3B.ジェフリー・アーチャー

2017年1月14日 (土)

剣より強し(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2015年7月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「追風に帆を上げよ」に続く、超長編サーガ「クリフトン年代記」の第5部。

 前作ではハリークリフトンの妻のエマが会長を務める、バリントン海運の新造旅客船「バッキンガム」の大西洋横断の処女航海のシーンで終わっている。テロリストが紛れ込んで爆発物を仕掛け、轟音が轟いた。本書はその場面の少し前から始まる。「バッキンガム」の浮沈は、クリフトン-バリントン一族の浮沈にも関わる。

 そしてテロリストが仕掛けた爆発物は、確かに爆発した。バッキンガムは辛くも沈没を免れたものの、バリントン海運は大きな痛手を受けた。本書はこうした「最悪を免れたものの、大きく後退」という状況からの、一進一退の気の抜けない攻防が描かれる。

 これまでのシリーズを通して「著者らしい」物語が続いていたけれど、本作は中でもそうだ。著者の筆運びがノリにノッている感じがする。陰謀あり、サスペンスあり、法廷劇あり、取締役会での解任劇あり、丁々発止の金融戦争あり。著者は、こんなにも多彩なストーリーを紡ぎ出す人だったのだな、と改めて気づく。

 最後に。前作のレビューの最後で「主人公がハリーから息子のセバスティアンに移った」ということを書いたが、それは誤りだった。本作ではハリーが007ばりの活躍を見せる。まだまだ楽しませてくれそうだ。

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2015年5月31日 (日)

追風に帆を上げよ(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2015年4月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「時のみぞ知る」 「死もまた我等なり」「裁きの鐘は」に続く、超長編サーガ「クリフトン年代記」の第4部。7部完結とのことだから、これで折り返し地点通過ということだ。

 前作のラストは、クリフトン家の長男であるセバスティアンが乗る車が、3台のトラックに挟まれて、悲劇的な交通事故を起こしたところで終わっている。

 それを受けて、本作はセバスティアンの母のエマが、夫のハリーに、息子の死を告げる電話で始まる。その時エマはイギリス西部の街ブリストルに、ハリーは大西洋を隔てたニューヨークにいた。

 この事故は、エマとハリーを激しく憎悪するペドロ・マルティネスという男が仕掛けたもの。本作は全編を通して、このマルティネス家と、クリフトン家-バリントン(エマの実家)家の対立を描く。

 マルティネス家は偽札作りで財を成したギャングで、クリフトン-バリントンへの憎悪は、悪行の邪魔をされた「逆恨み」。だから「対立」と言っても、マルティネス家の攻撃と、それに対する防御だ。

 ここに「勧善懲悪」の分かりやすい構図ができあがる。単純な構図には良し悪しがある思うが、エンタテイメントとして安心して楽しめるところがいい。上手にハラハラさせてくれるので、退屈するということもない。

 前作「裁きの鐘は」のレビューで、主人公がハリーからセバスティアンに移ったのでは?ということを書いた。本作でそれはもっとハッキリした確信に変わった。冒頭に書いたように本作は7部完結の折り返し地点。まだこの後に「次のクリフトン」が登場するのだろう。

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2014年9月11日 (木)

裁きの鐘は(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2014年4月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「時のみぞ知る」「死もまた我等なり」に続く、超長編サーガ「クリフトン年代記」の第3部。巻末の「解説」によると7部で完結の予定だそうだ。つまりまだ中盤に差し掛かったところ、ということだ。

 前作のラストは、バリントン家の莫大な資産の継承を巡っての、貴族院の審議の途中で終わっている。嫡子のジャイルズと、庶子(であるかもしれない)のハリー・クリフトンのどちらが正当な継承者か?投票の結果は273票対273票。結論は大法官の判断に委ねられた。

 それを受けて、本作は大法官の逡巡と結論から始まる。まぁ、前作から引っ張ったものの結論は早々に出て、物語は新しいステージへ滑り出す。ハリーは新作のプロモーションのために米国へ渡り、ハリーの妻のエマは父の遺児を探すことに着手する。

 その後、上巻では、ジャイルズの母の遺産相続や、庶民院議員選挙が、下巻では、ハリーの息子のセバスティアンを巡る騒動が描かれる。前2作と同様、いやこれまで以上に起伏が激しくテンポのいいストーリー展開で、著者の作品の魅力が良く出ている。
 ところで、このシリーズでは、数人の登場人物の物語が、章ごとに入れ替わるが、「クリフトン年代記」と銘打っていることもあって、これまではあくまでも「主人公はハリー・クリフトン」だった。

 しかし、本作ではハリーは脇役に引くことが多く、特に下巻はもうセバスティアンの物語と言っても過言ではない。もしかすると、ハリー以外の「クリフトン」も主人公となることで、長大な一族の物語になっていくのだろうか?

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2014年5月 8日 (木)

死もまた我等なり(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2013年10月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「時のみぞ知る」の続編。「クリフトン年代記」という超長編サーガの第2部。ちなみに日本では第3部までが既刊で、英国では第4部が今年の3月に刊行されている。情報によると第4部でもまだ完結していないそうだ。どれだけ続くのか予想できない。

 前作と同じように、数人の登場人物の物語が章ごとに入れ替わって綴られる。前作の最後で主人公のハリーは、米国行きの船旅の途中で、ある事情によって別人に成り替わった。その人物は米国で殺人容疑で手配されていたらしく、米国に上陸するなり逮捕されてしまった。そんなわけで、物語のハリーのパートは舞台が英国から米国に移って展開される。

 ハリーのパートは刑務所の中。実は著者のアーチャー氏は、ベストセラー作家であり、元国会議員であり、男爵の爵位を持っていて、なおかつ服役の経験がある。これまでにも刑務所内を舞台にした作品がいくつかあるのだけれど、今回のストーリーにもその経験が生かされている(のだろう)。

 描かれているの1940年を中心とした10年間で、第二次世界大戦の戦禍が世界中に拡大して終結した時代だ。当然本書のストーリーにもそれは色濃く反映している。ハリーも親友のジャイルズも戦地に赴き、悲しい経験をする。

 ハリーをはじめとした男性陣は、頑張ってはいるけれど周囲の状況に翻弄され、戦争の時代に巻き込まれてしまっている。それに対して女性陣の、ハリーの母のメイジーや婚約者のエマは、何とも頼もしく自ら道を切り拓いていく。特にエマなんて生死不明のハリーを探しに単身渡米してしまうのだからすごい。ハリーよりエマのパートの方が面白い。主人公を食ってしまっている。

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2013年7月 7日 (日)

時のみぞ知る(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2013年5月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 英国のベストセラー作家、ジェフリー・アーチャーの最新作。詳細は不明だけれど帯には「全英1位」の文字が躍る。

 これは面白かった。著者の作品は、主人公の生涯を描く長編(サーガ)、サスペンス・ミステリー、短編集の3種類に分類されるそうだけれど、これは1番目の「サーガ」になる。これまでたくさんの著者の作品を読んだけれど、この「サーガ」作品群が一番面白いと思う。

 舞台は英国西部の港湾都市ブリストル。時代は1919年から1940年。主人公はハリー・クリフトン。物語の始まりの年には、まだ母親のお腹の中だった。そして、本書の扉ページの前には、「クリフトン家」と「バリントン家」の家系図。本書はこの両家の人々の確執や友情を描く。

 ハリーは物心がつく前に父を亡くしている。家族の話によると戦争で戦死したそうだけれど、どうもそれは真実ではないらしい。母と祖父母、伯父と一緒に暮らしているが、暮らしぶりはなかなか厳しい。ただ、そのソプラノを見出され、奨学生として聖歌隊学校に進むことになり、そこで上流階級に属するバリントン家の長男ジャイルズと出会う。

 ハリーとジャイルズはそこで友情を育む。しかしハリーの父の死には、ジャイルズの父のヒューゴーが関係しているらしい。さらにハリーの母のメイジーとヒューゴーの間には、因縁が感じられる。二人の友情がいずれ過酷な運命に直面する予感を、ヒシヒシと感じさせながら物語が進む。

 読み終わってしばらく呆然としてしまった。こんな終わり方をするとは思っていなかった。実は本書は「クリフトン年代記」という長大な物語の第1部。巻末の「訳者あとがき」によると、英国では第3部まで発売されているそうだ(そしてまだ完結していない)。まだまだ続編があることへのワクワク感と、長い道のりに足を踏み入れてしまった戸惑いを、同時に感じた。

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2009年8月23日 (日)

誇りと復讐(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:永井淳
出版社:新潮社
出版日:2009年6月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 1年ぶりのジェフリー・アーチャー。今年6月に発行された新作。1年前にも書いたが、10年ほど前までは次から次へ貪るように読んで、新潮文庫の著者の小説は全部読んでしまった。1年前の「ゴッホは欺く」が、正直言って少し期待ハズレだったこともあって、6月に出たのは知っていたのだけれど、ちょっと静観していた。

 それで、本書は面白かった。「ゴッホは欺く」と比べて随分と楽しめた。著者の作品の特長は、逆境や絶体絶命の状況にある主人公が、相手にトリックをしかけて見事に逆転する「騙しのテクニック」にある。相手だけでなく読者まで騙してくれる。「もっとうまく騙して欲しかった」というのが前作の感想だが、今回はうまく騙してくれた。

 主人公はダニー。ロンドンのイーストエンド、いわゆる下町の自動車修理工だ。彼が幼なじみで恋人のベスと結婚を約束したその夜に、ベスの兄のバーニーを殺した容疑者にされてしまう。容疑者としてまた裁判の証人として真実を話すダニーとベスだが、陪審員にはその声はなかなか届かない。真犯人は新進気鋭の法廷弁護士、敵のホームグランドで戦っているようなものなのだ。

 目次を見ると「裁判」「刑務所」「自由」「復讐」..と、物語のほとんどが分かってしまう感じがする。無実の罪を着せられた主人公が、真犯人に迫る物語。解説にも「古今東西..軽く数千のオーダーはあろうか」とある。数千はさすがにムリだけれど、小説やドラマ・映画でいくつかは思いうかぶ。
 しかし、本書はそんな中で頭抜けて巧みなストーリーだ。その一端は著者の経験によるものだろう。著者はが詐欺事件の被害者であるだけでなく、偽証罪の有罪判決を受けた経験まで持つ。本書の前半の舞台である「ベルマーシュ刑務所」は、なんと著者自身が収監されていた刑務所なのだ。
 ダニーの周囲に善意の人が多く、少し幸運すぎる感じがしないでもないが、ヒーローに幸運はつきものだ。サスペンスと法廷劇がたっぷりと楽しめる。オススメ。

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2008年9月 4日 (木)

ゴッホは欺く(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:永井淳
出版社:新潮社
出版日:2007年2月1日初版
評  価:☆☆☆(説明)

  10年ほど前まで、著者の作品を貪るように読んだ。デビュー作の「百万ドルを取り返せ」から始まって、2000年に出版された「十四の嘘と真実」まで、新潮文庫で刊行された小説は十数作あるが全部読んだ。そのぐらい好きだった。その後、ちょっと縁遠くなってしまったが、書店で新作(私が読んでないだけだけど)が何作かあるのを見つけて、無性に読みたくなった。

 主人公は、絵画の専門家のアンナ。サザビーズの印象派部門のナンバーツーとして活躍していたがその職を追われ、今は投資銀行の美術コンサルタントとして働いている。この投資銀行の会長 フェンストンは、美術品のコレクターなのだが、自分が欲しい美術品を手に入れるためには手段を選ばない、殺人さえ辞さない男だ。
 正義感の強い主人公は、一旦はフェンストンがその所有者からだまし取った名画「ゴッホの自画像」を、その目をかいくぐり、裏をかいて取り返し、他への売却を試みる。そこに、フェンストンの手下の殺し屋や、FBIの捜査官、アンナの友人たちが、それぞれの事情を抱えてストーリーに絡んでくる。ニューヨーク、ロンドン、東京、そしてルーマニアの首都ブカレストを縦横に駆け巡るノンストップサスペンスだ。

 物語の背景には、2001年の9.11テロ事件や、それから遡ること20年余りのルーマニアのチャウシェスク独裁政権やその崩壊などの時事問題がある。訳者による解説によると、著者は9.11テロの直後の「行方不明・推定死亡者多数」という発表に触発されて、本書を構想したそうだ。
 それで、本書でも出だしに主人公は9.11テロに遭遇し、そこを生き延びる。グイグイと引っ張られるように読んだ。そこからも展開の早さで一気にストーリーが流れる。昔に他の作品を読んだ時の感じの再現に心躍った。

 ところが...。どうも、途中からストーリーが予測可能になってしまった。著者の作品は、1人ないし2人の主人公が、思わぬ手口で目的を達成する、登場人物も騙されるが、読者も一緒に騙される。あんまり見事な騙され方に気持ちがいいぐらい、というのが持ち味なのだ。私も気負いすぎたようだが、「もっとうまく騙して欲しかった」というのが正直な気持ち。著者の作品を読んだことのない方は、1冊目は他の作品を選んだ方がいいかも。

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2002年10月15日 (火)

十四の嘘と真実

著  者:ジェフリー・アーチャー (訳 永井淳)
出版社:新潮社(新潮文庫)
出版日:2001年4月1日発行
評  価:☆☆☆(説明)

 ジェフリー・アーチャーの短篇集。タイトルから推察されるように、14篇の短篇が収められている。
 訳者の解説によると、アーチャー氏は、「ケインとアベル」などの一代記、「大統領に知らせますか」などのポリティカルスリラー、そして短篇集という3つのジャンルを順番に書いているそうだ。そして、どのジャンルの作品でも、トリックやドンデン返しが氏の持ち味だと思う。
 その点、この短篇集はその持ち味があまり感じられない(「欲の代償」という一篇を除いて)。早くから結末が分かってしまうもの、トリックはあるもののすっきりしないオチで、切れ味が悪いものなど。消化不良というか欲求不満な後味が残った。短篇こそ、最後の切れ味が大切なのに。
 本短篇集は、実際の事件を基にしたものが多いらしく、そうした事情がストーリーの伸びやかさの足かせになったのかもしれない。

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