3.ミステリー

2018年10月 3日 (水)

ビブリア古書堂の事件手帖

著  者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2018年9月22日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 書店で本書を見た時「あれ?!」と思った。「ビブリア古書堂の事件手帖」と書いてあって、それは「ビブリア古書堂」シリーズの第1巻のタイトルだけれど、表紙のイラストに栞子と一緒に、黄色い服を着た子供が描かれている。第1巻には少なくとも主要登場人物には子供はいない。不思議に思って、裏表紙の紹介を読むと、なんと新刊だった。

 「あとがき」によると、本書は「本編に盛り込めなかった話」や「大輔視点という物語の制約上語れなかった話」「それぞれの登場人物の後日譚」。全部で四話が納められている。栞子が自分の娘に語り始める、という形式で物語に誘導する。表紙の子どもは栞子と大輔の娘の扉子(とびらこ)だった。時代は第7巻から7年後の2018年、つまり現在。

 本には、出版の経緯や著者自身のエピソードなどの物語があると同時に、人の手を経て来た古書には持ち主にも物語がある、というのが、このシリーズのコンセプト。本作でもそれは発揮されている。長く絶縁していた叔父と姪、気持ちがすれ違ったままだった母と息子、魅かれ合う若者二人、それぞれの縁を古書がつなぐ。そうかと思えば、高価な古書を前に生じた気の迷いで道を誤る話も..。

 面白かった。特に大輔視点という制約を外したことで(正直言って、そんな制約があったのか?と思ったけれど)、自由な広がりが実現した。また、栞子と大輔が幸せそうでよかった。栞子の母の智恵子から栞子を経て扉子に受け継がれる、本への傾倒ぶりと能力は、もう怖いぐらいで、だからこそ今後の展開に期待が膨らむ。

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2018年6月27日 (水)

ケルベロスの肖像

著  者:海堂尊
出版社:宝島社
出版日:2012年7月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「チーム・バチスタの栄光」から始まる「田口・白鳥シリーズ(著者は「東城大学シリーズ」としているそうだ)」の第6作にして最終巻。(「なんかちょっとつながらない」と読みながら思っていたら、第5作「アドリアネの弾丸」を飛ばして本書を読んでしまったらしい)

 主人公は田口公平。東城大学医学部付属病院で「不定愁訴外来(通称愚痴外来)」の責任者。舞台はこの大学病院。これはシリーズを通じて同じ。田口は「Aiセンター長」にも就任している。ちなみに「Ai」とは「Autopsy Imaging」で「死亡時画像診断」の意味。このシリーズのテーマの一つでもある。

 様々なことな起きる。Aiの導入に反対する勢力からは妨害され、病院長からはむちゃぶりされ、新しく着任したスーパーバイザーには振り回され、モンスター患者に対応し..田口センセイは息つく暇もない。ただ、物語はそういったことを押し流すような勢いで、「Aiセンター」の開所の日に向かって、一気に駆け上がるように展開する。

 登場人物がエキセントリックな人が多く、コミカルなエピソードがふんだんにあって楽しい。何度も声をあげて笑ってしまった。しかし、物語の発端は「八の月、東城大とケルベロスの塔を破壊する」と書かれた脅迫状。事態はドンドンときな臭くなって行く。面白かった。

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2018年4月21日 (土)

オリジン(上)(下)

著  者:ダン・ブラウン 訳:越前敏弥
出版社:角川書店
出版日:2018年2月28日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の大ヒット「ロバート・ラングドン」シリーズの5作目で最新刊。これまでの4作のうち「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」「インフェルノ」は映画化されていて、残る「ロスト・シンボル」も映画化の発表があったものの未だ実現していない。とは言え、このシリーズがとても映像化に向いているのは確かだと思う。

 主人公は、ハーヴァード大学のラングドン教授。専門は宗教象徴学。五芒星、六芒星、三角形、十字など、宗教的な意味を持つシンボルの専門家。本来は荒っぽいこととは無縁なはずの学者だけれど、「宗教」と「科学」の間の摩擦によって起きる事件に「巻き込まれる」形で、命に関わる冒険を繰り返す。

 今回は、教え子のコンピューター科学者、エドモンド・カーシュによって、事件の渦中に招き入れられる。未来学者でもあるカーシュは「世界の宗教に大打撃を与える」科学的発見をしたという。その発見を、大々的な催しを開催し、全世界にライブ配信して発表するという。ラングドンはその発表の催しに招待されて出席する。

 この催しが突発的な事件で中断され、ラングドンはその場から脱出する(いつものように美貌の女性とともに)。危機に次ぐ危機を間一髪乗り越えるのもいつもの通り。「映像化に向いている」というのは、この辺りのことだ。

 AI、スペイン王室、ガウディ、進化論、等々がストーリーに織り込まれている。面白かったのだけれど、ちょっと思わせぶりに引っ張り過ぎなんじゃないの?と思った。あと、事件の解決にラングドンは必要だったの?そもそもこれって解決なの?とも。繰り返すけれど、面白かったのだけれどね。

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2018年4月 1日 (日)

屍人荘の殺人

著  者:今村昌弘
出版社:東京創元社
出版日:2017年10月13日 初版 12月8日 第5版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。第27回2017年度の鮎川哲也賞を受賞して、著者は本書でデビュー。そのデビュー作が「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリ・ベスト10」の3冠を達成。これは相当な強者が登場した。

 主人公は葉村譲。関西の私大である神紅大学の一回生。ミステリ愛好会の会員。「愛好会」と言っても、ミステリ愛好会には葉村の他には、会長で三回生の明智恭介しかいない。彼らは学食で適当に選んだ学生が「何を注文するかを推理する」という、生産性のない活動で推理の腕前を磨いている。

 その二人に、剣崎比留子という二回生の女子学生が接触してきた。明智が頼んでも断られ続けていた、映画研究部の合宿への参加を仲介するから、自分と一緒に参加してほしい、と言う。剣崎は「相当な美少女」でもあるし、この話は明智と葉村に都合が良すぎる。何かウラがある。

 物語は、葉村たちが参加した映画研究部の合宿を描く。その凄惨な展開を描く。タイトルの「屍人荘(しじんそう)」は、合宿地のペンションの名前「紫湛荘」をもじったもので、タイトルが表すとおり、そこで殺人事件が起きる。ある事情で、そのペンションは「クローズドサークル(密室)」になっていて「犯人はこの中にいる!」状態に..。

 「3冠を達成」も納得。「○○の殺人」というシンプルなタイトルは、ミステリーの名作を想起する。「モルグ街の殺人」「オリエント急行の殺人」「十角館の殺人」..。学園ミステリーのような出だしは、これらの名作と雰囲気を異にするし、過去のミステリーではまず起きない事態も出来する。「邪道」であるのにも関わらず、本書は「本格ミステリー」だ。それは、鮎川哲也賞の選考委員の誰もが認める。「邪道」なのに「本格」。これは面白い本に出会った。

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2018年3月18日 (日)

RDG レッドデータガール 学園の一番長い日

著  者:荻原規子
出版社:角川書店
出版日:2011年10月31日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「レッドデータガール」シリーズの第5巻。第4巻で準備が進んだ学園祭当日の2日間を描く。 
 主人公の鈴原泉水子が在籍する東京郊外の鳳城学園の学園祭。今年のテーマは「戦国学園祭」で、「風雲わたあめ」とか「下剋上焼きそば」とかの模擬店は、まぁ「ありがち」としても、全校生徒が戦国時代の装束で行うフィールドゲーム「戦国合戦」は、手の込んだ大掛かりな催しだ。

 この学園には、陰陽師の集団と忍者の組織が活動している。これらの覇権争いが、この学園祭の裏では進行していた。泉水子自身も「姫神憑き」という、その身に神が降りる体質で、彼女を守るために、山伏たちもいる。陰陽師のリーダーは泉水子の取り込みに動く。

 物語のクライマックスは「戦国合戦」。六百数十名いる全校生徒が参加するので、ただでさえ混乱が予想される。さらに陰陽師やら忍者やらがあれこれ画策するし、泉水子の能力がちょっと覚醒するしで、大混乱に陥る。その大混乱のさなかに泉水子は...。の周辺ではもう少し静かだけれど深刻なことが起きていた。

 これまで結末に向かって、比較的真っすぐに進んできたように思うけれど、今回はちょっとその道がねじれて、この先どうなるのか分からなくなった。残すはあと一巻。どうなるのだろう?
 どうなるのだろう?と言えば、泉水子と山伏の相良深行の関係も、ますます甘酸っぱさを増してきた。

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2018年2月28日 (水)

崩れる脳を抱きしめて

著  者:知念実希人
出版社:実業之日本社
出版日:2017年9月25日 初版第1刷 10月15日 第3刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者の作品を読むのは初めて。巻末のプロフィールによると、2012年にデビュー、「最注目のミステリー作家」ということだ。

 主人公は碓氷蒼馬。26歳。研修医。神奈川県葉山町の海沿いに建つ、富裕層向け療養型病院に「地域医療の実習」のために来ている。この病院にはもともと常勤医は院長ひとりしかいない。蒼馬は研修医でありなから3階に入院する12人の患者の診療を任せられた。その一人が28歳の女性患者の弓狩環、読み方は「ユガリ」なのだけれど、本人の希望で「ユカリ」と呼ばれている。

 ユカリは、高級ホテルのスイートルームと見紛う特別病室に入院している。おお金持ちでなければ叶わないことだ。そして、悪性の脳腫瘍を患っている。本人曰く「時限爆弾」。「近いうちに彼女の命を奪うだろう」蒼馬もそう見立てている。「不治の病」ということだ。

 本書の冒頭のプロローグで、後に、弓狩環が命を落としたことと、蒼馬がその犯人を追っていることが明かされている。「犯人」というからには、犯罪事件があったのだろう。頭に近いうちに爆発する「時限爆弾」を抱えた人間の命を奪う犯罪とは?物語は、蒼馬とユカリの交流を描きながら、この謎を追う形で進む。

 女性患者と男性の研修医。若い二人の間の反発と引かれ合い。なんだかあざとい設定に加えて、患者が不治の病で死んでしまうのでは、ますます興醒めしてしまう。蒼馬には、アメリカで脳外科医になる目標があるのだけれど、「なんでアメリカで?」と聞くユカリに「金ですよ。金が儲かるから」なんて口走っている。「そんなこと患者に言う?」と、さらに気持ちが醒める。

 とまぁ、第一印象はすごく悪い。ただ、蒼馬くんも苦労人らしいことが分かり、ミステリー部分については、何重かのトリックが施されていて、きれいに騙された(多少のムリは目をつぶることにした)。気が付いてみれば最後まで気持ちを途切らせずに読み終わっていた。

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2018年1月31日 (水)

盤上の向日葵

著  者:柚月裕子
出版社:中央公論新社
出版日:2017年8月25日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

  本屋大賞ノミネート作品。著者の作品を読むのは初めて。浅学寡聞のためお名前も知らなかったけれど、「臨床真理」という作品で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビューした後、いくつかの賞を受賞され「ミステリーの旗手」と紹介されることもあるようだ。

 主人公は佐野直也。30過ぎの埼玉県警大宮北署地域課の刑事。大宮の北にある山中で発見された、死体遺棄事件の捜査に携わっている。事件の手掛かりは、一緒に埋められていた将棋の駒。名工の手になるもので、鑑定の結果600万円の価値があるものと判明した。

 物語にはもう一人重要な人物がいる。棋士の上条桂介六段。東大卒、外資系企業を経てITベンチャーを立ち上げ成功、突如として棋士の道に転身し、奨励会を経ない異例の経歴のプロ棋士となった。佐野たちが駒の所有者の線を追いかけるうちに捜査線上に浮上する。

 物語は、佐野たちの捜査を描く現在と、上条の生い立ちを追う過去の、2つのパートを概ね交互に積み重ねていく。現在のパートは徐々に捜査範囲が絞りこまれ、過去のパートは加速度的に時代が進む。いわば平面的と時間的の双方からクライマックスに迫る。緊迫感が増す。

 ミステリーのネタを明かすわけにはいかないので、詳しくは描かないけれど、本書には業の深いドラマが、深く刻み込まれている。勝負事の狂気の淵を覗いているような怖さもある。

 最後に。何度も対局の場面が描かれて、例えば「9一角」といった棋譜の表し方で駒の動きが説明される。それをキチンを追いかけられる人にだけ分かる面白さもあるのかもしれないけれど、さっぱり分からなくても大丈夫。

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2018年1月14日 (日)

マスカレード・ナイト

著  者:東野圭吾
出版社:集英社
出版日:2017年9月20日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「マスカレード・ホテル」の続編、数年後の設定。本書の前に「~ホテル」の前日譚となる「マスカレード・イブ」が刊行されているから、本書でシリーズ3作目。帯によると累計267万部突破、だそうだ。

 舞台はこれまでと同じホテル「コルテシア東京」。主人公も同じで警視庁の刑事である新田浩介と、「コルテシア東京」の山岸尚美。山岸は、前作ではフロントクラークだったが、今回はホテルが新設したコンシェルジュ・デスクに就いている。

 今回はこんな事件。練馬区のマンションで女性の遺体が発見された。死因は心臓麻痺らしい。外傷も苦しんだ形跡もない。一見すると事件性は乏しい。しかし、事件の発端が「匿名通報ダイヤル」の通報だということから、捜査を進めるさなかに「密告状」が届く。そこにはこの事件の犯人が、コルテシア東京のカウントダウン・パーティに現れる、と書いてあった。

 匿名の通報者と密告状の送り主は同一人物なのか?犯人との関係は?そもそも犯人を告発したいのなら、その素性を伝えてくればいいわけで、このような回りくどいことをする目的は何なのか?捜査本部は翻弄される。そんな中で新田はフロントクラークとしてホテルに潜入して捜査を始める。

 超一流ホテルは、様々な素性の人間が利用する。夫婦や家族を装う者も、偽名を使う者も少なくない。いわば素顔を隠して仮面を付けた人間が集まる。そういったことを、このシリーズ全体の共通のタイトルの「マスカレード(仮面舞踏会)」は表している。

 それはこれまでは比喩だったけれど、今回の「カウントダウン・パーティ」は、なんと仮装パーティで、参加者は文字通り仮面を付けている。バットマンやアンパンマンや目玉おやじがウロウロする現場。捜査が面倒なことは言うまでもない。この難しい条件で、事件を(そもそも何が起きるかもわかっていないのだけれど)未然に防ぎ、犯人を追い詰める。それが本書の見どころ。

 見どころはまだある。山岸がコンシュルジュになった。「客室の窓から見える遠くのビルのポスターが気になるから何とかしてくれ」「レストランでプロポーズをするので、彼女に気付かれずに後ろにバラの花道を作ってくれ」こんなムリめな要望に彼女がどう応えるか?これがけっこう読者の関心を引き付ける。

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2017年12月17日 (日)

弥栄の烏

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

  八咫烏シリーズの第6弾。これにて第一部の完結。 このシリーズの舞台は、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らす「山内」と呼ばれる世界。ところが、前作の「玉依姫」はいきなり1995年の日本が舞台となった。そして今回は再び「山内」に物語が戻ってきた。

 こんな感じで舞台は大きく振幅するのだけれど、前作と今回は背中合わせに密接した構成になっている。前作で描かれた東京の女子高校生の志帆の物語の同じ時間に、山内の八咫烏たちには何が起きていたか?を描く。

 「大猿」の襲撃を受けた山内は戦々恐々としていた。そこに、その「大猿」の頭が堂々と禁門を通って現れる。厳戒態勢にあった八咫烏たちは、一斉に攻撃するが、矢も刃も効かない。そして大猿は八咫烏の若宮の奈月彦にこう言う「久しぶりだようなぁ、八咫烏の長よ」

 大猿は奈月彦に「山神」の居る「神域」に共に来るように言い、奈月彦はそれを受ける。この後は、前作で志帆の視点で描かれた物語を、奈月彦の視点で描きなおすと同時に、山内の八咫烏たちの動静を語る。物語に厚みが増す。

 色々な謎に答えが出て、色々な出来事に決着が着く。冒頭の繰り返しになるけれど、これにて第一部の完結。ただし、すべての答えが出て、すべての決着が着いたわけではない。私としては「描き切った」感はあまり感じなかった。まぁ、第二部が予告されているのだから当然だ。

 八咫烏シリーズ公式Twitterによると、第二部で終了の予定。つまりここで折り返し。第1巻「烏に単は似合わない」から「ずい分遠くまで来たけれどまだ半分か」と思う一方、「もっと長く読んでいたい」とも思う。来年中には第二部をスタート、が目標とか。ぜひ目標を達成してほしい。

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2017年12月10日 (日)

素敵な日本人

著  者:東野圭吾
出版社:光文社
出版日:2017年4月5日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 文芸誌の「小説宝石」のミステリー、SFの特別編集号等に掲載された、9編の短編を収録した短編集。著者は重厚な長編ミステリーや軽快なコメディも面白いけれど、小気味いい短編も楽しい。

 収録作品は「正月の決意」「十年目のバレンタインデー」「今夜は一人で雛祭り」「君の瞳に乾杯」「レンタルベビー」「壊れた時計」「サファイヤの奇跡」「クリスマスミステリ」「水晶の数珠」。

 最初の2つだけ紹介。「正月の決意」。正月には書初めをしてお屠蘇をいただく、そういう古風な暮らしぶりの夫婦が、初詣に神社に行くと賽銭箱の前に下着姿の死体が..。警察が来て捜査が始まるけれど、あの人もこの人も何とも無責任で、どうしょうもない感じ。

 「十年目のバレンタインデー」。10年前に突然姿を消したかつての恋人から、食事の誘いを受けたミステリー作家。甘い期待とともに誘いを受け、バレンタインデーのフレンチレストランで再会を果たす。彼女の口からは自身の作品を評価する言葉が..さて彼女の目的は?

 ミステリー作家の作品らしく、謎解きがあるし、何編かには殺人事件も起きる。でも、本書の作品の一番の読みどころはそこではなくて、最後のオチと、その多くが何となく「いい感じ」なことだ。私は、星新一さんのショートショートみたいだな、と思った。

 タイトルの「素敵な日本人」について。登場人物に「素敵」という言葉が素直に当てはまる人は多くないので、多分に皮肉交じりなのだろう。「正月」「バレンタイン」「雛祭り」「クリスマス」という、和洋入り混じった行事を楽しむことを指しているのか、あるいは「正月の決意」の人たちのようなダメダメな人のことも指しているのかも。もちろん全く違うのかも。

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