6.経済・実用書

2018年8月29日 (水)

ゼロ・トゥ・ワン

著  者:ピーター・ティール、ブレイク・マスターズ 訳:関美和 
出版社:NHK出版
出版日:2014年9月25日 第1刷 2015年2月15日 第6刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 友達のFacebookで知った本。「ほぼ日刊イトイ新聞」でも紹介されていた。

 著者は、PayPalの創業者で、そのPayPalをeBayに15億ドルで売却した後は、活動の中心を投資に、特にスタートアップ企業への投資に移す。著者が行った最も有名な投資は、Facebookへの投資で、最初の外部投資家として50万ドルを融資し、それが最終的には10億ドルになった。

 本書は、著者がスタンフォード大学で行った「起業論」の講義を基にしたもの。「より良い起業のあり方」を語っていて、これを理解すればスムーズに起業できる..とはならない。

 それは、起業しようとする人に対する著者の要求レベルが高いからだ。著者は採用面接で必ずする質問があるそうだけれど、起業して成功しようというなら、この質問に答えられなければならない。その質問がこれ。

 「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?

 つまり「ほとんどの人は知らないけれど、自分は知っている」、そんな独創性を持ち、それを言葉にして表せる論理性や表現力、そして何よりも自信が必要だ。なんと言っても「ほとんどの人には賛成してもらえないのだから。

 とはいえ、そんな独創性も自信もない私にも刺激のある本だった。「資本主義は競争を重んじるけれど、資本主義と競争は対極にある」とか「グローバリゼーションは水平的進歩(1 to n)、テクノロジーは垂直的進歩(0 to 1)」の話は、ストンと胸に落ちた(先の質問に対する著者自身の答えも、この辺りにある)。「あいまいな楽観主義」の問題点もよく分かった。

 あえて難を言えば、時々興ざめする記述がある。投資の鉄則として「大成功する可能性のある企業だけに投資する」なんて言われると「それができるなら世話がない」と思う。盟友のイーロン・マスクの「ステラ」を成功企業として取り上げるのはいいけれど、何もかも優れているように書くのはどうなのか?

 最後に、心に残った言葉。「人生はポートフォリオじゃない

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2018年6月17日 (日)

ムダゼロ会議術

著  者:横田伊佐男
出版社:日経BP社
出版日:2018年5月21日 第1版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本いただきました。感謝。

 会社勤めや役所勤めをしていれば「会議」を避けては通れない。その会議を理想的なものに変える方法を、本書は教えてくれる、という。「会議」が変われば「仕事」が変わる。「仕事」が変われば「会社」が変わる。「会社」が変われば「人生」が変わる。「はじめに」で上手に煽られて、期待して読んだ。

 本書は会議における悩みを4つに絞っている。会議の「時間が長い」「中身が薄い」「何も決まらない」「発言がない」。思い当たることが多い。私がすぐに思い当たった会議は、1番と2番と3番が複合的にあてはまる。いや発言だって、指名された人がするだけだから4番もだ。

 それで、どうしたらいいのか?まず、会議「前」「中」「後」に分ける。されに「前」に①会議の人選、②論点。「中」に③ゴール設定、④シナリオ、5拡散、⑥収束。「後」に⑦議事録。全部で7つの項目に分けて「良い例」と「悪い例」を分けて説明。分かりやすい。

 例を一つだけ。会議「前」の②論点。これは議題の設定の話。そもそも「議題」があって、その「答え」を論じるのが「会議」。「答え」を論じるのなら、「議題」は「問い」でなければならない。「良い例」と「悪い例」をあげると...

悪い例:現在の営業不振について
良い例:現在の営業不振を、誰がどうやって挽回するか?

 さらに言えば、「比較」や「数字」を取り入れると、より問題の幹をつかみやすい。

良い例:目標未達の「1億円」を「3か月以内」に、誰がどうやって挽回するのか?

 どうだろうか?私の経験では「悪い例」のような議題以外見たことがない。下手をすれば「議題があるようなないような」会議もある。人間「問い」の形で出されると「答え」を求めたくなる。これだけでも、会議を有意義なものに変える力があるかもしれない。おススメ。

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2018年5月27日 (日)

先にしくじる

著  者:山崎裕二
出版社:日経BP社
出版日:2018年5月21日 第1版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本いただきました。感謝。

 タイトルの「先にしくじる」を見て、「若いうちは失敗をたくさんしろ」とか「失敗は成功の母」的な話かと思ったが、そうではなかった。そんな精神論的なものではなく「プレモータム・シンキング」という、失敗しないための方法論の解説と実践のための本だった。

 「プレモータム」は「premortem」という英語。もともとは医学界の用語で、検死や遺体解剖などの死後の分析を意味する「postmortem」の反対語で、「死亡前死因分析」などと訳される。「もし患者が死ぬとしたら」と、死因を予想して対処法を検討する方法論。ちなみに「mortem」は「死」で、「pre」は「前」を「post」は「後」を表す接頭語。

 本書のテーマは、そこから転じて「もしプロジェクトが失敗するとしたら」と、失敗の要因を予想して対処法を検討する、ビジネス上の方法論としての「プレモータム・シンキング」。個人の仕事からチームで行う大きなプロジェクトにまで使える。

 「失敗の要因を予想して対処法を検討する」なんて、誰でもやってそうなことだ。しかし本書を読めば「こんなこと誰もやってない」と思うはずだ。なかなか説明が難しいが、敢えて言えば「失敗の要因の予想」の執拗さが違う。誰もが思う「うまく行って欲しい」という気持ちに反して、先回りして失敗することを真剣に考えなければいけない。

 本書には、その「失敗」を考えるのに有用な、心理学や行動経済学の知見が紹介されている。それが、人間が生来持つ「七つのバイアス」の罠。将来より現在を優先してしまう「現在バイアス」これだけつぎ込んだのに今さらやめられない「コンコルド効果」自分たちのやり方でうまく行くと思ってしまう「自己中心性バイアス」などなど。意識して排除しないと、易々と罠にはまって失敗してしまう。

 この方法論は、完遂すれば効果は絶大だろう。絶対に失敗できないプロジェクトを抱えている人は取り入れるといいと思う。ただし、それはとても難しい。「こんなこと誰もやってない」と上に書いたにはそういう意味もある。プロジェクトの計画段階から「失敗」を想定し、その後も何度も「失敗したら」と口にしなくてはいけない。それは簡単なことではない。

 この方法論を完遂するには、「そんなネガティブなこと言うな」と言わないだけの胆力が、チームメンバーに求められる。そう必要なのは胆力だ。著者もそのことは分かっていて、様々な工夫を紹介してくれている。それが効奏すればいいのだけれど。まずは自分ひとりで取り入れてみるといいかもしれない。

 最後に。著者がこの本を執筆する際の想いが「おわりに」に書かれている。深く感銘した。原発などの過酷事故が想定されることの関係者は、必ず習得すべき方法論じゃないかと思う。

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2018年3月15日 (木)

1時間で歴史とビジネス戦略から学ぶ いい失敗 悪い失敗

著  者:鈴木博毅
出版社かんき出版
出版日:2018年1月22日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書はタイトルを見て分かるとおり「失敗」をテーマとしたもの。基本的には「失敗」はネガティブな出来事で、できれば避けたいものだ。そこに「いい失敗」という、本来は「失敗」とは相容れない、ポジティブな言葉をキーワードとして設定することで、考察の新しい視点を提供している。

 その「いい失敗」を設定するにあたって、著者は一つの考え方を導入する。それは「ミス≠失敗」という考え方。「ミス」を犯したとしても、それが悲劇的な結果につながらなければ「失敗」ではない。「ミス」と「失敗」の間には、意味的にも時間的にもギャップがある。

 つまり「ミス」も、悲劇的な結果につながらなければ「失敗」ではない。それどころか、後の扱い次第で成長や成功につながることもある。その場合は「失敗」であっても「いい失敗」だ。「あれ?悲劇的な結果につながらなくても「失敗」なの?」と、定義に混乱はあるけれど、言いたいことは分かる。要は「後の扱い次第」ということだ。

 本書は全編を使って、この「後の扱い」に注目してたくさんの例を挙げて「いい失敗」と「悪い失敗」を区分けする。例えば「いい失敗:成長に転換できる/悪い失敗:甚大な被害になる」「いい失敗:客観的に見ている/悪い失敗:感情にとらわれてしまう」「いい失敗:失敗をプロセスと考える/悪い失敗:失敗を終点と考える」...

 私たちは「早く忘れてしまいたい」と思うあまり、失敗を見つめることをしない。でも、何かに挑戦すれば失敗は避けられない。失敗を避けて何にも挑戦しなければ、そのこと自体が失敗だ。このように「失敗」が不可避なものなら、そのことを見つめてよく知ろう。分析することで成功に転じる方法が分かる。この本はそう言っている。私にも異論はない。

 最後に。「失敗の分析」と言えば、先に「失敗の本質」という名著がある。本書での言及は少ないけれど、著者はその解説本である「「超」入門失敗の本質」を記している。これがとても分かりやすい本で、著者はここからも本書のヒントを得たに違いない。 

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2018年1月24日 (水)

自分を操る超集中力

著  者:メンタリストDaiGo
出版社:かんき出版
出版日:2016年5月27日 第1刷 7月1日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の顔はテレビで見たことがあり、「メンタリスト」という職業か肩書かなのだということも知っていた。でも「メンタリスト」が何なのかは知らない。著者紹介によると「人の心を読み、操る技術」を「メンタリズム」と言い、その技術を駆使する人を「メンタリスト」と呼ぶそうだ。

 本書は、その著者が、自分の「集中力をコントロールする術」について書いている。著者は「メンタリスト」だから、人の心を操る技術に長けているわけで、その技術を自分に使えば、心の問題でもある「集中力」を「コントロール(操る)」することもできるわけだ。

 本書の主張はこんな感じ。「ウィルパワー」という、脳の前頭葉を源とする「思考や感情をコントロールする力」。この「ウィルパワー」には一定の量があり、集中力を使う度に少しずつ消耗する。枯渇してしまえばもう集中力を使えなくなる。だから、その「ウィルパワー」の量を増やすか、消耗を減らすかすることが、集中力を高めることになる。

 「量を増やす」と「消耗を減らす」。本書は多くのページを費やして、この二つの方法を紹介している。それも「具体的な行動」に落とし込んで紹介しているので、明日からでも取り入れることができる。例えば「机の周りを片付ける」「15分に一度は立ち上がる」「1~2時間にコップ1杯の水」等々。

 ひとつ「確かにそうだよな」と思ったこと。「脳は小さな意思決定の連続によって疲弊していく。しかも「今は面倒だから..」と後回しにすると、持続的に疲れが増していく」。仕事でも家庭でも、思った以上に多くの、細々とした意思決定を私たちは行っている。面倒な事、特に雑事ほど、すぐに片づけてしまった方がいい。

 もうひとつ。「集中力の高い人は、実は短時間の集中を繰り返している」。25分の集中と5分の休憩を繰り返す、というのが目安らしい。これは使えそう。

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2017年11月25日 (土)

ソニー歴代トップのスピーチライターが教える人を動かすスピーチの法則

著  者:佐々木繁範
出版社:日経BP社
出版日:2017年10月17日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者はソニーの盛田昭夫会長と出井伸之社長のもとでスピーチライターを務めていた方。ソニー退社後は、コンサルタントとして、スピーチ講座や個別のコンサルティング通じて、延べ1万人以上のビジネスリーダーを指導したそうだ。

 本書は、その著者が「スピーチ上達のための12か条」を教えてくれるものだ。1か条につき1章、全部で12章で構成されている。例えば「メッセージを明確にする」「主張には理由を添える」「スピーチの構造をシンプルにする」「ストーリーを織り込む」等々。

 ノウハウを記したこうした本の常として、12か条として提示されたものに、あっと驚くような目新しいものはあまりない。私がそれなりに経験を積んできたからでもあるし、そもそも本当の意味での「秘訣」なんてそうそうないからだ。

 だからと言って、本書に価値がないかというと決してそうではない。ノウハウというのは、整理されてこそ「使える」ものになる。いくつかの項目がバラバラの状態では、自分のスピーチがいいのか悪いのかの検証も難しい。その点、こんな風に整理されていると、とても使いやすい。

 もう一つ。先に「目新しいものは「あまり」ない」と書いたけれど、実は私にとって目新しいものがあった。それは第6章の「自己開示する」という項目。「一般論ではなく経験談を」ということで、著者自身の経験談も載っているのだけれど、これで本当に具体的によく分かった。

 人の心をつかむか否かには、属人的な要素も重要なのだ。「何を話すか」と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に「誰が話しているか」に意味がある。「私という人を分かってもらうことで、物事が進みだした」そういう経験が私にもある。

 最後に。「スピーチ」なんて自分にはする機会がない、という人も多いだろう。でも、この12か条は「人に何かを伝える」時に役に立つ。プレゼンをするとき、あいさつ文を書くとき、人に何かを頼むとき。興味がわいた方は一読を。

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2017年11月22日 (水)

アベノミクスによろしく

著  者:明石順平
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2017年10月11日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 アベノミクスの成果について、政府や国際機関が公表しているデータを基に、客観的に検証した本。タイトルはマンガの「ブラックジャックによろしく」をもじったものだけれど、アベノミクスを推進・擁護してきた人たちに「まともな経済政策をよろしくお願いします」という意味も込められている。

 本書の内容の前に。先の総選挙の際に自民党は「データで見る!アベノミクスの5年間の実績」を公表、その成果を喧伝してみせた。「名目GDP過去最高」「家計の可処分所得2年連続で増加」「正社員有効求人倍率初の1倍超え」等々。

 こうした情報が大量に投下されたことと、株高でもあることから「(安倍政権には問題はあっても)アベノミクスは成果を出している」という空気が醸されている。「野党よりマシ」という意見にもつながる。本書はそれを真っ向から否定してみせたものだ。感情論ではなく客観的なデータを使って。

 例えば「家計の可処分所得2年連続で増加」と、家計は潤っているように見える。しかし実質賃金指数は、2015年が「この22年で最低」だ。その影響で消費が落ち込み、実質民間最終支出は、2014年、2015年と「2年連続の下落」これは「戦後初めてのこと」。状況は、アベノミクスの前と比較しても極めて悪い。

 また、有効求人倍率のことも株高のことも、きっちり反証する。「名目GDP過去最高」に至っては「かさ上げ疑惑」まで指摘する。さらにアベノミクスの副作用について寒気がするような指摘が続く。正直に言って「(本書の指摘が)ウソであってくれたらいいのに」と思うほどだ。

 本書は今の日本に必要な本だと思う。たくさんの人に読んでもらいたい。特にアベノミクスを肯定的に評価している人に読んでもらって、可能なら反論を聞きたいと思う。

 ※著者は親切にも本書のダイジェストをウェブで公開している。興味を持った方は、まずはこちらをご覧になるといいと思う。 本書のダイジェストのページ

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2017年9月30日 (土)

苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール

著  者:嶋田有孝
出版社:日本実業出版社
出版日:2017年9月10日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の嶋田有孝さまから献本いただきました。感謝。

 著者の嶋田さんは、日経サービスというビル管理などの事業を行う会社の社長を務めておられる(ちなみに、日本経済新聞社の日経グループとは関係ない)。本書のタイトルにある「中小企業」とはこの会社で、「オヤジ」とは著者が入社した当時の会長で、「新人のボク」は著者自身だ。本書は今から30年近く前の、著者と会長のエピソードが23編つづられている。

 会社は当時、大阪の東心斎橋にあって、年商28億円。創業者は会長で、どいうわけか社長を兼ねていた。つまり会長は「大阪の中小企業の創業社長」。ステレオタイプで人を決めつけてはいけないが、本書を読めば、会長がこの「大阪の~」で思い浮かべるイメージ通りの人だと分かる。

 最初の出会いのエピソードがこう始まる。

 「おい、そこのメガネ」「何キョロキョロしとんねん。お前や」

 これが入社初日の昼休みのこと。それで会長が著者を呼んだ用件というのが「バナナこ買うてきてくれ」だった。

 この後も「アホ」「ボケ」「帰れ」と罵倒されたりもして、今の時代なら完全にパワハラ。いや今の時代でなくったって当時でも問題だろう。しかも時代はバブル景気真っ最中で、有名私大を卒業している著者なら、探せば他に就職先は見つかっただろう。でも、そうしなかった。その理由も本書を読めば分かる。

 会長は社員一人ひとりの適性や人間性を見抜いて、育てるために絶妙な塩梅で厳しくしている。そして社員たちにもそれが分かる。だから罵倒されても辞めないのだ。厳しさは、社員をとても大事にしている裏返しだ。それは、必ずしも優秀な人材を採用できるわけではない、中小企業の経営者としての冷静な判断でもある。本書は面白くてタメになる。

 最後に。何度も登場するセリフがある。「お前ならきっとできる」。こんなことを真正面から言う上司なんてなかなかいないと思う。言われたらグッとくるだろう。 

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2017年9月23日 (土)

正しい本の読み方

著  者:橋爪大三郎
出版社:講談社
出版日:2017年9月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 この本の一部分がネットで公開されていて、それを読んで興味が湧いたので購入して読んでみた。

 本書の構成は8つの章に分かれていて、「なぜ本を読むのか」「どんな本を選べばよいのか」という、「本を読む」の前段階のことから始まって、「どのように本を読めばよいのか」を経て、「何を学べばよいのか」「どのように覚えればよいのか」「なんの役に立つか」と続く。

 そしてそれでは終わらず、さらに「どのようにものごとを考えればよいのか」「情報があふれる現代で、学ぶとはどういうことか」と、かなり大きなテーマへと発展する。著者が考える「正しい本の読み方」は、ただ単に「本を読む」という行為だけでなく、その前後の知的活動全体を包含しているわけだ。

 私がネットで読んだのは「どのように本を読めば良いのか」の部分で、先の言い方では「ただ単に「本を読む」という行為」に当たる。なかなか共感することが多かった(だから購入したのだけれど)。例えば「すなおに読む」。感情や予断を排して読む、ということ。

 好きとか嫌いとか、賛成とか反対とか、そういう感情からはなかなか免れえない。だから読み終わってからなら感じてもいい。でも、読んでいる最中にそう思ってしまうと、予断が生まれる。著者が伝えたいことをくみ取れなくなる。「あぁ確かにそうだ」と思う。楽しむための読書なら「好き」ならいいけど「嫌い」と思いながら読んだのでは、ますます気に入らなくなるだけだ。

 一つ、私の一方的な思い違いがあった。特に意識せずに、私は小説などの文芸書を念頭に置いていたけれど、著者は学術書や哲学書、思想などを中心にしていた。文芸書に言及する時には「文芸書では」という断り書きが入る。だから論理とか定義とか前提とか構造とか、論理学的な視点からの解説が多い。ちょっと私と著者の間の「すれ違い」を感じた。

 著者の経歴を見れば「すれ違い」が予想できたかもしれない。東京工業大学名誉教授。著書に「はじめての構造主義」。哲学に造詣が深いらしく、例としてあがる著者が、マルクスとかサミュエルソンとかヘーゲルとか。文芸書では..であがるのはドストエフスキーとか。 

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2017年9月10日 (日)

会社でやる気を出してはいけない

著  者:スーザン・ファウラー 訳:遠藤康子
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2017年6月10日  初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 発行所のマルコ社さまから献本いただきました。感謝。

 最初に。いただいた本に対して申し訳ないけれど、タイトルの「会社でやる気を出してはいけない」は、本書の内容をまったく表していない。昨今は、内容が希薄な本を、センセーショナルなタイトルで売ろうとするケースが散見される。腹立たしいけれど、それは分からなくもない。普通に売って売れないのだから。しかし本書の場合は、内容は確かなものなので、こんなタイトルの付け方は逆効果だと思う。残念だ。

 本書のテーマは、リーダーによるモチベーションマネジメント。平たく言えば「どうすれば、自分のグループがヤル気に満ちた集団になれるか」ということ。著者はこれを「モチベーション・スペクトラム・モデル」というものを用いて、とても分かりやすく解説している。

 「モチベーションを引き出す」ということであれば、目標管理や競争を取り入れて、成果を出した人にはボーナスや昇給・昇進といった報酬を与える、こんなところがスタンダードなものかと思う。ただ、著者はこういう「アメとムチ」式の方法は、「モチベーションを引き出すファーストフード」と呼んで否定する。「おいしい(魅力的だ)し、その時は満足する(成果がでる)けれど、長期的には健康を害する(組織が停滞する)」

 そこで登場するのが「モチベーション・スペクトラム・モデル」。モチベーションの種類を「無関心」「外発的」「義務的」「協調的」「統合的」「内在的」の6つに分類する。そして概ねこの順番に推移する、とする。モチベーションの「ある/なし」ではなく、「どのようなモチベーションか」に注目する。

 「会議に出席するモチベーション」で例えるとこうなる。「無関心」は「何の意義も見出せない」、「外発的」は「昇給やイメージアップに役立つから」、「義務的」は「全員が出席することになっているから」、「協調的」は「お互いに得るものがあるから」、「統合的」は「会社や仕事の目的に適うから」、「内在的」は「楽しいから」。

 そして「義務的」までを「後ろ向き」、「協調的」以降を「前向き」のモチベーションと位置付ける。ここまでは単に分析と分類なので、実践的にはあまり役に立たない。本書のキモは、「後ろ向き」の人を、どうしたら「前向き」に移行できるか?を詳述していることにある。これは役に立つ。

 私は、人数が10人に満たない小さな組織だけれど、その責任者をしている。当然、メンバーのモチベーションについて考える。これまで「ファストフード」以外のことは実践はおろか思いつきもしなかった。いい本に出会ったと思う。 

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