2E.瀬尾まいこ

2019年7月11日 (木)

傑作はまだ

著  者:瀬尾まいこ
出版社:文藝春秋
出版日:2019年3月8日 初版第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「こんな家族もありなのか?」と、戸惑いながらも暖かい余韻の残る本だった。

 「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞した著者の最新作。(そう言えばこの大賞受賞作も「こういう親子や家族もありか」と思った本だった)

 主人公は加賀野正吉、50歳。そこそこ売れている小説家。大学生で小説を書き始め、4年生の時に応募した文学賞で大賞を受賞してデビュー。週に1度ぐらい買い物や散髪、市役所や郵便局に出かける以外は、基本的に部屋でパソコンに向かって小説を書いている。

 そんな「引きこもり」生活の加賀野への来客から物語が始まる。面白いので冒頭の来客のセリフを引用する。

 「実の父親に言うのはおかしいけど、やっぱりはじめましてで、いいんだよね?

 加賀野には生まれてから25年間、一度も会ったことのない息子がいるのだ。名前は智(とも)。その息子が突然訪ねてきたのだ。加賀野はかつて合コンで出会った女性、美月と、酔った勢いで関係を持って子どもができた。二人で話し合って、結婚はしない、美月は産んで育てる、加賀野は養育費を送る、と決まった。それで加賀野は毎月10万円を20年間振り込み、美月は受取確認と智の写真を送り返してきた。

 フリーターとしてコンビニで働いている智は「仕事先が近い」という理由で、加賀野の家に住むことになった。物語は、加賀野と智の二人の暮らしを描く。基本的に加賀野が智に振り回されるのだけれど、自治会の催しに参加したりして、そのおかげで少しずつ外の世界とつながりを持つようになる。

 とても楽しめた。実は、智にはここにやってきた秘された理由があるのだけれど、それも含めて加賀野は孤立していたように見えて(両親とも28年会っていない)、支え手がちゃんとあったのだ。そういうところが心が温まる。

 身近な人で永らく音信を絶えている人がいたら連絡してみよう。未来が少しよくなるかも(ならないかも)

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2019年6月 2日 (日)

そして、バトンは渡された

著  者:瀬尾まいこ
出版社:文藝春秋
出版日:2018年2月25日 第1刷 2019年4月1日 第14刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「こういう親子や家族のあり方も悪くないな」そう思った本。

 今年の本屋大賞の大賞受賞作。著者は私が好きな作家さんのひとりだ。「戸村飯店青春100連発あと少し、もう少し」など、中高生のしなやかな感性を描いたものがとても楽しめた。本書は、本屋大賞受賞ということで、期待して読んだ。

 主人公は森宮優子。17歳。高校2年生。彼女には父親が3人、母親が2人いる。姓は水戸→田中→泉ヶ原→森宮と3回変わった。事情は物語が進むに連れて分かってくるけれど、まぁ両親の離婚が繰り返されたらしい。

 周囲は「つらいことは話して」と心配するけれど、優子自身は「少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけど」と、心配されることに申し訳なく思っている。幼いころから何度も両親が変わり、その度に生活も変わったけれど「全然不幸ではない」のだ。

 物語は、優子の高校生活、女友だちとの色々や男の子からの告白などを追いながら、優子が小学校に上がる前からこれまでを順に挟む形で進む。高校生活の部分は「あるある」な感じ、これまでの部分は多少ぶっ飛んでいる。ぶっ飛んでいるけれど、ギリギリで「あり得る」感じ。

 「悪くないな」と思った「親子のあり方」の一例を紹介。現在の父親の森宮さんは38歳。優子の継母の再々婚相手だ。もちろん血縁はない。でも、と言うかだからこそ、父親らしくあろうとしている(多少ユニークだけど)。その森宮さんに結婚相手の梨花さん(つまり優子の継母、優子の実父を入れて3人と結婚)が、こんなことを言っている。

 親になるって、未来が二倍以上になることだよ。自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日がやってくるんだ。

 森宮さんはそのことについてこう言っている。

 明日はちゃんと二つになったよ。自分のと、自分よりずっと大切な明日が、毎日やってくる。すごいよな。(優子はこれに「すごいかな」と疑問を呈する)

 正直に言うと、本屋大賞の大賞受賞作としては、「他と全然違う」という無二な感じがなくて、少しもの足りなかったけれど、私が好きな部類の作品。

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2016年4月 9日 (土)

僕らのごはんは明日で待ってる

著  者:瀬尾まいこ
出版社:幻冬舎
出版日:2016年2月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのは、「戸村飯店青春100連発」「温室デイズ」「あと少し、もう少し」に続いて本書で4作品目。これまでの3作品は、その「悩み」も含めて、中高生のしなやかな感性を描いたものだった。本書は少し上の世代を描いたものだ。

 本書では主人公は葉山亮太。物語の始まりの時は高校3年生だった。彼は、中学の頃のあることがきっかけで、周囲から距離を置くようになり、クラスから浮いた存在になっていた。そんな葉山君に、クラスメイトの上原小春が声をかけてくる。

 しょっちゅう途方にくれたり、たそがれたりして、遠い目をしていた葉山君だけれど、上原さんと話すようになってから、少し変わった。止まった時間が動き出した感じだ。こうして始まった「上原君と上原さんの物語」の数年間を、本書は綴っていく。

 私が葉山君たちの年頃だったのは、もう30年以上も前のことだ。でも思い出したことがある。詳しくは言えないけれど、ちょっとしたことがきっかけでクラスに溶け込めた、という話だ。まぁボォっとしていた私は、そんなことは知らずにいて、後になって友達から聞いて「そうやったん?」なんて言っていたのだけれど。

 二人が「背負っているもの」と「背負うことになったもの」は思いのほか重い。だから、少しつらいところもある。でもこの言葉遊びのようなタイトルのように「なんとなく前向きな感じ」の物語だ。

 2017年新春に映画化決定。(公式サイト)

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2014年7月21日 (月)

あと少し、もう少し

著  者:瀬尾まいこ
出版社:新潮社
出版日:2012年10月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 舞台は中学校の陸上部、主人公は駅伝を走る6人の選手。章のタイトルが1区、2区...6区と6章あり、駅伝でそれぞれの区間を走る選手がその章の主人公となって、自らの過去から現在までの行く立てを、駅伝大会で仲間にタスキを渡すまでの間に語る。

 「6人の選手」とは言っても、実は陸上部員は3人しかいない。部長の桝井、3年生の設楽、2年生の俊介。後の3人は、バスケットボール部のジロー、吹奏楽部の渡部、校内一の不良の大田。つまり混成チーム。陸上部以外の3人は桝井が選んだ助っ人だ。

 もう一人の重要な登場人物が、顧問の上原先生。この中学は昨年までは、厳しくも優秀な顧問がいて、県大会への連続出場を果たしている。その顧問が去り代わりに就任したのが上原先生。どんくさそうな女性の美術教師。もちろん陸上についてはズブの素人。でも、この先生でなければ、この駅伝チームは成り立たなかったと思う。

 中学生といえども、いやいや中学生の年頃だからこそ、色々な想いを抱えている。その想いが章を重ねるごとに、一人分ずつ積み重なる。あぁこの子はこんなことをしょい込んでいたんだ、それを知って切ない気持ちになる。私は特に不良の大田くんの心根に目が潤んだ。彼はこれで変われるかもしれない。

 こういう物語が私は好きだ。主人公(たち)が何かを乗り越えて、前を向いて締めくくられる物語。「予定調和」だとか「現実はそんな甘くない」とかと言われるかもしれない。それでも、特に子どもたちが主人公の物語はこうあって欲しいと思う。

 駅伝という競技も章の構成の仕方も、三浦しをんさんの名作「風が強く吹いている」と共通している。陸上という「個人競技」の中の、駅伝という「団体競技」。一人一人が走っている間に、その胸に想いが去来する。もしかしたら駅伝という競技自体が物語的なのかもしれない。

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2014年6月21日 (土)

温室デイズ

著  者:瀬尾まいこ
出版社:角川書店
出版日:2006年7月31日 初版発行 2006年8月30日 再版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 以前「戸村飯店青春100連発」を読んで、タイトル通りに「青春」がたっぷり詰まったとても面白い物語だった。それで著者のことはずっと気になっていたので、しばらく時間が経ってしまったけれどまた「青春」を期待して別の作品も読んでみようと思った。

 「戸村飯店~」の主人公は高校生の兄弟だったけれど、本書の主人公は中学生女子の2人。中学3年生の中森みちると前川優子。2人は小学生の時もクラスメイトだった。ただし「友達」とは言えない関係だったけれど。

 みちるたちの学校は、小学校も中学校も少し「崩れた」学校だった。「不良」と呼ばれる生徒が悪さをし、授業中に立ち歩く者もいて、何かのきっかけで陰湿な「いじめ」が起きる。小学校の時には優子が、中学校ではみちるがいじめの対象になってしまう。

 まぁそんなわけで「青春」という言葉に含まれる「爽やかさ」はあまりなく、代わりに「痛々しさ」が伝わってくる。全体的にピリピリとした緊張感が漂う。残念ながらこれも「青春」の別の側面かもしれない。

 ただし、この崩れた学校での生活も、著者の手にかかって少し明るさを感じられるようになる。みちるも優子も、相当に追いつめられるのだけれど、それぞれに踏みとどまって、反転することができる。

 それにはそれぞれに、ちょっとした拠り所やきっかけがあったことが幸いした。もちろん「いじめに負けずに頑張ったから、回りの人も反省してすべてが解決」なんてお気楽な話にはならない。それでもささやかな達成感が「爽やかさ」を残してくれる。

 「戸村飯店~」と同じように、主人公が章ごとに入れ替わる。みちると優子の互いへの思いが、ピッタリと合っていたり少しズレていたりするのがミソ。「有能な使えるパシリ」の斉藤くんにも注目。

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2010年8月18日 (水)

戸村飯店青春100連発

著  者:瀬尾まいこ
出版社:理論社
出版日:2008年3月 初版 2008年5月 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者のことは、アンソロジー作品の「Re-born はじまりの一歩」を読んで知った。これに収録されていた「ゴーストライター」という作品が本書の第1章となっている。

 この本は、ホントに面白かったし楽しめた。おまけに少し泣ける。「ゴーストライター」を読んだときには、「Re-born」は再生や再出発の意味だと考えて、高校生の主人公コウスケの淡い失恋と、兄との関係の再認識を描いたものだと思っていた。しかし著者は、続く5章を書き下ろして、もっと味わい深くしかも笑わせてくれる物語に仕上げてくれた。
 コウスケが主人公だと思っていたら、なんと第2章の主人公は兄のヘイスケだった。無責任で要領ばかり良くて、大阪の下町の中華料理店「戸村飯店」を営む家を飛び出して、東京へ行ってしまった兄だ。コウスケを引きたてる脇役じゃなかったのか?あんなヤツにどんな物語があるというのか?...ありました。こんないい物語が。

 舞台となる街は特定されていないけれど、通天閣をシンボルとした大阪の下町らしい。私は神戸の生まれで、同じ関西でもだいぶ雰囲気は違う。でも、ベースは同じなのだ。吉本新喜劇を見て育ち、子どもはそれをまねて大人を喜ばせる。近所のおばちゃんに高校生になっても「ちゃん付け」で呼ばれる。タイガースファンであることが普通で、話には必ずオチがある。この本に描かれた世界は、私が育った街と同じだった。
 それから、兄と弟という世界も。うちも2人兄弟で私は弟。兄はまじめで責任感がある人で、私の方がきままに好きなことをしてきたので、これまた一見すると戸村兄弟とは違う。でも「あぁ、兄弟ってこうなんだよなぁ」と思った。弟が勝手に一人で反発しているだけなのだ。それなのにココという時には頼ってしまう。大人になって振り返るまで、そんなことには気が付かないんだけれど。

 こういう出会いがあるのが、アンソロジーの良いところだ。

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2010年2月25日 (木)

Re-born はじまりの一歩

著  者:伊坂幸太郎、瀬尾まいこ、豊島ミホ、中島京子ほか
出版社:実業之日本社
出版日:2008年3月25日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 先日の「Story Seller2」に続いてのアンソロジー。こちらにも伊坂幸太郎さんの短編が収録されている。その他には、瀬尾まいこ、豊島ミホ、中島京子、平山瑞穂、福田栄一、宮下奈都の6人の作家さんが名を連ねている。不勉強のため、中島京子さん以外の作家さんはお名前も知らなかった。
 タイトルの「Re-born」について。英語の「reborn」は「生まれ変わった」「再生した」という意味の形容詞。収録された7編の作品はどれも、再生・再出発の物語だ。サブタイトルの「はじまりの一歩」は、今まさに再生・再出発の瞬間であることを表している。読者は、それぞれの作品の終わりにその瞬間に立ち会う、という趣向だ。

 宮下さんの作品「よろこびの歌」と、瀬尾さんの作品「ゴーストライター」、豊島さんの作品「瞬間、金色」は高校生の物語。才能に恵まれていても平凡でも、裕福でも貧しくても、ハイティーンは悩み多い年頃だ。人生ではじめての挫折を経験するのもこの頃だろう。若い世代の悩みや挫折からの「再生・回復の"reborn"」の物語。
 それに対して、福田さんの作品「あの日の二十メートル」と、平山さんの作品「会ったことがない女」は、人生の終盤を迎えた男性の物語。それなりに幸せな人生を送ってきたけれど、若いころに悔いが残る出来事がある。こちらは人生を全うするための「やり直しの"reborn"」。
 伊坂さんの作品「残り全部バケーション」と、中島さんの作品「コワーリョフの鼻」は、夫婦についての物語。一緒に暮らしていても心に距離や壁ができる。関係を解消するにしても続けるにしても、このままではいられない、その時のリセット。人生半ばの物語は「再出発の"reborn"」

 収録されている7作品のうちの5作品が、「月刊ジェイ・ノベル」というエンタテイメント作品の文芸誌に掲載された作品。掲載作品から「reborn」というテーマにあったものをピックアップしたのだろう。まぁ、よく言えば落ち着いた、悪く言えば平板な感じがする作品が多いのだが、「reborn」をテーマにした編集のアイデア勝ちだ。収録作品を見渡すとわかるように、どの世代も「reborn」を望む気持ちを心のどこかに抱えているのだから。

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