3.ミステリー

2017年6月28日 (水)

真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥

著  者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2017年6月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「まよパン」シリーズの第6弾。舞台となっているパン屋「ブランジェリークレバヤシ」の営業時間が午前5時で、前作のタイトルが「午前4時の共犯者」だから、今回が最終巻、という予想ができた。その予想通りについに完結。

 これまでを振り返ると、主人公の女子高校生の希実は、「ブランジェリークレバヤシ」の亡くなった奥さんの美和子の腹違いの妹、ということで転がり込んできた。しかしそれはウソで、もっともっと入り組んだ事情があった。そのあたりの事情が、前作であらかたあきらかになった。

 そして、希実と「ブランジェリークレバヤシ」には、希実にまつわる事情を同じぐらい入り組んだヤヤこしい人たちが集っている。夜中に徘徊する小学生、でかいけれど超美人のニューハーフ、のぞき魔の変態、腹話術の人形を抱えた高校生、裏社会で生きてきた飲食店経営者、結婚詐欺師の女と双子の姉妹...。

 読み始めると、「のぞき魔の変態」が主人公になっている??結婚して3歳の子どもがいることになっている???そんな記憶がまったくないのだけれどどういうことかと訝しんでいると、おぼろげに分かってきた。どうやら前作から5年ほど経っているらしい。「ヤヤこしい人たち」も含めて、それぞれが新しい道を歩み出している。

 最終巻はどんな結末になるのか?と期待していた。特に「こんな結末かなぁ?」と予想していたものはないのだけれど、この「5年後」の設定に「こう来たか!」という驚きがあった。それぞれの人に5年の歩みがあって、変わったこと、前進したことがある。しかし修復できなかったこともある。読み終わってみると「この結末しかない」という納得の最終巻だった。

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2017年5月21日 (日)

ヒア・カムズ・ザ・サン

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2014年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第10弾。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。前作の「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」の続き。「東京バンドワゴン」を営む堀田家の1年を描く。

 今回も、大小のミステリーと人情話が散りばめられている。ミステリーの方は、白い影が見えるとかすすり泣きが聞こえるとかの幽霊騒ぎ、近くの区立図書館に古書が置かれるという謎の事件、宮内庁からの招かざる客、等々。

 人情話の方は、ご近所の青年の恋愛がらみの騒動や、以前に堀田家に救われたかつての不良少年(今は一児の父)の話、万引き少年の更生の機会、等々。それから、今回は少し悲しい別れもいくつかある。

 前作のレビューで「子どもたちの成長が楽しみになってきた」と書いたけれど、今回はその成長をはっきりと感じることができた。高校2年生の花陽ちゃんの啖呵がよかった。そして、登場回数は多くなくても、今回の一番の主役は、中学3年生の研人くんだ。何とも甘酸っぱいことになった。

 このシリーズのタイトルは、第1作を除いてビートルズの曲名(第3作「スタンド・バイ・ミー」はジョン・レノンによるカバー)。これまではその巻のイメージに「何となく合っている」感じだった。今回は、ストーリーにうまくはまっている。

 Here comes the sun, and I say It's alright. ♪

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2017年4月 6日 (木)

ビブリア古書堂の事件手帖7

著  者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2017年2月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 人気ベストセラーシリーズの第7巻。本書の発売に合わせて、実写とアニメの映画化が発表されている。ストーリーもキャストも公開時期さえ未発表で「詳細は後日」という異例の告知だけれど。

 「古書にまつわるミステリー」をテーマにしてきたこのシリーズは、短編ごとに別の古書が登場する短編集の巻と、1冊の本を追いかける長編の巻がある。第7巻の本書は長編の体裁。そして本書でシリーズは完結する。

 完結編の本書で、主人公の大輔と栞子が追う本は、シェイクスピアの作品集。ファースト・フォリオと呼ばれる、17世紀に出版された最初の作品集で、その1冊がサザビーズで約6億円の値が付いた、というシロモノだ。その本は栞子の祖父の因縁の品物で、母の失踪とも関係している。

 前作の第6巻は、栞子を取り巻く新たな謎を加えて、シリーズの構造をドンドン重層的に複雑にした。本書は(完結編ということもあって)、その複雑さを解きほぐす役割を持っている。だから物語が一方向に流れて行く感じなのだけれど、それでも幾つかのヤマがあって、やっぱり最後まで気が抜けなかった。

 これで完結ということで、著者には「ありがとう」と「お疲れさま」と声をかけたい。それまで1年を空けずに巻を重ねて来ていたのに、今回は2年以上も空いての発行だった。「あとがき」によると「今度こそ書けないと思う瞬間が何度もありました」ということだ。

 さらにうれしいことに「番外編やスピオンオフという形で「ビブリア」はまだ続きます」という。いつ公開されるかもわからない映画も気になるけれど、スピンオフ作品が今から楽しみだ。

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2017年3月16日 (木)

罪の声

著  者:塩田武士
出版社:講談社
出版日:2016年8月2日 第1刷 12月1日 第8刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。昨年の山田風太郎賞受賞作でもある。

 本書は、1984~85年に起きた「グリコ・森永事件」を題材にした作品。30年あまり前の事件だけれど、40代以上の世代の人なら覚えているだろう。お菓子や食品のメーカーを標的とした企業脅迫事件。「毒入り」のお菓子がスーパーにバラ撒かれた凶悪な事件。未解決のまま2000年に時効が成立した。

 主人公は二人の男性。一人は曽根俊也。「テーラー曽根」という洋服の仕立て屋の二代目。もう一人は阿久津英士。大日新聞社文化部の記者。ともに36歳。物語は、俊也が自宅でカセットテープを見つけるところから始まる。そのカセットテープには、30年前の事件で使われた男児の声が録音されていた。

 30年前の事件というのは、日本を代表するお菓子メーカーの「ギンガ」と「萬堂」などの食品メーカーを標的にした脅迫事件。当時は「ギン萬事件」と呼ばれていた。大日新聞では「昭和・平成の未解決事件」の特集を企画していて、英士はその応援として文化部から社会部に駆り出され、「ギン萬事件」を追うことになった。

 登場するメーカー名も新聞社名も架空のものだし、わざわざ断るまでもなく、これはもちろんフィクションだ。でも積み重ねられるエピソードの多くが、「グリコ・森永」で起きたとおりに使われている。だから展開には迫真性があるし、それは本書で提示した「真相」を、本当に「こうだったかもしれない」と思わせるのに成功している。

 ありゆる「真相」を提示したことで、本書が評価されたのは要因のひとつだけれど、私はもうひとつあると思う。それは「事件の後」に焦点を当てて丁寧に描いたことだ。「事件」というドラマの後にも人々の暮らしは続く。角田光代さんの「八日目の蝉」は、その暮らしを描いたものだった。そこにもドラマはある。本書にもそれはある。

 最後に。「グリコ・森永事件」の時には、私は京都に住む大学生だった。関西の様々な場所が「事件の現場」になったけれど、私がよく使っていたコピー屋もそのひとつだった。それ以上のことは特にないけれど。

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2017年3月12日 (日)

イノセント・ゲリラの祝祭

著  者:海堂尊
出版社:宝島社
出版日:2008年11月21日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「チーム・バチスタの栄光」から始まる「田口・白鳥シリーズ(著者は「東城大学シリーズ」としているそうだ)」の第4作。今回はこれまでと違って医療の現場は出てこない。舞台は主に「会議室」だ。

 主人公はこれまでと同じ。東城大学医学部付属病院の講師田口公平。田口は旧知の厚生労働省のはみ出し技官、白鳥からの病院宛の依頼によって「医療関連死モデル事業モデル特別分科会」という会議に出席する。それは法律家の正論と大学病院の教授の愚痴に終始する退屈な会議だった。

 ただ退屈な会議は、その後に続くドラマの前哨戦で、白鳥が田口をこの会議に呼んだのもそのドラマへの布石だった。そのドラマというのは「死因究明」にあたっての、医療と司法のあり方に関する、守旧派、革新派などの様々な立場のせめぎ合い、といえる。本書ではそれを、会議という場での発言として描いている。

 本書はフィクションだけれど、俎上に載せられるテーマも統計的な数値も事実に即したものだ。やたらと「濃いキャラクター」が多く登場するので、コメディっぽく感じてしまうけれど、これまでのシリーズを通して、問いかけてきたものは、意外なほどずっしりと重いものだった、ということだ。

 前作「ジェネラル・ルージュの凱旋」のレビューで「シリーズの主題がよく見えてきたように思う」と書いたけれど、それは本書でより鮮明になった。ただし、これからどこに向かうのかは分からない。

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2017年2月25日 (土)

RDG レッドデータガール 夏休みの過ごし方

著  者:荻原規子
出版社:角川書店
出版日:2010年5月30日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「RDG レッドデータガール はじめてのお使い」 「はじめてのお化粧」に続く第3巻。

 主人公は鈴原泉水子。熊野古道に近い山深い神社で育ち、東京郊外の鳳城学園という私立高校に進学。今は1年生。成り行きもあって生徒会執行部に所属しているが、前に出るタイプでも人をまとめるタイプでもない。ただ普通の女子でもない。彼女は「姫神憑き」という、その身に神が降りる体質?なのだ。

 今回、生徒会執行部は学園祭の企画をまとめるために、夏休みに合宿をすることになった。泉水子のルームメイトの宗田真響の地元の長野県戸隠で。高校生の男女が、避暑地に行って合宿。これが青春小説ならば、恋のひとつやふたつは生まれそうなシチュエーションだけれど..そういうことは起きない。

 真響も普通の女子ではなくて、戸隠忍者の血を引いていて、神霊を呼び出したりすることができる。合宿を言い出したのは真響で、思惑があってのことだった。その思惑が大小の事件を引き起こす。さらに、戸隠は修験の地、戸隠山は霊山。泉水子たちの行いが、封じられた「たいへんなもの」を招き出してしまう...。

 今回舞台となった戸隠に、私は少し縁があって、何度か足を運んだことがある。登場する地名やお社の名前は全部わかるし、そのあたりの雰囲気も思い浮かぶ。それが楽しかったし、「あそこなら、こういうことが起きても不思議じゃない」と思う。

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2017年2月18日 (土)

どこかでベートーヴェン

著  者:中山七里
出版社:宝島社
出版日:2016年6月8日 第1刷 7月16日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「さよならドビュッシー」から始まる「岬洋介シリーズ」の最新刊。既刊の「おやすみラフマニノフ」「いつまでもショパン」は、比較的短い期間の時系列順の刊行だったが、本書は一気に時代を遡る。岬が高校生、17歳の時の物語だ。

 主人公は鷹村亮。県立加茂北高校の音楽科の生徒。音楽科と言っても、「楽器の演奏が得意」「音楽が好き」といったレベルの生徒たちが在籍している。そのクラスに岬が転入してきた。後に見せる音楽の才能は既に開花していて、他の生徒たちとは全く別次元の技量を持って。

 イケメンで数学もできる(頭がいい)ということで、特に女子生徒の歓待を転入当初は受けた。ただ、あまりの自分との違いを、身近にいる同世代に見せつけられると、人の心は歪んでしまう。徐々にクラスから浮き上がり、岬に対する露骨ないじめまでが行われる。そんな時に殺人事件が起きる。被害者はクラスメイト。

 なかなかスリリングな展開だった。イケメンの転校生登場の導入部。豪雨による災害の中、高校生が校舎に取り残されるというサスペンスと脱出の歓喜。一転して陰鬱なトーンに..。このシリーズは「音楽が聞こえるような演奏の描写」が特長だけれど、物語の構成も4楽章からなる交響曲のようだ。

 今回、時代を遡ったことは読者にとって意味がある。それは岬洋介の過去が語られたことだ。「さよならドビュッシー」で突然に現れた天才ピアニストは、いろいろなものを背負っていた。致命的な病、父との確執。そういうことの一端が明かされる。

 こうなってくると気になることがある。本書と「さよならドビュッシー」の間には、埋められていない断絶がある。いかにして彼は再帰を果たしたのか?それが語られることはあるのだろうか?

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2017年2月 5日 (日)

雪煙チェイス

著  者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2016年12月5日 初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「白銀ジャック」 「疾風ロンド」に続く、スキー場シリーズの3作目。

 主人公は脇坂竜美、大学でアウトドアスポーツのサークルに所属していた4年生。身に覚えのない殺人事件の容疑者として、警察に追われる身になった。竜美自身の不用意な行動が基で、警察の心証はマックロ。

 犯行の時間にはスキー場にいた。そのアリバイを証明してくれるのは、そこで出会ったスノーボーダーの女性だけ。名前も知らないその女性を探しに、僅かな手がかりを辿って里沢温泉スキー場へ、竜美は警察の捜査をかいくぐって向かう。

 物語は、竜美と竜美を追う刑事の2人を中心にして、追いつ追われつの追跡劇を描く。里沢温泉スキー場は、前作「疾風ロンド」の舞台でもあるから、そこで活躍した面々も当然登場する。「白銀ジャック」からの根津昇平と瀬利千晶も。魅かれ合っている2人がどうなるのかもちょっと楽しみ。

 本当に面白かった。3作すべてに共通する「無責任な上司」の無責任ぶりと部下のトホホな感じが、哀しくも面白い。旅館の男前な女将さんが素敵。そして何度も何度も「今度こそ」という期待を裏切るストーリーが楽しい。

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2017年1月14日 (土)

剣より強し(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2015年7月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「追風に帆を上げよ」に続く、超長編サーガ「クリフトン年代記」の第5部。

 前作ではハリークリフトンの妻のエマが会長を務める、バリントン海運の新造旅客船「バッキンガム」の大西洋横断の処女航海のシーンで終わっている。テロリストが紛れ込んで爆発物を仕掛け、轟音が轟いた。本書はその場面の少し前から始まる。「バッキンガム」の浮沈は、クリフトン-バリントン一族の浮沈にも関わる。

 そしてテロリストが仕掛けた爆発物は、確かに爆発した。バッキンガムは辛くも沈没を免れたものの、バリントン海運は大きな痛手を受けた。本書はこうした「最悪を免れたものの、大きく後退」という状況からの、一進一退の気の抜けない攻防が描かれる。

 これまでのシリーズを通して「著者らしい」物語が続いていたけれど、本作は中でもそうだ。著者の筆運びがノリにノッている感じがする。陰謀あり、サスペンスあり、法廷劇あり、取締役会での解任劇あり、丁々発止の金融戦争あり。著者は、こんなにも多彩なストーリーを紡ぎ出す人だったのだな、と改めて気づく。

 最後に。前作のレビューの最後で「主人公がハリーから息子のセバスティアンに移った」ということを書いたが、それは誤りだった。本作ではハリーが007ばりの活躍を見せる。まだまだ楽しませてくれそうだ。

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2016年12月28日 (水)

疾風ロンド

著  者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2014年12月25日 初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「白銀ジャック」の続編。11月に阿部寛さん主演で公開された同名の映画の原作。

 主人公は栗林和幸。泰鵬大学医科学研究所の研究員。大学院卒業後23年間、この研究所に勤めていると言うから、50歳手前というところか。その研究所から生物兵器並にに毒性の強い「炭疽菌」が持ち出された、というのが物語の発端。

 「炭疽菌」を持ち出した犯人は、研究所の元研究員。炭疽菌をケースに入れて雪の中に埋めた。摂氏10度以上になるとケースが割れて中身が拡散する。要求額は3億円。とここまでが、冒頭で明らかにされる。それともう一つ、犯人は炭疽菌を現場に残したまま、交通事故で死んでしまう。

 そんなわけで栗林は、残されたわずかな手がかりを基に、持ち出された炭疽菌の回収に挑む。上司である研究所長の厳命によって、警察には知らせない、協力者にも真相を明かしてはならない。どうやらスキー場に埋められたらしいが、栗林のスキーの腕前はボーゲンレベル。それも20年以上前。ミッション・インポッシブル。

 そのスキー場に「白銀ジャック」にも登場した、パトロール隊の根津昇平と、スノーボードの選手の瀬利千晶がいた。物語に前作とのつながりは殆どないけれど、彼らの活躍と、同じようにスキー場が舞台になる前作の事件との類似性もあって「続編」という位置づけでいいだろう。

 父子の関係や、淡い恋心や、家族の絆や、スポーツ選手の憂い、などなどを織り込んだ、大立ち回りありの活劇。面白かった。これは映画向きの物語だと思う。きっと映画も面白いだろう。

 映画「疾風ロンド」公式サイト

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