6.経済・実用書

2017年6月15日 (木)

「超」入門 失敗の本質

著  者:鈴木博毅
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2012年4月5日 第1刷 2012年7月1日 電子版 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 名著と言われる「失敗の本質」を解説した本。「失敗の本質」を、戦略論であり「日本人特有の文化論」でもあると捉えて、そこから抽出した「エッセンス(日本語に訳すと「本質」。つまり「失敗の本質」の本質)」を、今日的な事例も使って分かりやすく説明してある。

 抽出されたエッセンスは全部で23個。それを「戦略性」「思考法」「イノベーション」「型の伝承」「組織運営」「リーダーシップ」「日本的メンタリティ」の7つに分類して、それぞれに一章を割り当てて「失敗しないための処方箋」を描く。

 例えば第一章のタイトルは「なぜ「戦略」が曖昧なのか?」。著者は、「失敗の本質」を読んで最初に感じる点として、「日本軍の戦略があまりに曖昧だった」と言う。そして「目標達成につながらない「勝利」が多い」ことを指摘する。個々の戦闘、戦術では秀でた点もあって、勝利することも多いのだけれど、それが「戦争の勝利」につながらない。

 その原因は、グランドデザインがないこと、そのために目指すべき「指標」が間違っていること、とする。日本軍で言えば「戦争の勝利」をどのように描いていたのか不明だ。「どこかの戦場で大勝利すれば勝敗が決まる」という「決戦戦争」思想があったようだけれど、勇ましいだけで曖昧さは免れない。

 これを著者は現代的な事例に当てはめて見せる。例えば、インテルはマイクロプロセッサの事業展開にあたって「活用しやすさ」を指標と定め、マザーボードを開発した。日本企業を含む他の企業は「処理速度」を指標にして高速化を競った。市場シェアを見ると、どちらの指標が事業の成功につながったかは明らかだ。

 このような感じでとてもよく分かりやすい。「失敗の本質」を読んで、ここまで読み取れる人はそうはいないだろう。むしろ「失敗の本質」にはここまで書かれていない。上に「(失敗の本質」の)エッセンスを、今日的な事例も使って..」と書いたが、実体としては「今日的な事例を、(「失敗の本質」の)エッセンスを使って」分かりやすく説明した本だ。

 つまり主客が転倒しているのだけれど、これでいいのだ。実際のところ私たちにとって大事なのは、今日的な事例の方であり、それを今後の自分の判断に生かすことだから。 

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2017年5月24日 (水)

好調を続ける企業の経営者はいま、何を考えているのか?

著  者:鈴木博毅
出版社:秀和システム
出版日:2017年4月25日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書は、著者が8つの超成長企業の経営者にしたインタビューをまとめたもの。「超成長企業」の意味するところは、過去5年間に売上高が2~5倍、経常利益についても同水準で増加している「一部上場企業」だ。一時期よりは持ち直してはいくけれど、まだまだ経営環境は厳しい。その中で伸び続けている企業には「何かがあるはず」、それを聞き出そうという意図だろう。

 その8社は具体的には「ユーグレナ」「ディップ」「ファンコミュニケーションズ」「朝日インテック」「LIFULL」「イーブックイニシアティブジャパン」「日本M&Aセンター」「オプティム」の8社。「一部上場」というと「有名企業」というイメージがあったけれど、浅学の私は半分以上知らなかった。

 8社のすべての社長さんのお話がどれもとても刺激的だ。特に最初の「ユーグレナ」の出雲社長の話が心に残っている。社長は、ミドリムシの食用屋外大量培養に成功し、同社はその多様な商品開発を行っている。事業化のパートナーを探して500社に断られた話、エネルギー問題への取組、「世界をよい方向に変える」という理念。

 本書が魅力的なのは、「超成長企業」の社長の話の魅力に負うところが多い。ただ、それだけでは「成功事例」を集めただけになってしまう。著者は「新業態を打ち出す」「業態を変更する」という、2種類の「業態変革」を切り口にして、各社の分析を試みている。それも示唆に富んでいいと思う。

 実は私は少しだけれど株式投資をやる。基本的には東証一部の企業しか買わない(それなのに「半分以上知らなかった」のだから、恥ずかしい限りだ)。これからは、ここに載っている会社にも注目しておこうと思う。(※本書では全社が「一部上場企業」のように読めるけれど、調べてみると1社は二部のようだ) 

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2017年4月 2日 (日)

言葉にできるは武器になる。

著  者:梅田悟司
出版社:日本経済新聞出版社
出版日:2016年8月25日 1版1刷 10月17日 5刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日本経済新聞出版社さまから献本いただきました。感謝。半年ぐらい前にいただいたのに、紹介が今日になってしまいました。陳謝。

 著者は電通の現役のコピーライター。コーヒーのジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」が著者の手になる作品。「言葉」それも「伝えるための言葉」のプロフェッショナルということだ。

 プロフィールからは「プロが教える言葉のテクニック」的なものを想像する。そういうすぐに使えそうな技も紹介している。「比喩・擬人」とか「反復」とか「対句」とか..。ただし分量的には後半の4割ほどで、前半ではもう少し奥深いコピーライティングのコーチが受けられる。

 「言葉には2種類ある」と著者は言う。「外に向かう言葉」と「内なる言葉」。前者はコミュニケーションツールとしての言葉。「すぐに使えそうな技」はこれを気の利いたものにする。後者は思考するときに使っている言葉。私たちは、言葉で考え、納得のできる答えを言葉で探す。著者は後者の方が大事だと言う。

 「言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要がある」「言葉にできないということは「言葉にできるほどには、考えられていない」ということ」。正論だ。日々言葉のテクニックで勝負しているコピーライターだからこそたどり着いた、実体としての重さを感じる正論だ。

 もちろん正論だけ言われても、また心構えだけ言われても、どうしようもない。でも安心してほしい。前半の6割はこの「内なる言葉」との向き合い方を、色々な視点から説いて、そのための思考プロセスの様々な方法を紹介している。

 最後に。著者は、自分が抱えている具体的な課題を想定して、本書を読むように促す。実は今、私はそのような課題を抱えている。半年も本棚に収まったままだった本書を、今回、何気なく手に取ったのは、たぶん本が呼んでくれたのだと思う。そういうことが時々ある。

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2017年1月22日 (日)

ライフ・シフト

著  者:リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 訳:池村千秋
出版社:東洋経済新報社
出版日:2016年11月3日 第1刷発行 11月29日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の一人のリンダ・グラットンさんは、前著「ワーク・シフト」で「2025年の働き方」を展望して見せた。テクノロジーやグローバル化などの要因が変化する中で、必要とされる「仕事」に関する考え方の「転換(シフト)」を考察したものだった。本書は、その考察をさらに広げて「人生」に関する考え方の「転換」をテーマとしたものだ。

 内容の紹介の前に2つ質問。その1「「人生」と聞いて何年ぐらいのものを思い浮かべますか?」。その2「仕事をリタイアするとして、何歳ぐらいを想定していますか?」。その1の答えは「80年ぐらい?」、その2は「65~70歳ぐらいまでにはなんとか..」と、私は思っていた。みなさんはどうだろう?

 厚労省の発表によると、日本の平成27年の平均寿命(ゼロ歳の平均余命)は男性が80.79年、女性は87.05年。年金受給開始年齢は65歳で、70歳への引き上げが取りざたされている。だから、私が思っていたことも、大きく間違えていないはず。

 本書の内容の紹介。序章に衝撃的な計算結果が載っている。それはある年に生まれた人が50%に減る年齢。2007年生まれの人は104歳、1997年生まれは101~102歳、1987年生まれは98~100歳...1957年でも89~94歳。ちなみにこれは「先進国」の値で、日本ではさらに3歳程度プラスされる。要するに今後は、半分の人は100歳まで生きる「100年ライフ」の世界になる、ということだ。私が思っていたこととはかなり違う。

 これを元に本書は「人生の組み立て」を考察する。これまでは「教育」「仕事」「引退」という3つステージで分けて、人生は組み立てられてきた。「100年ライフ」では、この3ステージのモデルでは無理がある、というのが本書の考察の基礎にある。

 例えば、これまでどおり65歳ぐらいで「引退」のステージに移ると、35年とか40年の長さになる。そんな長期間の経済負担に現役の時に備えるのは無理だ。また、引退年齢を思い切って80歳に引き上げると「仕事」のステージが60年近くなってしまう。様々なものの進歩の速さを思うと、そんな長期間有用な知識やスキルを、最初の「教育」のステージだけでは培えない。

 「ならばどうするか?」本書は、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーン、の3人を登場させ、それぞれの人生として「あるべき姿」を描き出す工夫をしている。これが参考にはなる。キーワードは「レクリエーション(娯楽)からリ・クリエーション(再創造)へ」

 しかし「理想的なロールモデル」が存在しない、ということも「100年ライフ」の特徴なので、自分の人生は自分で考えるしかない。備えておく必要があるのは確かなようだ。

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2016年10月26日 (水)

大人の経済常識

著  者:トキオ・ナレッジ
出版社:宝島社
出版日:2015年10月24日 第1刷 2016年2月29日 第2刷発行
評  価:☆☆(説明)

 行動経済学を中心として、経済学の用語を多数、身近な例を使って紹介した本。「予想どおりに不合理」「経済は感情で動く はじめての行動経済学」と同じジャンル。

 伝統的な経済学は「人は常に合理的な行動をする」ことを前提にしている。それに対して行動経済学は「合理的な行動をしない」生身の人間の行動を研究対象にしている、比較的新しい(ここ20年ぐらい)学術分野だ。「人間の不合理な行動」の例が豊富だから「あるある感」があって、小ネタに重宝する。

 本書もその「重宝さ」を狙ったものだ。様々な例を、キーワードとして関係のある理論の名称とともに、短く2~4ページでまとめている。プロスペクト理論、ハロー効果、フレーミング効果、アンカリング効果、サンクコスト..。「誰かに話したくなる」ネタがたくさん身につく。

 それから「限定」とか「○○も認めた!」とかの広告に弱い人や、なぜか無駄なものを買ってしまう人がいたら、読んだらいいかもしれない。「これ、私のことだ!」という例を見つけて、お店にカモられていたことに気付くかもしれない。

 ちょっと気になったこともある。説明が不正確だったり、的外れだったりすると感じる部分がいくつかあった。例えば「フレーミング効果の好例」として、食品メーカーのキャッチコピーが挙げられていたけれど、例として適切ではない、もっと言えばほぼ関係ないと思う。もちろん私は、この分野の専門家ではないので判定はできないし、異論もあると思うけれど。

 それでさらに、著者はどんな人なのか気になった。プロフィールを見ると「...雑談ユニット。弁護士、放送作家、大手メーカー工場長...で構成される」ここに書かれている限りでは、行動経済学の専門家はいないらしい。そういうことか。ネタを仕入れたいだけの人はいいけれど、しっかり勉強したい人は違う本を選んだ方がいいと思う。

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2016年7月31日 (日)

コンセプトのつくり方

著  者:山田壮夫
出版社:朝日新聞出版
出版日:2016年3月30日 第1刷発行 5月30日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は電通のクリエーティブ・ディレクター。広告キャンペーンのほか、テレビ番組や店舗の開発から経営戦略の策定まで手掛ける。その著者がイノベーションを起こす「コンセプト」のつくり方、方法論を説く。

 「はじめに」の冒頭がいい。

 「でさぁ..それってデータで証明されているの?」誰かが現状を打破するために頑張っている時、こんな正論ばかり振りかざす「批評家」ってホント腹が立ちますよね。過去の情報をどれだけ客観的にいじくりまわしたって「その手があったか!」という突破口なんて見つかるわけもないのに、なぜかきょうも彼らは大威張りです。

 何か議論をするとき、企画を考えるときに、「データ」をベースにすることの重要性は否定しない。ただ、最近はそれが行き過ぎているように思う。データが揃っていない主張を「感情的」と言って切り捨ててしまう。上に書いた「はじめに」は、そんな風潮に対するアンチテーゼになっている。

 データをベースにした「客観的・論理的思考」は、「正解」が用意されている課題の解決にはとても有効だろう。しかし、世の中の課題にそんな「正解」があることは稀だ。そうなると、論理的にどれだけ考えても「正解」に辿り着かない。

 そこで、著者が重視するのは、主観的な経験や直感までも駆使する、いわば「身体的思考」。本書にはその方法論が書かれている。例えば「感じる」「散らかす」「発見!」「磨く」の順番を繰り返す「ぐるぐる思考」

 もちろんこれで「身体的思考」が、一朝一夕にできるようにはならない。しかし、この方法論はトレーニング法でもあって、繰り返し使っていると「身体的思考」が身につく、そんな確信めいたものを感じる。

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2016年5月25日 (水)

僕の仕事はYouTube

著  者:HIKAKIN
出版社:主婦と生活社
出版日:2013年7月29日 第1刷 2014年5月16日 第9刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 少し前に「小学生男子に将来の夢で「ユーチューバー」が3位に入った」というニュースが流れた。小学生に「ユーチューバーという職業」を浸透させた一番の人物は、本書の著者のHIKAKINさんで間違いないだろう。私は仕事で小学生と話すことがあるのだけれど、「ヒカキン」の話題を何度も聞いたことがある。

 帯によると、著者はYouTubeで「総登録者数356万人」「総再生回数7億5千万回超」という、日本一のユーチューバーだそうだ。本書はその著者が「日本一のユーチューバーになるまで」「アクセスUPの秘訣」「成功の陰の落とし穴」などを記したもの。

 著者の動画を見た印象が「お調子者」という感じだったので、読む前は、本書も「調子がいい割に中身のないハウツー本」かと思った。読み終わって思うのは「そんなに悪くない」という感想だった。

 「お調子者」なのはウケルための演技か、そうでなければ著者の一面に過ぎないのだろう。読者のために真面目に書かれたものだし、「秘訣」は実践的でもある。編集者が手を入れているとしても、これだけ物事を整理して書けるのは、ひとつの才能だと思う。

 「ユーチューバーになりたい」という小学生は、本書を読めばいいかもしれない。ただし、それは「ユーチューバーになるのは簡単じゃない」と知るためだ。今の著者があるのは、努力と集中力と忍耐力の結果だと分かるためだ。

 ユーチューバーを目指して読むのなら、都合のいいところだけ都合よく読むのではなくて「自分はHIKAKINと同じようにできるだろうか?」と自問しながら読んで欲しい。そういう読み方ができないのなら、読まない方がいい。そういう人(大人も含めて)には危険な本だと思う。

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2015年11月25日 (水)

京大式 おもろい勉強法

著  者:山極寿一
出版社:朝日新聞出版社
出版日:2015年11月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、京都大学理学部卒業、同大学院、助手、助教授、教授を経て、昨年10月に京都大学総長に就任。研究者としての道を一貫して京都大学で歩んでこられた。その著者が記した「京大式 おもろい勉強法」

 タイトルから想像される本書の内容は、「自由」と形容されることの多い校風の元の「実践力を付けるための授業やゼミのあり方」「研究ノートの取り方」などなど、だろう。そして本書にはそういうことは、まったく書かれていない

 本書には、ゴリラ研究者としての著者の半生が綴られている。それによって大事なことを伝えようとしている。タイトルから想像するような、「効率よく知識が身につけられる」的なお手軽な勉強法より、幅広い層、幅広い年代に役に立つ。ゴリラと比較することで、人間のことが良く分かる。

 書き起こされた著者の半生は、1978年に大学院生の時に、コンゴ民主共和国(当時のザイール)から始まる。一人で行って、一人で調査許可を得て、一人で交渉する。並外れてタフでなければできない。「タフ」という意味では「ゴリラ研究のフィールドワーク」自体が想像を絶する。

 ゴリラに慣れてもらうために「餌付け」ならぬ「人付け」というのをするそうだ。簡単に言うと、ゴリラがその存在を気にしなくなるまで、そこに居続けること。咆哮で脅されたり、突進を受けることもある。ゴリラが草を食べれば自分も食べる、昼寝をしたら自分も寝転ぶ、なんて方法を取った研究者もいるそうだ。

 私には絶対にできない。同じことをしようと考えると、そんな諦めの気持ちになってしまう。でも、もちろん同じことをする必要はない。著者もそんなつもりはないだろう。本書からはたくさんのことを教わった。

 借り物ではない「自分の考え」を持つこと、「勝つか負けるか」という単純な解決策しかないと思うことが問題であること、「時間」こそが「信頼」に必要であること、「共にいる」ことが「幸福」につながること、「食事を一緒に食べる」ことに特別な意味があること。

 「それ、おもろいな」。これがキーワード。 

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2015年11月15日 (日)

最強のリーダー育成書 君主論

著  者:鈴木博毅
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年10月30日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書はマキアヴェリの「君主論」を読み解いて、そのエッセンスを現代のリーダー育成のためのテキストに編み直そうというもの。念のため補足すると、マキアヴェリは15~16世紀のイタリアの政治思想家。「君主論」はそれまでの様々な君主・君主国を分析した著作。

 マキアヴェリズムと言えば「目的のためには手段を選ばない」という主義のことで、「君主論」はその由来にもなっている。そのような冷徹さは「君主論」の一側面を表しているがすべてではない。約500年前の著作が、今でもこうして読み継がれているのだから、読む人を惹きつけるものが他にあるのだろう。

 そして本書について。「ケチであれ 冷酷であれ 自ら仕掛けよ」「力を求め、力を愛せ」「悪を学んで正義を行え」「誇り高き鋼の精神を養う」「運も人も正しく支配する」の5章建て。テーマに合わせて君主論の中の一節を、現代にアレンジして解説する。

 読んでいて戸惑いを感じた。マキアヴェリの分析が多岐にわたるから仕方ないのかもしれないけれど、項目が多くて散漫な感じがした。中には「軽蔑されるな」とか「決断と責任から逃げる者は君主ではない」とか、「当たり前」のことも少なくない。

 また「君主論」が念頭に置いているのは中世の君主、軍事力で侵略から国を守る(場合によっては領土を拡大する)立場の者だ。現代の「リーダー」とのギャップは相当に大きい。だからこそ著者が「アレンジ」して解説するのだけれど、会社の社長ぐらいならまだしも、部下を持つ上司に当てはめるのは難しい。その果ては、家庭とか恋人との関係まで例えとして出てくる。

 とは言え「君主論」は、上に書いたように500年も読み継がれ、今もトップリーダーたちに影響を与えているらしい。その内容が気になる方は、本書を手に取ってみてもいいかもしれない。 

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2015年11月 1日 (日)

ヤフーとその仲間たちのすごい研修

著  者:篠原匡
出版社:日経BP社
出版日:2015年7月21日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本していただきました。感謝。

 本書はヤフー株式会社の人事本部長である本間浩輔氏が仕掛けた、人材育成研修の様子を記録したもの。この研修は「次世代のリーダーの育成」を目的としたもので、ヤフーだけでなく、アサヒビール、日本郵便、インテリジェンス、電通北海道といった多様な企業の幹部・リーダー候補生が参加する異業種コラボレーション研修だ。

 研修テーマは「北海道美瑛町の地域課題の解決」。数人からなるAからFまで6つのチームに分かれ、それぞれには美瑛町役場の職員も参加する。6か月で5回のセッション、全12日。その間に「効果的かつ美瑛町で実現が可能な」解決策を練り上げて提案しなくてはいけない。参加者にとってはハードルの高い研修と言える。

 期間中には様々な問題が起きる。それでも、受講者と運営サイドが持てる能力を注いで研修を前に進める。その様子と最終的な提案の内容が、要領よく描かれている。読み物としても面白い。研修を進めるためのノウハウも興味深い。

 思ったこと。求めらるのはやはり「課題解決力」なのだな、ということ。「やはり」というのは、これは私が20数年来意識してきたことだからだ。「何か起きた時にそれをどうにか解決する力」。物事を前に進めるにはそういった力が必要だ。

 しかし、それだけでは足りない。企業も地域社会も、もちろんもっと大きなくくりでも、分かりやすい「課題」を解決するだけでは立ち行かなくなっているからだ。「課題の設定」自体も難しくなっている。解決にはブレイクスルーが必要なこともある。

 そこで重要なキーワードが「ダイバーシティ」。「多様性」と訳される。この研修が異業種コラボレーションで行われたのには、多様性を確保するためらしい。「女性や外国人が入りました」というような単純なことではなく、価値観の違う「合わない人」との議論、言って見れば「摩擦」からしか得られないことがある、という。..これは大変な時代になった。 

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