38.フィリップ・プルマン

2012年1月11日 (水)

ブリキの王女(上)(下)

著  者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2011年11月30日初版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「マハラジャのルビー」から始まる「サリー・ロックハートの冒険」シリーズの外伝。シリーズは、「仮面の大富豪」「井戸の中の虎」と合わせて全4部作で完結している(今のところは?)。外伝なので、シリーズの主人公のサリーは、登場はするがストーリーの主要な部分には絡んでこない。

 時代は前作「井戸の中の虎」から約10か月経った1882年の夏。主人公はサリーの良き協力者であった作家兼探偵のジム。そして舞台は、これまでのロンドンではなく、ラツカヴィアという、オーストリア-ハンガリー帝国とドイツに挟まれた小さな王国。ジムはここの王位継承に絡んだ陰謀に巻き込まれる。

 面白かった。物語は、何度かの小さなヤマを繰り返して、終盤の大きなヤマへ収れんしていく。このシリーズでは、主人公は毎回絶体絶命のピンチに陥るのだけれど、今回もそれは踏襲された。王位継承や大国間の外交問題など、これまでにない複雑かつスケールの大きな話題が、ワクワク感を創出している。

 さらに、ストーリーに絡むので詳しくは言わないが、第1作「マハラジャのルビー」から再登場する人物がいる。「あの人はどうしたんだろう?」と、私も気になっていた人物で、ここで再会できてホッとしたというか、スッキリした。

 前作「井戸の中の虎」のレビューで、3作目のその本を起承転結の「転」と捉えて、「結」の「最終巻の次回作が楽しみだ。」と書いたのだけれど、最終巻が外伝だとは思ってなかった。サリーが主人公の最終巻を改めて読みたい、著者に是非書いて欲しい。

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2011年4月 9日 (土)

井戸の中の虎(上)(下)

著  者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2010年11月25日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「マハラジャのルビー」「仮面の大富豪」に続く、「サリー・ロックハートの冒険」の第3作。前作の「仮面の大富豪」から3年後。前作の最後で、愛するフレデリックの子どもを身ごもっていることが分かった。その子どもハリエットは2歳になっている。
 サリーの「財政コンサルタント」としての仕事も軌道にのり、共同経営者になっている「ガーランド・アンド・ロックハート写真店」も順調。愛娘のハリエットも、周囲の人びとの愛情を受けて、すくすくと育っている。順風満帆といったところだった。

 ところがある日サリーは、ハリエットの親権を求める離婚訴訟を起こされる。「未婚の母」であるサリーには身に覚えがない。ましてや相手は名前も聞いたことのない男。しかし英国のビクトリア時代の未婚の母は世間の風当たりも強い。しかも証拠は巧妙に捏造されていて、完全に罠に嵌められたらしい。「でも、なぜ?ハリエットの親権を?」謎は杳として知れず、敵の姿さえ見えない...。

 今回も、前作までと同様に、サリーが持ち前の行動力で運命を切り開いていく。しかし、今回の敵は強大な力を持っているようで、用意周到に様々な罠を張り巡らせていた。サリーの行動はその先々で見えない壁に阻まれる。そして、最大の危機を迎える。

 中ごろまでは、「これじゃジリ貧だ」という感じ。読んでいても気が滅入るほどだった。状況はページを追うごとに悪くなり、サリーに出来ることはドンドン少なくなっていく。そこに一条の光のような活路を見出せたのは、金持ちの家に生まれたサリーには、今まで縁が薄い層の人びとのお陰だった。読み終わって、本当にホッとした。
 このシリーズは4部作で、3作目の本書は起承転結で言えば「転」に当たる。サリーは今回、今まで知らなかった世界や人々と出会い、確かに転機を迎えたと言える。最終巻の次回作が楽しみだ。

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2009年4月27日 (月)

仮面の大富豪(上)(下)

著  者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2008年10月30日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「マハラジャのルビー」に続く、「サリー・ロックハートの冒険」シリーズ4部作の2作目。前作で父親の死をめぐる陰謀を切り抜けてから6年後、サリーは、6年の間にケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業、今は「財政コンサルタント」をしている。年はなんと弱冠22歳だ。
 前作でサリーを助けて活躍したガーランド写真店のフレデリックは、共同経営者としたのサリーの助けもあって写真店の経営は盛り直し、趣味の探偵稼業にもいそしんでいる。サリーとフレデリックは自然な成り行きで恋人同士となっているのだが、何やら微妙な感じだ。

 ここまでは、本書の物語が始まる前の話。本書の物語は、サリーが顧客の訪問を受けるところから始まる。サリーが薦めた投資先の海運会社の貨物船が沈没し、その後会社が倒産してしまった、というのだ。倒産に至る経緯に疑問を持ったサリーは調査を始める。そして、背後にある大きな陰謀を付き止め、サリー自身がそれに巻き込まれていく。
 フレデリックらのサポートを受けて、サリーが才覚と行動力で困難を乗り越えて行くのは前作と同じながら、今回の作品には実に色々な要素が散りばめられている。ビクトリア朝時代の英国での女性の自立の難しさ、降霊術などの怪しげな科学といった時代背景と、このシリーズの大きな節目となるであろう、サリーとフレデリックの関係の行方など。政界財界だけでなく国際政治なども絡んで、一回り物語のスケールが大きくなっている。

 田中芳樹氏の解説にもあるが、「あれっ」っと思うところもある。これでいいのかな?という感じもする。もしかしたら次回作に続く伏線なのかもしれない。だとしたらどのように反映されるのか?次回作と言えば、前作のレビューの最後に「第2作には(私のお気に入りの)ローザは登場するのだろうか?」と書いたが、本書では活躍の場面はなかった。次回作ではどうなのだろう?

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2009年1月 7日 (水)

マハラジャのルビー

著  者:フィリップ・プルマン 訳:山田順子
出版社:東京創元社
出版日:2007年5月30日初版
評  価:☆☆☆(説明)

 映画化された「ライラの冒険」の著者が、ライラ・シリーズに先立つ10年間(1985~1994年)に出した「サリー・ロックハートの冒険」シリーズ4部作の1作目。シリーズは、日本では2作目の「仮面の大富豪」までが出ている。「本が好き!」プロジェクトで見かけて覚えていたので読んでみた。ちなみに「ライラ」の作者だとは、表紙裏の紹介を読むまで知らなかった。

 ファンタジーかと思ったが、魔法はなし、異世界もなし。その代わり、麻薬の売買や密輸、裏切りなどが複雑に絡んだ、なかなかしっかりしたミステリーだった。主人公は、サリー・ロックハートという16歳の女性(少女というには微妙な年。しっかりしているし)。海運業者の経営者だった父を、船の事故で亡くし天涯孤独の身になった。ある日謎めいた手紙が届き、父の死には隠された秘密があるらしいことに気づく、というところから物語は滑り出すように始まる。

 登場人物が素敵だ。時代は1872年、場所は英国、ビクトリア朝のロンドン。主人公サリーは会社経営者の娘らしく「お嬢様」なのだが、父親が娘が好きに学習するに任せた結果、英文学、歴史、美術、音楽などのお嬢様らしいたしなみは皆無だ。その代り、軍の作戦、簿記、株式市場の動き、と実用性が抜群の知識を持っている。実際、これらの知識がサリーに仲間を作り、その身を助けることになる。
 そのサリーの仲間たちも実に魅力的だ。写真家のフレデリックと、その姉で女優のローザ。サリーは2人が居る写真館に身を寄せることになるのだが、住人が増えることにも、サリーが写真館の経営に口出しすることにもイヤな顔ひとつ見せない。それどころか、その才能を高く買って采配を任せ、自分たちはサリーが抱える問題の解決のため、その身の危険を顧みず協力するのだ。
 特に、ローザは飛びきりの美人だと言うし、そのきっぷの良さも気に入った。第2作は、これから6年後の設定だそうだけれど、彼女は登場するのだろうか?

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