7.オピニオン

2017年8月30日 (水)

楽しい縮小社会

著  者:森まゆみ、松久寛
出版社:筑摩書房
出版日:2017年6月15日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 日本は2011年ごろから人口の減少局面に入っていて、このままの出生率で推移すれば、2050年にには1億人を下回り、2100年には6500万人を切る、と予測されている。様々な政策が功を奏すれば、もっと緩やかに減少させていくことは可能だけれど、減少すること自体をは「不可避」なのだ。

 本書は、このような背景があって記された。社会が縮小していくことを、悲観的にのみ捉えず「「小さな日本」でいいじゃないか」という。縮小することには良い面もあるし、何よりもそれに備えることで、よい未来を築くことができる。いや、それに備えることでしか、よい未来は築けない。人口減少は「不可避」なのだから。

 著者の森まゆみさんは作家で、長らく環境保全の活動に携わる。1993年の著書で「建物は新しく建てるより直して使う」など、使う資源を徹底して減らす「後ろ向きに前進しよう」という提案を行っている。ほとんどの部分は共感を覚えるのだけれど、過激すぎるのでは?と思うところがほんの少しだけあった。

 もう一人の著者の松久寛さんは工学博士。京都大学名誉教授。1973年に「京都大学安全センター」、2008年にに「縮小社会研究会」を設立した。研究会には幅広い分野の人たち百数十人が会員になっているそうだ。本書は基本的にはこのお二人の対談集。

 「縮小することの良い面」をひとつ。それはエネルギーの消費が減ること。例えば、世界で石油は現在の消費量の100年分ぐらいあるそうです。それだけでもけっこう切羽詰まった感じですが、もし年5%増えると35年で無くなってしまう。でも、人口が減っていけば(それに比例してとはいかなくても)消費エネルギーも減らせる。

 お気づきだろうか?このまま行けば、エネルギーが潰えてしまうかもしれない。「縮小すること」は「良い面がある」どころではなくて、場合によっては「人類の存亡のキーファクター」にさえなる。私たちの身に染みついた「成長=善」「縮小ってなんか暗い感じする」という感覚から、抜け出さなければならない時が来たのではないだろうか?

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2017年8月16日 (水)

脳・戦争・ナショナリズム

著  者:中野剛志、中野信子、適菜収
出版社:文藝春秋
出版日:2016年1月20日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 著者の中野剛志さんは経産省の官僚。2011年に出版した新書「TPP亡国論」はベストセラーになった。中野信子さんは脳科学者。最近メディアへの登場も多い。近著の「サイコパス (文春新書)」は少し話題になった。適菜収さんはニーチェの研究者、哲学者。現代社会をシニカルに評した著書もいくつかあり、私が適菜さんの名前を知ったのは「日本をダメにしたB層の研究」という著書で。

 本書はこの3人による鼎談を収めたもの。テーマは「ナショナリズム」「国家と体制」「ポピュリズム」「暴力」をそれぞれ章建てて論じ、全体としてはサブタイトルにある「近代的人間観の超克」を論じる。

 10時間の討論をまとめたものなので、よく言えば「幅広いテーマの自由な論評」になっていて、悪く言えば「言いっぱなし」。「○○の主張によれば」といった、過去の様々な研究者による言説や研究などが、数多く披露されるのだけれど、出典も参考資料も明らかにされない。

 議論の中に「なるほど」と思うものはある。例えば「ナショナリズム」の元になる「ネイション」の概念について。地域や郷土などに愛着を覚える「パトリア」と違って、様々な異質なものを内包した共同体が「ネイション」それは近代の産物で人工的なものだ、という。

 (多数の意見を尊重する)民主主義を機能させるためには、「自分たちとは異質な共同体のメンバーも同じ国民だ」という概念が必要で、それがまさに「ネイション」だ。そのの概念がない(あるいは浅い)国で民主主義を導入すると、多数を占めた共同体がその他を虐げてしまう。中東の民主化がそんな状態たという。

 このように「なるほど」と思うものはあるのだけれど、私は本書には嫌悪感を感じる。本の価値を「好き嫌い」だけでは評価できない。でも例えば、「ポピュリズム」の章の副題が「なぜバカがはびこるのか」なのだけれど、本書の中では、いろいろな人を馬鹿にする。その見下した感じが嫌いだ。それから「左翼は○○だから」という言い方が多く見られる。それもイヤだ。

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2017年8月13日 (日)

君たちはどう生きるか

著  者:吉野源三郎
出版社:岩波書店
出版日:1982年11月16日 第1刷 1983年5月10日 第6刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 1937年に出版された本。この度、マンガ版新装版が同時発売されるという記事を見て、手に取ってみた。とは言っても本書のことを知っていたからではなく、梨木香歩さんの「僕は、そして僕たちはどう生きるか」とタイトルが似ているので、関連があるのかな?と思ったからだ。

 その関連は、冒頭の一行で明らかになった。本書の主人公の少年の呼び名が「コペル君」で、それは梨木さんの作品も同じなのだ。たしか「主人公の叔父さんが昔読んだ本の主人公の名前」という設定だった。あの本が本書だったわけだ。

 では本書について。主人公のコペル君は15歳。時代は出版と同時代。日本が戦争を始めたころ。内容は、タイトルの通りで、「君たちは」というのは読者への呼びかけだから、つまり「「私たちは」どう生きるか」を問う。倫理や哲学的なテーマだけれど、それを「コペル君の体験と、それについて叔父さんが記したノート」の形で、身近な問題に引き付けて綴る。

 例えば、ある時コペルくんは友だちに対する重大な裏切りを犯してしまう。それが原因の一つとなって半月も寝込むことになる。その時は叔父さんは、コペル君に何をなすべきかを毅然として伝える。そして人間の悩みや過ちについて説く。

 よい本に出会った。80年前の本にこんなに感銘を受けるとは思わなかった。もちろん現代にそぐわないことは多々あるけれど、書いてあることは今なお大事なことだ。その理由は二つある。一つは、時代を超えた普遍的な価値観というものがあること。もう一つは、「今があのころと似ている」こと。

 本書に「愛国心のない人間は非国民である」という人々が登場する。その人々は、自分たちの唱えていることが正しいと信じ、自分たちの気に喰わない人間は、間違った奴らだと、頭からきめてかかる。

 私が読んだのは岩波文庫(青158-1)。巻末に著者と親交のあった丸山真男さんの寄稿がある。その中で丸山さんは「非国民というコトバが幸いにして戦後において廃語にちかくなった」と書かれている。しかし今、「非国民」という言葉が「売国奴」と姿を変えて跋扈している。

 最後に。タイトルの「生きるか」について。「生きるべきか」の方が収まりがいい気がしたので、どうして「生きるか」なのか勝手に考えてみた。これは「~するべき」という義務付けではなく、「あなたはどうするのか」という意思決定を促す意味があるのではないか?と推察した。

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2017年7月26日 (水)

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

著  者:ルトガー・ブレグマン 訳:野中香方子
出版社:文藝春秋
出版日:2017年5月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年は「AI(人工知能)」についての理解を深めようと思っている。それで、今年の初めに「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」という本を読んだ。その本では、2045年には「全人口の1割分の仕事しかない」社会が予想される。仕事と収入がリンクする今の制度では、9割の人が路頭に迷う。

 この本を読んで、それまでは懐疑的だった「BI(ベーシックインカム)」について「これしかないんじゃないか」と思うようになった。ちなみに「BI」とは「全ての人に生活に必要なお金を支給する制度」だ。

 本書はその「AI」と「BI」を正面から論じ、「BI」こそが「AI」時代の処方箋だと論じる本だ。著者のルトガー・ブレグマンは、オランダの歴史家でジャーナリスト。広告収入に頼らないジャーナリストプラットフォーム「De Correspondent」の創立メンバー。帯には「ピケティにつぐ欧州の新しい知性の誕生」とある。

 第1章で「過去最大の繁栄の中、最大の不幸に悲しむのはなぜか?」と、疑問を提示したのち、第2章で「福祉はいらない、直接お金を与えればいい」と、早くも「BI」の実施に切り込む。その後の章では、「BI」の可能性、批判への反論を、実に丁寧に論じていく。

 例えば「BI」への批判の最たるものに「無条件にお金を配ったりしたら、誰も働かなくなる」というのがある。「誰も」が文字通りではなくても、働かない人が大多数になったら、商品を作ったりサービスを提供したりするする人が足りなくなっては、社会が成り立たない。

 これには胸に落ちる反論がされている。実は「BI」につながる実験的な取り組みは、過去何度が行われていて、そこで結論が出ている。「無条件にお金を与えられても、人は怠惰にならない」。古くは1795年のイギリスで、その後は、1974年のカナダで、2008年のウガンダで、2009年のロンドンで。インドでブラジルでメキシコで南アフリカで...。

 最後に。この反論を無意味にしてしまうのだけれど、実は「無条件にお金を配って、働かない人が大多数になっ」たとしても問題はないのだ。思い出して欲しい。「AI」の発展によって2045年には「全人口の1割分の仕事しかない」。だから、9割の人が働かなくなっても困らない。

 「AI」の社会への影響や「BI」に興味がある方に、本書を強くおススメする。 

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2017年7月20日 (木)

この国の息苦しさの正体

著  者:和田秀樹
出版社:朝日新聞出版
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 タイトルにある「息苦しさ」とは何を指しているのか?それを示す「はじめに」の冒頭を引用する。「取るに足らないスキャンダルでいつも誰かが血祭りにあげられ、生活保護受給者がバッシングされ、タレントの他愛ない軽口や気に入らないテレビCMがネットで炎上...」。些細な失敗や少しの逸脱が許されない、そういう「空気」を「息苦しい」と言っているのだ。

 これはあえて指摘されなくても、多くの人が感じていることだと思う。著者は精神科医で、この「空気」を心理学的に解き明かそうと試みている。それができれば対応の仕方もあるし、何より少し気が楽になるはず、と言う。私もそれを期待して本書を手に取った。

 まず、著者は「日本人がきわめて感情的になっていることが原因」という仮説を立てる。「感情的」というと「カッとなって怒鳴る」ことなどをイメージしやすいが、著者が指摘するのは、こうした「怒り」の感情ではなくて、「不安」の感情に支配されている、ということだ。

 嫌われたくない、損をしたくない、失敗したくない。「不安」の感情であっても「感情」に支配されると、理性的な判断を抑え込む。認知科学の知見によると、そうなると人間は「一つの解答に飛びついてしまう」「正義か悪か、敵か味方かをはっきりさせたい」という傾向があるそうだ。

 さらに、「自己肯定感」の不足が弱者への攻撃に向かわせる。脳の老化は思考の多様性、柔軟性を失わせるので、高齢化も「息苦しさ」の一因になっている。といった指摘が続く。心理学的には、これで現状をすっきりと説明できる。

 その説明通りなら完全な悪循環に陥る(そして多分そうなのだ)。なぜなら「不安」の感情が原因となって、些細な失敗や少しの逸脱が許されない「息苦しさ」を生み、その「息苦しさ」はさらなる「不安」を招くからだ。どうにかして逆回転させないと止めどなく落ちこんでいく...。

 その逆回転の処方も書いてある。悪循環が「社会全体」のことであるのに対して、その処方は「個人」レベルの考えや行動なので、いかにも心細い限りだけれど、私たちができることはそれしかない。

 最後に。本書の内容と直接のつながりは希薄だけれど、心に残った言葉を。「私が理想とするのは、人生において輝いている時期がなるべく遅い時期にあること」。これは著者が老年医学の臨床現場で学んだことだそうだ。50歳を優に超えた私も、まだ先で輝きを得たい。

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2017年6月25日 (日)

質問する、問い返す 主体的に学ぶということ

著  者:名古谷隆彦
出版社:岩波書店
出版日:2017年5月19日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は通信社の記者。記者歴は20年以上。本書のタイトルは「質問する、問い返す」で、記者の仕事のすべての根幹にあるのは「質問するという営み」だと言う。教育現場を長く取材してきたそうで、本書の内容は「質問」と「教育」を掛け合わせてテーマをいくつか形成している。

 そのうちの一つだけを掘り下げたい。第2章「「正解主義」を越えて」という章。明示はされていないけれど、ここで言う「正解主義」とは、「必ず正解がある」ことを前提とした思考行動のこと、としてよいだろう。

 深刻な弊害の例をひとつ。選挙の投票を棄権した若者に理由を聞くと、「間違った投票をするかもしれないから」と答えた人がいるそうだ。その他にも「私のような理解の浅いものが投票してよいのか」という発言も。当然だけれども、投票に「正解」はない。(後になって「あれは間違いだった」と思うことがあるかもしれないけれど、その時点では分からない)

 「教育」に絡めて言うと、マークシートの選択式の大学入試センター試験は、「正解主義」の最たるものだ。そこを目指ざすためなのか、日本の教育は「正解を素早く導き出す」ことに注力する。ところが選挙の例を挙げるまでもなく、世の中の多くの問題には正解がない。その場合は自分の意見を構築しなくてはいけないのだけれど、そんな訓練は受けていない、という事態になっている。

 ちなみにフランスの大学入学資格試験には「哲学」という科目がある。例えば2015年の試験の問いは「人は自らの過去が形作ったものなのか」というわずか一文だけ。受験生はこれに4時間かけて答えるのだそうだ。自分の意見を形作るには「どうしてそう思うのか?」と、自分に何度も問い返さなくてはいけない。

 この後の章では、日本の教育の新しい方向性としての「主体的な学び・対話的な学び」について、いくつかの視点から論を展開している。なかなか示唆に富んだ指摘が多いので、教育に関心のある方は読んでみてはいかがかと思う。

 この後は書評ではなく、この本に関連して思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2017年6月11日 (日)

茶色の朝

著  者:フランク・パヴロフ 訳:藤本一勇 メッセージ:高橋哲哉
出版社:大月書店
出版日:2003年12月8日 第1刷  2004年4月10日 第6刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 ネットで話題になっていたので読んでみた。30ページほどの絵本に、12ページの「メッセージ」が付いている。

 主人公の「俺」は、友人から「愛犬を安楽死させなきゃならなかった」話を聞く。理由は「茶色の犬じゃなかったから」。この国では「茶色以外の犬、猫をとりのぞく」という法律が制定されたのだ。先月「俺」の白に黒のぶちの猫も始末された。その時は胸が痛んだが「あまり感傷的になっても仕方ない」と思い直した。茶色の猫を飼えばいいのだから。

 しばらくすると「街の日常」という新聞が廃刊になった。例の法律を批判していた新聞だ。それでもみんな、いままでどおり自分の生活を続けている。「俺」は思った。「きっと心配性の俺がばかなんだ」。その次は図書館の本、その次は...。

 「俺」は自らの破滅が身近に迫って、ようやく「抵抗すべきだったんだ」と気が付く。しかしすでに手遅れで、「俺」は「茶色の朝」を迎える。

 巻末の「メッセージ」によると、ヨーロッパでは「茶色」はナチスを連想させる色らしい。もう、多くを言う必要はないだろう。「こんなのおかしい」という気持ちを、騙し騙しして「大したことじゃない」と、流れに任せてしまったら、その流れの行き着く先は「茶色の朝」しかない。

 これも「メッセージ」によると、著者のフランク・パヴロフは、フランスで1990年代に、ジャン・マリー・ルペン率いる極右政党「国民戦線」の躍進に、危機感を覚えて本書を出版した。その後、多くの人が本書を読み「極右にノンを!」運動が盛り上がった。

 寓話による例えは、人の心に浸透しやすい。「物語には力がある」と言いたいところだけれど、過度の期待は禁物だ。お気づきだと思うが、先般のフランス大統領選挙で、マクロン大統領と共に決選投票に残ったマリーヌ・ルペン候補は、ジャン・マリー・ルペンの娘で後継者だ。すぐに忘れてしまうのは日本人だけではないらしい。

 さらに後ろ向きで恐縮だけれど、この絵本からメッセージを受け取るのは、元々極右思想に疑念を持っている人だけかもしれない。それでも本書を一人でも多くの人が目にするといいと思う。それが未来につながる希望。

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2017年6月 7日 (水)

すべての戦争は自衛意識から始まる

著  者:森達也
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2015年1月29日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 古い新聞記事をきっかけに本書を読んでみた。それは1925年の朝日新聞の4つの記事。「世論の反対に背いて治安維持法可決さる」「無理やりに質問全部終了 修正案討論に入る」「社会運動が同法案の為抑厭せられることはない」「定義はハッキリ下せぬがこの法律だけは必要だといふ」という文字が読み取れる。
※その記事はこちらで見られます

 最初はこの記事の画像をネットで見て、その真偽を確認するうちに、本書に紹介されていることを知った。この記事を見た時の私の気持ちに、共感してくださる方が多いことを祈る。「これは今の(共謀罪を巡る)状況にそっくりじゃないか」「歴史を繰り返しているんじゃないのか」ということ。本書を読むと、著者は私と同じ気持であったことが分かる。

 著者はノンフィクション映画監督で作家でもある。本書は著者がそれまでに書いた雑誌のエッセイや連載と書下ろしをまとめたもの。タイトルのとおり「自衛意識から戦争が始まる」ということを、繰り返し説明している。それはノンフィクション作家らしく、紛争や戦争の現場に足を運んで、人から聞き肌で感じた「実感」だ。

 例えば、パレスチナ避難民が暮らす難民キャンプ。例えば、南北に分断されたキプロスの境界線。その他には「かつての現場」である、アウシュビッツの収容所跡の博物館、南京大虐殺記念館、北朝鮮の戦勝記念館に。どこでも共通するのは、自分たちを「守る」ために戦い、そのためには「善良なままに人を殺す」そういう姿だ。

 本書にはその他に、知っておいた方が良い事柄がたくさん書いてある。例えば、南京大虐殺記念館にある「百人斬り超記録」という日本の新聞記事。日本の軍人がしていた「中国人を何人斬ったか競争」の状況を国内に報じていたのだ。例えば、韓国人なら誰でも知っているのに、日本人はほとんど知らない「乙未事変」。朝鮮の王妃が日本の公使に軍刀で殺害された事件だ。

 こういったことを「自虐史観」と非難する人たち向かっては、「呼びたければ呼べ」と著者は言う。振り返って「戦争はダメ!」という人にも「それだけではダメだ」と言う。「戦争のメカニズムを知らないと「戦争を回避するために抑止力を」というレトリックに対抗できない」。それではまた繰り返すことになる。...肝に銘じよう。もうすでに繰り返しが始まってしまっているのだから。

 最後にもう一つ。キプロスの分断された両側の地区に、若者たちが描いた「禁止マークに入った銃」と「ヘッドホン」の落書きがたくさんあるという。これは彼らの「銃は捨てる。音楽を聴く」というメッセージ。

 日本のネットなら「お花畑」と言われるだろう。「とことん話して、酒を飲んで..」と言った学生を袋叩きにしたように。正直言って私も「甘い」ように思うのだけれど、このことが本書の中で希望を一番感じたことだった。これが唯一、解決につながる道なのかもしれない。

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2017年6月 1日 (木)

日本をダメにしたB層の研究

著  者:適菜収
出版社:講談社
出版日:2015年11月1日 発行
評  価:☆☆(説明)

 ここのところ政府にとって都合の悪いことが次々と話題になっている。その割に支持率が下がらない。「どうして?」と思っているうちに「B層」という言葉が頭に浮かんだ。「たしか「B層の研究」っていう本があったよな」と思って、本書を探し出して読んでみた。

 「B層」というのは、2005年のいわゆる郵政選挙の時に、広告会社が作成したコミュニケーション戦略による概念。「構造改革に肯定的か否定的か」と「IQが高いか低いか」の2つの軸で、国民をABCDに分類し、「構造改革に中立から肯定的でIQが低い」層のことを「B層」と名付けている。

 国民の多数がこの層に属していて、この層は深く考えることなく、印象で物事を決めてしまう。だから「郵政民営化に賛成か反対か」「改革派か抵抗勢力か」と、問題を単純化してして、テレビで大量に投げかける、というのがその戦略。

 そうすると、具体的なことはよく分からないけれど(「改革派」の方がいい感じがするので)「郵政民営化賛成!改革派ガンバレ!」となって、その結果として自民党は圧勝、というワケ。「国民をバカにするな!」と憤りを感じるけれど、戦略通りに自民党は圧勝したわけだから、憤るだけ虚しいというものだ。

 ちょっと「B層」の説明が長くなってしまった。それで本書は、タイトルからして「日本をダメにした」と形容しているわけで、その「B層」を「研究」と称して、徹底的にバカにしている。それだけでなく「B層」を支持基盤にした、小泉さん以降の歴代の首相を、党を問わずバカ呼ばわりする。

 いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もあるし、著者は哲学や古典にも通じているようだ。しかし、こんなふうに他人を順番に俎上に載せて、次々と切って捨てているのでは、飲み屋で吠えている酔客のようで、心情的に距離を置きたくなった。

 繰り返すけれど、いいことも言っているし、なかなか鋭い考察もある。積極的にはおススメしないけれど、私が上に書いたことを承知した上で、それでも興味があれば、読んでみてもいいかもしれない。

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2017年4月15日 (土)

日本3.0 2020年の人生戦略

著  者:佐々木紀彦
出版社:幻冬舎
出版日:2017年1月25日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は「NewsPicks」という経済情報に特化したニュース共有サービスの編集長。その前は「東洋経済オンライン」の編集長、その前は東洋経済新報社の記者。1979年生まれというから、年齢は現在30代後半。

 タイトルの「日本3.0」は「近代日本の第3ステージ」を表す。第1ステージは明治改元から敗戦まで、第2ステージは敗戦から立ち直った「奇跡の経済成長」。それが終わりを迎え、2020年ごろに「これまでとはまったく異なる思想、システム、人を必要とする」新しいステージが始まるそうだ。

 本書は、なぜ「日本3.0」を迎えるのか、その時代に国家は、経済は、仕事は、教育は、リーダーはどうあるべきか?を、少し暑苦しく感じるぐらい熱心に語る。その時代を牽引する(すべき)現在の30代の人たち(つまり自分たちから少し下の世代)を、「いい子ちゃんを卒業せよ」と鼓舞する。

 2020年ごろには、開国や敗戦に匹敵する「ガラガラポン革命」が起きるという著者は予想する。その根拠として「10のファクター」と「5つの社会変動」を挙げる。正直に言って漸進的な変化が多くて「ガラガラポン」にはならないだろうと思う。

 ただここ数年の政治や経済に「これまでのやり方ではムリ」という印象を強く感じる。何か新しいことが必要だし起きそうだ。それから著者が本書で言うリーダーや人材は、2020年ではなくて今すぐにでも必要だ(そもそも「3年後から必要」って予想も不自然だけど)。だからガラガラポン」が起きなくても、本書の主張は有益だと思う。

 最後に。著者の「経済紙の記者」という職業について。経済紙の記者は、駆け出しの頃から経営者に会える。一般的な会社員は、自分と釣り合った役職の人を相手にすることが多い。20代の平社員が大企業の社長や会長と会って話を聞く機会などまずない。ところが記者ならそういうことがある。

 まだ30代の著者が、これだけ社会全般を見渡す視野を身に着けている。本書の随所に取材した企業人の言葉の引用があるけれど、著者がこれまで会って来た先達たちから受けた薫陶が、そこに役立っているのだろうと思う。

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