24.恩田陸

2015年8月16日 (日)

ブラック・ベルベット

著  者:恩田陸
出版社:双葉社
出版日:2015年5月24日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の現在の最新刊。著者の作品はとても多様で、「ドミノ」のようにエンタテイメントに徹したコメディや、「上と外」のようなアドベンチャーは、私の大好きなジャンルだ。その他には「チョコレートコスモス」も「夜のピクニック」もよかった。ただ、私が苦手なホラー系の作品もあるので、なんとなく敬遠していて、著者の単行本作品を読むのは3年ぶり。

 帯を見て「失敗したかな?」と思った。「凄腕ウィルスハンター・神原恵弥シリーズ最新刊!」と書いてあったからだ。本書はシリーズものの第3弾らしい。それでも「まぁいいか」と思い直して読み始めた。

 結果から言うと、いきなり第3弾を読んでも楽しめた。登場人物やエピソードに、過去の作品をにおわせるものが少なからずあるので、順番に読むに越したことはないのだろう。それでも本書は本書だけで独立した物語になっている。

 主人公はシリーズ名にもなっている神原恵弥。米国の製薬会社に所属し、新薬開発につながる情報を探る調査員。敏腕で美形でバイセクシャル。ちなみに恵弥は「めぐみ」と読むけれど男性。でも女言葉を使うし、バイセクシャルなのでかつては男性の恋人もいた。なかなか濃いキャラクターだ。

 物語はショッキングな幕開けをする。恵弥が追っている女性が目の前で暴漢に刺殺される。場所は東西文化の交差点であるT共和国。旧知の国立感染症研究所の研究員から捜索を依頼され、その女性を発見して、接触を試みようとした矢先の出来事。

 ジャンルとしてはミステリーなので、ストーリーを詳しくは紹介しない。このあとT共和国に住む恵弥の高校の同級生との道行きで、薬物事件に絡んで様々な事件が立て続けに起きる。そのどれもが、輪郭を欠いたようにどこかあやふやな感じがする。

 この「あやふやな感じ」が、最後に来て明瞭になるのが本書の醍醐味。それまで見えていた風景が違って見える。(実は私には今一つ腑に落ちないことがあるのだけれど...)

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2014年5月 4日 (日)

Story Seller annex(ストーリーセラー アネックス)

編  者:新潮社ストーリーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2014年2月1日 発行 2月10日 2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「Story Seller」「Story Seller2」「Story Seller3」に続いて、本書が「Story Seller annex」。なぜ4ではなくannexなのかは分からない。裏表紙に「姉妹編」と書かれているけれど、なぜ「姉妹編」なのかも分からない。とにかく大好評アンソロジーシリーズの第4弾。

 大好評にはいろいろな理由があるだろう。ただ一番に言えるのは執筆陣の豪華さ。本書では道尾秀介、近藤史恵、有川浩、米澤穂信、恩田陸、湊かなえ、の当代きっての超人気作家6人の競演。1冊でこの6人の作品が読める。これはおトクだ。

 道尾秀介さんの「暗がりの子供」は、小学生の女の子が主人公の不穏な空気が漂う物語。近藤史恵さんの「トゥラーダ」は、代表作「サクリファイス」から続く自転車ロードレースが舞台(初出は「サヴァイヴ」)。有川浩さんの「R-18」は、「非実在青少年」という珍妙な言葉を生み出したあの規制と闘っている。

 米澤穂信さんの「万灯」は、80年代のエネルギー開発の最前線で戦う商社マンの苦渋をハードボイルドに描く。恩田陸さんの「ジョン・ファウルズを探して」は、英国人の作家ジョン・ファウルズの足跡を訪ねた評論。

 そして、湊かなえさんの「約束」が、本書の中では一番良かった。国際ボランティア隊の隊員としてトンガに赴いた女性の物語。彼女には日本を離れた理由と、はっきりさせなければいけない問題と、これらの根にある「約束」があった。

 湊さんの作品を読むのはこれが2作目。私は、子どもがつらい目に会う話は苦手で、湊さんはそれを描く作家さん、という先入観があって長く敬遠していた。しかし前に読んだ「Story Seller3」の「楽園」も、本書の「約束」も、そんな心配は杞憂だった。

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2012年3月 3日 (土)

夢違

著  者:恩田陸
出版社:角川書店
出版日:2011年11月15日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2010年から2011年にかけて、東京新聞ほかに掲載された新聞小説。

 舞台は、人が寝ている間に見る「夢」を記録できるようになった世界。主人公は、その記録を元にした夢の解析を職業とする「夢判断」の浩章。学校で子どもたちが集団白昼夢を見る事件が頻発し、浩章は他の「夢判断」たちと共に、その解明のために子どもたちの夢の解析を始める。

 集団白昼夢事件は、1クラスの子どもたち全員が「何か」を見て、ひどく怯えて教室を飛び出したのに、誰も「何を」見たのか覚えていない、といったものだ。その他には、行方不明の子どもが、何日かしてフラッと戻ってくるなど、超常現象とも言える出来事の数々が起きる。

 不思議な話だった。解析のため他人の夢を見る主人公も、時々現実からすべり落ちるように白昼夢を目にする。出来事の多くも常識的にはあり得ない、まるで夢の中の出来事のようだ。この物語全体が誰かの夢のようでもあり、「夢を見ている夢」のように、「彼我」と「夢と現実」の輪郭が曖昧で実に頼りない感覚が続く。

 以前に「人間の意識は「個人の無意識」のさらに奥で「集団の無意識」につながっていて、夢はそこへアクセスしている。予知夢や共有夢などがこれで説明できる」という説を読んだことがある。出版社のサイトによると、著者はずっと「夢は外からやってくる」と感じていたそうだ。恐らく同じようなことを言っているのだと思うが、著者が表現すると短く直観的に分かるし、こんなにも豊かな物語にもなるのだ。

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2011年2月16日 (水)

本からはじまる物語

著  者:恩田陸、有栖有栖、梨木香歩、石田衣良、三崎亜記 他
出版社:メディアパル
出版日:2007年12月10日 初版第1刷発行 
評  価:☆☆☆(説明)

 るるる☆さんのブログ「rururu☆cafe」で紹介されていた本。

 アンソロジー作品を読むたびに思っていて、「Story Seller2」のレビューにはそう書いてあるのだけれど、本書も「贅沢だぁ」と言いたい。それは著者の面々のことだ。恩田陸さん、有栖有栖さん、梨木香歩さん、石田衣良さんといった、当代切って人気作家。阿刀田高さん、今江祥智さんらのベテラン。本多孝好さん、いしいしんじさん、三崎亜記さんら、近頃評判の作家さん。とても全員は書ききれない。本書は、総勢18人の作家さんによる、「本」をテーマにした「競演」作なのだ。

 たくさんの作家さんによる「競演」のメリットは、同じテーマから生まれた、全く違う物語をたくさん楽しめることだ。異世界を感じる不思議な物語、本が生き物のように羽ばたくファンタジー。それに人が行き交う場所でもある書店は、ミステリーでもホラーでも恋愛モノやハートウォーミングな物語でも、その格好の舞台になるのだ。

 18編それぞれに心に残るものがあるのだけれど、1つだけ紹介する。三崎亜記さんの「The Book Day」。4月22日の夜、人びとは公園に集まり、家族で「本」を囲んで思い思いに過ごす。翌23日が「本の日」、本に感謝する日だからだ。やがて零時になると、本たちが羽ばたき始める..その日は、その本への想いに区切りを付けて前に進むための日でもあるのだ。

 私は、三崎さんの作品は「失われた町」しか読んでいない。けれども、2つの作品の間には強く通じるものがあると思った。それは「喪失と回復」。「失われた町」でもこの短編でも、多くの人が大切なものを失い、その喪失を乗り越える。その凛とした姿に勇気付けられた。
 また、時に「本」には、出来事や人と結びついて、特別な想いが宿ることがある。乱読の私はこれから先の人生で、そんな本に出会うのだろうか?

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2010年11月10日 (水)

上と外

著  者:恩田陸
出版社:幻冬舎
出版日:2003年2月27日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 私は本当に怖い話は苦手なので、ホラーを手に取らないように気をつけて、数多くの著者の作品の中から選んで読んでいる。本書は表紙の絵が「ドミノ」のイラストにテイストが似ていて(どちらのもどなたのイラストか分からないのだけれど)、図書館で見かける度に、いつか読もうと思っていたのだけれど、510ページの2段組の分量に怯んで、なかなか手を出せないでいた。
 分量が多いのも当然で、本書は2000年8月から1年間に亘って隔月で発刊された6冊の文庫シリーズを合本したもの。ちなみに、出版社は2003年に出したこの単行本の後に、上下巻にして再び文庫版を出している。きっと評判が良かったのだろう。(右のamazonリンクは文庫版、単行本の新品がなかったので)

 読み終わって「2段組だろうが510ページだろうが、もっと早く読んでいれば良かった」という気持ちになった。出版社がこれをもう一度文庫にした気持ちが分かる気がする。エンタテイメントに徹した結果、話が急展開したかと思うと焦らしたり、今度は強引に突き進んだりと、著者に振り回されっぱなしなのだけれど、すごく面白かった。

 主人公は中学生の楢崎練、妹で小学生の千華子、父で考古学者の賢、母で化粧品会社の広報ウーマンの千鶴子の4人家族。実は、賢と千鶴子は既に離婚して、千鶴子は千華子と暮らし、賢が考古学の研究のために外国で暮らしているので、練は祖父の家で伯父や従兄弟たちと暮らしている。つまり普段はバラバラなのだ。
 そして主な舞台は中米のG国。賢がいる国に夏休みを利用して4人が集まった。久しぶりの再会。賢がマヤ文明の遺跡を案内して、楽しい家族旅行になるはずが、とんでもない事件が起きる。ストーリーを言ってしまうわけにはいかないので順不同でキーワードを。クーデター、ジャングル、成人式、地下迷宮、風船、ロッククライミング、金型工業。涙腺の弱い方は注意。

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2010年7月28日 (水)

いのちのパレード

著  者:恩田陸
出版社:実業之日本社
出版日:2007年12月25日 初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 この著者の本は、読んでみるまでどんなテイストの本なのか分からない。ミステリー、ホラー、コメディ、ハートフル?ジャンルさえ多岐にわたっていて予想がつかない。そして本書は、どのジャンルとも言い難い物語が15編収録された短編集。
 読み終わって、少し背筋が冷えたり、何とも言えないモヤモヤが残ったりする、奇妙な物語ばかりだった。あとがきを読むと、それが著者の目論見どおりたっだことが分かる。本書は、早川書房が復刊した「異色作家短篇集」を読んで、「あのような無国籍で不思議な短編集を作りたい」と思って、月刊誌に「奇想短編シリーズ」と銘打って連載した作品をまとめたものなのだそうだ。

 どんな話なのかと言うと、例えば、地面から石の手がはえてくる話、橋のたもとのバリケードに座り込むホステスたちの話、「やぶからぼう」とか「つんつるてん」を出してしまう兄弟の話、「かたつむり注意報」が出る街の話、鉄路の上を疾走し続ける王国の話などなど。
 まぁ、この説明を読んでもどんな話なのか分からないと思う。どれも難しい言葉はないけれど、組み合わせがおかしい。「石の手」と「はえる」、「バリケード」と「ホステス」、「やぶからぼう」と「出す」、「かたつむり」と「注意報」、そして「王国」と「疾走」。これが、著者が目論んだ「奇想」ということなのだろう。

 偶然だけれども、先日読んだ「gift(ギフト)」に続いて、「想像力の翼」の羽ばたきが本書でも感じられた。ただし、あちらは自由な風まかせの飛び方だったけれど、本書の翼は力強く、またコントロールされてもいる。著者が練りに練って絞り出した「奇想」だけに、「奇妙さ」がより際立っている。
 表紙の哀愁ただよう「船と男性の背中の写真」からは、本書の内容を想像するのは無理だろう。

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2009年11月18日 (水)

六番目の小夜子

著  者:恩田陸
出版社:新潮社
出版日:1998年8月20日 発行 2000年3月5日 7刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者のデビュー作。1992年に新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズの1冊として刊行されたものを、1998年に単行本として再刊された。著者について私の周囲には、絶大な賛辞を送る人がいる一方で、「どうしても受け入れられない」という人もいる。私は基本的には好きな作家さんなのだけれど、鏡の多面体のそれぞれの面を見るように、作品によって全く違うテイストを受け取ることになって、戸惑ってもいる。

 舞台は地方の進学校。主な登場人物たちはそこの高校3年生の男女。その学校には秘された行事がある。3年に一度生徒の中から「サヨコ」と呼ばれる者が選ばれる。選ばれた生徒は他の生徒に気付かれることなく、様々なことをしなくてはならない。そこに「沙世子」という名の美少女が転校してきて...。
 「サヨコ」がすること自体は、多少大変だろうけれどまぁ他愛のないことだ。しかし、15年に亘る過去5人の「サヨコ」は伝説化し、その中には怪談めいたものもある。タイトルの通り今年の「サヨコ」は6人目なのだ。当然、誰が「サヨコ」なのか、というミステリーに読者の関心が向かう。

 しかし本書は、そんな読者の関心などお構いなしにドンドンと多方向に発展する。これは、ミステリーなのかホラーなのか青春小説なのか、「多面体」のようなその後の作品群が垣間見えるような作品だった。何もキッチリと分類できなくてはダメだというのではない。しかし、読んでいてどこに連れて行かれるのか分からないので不安になった。
 特に、唐突にゾクゾクするほど怖いシーンに出会うのが何より不安になる。お化けも悪魔も出てこないのだけれど、予感だけですごく怖い。異様にテンションが張り詰めるそんなシーンが要所にあるのだ。

 このようにホラーの傾向はあるものの、私は全体としては高校生の青春小説の色合いを強く感じた。その意味では読後感は悪くないし、私は好きだ。ただこのモザイクのような物語はちょっとした衝撃だ。肌に合えばこの上なく魅力的だし、何かを掛け違えれば受け入れ難いものになってしまう。合うか否かはギャンブルかもしれない。

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2009年3月28日 (土)

図書室の海

著  者:恩田陸
出版社:新潮社
出版日:2002年2月20日発行
評  価:☆☆☆(説明)

 恩田陸の短編集。表題作を含む2編の書き下ろしを除いて、様々な出版社の様々な雑誌に掲載されたものを1冊にまとめたものらしい。全部で10編が収録されている。著者によるあとがきに、それぞれの短編の背景が短く書かれているので、短編を読んだ後にそれぞれの背景を読んでみることをお勧めする。
 その理由は、今読んだ作品をもう一度かみしめることができるからだが、それだけではない。続けて読んでいると話にノリきれない時があるのだ。本を読むときには、無意識にでも「これはミステリー」「これはファンタジー」という心構えがあって、それで物語に入り込んでいけるのだと思う。ところが、ご存じのように著者はコメディーから感動悲話、またはホラーまで幅広いジャンルの作品を手がけている。この短編集もそれらが混在しているので、心構えができなかったり、間違えていたりするのだ。
 前の作品の余韻を残して友情物語かと思っていたら、どうも怪しげな展開になって「これはホラーだったんだ」という時などは、茫然としてしまった。だから、1編終わるごとにあとがきを読んで一拍置くことで、気持ちをリセットして次に行けば良いんじゃないかと思う。

 そういったことで、私は今一つ消化不良気味に読み終えてしまった。もともとホラーが好きではないこともその一因だと思う。それから、「夜のピクニック」の前日談が収められていることが、本書を手に取った理由の一つで、本編を深く読み解く何かがあるかと期待したが、そういったものはほとんどなかった。本編から想像できる前日、といったものだった。これもあとがきを読んで納得。この短編は「夜のピクニック」の予告編として書かれたものだそうだ。普通に考えて予告編に、物語の核心を書いてしまわないだろう。  少し古めではあるが、著者の変幻自在さがお好みの方は、未読なら読まれるといいだろう。そうではない方、著者の特定のジャンルや作品が好き、という方は読み方を工夫されるといいと思う。

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2008年10月 1日 (水)

蒲公英草紙 常野物語

著  者:恩田陸
出版社:集英社
出版日:2005年6月10日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 これは、泣かせる本だった。実を言うと、いよいよクライマックスというところで、ちょっと気になった場面があって、一旦は気持ちが落ち着いてしまった。それにも関わらす、気がつけば涙。ふいに目から涙がこぼれた。
 本書は、不思議な力を持つ「常野」の一族の人々や歴史を表した短編集「光の帝国」の続編、いや関連本と言った方が良いかもしれない。主人公というか、語り手は宮城県の山村に住む少女の峰子で、彼女は「常野」の者ではないので。
 今は年を取って娘と孫と一緒に東京に住んでいる峰子が、少女時代を述懐する形で物語が綴られている。「蒲公英草紙」は、峰子が自分の日記に付けた名前だ。家の窓から見える丘に群れ咲くタンポポが、峰子の故郷の原風景なのだ。

 物語の時代は、「新しい世紀を迎える」とあるから明治の中ごろか。峰子は、村の名前になっているほどの名家「槙村」の末娘の聡子のお話し相手としてお屋敷に上がる。そこには、様々な人が出入りし、中には長期に渡って逗留している人もいる。東京で洋画を学んだ画家、傷心の仏師、なんの役に立っているのかわからない発明家など。
 そんな槙村の家を「常野」の春田の親子4人が訪れる。短編集「光の帝国」の「大きな引き出し」で登場した、人の記憶や思いを丸ごと「しまう」能力を持つあの一族だ。もちろん彼らの能力は、物語で重要な役割を担う。私は「彼らの能力はこうして使うのか」と得心した。

 本書は、峰子の視点で槙村の人々を描き、「常に村のために」という「槙村の教え」を守った槙村家の悲話だ。そこに感動の、もっと言えば涙腺を刺激するツボがある。これだけでも本書の紹介として十分なのだが、蛇足と知りつつ、もう少し広い目で見て感じたことをいくつか述べる。
 槙村は、水害に会いやすい土地らしい。現在でもそうだが、100年前ではなおのこと、自然災害の前には人々は無力だ。大きな水害に合うと、村が1つ壊滅してしまう。この時代はこんなにも人々の生活が危ういものだったのだ。未来を見ることのできる「遠目」の能力は、こんな時代には至宝とも言えるだろう。
 しかし、その能力を以てしても時代のうねりには抗えない。語っている峰子の「今」は太平洋戦争の終戦の日なのだが、20世紀の前半分がどのような時代であったのかは知っての通り、戦乱の時代だ。「常野」の人々にはその予見はあったはずだが、どうしようもなかったのだ。
 いや、そんな「時代のうねり」などという大げさなものを持ち出さなくても、「常野」の力が及ばないことがある。本書の悲劇もその1つだ。

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2008年9月16日 (火)

光の帝国 常野物語

著  者:恩田陸
出版社:集英社
出版日:1997年10月30日第1刷 2000年6月13日第5刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 この本は、liquidfishさんに「暖かい、懐かしいような感じ」と薦めていただいて読みました。liquidfishさん、良い本を教えていだたいて感謝。

 「常野」とは、地名ではなくある一族の名前。一族の名前と言っても、全員が同じ姓をもつ血族ではなく、かつては共同体として生活していた人々の子孫たちだ。かれらを結び付ける共通点は、それぞれが常人にはない能力を持っていることだ。
 ある家系は、目にしたもの読んだもの全てを記憶することができる、別の家系は、未来を見ることができる、また別の家系は、遠くで起きている事柄を聞くことができる...といった具合だ。
 そして、本書は、今は全国に散って普通の人々の生活に馴染んで暮らしている、そういった特別な能力を持った人々の出来事を、様々な視点から綴った連作短編集だ。

 正直に言えば、この本にはしてやられた。「暖かい、懐かしいような感じ」と聞いていたし、最初の作品がその特殊な能力を使って、理解し合えずに死に別れた父と子を結びつける、いわゆる「泣かせるイイ話」で実際泣けたので、「感動する態勢」(そんな態勢があるとすればだが)で読んだ。しかし、そんな思いはあっさりと裏切られてしまった。
 2つ目、3つ目..と読み進めるうちに、どうも雲行きが怪しいことに気が付いた。「泣かせるイイ話」ばかりではない、それどころか相当ツライ話もあり、読み終わってあまりの救いのなさに呆然としてしまったこともあったぐらいだ。

 そう、私のような特別ではない人間は特別な能力にあこがれ、そのような力があればさぞかし人生が楽しいだろうと思う。しかし、「他の人とは違う」ということは、周囲の悪意を買うこともあれば、自らを深く傷つけることさえある。
 本書は、常野の人々の暮らしだけでなく、その苦悩や悲しい歴史をも生々しく描くことで、人間として幸せに前向きに生きることの尊さを際立たせている。
 「泣かせるイイ話」だと思って読んでいると、途中で読むのがつらくなるかもしれないが、それでも最後の1編まで通読してもらいたい。「暖かい、懐かしいような感じ」になれると思うので。

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