2G.朝井リョウ

2016年8月 3日 (水)

星やどりの声

著  者:朝井リョウ
出版社:角川書店
出版日:2011年10月31日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は2009年に「桐島、部活やめるってよ」で、小説すばる新人賞を受賞して翌年にデビュー。2013年に「何者」で直木賞受賞。駆け足でステップアップしている感じだ。本書は、この2つの受賞作の間に出した何作かのうちの1つ。

 舞台は連ヶ浜という海辺の街(鎌倉を想起する)の、駅前の商店街から少し離れたところにある喫茶店。お店の名前が「星やどり」。主人公は、このお店を切り盛りする早坂家の6人の子どもたちが順に務める。最初が長男の光彦、続いて三男の真歩、二女の小春、二男の凌馬、三女のるり、最後が長女の琴美。

 琴美は宝石店に勤める26歳、既婚、しっかり者。光彦は大学4年生、就活中、ちょっと頼りない。小春とるりは双子の姉妹、高校3年生。小春はメイクがバッチリのギャル風、るりは真面目な優等生、放課後はお店を手伝う。凌馬はおバカで明るい高校1年生。真歩は少し醒めた小学6年生、カメラを首から下げて登校。性格付けがはっきりしている。

 それぞれの日常の小さな物語を描きながら、その背景で大きな物語が進む。「星やどり」は、亡くなった建築家の父親が、早坂家の母子に遺したお店で、「大きな物語」はその父の想いを辿る。これはこれで「いい話」なのだけれど、私は「小さな物語」の方に魅かれた。

 読み進めていくと、それぞれの性格付けには、意味があることが分かってくる。父親が亡くなった時の年齢が関係していることもあるし、何かの出来事に起因していることもある。それを知ると切なくなってくる。著者は、6人に様々な性格を便宜的に割り振っているのではなくて、その性格にはその役割があってそうしているのだ。

 役割だから演じている部分もあって、表面に見える性格とは別の内面の性格も垣間見える。例えば、おバカキャラに見える小春や凌馬は、その内面に澄んだ感性を持っている。こうした人の内面を描くことについて、主人公を入れ替えて互いの視点で互いを描くという手法が、とても冴えを見せている。

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2014年1月26日 (日)

世界地図の下書き

著  者:朝井リョウ
出版社:集英社
出版日:2013年7月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「何者」で2012年の下半期の直木賞を受賞した著者の、受賞後の第1作目。

 著者は、デビュー作「桐島、部活やめるってよ」では高校生を、「何者」では大学生の就活を、その他の作品でも自分と同年代を描いてきた。今回は打って変わって小学生の子どもたちを、物語の中心に据えた物語。

 物語の主な舞台は児童養護施設の「青葉おひさまの家」。主人公はそこで暮らす太輔。第1章は太輔が小学校3年生で「青葉おひさまの家」に来たころの話で、第2章以降はそれから3年後、太輔が6年生の時の物語だ。

 その他の主な登場人物は、太輔と同じ歳の淳也、淳也の妹の麻利、太輔の一歳下の美保子、六歳上の佐緒里。この太輔を加えた5人は「青葉おひさまの家」では同じ班で、文字通り寝食を共にしている。この施設で暮らしているからには、それぞれに事情を抱えている。

 もちろん、当人たちには何の責任もない事情であることは言うまでもない。物語は、それぞれが抱える事情が引き起こす事件や、心無い同級生による切ない出来事などを描きながら、ラストシーンへ収れんしていく。それは、佐緒里のために小学生たちが考えた幼い、しかし大きな企てだった。

 いろいろな気持ちが引き起こされた。私は子どもがつらい目にあう話は苦手だ。彼らに起きる出来事は悲しく切ない。子どもなのだから泣いてしまっていいのにそうしない。その姿がさらに切なくて、私はつらかった。一方で、彼らにも子どもらしい楽しみや企みがあって、その成り行きにワクワクしたりもする。かと思えば、大人を見る醒めた目に苦笑したり。

 奇しくも、同じように児童養護施設を描いたテレビドラマが話題になっている。そのテレビドラマの是非についてはここでは言わない。ただ、本書があのような批判を受けないのは、テレビのような影響力がないからだけではなく、この物語には温かく生真面目な、著者の心根が感じられるからだと思う。

 「どんどん道が細くなっていったりなんか、絶対にしない」。登場人物のこのセリフは、たぶん著者からのメッセージだ。

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2013年6月16日 (日)

何者

著  者:朝井リョウ
出版社:新潮社
出版日:2012年11月30日 発行 2013年1月25日 4刷
評  価:☆☆☆(説明)

 2012年度下半期の直木賞受賞作。1989年生まれの著者は、2012年の春に大学を卒業して就職している。大学生の就職活動を題材にした本書は、最近の著者自身の経験が反映していると考えて間違いないだろう。

 主人公は二宮拓人、就活中の大学生。以前は劇団をやっていたらしい。その他に主な登場人物が4人。神谷光太郎、バンドのボーカルで拓人の同居人。田名部瑞月、光太郎の元彼女、1年間アメリカに留学していた。小早川理香、瑞月の友だちで同じく留学経験あり、拓人のアパートの1つ上の階に住んでいる。宮本隆良、理香の彼氏で同棲中で、就活には興味がないらしい。

 主な登場人物は、隆良も含めて5人全員がいわゆる就活生。この5人が出会って、再来年の春の就職を目指して、就活のスタートを切ったところから物語は始まる。ES(エントリーシート)を書いたり、大学のキャリアセンターに通ったり、模擬面接をやったり....。

 「今のこの時代で団体に所属するメリットって何?」などと言い放ってしまう隆良を除いて、残りの4人は同じ就活生として、協力したり励まし合ったりしながら、ままならない日々を過ごす。「自分で何もしなかったら今のまま。何者にもならない」。そんな人生初めての経験。

 大学生の就活を、自身の経験が鮮やかな内に書き留めただけあって、セリフや描写が瑞々しい。ただこの物語は協力し励まし合う清々しいだけの青春物語ではない。就活は「早抜けのゲーム」のようなものでもある。昨日励ました相手が、明日には内定を自分より早く得るかもしれない。

 その時に「おめでとう」の言葉を口にすることはできても、先を越された想いと折り合いを付けるのは難しい。セリフや描写の瑞々しさは、時には刃物のような鋭さを見せる。ちりばめられたツイッターの書き込みが、実況中継のように彼らの気持ちを伝える。しかし、一皮めくるともう一段下に秘された心理があった。

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2013年5月 9日 (木)

学生時代にやらなくてもいい20のこと

著  者:朝井リョウ
出版社:文藝春秋
出版日:2012年6月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「桐島、部活やめるってよ」でデビューし、「何者」で昨年度の下半期の直木賞を、戦後史上最年少で受賞した著者のエッセイ集。著者の早稲田大学在学中の体験を中心につづった20編を収録。面白い。ただし、どれもこれも他の人には、同じことをやってみれば?と、おススメできない。だから「学生時代にやらなくてもいい~」

 20編のエッセイ全部に、面白さとバカバカしさが満ちている。大学生時代の4年間に、よくもこれだけの面白いことに遭遇したものだと思う。その理由は読んでいれば分かる。正確には、面白いことに「遭遇」したのではなく、著者自身が面白いことに「なってしまっている」。自分から呼び込んだ「面白さとバカバカしさ」なのだ。

 それは著者(とその仲間)が「後先を考えずに行動する」からだ。「東京から京都まで、自転車で行こうよ」と友達に誘われ、「もちろんさ」と答える著者(ちなみに著者に長距離サイクリングの経験はない)。フェリーで8時間かかる島の花火大会に、「行くに決まってますが何か」と即答する仲間たち。無計画無鉄砲だから、こんな面白いことになる。さらに、面白いことが(壮絶な苦労と共に)向こうからもやってくるのだ。

 「今の大学生もなかなか元気じゃないか」という、おじさん目線のコメントは、あまりに陳腐すぎるかもしれない。著者と仲間たちをして「今の大学生」を語るわけにはいかない。でも、こういう学生さんたちが今も昔も変わらずいる、ということが、私の心を明るくした。早稲田大学、侮れませんね(そもそも侮れないって)

 最後に。本書は、電車の中などの公共の場では読まない方がいい。笑いを堪えられないと思うからだ。私は、家で読んでいたのだけれど、一度などは息ができないほど笑ってしまった。

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2013年3月28日 (木)

桐島、部活やめるってよ

著  者:朝井リョウ
出版社:集英社
出版日:2012年7月4日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者のデビュー作で、小説すばる新人賞受賞作品、昨年8月には映画化された。著者はデビュー後、精力的に作品を発表し、6作目の「何者」で、今年度下半期の直木賞を受賞。戦後史上最年少の23歳、初の平成生まれの受賞者となった。

 物語は、同じ高校の2年生6人をそれぞれ主人公とした物語の、6つの章のオムニバス形式。バレー部のキャプテンの桐島が、部活をやめるという出来事の、直接的間接的な波紋を視点を変えて描く。高校2年生という多感な年頃。クラス、部活動、という集団の中で、階層(階級?)が暗黙の内に出来上がる。イケてるグループとそうでないグループ。

 生徒たちは、お互いの立ち位置をはかりながら暮らしている。そのためか、友人や他の生徒についての関心が多く語られる。同じ学校の同じ時期の物語だから、ある章の主人公は別の章では、主人公の友人などとして登場する。こうすることで、口に出しては言わないお互いへの想いの、微妙なすれ違いなどが浮かび上がる。

 このすれ違いも含めて、過剰気味な自意識が感じられて、ヒリヒリとした感触が残る。いろいろなタイプの高校2年生が登場するので、誰もが自らの「あの頃」を思わずにはいられない。本書が多くの人に受け入れられたのだとしたら、それが一番の理由だろう。

 文庫版には、Web文芸誌に掲載された、登場人物の1人の女生徒の中学2年のころの物語も収められている。私は本編を読んでいて、彼女のことが彼女の気持ちが、一番気になっていた。このスピンアウトは、そういう人のために書かれたのだろう。ただし、読んでさらに気になってしまったけれど。

 ちなみに私は、本書をKindle版の電子書籍で読んだ。10インチのAndroidタブレットにインストールしたKindleアプリで。最初はページめくりなどに少し違和感があったが、すぐに気にならなくなった。

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