2L.瀧羽麻子

2019年2月14日 (木)

左京区桃栗坂上ル

著  者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2017年7月2日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」」「左京区恋月橋渡ル」に続く「左京区」シリーズの5年ぶりの新作。

 シリーズのこれまでは、京都の大学を舞台とした学生たちの「恋バナ」で、「七夕通東入ル」ではおしゃれな女子学生の「花」が、「恋月橋渡ル」では不器用な理系学生の「山根」が主人公だった。本書も基本的に「恋バナ」なのだけど、描き方をちょっと変えてきた。

 本書の主人公は璃子と安藤の2人。「描き方を変えてきた」と言ったのは、物語を璃子が4歳の時から始めたからだ。大学生の「恋バナ」を描くのに4歳から..。転勤族の父の異動で、璃子は北海道から奈良に引っ越してきた。引越しの翌日に璃子がベランダから外の公園を見ると、ジャングルジムのてっぺんで手を振る女の子がいる。後に親友となる同い年の果菜で、安藤は果菜の兄だ。

 小学校4年の時に、またまた璃子の父の転勤で離ればなれに..そして再会。そして...という物語。璃子と果菜は親友とは言っても、離れて暮らしているから、関係もそれなりの距離がある。安藤はその兄だから、さらに距離がある。その距離がある関係をページ数を使って丹念に描く。後半に入ってもまだ「これ、誰と誰の恋バナなの?」という感じ。

 いい話だった。おだやかなラブストーリー。シリーズで登場人物は共通している。安藤は1作目から登場しているし、本書には花も山根も登場する。それで、シリーズを読み返すと分かるけれど、安藤クンらしい恋愛だった。

 著者はかつてインタビューで「安藤君は恋をするのかどうか……」なんて答えている。4歳から書き始めたのは、そんな安藤の恋愛を描くのに他にない方法だったと、読み終わって分かる。

 最後に。果菜が璃子に書いた自分の手紙を読んで、オチがないことに落胆するシーンがある。「これ、全然おもろないわ」と。分かる気がする、その気持ち。

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2013年5月19日 (日)

株式会社ネバーラ北関東支社

著  者:瀧羽麻子
出版社:幻冬舎
出版日:20011年6月10日 初版発行 2012年10月15日 4版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのはこれで4冊目。「うさぎパン」では、高校生の恋愛未満の淡い想いを、「左京区七夕通東入ル」「左京区恋月橋渡ル」では、大学生の恋バナを描いた。本書が描くのは28歳の大人の女性の心模様だ。

 主人公の名は弥生。東京の外資系証券会社で7年間、バリバリ(本人曰く「150%の力で」)働いていた。あることをきっかけに転職し、北関東にある小さな町に引っ越してきた。転職先が本書のタイトルの「株式会社ネバーラ北関東支社」。健康食品の下請メーカーで主力商品は納豆だ。

 弥生は、東京の暮らしで傷ついた心身を休める避難所的にここを選んで引っ越してきた。もちろん、ここに根づくつもりなんかない。20~30%ぐらいの力で働いていて、それでうまく回っているのだから、問題もない。物語の始めの弥生はこんな感じだった。

 何故か英語が口をついて出る杉本課長、生真面目に仕事に取り組む沢森くん、東京に憧れるマユミちゃん、駅前の居酒屋の桃子さん。職場でも外でも「善い人」に囲まれてそこに溶け込み、喜びやピンチを共有する内に、弥生の心が少しずつ変わっていく。胸の内の一部がそっと温まるような、読んでいて気持ちのいい物語だ。

 私が読んだ文庫版は、書き下ろし短編「はるのうらら」を収録。マユミちゃんが高校3年生のころの物語。「おまけ」の作品かと軽く見ていたのだけれど、そうではなかった。この短編で、私は本編で見え隠れする「テーマ」が、はっきり見えた気がした。そのテーマとは「理由」だ。

 人はいろいろなことに「理由」を求めてしまう。本編でも短編でも、町の出入りにまつわる「理由」が度々語られる。弥生が東京から来た理由。桃子さんが大阪から来た理由。そして、沢森くんとマユミちゃんが東京に行かない理由、弥生が東京に帰らない理由。「○○しない」理由が寂しくも胸に沁みる。

 ここからは書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2013年4月29日 (月)

うさぎパン

著  者:瀧羽麻子
出版社:メディアファクトリー
出版日:2007年8月6日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」「左京区恋月橋渡ル」の著者のデビュー作。2007年「第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞」受賞作。

 母娘の間の関係には、いろいろなパターンがあっておもしろい。本書の主人公の女子高校生の優子と、その母親のミドリさん(優子は母のことを「ミドリさん」と呼ぶ)はとても仲がいい。ただ、ミドリさんと優子の間に、血のつながりはない。優子の実の母は優子が3歳の時に病死してしまった。

 物語は、優子の高校生活を軸に、様々な場面を切り取って描いていく。クラスメイトの早紀と富田くん、富田くんのお父さん、大学で物理学を学ぶ家庭教師の美和ちゃん、美和ちゃんの彼氏。優子が高校生になって出会った人たちとの会話によって、優子の想いが掘り起こされていく。

 パンがおいしそうだ。富田くんとは「パンが好き」という共通点で惹かれあっている。二人でパンツアーに出かけたりしている。タイトルの「うさぎパン」は、優子の心の中にあったパン。「動物パンと言えば断然うさぎに決まっている」と思うのだけれど、どこで売っているのか思い出せない。

 この「うさぎパン」の記憶の秘密や、ミドリさんとの関係、亡くなった実の母のことなど、物語にいろいろな仕掛けがあって面白い。文学賞への応募作でもあるし、ストーリーを練ったのだろう。女子高校生の屈託も伝わってもきて、おじさんには微笑ましい。

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2013年4月10日 (水)

左京区恋月橋渡ル

著  者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2012年4月28日 初版第1刷発行 5月20日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」の続編。出版社は「姉妹編」と呼んでいるようだ。

 「続編」でなく「姉妹編」なのは、恐らく主人公が違うからだと思う。前作の主人公は、おしゃれな女子大学生の花だったけれど、本書の主人公は前作では花の彼氏の友達、という脇役だった山根クンだ。山根クンは京都の大学の工学部の大学院生。学生寮に住み、専門は「爆薬」。密かな楽しみは鴨川デルタ(鴨川にある三角州)での「ひとり花火」

 そんな山根クンが、実験で行き詰って気分転換のために訪れた糺の森で、白いワンピースを着た黒髪の女性と出会う。後に友人たちに「姫」と呼ばれるこの女性との出会いによって、山根クンの生活は一変してしまう。これまでの山根クンの寮生活では、「好きな昆虫」は話題になるけれど、「好きなひと」という話題はなかった。「好き」という気持ちを持て余して、何をどうすればいいのか分からない。

 とまぁ、前作に続いての「恋バナ」物語。サエないおかっぱ頭の男子大学院生の恋バナは、前作のおしゃれな女子大生のそれよりも、ずっと親しみが湧く。多少デフォルメされた不器用さと一途さに引き込まれて、気が付くとおかしくて切なくて泣き笑い。山根クン、この恋はキミの人生の糧になるよ。

 登場人物が楽しい。前作の主人公の花はもちろん、友人の龍彦や安藤クン。新たな登場人物(だと思う)の寮長は、なかなか味のある人物で、続編(姉妹編)が出るのなら活躍が楽しみだ。もう一人、物語の本筋とは関係ないのだけれど、山根クンの中学校の時の担任の理科教師が素敵だ。

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2012年10月17日 (水)

左京区七夕通東入ル

著  者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2012年4月11日 初版第1刷発行 7月10日 第3刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 京都の大学生の物語。娘から、この本を読んで「京都の大学に行きたい!」って思った友達がいる、という話を聞いて手に取ってみた。京都の大学生モノと言えば、森見登美彦さんの作品が思い浮かぶ。ただし、あちらは腐れ男子大学生で、こちらはおしゃれな女子大学生の物語だ。

 主人公は、文学部の4回生の花。試験の日の朝、朝食のヨーグルトに入れるブルーベリーをこぼして白いシャツを汚してしまう。他の服を探すもしっくりくる服が見つからない。「こういうけちの付いた日には、気分を変えてちゃんとおしゃれしたほうがいい」と、選んだのが花柄のワンピース。

 このワンピースのおかげで、花は理学部の龍彦と巡り合う。龍彦は数学科の学生で、数学の話をするとき以外は、愛想がない、というか数学の話題しか話せない。それに対して花は、それを「算数」と呼んでいたころから苦手。彼の何がいいのかさっぱりわからない。しかしドンドンと彼に魅かれていく。

 本書は、こんな感じで始まった花の「恋バナ」だ。花はおしゃれな女の子で、これまでにも何人かと付き合い、親切にしてくれる男友達もいる。そんな幸せなキャンパスライフを送る女子大生の、恋バナを読んで面白いのか?という疑問が湧くが、これがけっこう面白かった。

 まぁ花と龍彦だけでは「勝手にやってくれ」という感じになってしまうが、脇を固める龍彦や花の友だちがいい味をだしている。龍彦の友だちは、専門分野が大腸菌とか爆薬とか遺伝子とかで、偏見を承知で言えば龍彦の数学以上に全く女性の興味を引かない。その彼らが本当に愛すべきいいヤツなのだ。
 その意味では、冒頭に引き合いに出した森見作品と通じるものがある。本書は、森見作品と同じ世界を、女子大学生の視点から描いている(恋する乙女の視点なので、かなり浄化されて清潔に映っているが)と言えば分ってもらえるだろうか。

 最後に。本書を読んで思い出したことがある。ずいぶん以前に「卵のふわふわ」という本の記事に、「女性に都合のよい展開で、世の男性にとってはどうなのか?」というコメントをいただいた。本書もまさに、花にとって都合の良い展開と言える。
 そして、先ごろのコメントに対する私の答えは「器量のいい女性に都合が良い話は好きというか許せるんです。カッコいい男がモテたり都合よく成功する話よりはずっと。」だった。今も同じ気持ちだ。

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