5.ノンフィクション

2018年7月14日 (土)

悪だくみ

著  者:森功
出版社:文藝春秋
出版日:2017年12月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 表紙は、安倍昭恵さんのFacebookに「男たちの悪巧み」という言葉とともに投稿された写真。安倍総理と加計孝太郎さんの二人以外は暗く不鮮明に加工されている。サブタイトルは「「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞」

 著者は(今となっては数多くの疑惑の一つになってしまったけれど)、下村博文さんが文科大臣時代の2年間に、下村氏の後援会組織主催のパーティ券200万円分を、加計学園が購入していながら、政治資金報告書に記載していない事実を明らかにしたフリーライター。本書で、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞。

 加計学園の問題については、面会した当事者の一方による文書が明らかになるも、安倍総理周辺のもう一方が「記録も記憶もない」と否定することが繰り返されている。中には「ふと思ったことを言った」、つまり「嘘ついてました」なんて人までいる。だから大体のところは「事実らしいこと」は明らかになっている。

 その既に明らかになっている「事実らしいこと」を再確認するだけなら、あまり意味がないが、本書にはまだ広くは知られていない(少なくとも私は知らなかった)事実がたくさん記されている。これは、もっと共有すべき情報ではないかと思った。

 例えば。加計学園問題は当初「第二の森友学園」と呼ばれていた。しかし安倍昭恵さんは、森友学園の小学校の名誉校長より前に、加計学園のこども園の名誉園長になっていた。昭恵さんは「見学に行ってみてはどうですか?」と、籠池夫妻にそのこども園を紹介までしている。森友学園は加計学園を倣った「第二の加計学園」だったのだ。

 例えば。2004年に千葉県銚子市に加計学園の千葉科学大学が開校。この大学の開校に当たっては、内閣官房副長官だった安倍さんが、地元との揉め事の仲裁までしたと言われる。大学側は「将来の総理がバックアップする学校です」とPR。そして加計学園は、この大学新設の時点ですでに「獣医水産学部」を構想していた。

 例えば。加計学園の小学校と米国の小学校の姉妹校提携に絡んで、安倍昭恵さんと下村博文さんの奥さんの今日子さんが、加計孝太郎さんとともに何度も訪米している。...。まだまだある。

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2018年5月13日 (日)

世界史で読み解く現代ニュース

著  者:池上彰、増田ユリヤ
出版社:ポプラ社
出版日:2018年4月 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「未来へのトビラ」という全5巻の「10代の読者におすすめの本を厳選」した選書の中の1冊。元は2014年に刊行された同名の新書で、それにルビを加えて選書化したもの。

 著者は二人。池上彰さんはもう紹介の必要がないだろう。増田ユリヤさんは、高校で歴史を27年間教えていた元教師。最近はコメンテーターとしてテレビにも出演されているそうだ。本書は、増田さんが「世界史をわかりやすく解説」、池上さんが「その世界史が現代とどうつながっているかを解き明かす」という役割分担になっている。

 テーマは4つ。「中国の海洋政策と鄭和」「中東の民族紛争とオスマン帝国」「世界の人権意識とフランス革命」「地球温暖化と産業革命」。「○○と□□」という形にまとめてみた。「○○」が現代ニュース、「□□」が世界史上の出来事。

 それぞれの「○○」と「□□」には、地域性や意義に関連があって、違和感を感じない。しかし例えば、中国による南沙諸島の実効支配を報じるのに、鄭和を持ち出すニュースは見たことがないし、イスラム国やシリアの内戦をオスマン帝国から解説するのは、専門的な番組でなければできないだろう。

 ひとつ特筆すると「オスマン帝国」は、中東情勢だけでなく、旧ユーゴ内戦などのバルカン半島情勢や、ウクライナ紛争などのクリミア半島情勢にも関係している。ということを本書で初めて知った。オスマン帝国は中世の歴史に登場するので「歴史上の国」というイメージだけれど、実際は第一次世界大戦後の1922年まで存続していた。100年前のその崩壊が現代に影を落としている。

 とても勉強になった。分かりやすくするための単純化があって、いわゆる専門家の目からは問題点が見えるかもしれないけれど、「10代の読者」がこれを知る意味は大きい。もちろん大人も知っておくべきだと思う。現代のニュースは、「今だけを切り取って欧米の視点から見た」ものに偏っている。これでは本質が分からない。

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2018年4月 5日 (木)

原発ホワイトアウト

著  者:若杉冽
出版社:講談社
出版日:2013年9月11日 第1刷 12月10日 第9刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 帯に「現役キャリア官僚のリアル告発ノベル!」と大きな赤い字が躍っている。著者はインタビューで、この小説を書いた理由を尋ねられて「いかに国民不在で再稼働を原発推進に向かった進んでいるのかをできるだけリアルに国民の方に伝えたかった」と答えている。

 主な登場人物は3人。日本電力連盟常務理事の小島巌。関東電力の総務部長を経て連盟に出向している。元民放テレビ局アナウンサーの玉川京子。現在は再生エネルギー研究財団の主任研究員。そして、資源エネルギー庁次長の日村直史。キャリア官僚として政財界のウラにまで通じている。

 短いプロローグの後、2013年の参議院選挙の投開票日から物語は始まる。結果は「保守党」が大勝し、衆参両院で過半数を占めることとなった。その夜、小島は「これからの課題」として3項目をレポート用紙にしたためた。「再稼働」「電力システム改革の阻止」「世論対策」。

 物語はこの後、原発の再稼働を目論む小島と日村らの暗躍と、再稼働阻止に動く玉川の動きを描く。この「再稼働か阻止か」のせめぎ合いは、現実がそうであるように「再稼働」が勝つ。物語は、さらにその先を描く。「現実に起きる」と十分に想定できる未来の一つが描かれている。

 ここに書いてあることが真実だとは言わない。しかし著者は「私が直接見聞きしている事実と間接的に見聞きしている事実を元に書いた」と言っている。それに本書で描く、「総括原価方式」を基にした集金・献金システムや、デモ潰しの手法は、詳細かつ具体的で説得力がある。昨今のニュースで思い当たる節もある。

 随所に国民をバカにしたひどいセリフや場面があって、読んでいて顔をしかめてしまうのだけれど、それさえも「あり得る」と思ってしまう。すでにベストセラーだけれど、もっともっと多くの人が読むといいと思う。

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2018年1月17日 (水)

インターネットは自由を奪う

著  者:アンドリュー・キーン 訳:中島由華
出版社:早川書房
出版日:2017年8月25日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 インターネットによって、私たちの生活が便利で快適になった。しかしその裏では様々な悪弊や破壊が起きている。本書はそういったインターネットの負の側面をあぶりだす警告の書。原題は「The Internet Is Not The Answer」(インターネットは解決策じゃない/日本語のタイトルは内容をうまく表せていないと思う)。

 タイトルでわざわざ「解決策じゃない」と謳っているのは、「解決策だ」と思っている人がいて、それがある程度は世間に認められているからだ。インターネットは、「一般の人々に発言権」を与え「多様性」と「透明性」をもたらす。あるいは「社会的・経済的機会」を「平等に広く行き渡らせる」。それは違う、と著者は声高に言う。

 著者によると、シリコンバレーの企業家に、こういうインターネットを礼賛する人が多いらしい。著者自身もシリコンバレーで起業経験があり、現在も起業家や投資家を相手としたサロンを運営している。そこで出会う人々は、疑うこともなく「インターネットが世界を良くする」と考えているそうだ。

 ところが実際に起きていることは、とてもそうとは言えない。経済格差・文化格差は広がり、多様性は損なわれている。皆が知っている分かりやすい例でいうと、アマゾンが書店をドンドンと廃業に追い込んでいる。米国の研究所の調査によると、売上高1000万ドル当たりの従業員数が、実店舗のある書店では47人、アマゾンは14人。米国で2万7000人の雇用を破壊した計算になるそうだ。

 問題視すべきなのは、経済的な破壊だけではない。グーグル、フェイスブック、ツイッターは、私たちの「ライフログ」をお金に換えている。「いつ誰とどこに行ったか」「何を買ったか」「どんなことに興味があるか」。彼らの事業は「個人情報」という商品を生成する工場のようなもの。私たちは、検索したり投稿したりすることで、せっせと商品を生成する。その工場でタダ働きしているようなものなのだ。

 というような、インターネットとシリコンバレーの企業家についての、とてもネガティブな情報が満載。冒頭に書いたように「私たちの生活が便利で快適になった」ことは事実で、そのことにほとんど触れられていない本書は、その意味ではバランスが悪い。しかし、これは知っておくべきこと、意識しておくべきことだと思った。

 最後に覚えておきたい一文を。「彼らのような伝道師がおかしている間違いは、インターネットのオープンな分散型のテクノロジーが、そのまま社会の階層構造および格差の解消につながると決めつけている点である

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2018年1月10日 (水)

ギリシア人の物語2 民主政の成熟と崩壊

著  者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2017年1月25日発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「ローマ人の物語」の著者による新シリーズの第2弾。読むのが2年ほど間が空いてしまったけれど、「ギリシア人の物語1 民主政のはじまり」の続き。

 前作では、スパルタとアテネの成り立ちと、2度にわたるペルシア戦役を描いた。そのペルシア戦役が、前480年のサラミスの海戦、前479年のプラタイアの戦いで、ギリシア諸国が圧勝して終結する。本書はそれから10数年後の前461年に、ペリクレスがアテネを率いるようになった年から始まる。

 その時ペリクレスは34歳。若くはあったけれど、家柄と才能に恵まれていた。いくつかのピンチを乗り越え、時にはそれをチャンスに変えて、アテネと、アテネを中心とするエーゲ海諸国の同盟である「デロス同盟」を治めた。対抗するスパルタとペルシアの王が、共に同年代の英明な人物であったことも幸いした。

 このペリクレスの死までが第一部「ペリクレス時代」。本のタイトル「民主政の成熟と崩壊」をなぞると「成熟」の部分。とすると、第二部「ペリクレス以後」は「崩壊」の部分になる。著者によると、アテネは50年かけて築きあげた民主政下の繁栄を、半分の25年で台無しにしてしまう。

 その第二部は、ペリクレスを代父に持つアルキビアデスを中心にして描かれる。彼も若くしてアテネの指導的立場に立つが、遠征先で本国から告発され、逃亡・亡命、さらに別の場所へと、波乱に富んだ人生を送る。その間にアテネの国力は、そぎ落とされるように弱まっていく。

 著者が描く歴史作品はやっぱり面白い。2500年前の出来事が生き生きと感じられる。エッセイなどでの政治的な発言には、私は同意しかねるのだけれど、それとこれは分けて考える。面白いものは面白いし、好きなものは好きだ。

 「分けて考える」と言った直後に恐縮だけれど、本書を読んでいて、著者の政治的な発言の背景が垣間見えた気がする。著者は「何かを成した人」を高く評価する。そして「成さずに批判した」人には特別に厳しい。

 デマゴーグ(扇動者)が現れて、アテネは「衆愚政」に陥ってしまう。そのデマゴーグの筆頭が、ペリクレスを公金悪用罪で弾劾して名を上げた人物なのだ。現代に置き換えれば「何かを成す人」は政権側の人で、その問題点を追及する野党はデマゴーグ、少なくとも著者にはそのように映っているのではないかと。

 最後に。気になった言葉を。「自信があれば、人間は平静な心で判断を下せるのである。反対に、不安になりその現状に怒りを持つようになると、下す判断も極端にゆれ動くように変わる。こうなってしまうと、民主政の危機にはあと一歩、という距離しかない。

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2017年12月14日 (木)

福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」

著  者:NHKスペシャル「メルトダウン」取材班
出版社:講談社
出版日:2017年9月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、NHKスペシャルの「メルトダウン」という6回シリーズの取材班が、福島第一原発の事故について、6年間にわたる取材によって明らかになったことを1冊の本にまとめたもの。タイトルの「失敗の本質」は、言うまでもなく、大東亜戦争時の日本軍の戦い方を研究した名著「失敗の本質」を倣ったものだ。

 かの本は、旧日本軍の失敗の研究成果を、現代の日本への教訓として活用することを目的とした。同じように本書は、福島の事故を将来の日本への教訓として生かすために、あの時の真相と深層を記録する。

 取材班がまず着目したのは、1号機に付いていた冷却装置の「非常用復水器」だ。英語でアイソレーション・コンデンサー(Isolation Condenser)、通称「イソコン」。電源がなくても原子炉を冷却できる。全電源を喪失した今回の事故のことを考えると切り札的な存在だ。

 この切り札の「イソコン」が有効に働かなかったことが、最大のターニングポイントになった。1号機の冷却が進んでいれば、水素爆発もメルトダウンも起こらなかった、と考えられている。では「イソコン」は動かなかったのか?否、ちゃんと起動した。故障してしまったのか?否、予定通りに動作した。では、なぜ?

 答えをここに書くのは簡単なのだけれど、敢えてそうしない。答えだけを知ると、その原因を作った誰かの「責任」だと思うだろう。その誰かを「犯人」にしてしまうに違いない。でも、この本はそうしたことを望んでいない。本書を読めば犯人探しが目的ではないことは、はっきり分かる。

 それは、特定の誰かが「悪い」と決めたところで「将来の日本への教訓」にはならないからだ。必要なのは「なぜそれが起きたか」「どうすれば防げたか」だ。海水注入を中断させたのは「何と菅総理その人だったのです」なんてメルマガに書いた人がいた。「犯人」を特定して晒して得意がる低俗さを、本書は持ち合わせていない。

 ちなみにこの「海水注入中断」問題についても、本書にとても詳細に記されている。取材班の取材の執拗さから考えて、これがおそらく真相だ。5年半経って重要な事実も判明したのだけれど、これがけっこう切ない。

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2017年12月 6日 (水)

日本会議の研究

著  者:菅野完
出版社:扶桑社
出版日:2016年5月1日 初版第1刷 6月1日 第4刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年のベストセラーで、今年の初めに東京地裁で出版差し止めの仮処分が決定され(後に取り消し)、より一層話題になった本。だから「今さら」感はあるのだけれど読んでみた。(昨年の6月に購入したものの紛失してしまった。ひょっこり出てきたので)

 「日本会議」は、公式サイトによると、「教育の正常化や歴史教科書の編纂事業」「伝統に基づく国家理念を提唱した新憲法の提唱」などを行っている民間団体。それ意味するのは、「いわゆる自虐史観を改めた歴史認識や、個人より国家を優先させる」ことであり、「明治憲法の復元」。「言葉」は物事を表すのと同時に、本質を粉飾することがある。

 まぁ「日本会議」の名前を知っている方なら、これぐらいのことはご存知だろう。さらに言えば民間団体がどんな思想で活動しようと、基本的に問題視されるべきではない。問題は、この団体の主張と安倍政権の政策が気持ち悪いぐらい一致していることだ。

 実は一致しているのは当然で、第3次安倍内閣の閣僚19人のうち16人が「日本会議国会議員懇談会」のメンバー、官房副長官や首相補佐官も5人がそうだ。本書の言葉を借りれば「日本会議のお仲間内閣」なのだ。

 「たくさんいる」と官房長官が繰り返し言っていた「集団的自衛権を合憲とする学者」は3人だった、ということを覚えている人は多いと思う。それは全員、日本会議の関連団体の幹部だった。もっと見逃せないのは、最高裁の元長官も複数が団体の幹部として加わっている。

 この他にも、この国の中枢の様々な場所に、日本会議と志を同じくする人がいる。日本会議の面々はもう何十年もこの活動を続けている。その淵源をたどるとある宗教者に行きつく。本書を読めば、これらのことが説得力を持って分かる。そして背筋が凍る想いがする。

 本書を「結論ありき」だ、「トンデモ本」だと批判する方がいるのは知っている。著者の経歴や人格を問題視する人がいるのも知っている。だけれど、私は、本書に書かれていることは「事実に近い」と思う。

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2017年5月 3日 (水)

ニッポンの裁判

著  者:瀬木比呂志
出版社:講談社
出版日:2015年1月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、各地の地裁、高裁、最高裁で務めた、裁判官として30年あまりのキャリアの持ち主。2012年に大学教授に転身、その前後から著作も多い。本書は2015年に「第2回城山三郎賞」を受賞している。

 本書は、現在の日本の裁判のあり方とその問題点について、具体的な例を挙げながら論じたもの。より端的にくだけた言い方をすれば「日本の裁判はこんなにダメダメな状態になっている」ということが書いてある。

 例えば、日本の刑事司法の有罪率が99.9%であること。その背景には、身柄を拘束して精神的圧迫を利用して自白を得る「人質司法」、「ストーリー」に沿った予断を持った取り調べ、などがある。そして本書のテーマである「裁判」では、裁判官がその「ストーリー」に乗ってしまう。裁判官が正しい(社会常識に照らしてという意味だけでなく、法的な意味でも)結論を出すとは限らない。

 さらに深刻なこともある。裁判官が出す判決は「統制されている」というのだ。最高裁判所事務総局という組織が、研究会や論文発表などを通して、全国の地裁、高裁の判決をコントロールする仕組みがある。重ねて深刻なことに、このコントロールには、その時の政権の意向が大きく働いている、ということだ。

 具体例としては、2001年に名誉棄損の損害賠償額が一気に高額化した例が挙げられている。それまで100万円以下がほとんどだったものが、500万~770万円になった。これは、メディア・週刊誌の政権批判に不満を募らせた自・公両党の突き上げの結果なのだそうだ。衆議院法務委員会でのこれを裏付ける最高裁判所事務総局の答弁も残っている。

 読み終わって裁判所に裏切られた気持ちがした。私たちはイメージとして「裁判所」=「法の番人」=「正義の機関」と思っていないだろうか?三権分立の一角として「最後の砦」と思っていないだろうか?本書を読めば、そんなのは全くの思い過ごしに過ぎないことが分かる。これは相当ヤバイ。

 しかし考えてみれば、裁判所だって最高裁判所長官を頂点としたヒエラルキーなのだ。そして最高裁判所の長官は内閣の指名、判事は内閣の任命。裁判官という専門職が要所を占めていはいるが、実体は官僚組織と変わらない。国有地払下げに関する書類を「すべて廃棄した」と言い、「調査するつもりはない」とうそぶいている、あの人たちと同じなのだ。

 本書を読んだ方が「絶望」してしまわないことを祈るばかりだ。

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2017年4月12日 (水)

アラー世代 イスラム過激派から若者たちを取り戻すために

著  者:アフマド・マンスール 訳者:高木教之ほか
出版社:晶文社
出版日:2016年11月30日 初版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 最近は全く報じられなくなったけれど、ヨーロッパの広い範囲から、イスラム国に参加するために、若者たちがシリアに入国する事態が今も続いている。本書は、この問題に対抗するためにドイツ国内で活動する男性が記したものだ。若者たちが過激な思想を持つに至る過程が分かる。シリアに向かう若者たちに、共感はできそうにないけれど、せめてその行動の理由を理解できないのか?と思って本書を読んでみた。

 著者の名前は、アフマド・マンスール。アフマドという名前が表す通り、彼はムスリムだ。本書の中で詳述されているが、テルアビブ近郊の村で生まれ育った彼は、長じてムスリム同胞団に加わってイスラム原理主義に染まる。その後ドイツに移住し、一度は持った過激な思想を脱した、という経歴を持っているのだ。

 心理学者でもある著者が、ドイツ国内で行っている活動は、ムスリムの若者たちを対象としたワークショップや講演など。彼らの話を聞いて、彼らに話しかける地道な活動だ。その若者たちは、必ずしも過激な思想を持っているわけではない。しかし、手を差し伸べなければ危険な状態にある。タイトルの「アラー世代」はその若者たちを指していて、イスラム過激派が形作るピラミッドの底辺に位置すると見ている。

 ピラミッドの頂点はアルカイダやイスラム国など、現実に凶行に及んでいるグループ。その下にはムスリム同胞団など、イスラム原理主義を支持するグループ。その下にムスリムの若者たち。上の層は彼らを「肥沃な土壌」と見て、様々な働きかけを実際に行っている。だからそれに対抗する必要がある。

 読み終わって「これは大変だ」と思った。著者自身の経験や、その活動の中で得た事例を見ると、「敬虔なイスラム教徒」から「過激派」までが、実にシームレスにつながっている。「イスラム国に参加する」という決断までに「決定的な何か」は必要ないのだ。※誤解があるといけないので言うけれど、過激な思想を持つ可能性があるのでイスラム教徒は全員危険だ、と言いたいのではない。

 最後に。気が付いたことを。日本ではドイツのようなムスリムに関する状況はないが、似たようなことはあるのではないか?ということ。イスラム原子主義では、コーランに疑問を持ったり解釈したりしてはいけない。「イスラム」が善で「イスラム以外」は悪とされる。複雑で多様な社会状況で判断が難しい中、悩まなくてもいいシンプルな答えが歓迎されている。

 さて、日本にいる私たちにも、何かに疑問を持つだけで排斥される、あるいは排斥するような空気はないか?「私たち」と「私たち以外」に分けて、「自分たちが正しい」「相手が間違っている」という考えに安住していないか?原理主義は音もなく近付いて、もうそこまで来ているのかもしれない。

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2017年1月26日 (木)

鈴木敏文 孤高

編  者:日経ビジネス
出版社:日経BP社
出版日:2016年12月27日 第1版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 編集の日経ビジネスさまから献本いただきました。感謝

 本書は、昨年4月にセブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEOを退任された、鈴木敏文氏の半生、1963年のイトーヨーカ堂入社後の53年間を記したもの。日経ビジネスは1970年代以降、鈴木氏に繰り返しインタビューしていて、退任後も延べ10時間にわたる単独インタビューを行ったそうだ。

 流通業に関わる人で「鈴木敏文」の名前を知らない人はいないだろう。セブン-イレブン・ジャパンの実質的な創業者、いや、コンビニエンスストアという、今や生活のライフラインともいえる、業態そのものを生み出した人。そして、コンビニのセブン-イレブンを核に、流通業の一大帝国を築き上げてそこに君臨したカリスマ経営者だ。

 上に書いたように、日経ビジネスでは数多くのインタビューを行っていて、それを再編集して本書を構成している。いわばその時々の「肉声」を記録しているわけで、その迫真性は「肉声」ならではのものだ。鈴木氏のセブン-イレブンにかける思い、創業者の伊藤雅俊氏との絶妙な距離感、そして帝国の君臨者としてのわずかな危うさまで、とてもよく伝わってくる。キーワードは「変化対応」

 基本的には、鈴木氏サイドからの話しか収録されていないので、別の立場からは異論もあるだろう。しかし、同時期に勃興した中内氏のダイエーや堤氏のセゾングループなどが、次々と失速する中を勝ち抜いて、最強の流通帝国を築いた業績は、誰にもマネのできないものであることは確か。読み応えあり。

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