2F.辻村深月

2017年1月 8日 (日)

島はぼくらと

著  者:辻村深月
出版社:講談社
出版日:2013年6月4日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 以前から好きだったけれど「東京會舘とわたし」を読んで、「この人の作品をもっと読みたい」と思った辻村美月さんの作品。「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞した後の第1作目。

 主人公は、池上朱里、榧野衣花、矢野新、青柳源樹の、女子2人男子2人計4人の高校2年生。瀬戸内海に浮かぶ人口3000人弱の島「冴島」に暮らし、フェリーで本土の高校に通う。源樹は島に来た2歳の時から、他の3人は生まれた時から一緒に育っている。保育園も小学校も中学校も..。

 物語は、島にやって来た人たちと4人の関わりを主に描く。「冴島」は現村長(「現」と言っても6期目で、もう20年以上になる)の方針で、シングルマザーやIターン者を多く受け入れている。そうしたこともあって、人の出入りが意外と多い。「島」というと閉鎖的な社会を思い浮かべがちだけれど、そうでもなくて開かれている。ただ人々の心の中までそうかと言うと..。

 瀬戸内海の島に住む男女同数の高校生4人、しかも幼馴染。青空のように澄み渡った青春群像劇。恋と友情に揺れる女心?もしかしたら男心?なんてことを思ったけれど、本書はそんなありきたりの物語ではなかった。青春群像劇だし恋も友情もあるけれど、描かれるものはもっと広く深い。すごく面白かった。

 それは登場人物のそれぞれに、何かしら背負ったものがあり、それを丁寧に描いているからだ。例えば、3年前に身重の体で島に来たシングルマザーの蕗子。簡単にではないけれど、最終的には島も彼女もお互いを受け入れて、蕗子親子は島に居場所を見つけた。例えば、島の活性化のために雇われた「地域活性アドバイザー」のヨシノ。島民さえ「どうしてそこまで?」と思うほどの冴島への献身。それはなぜなのか?

 私が一番に心を動かされたのは、小さなエピソードとして紹介された、島の母子手帳のこと。島には中学までしかない。主人公の4人は、家から高校に通う選択をしたけれど、早ければ子どもたちは15歳で親元を離れる。島のお母さんたちは、その15年間にすべてを贈るつもりで、子どもを育てる。母子手帳はそのためにある。感涙。これは名作だ。

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2016年11月30日 (水)

東京會舘とわたし(上)旧館 (下)新館

著  者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞した著者の最新刊。著者の「新たなる代表作」との呼び声も高い作品。

 主人公は小説家の小椋真護、30代半ば。物語は彼が、東京會舘のレストランでで、そこの社長と面談するシーンから始まる。「東京會舘を舞台に小説を描く」という希望に協力してもらうためだ。

 東京會舘とは、皇居の真向かいに位置する宴会場を主とする建物で、創業は大正11年(1922年)。地震と戦渦を潜り抜けてきた100年近い歴史がある。その間にこの場所が見てきた歴史を描く。そういう構想だ。

 プロローグで語られたその構想に従って、本編では東京會舘を舞台とした様々な物語が綴られる。時代を一旦遡って、第一章は、大正12年のヴァイオリン演奏会での出来事。金沢からその演奏会のためにきた青年の物語。その後「上巻」では昭和39年まで「下巻」で現代まで戻ってくる。

 すごくよかった。緩やかにつながる10個の物語があって、それぞれを堪能した。それぞれの物語が、珠のように滑らかに優しく光って見える。帯に「全国の書店員、読者から絶賛の嵐!!」と煽り気味の惹句が踊っているが、それも分かる気がする。「これ、本屋大賞じゃないかな?」なんて、まだノミネート作品も決まらないうちから思った。

 ちなみに東京會舘は2013年の上半期まで、直木賞の贈呈式と受賞者の会見が行われていた場所。(現在は建替えのため帝国ホテルで行われている)。当然、著者の受賞の時もそこだった。加えて、小説家が主人公に、同業のしかも同年代の人物を据えたのだから、ご本人をいくらか投影した人物であるはず。そういうことを考える楽しみもある。

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2016年10月30日 (日)

オーダーメイド殺人クラブ

著  者:辻村深月
出版社:集英社
出版日:2015年5月25日 第1刷 2016年6月6日 第5刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は短編集「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞、本書はその同時期に書かれた長編。

 主人公は小林アン。中学校二年生の女子生徒。美人の母親ゆずりの顔立ちで、バスケット部に所属して、少し前までは彼氏もいて..と、クラスのヒエラルキー上位の「リア充」女子。

 アンは「リア充」だけど「中二病」でもある。本人に自覚があるのが救いだけれど、相当に重症であることは疑いがない。「これから、何かを(それが何かはまだわからないけど)成し遂げる私。人と違う、私」なんてことを思っている。だから「美人なだけ」の母親のことははっきりと、「平凡な」友達のこともは心の隅で見下している。

 もちろんそんなことは表に出さない。女子中学生が上手くやっていくための術は心得ている(その割には冒頭から友達に無視されているけど)。そしてアンには、もう一つ表に出さないことがある。「死」への興味がそれだ。物語は、このことが基になって抜き差しならないところまで転がって行く。

 読んでいて痛々しい気持ちがした。「女子中学生は大変だな」と思った。仲がいい友達とちょっとしたことで決裂し、どうしてそうなるのかクラスの女子全員を敵にしてしまう。「自分は特別」という抜きがたい思いが、破滅に向かわせる。

 私は子どもがつらい目に会う話は苦手で、この物語も私までつらくなった。それにも関わらず、ほとんど休まずに読み切ってしまった。その理由は簡単には言えないけれど「結末を知らないままではいられない」という表現が一番ぴったりくる。もちろん、物語の運びが上手いということもあるけれど。

 最後に。アンが持つ「死」への興味は、親なら誰でも心配でたまらない類のものだし、人によっては嫌悪感を催すかもしれない。ちょっと距離を空けて読まないと危険。くれぐれも近づきすぎないようにご注意を。

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2016年1月27日 (水)

朝が来る

著  者:辻村深月
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞ノミネート作品。「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞した辻村深月さんの最新刊。

 主人公は前半と後半で一人ずつ。前半の主人公は栗原佐都子。47歳の専業主婦。川崎の高層マンションに、夫の清和と6歳の息子の朝斗と3人で住んでいる。ある朝に電話がかかってきて、その相手は「子どもを、返してほしいんです」と言った。

 佐都子は、かつて不妊治療を受けていて、そのことが詳しく物語られる。それは、出口があるかどうかもわからないトンネル。「明けない夜」のようなものだった。朝斗は佐都子に「朝」を運んできた。タイトルはこのことを指している。

 後半の主人公は片倉ひかり。21歳。家族は両親と姉がいるが、何年か前に家出して今は1人で暮らしている。後半の物語は、ひかりが家族と幸せに暮らしていた子どものころから始まる。そして、中学生の時に妊娠・出産を経験する。

 私は、ひかりの物語も「明けない夜」のようだと思う。であれば、ひかりにも「朝」が訪れるのか?年齢も境遇も違う2人の女性の人生がやがて交錯する。そこにあるのは哀しみか怒りか?あるいは幸せか?それは、最後まで分からない。

 帯に「両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長編」とある。何度も泣ける。

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2015年9月27日 (日)

鍵のない夢を見る

著  者:辻村深月
出版社:文藝春秋
出版日:2012年5月15日 第1刷 7月25日 第2刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2012年上半期の直木賞受賞作。WOWOWでドラマ化されDVDもリリースされている。「仁志野町の泥棒」「石蕗南地区の放火」「美弥谷団地の逃亡者」「芹葉大学の夢と殺人」「君本家の誘拐」の5編を収めた短編集。

 著者がインタビューで「新聞やテレビのニュースで大きく取り上げられることのない「町の事件」を扱う短篇集にしようと、はじめに決めました」と答えている。しかし、殺人事件も複数あって、なかなか緊張感のただよう物語が展開する。

 「仁志野町の泥棒」は小学生ころの回想。友達の母親の秘密を知ってしまう。「石蕗南地区の放火」は保険の調査員が主人公。実家の目の前で火事が起きる。「美弥谷団地の逃亡者」と「芹葉大学の夢と殺人」は少しテーマが重なる。付き合う男性が災いの元になる。「君本家の誘拐」は一瞬目を離したスキにベビーカーごと子どもを誘拐された母親を描く。

 5編すべてで女性が主人公。その他に私が5編に共通して感じたのは様々な形の「ずれ」。一つは「決定的に間違っているわけではない、しかし普通とは違う」という感覚。例えば「芹葉大学~」の主人公の彼の夢は「医者」と「サッカーの日本代表」になること。その夢を邪魔するものは許せない。

 もう一つは、価値観の「ずれ」。例えば「君本家の誘拐」での、不妊に悩んだ末に娘を授かった主人公と、海外ブランドの有名店に勤める高校時代の友人。悪意はない無邪気な言葉が、相手の心に小さな嵐を起こす。

 こうした「ずれ」が生む空気も緊張感につながっている。直木賞受賞作だけあって、物語への引き込み方が巧みだった。ただ、こんな不穏な物語が受賞していたとは思わなかった。

ドラマ「鍵のない夢を見る」公式サイト

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2015年3月25日 (水)

ツナグ

著  者:辻村深月
出版社:新潮社
出版日:2010年10月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2011年の吉川英治文学新人賞受賞作。2012年10月に松坂桃李さん主演で映画化。2014年2月現在で69万部のベストセラー。この前に読んだ「ハケンアニメ」が面白かったので読んでみようと思った。

 「この世」の私たちを死者と引きわせることができる者、それが「使者(ツナグ)」。本書はこの「使者」を巡る様々な人間を描いた連作短編。

 使者に「誰々に会いたい」と依頼すると、使者はそれに応じるかどうかを死者に聞いて、諾となれば面会が叶う。死者に会えるのは人生で一度きり。死者の方もそれは同様で、一度誰かに会うともう他の誰かには会うことができない。さらには死者の方から会う人を指名することもできない。

 物語では、自分を介抱してくれたアイドルに会いたい女性、亡くなった母親に会いたい男性、親友だった同級生に会いたい女子高校生、自分の元から急に姿を消した恋人に会いたい男性、などが登場する。

 「人生で一度きり」というルールが要になって、物語を締めている。「愛するあの人にもう一度会いたい」という理由だけでは「一度きり」のチャンスは使えない。秘密とか心残りとか、もっと別の理由があって、彼らは使者にコンタクトしてくる。時にその理由は業の深いものだったりする。また「使者」自身にも抱えた事情がある。

 面白かった。死者の方も「一度きり」。それを受けたのだからか、死者の方は一様に余裕がある。楽しそうでさえある。常に「死」を意識しなくてはならない物語なのに、暗い感じがしないのは、面会に来た死者が持つ明るさのせいだと思う。

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2015年2月22日 (日)

ハケンアニメ

著  者:辻村深月
出版社:マガジンハウス
出版日:2014年8月22日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は昨年も「島はぼくらと」でノミネートされている。それより前に「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞している。前々から気になっていたのだけれど、著者の作品を読むのはこれが初めて。

 舞台はアニメ業界。タイトルの「ハケンアニメ」は、「そのクールで作られたたくさんのテレビアニメの中で一番成功したアニメ」のこと。つまり「覇権アニメ」。本書は、アニメ業界でその「ハケンアニメ」を競う2つの作品に関わる3人の女性の物語。

 1人目は有科香屋子。30代半ば。中堅アニメ制作会社「スタジオ・えっじ」のプロデューサー。2人目は斎藤瞳。20代半ば。大手アニメ制作会社「トウケイ動画」のアニメ監督。3人目は並澤和奈。こちらも20代半ば。新潟県のアニメ会社「ファインガーデン」で原画を描くアニメーター。

 とてもとても面白かった。装丁も内容もライトノベル風。しかし「お仕事小説」として、主人公3人の仕事に対する想いとか姿勢とかがしっかりと伝わってくる。アニメという「ひとりで楽しめるもの」が必要な人たちへの承認も感じられる。

 心に引っかかるセリフや描写も上手い。「この世の中は繊細さのない場所だよ」。瞳が知り合いの小学生に言う言葉だ。「それでもごくたまに、君を助けてくれたり、わかってくれる人はいる」と続く。ストレートなメッセージも仕込まれている。

 アニメ業界や製作の流れを少しは知らないと戸惑うかも。そんな方のために少しだけ。アニメは徹底した分業と人海戦術で製作される。原理は「パラパラアニメ」と同じだから、1秒に何枚もの絵が必要で、それらはアニメーターが手で1枚ずつ描く。

 さらに背景を描く人も別、色を付ける人も別で、もちろん1枚ずつ着色する。1つのアニメ作品に関わる人は膨大な数に上る。乱造気味に思えるアニメ作品だけれど、一つ一つの作品には、関わった人の膨大な数の想いが載せられ、されにそれに見る側の想いも重なる。

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