7.オピニオン

2019年6月20日 (木)

FACTFULNESS(ファクトフルネス)

著  者:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング・ロンランド 訳:上杉周作、関美和
出版社:日経BP社
出版日:2019年1月15日 第1版第1刷 5月8日 第10刷 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 自分の認識の歪みを思いしらされた本。

  質問。世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう? A:20% B:50% C:80%。

 これは本書冒頭の「イントロダクション」にある、世界の事実に関する13問のクイズの1つ。今や遠い国で起きたことが、私たちの生活にも影響する。遠くの国の出来事や人々の暮らしにも、ちゃんと関心を持っている人なら分かるはずだ。ほんの少しアンテナを高くするれば、そうしたニュースは入ってくるのだから。

 それなのに驚くべきことに、各国で行った著者たちの調査では、この質問に対する正解率は平均で13%だ。著者が「チンバンジーに負ける」と表現するように、3択だから当てずっぽうで答えても33%は正解するはずなのに。さらに言えば日本人の正解率はわずか6%、チンパンジーの5分の1以下。情けない。大丈夫なのか日本人?

 慰めになるかどうか分からないけれど、これらの質問は、著名な科学者や投資銀行のエリート、ジャーナリスト、政界のトップらに聞いても、正解率は低いらしい。人々は世界についての知識が圧倒的に不足している。

 どうしてそんなことになるのか?世界の事実を多くの人が誤認したままでは、誤った対応をしてしまう。それを防いで「事実に基づくありのままの世界を見る」には、どうしたらいいのか?それが本書で著者が伝えたかったことだ。そしてそれは少なくとも私には伝わった。「蒙を啓かれる」というのはこういうことだと思った。

 ひとつキーワードだと思うこと。「悪い」と「良くなっている」は両立する

 最後に冒頭の質問の答えを。正解はC。間違えた人は、本書を読んだ方がいい。強くおススメする。私は...もちろん不正解だった。
 ※読むときには、冒頭の13問のクイズには素直に答えてください。裏読みとかしないように。

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2019年6月12日 (水)

PTAのトリセツ~保護者と校長の奮闘記~

著  者:今関明子 福本靖
出版社:世論社
出版日:2019年5月9日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 読み終わって「あぁこれが「答え」だったんだ!」と思った本。

 本書は神戸市の中学校で実際に成し遂げた「PTA改革」を、当時のPTA会長と校長先生が、それぞれの立場から記した報告。

 改革前。学級のPTA役員決めは、形ばかりの立候補を募るも応じた人はゼロ。くじ引きで欠席者は代理が引いて決定。欠席者には会長ら本部役員が、引き受けてもらうための電話連絡をする。(この電話で辞退理由の壮絶な話を聞くこともあるし、この電話を受けないために、この日の夕食は外食にする作戦という人もいるらしい)

 「この日さえ乗り越えたら..」。それぐらい役員決めの日は重苦しい。子を持つ親の多くが覚えがある。私にもそんな経験がある。(私の場合は見事に引き当ててしまったのだけれど)。保護者の態度がこんなにネガティブなのは、その後のPTA活動が、負担感ばかりが大きくて意義が感じられないからだ。

 改革後。つまり1年後には、新1年生から3年生まで学級委員のすべてが立候補で決まる。毎月1回の運営員会は回を重ねるごとに参加者が増える。パートの昼休みに抜けて来る人までいる。ほとんどの役員が都合をつけて参加するようになる。その場で話し合われたことで、数々のことが実現していく。

 改革前と改革後の間で何が行われたかは、ぜひ読んで欲しいので、詳しくは書かない。書いても要約では大切なことが伝わらないと思うからだ。ひとことで言うと「負担感ばかりが大きくて意義が感じられない」を変えた、ということだ。事業を取捨選択すると同時に必要な負担をあらかじめ明確にして「負担感を軽減」する。PTAの意見を結果に結びつけることで「意義が感じられる」ようにする。

 PTAに関する新聞や雑誌、ウェブメディアなどの記事をよく目にする。それらに共通なのは、問題点の指摘に重きが置かれていることだ。中には「あるべき姿」を描くものもあるけれど、あくまでも理想で、その理想を実現することの困難さが合わせて書いてあることが多いように思う。

 しかし、PTAが「子どもたちのため」という本来の意義に立ち返るために必要なのは、そういった議論ではなく(もちろん不要論なんて論外)、どうすればうまく行くのか?が分かる「答え」、つまり「実際に成功した例」だったんじゃないか、と思う。冒頭に書いた「あぁこれが「答え」だったんだ」というのは、そういう意味だ。ちなみに、日本PTA全国協議会のサイトによると、昭和40年代には早くも「PTA廃止論」が出ているそうだ。本書の「答え」は、50年もの間待ち望んだ「答え」かもしれない。

 もちろん同じことをやって同じようにうまく行くとは限らない。そういう意味では「答えの例」かもしれない。でも、一つの成功例があれば、次の成功例を実現するのは比較的容易だ。これからが楽しみだ。

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2019年6月 9日 (日)

データサイエンス「超」入門

著  者:松本健太郎
出版社:毎日新聞出版
出版日:2018年9月30日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 世にある様々なデータについての読み方と、データに相対する姿勢を考えさせる本。

 著者は「データサイエンティスト」。本書のテーマは「データの読み方」。著者の説明では、「データを読む」とは、「データの特徴を理解して、背景に隠されている事象に想い馳せて、データに違和感を覚え、時には現場に足を運び、データが何を表現しているかを読み解く作業」。

 本書のテーマをもう少し掘り下げる。それは「00.」とナンバリングされた章(つまり第0章)のタイトル「バイアスだらけの私にリテラシーを」に表されている。私たちは「客観的な事実より自分が信じたい内容を信じようとする」。これを「認知バイアス」という。この認知バイアスの罠に陥らないような「データの読み方」、これが本書のテーマだ。

 認知バイアスによる弊害は数多い。例えば「津波が来てもここまではさすがに来ないだろう」という前提で運営されていた原発の事故。「起きたら嫌なことは起きないだろう」という思い込みの積み重ねが原因の一つだ。事故になれば大惨事が予想されるだけに「起きない」と信じたい。それを信じてはいけなかったのだ。

 このあと、世間で言われる様々な言説を、データを使って検証。「なぜネットと新聞・テレビで、内閣支持率がこんなにちがうのか」「アベノミクスで景気は良くなったのか」「経済大国・日本はなぜ貧困大国とも言われるのか」「人手不足なのにどうして給料は増えないのか」「若者の○○離れは正しいのか」など。

 特に「アベノミクスで景気は良くなったのか」のGDPに関する考察は、とても興味深かった。GDPは「具体的な数字を計算したものではない」。日本のGDPは「なぜその数字になったのか検証できない」。GDPは「生活の質とは何ら関係ない」。GDPに代わるもの開発されていないので、これを指標にするしかないのだけれど、GDPがこういうものだと知っておく必要はある。

 最後に。私は冒頭に書いた「データを読む」の著者の説明の中で、「データに違和感を覚え」の部分に注目した。例えば、アベノミクスの成果もデータで示されているけれど、そのデータはそう読むのが正しいのか?実感と違う、という違和感。本書のテーマから言えば「違和感」と「データ」なら「データ」を信じるべきかもしれない。

 しかし「認知バイアス」は「データの読み方」にも及ぶだろうし(つまり、データを都合よく読む)、都合のいいデータだけを集めて「正しさを証明」することも可能だ。いや、そういうことはよく行われる。「データ」と「違和感」は無限ループする恐れがある。本書で著者が挙げる「データの読み方の誤りを示すためのデータ」も、この読み方で正しいのか...。これは、疲れる。

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2019年6月 6日 (木)

55歳からの時間管理術 「折り返し後」の生き方のコツ

著  者:齋藤孝
出版社:NHK出版
出版日:2019年5月10日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「そうだよなぁ」「なるほどそうか」「いやそう言われてもなぁ」と逐一言葉が漏れた本。

 著者のことは紹介するまでもないかもしれない。テレビで頻繁にお顔を拝見する。本職は目宇治大学文学部の教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書はすごく多くて、Amazonで著者を「齋藤 孝 」として検索したら769件も検索された。また本書を読めば大変な読書量だと分かる。

 なぜ「55歳」なのか?「無理がきかない」といった身体的な変化の他に、社会的な立ち位置も変化が現れる時期だから、と著者は言う。その変化の最大のものが「暇になる」。異論反論は多いと思う。しかし、会社員なら出向とか役職定年とか早期退職の対象になり始める。昇進していれば裁量で時間を作ることも以前よりは可能になる。「仕事一辺倒」の人も「他の選択肢」ができる。

 そして何より60歳という定年を5年後に控えている。55歳から徐々にライフスタイルを変えていけば、スムーズに後半生に移行できる。50歳ではまだ早すぎる。60歳では遅すぎる。そして私は今まさに55歳だ。新聞で本書の広告を見て「55歳」の字から、しばらく目が離れなかった。

 「時間管理術」としては、まずは「時間割」を作ることを提言。要領は、優先順位を1,2,3と付けて1から順にやる。明瞭だ。美味しいものは最後に、という人がいるけれど、人生はいつ死ぬか分からない。だから優先順位1から順に。なんか哀しいけれど明瞭だ。

 続いて優先順位の考え方とか、どういう項目を選ぶか?とか、55歳から先の人生に必要な力は?とかいったことを、著者の経験を踏まえて(著者は今58歳)指南してくれる。冒頭に書いたように「そう言われてもなぁ」ということもあるけれど、だいたいは「そうだよなぁ」「なるほどそうか」と感じる有意義な提言だ。

 その後、後半生を生きる「コツ」や「心構え」などにも話は広がる。その中で、心に残った言葉を紹介する。今後の生活の芯に据えたいと思っている。

 普通の55歳の男性を好きな人なんて1人もいないと自覚したほうが間違いありません。でも上機嫌な55歳なら好かれます。

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2019年5月23日 (木)

なぜ日本人は、こんなに働いているのにお金持ちになれないのか?

著  者:渡邉賢太郎
出版社:いろは出版
出版日:2015年2月14日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「お金」に想いを巡らして「お金」についての考え方が少し変わる本。

 著者は元証券マン。リーマン・ショックを機について学ぶために世界を旅したという。2年で40カ国。本書にはそのうち17カ国でのエピソードが記されている。旅をした結果一つの気づきを得た。「日本人が、世界一、「お金とは何か?」を知らない」。タイトルの「なぜ日本人は、こんなに働いているのにお金持ちになれないのか?」の答えもそれだ。

 本書には日本と対照的な事例が最初に2つある。

 一つ目はイギリス。イングランド中央銀行の博物館に、小学生ぐらいの子どもがわんさかいる。入ってすぐに、なぜが気球を操縦するゲーム。上昇させて気を抜くと行き過ぎる、慌てて下降させると墜落しそうになる。これは「インフレーションとは何か?」を体験するゲーム。小学生が「インフレーション」を学び、物価コントロールの難しさを体験する国、イギリス。

 二つ目はインド。電気湯沸かし器を買いに電器店を探してまわった時のこと。商品には一切値段が書いていない。値段を聞いたら中国製が30ルピー、インド製が50ルピー。「他を見てくるよ」とかやっているうちに、インド製が10ルピーになった。日常的に値段交渉が必要で、モノの価値を自分の目で見極める国、インド。

 とても興味深い本だった。私も、日本人の「お金」への思いは捩れていると思う。お金がないと生きてゆけないと思っているけれど、お金への執着をひどく嫌悪する。「お金」は大切、でも「お金」は汚い。「汚い」ものからできるだけ遠ざけて子どもを育てる。大人になるまで(大人になっても)お金について学ぶ機会がない。

 ではお金について学ぶとお金持ちになれるのか?というと、その辺りは明確でない。ただ「お金を「目的」と捉えるのか「道具」として捉えるのか」とか、「お金は「信頼の媒介物」」とか、著者が何度も繰り返す「お金」の言い換えは、とても示唆に富んでいて考える端緒を与えてくれる。終盤にでてくる「つながりキャピタリズム」にも、思い当たることが多くあった。

 最後に。「お金なんかなくても幸せになれる」という意見がある。それはそうだ。でもこれは「お金について考える」という意味では思考停止だ。本書も途中で「最貧国の幸せな人々」が出てきて、この陥穽に陥るのかに見えたけれど、そうならなかった。こういうところもよかった。

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2019年4月24日 (水)

「60点女子」最強論

著  者:広野郁子
出版社:合同フォレスト
出版日:2019年4月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社のFacebookページによると、今月初めの発売以来、注文や問い合わせ、特に年配の女性からの問い合わせが多いそうだ。Amazonでもカテゴリーランキングの1位になっている。

 タイトルの「60点女子」という言葉がキャッチーだ。100点満点の60点。本書ではちょっと幅を持たせて「自己評価で50~70点」としている。50点以下つまり平均より下ではないと思うけれど、80点以上の人のようには自分に自信はない。個性がない自分に自信がなくて、将来に漫然とした不安を持っている。そんな女性が「60点女子」。多くの女性が当てはまりそうだ。

 ところで著者は、マーケティング会社を経営する社長。その会社の年商は1億円超で、設立以来17年間で赤字は1期だけだという。「成功した女性起業家」そのもので、「60点」じゃなくて「100点」なんじゃないの?と、思うけれど、本書の前半を読めば「自己評価で60点」にも納得感がある。

 その「60点女子」が実は「最強」、というのが、本書のテーマ。「60点女子」は、その資質として「傾聴力」や「中立性」「地味な仕事でも確実にこなす力」「弱さへの共感」などを持っている。それは会社が必要としているもので他には代えがたい。だから「最強」というわけ。

 私も30年以上も会社や組織で働いているけれど、これには同意する。特に「地味な仕事でも~」については、自分が管理する立場になって 心からそう思う。「やっておいて」と言えば(いや場合によっては言わなくても)確実にしてくれる。そういうことにどれだけ助けられるか。その人がいなくなって、どれだけ困るか。(困るまで気が付かない、ということも多く、本当に申し訳ないのだけれど)

 ..とまぁ、ここまで紹介してきたけれど、本書の魅力はこんなところにはない。「60点女子」が実は「最強」、がテーマではあるけれど、本書の狙いはそれを説明することにはない。本書の狙いは「60点女子でも100点満点に近い人生を送れる」ということを、多くの女性に伝える、ということだ。

 「60点」が「80点」や「100点」になろうとする必要もない。短所を克服したり、無理に自分を変えようとしなくてもいい。「あなたのままでいい」今はそう思えないかもしれないけれど、自分を肯定してそう思えるきっかけが必ず訪れるから。そして一歩踏み出してみて。著者はそんなことを何度も言っている。

 最後に。この本は「あなたはあなたのまま、自分なりのスタイルで歩み続けてください」のように、最初から最後まで「あなた」に向けて、著者は書いている。「かつての私のように悩んでいる女性たちに、どうしても伝えたい」という著者の気持ちが、「あなた」という言葉の使い方に現れていると思う。そして「どうしても伝えたい」という気持ちに、私も共感するので、多くの人にこの本をお勧めしたい。

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2019年3月28日 (木)

日本の女性議員 どうすれば増えるのか

編著者:三浦まり
出版社:朝日新聞出版
出版日:2016年4月25日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 以前新聞に、「これまで1度も女性が、議員にも役所の課長以上にもなったことがない」鹿児島県の市のことが載っていて興味を持った。そうしたら引き寄せたように「女性議員」についての情報が集まってきた。本書はその一つで、図書館でいつも見る「新刊コーナー」にあった。3年前の本なのに。

 編著者の三浦まりさんは上智大学法学部の教授。専門は現代日本政治論、比較福祉国家、ジェンダーと政治。本書は執筆者7人による共同研究の成果。共同研究では、科学研究費補助金(科研費)を活用したり、全国会議員への郵送調査、女性国会議員へのインタビュー調査などを行っている。

 内容を概観する。「女性議員に関するこれまでと現況」「90年代の躍進」「2000年以降の停滞」「国会議員へのキャリアパス」「女性議員と男性議員の違い」「地方の女性議員」「女性が政治に参画するために」。包括的な内容で、今後の研究や実践の基礎になる素晴らしい研究だと思う。

 とても示唆に富んだ内容だと思うと同時に、「女性議員増加の必要性」を調査によって明らかにすることや、効用(メリット)の観点で論ずることの限界も感じた。

 「示唆」の一例をあげる。1990年代の調査で多少古いけれども、衆議院議員へのキャリアパスで、男性議員は地方政治家、政治家秘書、官僚で77.9%もあるのに対して、女性は15.1%しかいない。その代わり、大学等の教員、法曹関係が多く33.4%あるが、男性は13.8%しかいない。(複数の職業を経ている場合があるので合計は100%を超える)

 これから読み取れるのは、女性は「専門分野を学んだ」人が多く、男性は「政治を学んだ」人が多い(というか大半)、ということ。敢えて極論すると、男性は「国会議員になりたくて」、女性は「何かを実現するために」国会議員になった(人が多い)。私たちは、もっと専門性を持った人を国会に送るように努めた方がいいのではないか?。もちろん、それは男女を問わずだけれど。それが私が得た「示唆」。

 「限界」について。調査で女性議員と男性議員の政策志向の違いなどを明らかにしようとしたが、芳しい結果は得られなかった。現在の国会は「議員個人」よりも「政党」が優先される。「女性」というくくりで傾向を見つけるのは難しい。

 だから「女性議員が増えるメリットは何?」という問いには、調査では答えが出ない。それよりも逆質問が有効だ。「男性議員ばかりいるメリットは何?」

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2019年2月 6日 (水)

働く女の腹の底

著  者:博報堂キャリジョ研
出版社:光文社
出版日:2018年4月30日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「駄目な世代」の著者の酒井順子さんについての記事を読んでいて見つけた本。著者の「博報堂キャリジョ研」は、博報堂の女性社員が集まった社内プロジェクトだそうだ。

 本のタイトルから「働く女性の赤裸々な本音」という、知るのはちょっと怖いドロドロしたものを想像したけれど、「怖いもの見たさ」で読んでしまった。結果を先に言うと、ドロドロとは反対のサラっとした明るい内容だった。そう、広告代理店のプレゼンのように。

 著者であるプロジェクト名にもなっているけれど、本書では「働く女性」かつ「子どものいない女性(未既婚は問わない)」を「キャリジョ」と名付ける。かつて「働く女性」を指した「OL」や「キャリアウーマン」には、特定のイメージが付いていて、多様化する働く女性のありかたを表すには違和感があるため、新しい表現を議論して名付けたそうだ。

 プロジェクトでは「キャリジョ生態把握調査」を行い、1280名の回答をクラスター分析し、7つのクラスターを導き出した。そのそれぞれに、生活全部に全力投球モーレツキャリアの「モーキャリ」とか、家族との幸せを最優先ちょいっとキャリアの「ちょいキャリ」といったネーミングをする。そしてそれぞれの特徴などを紹介する。

 その他のクラスターも紹介しておく。割り切りキャリアの「割りキャリ」、プロフェッショナルキャリアの「プロキャリ」、玉の輿に乗っかりキャリアの「乗っキャリ」、平凡キャリアの「凡キャリ」、キラキラキャリアの「キラキャリ」。ネーミングセンスはまずまずかな、と思う。

 読んでムダではないけれど、大して益にもならない。「調査」は「分析」しなくちゃいけないし、「分析」すれば「分類」ぐらいしなくちゃ「報告」にはならない。それは分かるけれど、そもそも「多様化するあり方」から出発しているのに、たった7つに類型化してしまったことを残念に思う。

 「なるほど」と思ったこと。ワークライフバランスを考えるときに、「ケーキカット型」と「ブレスレットのチャーム(飾り)型」があるという話。「ケーキカット型」は、ホールケーキをどう切り分けるかなので、一つ(例えば家族)を増やすと、別の物(例えば仕事)が減ってしまう。「チャーム型」は、それぞれの飾り(家族や仕事や趣味など)を、それぞれに磨いたり大きくしたりできる。すごくいい視点だと思う。

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2019年1月20日 (日)

安倍政治 100のファクトチェック

著  者:南彰 望月衣塑子
出版社:集英社
出版日:2018年12月19日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、朝日新聞の南彰記者と、東京新聞の望月衣塑子記者とによる「ファクトチェック」をまとめたもの。安倍首相をはじめとする安倍政権の閣僚、与野党の国会議員、官僚らによる、主に国会での発言について、正しいかどうかを検証した。

 テーマと項目数は次のとおり。第一章「森友・加計学園問題」35項目、第二章「アベノミクス」16項目、第三章「安全保障法制」21項目、第四章「憲法・人権・民主主義」19項目、第五章「官房長官会見」9項目。全部で100項目。それそれを〇△×で評価。〇が3つ、△が31、×が66。

 例えば一番最初の項目は、2017年2月27日の衆院予算員会での安倍首相の「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに(中略)一切かかわっていないということは明確にさせていただきたい」とう発言。この発言を引き出した民進党議員の質問と、首相の答弁を見開きの右ページに、解説と検証結果を左ページに紹介。

 この項目の評価は△。「えぇ~!×じゃないの?」と、私は思った。首相自身はまだしも妻の昭恵さんが関わっていたことは明らかなんじゃないの?と。解説にも「今井尚哉首相秘書官も「交渉の過程で名前があがっていたのは事実ですから、無関係とは言えません」と認めた」と書いてあるのに△。

 この一例が表しているように、本書は極めて抑制的に書かれている。他の情報によって間違いであることが証明できなければ、どんなに怪しくても△。×であっても間違いであることを述べるだけで、その発言や発言者への非難の言葉はない。数は少ないながらも、野党の国会議員の発言も検証の俎上にあげる。

 これは、議論に冷静さを欠かないための措置なのだと思う。南記者による「おわりに」にも、「ファクトチェックは政権批判の道具ではありません」と書いてある。「意見の善し悪しの評価ではなく、発言が事実に基づいているかどうか」とも。

 その冷静さが良い面もあるけれど、悪い面もある。ウソばっかりの政権運営なのに、非難の言葉の一つも投げられないので、不完全燃焼気味になる。抑制的に評価しても、100のうちの66が×。もっと怒らないとダメなんじゃないのかな?

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2019年1月 9日 (水)

「AI失業」前夜 これから5年、職場で起きること

著  者:鈴木貴博
出版社:PHP研究所
出版日:2018年7月2日 第1版第1刷 9月3日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 AIがもたらす経済・社会の問題について、過去から現在、そして5年後、最大でも10年後までの時間軸で論じた本。

 本書の特長で著者の慧眼は、この時間軸の設定にある。現在「AI」を論じる書籍や記事には、2045年に迎えると言われる「シンギュラリティ(技術的特異点)」の話が、必ずと言っていいほど出てくる。

 しかし、今、私たちが最も問題にしなければならないのは、26年後にAIが人間の知性を越えるのか越えないのか?仕事の半分ぐらいが消滅すると言うけれど本当か?なんて話ではない。これから5年とか10年という、もっと近い将来に起きることにどう対処するのか、の方が大事なはずだ。

 時間軸を「過去」に伸ばしていることも注目に値する。AIの影響は、現代社会の諸問題として既に表れている、と著者は指摘する。例えば、非正規雇用が増え続けている問題がそう。

 これまでのAI研究の成果である「エキスパートシステム」は、コンビニの発注業務をアルバイトができるようにした。小売店にとって「発注」は重要な業務で、従来は熟練の売り場社員しかできなかった。少なくとも「発注」に関しては、熟練の社員は要らなくなり、非正規雇用のアルバイトに置き換わるのは当然の成り行き、という次第。

 こんな感じで、今後についても非常にロジカルに予想する。専門性がある仕事が、AIの開発効率のよい市場の大きいものから順に置き換わる。それは運輸と金融から始まり、ホワイトカラーの仕事の多くに急速に広がる。この予想が当たるか当たらないか、それは分からないけれど、一部はすでに現実になっている。例えば、メガバンク3行は、今後10年間で数万人規模のリストラ計画を発表している。

 最後に。「AIが人間のような知能を獲得することは起きない」を論拠にして「AI失業は怖くない」という議論があるが、その落とし穴にはまらないように、と著者は警告する。その説明が胸に落ちた。「AI失業は怖くない」と思っている人は読むといいと思う。

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