7.オピニオン

2019年2月 6日 (水)

働く女の腹の底

著  者:博報堂キャリジョ研
出版社:光文社
出版日:2018年4月30日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「駄目な世代」の著者の酒井順子さんについての記事を読んでいて見つけた本。著者の「博報堂キャリジョ研」は、博報堂の女性社員が集まった社内プロジェクトだそうだ。

 本のタイトルから「働く女性の赤裸々な本音」という、知るのはちょっと怖いドロドロしたものを想像したけれど、「怖いもの見たさ」で読んでしまった。結果を先に言うと、ドロドロとは反対のサラっとした明るい内容だった。そう、広告代理店のプレゼンのように。

 著者であるプロジェクト名にもなっているけれど、本書では「働く女性」かつ「子どものいない女性(未既婚は問わない)」を「キャリジョ」と名付ける。かつて「働く女性」を指した「OL」や「キャリアウーマン」には、特定のイメージが付いていて、多様化する働く女性のありかたを表すには違和感があるため、新しい表現を議論して名付けたそうだ。

 プロジェクトでは「キャリジョ生態把握調査」を行い、1280名の回答をクラスター分析し、7つのクラスターを導き出した。そのそれぞれに、生活全部に全力投球モーレツキャリアの「モーキャリ」とか、家族との幸せを最優先ちょいっとキャリアの「ちょいキャリ」といったネーミングをする。そしてそれぞれの特徴などを紹介する。

 その他のクラスターも紹介しておく。割り切りキャリアの「割りキャリ」、プロフェッショナルキャリアの「プロキャリ」、玉の輿に乗っかりキャリアの「乗っキャリ」、平凡キャリアの「凡キャリ」、キラキラキャリアの「キラキャリ」。ネーミングセンスはまずまずかな、と思う。

 読んでムダではないけれど、大して益にもならない。「調査」は「分析」しなくちゃいけないし、「分析」すれば「分類」ぐらいしなくちゃ「報告」にはならない。それは分かるけれど、そもそも「多様化するあり方」から出発しているのに、たった7つに類型化してしまったことを残念に思う。

 「なるほど」と思ったこと。ワークライフバランスを考えるときに、「ケーキカット型」と「ブレスレットのチャーム(飾り)型」があるという話。「ケーキカット型」は、ホールケーキをどう切り分けるかなので、一つ(例えば家族)を増やすと、別の物(例えば仕事)が減ってしまう。「チャーム型」は、それぞれの飾り(家族や仕事や趣味など)を、それぞれに磨いたり大きくしたりできる。すごくいい視点だと思う。

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2019年1月20日 (日)

安倍政治 100のファクトチェック

著  者:南彰 望月衣塑子
出版社:集英社
出版日:2018年12月19日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、朝日新聞の南彰記者と、東京新聞の望月衣塑子記者とによる「ファクトチェック」をまとめたもの。安倍首相をはじめとする安倍政権の閣僚、与野党の国会議員、官僚らによる、主に国会での発言について、正しいかどうかを検証した。

 テーマと項目数は次のとおり。第一章「森友・加計学園問題」35項目、第二章「アベノミクス」16項目、第三章「安全保障法制」21項目、第四章「憲法・人権・民主主義」19項目、第五章「官房長官会見」9項目。全部で100項目。それそれを〇△×で評価。〇が3つ、△が31、×が66。

 例えば一番最初の項目は、2017年2月27日の衆院予算員会での安倍首相の「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに(中略)一切かかわっていないということは明確にさせていただきたい」とう発言。この発言を引き出した民進党議員の質問と、首相の答弁を見開きの右ページに、解説と検証結果を左ページに紹介。

 この項目の評価は△。「えぇ~!×じゃないの?」と、私は思った。首相自身はまだしも妻の昭恵さんが関わっていたことは明らかなんじゃないの?と。解説にも「今井尚哉首相秘書官も「交渉の過程で名前があがっていたのは事実ですから、無関係とは言えません」と認めた」と書いてあるのに△。

 この一例が表しているように、本書は極めて抑制的に書かれている。他の情報によって間違いであることが証明できなければ、どんなに怪しくても△。×であっても間違いであることを述べるだけで、その発言や発言者への非難の言葉はない。数は少ないながらも、野党の国会議員の発言も検証の俎上にあげる。

 これは、議論に冷静さを欠かないための措置なのだと思う。南記者による「おわりに」にも、「ファクトチェックは政権批判の道具ではありません」と書いてある。「意見の善し悪しの評価ではなく、発言が事実に基づいているかどうか」とも。

 その冷静さが良い面もあるけれど、悪い面もある。ウソばっかりの政権運営なのに、非難の言葉の一つも投げられないので、不完全燃焼気味になる。抑制的に評価しても、100のうちの66が×。もっと怒らないとダメなんじゃないのかな?

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2019年1月 9日 (水)

「AI失業」前夜 これから5年、職場で起きること

著  者:鈴木貴博
出版社:PHP研究所
出版日:2018年7月2日 第1版第1刷 9月3日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 AIがもたらす経済・社会の問題について、過去から現在、そして5年後、最大でも10年後までの時間軸で論じた本。

 本書の特長で著者の慧眼は、この時間軸の設定にある。現在「AI」を論じる書籍や記事には、2045年に迎えると言われる「シンギュラリティ(技術的特異点)」の話が、必ずと言っていいほど出てくる。

 しかし、今、私たちが最も問題にしなければならないのは、26年後にAIが人間の知性を越えるのか越えないのか?仕事の半分ぐらいが消滅すると言うけれど本当か?なんて話ではない。これから5年とか10年という、もっと近い将来に起きることにどう対処するのか、の方が大事なはずだ。

 時間軸を「過去」に伸ばしていることも注目に値する。AIの影響は、現代社会の諸問題として既に表れている、と著者は指摘する。例えば、非正規雇用が増え続けている問題がそう。

 これまでのAI研究の成果である「エキスパートシステム」は、コンビニの発注業務をアルバイトができるようにした。小売店にとって「発注」は重要な業務で、従来は熟練の売り場社員しかできなかった。少なくとも「発注」に関しては、熟練の社員は要らなくなり、非正規雇用のアルバイトに置き換わるのは当然の成り行き、という次第。

 こんな感じで、今後についても非常にロジカルに予想する。専門性がある仕事が、AIの開発効率のよい市場の大きいものから順に置き換わる。それは運輸と金融から始まり、ホワイトカラーの仕事の多くに急速に広がる。この予想が当たるか当たらないか、それは分からないけれど、一部はすでに現実になっている。例えば、メガバンク3行は、今後10年間で数万人規模のリストラ計画を発表している。

 最後に。「AIが人間のような知能を獲得することは起きない」を論拠にして「AI失業は怖くない」という議論があるが、その落とし穴にはまらないように、と著者は警告する。その説明が胸に落ちた。「AI失業は怖くない」と思っている人は読むといいと思う。

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2019年1月 5日 (土)

0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書

著  者:落合陽一
出版社:小学館
出版日:2018年11月29日 電子書籍版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年後半から「人生100年時代」が気になっていて、もはや私の「主要なテーマ」と言ってもいいぐらいになっている。本書は友人のFacebookの投稿で知った。著者の落合陽一さんのことは気になっていたこともあって、手に取ってみた。

 人生は学校を卒業してからの方が長い。だから、社会にいながら学び続け、新しい知識を取り込めるか、新しい価値を提供し続けられるか、が鍵になる。本書には、そのためにどうすれば社会に出た後も学ぶ意欲を持ち続けられるのか?について、著者の提案が書いてある。

 全部で3章。第1章は「幼児教育から生涯教育まで「なぜ学ばなければならないのか」」の13問のQ&A。第2章は「落合陽一はこう作られた~」。幼少期から現在まで、どんな教育を受けどんな選択をしてきたか。第3章は「学び方の実践例」。「言語」「物理」「数学」「アート」の4つの要素について紹介。

 第1章には、いいことがいくつか書いてあった。例えば「なぜ勉強しなくてはいけないの?」と聞かれたら?の項。著者の答えは「新しいことを考えたり、新しいことを身につける方法を学ぶため」。「学校の勉強なんて社会に出たらまるで役に立たない」という考えは、教育の「コンテンツ」と「トレーニング」の2つ要素のうち、後者のもつ意味を正しく認識できていない、と。

 もう一つ。「根拠ある反対意見はサンプリングになる」の項。「正解か不正解かだけで判断する教育を受けていると、自分の意見に対する質問や別の意見は、すべて自分の意見を否定するものであり、その人への批判であると受け取ってしまいます」。これは今の世の中に広く見られることで、自戒を含めて本当に「なんとかずべき」ことだと思う。

 第3章には、共感することが書いてあった。「ロジカルシンキングとアカデミック・ライティング」の項。アカデミック・ライティングとは、簡単に言うと「相手が理解できる意味の明確な単語を使い、論理的に正しく意味が伝わる文章を書く」ということ。そのためには論理的な思考(ロジカルシンキング)と、それを言語化する能力が必要。上の「反対意見~」にも関連するけれど、ロジックが通じないと議論ができない。

 ここ数年は「新年最初の読書」の本は、意識して選んでいる。今年は、「人生100年時代」の自分の方向を見い出したい。

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2018年12月23日 (日)

「超」入門 空気の研究

著  者:鈴木博毅
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2018年12月5日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さんから献本いただきました。感謝。

 帯でもPRしているけれど、著者には「「超」入門 失敗の本質」という著書がある。旧日本軍の組織的問題を分析した「名著」と言われる「失敗の本質」を、今日的な事例も使って分かりやすく説明した本。これが一部では(私の周辺では)「元の本よりいいのではないか」と評価が高い。

 本書は先の著書に続いての「「超」入門」で、これも「名著」の「空気の研究 」を元にしたもの。紹介も先の著書に倣うと、「空気の研究」を今日的な事例も使って分かりやすく説明した本、となる。

 ここでいう「空気」とは「空気を読め」の「空気」。それに反する言動をとると叩かれる「同調圧力」があり、それは絶対的支配力を持つ。そして「空気」は、場合によっては破滅を招く。「空気の研究」で、旧海軍の中将の言葉が紹介している。「全般の空気よりして、当時も今日も(戦艦大和の)特攻出撃は当然と思う

 著者はこの「空気」を「ある種の前提」という言葉に置き換えることで、「空気」の正体を明らかにすることを試みる。その過程で、日本的ムラ社会を動かす「情況倫理」、日本人を思考停止に追いやる要因、などを解き明かしていく。実に説得力がある。今の日本を覆う「空気」に疑問を感じているなら、一読をおススメする。

 「今の日本を覆う~」と書いたけれど、本書は「現在の日本への警鐘」だ。著者は明示的には書いていないけれど、私は文章の一つ一つにそう感じた。「はじめに」に紹介された「空気の研究」の一文が象徴している。「もし日本が、再び破滅へと突入していくなら、それを突入させていくものは戦艦大和の場合の如く「空気」であり(後略)」

 もう一文、著者の言葉を紹介する。「このような国で、言葉と行動がまったく違っても、恬として恥じないウソつきがいれば、社会に大混乱を引き起こし、国家を未曽有の破滅に誘導できてしまうのです

 これは「オキナワノミナサンノココロニヨリソイ」と言ったあの人のことなのではないか?もちろん著者はそんなことは一言も言っていないけれど...。 

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2018年11月21日 (水)

日本が売られる

著  者:堤未果
出版社:幻冬舎
出版日:2018年10月5日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 最初に注意書きを。「とにかく今日を穏やかな気持ちで過ごしたい。何年か先に安心安全な暮らしが失われても構わないから」という人は、読まない方がいい。本書も、この記事も。

 帯に「日本で今、起きているとんでもないこと」とある。本当にとんでもないことが起きている。

 タイトルの「日本が売られる」とは、この日本で、私たちの生活に欠かせない様々なものが、値札を付けられて(主に外資に)売られるという意味。本書冒頭にある「水が売られる」を例として紹介する。

 水道を運営する自治体の財政は苦しい。国は責任を取らず代わりに打ち出したのが「民営化」。「民間企業のノウハウを生かし、効率の良い運営と安価な水道料金を」というわけ。民営化とはその事業を企業に売ることに他ならない。売れば何億、何十億ものカネが手に入る。自治体にとっては魅力的だ。

 さらに、これを後押しするための法改正が度々行われている。例えば、「運営」を売った自治体には、地方債の利息免除をいうニンジンをぶらさげる。現在審議中の水道法改正案が成立すれば、また、企業側の優遇として、こんなことになる。

 (1)「所有」と「運営」を分離して、企業は「運営権」だけを持つことで、安定供給の責任を持たな句てすむ。つまりノーリスクで、収入だけを得られる。(2)これまでは厚生労働大臣の「認可」が必要だった料金改定を「届け出」でできる。(3)料金設定の規定に「健全な経営を確保することができる」と入ったことで、料金の値上げを正当化できる。

 まぁこれでも、企業が住民のための運営を行ってくれればいい。コスト重視で水質が悪くなったり、まずくて飲めなくなったり、料金が高くなったりしなければいい。ところが、日本より先に水道民営化が進んでいる各国では、こうしたことが起きて、違約金などで大金を支払ってても再公営化をするところが増えている。

 本書では「水」以外に「土」「農地」「森」「海」「学校」「医療」「食の選択」が、値札を付けられて売られる様子が、詳細に記されている。「タネ」という項目もあるが、こちらは「売る」のでさえなく、コメをはじめとした食物の種を、外資のバイオ企業から日本の農家が「買わされる」という、ショッキングな内容だ。

 最初に注意書きを書いたのは、私自身が読んでいて悲観にくれてしまったからだ。こんなひどいことを誰がやっているかというと、「規制改革」と称して政府がやっている(外国に行ってセールスまでしているらしい)。希望があるとすると、政府が変われば、防げるかもしれない、ということだ。

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2018年11月 4日 (日)

スッキリ中国論 スジの日本、量の中国

著  者:田中信彦
出版社:日経BP社
出版日:2018年10月22日 第1版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本いただきました。感謝。

 本書は40年近く中国と関わってきた著者が感じた、中国人がものを判断し、反応する時の「クセ」「反応の相場」を紹介したもの。サブタイトルは「スジの日本、量の中国」。本書はたくさんの「クセ」を紹介しているけれど、たったこれだけの最小限のフレーズに、「中国」と「日本」がよく表れている。そしてこのことがよくわかる例え話が冒頭にある。

 通路で4~5人が立ち止まって談笑している。場所は取っているけれど、横を通ることはできる。「邪魔だな。通路は立ち話をする場所じゃないんだよ」と感じる日本人。「横を通れるのだから無問題」と考える中国人。

 日本人は、自分に不利益がなくても「すべきでない」ことをする人に苛立つ。つまり「べき論」で判断する。本書の「スジ」とは、「スジを通せ」という時の「スジ」だ。中国人は、現実的に不都合があるのか、あるとしたらどの程度の不都合か?を考える。つまり「量」によって判断が変わる。

 例え話は他にもある。小銭がなくて自販機のジュース代を同僚に借りた。日本人なら返すだろう。借りたものは返すのが「スジ」だからだ。中国人は返さない(と思われる)。ジュース代ぐらいは、現実的な不都合のある金額(量)じゃないからだ。

 エピソードをひとつ。中国で列に並んでいて、自分の前に割り込まれたので注意すると、その人物は自分の後ろに割り込み直した。その人物は「列に割り込んじゃいけない」という「べき論」で咎められたとは考えず、「一人分(という量の)順番が遅くなると、この人は困るんだな」と考えた、というわけだ。

 念のため言っておくけれど、中国人にもいろいろな考えの人がいる。また、本書は中国人の思考について「え~信じられない」と驚くのはともかく、「だからあいつらダメなんだな」と蔑むための本ではない。違いを知って、認めて、対応しよう、という本だ。

 私は、目下のところ中国人との密な付き合いはないけれど、本書を本当に興味深く読んだ。それは本書が、中国人のことを書きながら日本人のことも書いているからだ。対比によって、日本人がものを判断し、反応する時の「クセ」も良く分かる。その「クセ」が、世界で唯一ではないことはもちろん、最上でもないことも分かる。

 「べき論」で考える判断は、現実との距離感を誤ると袋小路に入って行き詰る。有名人の言行から一般人のつぶやきに対するものまで、ネットにあふれるバッシングは、ほとんどが「○○なんだから□□するべきだ(べきじゃなかった)」という「べき論」を根拠にしている。これは「スジの日本」が行き着く息苦しい社会の予兆だと思う。

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2018年9月19日 (水)

知の越境法

著  者:池上彰
出版社:光文社
出版日:2018年6月20日 初版1刷 7月5日 2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 池上彰さんが、国内外の出来事や歴史を解説する本は数多い(「知らないと恥をかく世界の大問題」という新書シリーズだけで9冊目が出ている)。私も何冊も読んできた。。しかし本書はそれらとは少し趣が違って、ご自分の経歴も振り返りながら「越境」について語り、読者にもそれを勧めている。

 本書では「越境」を主に2つの意味で使う。一つは、ドイツの専門家がフランス政治について語る、といった「専門の垣根を越える」こと。記者であった著者がキャスターを務めたのも、まさに「越境」。もっと言えば、著者は「専門」を持たないので、テレビで中東問題を話すのも、歴史問題を解説するのも、全部が「越境」になる。

 もう一つは、興味・関心を「横方向に展開する」ということ。例えば、再販制度という規制に守られた「新聞・出版業界」が、インターネットの出現で事情が激変したけれど、それは「放送業界」もそうだ、「規制緩和」ということでは「銀行業界」でも同じことが言える、といった話の転がり方をすること。「越境」を意識すると、いつもとは違う結びつきが見つかり、これまでとは異なる論理を展開できる。

 それで「越境する人が求められている」こと、ご自身は「こうして越境してきた」こと、越境には「リベラルアーツが重要」なこと、などを順に記す。「異境」「未知の人」から学んだこと、「越境の醍醐味」「越境のための質問力」も書かれている。「越境」というテーマ一つでこんなに多くを語る。改めて引き出しの多い人だと思う。

 冒頭にも書いたけれど、著者が何かを解説する本は多い。分かりやすくて「ためになった」感じがする。それに比べると、本書は扱う話題が広範にわたり、悪く言えば内容が散漫で「そうだったのか!」という感嘆が少ない。「横方向に展開した」結果がこうなっているのだけれど。

 でもどうだろう?もし著者とお話する機会があったら?「世界の大問題」を解説して欲しい?否。ご自身の経験や、お会いになった人のことや、物事の捉え方など、「広範なテーマ」を「横方向に展開」して、話を転がしてもらった方が楽しいだろう。本書は、まぁそんな本だ。

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2018年6月 7日 (木)

スマホが学力を破壊する

著  者:川島隆太
出版社:集英社
出版日:2018年3月21日 第1刷 4月10日 第2刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は現在、東北大学加齢医学研究所所長。2003年に「脳を鍛える大人の計算ドリル」「~音読ドリル」を出版し、セガトイズや任天堂からソフトが発売され大ヒット、「脳トレ」ブームの嚆矢となった。

 その著者が、スマートフォンの仕様に警鐘を鳴らす。帯に「スマホをやめるだけで偏差値が10上がります」とあり、逆に言えば「スマホをやると偏差値が10下がる」ことになる。さらに「脳とスマホの驚くべき関係!」ともある。「トンデモ本」との評もある「ゲーム脳の恐怖」を思い出す。

 先に言っておくと、本書が信用に足るものなのか、「ゲーム脳の恐怖」の類書であるのか、私には分からない。統計調査をかなり精密に行っていたり、著者自身が脳機能の専門家であり、脳の活動量の測定に専門の機材をしとうしていたりと、「ゲーム脳の恐怖」とは明らかに違う。だからと言って鵜呑みにはできない。

 本書を書くきっかけとなった調査の内容を簡単に。仙台市の中学生22390名のデータ。平日のスマホ使用時間(6区分)と平日の家庭学習時間(3区分)をクロスさせた18区分で、それぞれ国数理社の平均点を算出して比較。スマホを使う時間が長いほど成績が悪い。それだけではなく、家庭学習を2時間以上しても、スマホを3時間以上使うと、家庭学習が30分未満の人より成績が悪い。

 つまりスマホを長時間使うと、家庭学習の成果がどこかに消えてしまう。「スマホを長時間使うと成績が悪いのは、その分勉強時間が短いからだ」という仮説は覆された。ちなみに「その分睡眠時間が短いからだ」も正しくない、ということが(少なくとも著者の主張では)明らかになっている。

 それから「相関関係」があるからと言って「因果関係」があるとは言えない、という反論にも著者は答えている。3年間の追跡調査を行って、スマホを持っていた人が持たなくなると成績が上がる、持っていなかった人が持つようになると下がる、という傾向を発見した。

 著者の正直なところは「こういう傾向は分かったけれど、それが何でなのかは分からない」というところだ。ただ「何でなのかは分からなくても、やめた方がいいよ」というわけだ。確かにそんな気もする。

 反論したいこともたくさんある。学習の「時間」だけに注目して「質」は考えないでいいのか?とか、3年間の追跡調査は「相関関係が推移」しただけで「因果関係の証明」にならないんじゃないのか?とか。

 まぁ、スマホを長時間使ってちゃダメそうなのは、身体感覚として分かる。でも、学力という本当は様々な要因が複雑に関係するものを、スマホの利用というたった1つの事で説明できる「分かりやすさ」に危うさや怖さを感じる。

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2018年5月 2日 (水)

定年前後の「やってはいけない」

著  者:郡山史郎
出版社:青春出版社
出版日:2018年4月15日 第1刷 5月10日 第3刷
評  価:☆☆(説明)

 60歳で定年とすれば、私はあと5年あまり。まだまだ「定年前後」ではないのだけれど、一緒に仕事してきた先輩たちが次々に定年を迎え、こういう話題が身近になって、気の迷いで手に取ってしまった。

 著者はソニーの取締役、子会社の社長、会長、ソニー顧問を経て70歳で退職、現在は再就職を支援する人材派遣会社を経営している。80歳を越えてなお現役のビジネスマン。ちなみに著者の前著は「九十歳まで働く!」だ。

 著者の主張を一言で言うと「定年後も働ける限り働け」ということだ。90歳まで生きるとして、夫婦二人で定年後の30年間にかかる費用は約1億円。という試算がある。公的年金が月22万では2000万円ほど足りない。ではどうするか?著者の答えは明快。「働いて稼げばいい」

 定年後に働く、となれば再就職。その時の心得のひとつが「定年前の肩書や年収にとらわれない」こと。定年前の待遇や年収で雇う会社はまずない。前の会社も「そのポジションに給料を払っていたのであって、その人に払っていたのではない」「自分は人材として価値が高いと錯覚してしまっている」と手厳しい。

 その他、人生を45歳あたりで区切って「前半戦(第1ハーフ)」「後半戦(第2ハーフ)」に分けること(昔は「後半戦」はなかった)などは、「あぁそうだな」と思えた。ただし「そうは思えない」ことも多い。それは本書が「どういう人を対象にしているか」に、その原因があると思う。

 この本は「都会のビジネスエリートの男性」を対象にしている。どこにもそうは明言していないけれど、言葉の端々に現れている。第1ハーフが終る頃に「会社の役員になれるかどうかの評価が気になりだす」とか、「身のまわりのことができるようにしよう。円満な夫婦関係のためにも重要だ」とか。

 「都会の」の部分に至っては、「地方への移住」が「生活水準を下げる」方法として挙げられている。地方都市に住んで役員などには無縁の私が「そうは思えない」と感じるのも無理はない。「男性」しか合っていないのだから。☆2つ。

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