2J.柚木麻子

2017年12月24日 (日)

3時のアッコちゃん

著  者:柚木麻子
出版社:双葉社
出版日:2017年10月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2014年の本屋大賞ノミネート作品「ランチのアッコちゃん」の続編。表題作「3時のアッコちゃん」を含む4編を収録した短編集。

 「3時のアッコちゃん」の主人公は、「ランチの~」と同じで澤田三智子。先頃、東京にある大手の商社で、派遣社員から契約社員に昇格した。宣伝部でシャンパンのキャンペーンの企画チームにいる。傍目には順風に見えるかもしれないけれど、実態はそうでもない。

 キャンペーンの企画が行き詰っている。そんな時に三智子の前に現れたのが黒川敦子。三智子の元上司のアッコさん。これまでも突拍子もないことを言い出していたけれど、今回も。自分がアフタヌーンティーを出すから、5日間続けて企画会議を3時に開け、と。

 まぁ、アッコさんが出す紅茶(と三智子に出すアドバイス)が抜群の効果を発揮する。前作もそうだけれど「うまく行きすぎる」と思う部分はある。でも、うまく行く行かないは、こんなちょっとしたことで変わるのかもしれない、と思わせるぐらいには筋が通っている。

 この他の3編は、主人公が、デリバリーサービスの電話オペレーター、お菓子メーカーのデザイナー、就職活動中の女子大生、とそれぞれ違う。後半の2編は関西が舞台で、アッコさんは直接は登場しない。でも、アッコさんが経営するスムージー屋が登場する。関西に進出したらしい。

 最後に。お菓子メーカーのデザイナーが主人公の「シュシュと猪」は神戸の東の端、阪急岡本駅付近が舞台。タイトルと舞台の組み合わせでピンと来た人は、そうでない人よりきっと楽しめるはず。

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2017年9月13日 (水)

けむたい後輩

著  者:柚木麻子
出版社:幻冬舎
出版日:2014年12月5日 初版 2017年7月25日 4版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の本はこれまで「ランチのアッコちゃん」「本屋さんのダイアナ」「ナイルパーチの女子会」と3冊読んでいて、どれも女性同士の関係を描いていた。出版年で言うと本書はこの3冊に先立つ作品で、やはり女性同士の関係を描く。

 登場するのは主に3人の女子大生。一人は羽柴真実子。小樽から横浜にある聖フェリシモ女学院に進学してきた。次は浅野美里。真実子の幼稚園時代からの親友。同じ大学、同じ寮、同じ部屋。身体の弱い真実子の世話を何かとやいている。最後は増村栞子。真実子たちの1年先輩。14歳の時に詩集を出版して作家デビューしている。

 真実子は13歳の時に栞子の詩集を読んで魅了された。大学でその栞子と出会った真実子は、すぐに彼女の崇拝者となった。それも一途に。どんなことでも言うことをきき、呼び出されれば飛んでいく。真実子は喘息を患っているのに、栞子は平気で真実子の前で煙草を吸う。

 美里から見て、真実子の崇拝ぶりは度を越している。何より栞子は「14歳の時に詩集を出した」以外には、これといった魅力があるわけではない。だから美里は、真実子をたしなめる。栞子のことが気に入らない。

 栞子の方も美里のことが気に入らない。栞子は自分が「普通の子と違う」ことに価値を見出している。だから煙草を吸うし、けだるそうに話すし、何かに真面目に取り組んだりしない。真実子の自分を崇める目が心地いい。敵意や軽蔑が潜む美里の目は気に入らない。

  真実子は、栞子のことを崇拝しているし、美里とは自他ともに認める親友だ。こうして、女性3人の三角関係が出来上がる。三角形のどの辺でも衝突や綱引きを起こしながら、物語は真実子たちの大学の4年間を描く。

 私は50代の男で、強いて言えば話の中でしか登場しない、彼女たちの父親に近い。というか、私にも大学に通う娘がいるので、父親そのものだ。だからその目で見てしまう。

 美里はともかく真実子も栞子も、もう心配でならない。真実子なんか死んじゃうんじゃないの?と思う。栞子は「イヤな女」キャラなんだけれど、無駄なプライドを抱えていて、それが呪いとなっている。飄々としているけれど、実は一番不安定だ。

 そうそう、男性も登場する。ゲスな大学教授と、自分探し中のカメラマン志望。どっちもダメダメ。

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2015年10月21日 (水)

ナイルパーチの女子会

著  者:柚木麻子
出版社:文藝春秋
出版日:2015年3月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 今年の山本周五郎賞受賞、直木賞候補作品。「ランチのアッコちゃん」「本屋さんのダイアナ」を読んで、著者の作品の女性の性格や関係性の描き方がけっこう好きだった。直木賞候補になった時に本書を知って、いつか読んでみようと思っていた。

 「これまで私が読んだ作品とはだいぶ違う」と、4分の1ぐらい読んだところで思った。これまでの作品は、足元がしっかりした見通しのいい物語だったが、本書は違った。うっかりするとぬかるみに足が取られそうだし、どこに連れていかれるのかも分からない。

 主人公は栄利子と翔子の二人。ともに30歳。栄利子は大手商社に勤める会社員。仕事はできる方でしかも美人、独身。翔子は専業主婦で「おひょうのダメ奥さん日記」というブログを書いている。ブログはランキングに入るほどには人気がある。

 翔子がカフェで、編集者とブログの書籍化のことを話しているところに、栄利子が居合わせた。前々からブログの熱心な読者であった栄利子が、翔子に声をかけて二人は出会う。そしてすぐに「友達」になった。

 栄利子が真面目な商社マンで、翔子がぐうたら主婦、という取り合わせで、共通点は女友達がいないこと。二人とも「欲しい」と思っていたので、これは幸せな出会いだった。ところが、翔子がブログの更新を怠ったことから、二人の気持ちにズレが生じて、やがて修復不可能な事態に発展する...。

 直木賞の選評で、林真理子さんが本書について「主人公の女性に女友だちがいないというのも不自然」と、言われたそうだ。「女友だちがいないのは不自然」。その言葉がまさに、栄利子や翔子の「孤独」の裏付けになっていて皮肉だ。

 本書を読んで「女はコワイ」と思うのは簡単。でも「友達」「親友」って何?とか、「正気」と「狂気」とか、考えると違う景色が見えそうだ。ぬかるみに足を取られそうだから、敢えておススメはしないけど。

 最後に。この本を女性が読むとどう感じるのだろう?

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2015年2月 8日 (日)

本屋さんのダイアナ

著  者:柚木麻子
出版社:新潮社
出版日:2014年4月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は昨年も「ランチのアッコちゃん」でノミネートされている。

 主人公の名は矢島ダイアナ。「大穴」と書いてダイアナと読む。元ヤンの母のティアラ(勤め先のキャバクラでの名前。本名は有香子)が「世界一ラッキーな女の子になれるように」と付けた。父はダイアナが生まれてすぐにどこかに行ってしまった。

 主人公はもう一人いる。名前は神崎彩子。ダイアナの同級生。出版社の編集者をやっている父と、家で料理教室を開いている母と、3人で英国風の庭がある大きな家に住んでいる。

 本書は、この2人の女性の小学校3年生から22歳までの物語。途中までは「親友」としての2人、その後は別々の人生を歩む2人を交互に描く。互いのことを「羨ましい」と思い、認めてもいながら、些細なすれ違いで距離が離れていく。

 「ランチのアッコちゃん」よりも、ずっと深くて読み応えのある作品だった。

 境遇の違う2人が「親友」になったのはなぜか?。それは、一つには「自分にはないもの」に魅かれあったからだろう。ダイアナは彩子の優しい父母と落ち着いた家庭に、彩子はダイアナの刺激的な暮らしぶりに。

 しかし、2人は同じものも持っていた。2人が親友となるきっかけは「不思議の森のダイアナ」という絵本。本が好きであることと、この絵本への想いを2人は共有する。自分が思い描く人生から外れてしまった時、この絵本は勇気と指針を与えてくれる。そして2人をつなぐ紐帯になる。

 幼い頃に「親友」と呼び合った相手がいるなら、その人と今は疎遠になっているなら、この本を読んでみるのもいいと思う。必ずしも共感はしないかもしれないけれど、得るものはあると思う。

 本書とは関係ないけれど、「ダイアナ」って今で言う「キラキラネーム」だなぁ、と思っていたら、先日「2014年 ベスト・オブ・キラキラネーム」が発表された。

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2014年3月13日 (木)

ランチのアッコちゃん

著  者:柚木麻子
出版社:双葉社
出版日:2013年4月21日 第1刷発行 6月3日 第7刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。これまで著者のことを知らなかったけれど、これまでに単著で10作品も刊行されていて、平成25年下半期の直木賞候補になっている。ちょっと注目していこうと思う。

 表題作「ランチのアッコちゃん」を含む4編を収録した短編集。

 「ランチの~」の主人公は澤田三智子。麹町の小さな教材専門の出版社の派遣社員。4年付き合った彼と別れて落ち込んでいる時に、職場の女性部長から「ランチの交換」を申し込まれた。三智子が部長にお弁当を作る代わりに、部長がいつも行くお店で食べるランチ代を出してくれる。

 この部長に社員が密かにつけたニックネームが「アッコちゃん」。三智子はアッコちゃんが指示したお店でランチを食べる。それは新しいお店であり、新しい人との出会いであり、新しい経験であり、新しい世界だった。三智子はそうしたものを干天の慈雨のように吸収していく。

 次の「夜食のアッコちゃん」は「ランチの~」の続編。どうやら翌年の話らしい。出版社が倒産して三智子は派遣先が変わった。そこで女子の正社員と派遣社員の対立の板挟みになって悩んでいた。そこに、ワゴンの「ポトフ屋」を新しく始めたアッコちゃんが現れる。

 その次の「夜の大捜査先生」と「ゆとりのビアガーデン」は、主人公を変えた物語。アッコちゃんのポトフ屋も登場するので、同じときの同じ場所の話だと分かる。「夜の~」は、昔「コギャル」だった30歳の契約社員の話。「ゆとりの~」は、大手商社の社内ベンチャーを3か月で辞めた「使えない社員」の話。

 4編を通して共通して感じるのは、人は「出会い」によって成長したり変わったりすることだ。「~アッコちゃん」の2編は、アッコちゃんが出会いを三智子に意図的に与える。他の2編はもう少し自然に出会いが起きる。主人公たちは少し晴々して物語の終わりを迎える。

 本書はファンタジーなのかもしれない。「現実離れ」と揶揄しようというのではない。確かに「うまく行きすぎる」と思う。リアリティを大事にする人からは評価されないだろう。でも、アッコちゃんのワゴンは、敢えてちょっとリアリティを超越した登場の仕方をする。その時、物語がフッと重さをなくした感じがして、「うまく行きすぎ」てもOKと思えてきた。

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