22.伊坂幸太郎

2009年11月 3日 (火)

あるキング

著  者:伊坂幸太郎
出版社:徳間書店
出版日:2009年8月31日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「誰も読んだことのないような伝記を書いてみました。」と著者が言うように、まず本書は伝記だ。あるホームランバッターになったプロ野球選手の生涯が綴られている。「誰も読んだことのない」についても、まぁそうだろうと思う。主人公の山田王求の生涯は、何かが少しズレている。

 王求の両親は、熱烈な仙醍キングスのファン。ちなみに仙醍キングスは万年最下位の弱小プロ野球チーム。王求が生まれる時に母は、破水して病院に行った後も、陣痛室に移るその時までテレビで試合を見ていた。そして残る父には「あなたはここで試合の結末を見届けて」と言った。
 そして、生まれてきた子どもに「王(キングス)が求める」という意味で、「王求(おうく)」と名付け、仙醍キングスに入団させるべく王求を育てた。そんな両親の想いが通じたのか、王求は尋常ではない才能と練習によって一流の野球選手に成長していく。

 普通の伝記であれば、細かいエピソードを除けば、これでほとんど全てでネタバレもいいところだ。ところが「誰も読んだことのない」伝記である本書は、生涯を表したストーリーにはそれほどの意味はない。天才野球少年から高校、プロへと進む、生涯の各段階での王求を見る周囲の目線が、物語の核となっている。
 冒頭に「何かが少しズレている」と書いた。王求はズバ抜けて野球が上手いだけなはずなのに、完全に周囲から浮いてしまっている。少しだけ普通じゃない両親や本人の言動の積み重ねと、その結果の野球の才能が、周囲と王求の間に小さなしかし決定的なズレを生じさせているのだ。

 気の利いたセリフや不思議な登場人物、淡々とした主人公など、伊坂作品らしいと言えばそうなのだが、ちょっと雰囲気が違う。陽気で楽しい「白伊坂」と、闇や得体の知れないモノを描く「黒伊坂」がいる、という話を聞いたことがあるけれど、「黒伊坂」がチラチラと顔を出す作品。

この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。
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2009年9月 4日 (金)

死神の精度

著  者:伊坂幸太郎
出版社:文藝春秋
出版日:2008年2月10日 第1刷 3月5日 第3刷
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎作品。2003年から2005年にかけて発表された表題作を含む連作短編が6編収録されている。今回の主人公は「死神」。取り憑かれれば死期が近いという、なんとも不吉な主人公なのだが、著者の手にかかれば「こんなヤツならいてもイイかな?」なんて思ってしまう。

 主人公の死神の名前は千葉。そう死神にも名前があるのだ。仕事をする時の仮の名前なのだが、なぜかみんな市や町の地名になっている。仕事?そう死神にも仕事がある。仕事だけじゃない、監査部とか情報部とかの部署があって、分担して人の死に関する仕事をしている。
 そして千葉は調査部の一員だ。調査部の仕事は、情報部が選抜した人間を調査して、「死」を実行するのが適当かどうかを判断して、結果を監査部に報告することだ。判断はそれぞれの裁量に任されているし、よほどのことが無い限り「可」の報告をすることになっている。やっぱり、彼らが近くに現れたら死を覚悟した方がいいらしい。
 だから彼ら調査部の死神は「死の前触れ」ではあるけれど「死の原因」ではないのだから怨んだって仕方ない。とは言え「こんなヤツなら~」とはとても思えないところだが、なんかイイのだ。千葉には悪意が全くない(「助けてあげよう」とかいう優しい気持ちもないけれど)ところがイイのかも。頼まれたことは、やってあげてしまうところかもしれない。

 伊坂作品の魅力は、シャレたセリフと登場人物にあるが、本書も同じ。千葉が、仕事をする時には必ず雨が降ると言うと、調査対象の女性が「雨男なんですね」と答える。千葉がそれに返した言葉は..。彼の素朴な疑問の数々には思わずニヤリ。登場人物でいうと、最終話の美容院のおばあちゃんがイイ。年をとると何でも見通せるようになるらしい。伊坂ファンへのサービスエピソードもある。

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2009年7月19日 (日)

魔王

著  者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2008年9月26日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「モダンタイムス」から遡ること約50年。本書の初出の2004~2005年とほぼ同年代、つまり現代が舞台。正確に言えば本書が先にあって、「モダンタイムス」がこれに続く作品。この順で読むほうが良いのだろう。私は、読む順番が逆になってしまったけれど、「モダンタイムス」に出てきた登場人物や、その口から語られるエピソードなどが本書に登場していて、これはこれで楽しめた。

 「魔王」と「呼吸」の2編の中編が収められている。2編の間には5年の歳月があって、主人公も違うのだがひと続きの物語になっている。「魔王」の主人公は安藤、システム開発の会社に勤めている。ある日、自分には不思議な能力があることに気が付く。自分が念じた言葉を、誰かに話させることができるのだ。
 時代は不穏な時代だった。景気は回復せず、中東の紛争が長引き、中国との関係はギクシャクし、米国には頭が上がらない。失業率が史上最悪を更新、与党の支持率が低下、そして衆議院が解散、野党に国民の期待が集中する...これはいつのこと?もしかして今?...そんなはずはない、上に書いたように本書の初出は2004年だ。
 しかし、読み進めれば読み進めるほど、現在のことを言っているのではないかと思ってしまう。分かりやすい言葉と「世論」という洪水に乗せられて、国民が一つの方向になびいてしまう。「考えろ」が身上の安藤は、そんな世の中に不安を感じて、衝き動かされるように行動を開始する。

 これは、面白かった。著者の他の作品とは何か違うものを感じた。村上春樹氏の「コミットメント」という言葉が連想される。著者はあとがきで「(政治的な)特定のメッセージを含んでいない」と断ってある。これは、何かのメッセージが読み取れてしまうからこそ、こういった断り書きが必要になったのだろう。「考えろ」。これは、安藤の口から再三発せられるほか、「呼吸」では思わぬ人物が熱を込めて語る言葉だ。
 タイトルの「魔王」はシューベルトの歌曲の名から取られている。薄学な私は知らなかったが、子どもが「魔王がいる」と訴えているのに、父親は気付くことができず「あれは柳の木だ」とか都合の良いように解釈しているうちに、子どもの魂は魔王に連れて行かれて息絶えてしまった、という悲劇だ。

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2009年6月 3日 (水)

Story Seller(ストーリーセラー)

編  者:新潮社ストーリーセラー編集部
出版社:新潮社
出版日:2009年2月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、月刊の文芸誌「週刊新潮」の2008年5月号別冊として発売された雑誌を文庫化したもの。伊坂幸太郎、有川浩、近藤史恵、佐藤友哉、本多孝好、道尾秀介、米澤穂信の7人の書き下ろし短編が収録されている。
 伊坂幸太郎さん、有川浩さんは私が好きだと公言している作家さんだし、近藤史恵さんは「サクリファイス」を読んで関心度が急上昇中。しかも収録されているのは「サクリファイス」の外伝だという。文庫で860円とは安くはないが、私にとっては何ともお買い得な1冊だ。私が注目した3人以外の4人も、それぞれに文学賞を受賞された方々だそうで、出版社が「物語のドリームチーム」なんて言うのも分かる。

 伊坂さんの作品は、短いながらもちょっと捻りの効いた伊坂作品らしいモノ。近藤さんの作品は「サクリファイス」のテイストそのままの外伝。すごく良かったとは言えないが、まぁ期待通りだった。ちょっと不満があるのは有川さんの作品。この作品は私は好きになれない。著者が「悪意」や「悲劇」も描けることは分かっているが、読後感は大事にしてほしい。
 「ドリームチーム」でもいつも最高のパフォーマンスが出せるとは限らない。一流選手も調整不足で良い結果を出せないことがある。詳しくは分からないが、雑誌に向けての書き下ろしと1冊の単行本の出版とは、かける時間や推敲の量が違うのかもしれない。奇しくも有川さんの作品は、雑誌にたくさんの物語を身を削るように書く小説家の話。著者もあんな風に雑誌に作品を書いているのかもと思うのはいけないことだろうか?

 そんな想像から、小説を読むなら文芸誌よりも本として出版されたものを読む方が良いのではないかと思った(例え文芸誌に連載されたものをまとめて単行本として出版するにしても)。ただ、文芸誌にも良いところはある。それは、新しい作家さんとの出会いだ。
 本を買うならなおさらだが、図書館で借りるにしても未知の作家さんの本を手にすることは限られている。その点、本書は私が知らない4人の作家さんの作品を読む機会になった。どの作品にもちょっと毒があるのだけれど、もう1冊ぐらい読んでみようかな、と思う。

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2009年5月24日 (日)

陽気なギャングが地球を回す

著  者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2003年2月20日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの単行本としては3作目になる作品。「長編サスペンス 書下ろし」と表紙に小さく書いてあるが、私にはライトなコメディに思えた。現場で必ず演説をぶつ銀行強盗なんて、コメディでなければ何だというのだろう。そう、本書は銀行強盗の話。それも何とも軽いノリの4人組の銀行強盗が主人公。それでいて成功率は100%だ。

 演説をぶつのは響野。口から出るのはウソばかりという男。でも仲間を裏切ることはしないし、自分にウソは付かない。真っ直ぐなヤツなのだ。彼の昔からの友人でもある成瀬はウソを見抜く名人。ウソつきとウソを見抜く名人の組み合わせとは相性が悪い、いや逆に抜群に良いのだろう、2人のコンビは息が合っていて最高だ。
 この2人と久遠と雪子の4人組と響野の妻や雪子の息子らが、組み合わせを変えて登場する短めの場面がドンドン展開していく。テンポが良くて会話が面白いのでアッと言う間に読み進んでしまう。映画化されたのだが、映画の長さは90分あまり。あとがきによると、著者がそのくらいの長さの映画が体質にあっていると言い、ふと「そういうものが読みたくなり」書いた話らしい。コンパクトな話なのは、著者自身の狙いでもあったわけだ。

 今年は、著者の作品を意識的に多く読んでいる。最近のものを読んだり本書のようにデビュー間もない頃のものを読んだり。その中で本書はおススメの1冊だ。伊坂作品の中で最初に読むとしたらこの本がイイかも。なぜなら本書は読者を選ばない。会話は面白いし、伏線は活きている。でも伏線の複雑さはホドホド、ついでに不思議さもホドホド、悪意や暴力もホドホド。伊坂作品の特長がホドホドに入っていて、万人にウケそうなので入門編として最適だ。

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2009年4月29日 (水)

モダンタイムス

著  者:伊坂幸太郎
出版社:講談社
出版日:2008年10月16日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの単行本の最新刊。漫画週刊誌「モーニング」の2007年4月~2008年5月に連載された小説に加筆修正したもの。短めの章が56章もあるのは、週刊誌の1回連載分が1つの章になっているからだろう。帯に「伊坂作品最長1200枚」とあり最長編になるらしいが、長く感じられないのも短い章の連続のテンポの良さのためだ。「全力疾走した短いお話を56個積み重ねたかのような」と著者も評しているが、まさにそんな感じ。

 主人公は、中堅のシステムエンジニアの渡辺。日々、顧客や営業部門から要求されるムリ目のシステム開発を、睡眠時間と健康を削ってこなしている。彼には他人が羨むような美人の妻がいる。物語の冒頭は、渡辺が拷問を受けるシーンだ。なんとショッキングな。主人公に拷問だなんて。しかも、その拷問の影には美人の妻がいるらしい。いったいどうなってるんだこの話は、という思うほどに初っ端から突っ走り気味に始まる。
 さらに、渡辺の周辺で不可解なことが連続して起きる。連絡がさっぱり取れないシステム開発の発注元の会社。先輩エンジニアの失踪。渡辺自身も暴漢に襲われる。そのカギは宣伝文句にもなっている「検索から、監視が始まる。」だ。どうやらインターネットでの検索を誰かが監視しているらしい。

 「伊坂さんにはまる」と宣言して旧作を中心に何冊か読んできた。最新刊も気になっていたので読んでみたというわけだけれど、本書はちょっと私の好きな伊坂作品とは趣がちがった。面白くないわけではない。「勇気は実家に忘れてきました」なんてセリフもあきれてしまうが何故か好きだし。
 でも、伊坂作品の醍醐味は、緻密に張り巡らされた伏線にあると思っている。騙し絵のように読者を欺くミスリードの巧みさが特長だと思っている。だから「ゴールデンスランバー」以降、伊坂作品は1行も読み落としがないような読み方をしていた。ところが、本書にはそういったものが、私が見たところ見当たらない。
 (私の見落としという可能性も十分あるが)恐らくは、漫画週刊誌への連載という形式が影響しているのだろう。著者あとがきには、「毎回、担当編集者と打ち合わせをし、次号の内容をそのつど決めて..」とあり、全体を俯瞰しての伏線という仕込みはできなかったことが伺える。こういう小説の書き方は、著者に限って言えば向いていないと言うか、もったいないとに思うが、どうだろうか?

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2009年3月 6日 (金)

オーデュボンの祈り

著  者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2003年12月1日発行 2008年11月10日第31刷
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんのデビュー作。新潮ミステリー倶楽部賞受賞。デビュー作なので当たり前なのだが、私が読んだその後の著者の作品の特徴の原点が見られる。複数の視点で並行した物語が語られること。物語の時間が前後することがあること。伏線を潜ませる前半とそれを回収する終盤という構成。こう言ったことが、私は著者の作風だと思うのだが、デビュー作の本書ですでに特徴として現れている。ただし(まだ)デビュー作なので、これも当たり前なのだが、少ぉし切れ味が足りないというか、中途半端な感じがした。

 主人公は伊藤という青年。元システムエンジニアで、会社を辞めて2か月後に、人生をリセットしようとしてコンビニを襲い失敗した。そしてパトカーで連行される途中で逃走。その後の記憶はなく、朝目覚めると見知らぬ島の見知らぬ部屋にいた。
 この島は仙台の南にある島なのだが、江戸時代から外界と隔絶されていて、人々は独自のルールを持って暮らしている。不思議な人々、不思議な習慣がたくさんあるのだが、一番の不思議は、しゃべるカカシだ。しかも、このカカシは未来が分かるのだ。そして、物語はこのカカシがバラバラにされたことから展開していく。
 そして、このカカシをバラバラにした犯人がだれか?ということと共に、「この島に足りないもの」が繰り返し謎として提示される。この謎と、伊藤の元彼女に迫る危険などが物語の牽引役となって終盤までひっぱる。面白い読み物にはなっている。

 しかし、本書のネットでの評判は思いのほか良くない。江戸時代に外界から隔絶された島、しゃべるカカシという奇想天外さが、受け入れられないと感じた人もいるようだし、私も感じた少ぉしの中途半端さも不評の原因だろう。ただ考えて見れば、奇想天外な設定が悪いとは限らないし、その後の成熟した作品と比べてデビュー作を評価するのは間違っている。
 そう、伊坂作品を何冊か読んだ後に本書を読む人は、これが始りの本なのだという思いを持って読むと良いだろう。「神様のレシピ」という、その後の作品に度々登場する言葉も、本書が初出でその意味が明らかにされていることだし。

 最後に蛇足と知りつつ、一つ述べる。著者の作品が村上春樹さんの作品の影響を強く受けている、という指摘が既に多くの方からされている。本書を読む限りでは、その指摘は確かに当たっているように思う。でも、後の作品にはこういったことはあまり感じられなかった。著者は、本書の後は「伊坂幸太郎らしさ」を積み上げてきたのだと思う。

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2009年2月18日 (水)

グラスホッパー

著  者:伊坂幸太郎
出版社:角川書店
出版日:2004年7月30日初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの5年ほど前の作品。今年は(るるる☆さんと一緒に)伊坂作品にはまろうと考えているので、積極的に過去の作品を読んでいきます。

 相変わらずうまい(過去の作品なので「相変わらず」は正しい用法ではないけれど)。複数の視点から順に語られる手法もお馴染みなら、終盤に来てそれらが収束していくのも、目立たない伏線が最後なって浮上して、足をすくわれるような感覚もお馴染みだ。パターンにはまったと言えばその通りなのだが、今回も気持ちよく足をすくわれてしまった。

 悪いやつがたくさん登場する。登場する人物のほとんどが「闇社会」の一員だ。それでいて冷たい感じがしない。悪いやつらも、失敗したり焦ったり悩んだりと、妙に人間臭いからだ。
 主人公は「鈴木」。悪徳会社の社長のバカ息子に悪ふざけの事故で妻を殺されている。彼は、復讐のためにその悪徳会社の契約社員となっている。その他の視点は「蝉」と「鯨」と呼ばれる2人の殺人のプロ。
 本書によると、この社会には殺人の「業界」があって、電話やなんかで殺人の注文を受けたり、人材を派遣したりしているらしい。鈴木も含めて、登場人物のほとんどはこの「業界」の一員なので、悪いやつらなのだ。ただ、あんまり悪いやつらばかり出てくるので、中でも罪の軽い人がいると、ちょっといい人に思えてしまうから、私の善悪の感覚もあてにならないものだ。

 元々はこの業界の人間ではないからか、追われる身となった鈴木の見通しの甘い行動には少しあきれるが、まぁどこかユーモラスで憎めない。「蝉」と「鯨」が抱えるそれぞれの悩みもうまく描かれていた。舞台が殺人の業界だから必然かもしれないが、何人もが死ぬがつらいが、読後感はそれほど悪くないことに救われる。

この本を読んだ方へ質問。
 鈴木は最後に5階に行くのですが、4階に行くべきではないのでしょうか?

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2009年1月17日 (土)

ラッシュライフ

著  者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2005年5月1日発行 2008年12月5日30刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 様々な文学賞を受賞し、「ゴールデンスランバー」で本屋大賞、山本周五郎賞を受賞(直木賞は選考対象となることを辞退したそうだ)した人気作家である著者の、出版作品としてはデビュー作に続く2冊目。本書は無冠だが、著者が注目されるきっかけになった作品だという。

 複雑かつ精巧に張り巡らされた伏線が著者の作品の特長なのだが、デビュー2作目の本書にして、その特長はすでに他の作家には見られないような、特異なものとなっている。ストーリーは、精神科医、泥棒、リストラされた元デザイナー、新興宗教の信者である青年、画家などを主人公とした、複数の物語が並行して進行する。
 この構成だけで伏線好きな私は、物語の絡み合いを予感してワクワクしてしまった。もちろん予感は的中し、コインロッカーのカギや犬、音楽や銃声といったアイテムを介して別々の物語がつながっていく。登場人物同士のニアミスも起きる。

 これだけでも十分にエンタテイメントな作品だが、著者はさらに様々な仕掛けを施していて、最後までそれとは分からない接点や、完全に騙すためだけの思わせぶりな構成もある。多くの読者が読み終わってから「あぁ、そうだったのかぁ」という感想を持ち、その内の何割かは、物語を正確に理解しようとバラバラのエピソードを組み立て直そうとするだろう。現に検索してみると、エピソードを時系列に並べようと試みたサイトがたくさん見つかる。

 頂点と謳っている「ゴールデンスランバー」に比べれば見劣りしてしまうのだが、そういう言い方はあまりに酷だ。伊坂作品を1冊でも読んだ方はもちろん、まだだという方にもおススメする。伊坂作品の特長が良く出ていると思う。だた1つだけ、死体に対する嫌悪感が強い方はご用心を。

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2008年5月11日 (日)

アヒルと鴨のコインロッカー

著  者:伊坂幸太郎
出版社:東京創元社
出版日:2003年11月25日初版 2004年1月30日3刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 東京創元社のミステリ・フロンティア第1回配本。「ミステリ・フロンティア」とは、東京創元社のWEBページによれば「次世代を担う新鋭たちのレーベル」ということで、本書は吉川英治文学新人賞を受賞している。つまり、新鋭作家として頭角を現しつつあったころの作品だ。

 新鋭という意気込みのせいか、物語にもとんがった感じが伝わってくる。登場する悪党は徹底してイカれてるし、暴力的にちょっと生々しいシーンもある。
 でも、著者の構成のうまさはこの作品でもうならせてくれる。後半を読んでいて「あれは、こういうことだったのか」と思い当って前のページを繰ると、実にうまく伏線として忍ばせてある。最初に読んだ時には全く別の意味合いを持っていたものが、後で浮かび上がってくる仕組みだ。
 先日、脚本家の三谷幸喜さんが、マジックのミスディレクションとドラマの脚本の伏線との類似性を新聞のコラムで書いていらっしゃったが、まさに、その通り。

 主人公は、この春大学生となってこの町(仙台かな?)にやってきた青年、椎名。彼が、アパートの隣人である河崎に、本屋の襲撃を持ちかけられるのが、本書の発端。
 しかし、本当の物語は2年前から始まり、椎名はその物語の最後の場面で途中参加しただけだった。2年前に、河崎と、彼の以前の交際相手の琴美、琴美の当時の彼氏であるブータン人留学生のドルジの3人が、ある事件に巻き込まれる。その3人の物語の果てに、椎名が遭遇した本屋の襲撃がある。
 ストーリーは、椎名を1人称とした現在と、琴美を1人称とした2年前の事件を行き来しながら、徐々に1つにより合されていく。上の4人以外にも登場人物が個性的で、最後まで物語を楽しむことができる。

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