテラシー」は、論考の導入部、または「日本の教育制度」や「図書館の改革」を考える際の「視点」として位置づけられる。

 大づかみに内容を紹介する。まず「ネット社会」や「情報リテラシー」をテーマに3章。日本人の「学び」をテーマに、江戸時代に一旦遡ってから昭和期までで2章。図書館の現在と教育改革をテーマに3章。「情報リテラシー」に戻ってまとめの1章。計9章。

 というわけで「情報リテラシー」について、分量的には期待ほどではなかったのだけれど、とても興味深い指摘がしてあって、内容的には読んでよかったと思った。その指摘は、日本の「情報リテラシー」の理解が「システムの利用法の習得」言い換えると「技術的なこと」を中心にしている、というものだ。

 このことは、アメリカでの理解との比較で述べられている。アメリカでは「技術的なこと」は軽く済ませて、個々のサービス(例えばウィキペディア)が何を提供するものなのか?その情報にはどのような特性があるのか?注意すべきことは何か?などを具体的に学ぶ。一言でいえば「実践的なこと」を中心にしている。

 ネット上の情報のかなりの割合が、意図的であるか否かを問わず「誤った情報」だと、私は思っている。そうだとすると「ネット上には誤った情報もある」ということを知っているだけではなく、具体的なサンプルを利用して「この情報は間違っている。それを見抜くにはこうすればいい」というトレーニングが必要だと感じた。

 最後に。日本の将来のために、実践的な「情報リテラシー」を習得するために、図書館に対する期待は大だ。そのためには、司書を始めとする、もっと手厚い人員配置が必要だと思う。

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2018年3月29日 (木)

世界の中で自分の役割を見つけること

著  者:小松美羽
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2018年3月7日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「新進気鋭の現代アーティスト」と帯で紹介されている。現在33歳。作品の出雲大社への奉納、大英博物館での永久展示、ニューヨークのワールドトレードセンターでの常設展示と、ここ数年は大きな話題が続く。一般的な知名度がどのくらいなのかは分からないけれど、私のような素人も含めて、現代アートに興味がある人なら、知らない人はまずいないと思う。

 本書は、アーティストとして高みを駆け上っている最中の小松美羽さんが、自分の半生と自分に与えられた「役割」について記したもの。「絵筆をペンに持ち替えて」と表現したいところだけれど、美羽さんの制作風景をご存じの方は「絵筆」ではなく、手や絵の具のチューブから直接キャンバスに描く姿の方が思い浮かぶことだろう。

 小松美羽さんの「役割」について。美羽さんは作品の殆どすべてに「神獣」や「守護獣」を描く。それは見えない世界の生き物。美羽さんは子どもの頃からその世界の生き物を身近に感じてきた。道に迷ったら必ず「山犬さま」が現れて、見慣れた道まで連れて行ってくれたそうだ。美羽さんの「役割」は、その「「神獣」や「守護獣」らの「依り代」としての作品を作ること。

 「見えない世界」とか「神獣」とか、すんなりとは受け入れられない人もいるはず。むしろその方が多いかもしれない。でも、小松美羽さんの作品を眼前にしたことがある人ならどうだろう?作品を制作する場面を見た人は?(美羽さんは度々ライブペイントを行っている) きっと私のように、「頭」が拒んでも「心」が早々に受け入れてしまうのではないだろうか?

 「絵筆をペンに持ち替えて」、それがうまく行くとは限らない。上に書いたように、その作品を見たことがあるかないかで、受け取りが違うのなら、アーティストは作品こそが一番のメッセージ、という証左でもある。でもこの飾りのない媚もない真っすぐな文章には、作品を描く時に向ける、澄み切った眼差しと同じものを感じた。心に響いた。

 最後に「はじめに」から引用。

 この本は、私の「これまで」を振り返るための本ではない。あなたの「これから」を、私の「これまで」を通じて見つけていただくための本であり、あなたと見つめ合えたらと、祈り願って書いた本だ。

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2018年3月11日 (日)

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

著  者:新井紀子
出版社:東洋経済新報社
出版日:2018年2月15日 第1刷 3月5日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、人工知能(AI)プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクタを務める数学者だ。本書は、著者がプロジェクトを進める中で得た2つの知見が書かれている。一つは、今の研究をどれだけ進めても、AIは人間の知能を越えられないこと。もう一つは、日本の中高生の多くは、教科書が読めていないこと。

 「AIは人間の知能を越えられない」について。まず、AIは「意味が理解できない」。例えば、AIの一つの成果とも言えるAppleのSiriは「おいしいイタリア料理のお店」と「まずいイタリア料理のお店」の違いがわからない。「イタリア料理」と「イタリア料理以外」も区別できない。

 試しに「「この近くの~」と訊いてみてください」と著者が言うので、聞いてみたら、「おいしい」も「まずい」も「以外」も、同じ店が紹介された。これは現在のSiriの問題ではなく、今のAI技術が抱える問題だそうだ。今のAI技術が採用している、統計と確率の手法を用いた自然言語処理技術では「意味が理解できるようにはならない」。当然、人間の知能を越えることもできない。

 もう一つの「日本の中高生の多くは、教科書が読めていない」について。これは、著者らが行った全国2万5000人の「基礎読解力調査」の結果から分かったことだ。教科書や新聞の小中学生向けの記事を使って、ある文章に書いてあることの意味を問う問題で、二択~四択の選択問題だ。

 例えば、次の2つの文の内容が同じことを表すかどうか?という問題
幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた
1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた

 中学生の正答率は57%。これが意味することが分かるだろうか?Yes/Noの2択の問題だから「コインを投げても」50%は正解する。受験した生徒たちは、大半が意味が分かっていなかったに等しい。

 この2つのことがどうつながるのか?実はAIと中学生には共通点がある、ということにつながる。「意味を理解する」という、AIができないことを、大半の中学生も苦手としている。よく「AIに仕事を取って代わられるとしても」という話題で、「人間はAIができないことをやればいい」いう答えが定番になっているが、この答えの実効性がとても怪しくなる。大問題だ。

 本書に書いてあることは、知って楽しい気持ちにはならないけれど、たくさんの人が知っておいた方がいいと思う。

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2018年3月 3日 (土)

日本を再生する66の提言

編  者:日本青年会議所
出版社:幻冬舎
出版日:2017年12月5日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 本書の編者は「公益社団法人 日本青年会議所」。通称「日本JC」。全国に695ある青年会議所の総合調整機関。「修練」「奉仕」「友情」の3つの信条のもと、20歳から40歳までのメンバーが、よりよい社会づくりを目指して活動している。

 本書は「教育再生」「経済再生」「安全保障」「憲法改正」「外交問題」「地域再興」の6つのテーマに分類した、66個の質問に対する一問一答。回答者はその質問に相応しいと考えられた、いわば有識者で、全部で23人。

 回答の中には「提言」と考えられなくもないものはある。しかし、基本的には質問に対する「答え」。たからタイトルでうたう「66の提言」ではないし、「日本を再生する」という意図も感じられない。そういうものを期待していたので残念だった。

 期待したものとは違ったけれど、分かったこともある。それは日本JCの主張だ。一問一答の形式だけれど、「答え」はもちろん、「問い」の立て方にもそれは現れる。例えば「教育再生」の8問目。「なぜ、中国や韓国の言い分がまかり通ってしまうのでしょうか?」。日本JCは、今の日本の教育は「中国や韓国の言い分がまかり通っている」と主張しているわけだ。

 「問い」や「答え」に比べると目立たないけれど、誰を回答者に選定したか?にも、傾向が現れる。8問目の回答者は、近現代史研究家の水間正憲さんだ。慰安婦問題に言及した歴史教科書を採択した中学校に、「反日極左」だとして採択中止を求める葉書が大量に送られる事件があったが、それを主導した人物だ。

 もちろんこのような「偏向」を、全部の項目に感じるわけではなく、むしろ少数。また「全く偏りのない意見」なんてものは、望んでも得られないのも確か。「日本JC」の主張に興味がある人は読んでみたらいいと思う。

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2018年2月 4日 (日)

報道しない自由

著  者:西村幸祐
出版社:イースト・プレス
出版日:2017年12月1日 第1刷 12月24日 第2刷 発行
評  価:☆(説明)

 私は、基本的には読みたいと思った本を読んでいるのだけれど、時には、私自身の考えと相容れない本を敢えて読むことがある。その考えを知るのには、書籍を読むのがテレビや雑誌の記事よりも何倍も正確だと思うからだ。本書もそう思って読んだ本。つまり本書は、私自身の考えと相容れない。おススメもしない。

 本書は、メディアが特定の目的をもって「報道すべきニュースを報道していない」と主張する。「特定の目的」とは、例えば「憲法改正阻止」であり、その背景には「反日ファシズム」つまり「東アジアで冷戦構造を保とうとする全体主義」がある、としている。

 「憲法改正阻止」はともかく「反日ファシズム」については、何のことかも正直分からない。個別の例で言うと、森友問題は「北朝鮮の脅威を隠すための策略」で、加計問題は安倍総理の「憲法改正スケジュール発表への打撃」が目的なんだそうだ。それぞれ、北朝鮮のミサイル開発や、憲法改正スケジュールを「報道しないために」打ち上げたキャンペーンというわけだ。

 「牽強付会」という四字熟語が頭に浮かぶ。それらしい論理の組み立てに見えるけれど、自分に都合の良い話を寄せ集めているだけだ。そして「都合の良い話」と言っても、「某民放テレビ局幹部」の発言とか、「政権内からこんな声が漏れ聞こえていた」とか、あるいは著者と同じような思考の人の意見や調査とか、疑わしいものが多分に含まれている。また、都合の悪いものがあれば「明らかな嘘」で、片づけられる。

 こんな感じで、私には得るものが少なかった本なのだけれど、ひとつは収穫があった。それは「閉された言論空間」という江藤淳氏の書籍と、その中で言及されているGHQの検閲に関する文書のこと。この書籍と文書が、この手の論者がいう「偏向報道」の論拠になっているらしい、ということが分かった。

 GHQの文書には、占領下の日本で検閲・削除の対象とした30項目か記されている。それに「GHQが憲法を起草したことに対する批判」「朝鮮人に対する批判」「中国に対する批判」などが含まれていて、著者らは「偏向報道」の理由と証拠の恰好の素材として、「これが今も続いているんだ!」と飛びついた、ということらしい。

 70年以上前の占領下での検閲が今も続いている、という主張については敢えて論評しないけれど、江藤淳氏の書籍とGHQ文書は、ちょっと興味がある。

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2017年8月30日 (水)

楽しい縮小社会

著  者:森まゆみ、松久寛
出版社:筑摩書房
出版日:2017年6月15日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 日本は2011年ごろから人口の減少局面に入っていて、このままの出生率で推移すれば、2050年にには1億人を下回り、2100年には6500万人を切る、と予測されている。様々な政策が功を奏すれば、もっと緩やかに減少させていくことは可能だけれど、減少すること自体をは「不可避」なのだ。

 本書は、このような背景があって記された。社会が縮小していくことを、悲観的にのみ捉えず「「小さな日本」でいいじゃないか」という。縮小することには良い面もあるし、何よりもそれに備えることで、よい未来を築くことができる。いや、それに備えることでしか、よい未来は築けない。人口減少は「不可避」なのだから。

 著者の森まゆみさんは作家で、長らく環境保全の活動に携わる。1993年の著書で「建物は新しく建てるより直して使う」など、使う資源を徹底して減らす「後ろ向きに前進しよう」という提案を行っている。ほとんどの部分は共感を覚えるのだけれど、過激すぎるのでは?と思うところがほんの少しだけあった。

 もう一人の著者の松久寛さんは工学博士。京都大学名誉教授。1973年に「京都大学安全センター」、2008年にに「縮小社会研究会」を設立した。研究会には幅広い分野の人たち百数十人が会員になっているそうだ。本書は基本的にはこのお二人の対談集。

 「縮小することの良い面」をひとつ。それはエネルギーの消費が減ること。例えば、世界で石油は現在の消費量の100年分ぐらいあるそうです。それだけでもけっこう切羽詰まった感じですが、もし年5%増えると35年で無くなってしまう。でも、人口が減っていけば(それに比例してとはいかなくても)消費エネルギーも減らせる。

 お気づきだろうか?このまま行けば、エネルギーが潰えてしまうかもしれない。「縮小すること」は「良い面がある」どころではなくて、場合によっては「人類の存亡のキーファクター」にさえなる。私たちの身に染みついた「成長=善」「縮小ってなんか暗い感じする」という感覚から、抜け出さなければならない時が来たのではないだろうか?

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2017年8月16日 (水)

脳・戦争・ナショナリズム

著  者:中野剛志、中野信子、適菜収
出版社:文藝春秋
出版日:2016年1月20日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 著者の中野剛志さんは経産省の官僚。2011年に出版した新書「TPP亡国論」はベストセラーになった。中野信子さんは脳科学者。最近メディアへの登場も多い。近著の「サイコパス (文春新書)」は少し話題になった。適菜収さんはニーチェの研究者、哲学者。現代社会をシニカルに評した著書もいくつかあり、私が適菜さんの名前を知ったのは「日本をダメにしたB層の研究」という著書で。

 本書はこの3人による鼎談を収めたもの。テーマは「ナショナリズム」「国家と体制」「ポピュリズム」「暴力」をそれぞれ章建てて論じ、全体としてはサブタイトルにある「近代的人間観の超克」を論じる。

 10時間の討論をまとめたものなので、よく言えば「幅広いテーマの自由な論評」になっていて、悪く言えば「言いっぱなし」。「○○の主張によれば」といった、過去の様々な研究者による言説や研究などが、数多く披露されるのだけれど、出典も参考資料も明らかにされない。

 議論の中に「なるほど」と思うものはある。例えば「ナショナリズム」の元になる「ネイション」の概念について。地域や郷土などに愛着を覚える「パトリア」と違って、様々な異質なものを内包した共同体が「ネイション」それは近代の産物で人工的なものだ、という。

 (多数の意見を尊重する)民主主義を機能させるためには、「自分たちとは異質な共同体のメンバーも同じ国民だ」という概念が必要で、それがまさに「ネイション」だ。そのの概念がない(あるいは浅い)国で民主主義を導入すると、多数を占めた共同体がその他を虐げてしまう。中東の民主化がそんな状態たという。

 このように「なるほど」と思うものはあるのだけれど、私は本書には嫌悪感を感じる。本の価値を「好き嫌い」だけでは評価できない。でも例えば、「ポピュリズム」の章の副題が「なぜバカがはびこるのか」なのだけれど、本書の中では、いろいろな人を馬鹿にする。その見下した感じが嫌いだ。それから「左翼は○○だから」という言い方が多く見られる。それもイヤだ。

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2017年8月13日 (日)

君たちはどう生きるか

著  者:吉野源三郎
出版社:岩波書店
出版日:1982年11月16日 第1刷 1983年5月10日 第6刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 1937年に出版された本。この度、マンガ版新装版が同時発売されるという記事を見て、手に取ってみた。とは言っても本書のことを知っていたからではなく、梨木香歩さんの「僕は、そして僕たちはどう生きるか」とタイトルが似ているので、関連があるのかな?と思ったからだ。

 その関連は、冒頭の一行で明らかになった。本書の主人公の少年の呼び名が「コペル君」で、それは梨木さんの作品も同じなのだ。たしか「主人公の叔父さんが昔読んだ本の主人公の名前」という設定だった。あの本が本書だったわけだ。

 では本書について。主人公のコペル君は15歳。時代は出版と同時代。日本が戦争を始めたころ。内容は、タイトルの通りで、「君たちは」というのは読者への呼びかけだから、つまり「「私たちは」どう生きるか」を問う。倫理や哲学的なテーマだけれど、それを「コペル君の体験と、それについて叔父さんが記したノート」の形で、身近な問題に引き付けて綴る。

 例えば、ある時コペルくんは友だちに対する重大な裏切りを犯してしまう。それが原因の一つとなって半月も寝込むことになる。その時は叔父さんは、コペル君に何をなすべきかを毅然として伝える。そして人間の悩みや過ちについて説く。

 よい本に出会った。80年前の本にこんなに感銘を受けるとは思わなかった。もちろん現代にそぐわないことは多々あるけれど、書いてあることは今なお大事なことだ。その理由は二つある。一つは、時代を超えた普遍的な価値観というものがあること。もう一つは、「今があのころと似ている」こと。

 本書に「愛国心のない人間は非国民である」という人々が登場する。その人々は、自分たちの唱えていることが正しいと信じ、自分たちの気に喰わない人間は、間違った奴らだと、頭からきめてかかる。

 私が読んだのは岩波文庫(青158-1)。巻末に著者と親交のあった丸山真男さんの寄稿がある。その中で丸山さんは「非国民というコトバが幸いにして戦後において廃語にちかくなった」と書かれている。しかし今、「非国民」という言葉が「売国奴」と姿を変えて跋扈している。

 最後に。タイトルの「生きるか」について。「生きるべきか」の方が収まりがいい気がしたので、どうして「生きるか」なのか勝手に考えてみた。これは「~するべき」という義務付けではなく、「あなたはどうするのか」という意思決定を促す意味があるのではないか?と推察した。

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2017年7月26日 (水)

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

著  者:ルトガー・ブレグマン 訳:野中香方子
出版社:文藝春秋
出版日:2017年5月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年は「AI(人工知能)」についての理解を深めようと思っている。それで、今年の初めに「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」という本を読んだ。その本では、2045年には「全人口の1割分の仕事しかない」社会が予想される。仕事と収入がリンクする今の制度では、9割の人が路頭に迷う。

 この本を読んで、それまでは懐疑的だった「BI(ベーシックインカム)」について「これしかないんじゃないか」と思うようになった。ちなみに「BI」とは「全ての人に生活に必要なお金を支給する制度」だ。

 本書はその「AI」と「BI」を正面から論じ、「BI」こそが「AI」時代の処方箋だと論じる本だ。著者のルトガー・ブレグマンは、オランダの歴史家でジャーナリスト。広告収入に頼らないジャーナリストプラットフォーム「De Correspondent」の創立メンバー。帯には「ピケティにつぐ欧州の新しい知性の誕生」とある。

 第1章で「過去最大の繁栄の中、最大の不幸に悲しむのはなぜか?」と、疑問を提示したのち、第2章で「福祉はいらない、直接お金を与えればいい」と、早くも「BI」の実施に切り込む。その後の章では、「BI」の可能性、批判への反論を、実に丁寧に論じていく。

 例えば「BI」への批判の最たるものに「無条件にお金を配ったりしたら、誰も働かなくなる」というのがある。「誰も」が文字通りではなくても、働かない人が大多数になったら、商品を作ったりサービスを提供したりするする人が足りなくなっては、社会が成り立たない。

 これには胸に落ちる反論がされている。実は「BI」につながる実験的な取り組みは、過去何度が行われていて、そこで結論が出ている。「無条件にお金を与えられても、人は怠惰にならない」。古くは1795年のイギリスで、その後は、1974年のカナダで、2008年のウガンダで、2009年のロンドンで。インドでブラジルでメキシコで南アフリカで...。

 最後に。この反論を無意味にしてしまうのだけれど、実は「無条件にお金を配って、働かない人が大多数になっ」たとしても問題はないのだ。思い出して欲しい。「AI」の発展によって2045年には「全人口の1割分の仕事しかない」。だから、9割の人が働かなくなっても困らない。

 「AI」の社会への影響や「BI」に興味がある方に、本書を強くおススメする。 

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