2F.辻村深月

2018年11月28日 (水)

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ

著  者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2009年9月14日 第1刷 11月6日 第3刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「ハケンアニメ」「東京會舘とわたし」「かがみの孤城」と、最近の作品に連続して☆5つ。それで「私は辻村さんの作品が大好きなのだ」と気が付いた。その辻村さんの2009年の作品。

 二部構成。第一部の主人公は神宮司みずほ。30歳。山梨県甲州市出身。29歳の時に結婚し、今は東京に住んでいる。職業はライター。雑誌に記事を書いている。母親を殺して逃走中(という疑いをかけられている)の、幼馴染の望月チエミの行方を捜している。そして第二部の主人公がその逃走中の望月チエミ、という趣向。

 第一部でみずほは、かつての同級生、遊び仲間たちを順に訪ねる。チエミの行方につながるような情報を聞き出すために。最近会ったのはいつか?とか、その時はどんな様子だったか?とか、その他に何か知っていることはないか?とか、そんなことを聞いて回る。

 聞き出せた情報は、それぞれは他愛もないものだけれど、みずほはチエミと事件の真相に近づいて行った。読者もその気になれば、みずほと一緒に謎解きができる、というミステリー作品に仕上がっている。

 ただ、この物語はミステリー以外の要素も色濃い。久しぶりに会う同級生たちとのやり取りや、差し挟まれる回想によって、様々なことが徐々に形づくられる。中学まで同じ学校に通って、高校で進路が別れたみずほとチエミの関係性。地元に残った遊び友達たちと、東京に出たみずほの間にあるすき間。みずほと実家の母親が抱える過去..。

 こうして、形づくられるのはザラザラとした手触りの悪いものだった。著者自身が山梨県出身でライターではないけれど文筆業ではあるので、なんとなくみずほと重ねて見てしまう。そうした時に「これ、大丈夫なのかな」と心配になるぐらい、ザラザラしている。

 分量的には第一部が約4分の3。第二部は、第一部の答え合わせであり、結末でもある。この第二部によって、ザラザラしたものも、きれいに「洗い流す」とはいかないけれど、そういうものを「乗り越える」ことはできた。

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2018年9月16日 (日)

きのうの影踏み

著  者:辻村深月
出版社:KADOKAWA
出版日:2018年8月25日 初版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

  著者は「大のホラー好き」だと、インタビューなどで明かしていらっしゃる。本書はその著者が「楽しんで書いた」という「怪談」の短編集。短いもので数ページ、長くて約30ページの短編を13編収録。

 「ホラー」映画のように思いっ切り怖い話ではなくて、「口裂け女」のような都市伝説に近い。話として聞く分には「なにそれ、怖い~」と言っていれば済む、まさに「怪談」。ただし、本当にあったら身体の芯から冷えそうな話。

 怖かったのは「やみあかご」と「ナマハゲと私」。怪談をあらすじで紹介するような無粋なことはできないので、感想だけ。「やみあかご」は、わずか4ページの作品。愛らしい幸せさえ感じる前半からの急展開にゾクゾクした。「ナマハゲと私」は18ページ。これは「怪談」じゃなくて「事件」だ。上に「本当にあったら~」と書いたけれど、本当にありそうで怖い。

 「手紙の主」と「私の町の占い師」は、どちらも小説家が主人公。作家になって九年とか、先輩のホラー作家(著者は京極夏彦さんのファン)とか、里帰り出産とか、著者ご本人が主人公と思わせる設定。だから、エッセイのように「本当にあったこと」として読んでしまった。

 角川文庫のサイトが、本書についての著者のインタビューを掲載していた。「収録作は実話がベースになっているものばかり」だそうで。さらっとおっしゃるけれど、それってすごく怖い。

 辻村深月さんのインタビュー記事へ

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2018年5月23日 (水)

ネオカル日和

著  者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2015年10月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 辻村深月さんのエッセイ集+掌・短編4本。エッセイは毎日新聞に2010年から2011年にかけて連載した「日本新カルチャーを歩く」を中心に42本。

 私は辻村深月さんの作品が好きだ。このブログで年に数個しかない☆5つを、「ハケンアニメ」「東京會舘とわたし」「かがみの孤城」と、3年連続で付けた。好きな作家さんができると、作品の向こう側にいる作家さん自身に興味が湧いてくる。どんな人なんだろう?それでこの「初のエッセイ集」を手に取った。

 本書には、著者の「好きなもの」が凝縮されている。毎日新聞の企画が「興味の赴くまま好きなところに取材に行ってよい」というものだったらしいので当然そうなる。どんな人なんだろう?という私の興味にも、直接答えてくれた。

 それで、著者の「好きなもの」とは。まずは、藤子・F・不二雄さん、ドラえもん、パーマン、のび太。ガンダム、ポケットモンスター、フジロック、アメトーーク。本や映画、演劇では「モモ」「オペラ座の怪人」、クリスティの「アクロイド殺し」、ポーの「黒猫」。好きな戦国武将は武田信玄(著者は山梨県民だ)。

 ここに挙げたのはほんの一例で、私が分かるものから選んだ。著者の「好きなもの」は、とても広い範囲に及んでいて、その好奇心の強さを、とても好ましく感じた。作品だけでなく、人としても好きになった。

 最後に。私は長野県民なので、戸隠のそばとか杉並木とか、「みすゞ飴」とかが出てくると親近感が急上昇する。

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2017年11月 8日 (水)

かがみの孤城

著  者:辻村深月
出版社:ポプラ社
出版日:2017年5月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 辻村美月さんの最新刊。

 「東京會舘とわたし」がすごく良かったこともあって、私の要注目の作家さん。本書の紹介の前に言ってしまうけれど、☆5つ。実は昨年は「東京會舘とわたし」、一昨年は「ハケンアニメ」で☆5つを付けている。☆5つは、1年間に多い年でも数個でゼロの年もある。「要注目」どころか「大好き」ということだ、と今さら気が付いた。

 主人公の名は「安西こころ」。中学校に入学して最初の4月だけ通って、その後、行けなくなってしまった。不登校。そして一人では外に出かけられない「ひきこもり」状態。おかあさんは「これからだよ、がんばろう!」と言ってくれるが、こころはそれに応えられるかわからない。

 そんなこころに奇跡が起きる。ある日、部屋にある姿見の鏡が光り出し、手を触れて少し力を入れると、鏡の向こう側に引きずり込まれた。そこは「お城」だった。ディズニーランドのシンデレラ城のようなお城。そしてピンクのドレスを着て、顔には狼のお面を付けた少女がいた。

 というわけで、物語はファンタジックな幕開けをする。お城には他にも6人の中学生が来ている。そして、自分の家と城を行き来して、城の中に隠されている鍵を探す。その鍵で「願いの部屋」に入った者の願いが叶う。期限は3月30日。そういうルールのゲームが始まる。ますますファンタジックだ。マンガかアニメにありそうだ。

 これでは「マンガかアニメみたいな設定」という紹介にしかならない。何がいいのか分からない。しかし、☆5つの理由を説明するには、物語の大事な部分を盛大にネタバレしないとできない。困った。本当に困った。

 そんなわけで、これ以上言えるのは、この一言だけ。

 これは「壮大な「救い」の物語」だ。

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2017年1月 8日 (日)

島はぼくらと

著  者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2013年6月4日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 以前から好きだったけれど「東京會舘とわたし」を読んで、「この人の作品をもっと読みたい」と思った辻村美月さんの作品。「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞した後の第1作目。

 主人公は、池上朱里、榧野衣花、矢野新、青柳源樹の、女子2人男子2人計4人の高校2年生。瀬戸内海に浮かぶ人口3000人弱の島「冴島」に暮らし、フェリーで本土の高校に通う。源樹は島に来た2歳の時から、他の3人は生まれた時から一緒に育っている。保育園も小学校も中学校も..。

 物語は、島にやって来た人たちと4人の関わりを主に描く。「冴島」は現村長(「現」と言っても6期目で、もう20年以上になる)の方針で、シングルマザーやIターン者を多く受け入れている。そうしたこともあって、人の出入りが意外と多い。「島」というと閉鎖的な社会を思い浮かべがちだけれど、そうでもなくて開かれている。ただ人々の心の中までそうかと言うと..。

 瀬戸内海の島に住む男女同数の高校生4人、しかも幼馴染。青空のように澄み渡った青春群像劇。恋と友情に揺れる女心?もしかしたら男心?なんてことを思ったけれど、本書はそんなありきたりの物語ではなかった。青春群像劇だし恋も友情もあるけれど、描かれるものはもっと広く深い。すごく面白かった。

 それは登場人物のそれぞれに、何かしら背負ったものがあり、それを丁寧に描いているからだ。例えば、3年前に身重の体で島に来たシングルマザーの蕗子。簡単にではないけれど、最終的には島も彼女もお互いを受け入れて、蕗子親子は島に居場所を見つけた。例えば、島の活性化のために雇われた「地域活性アドバイザー」のヨシノ。島民さえ「どうしてそこまで?」と思うほどの冴島への献身。それはなぜなのか?

 私が一番に心を動かされたのは、小さなエピソードとして紹介された、島の母子手帳のこと。島には中学までしかない。主人公の4人は、家から高校に通う選択をしたけれど、早ければ子どもたちは15歳で親元を離れる。島のお母さんたちは、その15年間にすべてを贈るつもりで、子どもを育てる。母子手帳はそのためにある。感涙。これは名作だ。

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2016年11月30日 (水)

東京會舘とわたし(上)旧館 (下)新館

著  者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞した著者の最新刊。著者の「新たなる代表作」との呼び声も高い作品。

 主人公は小説家の小椋真護、30代半ば。物語は彼が、東京會舘のレストランでで、そこの社長と面談するシーンから始まる。「東京會舘を舞台に小説を描く」という希望に協力してもらうためだ。

 東京會舘とは、皇居の真向かいに位置する宴会場を主とする建物で、創業は大正11年(1922年)。地震と戦渦を潜り抜けてきた100年近い歴史がある。その間にこの場所が見てきた歴史を描く。そういう構想だ。

 プロローグで語られたその構想に従って、本編では東京會舘を舞台とした様々な物語が綴られる。時代を一旦遡って、第一章は、大正12年のヴァイオリン演奏会での出来事。金沢からその演奏会のためにきた青年の物語。その後「上巻」では昭和39年まで「下巻」で現代まで戻ってくる。

 すごくよかった。緩やかにつながる10個の物語があって、それぞれを堪能した。それぞれの物語が、珠のように滑らかに優しく光って見える。帯に「全国の書店員、読者から絶賛の嵐!!」と煽り気味の惹句が踊っているが、それも分かる気がする。「これ、本屋大賞じゃないかな?」なんて、まだノミネート作品も決まらないうちから思った。

 ちなみに東京會舘は2013年の上半期まで、直木賞の贈呈式と受賞者の会見が行われていた場所。(現在は建替えのため帝国ホテルで行われている)。当然、著者の受賞の時もそこだった。加えて、小説家が主人公に、同業のしかも同年代の人物を据えたのだから、ご本人をいくらか投影した人物であるはず。そういうことを考える楽しみもある。

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2016年10月30日 (日)

オーダーメイド殺人クラブ

著  者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は短編集「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞、本書はその同時期に書かれた長編。

 主人公は小林アン。中学校二年生の女子生徒。美人の母親ゆずりの顔立ちで、バスケット部に所属して、少し前までは彼氏もいて..と、クラスのヒエラルキー上位の「リア充」女子。

 アンは「リア充」だけど「中二病」でもある。本人に自覚があるのが救いだけれど、相当に重症であることは疑いがない。「これから、何かを(それが何かはまだわからないけど)成し遂げる私。人と違う、私」なんてことを思っている。だから「美人なだけ」の母親のことははっきりと、「平凡な」友達のこともは心の隅で見下している。

 もちろんそんなことは表に出さない。女子中学生が上手くやっていくための術は心得ている(その割には冒頭から友達に無視されているけど)。そしてアンには、もう一つ表に出さないことがある。「死」への興味がそれだ。物語は、このことが基になって抜き差しならないところまで転がって行く。

 読んでいて痛々しい気持ちがした。「女子中学生は大変だな」と思った。仲がいい友達とちょっとしたことで決裂し、どうしてそうなるのかクラスの女子全員を敵にしてしまう。「自分は特別」という抜きがたい思いが、破滅に向かわせる。

 私は子どもがつらい目に会う話は苦手で、この物語も私までつらくなった。それにも関わらず、ほとんど休まずに読み切ってしまった。その理由は簡単には言えないけれど「結末を知らないままではいられない」という表現が一番ぴったりくる。もちろん、物語の運びが上手いということもあるけれど。

 最後に。アンが持つ「死」への興味は、親なら誰でも心配でたまらない類のものだし、人によっては嫌悪感を催すかもしれない。ちょっと距離を空けて読まないと危険。くれぐれも近づきすぎないようにご注意を。

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2016年1月27日 (水)

朝が来る

著  者:辻村深月
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞ノミネート作品。「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞した辻村深月さんの最新刊。

 主人公は前半と後半で一人ずつ。前半の主人公は栗原佐都子。47歳の専業主婦。川崎の高層マンションに、夫の清和と6歳の息子の朝斗と3人で住んでいる。ある朝に電話がかかってきて、その相手は「子どもを、返してほしいんです」と言った。

 佐都子は、かつて不妊治療を受けていて、そのことが詳しく物語られる。それは、出口があるかどうかもわからないトンネル。「明けない夜」のようなものだった。朝斗は佐都子に「朝」を運んできた。タイトルはこのことを指している。

 後半の主人公は片倉ひかり。21歳。家族は両親と姉がいるが、何年か前に家出して今は1人で暮らしている。後半の物語は、ひかりが家族と幸せに暮らしていた子どものころから始まる。そして、中学生の時に妊娠・出産を経験する。

 私は、ひかりの物語も「明けない夜」のようだと思う。であれば、ひかりにも「朝」が訪れるのか?年齢も境遇も違う2人の女性の人生がやがて交錯する。そこにあるのは哀しみか怒りか?あるいは幸せか?それは、最後まで分からない。

 帯に「両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長編」とある。何度も泣ける。

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2015年9月27日 (日)

鍵のない夢を見る

著  者:辻村深月
出版社:文藝春秋
出版日:2012年5月15日 第1刷 7月25日 第2刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2012年上半期の直木賞受賞作。WOWOWでドラマ化されDVDもリリースされている。「仁志野町の泥棒」「石蕗南地区の放火」「美弥谷団地の逃亡者」「芹葉大学の夢と殺人」「君本家の誘拐」の5編を収めた短編集。

 著者がインタビューで「新聞やテレビのニュースで大きく取り上げられることのない「町の事件」を扱う短篇集にしようと、はじめに決めました」と答えている。しかし、殺人事件も複数あって、なかなか緊張感のただよう物語が展開する。

 「仁志野町の泥棒」は小学生ころの回想。友達の母親の秘密を知ってしまう。「石蕗南地区の放火」は保険の調査員が主人公。実家の目の前で火事が起きる。「美弥谷団地の逃亡者」と「芹葉大学の夢と殺人」は少しテーマが重なる。付き合う男性が災いの元になる。「君本家の誘拐」は一瞬目を離したスキにベビーカーごと子どもを誘拐された母親を描く。

 5編すべてで女性が主人公。その他に私が5編に共通して感じたのは様々な形の「ずれ」。一つは「決定的に間違っているわけではない、しかし普通とは違う」という感覚。例えば「芹葉大学~」の主人公の彼の夢は「医者」と「サッカーの日本代表」になること。その夢を邪魔するものは許せない。

 もう一つは、価値観の「ずれ」。例えば「君本家の誘拐」での、不妊に悩んだ末に娘を授かった主人公と、海外ブランドの有名店に勤める高校時代の友人。悪意はない無邪気な言葉が、相手の心に小さな嵐を起こす。

 こうした「ずれ」が生む空気も緊張感につながっている。直木賞受賞作だけあって、物語への引き込み方が巧みだった。ただ、こんな不穏な物語が受賞していたとは思わなかった。

ドラマ「鍵のない夢を見る」公式サイト

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2015年3月25日 (水)

ツナグ

著  者:辻村深月
出版社:新潮社
出版日:2010年10月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2011年の吉川英治文学新人賞受賞作。2012年10月に松坂桃李さん主演で映画化。2014年2月現在で69万部のベストセラー。この前に読んだ「ハケンアニメ」が面白かったので読んでみようと思った。

 「この世」の私たちを死者と引きわせることができる者、それが「使者(ツナグ)」。本書はこの「使者」を巡る様々な人間を描いた連作短編。

 使者に「誰々に会いたい」と依頼すると、使者はそれに応じるかどうかを死者に聞いて、諾となれば面会が叶う。死者に会えるのは人生で一度きり。死者の方もそれは同様で、一度誰かに会うともう他の誰かには会うことができない。さらには死者の方から会う人を指名することもできない。

 物語では、自分を介抱してくれたアイドルに会いたい女性、亡くなった母親に会いたい男性、親友だった同級生に会いたい女子高校生、自分の元から急に姿を消した恋人に会いたい男性、などが登場する。

 「人生で一度きり」というルールが要になって、物語を締めている。「愛するあの人にもう一度会いたい」という理由だけでは「一度きり」のチャンスは使えない。秘密とか心残りとか、もっと別の理由があって、彼らは使者にコンタクトしてくる。時にその理由は業の深いものだったりする。また「使者」自身にも抱えた事情がある。

 面白かった。死者の方も「一度きり」。それを受けたのだからか、死者の方は一様に余裕がある。楽しそうでさえある。常に「死」を意識しなくてはならない物語なのに、暗い感じがしないのは、面会に来た死者が持つ明るさのせいだと思う。

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