53.池上彰

2018年9月19日 (水)

知の越境法

著  者:池上彰
出版社:光文社
出版日:2018年6月20日 初版1刷 7月5日 2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 池上彰さんが、国内外の出来事や歴史を解説する本は数多い(「知らないと恥をかく世界の大問題」という新書シリーズだけで9冊目が出ている)。私も何冊も読んできた。。しかし本書はそれらとは少し趣が違って、ご自分の経歴も振り返りながら「越境」について語り、読者にもそれを勧めている。

 本書では「越境」を主に2つの意味で使う。一つは、ドイツの専門家がフランス政治について語る、といった「専門の垣根を越える」こと。記者であった著者がキャスターを務めたのも、まさに「越境」。もっと言えば、著者は「専門」を持たないので、テレビで中東問題を話すのも、歴史問題を解説するのも、全部が「越境」になる。

 もう一つは、興味・関心を「横方向に展開する」ということ。例えば、再販制度という規制に守られた「新聞・出版業界」が、インターネットの出現で事情が激変したけれど、それは「放送業界」もそうだ、「規制緩和」ということでは「銀行業界」でも同じことが言える、といった話の転がり方をすること。「越境」を意識すると、いつもとは違う結びつきが見つかり、これまでとは異なる論理を展開できる。

 それで「越境する人が求められている」こと、ご自身は「こうして越境してきた」こと、越境には「リベラルアーツが重要」なこと、などを順に記す。「異境」「未知の人」から学んだこと、「越境の醍醐味」「越境のための質問力」も書かれている。「越境」というテーマ一つでこんなに多くを語る。改めて引き出しの多い人だと思う。

 冒頭にも書いたけれど、著者が何かを解説する本は多い。分かりやすくて「ためになった」感じがする。それに比べると、本書は扱う話題が広範にわたり、悪く言えば内容が散漫で「そうだったのか!」という感嘆が少ない。「横方向に展開した」結果がこうなっているのだけれど。

 でもどうだろう?もし著者とお話する機会があったら?「世界の大問題」を解説して欲しい?否。ご自身の経験や、お会いになった人のことや、物事の捉え方など、「広範なテーマ」を「横方向に展開」して、話を転がしてもらった方が楽しいだろう。本書は、まぁそんな本だ。

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2018年5月13日 (日)

世界史で読み解く現代ニュース

著  者:池上彰、増田ユリヤ
出版社:ポプラ社
出版日:2018年4月 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「未来へのトビラ」という全5巻の「10代の読者におすすめの本を厳選」した選書の中の1冊。元は2014年に刊行された同名の新書で、それにルビを加えて選書化したもの。

 著者は二人。池上彰さんはもう紹介の必要がないだろう。増田ユリヤさんは、高校で歴史を27年間教えていた元教師。最近はコメンテーターとしてテレビにも出演されているそうだ。本書は、増田さんが「世界史をわかりやすく解説」、池上さんが「その世界史が現代とどうつながっているかを解き明かす」という役割分担になっている。

 テーマは4つ。「中国の海洋政策と鄭和」「中東の民族紛争とオスマン帝国」「世界の人権意識とフランス革命」「地球温暖化と産業革命」。「○○と□□」という形にまとめてみた。「○○」が現代ニュース、「□□」が世界史上の出来事。

 それぞれの「○○」と「□□」には、地域性や意義に関連があって、違和感を感じない。しかし例えば、中国による南沙諸島の実効支配を報じるのに、鄭和を持ち出すニュースは見たことがないし、イスラム国やシリアの内戦をオスマン帝国から解説するのは、専門的な番組でなければできないだろう。

 ひとつ特筆すると「オスマン帝国」は、中東情勢だけでなく、旧ユーゴ内戦などのバルカン半島情勢や、ウクライナ紛争などのクリミア半島情勢にも関係している。ということを本書で初めて知った。オスマン帝国は中世の歴史に登場するので「歴史上の国」というイメージだけれど、実際は第一次世界大戦後の1922年まで存続していた。100年前のその崩壊が現代に影を落としている。

 とても勉強になった。分かりやすくするための単純化があって、いわゆる専門家の目からは問題点が見えるかもしれないけれど、「10代の読者」がこれを知る意味は大きい。もちろん大人も知っておくべきだと思う。現代のニュースは、「今だけを切り取って欧米の視点から見た」ものに偏っている。これでは本質が分からない。

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2016年7月20日 (水)

朝日ジャーナル(週刊朝日臨時増刊)

出版社:朝日新聞出版
出版日:2016年7月7日発行(増刊)
評  価:☆☆☆(説明)

 朝日ジャーナルの緊急復刊号。先の参院選を前に「もう一度、みんなでこの社会の在り方を考えよう」ということで6月27日に発売された。つまり参院選に危機感を抱いてそれに間に合わせるために「緊急」に復刊したということだ。

 インタビューや対談に登場するのは錚々たる面々。池上彰さん、田原総一朗さん、久米宏さん、翁長雄志さん。国連特別報告者のデービッド・ケイさんの名前も見える。桜井よしこさん、花田紀凱といった右派の論客もいらっしゃる。他にも、雑誌の巻頭インタビューを飾ってもおかしくない方々もいる。

 内容は復刊の目的の通り、参院選をにらんで「三分の二」「改憲」「安倍内閣」「ジャーナリズム」への、危機感を訴えるものが多い。ただどれも穏便なトーンで、拳を振り上げるような激しさはない。桜井さんたちのインタビューは、明け透けに言うと、両論併記のために見える。

 本誌を多くの人に読んで欲しい。主張をキチンと伝えるには、このぐらいの分量の文章が必要だと思うからだ。もちろん、それは右派の主張でも同じだ。ネット上のものもテレビで伝えられるものも、一部だけ切り取られていたり、歪められていたりする。

 それと同時に、本誌によって右派の思想を持つ読者が、意見を改めるなんてことは起きないだろうとも思った。そもそも「朝日」を冠する雑誌の臨時号なんて買わないだろう。(「自分の考えに近いものしか目にしない」という状況が、分断を生んでいる、ということにはここでは深入りしない)

 林真理子さんの言葉に、目が開く思いがした。「定年退職したオジサンが右傾化する」理由として、「アプリで無料の産経を読むからだ」とおっしゃっていた。定年退職したオジサンがそうなら、「ニュースはほとんどネットで」という若者だって同じではないか。

 私にも思い当たることはあった。新聞記事を引用しよう検索すると、とにかく「産経ニュース」がたくさんリストアップされる。産経は無料で全文読めるけれど、他の新聞は会員登録が必要だ。コレってけっこう大変なことじゃないのかな?

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2016年1月16日 (土)

日本は本当に戦争する国になるのか?

著  者:池上彰
出版社:SBクリエイティブ
出版日:2015年12月15日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年の通常国会で可決、成立したいわゆる安保関連法について、私は「得ることがほとんどなく、懸念されることが大きい」という理由で、基本的に反対の意見を持っている。しかしもう一度整理をしてみようと思って本書を読んでみた。

 「戦争する国になるのか?」という、煽りの強いタイトルへの答えは、本書の中には出ていない。それはまだ「これからどうするのか」にかかっているからだろう。帯には「この国の未来を自分で判断するために」と書いてある。

 本書は「賛成派と反対派、噛み合わなかった議論」という序章から始まり、「憲法違反ってどういうこと?」「安保関連法っていったいなに?」という基本的な事項の整理に続く。そのあと「中国」「アメリカ」「反対運動」「戦後の安全保障政策」のそれぞれとの関係を解説する。コンパクトで過不足がない。

 判断は読者に預けるという主旨からか、著者の池上さんは、中立の立ち位置を取る。例えば「(安保関連法は)憲法違反ではないという立場の人」と「憲法違反だという反対派の人たち」の意見それぞれの問題点を指摘している。

 ただし「中立」と言っても、放送法の議論に出てくるような「両方の意見を同じ分量」などという本意からズレたものではない。安保関連法への賛成派、あるいは政府与党の問題点が圧倒的に多い。池上さんは「反対」とは言わないけれど「賛成していない」のは明らかだ。

 そんなわけで、もう一度整理をしてみても私の意見は変わらなかった。読まなくても同じだった、ということでは全くない。本書を読んで初めて知ったことは多い。憲法審査会のこと、関連法の11の法律のそれぞれのこと、日米安保条約のこと。勉強になった。

 最後に。池上さんも書いているけれど、昨年の安保関連法案の審議は、「憲法論議」と「安全保障論議」が、混乱した形で並行して進められた。このために「憲法」も「安全保障」も「あるべき姿」の議論ができていない。不幸だ。

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2015年7月19日 (日)

世界を変えた10冊の本

著  者:池上彰
出版社:文藝春秋
出版日:2011年8月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 友達に、「イチオシ」と薦められて読んでみた。これは読み応えがあった。

 1冊の本が「世界を変える」ことなんてあるのか?ある本との出会いが、誰かの人生を変えることはあるだろう。それは容易に想像できる。でも「世界」となると..というのが、読む前に感じたことだった。

 著者が選んだ10冊は次のとおり。「アンネの日記」「聖書」「コーラン」「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」「資本論」「イスラーム原理主義の「道しるべ」」「沈黙の春」「種の起源」「雇用、利子および貨幣の一般理論」「資本主義と自由」

 全部を読んだ方は非常に少数だと思う。全部を知っている方だって多くはないだろう。宗教に関するものと経済に関するものが多い。私は経済学を学んでいたことが幸いして「道しるべ」以外は知っていた。「資本論」と「雇用、利子および貨幣の一般理論」は読んだことがある。ただし「読み終える」だけの興味と忍耐は持ち合わせていなかった。

 「宗教と経済に関するものが多い」ことは何となく合点がいく。この2つは共に国、集団、個人などの各階層における「規範」に関わるからだ。様々な場面でどのような行動をとるか(とることが良いか)を、真の意味で自由に決定することは難しい。規範(ルール)が必要だ。ルールを定めたという意味で、これらは「世界を形作った」と言えるだろう。

 考えたことを2つ。一つ目は「聖書」と「コーラン」「道しるべ」について。「おとなの教養」にも書いてあったのだけれど、「聖書(旧約聖書と新約聖書)」と「コーラン」は、まったく別のものではなく、一続きのもの、イスラム教にとっても「聖書」は「経典」の1つなのだ。強いて説明をすれば「コーラン」は「聖書」の教えをより厳格にしたもの、「道しるべ」はそれをさらに「純化」したものらしい。

 いわゆるイスラム原理主義者は、「道しるべ」を規範としている。オサマ・ビンラディンもこの本の思想を信奉している。彼らが他の宗教、特にユダヤ教やキリスト教に対して不寛容に見えるのは、他の宗教が自分たちと違うからというよりは、教えを「正しく守っていない」と感じるからなのだろう。

 二つ目は「アンネの日記」。10冊の中でもとりわけポピュラーで読んだことのある方も多いだろう。それだけに却って「なぜこの本が?」と思ってしまう。しかしこの本には、欧米の人びとの心に楔を打ち、イスラエル建国を支えた力があるという。中東問題の不可解な点が少しほぐれた。

 読む前に感じた、1冊の本が「世界を変える」ことなんてあるのか?という疑問には答えが出た。実際にあったのだ。読んでみたいと思っても、この10冊のうち多くは読める(読み終える)気がしない。だからせめて、もう少しよく知りたいと思った。

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2015年7月 4日 (土)

メディアの仕組み

著  者:池上彰、津田大介
出版社:夜間飛行
出版日:2013年7月1日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 テレビのニュース解説特番には無くてはならない存在の池上彰さんと、ネットメディアでの活躍が目覚ましいジャーナリストの津田大介さんの対談。「メディアの仕組み」というタイトルだけれども、「仕組み」と聞いて思い浮かぶ、「ニュース番組では、まず記者が取材に行って..」という、チャートで表せるような「仕組み」は書かれていない。

 その代り本書に書かれているのは、「テレビにタブーはあるのか?」とか「新聞は生き残れるのか?」といった、日常で感じる疑問へのお二人の答え(津田さんが池上さんに聞いたり確かめたりする形が多いけれど)だ。二人のやり取りの向こうに「仕組み」が透けて見える。

 本書は5章構成で、第1章から順に「テレビの仕組み」「新聞の仕組み」「ネットの仕組み」「情報を世の中を動かす方法」「「伝える」力の育て方」。徐々に視線が将来へ向く、未来への展望が開ける。まとめ方も読者に優しく気が利いていると思う。

 随所に「Point」と書かれた黄色くマークされた部分がある。短いけれど的を射た言葉が多く、いくつも「あぁそうなのか」「なるほど」と思った。そのうちの2つだけを紹介する。

 1つ目は「もうこれからはメディア事業自体で稼ぐことは考えないで、不動産収入をどんどん増やしていけばいいんじゃないですか」というところ。

 民放とスポンサーの関係は、視聴者が思っているよりずっとゆるやかで、報道系の部署に人はスポンサーのことなんて一切考えないそうだ。ただそうは言っても..ということもある。TBSの「赤坂サカス」のように、別の事業で収益を上げる、というのは報道の独立性を担保するいいモデルかもしれない。

 2つ目は「「正しい情報」と「間違った情報」を瞬時に切り分ける能力ではなくて、「実は分かってないんじゃないか」という恐れを持つこと」という部分。

 これはメディア・リテラシーの話題の中で出てきた言葉。リテラシー不足が大変な惨禍を招くこともある。「自分は絶対に正しい」と思うのは危険だ。「自分の書いた本が売れても、自分は何にも変わらない」という、池上さんの言葉とともに覚え、謙虚であろうと思う。

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2015年6月17日 (水)

おとなの教養

著  者:池上彰
出版社:NHK出版
出版日:2014年4月10日 第1刷 2015年3月5日 第15刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 時々、著者のこの手の本を読みたくなる。例えばこれまでに読んだののは「知らないと恥をかく世界の大問題」「日本の選択 あなたはどちらを選びますか?」「ニッポンの大問題 池上流・情報分析のヒント44」。何かこう「知識の補充」をする感じ。

 本書のテーマはタイトルどおりで「おとなの教養」。西欧の「リベラルアーツ」の7科目「文法」「修辞学」「論理学」「算術」「幾何学」「天文学」「音楽」に倣って、本書も7つのテーマを据える。

 その7つは「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」。関係がありそうでなさそうな7つだけれど、実は1つのことが共通している。著者は、これらは全て「私たちはどこから来て、どこへ行くのか?」の答えにつながる、と考えているのだ。

 「宗教」と「歴史」の項目が面白かった。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教を並べて、これだけコンパクトにスッキリとまとめた文章を初めてみた。歴史というものの本質、中国や韓国と日本の関係のことが、すんなりと胸に落ちた。

 それから「経済学」も。恥ずかしながら私は、大学で経済学を学んだはずなのだけれど、「そういうことなのか!」と膝を打つことが数度あった。やはり「教養」が足りないなぁ、と思った。

 文部科学省が大学に出した「人文社会科学系学部の廃止や転換を促した」通知のことが報じられている。実は本書の冒頭には、そのことを見越したような部分がある。「教養」については、これまでにも政府・経済界と大学の間で綱引きがあったらしい。この文脈で見ると今回の通知の位置づけがよく分かる。

最後に印象的な言葉を。「すぐ役に立つことは、すぐに役に立たなくなる

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2014年4月13日 (日)

ニッポンの大問題 池上流・情報分析のヒント44

著  者:池上彰
出版社:文藝春秋
出版日:2014年3月20日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の池上さんは、何でも分かりやすく教えてくれる。経済・政治・時事・国際・宗教について「池上さんに教えてもらおう」式の本は、いったい何冊あるんだろう?と思う。かく言う私も教えてもらいたくなって、時々著者の本を手に取ることになる。

 振り返ってみると著者の本を読むのは、「大人になると、なぜ1年が短くなるのか?」という対談本から始まって「14歳からの世界金融危機。」「知らないと恥をかく世界の大問題」「日本の選択 あなたはどちらを選びますか?」ときて、これで5冊目だ。

 本書は、週刊文春に連載中のコラム「池上彰のそこからですか!?」の、2013年2月21日号から2014年1月30日号掲載分を、大幅に加筆、修正したもの。このコラムをまとめた新書は「池上彰の「ニュース、そこからですか!?」 」「池上彰のニュースから未来が見える 」に続いて3冊目になる。

 「ニッポンの大問題」「トウキョウの大問題」..以下「教育」「中国」「アメリカ」「世界のモメゴト」「新興国」とそれぞれ章を立てて、様々な角度からみた日本を取り巻く問題を解説する。アベノミクス、特定秘密保護法、東京都知事選、教育改革、尖閣問題、米国大統領選、北朝鮮、シリア...時事問題が次々と俎上に載せられる。

 書いてあることがスルスルと頭に入ってきて、心地よい気持ちさえする。それはとてもいいことなのだけれど、少し注意が必要かもと思った。著者の説明が分かりやすいことと、著者の意見が私の価値観に合っていることが、心地よさの理由。でも、分かりやすさは単純化の危険を免れないし、耳触りのよい話だけでは視野狭窄に....いやいや、これはひねくれ過ぎだ。素直に「いい本だった」と認めよう。

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2013年2月27日 (水)

日本の選択 あなたはどちらを選びますか?

著  者:池上彰
出版社:角川書店
出版日:2012年12月10日 初版発行 12月25日 再版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 複雑な問題を、丁寧に分かりやすく説明してくれる池上彰さんの近著。日本が抱える10個の問題の選択について解説している。書かれたのは昨年末の総選挙の直前、投票の前に本書を読んでいたら、1票の行き先が違った、という人もいるかもしれない。

 10個の問題とは、「消費税」「社会保障制度」「ものづくり」「領土問題」「日本維新の会」「大学の秋入学」「教育員会制度」「原発」「選挙制度」「震災がれき」。それぞれを、必要であればその起源まで遡って説明し、「賛成」「反対」などの「どちらを選びますか?」という選択を読者に促す。

 本書は一昨年の震災後まもなく出版された「先送りできない日本 」を受けて作られたもの。著者は本書の「おわりに」で、前書を「もう先送りなどできない状態のはず」と希望を込めて世の中に送り出したのに、「その後の状況に驚きを通り越して呆れることも多々」と、その心情を吐露している。

 「先送り」は事態をより困難にするばかり。政治家や官僚には期待できないと踏んだ著者が、私たち国民に「選択をすべきだ」と言っているわけだ。しかし著者は、丁寧に分かりやすく説明してくれるが、答えを示してはくれない。それを決めるのは、私たち一人一人。私たちも永らく「選択」せずに来てしまったらしい。

 最後に。池上彰さんは得難い人材だと思う。混迷の時代にこういう人が現れたことは幸運でさえある。ただ、テレビも活字メディアも池上さんに頼り過ぎのような気がする。今日もテレビで「巨大地震」をテーマに4時間スペシャルが組まれていた。

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2010年5月12日 (水)

知らないと恥をかく世界の大問題

著  者:池上彰
出版社:角川SSコミュニケーションズ
出版日:2009年11月25日 第1刷発行 2010年5月4日 第15刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 1年弱前に読んだ「14歳からの世界金融危機。」の著者の新書。書店で新書ランキングの上位になっていた。新書の場合は、売れている(という噂の)本がさらに売れる、という傾向があって、ランキングが中身の良し悪しを反映しないと思っているので、それだけであれば手を出さないのだけれど、「14歳からの~」が思いのほか良かった覚えがあったので読んでみた。

 内容は、世界の勢力地図、アメリカの覇権の崩壊とパワーシフト、世界の問題点、日本の問題点、と今の世界を網羅的に説明している。歴史的な流れを踏まえた考察やウラ話的なものも交えてあり、新聞記事より奥行きがある情報が得られる。
 「はじめに」で世界金融危機のことに触れ、「ブッシュ大統領以外の世界の指導者たちは、歴史に学んでいました」と書いているように、ブッシュ政権(あるいはブッシュ元大統領個人)には大変厳しい眼を向ける。今世界が抱えている問題のいくつかは、ブッシュ政権の失策が原因だとも読める。(「世の中の悪いこと全部が、自分たちのせいにされる。アメリカみたいだ」(伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」より)という言葉を思い出した。)
 その反動もあってか、日米の民主党に対しては肯定的な意見が多い。本書の発行は2009年11月、オバマ政権発足から10ヶ月、鳩山政権からはわずか2ヶ月だ。著者も、新政権には期待を持っていたのだろう。今なら、違うことを書かなくてはならないと思うが。

 「知らないと恥をかく~」というタイトルは、見栄っ張りのビジネスパーソンに効きそうな殺し文句。まぁ、知らなくても恥をかくことはないが、どこかで披露するとちょっと得意になれるような話題が詰まっているので、話のネタを仕入れるつもりで買うのなら760円の価値はあると思う。
 しかし「上っ面をなでました」というスカスカした印象はぬぐえない。本書の帯に「世界のニュースが2時間でわかる!」とある。「14歳からの世界金融危機。」は「45分で分かる!」というシリーズ。どちらも「お手軽さ」を謳ったことは共通だが、テーマを世界金融危機1つに絞った45分は意外に充実したものだったが、いくつもの問題を扱っての2時間ではそれはムリだった、ということだ。私としては、年金や教育や地方分権など、本書で取り上げた「日本の問題」について、著者の意見をもう少しじっくりと聞いてみたい。

 それにしても著者のテレビでの人気ぶりはスゴイ。調べてみたら、古巣のNHKを除いて在京キー局のすべてが、今年になってからバラエティ番組などで、ニュース解説に著者を起用している。テレビ局は「ニュースを国民に分かりやすく伝える」という機能を、自前では賄えなくなっているのかもしれない。

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