26.万城目学

2017年9月 7日 (木)

パーマネント神喜劇

著  者:万城目学
出版社:新潮社
出版日:2017年6月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の最新刊。2010年から17年まで、断続的に文芸誌に掲載したものを単行本化した作品。

 表紙に描かれているふくよかなおっさんが主人公。この人は、なんと神様なのだ。神様として最初の配属先が今いる神社で、ざっと千年ぐらいここでお勤めしている。専門は「縁結び」。「リアルなお勤めを紹介した本」を作るために、ライターさんの取材を受けているところから、この物語は始まる。

 彼の「縁結び」のやり方はこんな感じ。時間を止めて、縁を結びたいカップルの片方に話しかける。そのカップルがうまく行くのに必要な事柄を、言霊にしてそいつに打ち込む。話しかけられた人間は、このことは覚えていない。神様が作ったものだから、言霊に込められたことは、その通りになる。こんな感じで千年もやってきた。

 神様なんだから、人の心ぐらいチョイといじれそうだし、そうすれば縁結びが簡単にできそうなものだけれど、そういうことはしないらしい。あくまでも、恋愛成就を妨げているものを、間接的に取り除くようなやり方。まどろっこしいけれど、面白くもある。

 そんな感じで本書は、この神様が言霊を打ち込む場面や、それを受けた人がどんな具合に変わっていって、どう恋愛を成就するかを、コミカルに描く。最初に書いたけれど、神様にも配属があるように、会社のような組織になっている。昇進やらお偉方との確執やらと、妙に俗っぽい神様の暮らしぶりが描かれる。最後の方は、ちょっとホロッと。

 万城目学さんらしい、肩の力の抜けた物語だ。もっとも本人にお会いしたことはないので、「らしい」のかどうか分からないけれど、エッセイやインタビューを拝読する限りは、何事も深刻にならずにゆるゆるとしていることを好まれる方だと感じる。これまでの作品にも、そういう感じはにじみ出ていたkれど、今回はそれが前面に現れたように思う。

 そうそう、「バベル九朔」とか「かの子ちゃん」とか、著者のファンなら「おっ」と思うモノや人も登場する。その登場に「おっ」と思う以上の意味があるのかないのか分からないけれど、私はこういうのはけっこう好きだ。

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2016年4月13日 (水)

バベル九朔

著  者:万城目学
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年3月20日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「悟浄出立」以来、約2年ぶりの新刊。日常の中に奇想天外な仕掛けを持ち込んだ、少しズレた世界観が、著者の作品の特長だと思う。本書もそれに連なる作品、いやちょっと進化したかもしれない。

 主人公は九朔満大、27歳。祖父の満男が建てた雑居ビル「バベル九朔」の管理人をしている。管理人とはいえ、職と言えるほどの仕事はなく、まぁ平たく言うと「無職」。作家になることを夢見て、小説を書いては新人賞に応募している。今のところ、手応えはない。

 ある日、九朔くんがビルのテナントの水道メーターをチェックしていると、若い女性が階段を上ってきた。胸元が大きく開いた真っ黒な短いワンピース、黒いタイツに黒いハイヒールに黒のサングラス。まるでカラスだ。

 この「カラス女」の登場をきっかけとして、九朔くんの運命が翻弄される。その「カラス女」に追い詰められたあげく、ワケの分からない世界に飛び込み、延々と階段を上るハメになり、誰が本当に味方かさっぱりわからない..。

 面白かった。最初に「ちょっと進化したかも」というのは2つ理由がある。一つには本書を(偉そうな言い方で申し訳ないけれど)正統派の「異世界モノ」だと感じたからだ。

 「正統派」のウラを返せば「何処かにあった感じがする世界観」なのだけれど、それでも、展開されるエピソードは万城目さんにしか書けないものになっている。

 もう一つは、伏線や他の作品とのリンクなど、読者を楽しませる仕掛けをしてくれていることだ。私はこういう仕掛けが大好きなので、見つけた時はうれしかった。

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2016年3月12日 (土)

ザ・万字固め

著  者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2016年2月10日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「鴨川ホルモー」「プリンセス・トヨトミ」などの、奇抜な着想の楽しい物語を多く世に送り出す著者のエッセイ集。2013年に発行された単行本を文庫化。文庫化にあたって10編を新規収録して、本書には35編のエッセイが収められている。

 著者が日々体験したことを、親しい人に伝えているような感じ。まるで「あのなぁ、この前こんなことあってな..」と話しかけられているようだ。大阪生まれの著者らしく、面白そうに語って最後にはオチを付けて。

 例えば「ひょうたん」を育てる話が3編ある。栽培方法の本の購入をきっかけに、「全日本愛瓢会」なるNPO法人に入った。そして毎年ひょうたんを栽培している(3篇目には「五年目」と書いてある)。

 事実が淡々と書かれているだけなのに面白い。ちょっとしたことだけれど、クスッと笑えるとか、ほのぼのするとか、というエピソードが集められているからだ。「ずいぶん大きくなりましたねえ」と声をかけられて、「ええ。もう少しで収穫なんです」と答えたら、「いえ..お子さんのほう」、みたいな話。

 その他には、大阪の地下鉄を戦隊ヒーロー(レッドとかブルーとか)に例える話や、パソコンのカードスロットに違う種類のカードを差して抜けなくなった話など「どーでもいい(けど面白い)」話がいくつか。台湾で熱烈歓迎された話や、イタリアで置き引きにあった話など「ほーそんなことが..」という話も。

「2011東京電力株主総会リポート」と「2014ブラジルW杯リポート」は、ちょっとマジメな万城目さんが顔を出す。森見登美彦さん、綿矢りささんとの鼎談も興味深い。京都橘大学での講演の抄録らしいけれど、できれば全部聞きたい。

 最後に。「すべての大阪、わたしの大阪」から引用。
いや、大阪の人たちならやりますよ。なぜなら彼ら、彼女らは世界で一番、アホなことを真面目な顔でやってのける人々だからです

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2014年8月10日 (日)

悟浄出立

著  者:万城目学
出版社:新潮社
出版日:2014年7月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 奈良、京都、大坂、琵琶湖と、関西の街を舞台にした奇想天外な仕掛けの物語を紡ぎ、前作「とっぴんぱらりの風太郎」で戦国時代にワープした著者。最新刊の本書では、さらに時空を越えて中国の古典の世界に飛んでいた。

 本書は、沙悟浄、趙雲、虞姫、京科、榮、のそれぞれを主人公とした5つの短編を収めた連作集。沙悟浄は「西遊記」、趙雲は「三国志」、虞姫は「項羽と劉邦」に登場する。京科は秦の国の官吏で、榮は「史記」を記した司馬遷の娘だ。

 彼らに共通するのは「脇役」ということ。特に最初の3人ははまさに物語のサブキャラクターだし、後の2人も「秦の中国統一」という物語で始皇帝の近くや、「史記」を記し本人も浮沈のある人生を歩んだ司馬遷の傍らといった位置にいた。つまり強いスポットライトの横のほんのりと明るい場所だ。

 著者の意図は分かる気がする。脇役とは言え個性的なキャラクターの持ち主である。物語を彼らの目を通して再構成することで「彼らの物語」を創作したら面白いだろう。そういうことだと思う。

 これが著者の意図だとすると、少なくとも私には成功した。沙悟浄の物語は少しホロリとした。旅の一行で先頭を歩くことのない沙悟浄の気持ちに加えて、「抜けキャラ」の猪八戒の意外な素顔まで覗ける。

 趙雲の物語も興味深かった。三国志の劉備に仕える人物で、趙雲ほど安定した活躍を見せる武将はいない、と私は思っている。それなのに知名度は、劉備、関羽、張飛、孔明、の4人からはガクンと落ちるという日陰の身。よくぞ彼に光を当ててくれたと思う。

 最後に。私は中国の歴史や物語に、学生のころから興味があって、関連の本もけっこう読んだ。今も本棚には「三国志」「項羽と劉邦」「史記」がある。だから今回、中国の古典を題材にした著者に共感を感じた。

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2013年11月28日 (木)

とっぴんぱらりの風太郎

著  者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2013年9月30日 第1刷発行 10月15日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「偉大なる、しゅららぼん」から2年ぶりの著者の最新作は、746ページの大長編。元は「週刊文春」に2011年から203年にかけて2年間連載したものだ。週刊誌に2年間連載だから約100回、そりゃぁ長くなるはずだ。

 時代は「大坂の陣」のころ。主人公は伊賀の忍者だった風太郎。そう、本書は著者の初めての時代小説だ。風太郎(ちなみに「ぷうたろう」と読む)は、相棒の忍者である黒弓のいい加減さを発端とした不始末で伊賀を追われ、京都に落ち着くことになる。

 忍者くずれの風太郎には仕事もなく、自堕落に暮らすのみ。そんな風太郎を不憫に思ってか、縁のある人たちが仕事を世話してくれる。それを言われるままにこなしているうちに、風太郎はとてつもなく大きな時代の渦に巻き込まれてしまう...という物語。

 週刊誌の連載だけに、小さなヤマ大きなヤマがいくつも現れる。風太郎は度々命の危険に瀕する。幼いころから共に育った忍者仲間は、信用できるようでまったく信用できない。そして信用できないようで、やっぱり一番頼りになる。このあたりが一つの落としどころになっている。終盤の展開には色々と思うところがあるけれど、なかなか魅せる物語に仕上がっている。

 時代の渦は風太郎を大坂へ誘う。そして400年の時を超えた「プリンセス・トヨトミ」へとつながる。

 蛇足。「つながる」という意味では、風太郎らは「鴨川ホルモー」の登場人物とも重なる。何となく流されてしまう風太郎は安倍に、気のいい黒弓は高村に(黒弓はマカオの生まれで、高村は帰国子女だ)...

 と思っていたら、本書の特設サイトのインタビューで、「「鴨川ホルモー」のように、また大学生くらいのボンクラ主人公を使って話を書きたいなあ、と思っていた」と著者が答えていた。

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2011年8月13日 (土)

偉大なる、しゅららぼん

著  者:万城目学
出版社:集英社
出版日:2011年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、奈良では神の使いの鹿に話しかけられ京都ではオニたちを操り大阪では豊臣の姫を守った。そして今回の舞台は、日本最大の湖である「琵琶湖」を擁する滋賀。琵琶湖から特別な力を授けられた「湖の民」の物語だ。

 琵琶湖の東岸にある「石走(いわばしり)」の街は、日出(ひので)一族が絶大な力をふるう街。一族が持つ「他人の心を操る」力によって財をなし、かつてのお城の本丸御殿で暮らしている。ちなみに一族の力のことは、物語が始まって早々に読者には明かされる。

 主人公の日出涼介は、お城に住む本家からは遠縁になる高校生。日出一族の力を授かった者は、高校の3年間を本家で暮らし、その力の修行をする決まりになっている。涼介も本家で暮らすことになり、同級生で当主の息子である淡十郎と石走高校に通い始める。

 前半は、涼介たちの高校生活と、石走での日出一族の「とんでもなさ」がコミカルに描かれる。淡十郎が校庭に姿を現すと、教頭が挨拶に走りよってくる。他の生徒の制服は「黒」なのに、淡十郎の制服は「赤」。淡十郎が「赤」が好きだからだ。それからクラスはいつもC組。淡十郎がCが好きだからだ。
 後半は、一転して緊迫した展開で「見せ場」が続く。「湖の民」として日出一族とは別の力を持つ棗(なつめ)家との確執。さらに別の圧倒的な力を持つ第三の勢力の影。その他にも「隠し玉」が繰り出され、大スペクタクルも用意されている。実にエンタテイメントな1冊だ。

 神戸生まれの関西人である私は、表紙裏の「石走」の説明を読んで「滋賀?そう来たか!」と思った。自分のエゴでしかないのだけれど、奈良、京都、大阪、と来たら「次は兵庫(神戸)?」と漫然と思っていた。しかし、むべなるかな。「琵琶湖には何か秘密があるはず」と私も思う。

 ※分かる人にだけ分かること:笑ってしまったのは「奇面組」。おやっ?!と思ったのは「玄三郎」。

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2010年9月19日 (日)

ザ・万歩計

著  者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2010年7月10日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「鹿男あをによし」「鴨川ホルモー」「プリンセス・トヨトミ」そして「かの子ちゃんとマドレーヌ夫人」。奇抜な着想で、ドラマ化・映画化されるベストセラーを連発する著者。その暮らしはやっぱり少し変だった。本書はBoiled Eggs Onlineの他、様々な雑誌に掲載されたエッセイ31編をまとめた初エッセイ集。

 男子校に通った中学生時代から学生時代を経て、工場勤務の会社員時代、デビューまでの雌伏の無職期間、そしてデビュー後と、飄々とした著者の周りでは度々「面白いこと」が起きた。特に中学時代のエピソード「木曜五限 地理公民」には笑った。文庫本になったからと言って、本書を人前で、特に電車の中でなんかで読まない方がいい。絶対に笑いを堪えられないから。

 それから著者のこの行動力の源は何なのだろう?私も学生時代には、好奇心に任せて方々に旅に出かけた。ちょうど流行っていたので、バックパックでヨーロッパや中国にも。でも著者が出かけた、気温摂氏52度の灼熱のドバイにも、ウランバートルから車で3日+馬で2日というモンゴルの山奥にも行こうなんて思いもしなかった。
 また、そこに行った理由が、「砂漠を一度見てみたい」とか「モンゴル人になりたかった」というのだから驚きだ。「好奇心」には違いないが、旅の過酷さと比べるとあまりに軽い。そう、著者の周りで「面白いこと」が起きたのは事実だが、それを捉える感性が優れているし、何よりも著者の行動そのものが「面白いこと」を引き寄せている。

 初出が様々だからなのか、「面白い話」の中に「いい話」が混じって現れる。不意を突かれて涙ぐんだり笑ったり。緩急自在のエッセイ。オススメです。繰り返しますが、人前で読まない方がいい。万一読む場合はご注意を。

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2010年9月 4日 (土)

鹿男あをによし

著  者:万城目学
出版社:幻冬舎
出版日:2007年4月10日 第1刷 5月2日 第4刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 好きな作家は?という質問に、他の作家さんとともに著者の名前を挙げているのに、テレビドラマにもなって著者の出世作、代表作である本書をまだ読んでいなかった。先日、図書館に行った折りに、本棚にあるこの本の赤と黒の文字の背表紙が目の端に留まった。時々こういうことがあるのだが「本に呼ばれた」という感じ。「あんた、俺をまだ読んでないでしょ!」って。

 物語の舞台は奈良。主人公は「おれ」。大学の研究室にいたが、訳あって奈良女学館という女子高の理科の教師として二学期だけという短期間赴任した28歳。胃腸に弱点があり、不安や緊張が高まるとお腹が痛くなる。理由は他にあるのだが、研究室でつけられたあだ名は「神経衰弱」。
 その「おれ」が、赴任の初日から生徒にからかわれる、という前途多難な短い教師生活をスタートさせる。その後、京都と大阪の姉妹高との対抗戦に向けて、剣道部の顧問をすることになったり、鹿に話しかけられたり...!?神経の細い人にはかなり過酷な体験だ。

 面白かった。一番だと思っていた「鴨川ホルモー」よりも面白いと思う。綴られているのは、ヤル気がない訳ではないが熱血でもない教師の、周囲に流されるがままの暮らし。しかし、そこここに笑いあり感動ありのエピソードが配置され、さらにその背景には1800年の歴史がある壮大な物語があった。
 「鴨川ホルモー」も「プリンセス・トヨトミ」も、奇抜な着想が作品を引っ張った感がある。もちろん本書の設定もかなり奇抜だけれど、個々のエピソードとそれを積み重ねた物語の組み立て方が上手く、それが「面白さ」につながっている。そんなわけで、いまさらですが、この本はオススメです。

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2010年4月14日 (水)

かのこちゃんとマドレーヌ夫人

著  者:万城目学
出版社:筑摩書房
出版日:2010年1月25日 初版第1刷 3月10日 第3刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「鴨川ホルモー」や「プリンセス・トヨトミ」で、奇想天外な設定で笑わせたり、呆れさせたりしてくれた著者の次なる作品は、ほのぼのとしてちょっと切ないファンタジーだった。タイトルになっている、かのこちゃんは小学校1年生の女の子、マドレーヌ夫人は外国語を話すメスの赤トラの猫だ。
 かのこちゃんは、お父さんとお母さんと暮らし、犬の玄三郎を飼っている。ある豪雨の日に、マドレーヌはやってきた。そのままかのこちゃん家に住み、玄三郎と夫婦になった!?マドレーヌ夫人が話す「外国語」とは、犬の言葉。正確には玄三郎の言葉が分かる。

 第1章と3章はかのこちゃん、2章と4章はマドレーヌ夫人の視点から描かれている。かのこちゃんの元気さが微笑ましい。かのこちゃんは、難しい言葉で変な響きを持つものが好きだ。「やおら」とか「すこぶる」とか「いかんせん」とか「ふんけーの友(刎頚の友)」とか。
 そんな中で「茶柱」のエピソードは出色だ。かの子ちゃんがもう少し成長していたら、このエピソードは生まれなかっただろう、小1限定と言える。これは「はなてふてふ」とともに、著者のユーモアが垣間見られる部分だ。まぁ、これじゃ何のことか分からないと思うが、詳しい説明は控えるので読んで確かめて欲しい。

 そしてマドレーヌ夫人は、実に優雅で愛情深い。昔から物語に度々登場する「猫の集会」が、この物語でも重要な場面なのだけれど、そこでも一目置かれる存在だ。そして、仲間や玄三郎やかのこちゃんを想う心と行動に心洗われる思いがする。
 対するかのこちゃんもマドレーヌのことを誰よりも理解している。1人と1匹が、人間と猫という関係よりほんの少し近づいた触れ合いを見せる感動物語。本書が属する「ちくまプリマー新書」は、中高生対象の新書シリーズだそうだ。確かに中高生に読んでもらいたい本だ。

(2010.4.17追記)
本好きのためのSNS「本カフェ」でお友だちになった、ひゅうさんに教えていただいたのですが、本書についての著者のインタビューのポッドキャストがありました。なかなか楽しくてためになる話でしたよ。
ラジオ版 学問ノススメ Special Edition 「2010年3月28日放送分」

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2009年5月11日 (月)

プリンセス・トヨトミ

著  者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2009年3月1日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「鹿男あをによし」で奈良、「鴨川ホルモー」で京都を舞台に、奇抜な着想で物語を描き出した著者が、次に舞台に選んだのは出身地の大阪だ。さらに詳しく言うと、大阪城の南に位置する急坂の商店街「空堀商店街」。視界さえ開ければ大阪城天守閣が拝めるくらいの距離だ。タイトルの中の「トヨトミ」はもちろん、かつての大阪城の主であった「豊臣家」のことで、「プリンセス」ももちろん「姫」だ。本書は、多くの人がタイトルを見て思ったとおりに「豊臣家の姫」の物語。
 そうは言っても、奇抜な着想が特長である著者のことだから、一筋縄ではいかない。物語はあらぬ方向へ向かい、信じ難い出来事を引き起こしながら、豊臣家の姫の物語に収れんしていく。

 主人公の名前は真田大輔。大阪には信州上田の真田家が好きな人が多い。空堀商店街の近くに真田山という地名があるが、ここは大阪冬の陣の際に真田幸村が真田丸という出城を築いて奮戦した地の跡と言われている。夏の陣での幸村の戦死の地と言われている安居神社では今でも幸村祭が行われる。
 上田の人に聞いたのだが、大阪で上田から来たと言ったら「真田は太閤さんの味方だから」と言っておマケしてもらったそうだ。400年以上前の出来事が今の大阪の人の心に生き続けている。本書では真田家のことは匂わせる程度にしか書かれていないが、このことはストーリーに大きく関わっている。

 表紙は、本書の準主人公である会計検査院の調査官3人が、お堀越しに大阪城天守閣を仰ぎ見る絵だ。実は私はこれとそっくりな構図の大阪城を見たことがある。大阪に出張で深夜にホテルに入って、翌朝の朝食をとったホテルのレストランから間近に見えた大阪城がこんな感じだった。関西に生まれ育っても大阪城を見る機会はそんなにないものだ。その威容にしばし圧倒されたのを覚えている。
 上に書いた「信じがたい出来事」というのは、ある目的を持った仕掛けなのだが、私に言わせれば「大仕掛け過ぎる」。しかし、大阪城のあの威容をいつも感じて、400年以上前の出来事を胸に抱いている大阪の人々なら、これぐらいの空想はアリなのかもしれない。

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