2D.高田郁

2015年12月17日 (木)

天の梯 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2014年8月18日 第1刷 2015年7月8日 第4刷 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第10作。「葛尽くし」「親父泣かせ」「心許り」「恋し粟おこし」の4編を収録した連作短編。そしてこの巻でシリーズ完結。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 前作までで、野江と共に暮らすという望みについては端緒についた。しかし、未だ雲をつかむような話で、残り1巻でどうなるものか見当がつかなかった。

 それに「天満一兆庵」の再興の方は、少し後退してしまっている。連綿と書き込まれてきた、澪の恋についてはどうなるのか?など、たくさんの気がかりを残したまま、最後の1巻になっている。

 結論を言えば、気がかりなことのすべてに、着地点が与えられている。それも読者がきちんと得心できるような結末になっている。いや、得心の上を行く鮮やかな結末だった。著者の構想力、筆力に感服した。終盤は泣けて仕方なかった。

 ※巻末の「料理番付」を見ずに本書を閉じてはいけない。

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2015年9月13日 (日)

美雪晴れ みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2014年2月18日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第9作。「味わい焼き蒲鉾」「立春大吉もち」「宝尽くし」「昔ながら」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、おだやかな展開だった。前回で再会を果たした「天満一兆庵」の若旦那との絆も結び直せたし、澪の母代わりであった芳にも良縁があった。「立春大吉餅」「宝尽くし」など、料理の名前もおめでたいものが続く。

 野江と共に暮らすという望みは、「野江の身請け」をするという、目標は定まった。しかし、いくら腕がいいとは言っても料理屋の板前の澪にとっては、それは相変わらず雲をつかむような話だった。それでもできることから手を付けるのが、澪の強さだ。

 それに、少しづつだけれど前に進んでいる。一時期は大切な人が澪の元を離れて行ってしまったけれど、支えてくれる人がまた現れる。これまでの艱難辛苦を乗り越えることで蒔いた種が、ひとつひとつ花が咲いて実り始めた感じだ。易者の占いによると、澪の運命は「雲外蒼天(うんがいそうてん)」。行く手を遮る雲はかなり薄くなってきたようだ。

 それもそのはず、次作「天の梯」でシリーズ完結。楽しみなような寂しいような。

 ※巻末の特別収録「富士日和」には、あの人が登場している。しみじみといい作品だ。

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2015年4月18日 (土)

残月 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2012年3月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第12刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第8作。「かのひとの面影膳」「慰め海苔巻」「麗し鼈甲珠」「寒中の麦」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、この2つの望みに関連して大きな出来事が起きる。「天満一兆庵」の再興には、お店の若旦那である佐兵衛を探し出す必要がある。幼馴染の野江のことについては、当然ながら野江との面会が先に立つ。バラしてしまうとこの2つの「再会」は叶う。しかしどちらも澪が望んだような形にはならなかった。

 その他にも今回は動きが多かった。支えてくれる人にが恵まれていたが、前回、前々回あたりから、澪の周りから人が離れていく。関係が断たれた人、亡くなった人、引っ越して行く人。そして新たな試練の予感。

 ところでこのシリーズのタイトルには、気候や空に関する言葉が使われている。それが物語のどこか肝心のところで登場する。今回の「残月」は十五夜の翌朝の空に残った満月。その月を見た幼い子どもの呟きが切ない。

あんな風に、どこも欠けていない幸せがあればいいのに」 それは手を伸ばしても届かない。

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2014年11月30日 (日)

夏天の虹 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2012年3月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第12刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第7作。「滋味重湯」「牡蠣の宝船」「鯛の福探し」「哀し柚べし」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 しかし今回は、この2つの望みにはあまり触れられないままに物語が進む。前作「心星ひとつ」で叶いかけた、娘らしい「もうひとつの望み」が破れ(正確には澪が「違う道を選んだ」のだけれど)、その痛手からの立ち直りに時間を要した、というところか。

 この物語には、悪人があまり登場しない。あくどい店や心無い人々はいるけれど、「つる家」の主人や奉公人、澪が住む長屋の住人、世話になっている医師、口うるさい店のお客まで含めて、いい人だ。彼らに助けられて澪の今がある。

 ところが本書で、澪は大事な人を失ってしまう。この後どうなるのか。高名な易者の占いによると、澪の運命は「雲外蒼天(うんがいそうてん)」苦労の多い人生だが、その苦労に耐えて精進すれば、必ず青空が拝める、という。澪の行く末にまた暗雲が立ち込める。その先に青空はあるのだろうか。

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2014年9月21日 (日)

心星ひとつ みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2011年8月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第13刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第6作。「しくじり生麩」「賄い三方よし」「お手軽割籠」「あたり苧環」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、この2つの望みに関する大きな出来事が起きる。特に「天満一兆庵」の再興については、吉原に店を出す援助をすると、澪に申し出る人が現れた。店の名前を「天満一兆庵」とすれば良いと。この申し出を受ければ、形としては店の再興が成る。

 そして澪には、秘めた望みがもう一つある。「つる家」にふらりと現れる客の小松原のことだ。「秘めた」と言っても周囲もはっきりと分かるほどなのだけれど、身分違いゆえに叶わぬ恋心として決して口には出さない。今回はそれも急展開を見せる。

 シリーズに「料理帖」とついているように、澪の手になる美味しそうな料理が、シリーズの魅力の一つだけれど、そちらは今回は今一つ。しかし、物語の方はこれまでになくドラマチックで、次回以降への期待を残して終わる。

 シリーズは8月に第10作が刊行されて完結したそうだ。あと4作を心して楽しみたい。

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2014年7月 3日 (木)

小夜しぐれ みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2011年3月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第16刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第5作。「浅蜊の御神酒蒸し」「菜の花尽くし」「寿ぎ膳」「ひとくち宝珠」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、「つる家」の主人の種市が抱える過去や、「天満一兆庵」の若旦那の消息などが分かり、澪の友人の美緒が人生に新たな一歩を踏み出す。また、料理勝負のようなイベントや、初めて澪が登場しない作品、といった趣向が楽しめる。これまでのシリーズの中でも出色の作品だと思う。

 特に、種市の過去を題材にした「浅蜊の御神酒蒸し」は、緊迫感と劇的な展開で読みごたえがあり、5作目にして迎えた大きなヤマを感じた。また、澪の想い人の小松原を主人公にした「ひとくち宝珠」は、面白い試みで物語の広がりを予感させた。

 シリーズは10作で完結の予定らしい。すると本書が前半の掉尾ということになるのだろう。この盛り上がりはそれにふさわしい。

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2014年5月15日 (木)

今朝の春 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2010年9月18日 第1刷発行 2014年2月8日 第17刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「八朔の雪」「花散らしの雨」「想い雲」に続く「みをつくし料理帖」シリーズの第4作。「ははきぎ飯」「里の白雪」「ひょっとこ温寿司」「寒鰆の昆布締め」の4編を収録した連作短編集。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋で板前をしている。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」という料理店を再興すること、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らすこと、といった望みがある。

 前作「想い雲」で、これらの望みに少し進展があったかと思うと、今回はピタリと動きを止めてしまった。舞台もほぼ「つる屋」だけで、あとは澪が住む長屋がちょっと。それ以外は本当に僅かで動きがない。今回は物語を大きく動かさず、じっくりと澪の内面を深堀りする。

 ただこれまでにない動きもあった。二十歳の澪には「想い人」がいる。店にふらっと現れる「小松原」と名乗る武士で、薄汚れた格好はしているが、相当の身分の者らしい。その小松原のことがかなり明らかになる。小松原と澪の「身分違い」も明らかに..想いを断ち切ろうとする澪が不憫でならない。

 本書に「料理に身を尽くす」という言葉が出てきた。「みをつくし」は、澪の名前と出身の大坂からの連想だと思っていたけれど、こんな意味も含まれていたらしい。

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2014年3月30日 (日)

想い雲 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2010年3月18日 第1刷発行 2013年6月8日 第21刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「八朔の雪」「花散らしの雨」に続く「みをつくし料理帖」シリーズの第3作。「「う」尽くし」「ふっくら鱧の葛叩き」「ふわり菊花雪」「こんがり焼き柿」の4編を収録した連作短編集。

 主人公の澪は、女性ながら大坂の一流料理店「天満一兆庵」で修業し、訳あってそこのご寮さんと共に江戸に来て、今は「つる家」という料理屋で板前をしている。

 澪の料理の腕は一流。「つる家」はそこそこ繁盛している。庶民から支持され武士からも好まれ、多士済々が集う。「つる家」は妬みも買い様々な妨害を受けるが、その多士済々との交流と、澪のまっすぐな性格が、それを乗り越える助けになる。

 澪には、この江戸で果たしたい望みがいくつかある。例えば、「天満一兆庵」の江戸店を任され、今は行方が知れない佐兵衛を探し出し、さらには「天満一兆庵」を再興すること。例えば、大坂にいたころの幼馴染の野江との再会を果たし、昔のように共に暮らすこと。

 これまでの2作では、これらの望みにはあまり進展がなかった。捉えようとしても指の間からこぼれてしまった。今回はそれが少し動く。あるいは大きく前進する。これはますます面白くなってきた。

 澪が作る料理がどれもこれも旨そうだ。人情話が泣ける。

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2014年1月12日 (日)

花散らしの雨 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2009年10月18日 第1刷発行 2013年9月8日 第33刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「八朔の雪」に続く「みをつくし料理帖」シリーズの第2弾。前作のレビューで「これは楽しみが増えた」なんて書いておいて、あれから半年以上が経ってしまった。

 主人公は前作を同じく澪、歳は二十歳ごろ。女性ながら大坂の一流料理屋で修行し、訳あって江戸に来て今は「つる家」という料理屋で板前をしている。舞台は前作で神田にあった店がつけ火で焼けてしまったので、九段坂下に移って来た。

 これも前作と同じく、料理の名前が副題についた短編が4つ収録されている。「ほろにが蕗ご飯」「こぼれ梅」「なめらか葛饅頭」「忍び瓜」。名前からどんな料理か想像がつかないものもあるが、読めばどれも滅法うまそうな料理なのだ。

 一遍一遍に事件があり人情があり解決がある。「ほろにが蕗ご飯」では年端もいかない子どもが背負う苦渋に苦悶し、「なめらか葛饅頭」では病に倒れた隣人への献身に泣いた。
 またシリーズを通してのテーマもある。「こぼれ梅」では幼馴染の親友との会うことのない交流、「忍び瓜」では澪の恋心がこれまでにないほどはっきりと描かれた。

 「つる屋」の主人の種市、元女将の芳、医者の源斉や客の小松原、といった人々とのやり取りや、宿敵の登龍楼との因縁など、基本的には前作で蒔いた種が育っている感じ。ただし、新しい登場人物もいる。下足番として雇ったふきと戯作者の清右衛門。この二人が新しい種になりそうだ。

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2013年8月16日 (金)

八朔の雪 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2009年5月18日 第1刷発行 6月18日 第4刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 いろいろなところから良い評判を聞いていて、いつか読んでみようと思っていた。

 舞台は江戸時代の後期の江戸の町。主人公は澪、女性ながら大坂の一流料理屋「天満一兆庵」で料理修行に励んでいたが、店が火事で焼失してしまう。澪は、主人と女将さん夫婦と共に、主人の息子が商う「天満一兆庵」の江戸店を頼って江戸に来た。しかし、すでに店はなく息子は行方不明、主人はその心労で体を壊し、澪に「天満一兆庵」の再興を託して亡くなってしまう。

 ..と、ここまではこの物語が始まる前のできごと。物語の始まりの時には澪は18歳、心臓が弱い女将さんの芳と長屋での倹しい2人暮らし。澪は、暮らしの糧を得るために、蕎麦屋の「つる屋」で働いている。「つる屋」の主人の種市は、澪に自由に料理を作らせ、客の口に合わずに失敗しても暖かく見守ってくれる。

 この物語は、幾重にも織り重ねられた織物のようだった。まず「天満一兆庵」の再興という夢が大きな縞をつくり、章のタイトルにもなっている澪が作る料理のエピソードが主だった模様を描く。さらに、種市や長屋の住人らの暮らしぶりや、「つる屋」の常連客の武士との関係などが、様々な色の糸として織り込まれている。そしてライバル店の出現、幼馴染の消息...。書ききれないほどの見どころがある。

 「みをつくし料理帖」シリーズとして、すでに8作が出版されている。これは楽しみが増えた。また「庶民の暮らしを描いた時代小説」というジャンルが面白いと思う。お奉行やお殿様、お姫様ではなく、市井の人のドラマ。かなり以前に読んだ、宇江佐真理さんの「卵のふわふわ」も、そんな作品だった。

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