5.ノンフィクション

2019年4月27日 (土)

検閲という空気 自由を奪うNG社会

著  者:アライ=ヒロユキ
出版社:社会評論社
出版日:2018年7月31日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 プロフィールによると著者は、美術、社会思想、サブカルチャーなどをフィールドに、雑誌、新聞、ポータルサイトなどに執筆しているそうだ。著作や執筆一覧を見ると、「美術」を軸足にした幅広いテーマを扱っている。骨のあるライター、とうところだろうか。

 サブタイトルは「自由を奪うNG社会」。「NG」はもちろん「No Good」。ドラマや映画での演技の失敗を表す言葉だったけれど、最近は「やってはいけないこと」の意味で、一般人の日常生活でも使われる。本書では序章に説明があるて、領域によってさまざまに形を変える、規制、自粛、監視、圧力などの「自由の阻害」を表す言葉を代用する多義的な言葉として、「NG」を使っている。

 例えば、保育所が地域社会から拒絶される「NG」。「平和」「憲法」「原発」が地域社会や公共の場、さらには言論からも締め出される「NG」。戦争加害などの「負の歴史」が排斥される「NG」。これについては公共機関、報道、図書館や美術館、大学での学問まで、広範な「自由の阻害」が起きている。

 本書の目的は、これら様々な領域で起きているNGの、共通する問題を拾い上げて、それを線でつないで、共通の原因と背景を探ること。上の例では現政権の保守的な姿勢と圧力が想起されるが、著者はそのことを厳しく糾弾しながらも、さらにその奥にある要因に迫っていく。

 本書に指摘されるまでもなく、現在の日本はさまざまな自由が阻害され、たいへんに窮屈な社会、領域によっては危機的な状況になってしまっている。しかし「ではどうしたらいいのか?」は、キーワードは示されているけれど、十分には考察できていない。いくつもの二律背反があって、簡単じゃないのだ。それは、これから議論しなくてはいけない。よく整理された本書はその議論の出発点として最適の一冊となるだろう。

 最後に。本書のタイトルは「検閲という空気」だけれど、いま起きている「自由の阻害」は明確な形をとらない曖昧なものだ、例えば「空気」のような。言っても詮無いことだけれど「空気という検閲」というタイトルの方がふさわしいように思う。

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2019年2月27日 (水)

消えたフェルメール

著  者:朽木ゆり子
出版社:集英社
出版日:2018年10月10日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年の11月に「フェルメール最後の真実」という本を読んだ。実はその前に「上野の森美術館」で開催された「フェルメール展」に行って、9点のフェルメール作品を観てきた。私は、美術展には好きでよく出かけるけれど、美術の専門家ではないし、ましてやフェルメールに詳しくもないけれど、「フェルメール展」をきっかけのに、ちょっと興味が湧いて、本書も読んでみた。

 本書のテーマはフェルメール作品の盗難事件。著者はノンフィクション作家で、美術作品をテーマにした著書が多い。特に「フェルメール全点踏破の旅」「盗まれたフェルメール」「謎解きフェルメール」と、フェルメールに向ける関心には並々ならぬものがあり、本書のテーマの盗難事件についても、長く追い続けている。

 フェルメール作品は、これまでに5回盗難に遭っている。中には2回盗まれた作品もある。5回のうち4回は、大きな損傷を受けたものもあるけれど、作品は戻って来た。本書は残る1回、今もって行方が分からない「合奏」という作品の盗難事件を中心に据えて、他の盗難事件やフェルメール作品の来歴などを、テンポのいい筆致で描く。

 著者の意図とは違うだろうし不謹慎だと思うけれど、読んでいてワクワクしてしまった。かなり詳しく事件の詳細が描かれていて、それはまるで映画の1シーンのようだ。逆の視点から見ると、「名画の盗難」が度々映画やドラマになるのもムリはないと思った。実際の事件がこれだけドラマ性があるのだから。

 本書を読んで思ったことが3つ。

 一つ目は、絵画の周辺には興味深いことが色々とあること。前に読んだ「フェルメール最後の真実」は、作品の「貸し借りを手配する人々」に焦点を当てたものだし、本書は「盗難事件」だ。双方から「作品の来歴」に関する興味も喚起された。

 二つ目は、私が上野で観た絵にはそういう経緯があったのか!ということ。「手紙を書く女と召使い」は、2度の盗難に遭って戻って来た。戻って来た際の修復や検査の度に、新しい発見があったそうだ。後に塗りつぶされたものが発見されたり、透視図法技術に使われた針穴が見つかったり。できればもう一度観たい。

 三つ目は、これから新たなフェルメール作品が見つかるかもしれない、ということ。17世紀に行われた競売の記録に載っている21枚のフェルメール作品のうち3点は「現存しない」。でもどこかに眠っているかもしれない。

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2018年12月27日 (木)

安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由

著  者:相澤冬樹
出版社:文藝春秋
出版日:2018年12月25日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年の5月に「森友学園問題のスクープを連発していたNHK大阪放送局の記者が突如左遷」と、夕刊紙などで報じられた。記事で「A記者」とされていたのが、著者の相澤冬樹記者だ。そう、本書は著者が森友学園問題の取材を始めたころから、夕刊紙で報じられた「左遷」に至るまでの一部始終を記したもの。読み応えあり。

 最初に言っておくと、タイトルの「安倍官邸vs.NHK」は、一旦忘れてしまっていい。もちろん本書を手に取る人の多くは、このタイトルに何かを期待して手に取る。しかしその期待には応えてくれない。安倍官邸がその時何をしたのか?そのことは何も書かれていない。しかし、本書が読者に伝えてくれることは多い。読む価値はある。

 本書に書いてあるのは、森友学園問題について著者が、どのように取材して、それがどのように報じられたか(あるいは報じられなかったか)だ。いつ、だれを、どこで、なにを、どのように、なぜ取材したか。記者が記事の基本を守って書いた文章は、とても読みやすい。

 安倍官邸のことを書いていないのも、この「記事の基本」のためだ。「ウラが取れていない」ことは書かない。著者は自分が取材したり、NHKの中で体験したりして、見聞きしたことしか書かない。一記者である著者には、官邸からの直接の圧力はかかっていなかった。上層部への圧力は推測できただろうけれど、推測は書かない。まぁ書かないことで「NHKの異常さ」が却って際立っているけれど。

 それでも充分だ。森友学園問題でのNHKの報道に疑問を持った人は多いと思うけれど、「あれはこういうことだったのか」と分かる。きちんと報道されなかった事実も多く明らかにしている。また「これは森友学園の事件ではなく、国有地を格安販売した財務省の事件だ」という定義の仕方は、コトの本質を捉えている。

 その後に続いた加計学園の問題や、国会で次々と持ち上がる政府の不誠実な対応に隠れて、森友学園問題は沈静化してしまっている。本書が、真相究明の再スタートとなってくれることを期待する。

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2018年12月 5日 (水)

ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命

著  者:山田敏夫
出版社:日経BP社
出版日:2018年11月12日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本いただきました。感謝。

 本書は「ファクトリエ」という、服、雑貨を販売するインターネット通販のブランドを紹介する本。著者の山田敏夫さんは「ファクトリエ」をゼロから立ち上げた人で、本書には、今日に至るまでの苦労とともに、「ファクトリエ」に込めた思いの丈が詰まっている。

 「ファクトリエ」は、店舗を持たない、セールをしない、生産工場を公開する、価格は工場に決めてもらう、という特長をもったブランド。これらは、日本のアパレル業界では異例のことだそうだ。特に生産工場の公開は、タブーとさえ言われる。そして「ファクトリエ」の構想は、このタブーに対する違和感から端を発している。

 著者は、学生時代にパリに留学し、グッチの店舗でアルバイトをした経験がある(この経緯の「力の抜け加減」が、著者の生き方を表している。しなやかで強い)。そこでは商品の一点一点が「自分たちの工房で生まれた」ことに誇りを持っている。ヴィトンもエルメスも工房から生まれた。

 翻って日本では、縫製などを手掛ける工場は、ブランドとの製造契約で「守秘義務」を負っている。ブランドイメージを保ったり、技術の流出を防ぐためだ。しかし黒子の存在では、正当な評価も対価も得られず、海外の安い工場との競争で、国内の縫製工場は疲弊し、急激に数を減らして危機的な状況にあった。そして「どこで作られたか」に関心を持たない消費者は、そのことに気がついてもいない。

 パリのでの経験から「世界に誇れる日本初のブランドを作ってみせる」と誓った著者は、全国の縫製工場を一軒づつ訪問し、「工場発のブランドを直売する」という、著者の構想に賛同する「同志」となってくれる工場を捜すことから始める。先述のように、これは業界のタブー破りになる。だから「同志」というのは大げさな表現ではない。

 そこから年商10億円を超える現在までの、山あり谷ありの一部始終が本書には記されている。この「ものがたり」は、強い引力を持っていて、読む人を惹きつけずにはおかない。

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2018年11月25日 (日)

フェルメール最後の真実

著  者:秦新二、成田睦子
出版社:文藝春秋
出版日:2018年10月10日 第1刷 10月30日 第2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 これはちょっとユニークな本だった。

 本書は、これまで数多くの「フェルメール展」を企画してきた財団の理事長と事務局長の共著。フェルメールとその作品に関する解説とともに、フェルメールの作品に「旅をさせる」(所蔵する美術館から借り出す)ことの実際を、臨場感のある筆致で記したもの。

 フェルメールは寡作な画家で、真贋が問われているものも含めて、現存する作品は37点しかない。それらの作品を、いつどの展覧会に出品するかの決定に、大きく関与している人々がいる。著者が「フェルメール・シンジゲート」と呼ぶ人々で、著者もその一員だ。

 第3章「旅に出るフェルメール」の冒頭すぐの言葉を引用する。「ある土地で、フェルメール作品の数々が一堂に会するとき、その裏側では、額に汗して世界を飛び回り、各所蔵先と交渉し、無事に運び込むという悲願の達成まで、必死に努力した人間たちがいるのだ」これが本書の芯にある言葉だと思う。

 例えば、著者が「企画」を担当した、現在(2018年11月)「上野の森美術館」で開催中の「フェルメール展」では、9点のフェルメール作品が展示されている。所蔵する美術館にとっては、それぞれが宝物のような存在なので、滅多なことでは外に出さない(絶対に出さない、という作品もある)。

 だから、気の遠くなるような根回しと交渉を重ねて、それぞれの作品が海を越えて上野に集結し、展覧会が実現している。そのことがとてもよく分かった。

 冒頭に「ちょっとユニーク」と書いたのは、本書が言わば「賞味期限付き」の本だからだ。37点全部をカラーで掲載し、1ページを使った解説が付いている。例えば初来日の「取り持ち女」は、絵の説明の後、ザクセン公のコレクション→ナチスによる頽廃的美術品の烙印→ソ連軍による接収→東独に返還、という来歴が書いてある。他の作品には「盗難」から戻ってきた、なんてのもある。そして最後に「2018年に来日します」。

 これを読めば実物が見たくなる。実物を見るなら、開催中の「上野の森美術館」(2019年2月3日まで)か、その後の「大阪市立美術館」(2019年2月16日から5月12日まで)に行くしかない。次はいつ日本に来るか分からない。(もちろん、世界中に散らばる所蔵館を訪ねて回るという手はあるけれど)「賞味期限付き」というのはそういう意味だ。

 念のため。「賞味期限」が過ぎても、本書がとても興味深い本であることは変わらない。食べ物が「賞味期限」が過ぎても食べられるのと同じ。ただ、美味しくいただくなら期限内がおススメ。

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2018年9月12日 (水)

スノーデン 監視大国 日本を語る

監  修:自由人権協会
出版社:集英社
出版日:2018年8月22日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、2017年に東京で行われた「デジタル時代の監視とプライバシー ~市民によるコントロールのために~」というシンポジウムを翻訳、加筆修正したもの。タイトルになっているスノーデン氏はロシアに滞在中で、このシンポジウムでは、ネットを介して国谷裕子さんのインタービューに答えている。

 本書は、このスノーデン氏のインタビューの他に、3つの講演と1つのパネルディスカッションを収録。講演は、元アメリカ自由人権協会(ACLU)のスティーブン・シャピロ氏による「9.11以降の監視強化の動き」、日本の自由人権協会(JCLU)の出口かおりさんによる「日本の監視の現状」、国連特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏による「大量監視とプライバシー保護のための仕組み」。パネルディスカッションのパネリストは、講演者にJCLUの井桁大介氏を加えた4人。

 講演やパネルディスカッションの具体的な内容については、ここでは書かない。端的に言うと、日本の政府機関による国民の監視は、米国と比較しても大変危うい状況にある、ということが示されている。スノーデン氏のリークを発端に、米国では政府による監視を制限する法制度が、不十分ではあっても整備された。しかし、日本では令状を必要としない「任意捜査」を規定する法律がなく、ほぼフリーハンドを捜査機関に与えてしまっている。

 このシンポジウムの発端とも言える出来事が、この半年前に起きている。「日本政府が秘密裏にアメリカ政府から監視技術の提供を受けていた」ことを示す文書が発見され、NHKがこれをスクープした。事実かどうかについて、日本政府はイエスともノーとも答えていない。そのことがこのスクープの信ぴょう性を高めている。

 これに関連してスノーデン氏から気になる発言があった。「日本国内で次々と進められた、説明のつかない極めて異例な法体系の変更」についてだ。「特定秘密保護法」と、いわゆる「共謀罪」。この二つの法整備は、監視技術の提供にあたって、アメリカ政府からアメリカと同等の秘密保護を求められたことと、その監視技術を効果的に活用するための準備が、その理由だと言う。この説明が胸に落ちた。そのことに一層うすら寒い思いがした。

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2018年9月 8日 (土)

「南京事件」を調査せよ

著  者:清水潔
出版社:文藝春秋
出版日:2017年12月10日 第1刷 2018年4月20日 第4刷
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書は、2015年に放送されたテレビ番組、NNNドキュメント「南京事件 兵士たちの遺言」の基になった調査内容を中心にまとめたもの。この番組は2016年のギャラクシー賞優秀賞、放送人グランプリ 準グランプリなどを受賞。著者は雑誌記者からテレビ局の報道記者に転身した人で、その調査報道によって数多くの賞を受賞している。

 「なかった」と主張する人も含めて「南京事件」や「南京大虐殺」と呼ばれる出来事について、「まったく知らない」という人はいないと思うけれど、一応説明する。それは1937年に日本軍が南京を占領した際に起こした(とされる)虐殺事件のこと。被害者の数は、中国の主張では30万人。

 この「南京事件」に、報道記者である著者は、調査報道の手法で取り組む。つまり、関係者に会って話を聞き、資料や記録を探し出して調べ、それで分かったことの真偽を確認するために、別の方法で「裏取り」する。気が遠くなるような作業だ。

 例えば。日本軍の兵士の日記を活字化した本が見つかる。その日記には「捕虜を5千人、揚子江の沿岸で機関銃で射殺した。その後、銃剣で思う存分に突き刺した。年寄りも子どもも居る。一人残らず殺す。」といったことが書いてあった。

 著者はこの本の発見後、日記を活字化した編者に会って日記の現物を確認する。続いて、日記を書いた当人が本当に存在すること、日記で当人が乗船したとする輸送船がその記載通りに運航されていたこと、などを丹念に調べる。日記にインクが使われていたので、戦場で万年筆が使われていたことまで確認している。

 帯に「これが「調査報道だ!」と書いてあるが、まさにそのとおり。日記は1人分だけではない。実に31人分もの日記が発見されている。多くの記述が合致している。相反する記述はない。戦後になって撮られた証言インタビューも残っている。誰がどう取り繕おうと「なかった」ことになどできない。

 しかし「できない」はずなのに「南京事件」は不毛な議論に陥りやすい。著者はその理由に行き着き、こう述べる。「私は「南京事件」という舞台で衝突していたのは「肯定派」と「否定派」だと思っていた。しかしその真の対立構図は「利害」と「真実」だったらしい。」

 否定する人は「あっては困る」から否定している。そんな人に証拠を示しても何にもならない。むしろ「さらに困る」ので、もっと強硬になるだけだ。

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2018年7月14日 (土)

悪だくみ

著  者:森功
出版社:文藝春秋
出版日:2017年12月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 表紙は、安倍昭恵さんのFacebookに「男たちの悪巧み」という言葉とともに投稿された写真。安倍総理と加計孝太郎さんの二人以外は暗く不鮮明に加工されている。サブタイトルは「「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞」

 著者は(今となっては数多くの疑惑の一つになってしまったけれど)、下村博文さんが文科大臣時代の2年間に、下村氏の後援会組織主催のパーティ券200万円分を、加計学園が購入していながら、政治資金報告書に記載していない事実を明らかにしたフリーライター。本書で、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。

 加計学園の問題については、面会した当事者の一方による文書が明らかになるも、安倍総理周辺のもう一方が「記録も記憶もない」と否定することが繰り返されている。中には「ふと思ったことを言った」、つまり「嘘ついてました」なんて人までいる。だから大体のところは「事実らしいこと」は明らかになっている。

 その既に明らかになっている「事実らしいこと」を再確認するだけなら、あまり意味がないが、本書にはまだ広くは知られていない(少なくとも私は知らなかった)事実がたくさん記されている。これは、もっと共有すべき情報ではないかと思った。

 例えば。加計学園問題は当初「第二の森友学園」と呼ばれていた。しかし安倍昭恵さんは、森友学園の小学校の名誉校長より前に、加計学園のこども園の名誉園長になっていた。昭恵さんは「見学に行ってみてはどうですか?」と、籠池夫妻にそのこども園を紹介までしている。森友学園は加計学園を倣った「第二の加計学園」だったのだ。

 例えば。2004年に千葉県銚子市に加計学園の千葉科学大学が開校。この大学の開校に当たっては、内閣官房副長官だった安倍さんが、地元との揉め事の仲裁までしたと言われる。大学側は「将来の総理がバックアップする学校です」とPR。そして加計学園は、この大学新設の時点ですでに「獣医水産学部」を構想していた。

 例えば。加計学園の小学校と米国の小学校の姉妹校提携に絡んで、安倍昭恵さんと下村博文さんの奥さんの今日子さんが、加計孝太郎さんとともに何度も訪米している。...。まだまだある。

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2018年5月13日 (日)

世界史で読み解く現代ニュース

著  者:池上彰、増田ユリヤ
出版社:ポプラ社
出版日:2018年4月 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「未来へのトビラ」という全5巻の「10代の読者におすすめの本を厳選」した選書の中の1冊。元は2014年に刊行された同名の新書で、それにルビを加えて選書化したもの。

 著者は二人。池上彰さんはもう紹介の必要がないだろう。増田ユリヤさんは、高校で歴史を27年間教えていた元教師。最近はコメンテーターとしてテレビにも出演されているそうだ。本書は、増田さんが「世界史をわかりやすく解説」、池上さんが「その世界史が現代とどうつながっているかを解き明かす」という役割分担になっている。

 テーマは4つ。「中国の海洋政策と鄭和」「中東の民族紛争とオスマン帝国」「世界の人権意識とフランス革命」「地球温暖化と産業革命」。「○○と□□」という形にまとめてみた。「○○」が現代ニュース、「□□」が世界史上の出来事。

 それぞれの「○○」と「□□」には、地域性や意義に関連があって、違和感を感じない。しかし例えば、中国による南沙諸島の実効支配を報じるのに、鄭和を持ち出すニュースは見たことがないし、イスラム国やシリアの内戦をオスマン帝国から解説するのは、専門的な番組でなければできないだろう。

 ひとつ特筆すると「オスマン帝国」は、中東情勢だけでなく、旧ユーゴ内戦などのバルカン半島情勢や、ウクライナ紛争などのクリミア半島情勢にも関係している。ということを本書で初めて知った。オスマン帝国は中世の歴史に登場するので「歴史上の国」というイメージだけれど、実際は第一次世界大戦後の1922年まで存続していた。100年前のその崩壊が現代に影を落としている。

 とても勉強になった。分かりやすくするための単純化があって、いわゆる専門家の目からは問題点が見えるかもしれないけれど、「10代の読者」がこれを知る意味は大きい。もちろん大人も知っておくべきだと思う。現代のニュースは、「今だけを切り取って欧米の視点から見た」ものに偏っている。これでは本質が分からない。

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2018年4月 5日 (木)

原発ホワイトアウト

著  者:若杉冽
出版社:講談社
出版日:2013年9月11日 第1刷 12月10日 第9刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 帯に「現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!」と大きな赤い字が躍っている。著者はインタビューで、この小説を書いた理由を尋ねられて「いかに国民不在で再稼働と原発推進に向かって進んでいるのかをできるだけリアルに国民の方に伝えたかった」と答えている。

 主な登場人物は3人。日本電力連盟常務理事の小島巌。関東電力の総務部長を経て連盟に出向している。元民放テレビ局アナウンサーの玉川京子。現在は再生エネルギー研究財団の主任研究員。そして、資源エネルギー庁次長の日村直史。キャリア官僚として政財界のウラにまで通じている。

 短いプロローグの後、2013年の参議院選挙の投開票日から物語は始まる。結果は「保守党」が大勝し、衆参両院で過半数を占めることとなった。その夜、小島は「これからの課題」として3項目をレポート用紙にしたためた。「再稼働」「電力システム改革の阻止」「世論対策」。

 物語はこの後、原発の再稼働を目論む小島と日村らの暗躍と、再稼働阻止に動く玉川の動きを描く。この「再稼働か阻止か」のせめぎ合いは、現実がそうであるように「再稼働」が勝つ。物語は、さらにその先を描く。「現実に起きる」と十分に想定できる未来の一つが描かれている。

 ここに書いてあることが真実だとは言わない。しかし著者は「私が直接見聞きしている事実と間接的に見聞きしている事実を元に書いた」と言っている。それに本書で描く、「総括原価方式」を基にした集金・献金システムや、デモ潰しの手法は、詳細かつ具体的で説得力がある。昨今のニュースで思い当たる節もある。

 随所に国民をバカにしたひどいセリフや場面があって、読んでいて顔をしかめてしまうのだけれど、それさえも「あり得る」と思ってしまう。すでにベストセラーだけれど、もっともっと多くの人が読むといいと思う。

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