6.経済・実用書

2017年11月25日 (土)

ソニー歴代トップのスピーチライターが教える人を動かすスピーチの法則

著  者:佐々木繁範
出版社:日経BP社
出版日:2017年10月17日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者はソニーの盛田昭夫会長と出井伸之社長のもとでスピーチライターを務めていた方。ソニー退社後は、コンサルタントとして、スピーチ講座や個別のコンサルティング通じて、延べ1万人以上のビジネスリーダーを指導したそうだ。

 本書は、その著者が「スピーチ上達のための12か条」を教えてくれるものだ。1か条につき1章、全部で12章で構成されている。例えば「メッセージを明確にする」「主張には理由を添える」「スピーチの構造をシンプルにする」「ストーリーを織り込む」等々。

 ノウハウを記したこうした本の常として、12か条として提示されたものに、あっと驚くような目新しいものはあまりない。私がそれなりに経験を積んできたからでもあるし、そもそも本当の意味での「秘訣」なんてそうそうないからだ。

 だからと言って、本書に価値がないかというと決してそうではない。ノウハウというのは、整理されてこそ「使える」ものになる。いくつかの項目がバラバラの状態では、自分のスピーチがいいのか悪いのかの検証も難しい。その点、こんな風に整理されていると、とても使いやすい。

 もう一つ。先に「目新しいものは「あまり」ない」と書いたけれど、実は私にとって目新しいものがあった。それは第6章の「自己開示する」という項目。「一般論ではなく経験談を」ということで、著者自身の経験談も載っているのだけれど、これで本当に具体的によく分かった。

 人の心をつかむか否かには、属人的な要素も重要なのだ。「何を話すか」と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に「誰が話しているか」に意味がある。「私という人を分かってもらうことで、物事が進みだした」そういう経験が私にもある。

 最後に。「スピーチ」なんて自分にはする機会がない、という人も多いだろう。でも、この12か条は「人に何かを伝える」時に役に立つ。プレゼンをするとき、あいさつ文を書くとき、人に何かを頼むとき。興味がわいた方は一読を。

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2017年11月22日 (水)

アベノミクスによろしく

著  者:明石順平
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2017年10月11日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 アベノミクスの成果について、政府や国際機関が公表しているデータを基に、客観的に検証した本。タイトルはマンガの「ブラックジャックによろしく」をもじったものだけれど、アベノミクスを推進・擁護してきた人たちに「まともな経済政策をよろしくお願いします」という意味も込められている。

 本書の内容の前に。先の総選挙の際に自民党は「データで見る!アベノミクスの5年間の実績」を公表、その成果を喧伝してみせた。「名目GDP過去最高」「家計の可処分所得2年連続で増加」「正社員有効求人倍率初の1倍超え」等々。

 こうした情報が大量に投下されたことと、株高でもあることから「(安倍政権には問題はあっても)アベノミクスは成果を出している」という空気が醸されている。「野党よりマシ」という意見にもつながる。本書はそれを真っ向から否定してみせたものだ。感情論ではなく客観的なデータを使って。

 例えば「家計の可処分所得2年連続で増加」と、家計は潤っているように見える。しかし実質賃金指数は、2015年が「この22年で最低」だ。その影響で消費が落ち込み、実質民間最終支出は、2014年、2015年と「2年連続の下落」これは「戦後初めてのこと」。状況は、アベノミクスの前と比較しても極めて悪い。

 また、有効求人倍率のことも株高のことも、きっちり反証する。「名目GDP過去最高」に至っては「かさ上げ疑惑」まで指摘する。さらにアベノミクスの副作用について寒気がするような指摘が続く。正直に言って「(本書の指摘が)ウソであってくれたらいいのに」と思うほどだ。

 本書は今の日本に必要な本だと思う。たくさんの人に読んでもらいたい。特にアベノミクスを肯定的に評価している人に読んでもらって、可能なら反論を聞きたいと思う。

 ※著者は親切にも本書のダイジェストをウェブで公開している。興味を持った方は、まずはこちらをご覧になるといいと思う。 本書のダイジェストのページ

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2017年9月30日 (土)

苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール

著  者:嶋田有孝
出版社:日本実業出版社
出版日:2017年9月10日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の嶋田有孝さまから献本いただきました。感謝。

 著者の嶋田さんは、日経サービスというビル管理などの事業を行う会社の社長を務めておられる(ちなみに、日本経済新聞社の日経グループとは関係ない)。本書のタイトルにある「中小企業」とはこの会社で、「オヤジ」とは著者が入社した当時の会長で、「新人のボク」は著者自身だ。本書は今から30年近く前の、著者と会長のエピソードが23編つづられている。

 会社は当時、大阪の東心斎橋にあって、年商28億円。創業者は会長で、どいうわけか社長を兼ねていた。つまり会長は「大阪の中小企業の創業社長」。ステレオタイプで人を決めつけてはいけないが、本書を読めば、会長がこの「大阪の~」で思い浮かべるイメージ通りの人だと分かる。

 最初の出会いのエピソードがこう始まる。

 「おい、そこのメガネ」「何キョロキョロしとんねん。お前や」

 これが入社初日の昼休みのこと。それで会長が著者を呼んだ用件というのが「バナナこ買うてきてくれ」だった。

 この後も「アホ」「ボケ」「帰れ」と罵倒されたりもして、今の時代なら完全にパワハラ。いや今の時代でなくったって当時でも問題だろう。しかも時代はバブル景気真っ最中で、有名私大を卒業している著者なら、探せば他に就職先は見つかっただろう。でも、そうしなかった。その理由も本書を読めば分かる。

 会長は社員一人ひとりの適性や人間性を見抜いて、育てるために絶妙な塩梅で厳しくしている。そして社員たちにもそれが分かる。だから罵倒されても辞めないのだ。厳しさは、社員をとても大事にしている裏返しだ。それは、必ずしも優秀な人材を採用できるわけではない、中小企業の経営者としての冷静な判断でもある。本書は面白くてタメになる。

 最後に。何度も登場するセリフがある。「お前ならきっとできる」。こんなことを真正面から言う上司なんてなかなかいないと思う。言われたらグッとくるだろう。 

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2017年9月23日 (土)

正しい本の読み方

著  者:橋爪大三郎
出版社:講談社
出版日:2017年9月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 この本の一部分がネットで公開されていて、それを読んで興味が湧いたので購入して読んでみた。

 本書の構成は8つの章に分かれていて、「なぜ本を読むのか」「どんな本を選べばよいのか」という、「本を読む」の前段階のことから始まって、「どのように本を読めばよいのか」を経て、「何を学べばよいのか」「どのように覚えればよいのか」「なんの役に立つか」と続く。

 そしてそれでは終わらず、さらに「どのようにものごとを考えればよいのか」「情報があふれる現代で、学ぶとはどういうことか」と、かなり大きなテーマへと発展する。著者が考える「正しい本の読み方」は、ただ単に「本を読む」という行為だけでなく、その前後の知的活動全体を包含しているわけだ。

 私がネットで読んだのは「どのように本を読めば良いのか」の部分で、先の言い方では「ただ単に「本を読む」という行為」に当たる。なかなか共感することが多かった(だから購入したのだけれど)。例えば「すなおに読む」。感情や予断を排して読む、ということ。

 好きとか嫌いとか、賛成とか反対とか、そういう感情からはなかなか免れえない。だから読み終わってからなら感じてもいい。でも、読んでいる最中にそう思ってしまうと、予断が生まれる。著者が伝えたいことをくみ取れなくなる。「あぁ確かにそうだ」と思う。楽しむための読書なら「好き」ならいいけど「嫌い」と思いながら読んだのでは、ますます気に入らなくなるだけだ。

 一つ、私の一方的な思い違いがあった。特に意識せずに、私は小説などの文芸書を念頭に置いていたけれど、著者は学術書や哲学書、思想などを中心にしていた。文芸書に言及する時には「文芸書では」という断り書きが入る。だから論理とか定義とか前提とか構造とか、論理学的な視点からの解説が多い。ちょっと私と著者の間の「すれ違い」を感じた。

 著者の経歴を見れば「すれ違い」が予想できたかもしれない。東京工業大学名誉教授。著書に「はじめての構造主義」。哲学に造詣が深いらしく、例としてあがる著者が、マルクスとかサミュエルソンとかヘーゲルとか。文芸書では..であがるのはドストエフスキーとか。 

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2017年9月10日 (日)

会社でやる気を出してはいけない

著  者:スーザン・ファウラー 訳:遠藤康子
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2017年6月10日  初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 発行所のマルコ社さまから献本いただきました。感謝。

 最初に。いただいた本に対して申し訳ないけれど、タイトルの「会社でやる気を出してはいけない」は、本書の内容をまったく表していない。昨今は、内容が希薄な本を、センセーショナルなタイトルで売ろうとするケースが散見される。腹立たしいけれど、それは分からなくもない。普通に売って売れないのだから。しかし本書の場合は、内容は確かなものなので、こんなタイトルの付け方は逆効果だと思う。残念だ。

 本書のテーマは、リーダーによるモチベーションマネジメント。平たく言えば「どうすれば、自分のグループがヤル気に満ちた集団になれるか」ということ。著者はこれを「モチベーション・スペクトラム・モデル」というものを用いて、とても分かりやすく解説している。

 「モチベーションを引き出す」ということであれば、目標管理や競争を取り入れて、成果を出した人にはボーナスや昇給・昇進といった報酬を与える、こんなところがスタンダードなものかと思う。ただ、著者はこういう「アメとムチ」式の方法は、「モチベーションを引き出すファーストフード」と呼んで否定する。「おいしい(魅力的だ)し、その時は満足する(成果がでる)けれど、長期的には健康を害する(組織が停滞する)」

 そこで登場するのが「モチベーション・スペクトラム・モデル」。モチベーションの種類を「無関心」「外発的」「義務的」「協調的」「統合的」「内在的」の6つに分類する。そして概ねこの順番に推移する、とする。モチベーションの「ある/なし」ではなく、「どのようなモチベーションか」に注目する。

 「会議に出席するモチベーション」で例えるとこうなる。「無関心」は「何の意義も見出せない」、「外発的」は「昇給やイメージアップに役立つから」、「義務的」は「全員が出席することになっているから」、「協調的」は「お互いに得るものがあるから」、「統合的」は「会社や仕事の目的に適うから」、「内在的」は「楽しいから」。

 そして「義務的」までを「後ろ向き」、「協調的」以降を「前向き」のモチベーションと位置付ける。ここまでは単に分析と分類なので、実践的にはあまり役に立たない。本書のキモは、「後ろ向き」の人を、どうしたら「前向き」に移行できるか?を詳述していることにある。これは役に立つ。

 私は、人数が10人に満たない小さな組織だけれど、その責任者をしている。当然、メンバーのモチベーションについて考える。これまで「ファストフード」以外のことは実践はおろか思いつきもしなかった。いい本に出会ったと思う。 

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2017年6月15日 (木)

「超」入門 失敗の本質

著  者:鈴木博毅
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2012年4月5日 第1刷 2012年7月1日 電子版 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 名著と言われる「失敗の本質」を解説した本。「失敗の本質」を、戦略論であり「日本人特有の文化論」でもあると捉えて、そこから抽出した「エッセンス(日本語に訳すと「本質」。つまり「失敗の本質」の本質)」を、今日的な事例も使って分かりやすく説明してある。

 抽出されたエッセンスは全部で23個。それを「戦略性」「思考法」「イノベーション」「型の伝承」「組織運営」「リーダーシップ」「日本的メンタリティ」の7つに分類して、それぞれに一章を割り当てて「失敗しないための処方箋」を描く。

 例えば第一章のタイトルは「なぜ「戦略」が曖昧なのか?」。著者は、「失敗の本質」を読んで最初に感じる点として、「日本軍の戦略があまりに曖昧だった」と言う。そして「目標達成につながらない「勝利」が多い」ことを指摘する。個々の戦闘、戦術では秀でた点もあって、勝利することも多いのだけれど、それが「戦争の勝利」につながらない。

 その原因は、グランドデザインがないこと、そのために目指すべき「指標」が間違っていること、とする。日本軍で言えば「戦争の勝利」をどのように描いていたのか不明だ。「どこかの戦場で大勝利すれば勝敗が決まる」という「決戦戦争」思想があったようだけれど、勇ましいだけで曖昧さは免れない。

 これを著者は現代的な事例に当てはめて見せる。例えば、インテルはマイクロプロセッサの事業展開にあたって「活用しやすさ」を指標と定め、マザーボードを開発した。日本企業を含む他の企業は「処理速度」を指標にして高速化を競った。市場シェアを見ると、どちらの指標が事業の成功につながったかは明らかだ。

 このような感じでとてもよく分かりやすい。「失敗の本質」を読んで、ここまで読み取れる人はそうはいないだろう。むしろ「失敗の本質」にはここまで書かれていない。上に「(失敗の本質」の)エッセンスを、今日的な事例も使って..」と書いたが、実体としては「今日的な事例を、(「失敗の本質」の)エッセンスを使って」分かりやすく説明した本だ。

 つまり主客が転倒しているのだけれど、これでいいのだ。実際のところ私たちにとって大事なのは、今日的な事例の方であり、それを今後の自分の判断に生かすことだから。 

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2017年5月24日 (水)

好調を続ける企業の経営者はいま、何を考えているのか?

著  者:鈴木博毅
出版社:秀和システム
出版日:2017年4月25日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書は、著者が8つの超成長企業の経営者にしたインタビューをまとめたもの。「超成長企業」の意味するところは、過去5年間に売上高が2~5倍、経常利益についても同水準で増加している「一部上場企業」だ。一時期よりは持ち直してはいくけれど、まだまだ経営環境は厳しい。その中で伸び続けている企業には「何かがあるはず」、それを聞き出そうという意図だろう。

 その8社は具体的には「ユーグレナ」「ディップ」「ファンコミュニケーションズ」「朝日インテック」「LIFULL」「イーブックイニシアティブジャパン」「日本M&Aセンター」「オプティム」の8社。「一部上場」というと「有名企業」というイメージがあったけれど、浅学の私は半分以上知らなかった。

 8社のすべての社長さんのお話がどれもとても刺激的だ。特に最初の「ユーグレナ」の出雲社長の話が心に残っている。社長は、ミドリムシの食用屋外大量培養に成功し、同社はその多様な商品開発を行っている。事業化のパートナーを探して500社に断られた話、エネルギー問題への取組、「世界をよい方向に変える」という理念。

 本書が魅力的なのは、「超成長企業」の社長の話の魅力に負うところが多い。ただ、それだけでは「成功事例」を集めただけになってしまう。著者は「新業態を打ち出す」「業態を変更する」という、2種類の「業態変革」を切り口にして、各社の分析を試みている。それも示唆に富んでいいと思う。

 実は私は少しだけれど株式投資をやる。基本的には東証一部の企業しか買わない(それなのに「半分以上知らなかった」のだから、恥ずかしい限りだ)。これからは、ここに載っている会社にも注目しておこうと思う。(※本書では全社が「一部上場企業」のように読めるけれど、調べてみると1社は二部のようだ) 

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2017年4月 2日 (日)

言葉にできるは武器になる。

著  者:梅田悟司
出版社:日本経済新聞出版社
出版日:2016年8月25日 1版1刷 10月17日 5刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日本経済新聞出版社さまから献本いただきました。感謝。半年ぐらい前にいただいたのに、紹介が今日になってしまいました。陳謝。

 著者は電通の現役のコピーライター。コーヒーのジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」が著者の手になる作品。「言葉」それも「伝えるための言葉」のプロフェッショナルということだ。

 プロフィールからは「プロが教える言葉のテクニック」的なものを想像する。そういうすぐに使えそうな技も紹介している。「比喩・擬人」とか「反復」とか「対句」とか..。ただし分量的には後半の4割ほどで、前半ではもう少し奥深いコピーライティングのコーチが受けられる。

 「言葉には2種類ある」と著者は言う。「外に向かう言葉」と「内なる言葉」。前者はコミュニケーションツールとしての言葉。「すぐに使えそうな技」はこれを気の利いたものにする。後者は思考するときに使っている言葉。私たちは、言葉で考え、納得のできる答えを言葉で探す。著者は後者の方が大事だと言う。

 「言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要がある」「言葉にできないということは「言葉にできるほどには、考えられていない」ということ」。正論だ。日々言葉のテクニックで勝負しているコピーライターだからこそたどり着いた、実体としての重さを感じる正論だ。

 もちろん正論だけ言われても、また心構えだけ言われても、どうしようもない。でも安心してほしい。前半の6割はこの「内なる言葉」との向き合い方を、色々な視点から説いて、そのための思考プロセスの様々な方法を紹介している。

 最後に。著者は、自分が抱えている具体的な課題を想定して、本書を読むように促す。実は今、私はそのような課題を抱えている。半年も本棚に収まったままだった本書を、今回、何気なく手に取ったのは、たぶん本が呼んでくれたのだと思う。そういうことが時々ある。

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2017年1月22日 (日)

ライフ・シフト

著  者:リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 訳:池村千秋
出版社:東洋経済新報社
出版日:2016年11月3日 第1刷発行 11月29日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の一人のリンダ・グラットンさんは、前著「ワーク・シフト」で「2025年の働き方」を展望して見せた。テクノロジーやグローバル化などの要因が変化する中で、必要とされる「仕事」に関する考え方の「転換(シフト)」を考察したものだった。本書は、その考察をさらに広げて「人生」に関する考え方の「転換」をテーマとしたものだ。

 内容の紹介の前に2つ質問。その1「「人生」と聞いて何年ぐらいのものを思い浮かべますか?」。その2「仕事をリタイアするとして、何歳ぐらいを想定していますか?」。その1の答えは「80年ぐらい?」、その2は「65~70歳ぐらいまでにはなんとか..」と、私は思っていた。みなさんはどうだろう?

 厚労省の発表によると、日本の平成27年の平均寿命(ゼロ歳の平均余命)は男性が80.79年、女性は87.05年。年金受給開始年齢は65歳で、70歳への引き上げが取りざたされている。だから、私が思っていたことも、大きく間違えていないはず。

 本書の内容の紹介。序章に衝撃的な計算結果が載っている。それはある年に生まれた人が50%に減る年齢。2007年生まれの人は104歳、1997年生まれは101~102歳、1987年生まれは98~100歳...1957年でも89~94歳。ちなみにこれは「先進国」の値で、日本ではさらに3歳程度プラスされる。要するに今後は、半分の人は100歳まで生きる「100年ライフ」の世界になる、ということだ。私が思っていたこととはかなり違う。

 これを元に本書は「人生の組み立て」を考察する。これまでは「教育」「仕事」「引退」という3つステージで分けて、人生は組み立てられてきた。「100年ライフ」では、この3ステージのモデルでは無理がある、というのが本書の考察の基礎にある。

 例えば、これまでどおり65歳ぐらいで「引退」のステージに移ると、35年とか40年の長さになる。そんな長期間の経済負担に現役の時に備えるのは無理だ。また、引退年齢を思い切って80歳に引き上げると「仕事」のステージが60年近くなってしまう。様々なものの進歩の速さを思うと、そんな長期間有用な知識やスキルを、最初の「教育」のステージだけでは培えない。

 「ならばどうするか?」本書は、1945年生まれのジャック、1971年生まれのジミー、1998年生まれのジェーン、の3人を登場させ、それぞれの人生として「あるべき姿」を描き出す工夫をしている。これが参考にはなる。キーワードは「レクリエーション(娯楽)からリ・クリエーション(再創造)へ」

 しかし「理想的なロールモデル」が存在しない、ということも「100年ライフ」の特徴なので、自分の人生は自分で考えるしかない。備えておく必要があるのは確かなようだ。

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2016年10月26日 (水)

大人の経済常識

著  者:トキオ・ナレッジ
出版社:宝島社
出版日:2015年10月24日 第1刷 2016年2月29日 第2刷発行
評  価:☆☆(説明)

 行動経済学を中心として、経済学の用語を多数、身近な例を使って紹介した本。「予想どおりに不合理」「経済は感情で動く はじめての行動経済学」と同じジャンル。

 伝統的な経済学は「人は常に合理的な行動をする」ことを前提にしている。それに対して行動経済学は「合理的な行動をしない」生身の人間の行動を研究対象にしている、比較的新しい(ここ20年ぐらい)学術分野だ。「人間の不合理な行動」の例が豊富だから「あるある感」があって、小ネタに重宝する。

 本書もその「重宝さ」を狙ったものだ。様々な例を、キーワードとして関係のある理論の名称とともに、短く2~4ページでまとめている。プロスペクト理論、ハロー効果、フレーミング効果、アンカリング効果、サンクコスト..。「誰かに話したくなる」ネタがたくさん身につく。

 それから「限定」とか「○○も認めた!」とかの広告に弱い人や、なぜか無駄なものを買ってしまう人がいたら、読んだらいいかもしれない。「これ、私のことだ!」という例を見つけて、お店にカモられていたことに気付くかもしれない。

 ちょっと気になったこともある。説明が不正確だったり、的外れだったりすると感じる部分がいくつかあった。例えば「フレーミング効果の好例」として、食品メーカーのキャッチコピーが挙げられていたけれど、例として適切ではない、もっと言えばほぼ関係ないと思う。もちろん私は、この分野の専門家ではないので判定はできないし、異論もあると思うけれど。

 それでさらに、著者はどんな人なのか気になった。プロフィールを見ると「...雑談ユニット。弁護士、放送作家、大手メーカー工場長...で構成される」ここに書かれている限りでは、行動経済学の専門家はいないらしい。そういうことか。ネタを仕入れたいだけの人はいいけれど、しっかり勉強したい人は違う本を選んだ方がいいと思う。

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