3.SF・ホラー・ミステリー

2009年10月31日 (土)

バジャーズ・エンドの奇妙な死体

著  者:ケイト・キングズバリー 訳:務台夏子
出版社:東京創元社
出版日:2009年9月11日 初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「ペニーフットホテル受難の日」に続くシリーズ第2弾。時代は1906年、舞台は英国南東部の海辺の静かな村バジャーズ・エンド。主人公はその村のホテルの女主人セシリー。セシリーとその友人たち、ホテルの従業員らの個性が物語に活気を与えている。
 ホテルの中だけで物語が進行した前作と比べ、今回はバジャーズ・エンドの街に舞台が拡がって、人々の活気が感じられる。ティールームで紅茶とケーキとおしゃべりを楽しむ婦人たち、パブでビールを飲んでダーツに興じる男たち、百年前の暮らしが活き活きと目に浮かぶ。

 前作で描かれたホテルの中での殺人事件から数カ月足らず、今度は入り江の灯台建設の現場監督が自宅で不審死を遂げる。当初死因は心臓発作と見られていたが、全身が青く変色していてどうやら薬物による中毒死らしい。
 その後にも同様の不審死事件が起こり、セシリーの友人やホテルの従業員にも嫌疑がかかる。友人を大切にし、従業員を家族のように想っているセシリーは、支配人バクスターの制止も聞かず、真相究明のために行動を開始する。

 二転三転という感じの盛り上げ方はないものの、ミステリーとして「事件の犯人は誰なのか?」という、物語のタテ糸がしっかりしていることは言うまでもない。本書の魅力はヨコ糸とも言える、新旧とりまぜた登場人物たちが繰り広げる人間模様にもある。(愛すべきメイドのガーティにはもっとしっかりして欲しい)
 さらに、シリーズを通して描かれるのだろうと私が期待する、セシリーとバクスターの心模様からも目が離せない。セシリーの胸を小さくときめかせた一言が今回の進展。じれったくなるほど進まないのだ。
本書だけでも楽しめるが、前作から続けて読むことをおススメする。

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2009年10月17日 (土)

オペラ座の怪人

著  者:ガストン・ルルー 訳:三輪秀彦
出版社:東京創元社
出版日:1987年1月23日 初版 1988年3月25日 4版
評  価:☆☆☆(説明)

 スーザン・ケイさんの「ファントム」を読んで、どこまでが原作の本書にあることで、どこからはケイさんの創作なのかが気になったことがきっかけで再読した。本書は、多くの映画化、ミュージカル化がされているが、私は20年前に劇団四季のミュージカルを観た。さすがに記憶はあいまいになっているが、いくつかのシーンは今でも思い出せる。

 物語は語り手(著者)によって行われた、30年前にオペラ座で起きた一連の事件の調査結果として語られる。事件を要約すると、オペラ座で不可思議な事件が続いた後、客席のシャンデリアの落下という痛ましい事故が起き、一人の歌姫が誘拐され、伯爵が謎の死を遂げ、弟の子爵が行方不明になった、ということだ。
 オペラ座での不可思議な事件を、様々な目撃証言を基に「オペラ座の幽霊」の仕業とする噂は当時からあった。調査の結果、その「オペラ座の幽霊」を知っているという「ペルシャ人」の証言と所有する証拠によって、事件の詳細な真相が幽霊の存在とともに明らかになった。

 事件の詳細はここでは書かない。本は読んでいなくても映画やミュージカルを観てご存じの方もいるだろうし。ただ、少なくとも私が観たミュージカルは、エリックのクリスティーヌへの愛を中心に据えた物語となっているが(だからこそ20年の時を超えて現在まで続くロングランになっているのだと思う)、原作は怪奇小説の色合いが濃い。
 だから、この原作を基に愛の物語が数多く作品化されたことに少し驚く。それにはエリックに対する共感なり理解が必要で、さらにそれにはエリックの生い立ちが重要になると思う。そしてそれは、エピローグの中にわずか2ページ、ペルシャ人の話として語られているだけなのだ。「ファントム」はここの部分をエリック一代記にまで昇華させたものと言える。
 また、本書は今年が発表からちょうど100年。あの2ページによって、スーザン・ケイさんに「ファントム」を書かせ、100年後にも熱狂的なファンを得る作品として残ったわけだ。

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2009年10月16日 (金)

ファントム(上)(下)

著  者:スーザン・ケイ 訳:北條元子
出版社:扶桑社
出版日:1992年7月15日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「雑読記」のあがささんに、ご紹介いただいて読みました。感謝。

 本書は、ガストン・ルルー原作の「オペラ座の怪人」の怪人(ファントム)エリックの、生い立ちからオペラ座の事件のその後までを描いた一代記。「オペラ座の怪人」は、エリックの最後の6ヶ月を描いたもので、そのストーリーには多くの謎めいた記述があり、エリックにはどんな過去があるのかと想像を逞しくしてしまう。著者はその想像を、恐らくはエリックへの愛を原動力として作品に書き上げたのだと思う。
 「オペラ座の怪人」は、何度も映画化され劇画になりミュージカルとして上演されている。それを観て仮面の怪人であるエリックのファンになったと言う人がたくさんいるらしい。著者もその一人で、巻末の作者覚書によると、1967年に発表された劇画を先に読んで、ファントムについてもっと知りたいと思ってルルーの原作を読んだそうだ。

 物語は、エリックの誕生の瞬間から始まり、幸せとは言えない、いやはっきり言って悲惨な少年時代、ローマでの建築の修行時代、原作でも触れられるペルシャ時代を通して、エリックその人がどのように形成されてきたかを丁寧に描く。原作でやや突拍子も無い印象を与える行動の理由が、本書には記されている。
 面白い物語だった。少年エリックの境遇には心が痛くなったし、ペルシャ時代は怪人の片鱗が感じられ、原作に登場する謎の人物「ペルシャ人」の正体も明らかになった。怪人(ファントム)の一代記としてとてもよくできた作品だ。

 ただ私は最後までエリックを好きにはならなかった。著者のエリックへの愛が勝ちすぎて、エリックが何をしようと許してしまうかのようなのがその理由。生来背負うことになった醜さ、それ故の悲惨な少年時代が人間形成に影響を与えていることは分かる。しかし、それは免罪符にはならない、と私は思うのだ。
 本書はエリックが好きかどうかで感想が変わる。「オペラ座の怪人」を観たり読んだりして、エリックのファンだという人に強くオススメ。エリックの過去に興味があるという人には普通にオススメ。

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2009年8月 6日 (木)

何か文句があるかしら

著  者:マーガレット・デュマス 訳:島村浩子
出版社:東京創元社
出版日:2009年6月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者のデビュー作。2003年の英国推理作家協会のデビュー・ダガー賞にノミネートされた作品。デビュー・ダガー賞というのは公募の未発表作品に対する賞。要するに新人作家の登竜門のような位置付けなのだろうと思う。
 ノミネート作品であって受賞作ではないし、「セレブ探偵と旦那様の華麗なる(?)活躍」という帯の惹句からは、何だか薄っぺらい「主婦探偵モノ」が想像されたのだが..、これは面白かった。

 主人公チャーリーは「小国の財政をまかなえるほど」のサンフランシスコに住むお金持ち。「それなのに」と言うか「それなので」というか、「西半球でいちばん恋愛が困難な女」と言われ、結婚なんてしないと思われていた。その彼女が知り合って6週間のジャックと、ロンドンで電撃結婚して帰国する飛行機が冒頭のシーン。
 それで帰国して泊まったホテルの浴槽に女性の死体があったり、従姉妹が誘拐されたり、出資する劇団にトラブルがあったり、と事件が次々と起きる。それを、チャーリーが持ち前の行動力と機転で次々と見事に解決...、という話ではない。それでは薄っぺらい「主婦探偵モノ」だ。(それでも、その主婦がゴージャスな女性というだけで、テレビではウケそうだけれど)

 ではどういう話か、を言ってしまっては、読む楽しみが半減してしまう。サイコ殺人と007シリーズをミックスして、米国流のジョークをまぶして、カラっと揚げたような作品とだけ紹介しておく。
 ところで、原題は「Speak Now」キリスト教式の結婚式で読みあげられる「この結婚に異議のあるものは、いますぐ申し出なさい」という意味の言葉。知っているとより物語が楽しめるかも。

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2009年6月10日 (水)

ペニーフットホテル 受難の日

著  者:ケイト・キングズバリー 訳:務台夏子
出版社:東京創元社
出版日:2009年5月15日 初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 海外のテレビドラマのような本だった。「犯人は誰だ」的な軽めのミステリーだ。テレビの場面転換を思わせる短めの章建て。個性的なキャラクターたち。活動的な女性の主人公。それを忠実に支える男性。日本に設定を変えて2時間ドラマにしたらウケるかもしれない。

 舞台は、英国南東部の海岸沿いの小さな村。時代は1906年、5年前に即位したエドワード王時代。と言ってもピンとこないと思うが、エドワード王時代の前が英国の絶頂期と言われる「ヴィクトリア朝」時代。だから、国は繁栄していたけれど、階級社会であり女性には参政権もなかった時代だ。
 そして主人公は、亡夫からこの海辺のホテルを受け継いだ女主人セシリー。ホテルは取り立てて何もない村のホテルだが、上流階級の人々に人気で、良いお客に恵まれてそれなりに繁盛している。プライバシーが守られ、従業員の口が堅いことが、お忍びの旅行に最適というのが人気の理由。ただし、登場する個性豊かで詮索好きなメイドたちからは、そんなことは想像できないけれど。

 そのホテルである日の夕方、宿泊客の1人が遺体で発見される。どうも手すりの壁が崩れて屋上庭園から落ちたらしい。事故ならホテルの管理責任を問われる。殺人事件なら...。
 というわけで、セシリーは警察が到着する前に(田舎なので警察もすぐには来ない)、事件の真相を解き明かそうと、支配人のバクスターの助けを得て行動を開始する。バクスターは亡夫の時代から忠実に仕えてきた。そしてセシリーが何かしようとするたびに「ご婦人がそのようなことをなさっては..」と止めるのだが、結局はいつもセシリーの指示通りに協力する。

 舞台は英国ながら、本書が書かれたのはアメリカ。そのアメリカでは1993年の本書の発表以来人気シリーズとなって、12作で一応の完結を見たものの、ファンの声の後押して今でも年に1作が発表されているという。日本語の第2作がこの秋に刊行予定というから楽しみが1つ増えたというものだ。

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2009年4月27日 (月)

仮面の大富豪(上)(下)

著  者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2008年10月30日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「マハラジャのルビー」に続く、「サリー・ロックハートの冒険」シリーズ4部作の2作目。前作で父親の死をめぐる陰謀を切り抜けてから6年後、サリーは、6年の間にケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業、今は「財政コンサルタント」をしている。年はなんと弱冠22歳だ。
 前作でサリーを助けて活躍したガーランド写真店のフレデリックは、共同経営者としたのサリーの助けもあって写真店の経営は盛り直し、趣味の探偵稼業にもいそしんでいる。サリーとフレデリックは自然な成り行きで恋人同士となっているのだが、何やら微妙な感じだ。

 ここまでは、本書の物語が始まる前の話。本書の物語は、サリーが顧客の訪問を受けるところから始まる。サリーが薦めた投資先の海運会社の貨物船が沈没し、その後会社が倒産してしまった、というのだ。倒産に至る経緯に疑問を持ったサリーは調査を始める。そして、背後にある大きな陰謀を付き止め、サリー自身がそれに巻き込まれていく。
 フレデリックらのサポートを受けて、サリーが才覚と行動力で困難を乗り越えて行くのは前作と同じながら、今回の作品には実に色々な要素が散りばめられている。ビクトリア朝時代の英国での女性の自立の難しさ、降霊術などの怪しげな科学といった時代背景と、このシリーズの大きな節目となるであろう、サリーとフレデリックの関係の行方など。政界財界だけでなく国際政治なども絡んで、一回り物語のスケールが大きくなっている。

 田中芳樹氏の解説にもあるが、「あれっ」っと思うところもある。これでいいのかな?という感じもする。もしかしたら次回作に続く伏線なのかもしれない。だとしたらどのように反映されるのか?次回作と言えば、前作のレビューの最後に「第2作には(私のお気に入りの)ローザは登場するのだろうか?」と書いたが、本書では活躍の場面はなかった。次回作ではどうなのだろう?

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2009年2月 3日 (火)

エジプト十字架の謎

著  者:エラリー・クイーン 訳:井上勇
出版社:東京創元社
出版日:1959年9月初版 2006年9月70版 2009年1月9日新版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 著者の作品を読むのは初めて。この作品は、初期に発表された「国名シリーズ」の1冊で1932年に発表されたものだ。なんと私の父親が生まれたころだ。その作品がこの度新版として発売されたのだから、著者の人気の息の長さが分かる。

 何だか久しぶりの体験だった。「犯人が誰なのか」にこんなに集中して読んだのは、中学生のころクリスティを読み漁っていたころ以来かも。ページ数が9割進んだところで(推理に必要なすべての事柄が語られたところで)、「誰が殺人犯人か。(中略)りっぱな推理と、幸運を祈る」と書かれた「読者への挑戦状」というページがある。突きつけられた挑戦は受けねばならない、ということで、しばし沈思黙考。..そして敢え無くギブアップした。

 物語は、衝撃的な事件で始まる。田舎町の小学校長がT字路で、道標にTの字に張り付けられた首なし死体で発見される。そして被害者の家の扉には血で書かれたTの文字。執拗に繰り返されるTの文字の事件。タイトルの「エジプト十字架」は、エジプトの古い信仰のシンボルで、縦木が突き出していないT字形をしているらしい。そして、この事件にもその信仰が関わっているのか?
 主人公は、ニューヨーク市警の警視の息子で、その名もエラリー・クイーン。数々の難事件を解決に導いたという実績があるらしく、地元警察の扱いも別格だ。彼が警察の捜査に立ち会い、誰もが見落とした僅かな痕跡から真実を明らかにしていく。推理小説、探偵小説の醍醐味だ。そして、推理に必要な事柄が十分に明らかになったところで「読者への挑戦状」となる。(もちろん、最後の1ピースは分からないままだ。この後、この最後の1ピースがエラリーによって明らかにされ、一気にパズルが完成するように事件が解決するのだ)

 まぁ、私の場合は「挑戦状」をまともに受けて推理しようとしたわけだけれど、そういう読み方も良し、エラリーの名推理を楽しむのも良し。推理小説の古典だが、今どきのミステリーファンにもおススメだ。

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2009年1月12日 (月)

容疑者Xの献身

著  者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2008年8月10日第1刷 2008年9月15日第5刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 オススメしてくださる方は多かったものの、今まで読む機会がなかった東野圭吾。テレビドラマに映画にと、次々と原作が映像化されていて、当代きっての売れっ子作家、という印象。中でも評判の高い(第6回本格ミステリ大賞/第134回直木賞/2006年度版「このミステリーがすごい!」の第1位など)本書を、文庫版で読んだ。

 これは、確かに面白かった。物語は、隣家で起きた殺人事件に、高校教師の石神が絡むところから始まる。彼は、天才的な数学者で、並はずれたその頭脳を使って事件の偽装を図る。そして、テレビや映画で福山雅治が演じた天才物理学者の湯川が、その事件の真相に迫る。「天才 対 天才」の対決、というわけだ。
 殺人事件の真相は最初から明らかになっているので、「犯人探し」のミステリーではない。石神が行った偽装工作という謎を湯川が解き明かしていく、「謎解き」のミステリーだ。もちろん、読者も(私も?)その謎解きに挑むことになる。

 そのために途中で、何度も何度もページを戻って読み返した。ちょっと気になる展開があると、「この話は前のあの部分と関係が...」なんて具合だったので、なかなか読み進まない。もっと純粋に物語を楽しむ読み方もあるだろうに、私は凡人の分際で天才に挑んでいたわけで、思い返せば恥ずかしい。
 こうした分をわきまえない読み方のおかげで、途中で偽装工作のあらましには考えが及んだ、と思った。しかし、その考えは的外れではないものの、著者はさらに二重三重のトリックを用意していて、結果的には私の完敗(勝手に挑んでいただけだけど)。一本負けで負けて爽快、と言う感じ。私の最初の東野圭吾体験は、実りあるものになった。

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2009年1月 7日 (水)

マハラジャのルビー

著  者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2007年5月30日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 映画化された「ライラの冒険」の著者が、ライラ・シリーズに先立つ10年間(1985~1994年)に出した「サリー・ロックハートの冒険」シリーズ4部作の1作目。シリーズは、日本では2作目の「仮面の大富豪」までが出ている。「本が好き!」プロジェクトで見かけて覚えていたので読んでみた。ちなみに「ライラ」の作者だとは、表紙裏の紹介を読むまで知らなかった。

 ファンタジーかと思ったが、魔法はなし、異世界もなし。その代わり、麻薬の売買や密輸、裏切りなどが複雑に絡んだ、なかなかしっかりしたミステリーだった。主人公は、サリー・ロックハートという16歳の女性(少女というには微妙な年。しっかりしているし)。海運業者の経営者だった父を、船の事故で亡くし天涯孤独の身になった。ある日謎めいた手紙が届き、父の死には隠された秘密があるらしいことに気づく、というところから物語は滑り出すように始まる。

 登場人物が素敵だ。時代は1872年、場所は英国、ビクトリア朝のロンドン。主人公サリーは会社経営者の娘らしく「お嬢様」なのだが、父親が娘が好きに学習するに任せた結果、英文学、歴史、美術、音楽などのお嬢様らしいたしなみは皆無だ。その代り、軍の作戦、簿記、株式市場の動き、と実用性が抜群の知識を持っている。実際、これらの知識がサリーに仲間を作り、その身を助けることになる。
 そのサリーの仲間たちも実に魅力的だ。写真家のフレデリックと、その姉で女優のローザ。サリーは2人が居る写真館に身を寄せることになるのだが、住人が増えることにも、サリーが写真館の経営に口出しすることにもイヤな顔ひとつ見せない。それどころか、その才能を高く買って采配を任せ、自分たちはサリーが抱える問題の解決のため、その身の危険を顧みず協力するのだ。
 特に、ローザは飛びきりの美人だと言うし、そのきっぷの良さも気に入った。第2作は、これから6年後の設定だそうだけれど、彼女は登場するのだろうか?

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2008年12月16日 (火)

禁断のパンダ

著  者:拓未司
出版社:宝島社
出版日:2008年1月26日第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 2007年の「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作。有名な文学賞で、受賞作がベストセラーになることもある賞の、それも1番評価された作品だ。どんな方法で騙してくれるのか?そんな期待をして読んだ。...しかし、先に読後の気持ちを言ってしまえば、後味の悪い小説だった。もっと☆を付けられる作品なのだが、後味の悪さだけが問題で、誰かに薦めるのがためらわれるので☆は2つだ。

 物語が終盤に差し掛かるあたりまでは悪くなかった。主人公の幸太は才能があるフレンチの若きシェフ。彼が、驚異的な味覚の持ち主であるかつての料理評論家と、天才と言われるシェフの手になる料理を食べる。事件の導入部にあるシーンなのだが、ここをはじめとする、料理の描写が読む人を魅了する。
 審査員評に「本格的美食ミステリー(「本格的」は「美食」にかかる)」とある通り、「美食」の部分は秀逸だ。高級フレンチなんか食べたことのない私も、読むだけで幸せな気分になってきた。

 実は、審査員評で評価されているのはこの「美食」部分だけで、ミステリーとしての構成には難があるとして、どの審査員からも指摘されている。まぁ「大賞」にふさわしいかどうか、と言われれば物足りないかもしれないが、私自身はそれなりに楽しんだ。キャラが立っていないと言われた登場人物たちも、私には個性的な人々に思えた。ストーリーにも起伏があって、退屈な感じはしなかった。舞台が私が生まれた神戸の街で、登場人物たちが話す神戸言葉に和んだことも付け加えておく。

 それなのに、どうして後味が悪くなってしまったのか?それは、物語の核心に触れるので具体的には言えないけれど、本書で行われた犯罪に私が生理的に嫌悪感を覚えるからだ。このあたりの感じ方は人それぞれだが、表紙のパンダの絵からホノボノとした物語を連想していると、思いもよらない展開になってギクッとすることは間違いないと思う。

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