7.オピニオン

2017年4月15日 (土)

日本3.0 2020年の人生戦略

著  者:佐々木紀彦
出版社:幻冬舎
出版日:2017年1月25日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は「NewsPicks」という経済情報に特化したニュース共有サービスの編集長。その前は「東洋経済オンライン」の編集長、その前は東洋経済新報社の記者。1979年生まれというから、年齢は現在30代後半。

 タイトルの「日本3.0」は「近代日本の第3ステージ」を表す。第1ステージは明治改元から敗戦まで、第2ステージは敗戦から立ち直った「奇跡の経済成長」。それが終わりを迎え、2020年ごろに「これまでとはまったく異なる思想、システム、人を必要とする」新しいステージが始まるそうだ。

 本書は、なぜ「日本3.0」を迎えるのか、その時代に国家は、経済は、仕事は、教育は、リーダーはどうあるべきか?を、少し暑苦しく感じるぐらい熱心に語る。その時代を牽引する(すべき)現在の30代の人たち(つまり自分たちから少し下の世代)を、「いい子ちゃんを卒業せよ」と鼓舞する。

 2020年ごろには、開国や敗戦に匹敵する「ガラガラポン革命」が起きるという著者は予想する。その根拠として「10のファクター」と「5つの社会変動」を挙げる。正直に言って漸進的な変化が多くて「ガラガラポン」にはならないだろうと思う。

 ただここ数年の政治や経済に「これまでのやり方ではムリ」という印象を強く感じる。何か新しいことが必要だし起きそうだ。それから著者が本書で言うリーダーや人材は、2020年ではなくて今すぐにでも必要だ(そもそも「3年後から必要」って予想も不自然だけど)。だからガラガラポン」が起きなくても、本書の主張は有益だと思う。

 最後に。著者の「経済紙の記者」という職業について。経済紙の記者は、駆け出しの頃から経営者に会える。一般的な会社員は、自分と釣り合った役職の人を相手にすることが多い。20代の平社員が大企業の社長や会長と会って話を聞く機会などまずない。ところが記者ならそういうことがある。

 まだ30代の著者が、これだけ社会全般を見渡す視野を身に着けている。本書の随所に取材した企業人の言葉の引用があるけれど、著者がこれまで会って来た先達たちから受けた薫陶が、そこに役立っているのだろうと思う。

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2017年3月26日 (日)

一汁一菜でよいという提案

著  者:土井善晴
出版社:グラフィック社
出版日:2016年10月25日 初版第1刷 2017年2月25日 第9刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の土井善晴さんは料理研究家。テレビ朝日「おかずのクッキング」や、NHK「きょうの料理」で料理の先生をしてらっしゃる。恥ずかしながら私は知らなかった。料理学校を開かれたお父さまの土井勝さんの名前はよく知っていたけれど。

 本書は著者が少し前から唱えている「一汁一菜」という料理のあり方の提案を論じたものだ。「一汁一菜でよい~」と「~でよい」が入っているのは「一汁三菜」に代表される、「きちんとした食事はおかずが何品以上」という固定観念へのアンチテーゼだからだ。

 必要ない人も多いと思うが「一汁○菜」について一応説明。食事の献立の話で、「汁」は汁物「菜」はおかずを表す。「一汁三菜」なら、「ご飯」と「みそ汁などの汁物」と「おかずが三品」。ということになる。著者が提案する「一汁一菜」ならおかずは一品だ。

 さらに言うと「一菜」は漬物でいいと著者は言う。さらにさらに言うと「具だくさんのみそ汁」は「一菜」を兼ねてもいい。その「具だくさんのみそ汁」には、何でも入れていい。ピーマンやトマトを入れてもいい。ベーコンやハム、鶏の唐揚げでもいい。(2017.4.1追記 著者のtwitterには「目玉焼き」を入れたみそ汁の写真がアップされている)

 とても共感した。著者のこの提案の根っこには、家庭で料理を作る人への暖かい眼差しがある。毎日の献立を考えるのが大変、仕事をしていると食事の支度が負担になる、簡単に済ませれば済ませたで後ろめたい。そういう人たちに「ご飯と具だくさんのみそ汁でいいんですよ」と言っているのだ。具体的なレシピもある。

 実際に夕食を「ご飯と具だくさんのみそ汁」にしてみると、確かに気が楽になった。もう一品か二品を簡単なものを作ってしまうぐらい、気持ちに余裕ができた。結果として「一汁三菜」になったけれど、気楽さはそのままだ。「何でも入れていい」は半信半疑だったけれど、実際にトマトやピーマンを入れたみそ汁を作ってみたが、これが美味しかった。

 最後に。本書は「一汁一菜の提案」から話を掘り下げかつ広げて、和食や日本の文化についても論じられている。散見される「日本人だけが..」という部分には違和感も感じたけれど、総じて興味深い考察だと思う。そういうところも楽しめる。

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2017年3月 1日 (水)

「つくる生活」がおもしろい

著  者:牧野篤
出版社:さくら舎
出版日:2017年1月15日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 サブタイトルは「小さなことから始める地域おこし、まちづくり」

 著者は今の社会を「不機嫌な社会」という。駅とか電車の車内とかの人の集まる場所の多くで、暴言や暴力や言い争いが絶えない。このイライラの原因の一つが「これまで社会の主流であった人々、とくに中年サラリーマン」の自信喪失、プライドの損傷にあるとする。

 競争しても努力しても上に上がれない。それでも比較優位を得ようとすると、誰かをつぶす(落とす)しかない。..あぁ何とも暗い気持ちになる。

 ただし本書の主題は、こうした何とも暗い話ではない。この状況の一方で「新しい動き」があって、そこでは人々は上機嫌だということだ。その主役は「これまで非主流であった、子ども、女性、高齢者、障害者」だという。そうした人たちが、何かを消費するのではなく、何かを作り出し作り出すことそのものを楽しんでいる、という。

 「やっぱりそうだよね」と思った。私は、品物やサービスを消費するのは楽しいけれど、自分で何かを作る方がさらに楽しい、と思っている。仕事で子どもたちに関わることが多く、その時に「作る側の人になる」という話をすることもある。その方が将来を考える時に役立つと思う気持ちもある。

 本書に話を戻す。紹介される事例は、住民が自分たちで道路の補修工事をする長野県下條村、現役を退いた男性たちが中心となった千葉県柏市のコミュニティ・カフェ、高校生がまちづくりに取り組む、島根県海士町や長野県飯田市など。最初は「やらされている感」があったものが、自らの意思で動くようになる。どうもそこに鍵があるらしい。

 また、タイトルの「つくる生活」というのは、目に見えるモノをつくるだけではなく、むしろ目に見えない、新しい関係や文化やそのための活動をつくる、ということ。私自身は、目に見えるモノをつくることを念頭に、「作る側の人になる」という話を、子どもたちにしていたけれど、確かに目に見えないことでも、つくることの楽しさは変わらないかもしれない。

 最後に。実は「新しい動き」の事例が紹介されるのは、本書が半分以上も進んだ第3章に入ってからだ。それまでには、高齢化社会の議論とそこから抜け落ちた問題点、「言葉」についての観念的な考察など、様々な論点が提示される。正直に言って、本書の主題との関連性がよくわからない。

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2017年2月15日 (水)

復刻新装版 憲法と君たち

著  者:佐藤功
出版社:時事通信社
出版日:2016年10月20日 初版 11月17日 第6刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は1955年に書かれたものを復刻した「復刻新装版」だ。著者は、その時の内閣法制局の依頼によって、日本国憲法の制定に深く関わった憲法学者。その著者が、小中学生に向けて書いた「憲法の本」だ。

 1955年というのは敗戦から10年、日本国憲法の施行から8年、という時。新しい憲法がようやく社会に浸透してきたころだ。しかしその時に既に、復古主義の改憲派と、新憲法の理念を尊重する護憲派が、激しく対立していたという。今、本書を復刻しようと考えた人がいる理由がここにあると思う。

 著者自身の説明によると本書に書いてある内容は「憲法とはどういうものだろう」「それはどいういうふうに発達してきたのだろう」「日本の今の憲法はどういうことを定めているのだろう」「なぜわたしたちは憲法を大事に守らなければならないのだろう」という4つのこと。

 これは実に貴重な本だと思う。ただし正直に言って面白い本ではない。子ども向けに平易な言葉で書かれているけれど、誰でもが読める本でもない。日本国憲法の話が出てくるのは、本書を半分以上も過ぎたあたりで、ここまで読むには集中力が必要だし、そのためには憲法に対する興味も必要だろう。

 それでも私が本書を「実に貴重」だと思うのは、2つの理由による。一つ目は、本書が私たちに大事なことを教えてくれるからだ。それは特に上に書いた4つの内容のうちの最後、「なぜわたしたちは憲法を大事に守らなければならないのだろう」ということ。

 このことは、もしかしたら今、憲法を擁護している人でさえ忘れているかもしれない。簡単に要約はできないけれど、敢えて言うと「人類にとっての価値あることだから」ということになる。それは「理解する」というより「感じる」必要がある。そのためには、先ほど「ここまで読むには集中力が必要」と、まるでムダで退屈な部分のように言った、本書の前半の部分が必要不可欠なのだ。

 もうひとつの理由。本書は、日本国憲法制定に立ち会った人の証言だからだ。上には「深く関わった」と簡単に書いたけれど、著者は、GHQ草案を日本に合うようにした憲法草案作りに尽力し、憲法改正担当大臣の秘書官を務めている。その人が、その時の子どもたち(私の両親の世代だ)に伝えようとしたことだ。それは世代を経て私たちに伝えようとしたことでもある。聞く価値があるはずだ。

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2017年1月22日 (日)

ライフ・シフト

著  者:リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 訳:池村千秋
出版社:東洋経済新報社
出版日:2016年11月3日 第1刷発行 11月29日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の一人のリンダ・グラットンさんは、前著「ワーク・シフト」で「2025年の働き方」を展望して見せた。テクノロジーやグローバル化などの要因が変化する中で、必要とされる「仕事」に関する考え方の「転換(シフト)」を考察したものだった。本書は、その考察をさらに広げて「人生」に関する考え方の「転換」をテーマとしたものだ。

 内容の紹介の前に2つ質問。その1「「人生」と聞いて何年ぐらいのものを思い浮かべますか?」。その2「仕事をリタイアするとして、何歳ぐらいを想定していますか?」。その1の答えは「80年ぐらい?」、その2は「65~70歳ぐらいまでにはなんとか..」と、私は思っていた。みなさんはどうだろう?

 厚労省の発表によると、日本の平成27年の平均寿命(ゼロ歳の平均余命)は男性が80.79年、女性は87.05年。年金受給開始年齢は65歳で、70歳への引き上げが取りざたされている。だから、私が思っていたことも、大きく間違えていないはず。

 本書の内容の紹介。序章に衝撃的な計算結果が載っている。それはある年に生まれた人が50%に減る年齢。2007年生まれの人は104歳、1997年生まれは101~102歳、1987年生まれは98~100歳...1957年でも89~94歳。ちなみにこれは「先進国」の値で、日本ではさらに3歳程度プラスされる。要するに今後は、半分の人は100歳まで生きる「100年ライフ」の世界になる、ということだ。私が思っていたこととはかなり違う。

 これを元に本書は「人生の組み立て」を考察する。これまでは「教育」「仕事」「引退」という3つステージで分けて、人生は組み立てられてきた。「100年ライフ」では、この3ステージのモデルでは無理がある、というのが本書の考察の基礎にある。

 例えば、これまでどおり65歳ぐらいで「引退」のステージに移ると、35年とか40年の長さになる。そんな長期間の経済負担に現役の時に備えるのは無理だ。また、引退年齢を思い切って80歳に引き上げると「仕事」のステージが60年近くなってしまう。様々なものの進歩の速さを思うと、そんな長期間有用な知識やスキルを、最初の「教育」のステージだけでは培えない。

 「ならばどうするか?」本書は、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーン、の3人を登場させ、それぞれの人生として「あるべき姿」を描き出す工夫をしている。これが参考にはなる。キーワードは「レクリエーション(娯楽)からリ・クリエーション(再創造)へ」

 しかし「理想的なロールモデル」が存在しない、ということも「100年ライフ」の特徴なので、自分の人生は自分で考えるしかない。備えておく必要があるのは確かなようだ。

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2017年1月 5日 (木)

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊

著  者:井上智洋
出版社:文藝春秋
出版日:2016年7月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年は「AI(人工知能)」についての理解を深めようと思った。何冊か見つけた本の中から本書を選んで、今年最初の1冊にした。

 2年ほど前から「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉を聞くようになった。このまま技術が進歩すると、1台のコンピュータの計算速度が、全人類の脳全てに比肩する時が来る。そうなるとAIが人間の知性を凌駕する。その時点のことを「シンギュラリティ」と呼び、おおむね2045年と予測されている。

 この「シンギュラリティ」を迎えると、社会の様々なことに大きな影響を与えるとされている。そのとき何が起きるのか?本書はそのうちの経済成長や雇用への影響についてを記す。著者はマクロ経済学者であるが、学生時代に計算機科学を専攻して人工知能に関連するゼミに属していた、という経歴の持ち主。このテーマにピッタリだ。

 本書は、第1章で「機械の叛乱の懸念」といった「機械VS.人間」の最近の話題から入って、第2章で、著者なりのAIについての今後の見通しを語る。続く第3章4章で、経済への影響について詳述する。このあたりで「なくなる仕事、残る仕事」が話題になり、2045年には「全人口の1割ほどしか労働しない」、言い換えると「人口の1割分の仕事しかない」社会が予想される。
 
 悲観的な予想に思うかもしれない。かつて「機械やコンピュータの導入が、仕事を奪う」と言われた。しかし、部分的には機械に代替されて失業があっても、全体的には市場が拡大し、新しい仕事が生み出されて、大きな問題にならなかった。「今回もそうなのではないか?」。しかし、著者はとても丁寧な説明によって、この考えが楽観的に過ぎると教えてくれる。

 ただし悲観にくれるのは早い。著者は、多くの人が失業して貧しくなるディストピアか、全ての人々が豊かさを享受できる社会か、私たちはまだ選べる、と言っている。第5章で、後者の選択の方法として「ベーシックインカム(BI)」を、著者は提言している。

 実はBIのことは帯にも「はじめに」にも書いてある。私は、BIについて最初はとても懐疑的だったのだけれど、読み終わってみると「これしかないんじゃないか」と、思うようになった。

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2016年12月25日 (日)

新・所得倍増論

著  者:デービッド・アトキンソン
出版社:東洋経済新報社
出版日:2016年12月22日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、現在は日本の国宝・重文級の文化財の補修を手掛ける会社の社長だけれど、前身は外資の超メジャーな金融機関を渡り歩いた敏腕アナリスト。その著作を読むのは「イギリス人アナリスト日本の国宝を守る」に続いて本書で2冊目。

 日本の企業の生産性(の低さ)に拘り抜いた本。前に読んだ本でも、世界第3位の日本のGDPは、日本人の勤勉さや技術力の高さが理由ではなくて「人口が多いからだ」、と書いていた。本書はそこにさらに切り込んだ内容。

 日本のGDPは世界第3位だけれど、1人あたりのGDPは第27位(IMFの調査)なのだ。「生産性が低い」というのは、主にこのことを指している。人口を分母とした指数ということもあり、上位には人口の少ない国が多い。しかし、3億人以上の人口がある米国は10位に入り、その数値は日本の1.5倍もある。

 ちょっと聡い人ならば「高齢化が原因じゃないか」と気が付くだろう。著者もそれには気が付いてちゃんと検証している。日本は生産活動をしていない高齢者の比率は大きいかもしれないが、失業率がとても低い。労働人口1人あたりGDPを計算すると、ランキングはもっと下がってしまうそうだ。

 本書では、この日本の「生産性の低さ」を様々な角度からデータを使って実証し、勤勉さや技術力の高さが、まったく役に立っていないことを証明して見せる。それだけではただの「すごく感じの悪い本」になってしまうので、最終章に「ではどうすべきか」という提案が書かれている。

 最終章はあるにしても、読んでいて心穏やかでないのは、私が日本人で、著者が外国人だからだろう。日本のことを悪く言われている気持ちになってしまう。実際、こういうことを講演や会合で言うと、それはそれは激しい反論に会うそうだ。

 それもあってか(本音は分からないが)、著者は「日本人はそれを活かせていないだけで、素晴らしい能力を持っている」というスタンスを崩さない。その能力を発揮できれば「GDPは1.5倍、年収は2倍になる(つまりタイトルの「所得倍増」)」ということだ。ここは反論したい気持ちを抑えて、真摯に耳を傾ける時だと思う。

 最後に。著者は「日本の企業(社会も)の効率化が進んでいない」と言うのだけれど、そこはちょっと違う気がする。そういう面はあるけれども、それよりも日本では「効率化」が、コストダウンと値下げに向いてしまっていることが、要因としてあると思う。「安く提供する」ことを「経営努力」と言ったりするように。

 ITの導入などで、同じ業務を少ない人数でできるようになった。その業務が生んだ果実を少なくなった人数で分ければ、1人当たりは増えるはず。そうではなくて果実を小さく、つまり「安く提供」してしまった。これでは「生産性」は向上しない。私たち労働者も楽にならない。経済も活性化しない。むしろ縮小する。

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2016年5月22日 (日)

本を読む人だけが手にするもの

編  者:藤原和博
出版社:日本実業出版社
出版日:2015年10月1日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は元リクルートのフェロー(年俸契約の客員社員)。それよりも東京都で義務教育では初の民間校長となった「元杉並区立和田中学校校長」、と言った方が分かる方が多いかもしれない。その後は、自治体や首長の特別顧問やアドバイザーなどを歴任している。

 このタイトルに加えて、見返しには「これから先の日本では(中略)「本を読む習慣がある人」と「そうでない人」に二分される”階層社会”がやってくるだろう」と書いてある。「本を読む習慣がある人」だと自分で思っている私にとって、とても魅力的に見えた。

 「読書の効用」をうたう本は他にも多くある。本書も読書は「想像する力」「集中力」「バランス感覚」などなどが身につく、という効用をうたう。本書の特長はそういった個別の効用を挙げるだけなく、読書が「人生を切り拓くためには欠かせない」という筋を一本通していることだ。

 かつては「ちゃんと」していれば、みんな一緒に幸せになれた。しかし成熟社会を迎えて「みんな一緒に」はなくなり、「人生を切り拓く」ためには、一人ひとりが「自分の幸福論」を築かなくてはいけい。そのためには、知識・技術・経験の蓄積が必要になる。それらを得るには読書が欠かせない。

 読書で身につく効用のうち、特に印象に残ったことを一つだけ。「複眼思考(クリティカル・シンキング)」のことだ。「複眼思考」というのは、一つのことを「反対側から見たら違うのではないか?」と、別の視点から見てみることだ。

 テレビでコメンテーターの意見を聞いたら、「そうじゃないんじゃないか?」と一旦は疑って検証する。そういうことを繰り返す方法でしか「自分の意見」は得られない。それをしないで「なるほどそうか」と受け入れてしまったら、それはコメンテーターの意見であって、自分の意見ではないからだ。

 この複眼思考による検証には、経験や知識のたくさんのインプットが必要になる。ちょっと逆説的だけれど、たくさんの人の意見にも触れた方がいい。個人ではそれらを「生の体験」として得るのは難しい。それを補うのは「読書」で得る「他人の体験」だ、というわけだ。

 最後に。巻末に「これだけは読んでほしい」と思う本・50冊、というブックリストが付いている。ここだけでも目を通しておく価値ありだと思う。

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2016年4月30日 (土)

下り坂をそろそろと下る

編  者:平田オリザ
出版社:講談社
出版日:2016年4月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書を手に取ったのは「下り坂をそろそろと下る」というタイトルに共感を覚えたからだ。著者は、日本は大きな成長という上り坂をもう登らない、と言う。これからは長い下り坂を下る「後退戦」を「勝てないまでも負けない」ことが大事だと。

 私もウスウスそう思っていた。現実を直視すれば「成長」を前提にした政策や制度が、いかに空疎で弊害のあるものか分かる。大小様々な事業が「利用(需要)が増える」計画を立てることでGOサインが出る。しかし、まったくその通りにはいかない。だから、考え方を変える必要がある。

 また著者は、私たちはこれから「日本はもはや.」に続く、3つの寂しさに耐えなければならないと言う。「工業立国ではない」「成長社会には戻らない」「アジア唯一の先進国ではない」。特に3つ目の寂しさに耐えられないことがヘイトスピーチなどに現れ、最悪のケースでは再び「銃をかつがせる」ことになる。

 少し注意しておくと、本書の大部分はこのような著者の主張をストレートに伝えたものではなく、演劇による教育や地域振興など、著者が各地で積んでいる実績の報告だ。「文化」というキーワードによって「下り坂」論とつながっているのだけれど、その読取りにはひと手間が必要だ。

 最後に。著者が目指す社会を表した言葉が印象的だったので書いておく。皆さんはどう思われるだろう?読んですぐには肯定できないかもしれないけれど、私もこういう社会がいいと思う。

●生活保護世帯の方たちが平日の昼間に映画館に来てくれたら「生活が大変なのに映画を観に来てくれてありがとう」という社会。
●子育て中のお母さんが、昼間に、子どもを保育所に預けて芝居や映画を観に行っても、後ろ指を指されない社会。

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2016年3月27日 (日)

個人を幸福にしない日本の組織

編  者:太田肇
出版社:新潮社
出版日:2016年2月20日 発行
評  価:☆☆(説明)

 著者は組織学者。「組織論」というと、目標を達成するための組織運営のあり方を研究する学問だけれど、著者の研究テーマは違うようだ。著者は、個人の視点から組織を研究している。「最終的に個人の利益につながらないような組織は無意味」と言い切る。

 組織の視点と個人の視点では見えるものが違う。例えば、会社の業績がよいことが、従業員によってもよいとは限らない。休日返上で働かされたり、サービス残業が増えたりするからだ。

 このように、ある意味正反対の視点から見たためか、一般的な通説とは逆の見解が並んでいる。「組織はバラバラなくらいがよい」「管理強化が不祥事を増やす」「厳選された人材は伸びない」「大学入試に抽選を」「地方分権は自由や平等、公平を脅かす危険がある」

 なかなか面白い切り口からの論考で、問題提起としては興味深い。例えば「管理強化が不祥事を増やす」では、不祥事を6つの類型に分類して、それぞれに及ぼす管理強化の影響を分析する。確かに管理強化が必ず不祥事の減少につながるとは言えない。

 問題は「それならどうすればいいのか?」。著者も提言を試みてはいるが、それが頼りないことが残念だ。あとがきに「改革のシナリオを十分に示せなかったかもしれない」と書いている。大事なことが書かれていないという感じがぬぐえない。そういうわけでちょっとカラいけれど☆2つ。

 ただ、個々の指摘は有用なものもあった。日本人は「勤勉でもなければ」「仕事に対する熱意もなく」「会社への積極的な帰属意識はなく」「チームワークも良いとはいえない」。通説とは反対だけれど、こちらの方が真実だと思う。

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