3.ミステリー

2019年5月12日 (日)

シーソーモンスター

著  者:伊坂幸太郎
出版社:実業之日本社
出版日:2019年4月10日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 テンポよく物語がドンドン展開して、ハラハラワクワクする物語だった。

 本書は2つの物語が収録されている。表題作「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」。「シーソーモンスター」は、製薬会社の営業マンの直人と、その妻の宮子の2人が主人公。直人の母のセツと3人で暮らしているが、宮子とセツつまり嫁姑の仲が悪い。80年代の「日米貿易摩擦」の日米ぐらい相いれない。(ちなみに、この物語の時代も80年代末)

 直人と宮子は、それぞれ事件に巻き込まれる。直人は顧客先の病院に不正に巻き込まれ、宮子の方は事故で亡くなった義父のことを、昔の伝手で調べていたら、自宅で暴漢に襲われた。..昔の伝手?そう、宮子には直人にもセツにも話していない過去がある。なんか超カッコいい。

 「スピンモンスター」は、「シーソーモンスター」から60年ほど後。現在からなら30年後ぐらいの近未来。人々は「パスカ」という、通信端末、身分証明書、財布を兼ねたカードを持ち歩いていて、もちろんそこに様々な履歴も記録されている。そのカードの情報や、防犯カメラの映像で、どこにいても警察などの政府機関にすぐに見つかる。

 主人公は水戸と檜山。主に水戸目線で物語は進む。上に書いたような世の中なので、送ったメールはすぐにコピーされる恐れがある。だから、大事なことや秘密なことは、手書きのメッセージで送るようになった。水戸はそのメッセージの配達人で、ある人のメッセージを配達したことで、追われる身となる。逃げて逃げて逃げる。そして「シーソーモンスター」の宮子も登場する。やっぱりカッコいい。

 奥さんがタダ者じゃないのは、伊坂さんの名作「モダンタイムス」を思い出す。逃げて逃げて逃げるのは、頂点を極めたと言われる「ゴールデンスランバー」のパターン。伊坂幸太郎ファンなら「あぁこれこれ!」というような、伊坂作品の魅力が詰まっている。もちろん、ファンではなくても楽しめる。

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2019年5月 9日 (木)

クレオパトラの夢

著  者:恩田陸
出版社:双葉社
出版日:2015年4月19日 第1刷 2018年6月11日 第3刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「MAZE(メイズ)」に続く「神原恵弥シリーズ」の第2弾。ちなみに第3弾の「ブラック・ベルベット」は既読。実は、最初に第3弾を読んでしまう、という失敗をやらかしていて、本書で3部作を完読。

 主人公は神原恵弥。端正な顔立ちの男性。留守がちだった父親を除いて、祖母、母、姉3人、妹、という女性ばかりの家庭で育ったことで、「女言葉」を使う。女性の言葉使いをする有能で容姿の優れた男。妖しくも濃いキャラクターが、このシリーズの魅力の一つになっている。

 舞台は北国のH市(たぶん函館)。恵弥は、双子の妹の和見を訪ねてH市に来た。東京の大手法律事務所を辞め、不倫相手を追ってH市に来ていた和見を、家族会議の命を受けて連れ戻しに来たのだ..表向きは。恵弥には別の目的もあるらしい。和見にも「あんた、本当は何しに来たの?」と聞かれた。

 恵弥の仕事は、外資系製薬会社のウィルスハンター。新種のウィルスを発見・採取するために、世界中を駆け巡っている。今回も仕事がらみらしい。(まぁ小説だから...)

 実によく練られた物語だった。さまざまな事がつながりあって、網の目のように物語を覆っている。例えば、恵弥の仕事と和見のことは、恵弥自身が「全然関係ない」と思っていたはすなのだけれど、和見の不倫相手の死の真相を探るうちに..という具合。恵弥が追う「クレオパトラ」の正体も徐々に明らかになる。

 前作の「MAZE」も、この後の「ブラック・ベルベット」も、中東が舞台なのだけれど、本書は国内が舞台。馴染みがあるからか、物語の情景がスッと頭に入って来て、3部作の中では私は本書が一番よかった。恵弥は素敵なキャラクターなので、シリーズをさらに増やしていってほしい。

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2019年5月 1日 (水)

フーガはユーガ

著  者:伊坂幸太郎
出版社:実業之日本社
出版日:2018年11月10日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞の第10位の作品。

 主人公は常盤優我。20代前半。彼には風我というな名の双子の弟がいる。「フーガとユーガ」。タイトルは双子の兄弟の名前なわけだ。優我は、仙台のファミリーレストランで、東京のテレビ制作会社のディレクターの高杉と会っていた。本書は、優我が高杉に語った、自分たち双子の兄弟の長い物語。

 高杉と会うきっかけは、一つのビデオ。悪趣味というか完全に犯罪だけれど、ファストフード店のトイレの盗撮映像だ。そこには優我が映っていて、映像が飛んだように瞬間的に体勢が変わって、しかもさっきまでなかった絆創膏が顔に貼られていた。そのビデオを持ち込まれた高杉が、優我を探し出して「この動画について教えてほしい」と聞いてきた。

 優我の説明は明快だ。「双子の兄弟が瞬間移動で入れ替わっている」。ただ、優我は前もって高杉に告げている「僕の喋る話には記憶違いや脚色だけじゃなくて、わざと嘘をついている部分もあるので、真に受けないほうがいいですよ」...

 なかなか爽快な物語だった。でもそれ以上に痛々しかった。読者は高杉と一緒に、ウソかホントか分からない優我の話を聞かされる。でも「双子が瞬間的に入れ替わる」現象を使えば、いろいろなことができる。ちょっとしたいたずら。いじめられているクラスメイトを助ける。もっと大胆な仕掛けにも挑んでいく。うまく行った時には爽快だ。まぁウソかもしれないけれど。

 痛々しいのは、彼らや彼らの周辺の人たちの生い立ちや暮らしぶり。詳しくは書かないけれど、双子は真っ当な両親には恵まれなかった。物語は「父親に殴られる風我を優我がが見ている」というシーンから始まる。これ以上にひどいことはないように思うけれど、これを上回るかもしれない出来事も起きる。子どもがつらい目に会う話が苦手な私としては、ちょっとつかった。

 最後に。ちょっとつらい部分も含めて、著者の作品らしさを感じる物語だった。伏線もあるし、他の作品とのリンクもあるし、気の利いたセリフもある。私としては、ワタヤくんの職業に「あぁ伊坂さんらしい」と思った。

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2019年3月31日 (日)

ヘイ・ジュード

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2018年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第13弾。

 前々作の「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」の続き。東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。を営む堀田家の1年を描く。

 本書のシリーズは毎回、ミステリーと人情話が散りばめられてエピソードが重ねられる。時には、堀田家の存亡に関わる事件や、親しい人たちが抜き差しならない窮地に陥ることもある。ネタバレになるけれど、今回はそういった方面の大立ち回りではなく、メンバーの成長や新しいステージへの踏み出しが主に描かれる。

 例えば、当主の勘一の曾孫である花陽は医大を受験、花陽の母である藍子は夫の英国人のマードックさんとある決断を。堀田家を物心ともにサポートしてきたIT企業の社長の藤島さんは、高名な書家だった父が亡くなって、実家の後継者に。

 13巻、年に1回のペースで続いてきたシリーズだから13年。物語の中では7年の時間が流れている。元々大家族で、大勢の出入りもある堀田家だけれど、今回は多くの人に異動や決断があって「節目」を感じる。前々々作「ヒア・カムズ・ザ・サン」あたりから成長著しい研人くん(勘一の曾孫)が、さらに存在感を増した。

 最後のシーンで、本書のタイトルでもある、ビートルズの「ヘイ・ジュード」が歌われる。その歌詞を思い出すと、心に染み入る。

 Then you can start to make it better.(そうすれば、きっと良くなるから)

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2019年3月14日 (木)

ベルリンは晴れているか

著  者:深緑野分
出版社:筑摩書房
出版日:2018年9月25日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は2016年にも「戦場のコックたち」で本屋大賞にノミネートされ、結果は第7位。第二次世界大戦のころの仏独の前線を舞台としたミステリーで、私は「どうして日本人の作家が、ここを舞台に選んだのだろう?」と思った。

 本書の舞台も、第二次世界大戦終戦直後のドイツ・ベルリンで、どうして?と思った。前著と同じく日本人は一人も出てこないし。 主人公はアウグステという17歳のドイツ人の少女。占領下のアメリカ軍の兵員食堂で働いている。父母は親しい人たちを、戦争で失った。ベルリンの街も激しい空襲で壊滅状態。アウグステはなんとか生き延び、英語が話せることから兵員食堂での仕事にありついた。

 ところが、アウグステは物語が始まって10ページ余りで、アメリカの憲兵に引っ立てられた上に、ソ連の秘密警察に引き渡されてしまう。そこで、アウグステの恩人でもある音楽家が毒殺されたことを知らされる。そして、犯人の疑いがある被害者の甥を捜しだすよう依頼される。

 物語は、このアウグステの人探しの一部始終を描く。土地勘があるということで、この事件に巻き込まれたユダヤ人の元俳優道連れにして。音楽家を殺したのは本当に甥なのか?ちがうなら誰なのか?また、ソ連の秘密警察の目的は何なのか?ドイツ人の殺人になぜ関わるのか?

 読み応えのある物語だった。場面の描写が詳細で、例えばアウグステが歩く道路の様子に、2~3ページを費やす。早く先へ読み進めたいのに困るのだけれど、これによって映像を見たように光景が浮かぶ。気持ちは逸るけれど、読み飛ばさない方がいい。

 それから、本編の間に「幕間」と称して、アウグステの幼少期からの思い出が4回、差し挟んである。これも、先へ読み進めたい気持ちに反するのだけれど、いやいやこれが憎らしいぐらいうまい構成になっている。

 気になった言葉
 みんな、人の善意が妬ましくて仕方ないのよ。自分に向けられない善意には特にね。

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2019年3月10日 (日)

RDG レッドデータガール 氷の靴 ガラスの靴

著  者:荻原規子
出版社:角川書店
出版日:2017年12月21日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 第6巻の「星降る夜に願うこと」で完結した 「レッドデータガール」シリーズの、5年ぶりの新作。表題作は、シリーズ主人公の鈴原泉水子のルームメイトの、宗田真響の視点で、「最終巻のその後」を描いたもの。その他に、泉水子の幼馴染である相楽深行の視点で描いた短編を3編収録。

 深行視点の短編から。「影絵芝居」は泉水子と深行が、泉水子の実家がある玉倉山で暮らしていた中学三年生のころ。深行はそつのない優等生で、初々しくもある。「九月の転校生」は、深行が中三の9月に、鳳城学園に転校してきてから。ここは本編では描かれていない時期で、本編で登場する人物たちの「それ以前の姿」が描かれている。「相楽くんは忙しい」は、わずか8ページ。

 深行視点の3編は、アニメDVDや単行本、コミックスの発売時の、特典やプレゼント用に書き下ろしたもので、まぁ読者サービスだ。イケメンキャラでもある相楽深行くんの、思春期の男の子の心情を控えめに描いた。シリーズ本編が持つミステリーや神霊の世界の要素には乏しい。軽い気持ちで読める。

 それに対して真響視点の表題作「氷の靴、ガラスの靴」は、本編からの流れを汲んでいる。泉水子や真響たちが、何者かに試されることになる。まぁ物語のすべり出しは、深行視点の短編と同じような感じで「まさかこのまま何も起きないのか」と思われたけれど、泉水子が結界を作っている鳳城学園を離れて、横浜へ舞台を移してから面白くなる。

 真響は戸隠忍者の家系で三つ子の姉。著者は「ドラマの主人公になれる背景をもっていてほしい」と考えて生み出したそうだ。今回、そのドラマの片鱗が見えたけれど、まだまだありそうで楽しみ。シリーズ本編も、これで先へ続く道筋がついたので期待。

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2019年2月24日 (日)

ひとつむぎの手

著  者:知念実希人
出版社:新潮社
出版日:2018年9月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。昨年は「崩れる脳を抱きしめて」でノミネートされ第8位だった。

 「崩れる脳~」と同じく、医療の現場が舞台のミステリー。ミステリー要素以外にも、ちょっと泣かせる部分もある。

 主人公は平良祐介。大学付属病院の心臓外科の医師。研修期から数えると医師になって8年。「中堅」になりつつある。心臓外科医として一流になれるかどうかの岐路に差し掛かっている、ということでもある。

 ある日、心臓外科の教授に呼び出され、研修医3人の指導をするように言い渡される。その3人のうち2人が心臓外科の医局に入れば、心臓外科の実績が豊富な関連病院への出向を考慮してやる、という条件付き。それは一流の心臓外科医への道が開けることでもある。

 物語はこの後、まずは祐介と3人の研修医との関係を描く。研修医たちは高い志もあるけれど、未熟なところや心の弱みなどを三人三様に持っている。祐介はスター性があるわけではないので、最初は苦労するが、徐々に研修医たちの信頼を得ていく。ここが泣かせる部分。

 祐介と研修医たちのエピソードを積み重ねる中で、心臓外科だけでなく病院全体を揺るがす事件が起きる。祐介には教授からその調査の指示まで..関連病院への出向をエサに。ここがミステリー要素。

 面白かった。心臓外科の過酷な職場と、そこに敢えて飛び込んだ祐介と、飛び込もうとしている研修医たちが、頼もしく感じた。なんだかんだ言って、祐介は、新人の指導者に向いている。ミステリー要素もしっかりしている。

 泣かせる部分はちゃんと涙が出た。ただ帯に「ラスト30頁 あなたはきっと涙する」なんて、でかい字で書かない方がいいと思う。こういうのはちょっと興ざめだった。

 最後に。祐介の奥さんがサイコーだった。ここでもちょっと泣いてしまった。

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2019年2月20日 (水)

螺鈿迷宮

著  者:海堂尊
出版社:角川書店
出版日:2006年11月30日 初版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 海堂尊さんのデビュー2作目。デビュー作は「チーム・バチスタの栄光」。「ジェネラル・ルージュの伝説」で、著者はこの2作品を「対になる」作品と言っている。

 主人公は天馬大吉。東城大学医学部の3年生(ただし2回目)。「ラッキーペガサス」を示す縁起のいい名前を持っているが、幼馴染の別宮葉子が彼につけたニックネームは「アンラッキー・トルネード」。例えば、目の前で電車の扉が閉まる。それだけならただ「ついてない」だけれど、彼の場合はそこから不運が連鎖して、なぜか10万円の借金を負うことになる。

 大吉は葉子に嵌められて碧翠院桜宮病院に、医療現場を支えるボランティアに行くことになった。もちろんボランティアは口実で、別の目的がある。桜宮病院の内情を探ることと、病院に行った後に消息を絶った男のことを調べる、この2つが大吉に課せられた使命。

 桜宮病院は終末期の患者を多く受け入れている。物語は、終末期医療という重いテーマを背景にして、時に倫理に触れるようなこともありながら、時にコミカルな出来事を交えて進む。登場人物の間の因縁も、実に周到に張り巡らされていて驚く。

 登場人物のキャラが濃い。葉子は、時風新報社という弱小新聞社の記者なのだけれど、かなりの遣り手だ。桜宮病院は、院長をはじめ、その妻、双子の娘からなる、桜宮一族が名実ともに実権を握っているのだけれど、全員が一筋縄ではいかない。

 これまで読んだ、著者の「チーム・バチスタの栄光」に続く「田口・白鳥シリーズ」で、大吉も葉子もその他の登場人物も何人かが、時々顔を出している。その時よく分からないことがあったけれど、「あっそういうことだったのか」と、本書を読んで何度も思った。

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2019年2月10日 (日)

ジェネラル・ルージュの伝説

著  者:海堂尊
出版社:宝島社
出版日:2009年3月6日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、タイトル作品の「ジェネラル・ルージュの伝説」に加えて、サブタイトルに「海堂尊ワールドのすべて」とあるように、著者の海堂尊さんの作品と、作品が描く世界観を紹介している。それはかなり広大な物語世界を構成していた。

 私は、著者の作品は「チーム・バチスタの栄光」から始まる「田口・白鳥シリーズ」を順に読んできた。シリーズの背景に物語世界が広がっているとは知らなかった。登場するサブキャラクターが「語られていない物語」を背負っていることが感じられることがあったのだけれど、それは別のシリーズの作品で描かれていたらしい。

 改めて本書の紹介。まず小説「ジェネラル・ルージュの伝説」。「ジェネラル・ルージュの凱旋」の前日譚。救急救命センターの速水部長の若い日を描く。次に「著者の年表」。幼年時代から執筆当時の2009年まで。それから全19作の「自作解説」。

 さらに「メインキャラクターの徹底解説」「全登場人物表」「人物相関図」「名ゼリフ」「用語辞典」...と続いて最後は「カルトクイズ100」。「海堂尊ワールドのすべて」の「すべて」に偽りはない。著者自身も「手の内を晒し、秘伝を公開した」と言うように、ありったけを公開した感じだ。

 「ジェネラル・ルージュの伝説」はすごく面白かった。「田口・白鳥シリーズ」の15年ほど前の話。当然だけれど、あの人もこの人もみんな15歳若いのだけれど、「今」に続く片鱗が垣間見えて、その後の年月が思い浮かぶ。100ページに満たない小品だけれど、「ワールド」の大事なピースだと思う。

 最後に。私が読んできた「田口・白鳥シリーズ」でも、「AI(Autopsy Imaging):死亡時画像診断が、テーマによくなっている。これは、フィクションとしてのテーマではなく、著者自身が医師として推進していることだった。(いやむしろ、この推進のために小説を書いている)。登場人物の「スカラムーシュ彦根」には、海堂さん自身が投影されているのかもしれない。

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2018年12月19日 (水)

ラブ・ミー・テンダー

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2017年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第12弾。

 今回は、本編からずっと時代を遡って昭和40年代。舞台の古本屋「東京バンドワゴン」の当主で、本編では80代の堀田勘一が40代、その息子でロックスターの我南人はまだ20代だけれど、バンドデビューして少し経っていて、すでに若者に人気のバンドになっている。

 本書では、我南人と後に妻となる秋実の出会いを描く。本当に最初の出会いの場面は「フロム・ミー・トゥ・ユー」で、秋実さんの語り口で描かれている。今回はまさにその場面から始まって、その後の物語を描く。いつものように堀田家には事件が持ち込まれる。そしていつものように鮮やかに(多少強引に)事件を解決する。

 昭和40年代のテレビというと、アイドル歌手が人気になりだしたころで、本書の事件も、アイドルと芸能界やテレビ業界が絡んだものだ。あの頃のアイドルは、一般の人々からすると今よりももっと遠い存在だった。でも、誰かの友達だし、一人の若者として恋もすれば悩みもする。そういう話。

 「シリーズ読者待望」の秋実さんの物語、しかも長編。本編では、秋実さんは、シリーズが始まる数年前に亡くなったことになっていて、誰かの思い出としてしか語られない。その思い出の中で「堀田家の太陽」とまで言われているのに、エピソードはもちろん、どういう人だったのかも分からない。

 それが今回、長編でたっぷりと紹介された。まだ高校生なのだけれど、こんな芯の通った魅力的な人だったとは。登場のシーンからすでに惹きつけられる。その時の我南人もカッコいいし、そこに気が付く秋実もカッコいい。(すみません。ちょっと気持ちが高ぶってしまいました)

 私は「フロム・ミー・トゥ・ユー」のレビュー記事で、「秋実さんの物語が読めて、私は大満足だ」と書いた後で、「更なる欲が出て来た」と続けて、「長編にならないかなぁ」と書いている。その希望が叶った形で、また「大満足」だ。「更なる欲」も、また出てきてしまったけれど...。

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