32.東野圭吾

2017年3月29日 (水)

恋のゴンドラ

著  者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2016年11月5日 初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「疾風ロンド」「雪煙チェイス」のスキー場シリーズで舞台となった、「里沢温泉スキー場」で巻き起こるラブコメディ。「ゴンドラ」「リフト」「プロポーズ大作戦」「ゲレコン」「スキー一家」「プロポーズ大作戦 リベンジ」「ゴンドラ リプレイ」の7編からなる連作短編。

 各短編ごとに主人公が変わる。最初の「ゴンドラ」と次の「リフト」で8人の男女が登場する。全員、都内のリフォーム会社やデパートやホテルで働く社会人。この8人の誰かが、その後の短編で入れ替わりで主人公となる。誰々は誰々が好きだとか、くっつけようだとか、浮気したとか許さないとか、ダメだと思ってたけど見直したとか...そういう物語だ。

 最初の「ゴンドラ」だけあらすじを。主人公の広太は33歳。合コンで知り合った桃実とスノーボード旅行に来ていた。彼女との初めての旅行に悦びを噛みしめていた。ところが二人が乗った12人乗りゴンドラに、同棲相手の美雪が乗って来た!あろうことか広太は美雪と結婚の約束までしていた..。

 面白かった。広太の絶体絶命のピンチだけれど、まったく同情の余地がない。どんなヒドイ目に会おうと知ったこっちゃない。そうなると他人の不幸も、傍目から見てこんな楽しい見世物はないってことになる。まぁ、美雪さんはかわいそうだけれど。

 他の作品も、当人たちにはけっこうキツイ出来事かもしれないけれど、傍観者としては面白可笑しいとか、ちょっといい話とかの、エンタテイメントに仕上がっている。だいたい男がダメダメな感じなんだけれど、物語の中でちょっとだけ成長する。...広太を除いては(笑)。

 「疾風ロンド」「雪煙チェイス」の「あの人」もちょっとだけ登場する。

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2017年2月 5日 (日)

雪煙チェイス

著  者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2016年12月5日 初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「白銀ジャック」 「疾風ロンド」に続く、スキー場シリーズの3作目。

 主人公は脇坂竜美、大学でアウトドアスポーツのサークルに所属していた4年生。身に覚えのない殺人事件の容疑者として、警察に追われる身になった。竜美自身の不用意な行動が基で、警察の心証はマックロ。

 犯行の時間にはスキー場にいた。そのアリバイを証明してくれるのは、そこで出会ったスノーボーダーの女性だけ。名前も知らないその女性を探しに、僅かな手がかりを辿って里沢温泉スキー場へ、竜美は警察の捜査をかいくぐって向かう。

 物語は、竜美と竜美を追う刑事の2人を中心にして、追いつ追われつの追跡劇を描く。里沢温泉スキー場は、前作「疾風ロンド」の舞台でもあるから、そこで活躍した面々も当然登場する。「白銀ジャック」からの根津昇平と瀬利千晶も。魅かれ合っている2人がどうなるのかもちょっと楽しみ。

 本当に面白かった。3作すべてに共通する「無責任な上司」の無責任ぶりと部下のトホホな感じが、哀しくも面白い。旅館の男前な女将さんが素敵。そして何度も何度も「今度こそ」という期待を裏切るストーリーが楽しい。

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2016年12月28日 (水)

疾風ロンド

著  者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2014年12月25日 初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「白銀ジャック」の続編。11月に阿部寛さん主演で公開された同名の映画の原作。

 主人公は栗林和幸。泰鵬大学医科学研究所の研究員。大学院卒業後23年間、この研究所に勤めていると言うから、50歳手前というところか。その研究所から生物兵器並にに毒性の強い「炭疽菌」が持ち出された、というのが物語の発端。

 「炭疽菌」を持ち出した犯人は、研究所の元研究員。炭疽菌をケースに入れて雪の中に埋めた。摂氏10度以上になるとケースが割れて中身が拡散する。要求額は3億円。とここまでが、冒頭で明らかにされる。それともう一つ、犯人は炭疽菌を現場に残したまま、交通事故で死んでしまう。

 そんなわけで栗林は、残されたわずかな手がかりを基に、持ち出された炭疽菌の回収に挑む。上司である研究所長の厳命によって、警察には知らせない、協力者にも真相を明かしてはならない。どうやらスキー場に埋められたらしいが、栗林のスキーの腕前はボーゲンレベル。それも20年以上前。ミッション・インポッシブル。

 そのスキー場に「白銀ジャック」にも登場した、パトロール隊の根津昇平と、スノーボードの選手の瀬利千晶がいた。物語に前作とのつながりは殆どないけれど、彼らの活躍と、同じようにスキー場が舞台になる前作の事件との類似性もあって「続編」という位置づけでいいだろう。

 父子の関係や、淡い恋心や、家族の絆や、スポーツ選手の憂い、などなどを織り込んだ、大立ち回りありの活劇。面白かった。これは映画向きの物語だと思う。きっと映画も面白いだろう。

 映画「疾風ロンド」公式サイト

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2016年12月 4日 (日)

白銀ジャック

著  者:東野圭吾
出版社:実業之日本社
出版日:2011年11月25日 初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「疾風ロンド」という映画が阿部寛さん主演で公開されていて、その原作を読んでみようと思っていた。そうしたら先に本書があり、後に「雪煙チェイス」という本が先日出版されて、3冊で「スキー場シリーズ」になっていることが分かった。まず1作目から読むことにした次第。

 主人公は倉田玲司、年齢は40過ぎ、独身。新月高原スキー場の索道部マネージャー。リフトやゴンドラを安全に運行する責任がある現場のポストで、ゲレンデ全体が安全で快適なものに保たれるよう管理するのも彼の仕事だ。

 スキー人口が減ってスキー場はどこも厳しい状況にある。倉田の上司にあたる経営層は、現場にムリを強いてくる。そんな中で真面目に勤めて来た。索道部の部下やパトロール隊からは信頼されている。ある日、ゲレンデのどこかにまだ雪のない頃に爆発物を仕掛けた、という脅迫状が届く。スキー場全体を人質に取られた(ジャックされた)わけだ。

 ゲレンデの安全に責任がある倉田は、警察に届け客を避難させることを主張した。しかし、それでは今シーズンは棒に振ったも同然だし、その後のイメージダウンも避けられない。結局ズルズルと時が過ぎ...。という物語。

 スキー場には様々な人が絡む。運営会社の社員、お客、地元自治体。犯人になりそうな人物もたくさんいる。本書は「犯人捜し」のミステリーであり、同時に著者の「企業モノ」に見られるような、仕事に打ち込む男たちの物語でもある。著者の作品の特長の「イイトコどり」だ。

 聞けば「疾風ロンド」「雪煙チェイス」でも、本書の登場人物たちが活躍するらしい。そのうち読み進めたいと思っている。

 映画「疾風ロンド」公式サイト

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2015年10月 1日 (木)

天空の蜂

著  者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:1998年11月15日 第1刷 2015年7月21日 第68刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 20年前に刊行された本書を原作とした、同名の映画がロードショー中。9月12日の公開前後にはCMも流れていたのでご覧になった方もいるだろう。

 時代は刊行時と同時代、つまり今から20年前。その日、防衛庁に納められる予定だった、胴体長33.7mという超大型ヘリコプター、通称「ビッグB」が何者かに盗まれる。遠隔操作という前代未聞の方法で。「ビッグB」は、敦賀半島北端にある原子力発電所に飛来し、原子炉の真上で停止する。

 犯人からの要求はシンプルだが、政府に重大な決断を迫るものだった。「稼働中、点検中の原発をすべて使用不能にすること。建設中の原発は、すべて建設を中止すること」。その要求が受け入れられない場合は「ビッグB」を原子炉に墜落させる..。

 本書は文庫本で600ページ超もある長編だけれど、ここまでわずか50ページあまり。このスピード感のまま、「ビッグB」の設計者、原発の関係者、犯人を追う警察官、そして事件の犯人その人など、多くの登場人物のストーリーを並行して描く。息をつく間もない、とはこのことだ。

 本書が投げかけるテーマは重い。福島の原発事故を予見するかのようなストーリーに寒気を覚える。犯人の最後のメッセージは私たちへの警告だ。思えば私たちは何度か警告を受け取っているのに、それを生かせていないのではないか?

 本書を多くの人に読んでもらいたい。映画も観てもらいたい。

 映画「天空の蜂」公式サイト

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2015年6月24日 (水)

禁断の魔術

著  者:東野圭吾
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月10日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は「禁断の魔術 ガリレオ8」に収録された「猛射つ(うつ)」という150ページの中編を加筆・改稿した長編。帯には「シリーズ最高のガリレオ」と書かれている。

 今回の事件は、ガリレオこと天才物理学者の湯川の、高校の後輩が絡んでいる。湯川に近い人物が事件に関係している点では、短編集「ガリレオの苦悩」のいくつかの収録作品と共通している。

 その高校の後輩の名は古芝伸吾。物語の冒頭で、湯川が理学部の准教授を務める帝都大学の工学部に合格し、湯川にあいさつに来ている。優秀なのだ。そして未来に希望を持っていた。

 ところが彼は、一か月ちょっとで大学を中退してしまう。それはどうしてなのか?ホテルでの女性の殺人事件、マンションでのフリーライターの殺人事件、屋形船の爆発事件...。伸吾はこれらの事件と関わりがあるのか?

 伸吾が湯川にあいさつに来たのは、以前に湯川にレールガンの製作の指導を受けたことがあるからだ。レールガンは電磁エネルギーで物質を射出する装置。湯川は「実験装置」と呼ぶが、刑事たちは「武器」と呼ぶ。

 伸吾がレールガンを使って何かをしようとしているのは、ほぼ間違いない。殺人に使われれば、科学は「禁断の魔術」になってしまう。そうなれば、指導した湯川にも科学者としての責任がある。

 「ガリレオの苦悩」と共通しているは、湯川に近い人物が事件に関係しているだけでなく、湯川の「苦悩」と「決意」を描いている点。この一点に読み応え有り。

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2014年12月21日 (日)

同級生

著  者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:1996年8月15日 第1刷発行 2010年12月1日 第51刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 1993年というから今からざっと20年も前の作品。手元にある文庫本の帯には「ターニングポイントとなった傑作! この作品で作家・東野圭吾はますます輝きを増した」とある。この惹句に魅かれた。

 主人公は西原荘一。地域随一の名門高校の3年生。野球部の主将。物語の発端は同級生の死。野球部のマネージャーでもあった宮前由希子が交通事故で亡くなる。真相が明らかになるにつれて、この「事故」が、学校全体を揺るがす「事件」に発展していく。

 由希子は身籠っていた。産婦人科病院からの帰りに事故に会ったらしい。事故が様々な憶測を呼び、西原は「事件」の当事者になる。生徒指導の教師も事故に関わりがあることがわかり、西原と学校は鋭く対立し、ついには「殺人事件」が起きる。

 当初は同級生の死を発端とした、学校の中の様々な出来事を描いた「学園モノ」の様相だったけれど、この「殺人事件」後には、犯人捜しを軸にしたミステリーの王道が展開される。

 この学園モノからミステリーへの転換が実に鮮やかで、引き込まれた。さらにそのミステリーの背景には、高校生の友情・恋愛、教師と生徒の対立、学校の体面、それに環境問題など、様々なものが描き込まれている。多少「描き込み過ぎ」な感はあるが、物語を楽しめた。

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2014年9月 7日 (日)

マスカレード・イブ

著  者:東野圭吾
出版社:集英社
出版日:2014年8月25日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「マスカレード・ホテル」のシリーズ第2弾にして、前日譚。「マスカレード・ホテル」の主人公である、警視庁の刑事の新田浩介と、ホテル「コルテシア東京」のフロントクラークの山岸尚美が出会う前の物語。

 50~60ページの短編が3本(山岸尚美が主人公のものが2本、新田浩介が主人公のものが1本)と、表題作で150ページほどの中編を1本収録。短編は限られたページ数の中で、謎解きが2回転がる少し手の込んだミステリーになっていて楽しめる。

 表題作には、新田浩介と山岸尚美の両方が登場する。しかし、新田浩介は東京で起きた殺人事件の捜査をしていて、山岸尚美は開業時のサポートに派遣された「コルテシア大阪」に勤務、2人は会わない。ただし、同じ1つの事件を巡って2人は、かなり接近する。シリーズ第2弾の意味はここにある。

 「マスカレード」は「仮面舞踏会」。超一流のホテルに来る客は様々な事情で「仮面」を被っている。多かれ少なかれ日常とは違う自分を演じているだろうし、偽名で他人になりすましている者だっている。

 その「仮面」を、ホテルクラークは「守る」ことが仕事では必要で、刑事は「暴く」ことが事件の解明につながる。その正反対の要素の出いの妙が、「マスカレード」に込められている。このことが、本書では前作より明確になっている。

 ミステリーなのであまりストーリーには触れないけれど、「楽しめた」とだけは言っておく。謎解きとちょっとした人情話。著者の作品の特長がほどよく配合されている。

 最後に。どうやら本書全体が「マスカレード・ホテル」の「伏線」という位置づけになるらしい。もう1回「マスカレード・ホテル」を読んでみる必要がある。

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2014年6月12日 (木)

手紙

著  者:東野圭吾
出版社:角川書店
出版日:2006年10月10日 第1刷 2011年2月15日 第32刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2006年に映画化され、それに合わせて刊行された文庫は1か月で100万部を超えた。これは出版元の文藝春秋社では最速のミリオンセラーだそうだ。帯には「日本中が涙した記録的大ベストセラー」の文字が躍る。

 主人公は武島直貴。「事件」が起きた時には高校3年生だった。「事件」というのは、直貴の兄の剛志が物盗りに入った家で鉢合わせした老女を殺害するという、強盗殺人事件だ。その日から直貴は「強盗殺人犯の弟」としての人生を送ることになった。

 無論「強盗殺人犯の弟」には罪はない。そんなことは誰だって頭では分かっている。少数の人々は、頭で分かっているだけでなく、行動でそれを示して直貴と付き合い援助してくれる。その意味では周囲の人には恵まれた方かもしれない。

 ただ、そんな少数の人々の善意は、その他大勢が感じる「不安」と、それが元になった「排除の圧力」の前では無力だ。直貴が人生の節々で掴みかけたものは、すべて成就する直前で手からこぼれ落ちてしまう。

 哀しい。ひたすらに哀しい物語だった。直貴と直貴に近しい人々が、理不尽でつらい目に会う。強盗殺人を犯した剛志を含めて「悪人」は一人も登場しない。そのことが却ってこの物語を空恐ろしいものにしている。私も含めて「守るべきもの」がある人間は残酷なのだと知った。

 タイトルの「手紙」は、第一には服役中の兄から直貴に届く手紙のことを指している。この手紙が時々直貴を苦しめる。ただ、他にも何通かの手紙が登場する。これが物語の重要な役割を演じる。

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2014年4月20日 (日)

祈りの幕が下りる時

著  者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:2013年9月13日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年9月に発行された著者の近作。第48回吉川英治文学賞受賞。ノンシリーズ作品だと思って読み始めたのだけれど、十数ページで登場人物が「加賀」の名前を告げる。なんと「加賀恭一郎」シリーズだった。否が応でも期待が高まる。

 テレビドラマのように、場面ごとに登場人物が入れ替わるのだけれど、主役は加賀の従兄弟で警視庁捜査一課の刑事の松宮。足立区の小菅で遺体が発見された殺人事件の捜査を描く。加賀は日本橋署の刑事だから「管轄外」だ。

 刑事たちの地道な聞き込みによって、捜査の輪が狭まっていく様はとてもスリリングで、本書の魅力はそこにある。「どれだけ無駄足を踏んだかで捜査の結果が変わってくる」加賀の父親の口癖だというこの言葉が生きる展開だった。

 また、徐々に明らかになる事件の背景が悲しい。殺人という行為は許されるものではないけれど、「悪人だから」事件を犯してしまうわけではない。物語の終わりに判明する「犯人」の描写までが細やかなことも魅力のひとつだろう。

 本書にはさらにもうひとつ、シリーズ作品としての魅力がある。加賀恭一郎その人自身について、かなり深く描かれていることだ。事件を追う中に、加賀の生い立ちが垣間見える。彼が「新参者」で日本橋署に来て、街に溶け込み街の隅々に気を配るような捜査をするのには、理由があったことが分かる。

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