24.恩田陸

2018年1月 4日 (木)

2030年の旅

著  者:恩田陸、瀬名秀明、小路幸也ほか
出版社:新潮社
出版日:2017年10月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 新年の1冊目ということで、未来のことを考えてみようと思って、本書を選んだ。

 本書は2030年の日本の姿を、8人の作家さんがそれぞれ描いたアンソロジー。恩田陸さん、瀬名秀明さん、小路幸也さん、支倉凍砂さん、山内マリコさん、宗田理さん、喜多喜久さん、坂口恭平さん。恩田さんと小路さんは、私にとってお馴染みの作家さんだけれど、他の方は多分初めて。

 どれも短い中で展開の上手い物語になっていて面白かった。2作品だけ紹介する。

 1つ目は恩田陸さんの「逍遥」。ロンドン郊外に集まった3人の男性の話。そこでちょっとした事件がらみの、落し物の時計を探す。「集まった」と言っても、実はRR(リモート・リアル)という技術を使っていて、一人はマレーシア、一人は香港に実体がある。物に触ることもできるし、その場所では他の人からも見える。

 「他の人からも見える」となると、同時に2か所に居るようなものだから、アリバイなんて作り放題で、こんな技術が実現したら、犯罪捜査は大変だ。

 2つ目は山内マリコさんの「五十歳」。老齢の両親を助けるために帰郷した五十歳の女性の話。帰郷した時にはピンピンしていた両親があっけなく亡くなり、今は実家で一人暮らし。市の嘱託職員として、高齢者をショッピングモールや病院に送迎する仕事をしている。その日は新人を研修として、仕事に同行させる。

 予備校で英語を教えていたけど、少子化のあおりで閉校、その後に始めた英会話教室も、生徒が集まらずにクローズ。自動翻訳の機能が飛躍的に向上してわざわざ英語を勉強する人がいなくなってしまった。この経歴に「これはたぶん確実に起きる未来だ」と思った。

 2030年というと、今から12年。時代の変化が激しいとは言っても、まったく予想できないというほど先でもない。本書でも、AIやVRといった技術の進歩と、少子高齢化といった社会の変化という、現在既にみられる方向性が共通して題材になっている。

 帯に「日本のアカルイミライ」と書いてあるけれど、明るいとばかりは言えない。でも、このくらいの未来なら「まずまず良いシナリオ」だと思う。

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2017年12月20日 (水)

X’mas Stories

著  者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評  価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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2017年10月 4日 (水)

木洩れ日に泳ぐ魚

著  者:恩田陸
出版社:文藝春秋
出版日:2010年11月10日 第1刷 2017年10月10日 第9刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「蜜蜂と遠雷」で、2016年下半期の直木賞と2017年の本屋大賞を受賞した。帯に「祝本屋大賞&直木賞W受賞!」の文字が躍る。裏側には「恩田陸ミステリの隠れた傑作です!」と書いてある。2007年の作品。

 主人公はアパートの同じ部屋に暮らす一組の男女。今夜、最後の一晩をこの部屋で過ごし、明日にはめいめい別の場所へ出ていくことになっている。別れの夜というだけでも、晴れやかな雰囲気は期待できない。しかし、この物語を覆う「重苦しさと危うさ」は、もっと深く入り組んだ事情を、二人が抱えているためだ。

 男の方は「彼女があの男を殺した」と思っている。今夜中に彼女はそのことを白状するだろうか?自分はさせることができるだろうか?。女の方も「彼があの男を殺した」と思っている。今夜中に彼は自分を殺すつもりなのではないか?と疑っている。

 こんな感じで、お互いに相手を「殺人者」だと疑いながら、表面的には関係をきれいに解消するカップルを演じる。こんなヒリヒリするような心理戦を、章ごとに一人称を交互に彼と彼女に割り振って、心の中をえぐるように描くことで綴る。読者の特権で、互いの手の内が見える分、よけいにスリリングだ。

 物語で流れる時間はたった一晩で、場所はアパートの一室から出ない。本書は約300ページの長編なのだけれど、時間も場所も制限されたなかで、よくこれだけの起伏のある物語が描けるものだ。しかもちゃんと着地するし。「今さら」だけれど、著者の筆力には驚く。

 上に書いたように「深く入り組んだ事情」があり、それは何度も読者の想定を越え、時に禁忌に触れようとさえする。また「あの男を殺した」のは誰なのか?真実はどこにあるのか?「隠れた傑作」という評は当たっていた。W受賞がなければ、本書を手に取らなかっただろう。W受賞に感謝する。

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2017年3月22日 (水)

蜜蜂と遠雷

著  者:恩田陸
出版社:幻冬舎
出版日:2016年9月20日 第1刷 2017年1月25日 第10刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2016年下半期の直木賞受賞作。本屋大賞ノミネート作品。

 本書の舞台は「芳ケ江国際ピアノコンクール」。3年ごとに開催され、「ここを制した物は、世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」というジンクスがある「登竜門」的なコンクール。本書は、その出場者や関係者たちを主人公とする群像劇だ。

 主人公たちをざっと紹介する。審査員の嵯峨三枝子、出場者でかつてピアノの天才少女と言われた栄伝亜夜、28歳でコンクールの最年長出場者の高島明石、最有力出場者のマサル・カルロス・レヴィ・アナトール。この他にも、審査員をしている三枝子の前夫、亜夜に付き添う先輩、明石を取材する高校時代の同級生の女性等々、多くの人が描き込まれている。

 そしてもう一人、出場者の風間塵。トリックスター的な役割で物語を途中まで牽引する。このコンクール出場までの経歴がほとんど分からない。分かっているのは、養蜂家の父について転々と移動しながら、有名な音楽家の指導を受けたらしいことだけ。彼の演奏は、それまでの常識を破るものだった。それを聞いたある者は感動に震え、ある者は「こんなものは音楽への冒涜だ」と怒りに震えた。

 つまり役者が揃っている。それぞれのドラマを描けば、よい読み物になることは、著者の筆力を考えれば約束されたようなものだ。ただ、それだけではなかった。

 物語は、コンクールのオーディション、一次予選、二次予選、三次予選、本選、を順に描く。主人公たちの演奏は欠かさず描き、その他の出場者のものも少なくない。数えてはいないけれど、20以上の演奏シーンを言葉だけで表現していることになる。飽きないの?...まったく飽きない。

 以前に私は、中山七里さんの「さよならドビュッシー」のレビューで「文章の力」として、「本書からは「音楽」が聞こえて来る」と書いた。そのレビューの中で、本書の著者の恩田陸さんの「チョコレートコスモス」は「女優の演技が目の前に立ち現れた」とも書いた。

 本書は、その文章の力で「音楽」と「映像」の両方の感覚を呼び覚ます。帯に「著者渾身」と書かれているのは誇張ではないのだろう。

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2015年8月16日 (日)

ブラック・ベルベット

著  者:恩田陸
出版社:双葉社
出版日:2015年5月24日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の現在の最新刊。著者の作品はとても多様で、「ドミノ」のようにエンタテイメントに徹したコメディや、「上と外」のようなアドベンチャーは、私の大好きなジャンルだ。その他には「チョコレートコスモス」も「夜のピクニック」もよかった。ただ、私が苦手なホラー系の作品もあるので、なんとなく敬遠していて、著者の単行本作品を読むのは3年ぶり。

 帯を見て「失敗したかな?」と思った。「凄腕ウィルスハンター・神原恵弥シリーズ最新刊!」と書いてあったからだ。本書はシリーズものの第3弾らしい。それでも「まぁいいか」と思い直して読み始めた。

 結果から言うと、いきなり第3弾を読んでも楽しめた。登場人物やエピソードに、過去の作品をにおわせるものが少なからずあるので、順番に読むに越したことはないのだろう。それでも本書は本書だけで独立した物語になっている。

 主人公はシリーズ名にもなっている神原恵弥。米国の製薬会社に所属し、新薬開発につながる情報を探る調査員。敏腕で美形でバイセクシャル。ちなみに恵弥は「めぐみ」と読むけれど男性。でも女言葉を使うし、バイセクシャルなのでかつては男性の恋人もいた。なかなか濃いキャラクターだ。

 物語はショッキングな幕開けをする。恵弥が追っている女性が目の前で暴漢に刺殺される。場所は東西文化の交差点であるT共和国。旧知の国立感染症研究所の研究員から捜索を依頼され、その女性を発見して、接触を試みようとした矢先の出来事。

 ジャンルとしてはミステリーなので、ストーリーを詳しくは紹介しない。このあとT共和国に住む恵弥の高校の同級生との道行きで、薬物事件に絡んで様々な事件が立て続けに起きる。そのどれもが、輪郭を欠いたようにどこかあやふやな感じがする。

 この「あやふやな感じ」が、最後に来て明瞭になるのが本書の醍醐味。それまで見えていた風景が違って見える。(実は私には今一つ腑に落ちないことがあるのだけれど...)

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2014年5月 4日 (日)

Story Seller annex(ストーリーセラー アネックス)

編  者:新潮社ストーリーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2014年2月1日 発行 2月10日 2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「Story Seller」「Story Seller2」「Story Seller3」に続いて、本書が「Story Seller annex」。なぜ4ではなくannexなのかは分からない。裏表紙に「姉妹編」と書かれているけれど、なぜ「姉妹編」なのかも分からない。とにかく大好評アンソロジーシリーズの第4弾。

 大好評にはいろいろな理由があるだろう。ただ一番に言えるのは執筆陣の豪華さ。本書では道尾秀介、近藤史恵、有川浩、米澤穂信、恩田陸、湊かなえ、の当代きっての超人気作家6人の競演。1冊でこの6人の作品が読める。これはおトクだ。

 道尾秀介さんの「暗がりの子供」は、小学生の女の子が主人公の不穏な空気が漂う物語。近藤史恵さんの「トゥラーダ」は、代表作「サクリファイス」から続く自転車ロードレースが舞台(初出は「サヴァイヴ」)。有川浩さんの「R-18」は、「非実在青少年」という珍妙な言葉を生み出したあの規制と闘っている。

 米澤穂信さんの「万灯」は、80年代のエネルギー開発の最前線で戦う商社マンの苦渋をハードボイルドに描く。恩田陸さんの「ジョン・ファウルズを探して」は、英国人の作家ジョン・ファウルズの足跡を訪ねた評論。

 そして、湊かなえさんの「約束」が、本書の中では一番良かった。国際ボランティア隊の隊員としてトンガに赴いた女性の物語。彼女には日本を離れた理由と、はっきりさせなければいけない問題と、これらの根にある「約束」があった。

 湊さんの作品を読むのはこれが2作目。私は、子どもがつらい目に会う話は苦手で、湊さんはそれを描く作家さん、という先入観があって長く敬遠していた。しかし前に読んだ「Story Seller3」の「楽園」も、本書の「約束」も、そんな心配は杞憂だった。

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2012年3月 3日 (土)

夢違

著  者:恩田陸
出版社:角川書店
出版日:2011年11月15日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2010年から2011年にかけて、東京新聞ほかに掲載された新聞小説。

 舞台は、人が寝ている間に見る「夢」を記録できるようになった世界。主人公は、その記録を元にした夢の解析を職業とする「夢判断」の浩章。学校で子どもたちが集団白昼夢を見る事件が頻発し、浩章は他の「夢判断」たちと共に、その解明のために子どもたちの夢の解析を始める。

 集団白昼夢事件は、1クラスの子どもたち全員が「何か」を見て、ひどく怯えて教室を飛び出したのに、誰も「何を」見たのか覚えていない、といったものだ。その他には、行方不明の子どもが、何日かしてフラッと戻ってくるなど、超常現象とも言える出来事の数々が起きる。

 不思議な話だった。解析のため他人の夢を見る主人公も、時々現実からすべり落ちるように白昼夢を目にする。出来事の多くも常識的にはあり得ない、まるで夢の中の出来事のようだ。この物語全体が誰かの夢のようでもあり、「夢を見ている夢」のように、「彼我」と「夢と現実」の輪郭が曖昧で実に頼りない感覚が続く。

 以前に「人間の意識は「個人の無意識」のさらに奥で「集団の無意識」につながっていて、夢はそこへアクセスしている。予知夢や共有夢などがこれで説明できる」という説を読んだことがある。出版社のサイトによると、著者はずっと「夢は外からやってくる」と感じていたそうだ。恐らく同じようなことを言っているのだと思うが、著者が表現すると短く直観的に分かるし、こんなにも豊かな物語にもなるのだ。

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2011年2月16日 (水)

本からはじまる物語

著  者:恩田陸、有栖有栖、梨木香歩、石田衣良、三崎亜記 他
出版社:メディアパル
出版日:2007年12月10日 初版第1刷発行 
評  価:☆☆☆(説明)

 るるる☆さんのブログ「rururu☆cafe」で紹介されていた本。

 アンソロジー作品を読むたびに思っていて、「Story Seller2」のレビューにはそう書いてあるのだけれど、本書も「贅沢だぁ」と言いたい。それは著者の面々のことだ。恩田陸さん、有栖有栖さん、梨木香歩さん、石田衣良さんといった、当代切って人気作家。阿刀田高さん、今江祥智さんらのベテラン。本多孝好さん、いしいしんじさん、三崎亜記さんら、近頃評判の作家さん。とても全員は書ききれない。本書は、総勢18人の作家さんによる、「本」をテーマにした「競演」作なのだ。

 たくさんの作家さんによる「競演」のメリットは、同じテーマから生まれた、全く違う物語をたくさん楽しめることだ。異世界を感じる不思議な物語、本が生き物のように羽ばたくファンタジー。それに人が行き交う場所でもある書店は、ミステリーでもホラーでも恋愛モノやハートウォーミングな物語でも、その格好の舞台になるのだ。

 18編それぞれに心に残るものがあるのだけれど、1つだけ紹介する。三崎亜記さんの「The Book Day」。4月22日の夜、人びとは公園に集まり、家族で「本」を囲んで思い思いに過ごす。翌23日が「本の日」、本に感謝する日だからだ。やがて零時になると、本たちが羽ばたき始める..その日は、その本への想いに区切りを付けて前に進むための日でもあるのだ。

 私は、三崎さんの作品は「失われた町」しか読んでいない。けれども、2つの作品の間には強く通じるものがあると思った。それは「喪失と回復」。「失われた町」でもこの短編でも、多くの人が大切なものを失い、その喪失を乗り越える。その凛とした姿に勇気付けられた。
 また、時に「本」には、出来事や人と結びついて、特別な想いが宿ることがある。乱読の私はこれから先の人生で、そんな本に出会うのだろうか?

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2010年11月10日 (水)

上と外

著  者:恩田陸
出版社:幻冬舎
出版日:2003年2月27日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 私は本当に怖い話は苦手なので、ホラーを手に取らないように気をつけて、数多くの著者の作品の中から選んで読んでいる。本書は表紙の絵が「ドミノ」のイラストにテイストが似ていて(どちらのもどなたのイラストか分からないのだけれど)、図書館で見かける度に、いつか読もうと思っていたのだけれど、510ページの2段組の分量に怯んで、なかなか手を出せないでいた。
 分量が多いのも当然で、本書は2000年8月から1年間に亘って隔月で発刊された6冊の文庫シリーズを合本したもの。ちなみに、出版社は2003年に出したこの単行本の後に、上下巻にして再び文庫版を出している。きっと評判が良かったのだろう。(右のamazonリンクは文庫版、単行本の新品がなかったので)

 読み終わって「2段組だろうが510ページだろうが、もっと早く読んでいれば良かった」という気持ちになった。出版社がこれをもう一度文庫にした気持ちが分かる気がする。エンタテイメントに徹した結果、話が急展開したかと思うと焦らしたり、今度は強引に突き進んだりと、著者に振り回されっぱなしなのだけれど、すごく面白かった。

 主人公は中学生の楢崎練、妹で小学生の千華子、父で考古学者の賢、母で化粧品会社の広報ウーマンの千鶴子の4人家族。実は、賢と千鶴子は既に離婚して、千鶴子は千華子と暮らし、賢が考古学の研究のために外国で暮らしているので、練は祖父の家で伯父や従兄弟たちと暮らしている。つまり普段はバラバラなのだ。
 そして主な舞台は中米のG国。賢がいる国に夏休みを利用して4人が集まった。久しぶりの再会。賢がマヤ文明の遺跡を案内して、楽しい家族旅行になるはずが、とんでもない事件が起きる。ストーリーを言ってしまうわけにはいかないので順不同でキーワードを。クーデター、ジャングル、成人式、地下迷宮、風船、ロッククライミング、金型工業。涙腺の弱い方は注意。

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2010年7月28日 (水)

いのちのパレード

著  者:恩田陸
出版社:実業之日本社
出版日:2007年12月25日 初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 この著者の本は、読んでみるまでどんなテイストの本なのか分からない。ミステリー、ホラー、コメディ、ハートフル?ジャンルさえ多岐にわたっていて予想がつかない。そして本書は、どのジャンルとも言い難い物語が15編収録された短編集。
 読み終わって、少し背筋が冷えたり、何とも言えないモヤモヤが残ったりする、奇妙な物語ばかりだった。あとがきを読むと、それが著者の目論見どおりたっだことが分かる。本書は、早川書房が復刊した「異色作家短篇集」を読んで、「あのような無国籍で不思議な短編集を作りたい」と思って、月刊誌に「奇想短編シリーズ」と銘打って連載した作品をまとめたものなのだそうだ。

 どんな話なのかと言うと、例えば、地面から石の手がはえてくる話、橋のたもとのバリケードに座り込むホステスたちの話、「やぶからぼう」とか「つんつるてん」を出してしまう兄弟の話、「かたつむり注意報」が出る街の話、鉄路の上を疾走し続ける王国の話などなど。
 まぁ、この説明を読んでもどんな話なのか分からないと思う。どれも難しい言葉はないけれど、組み合わせがおかしい。「石の手」と「はえる」、「バリケード」と「ホステス」、「やぶからぼう」と「出す」、「かたつむり」と「注意報」、そして「王国」と「疾走」。これが、著者が目論んだ「奇想」ということなのだろう。

 偶然だけれども、先日読んだ「gift(ギフト)」に続いて、「想像力の翼」の羽ばたきが本書でも感じられた。ただし、あちらは自由な風まかせの飛び方だったけれど、本書の翼は力強く、またコントロールされてもいる。著者が練りに練って絞り出した「奇想」だけに、「奇妙さ」がより際立っている。
 表紙の哀愁ただよう「船と男性の背中の写真」からは、本書の内容を想像するのは無理だろう。

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