21.村上春樹

2017年7月 8日 (土)

みみずくは黄昏に飛びたつ

著  者:村上春樹 川上未映子
出版社:新潮社
出版日:2017年4月25日 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 川上未映子さんが村上春樹さんに聞いたインタビュー。合計で4日間、時間にして11時間、文字数にして25万字。空前のスケールと言っていい。村上さんは、過去にも長いインタビューを受けておられて、雑誌「考える人」の2010年夏号に、70ページほどの3日間のロングインタビューが載っている。私はその長いインタビューを「すごい」と思ったが、今回はそれを超える。

 「今回はそれを超える」のは、時間や文字数といった量的なことだけでなく、聞いた内容の「特別さ」においてもそうだ。今回の聞き手は川上未映子さん。「乳と卵」で芥川賞を受賞した作家さん。つまり村上さんの同業だ。帯には「作家にしか訊き出せない、作家の最深部に迫る記録」と書かれている。

 確かに創作のこととか、メタファーのこととか、今まで聞いたことのない話がたくさんある。また川上さんは、少女時代からの村上作品の熱心な愛読者だという。作家だからなのか、愛読者だからなのか、川上さんのパーソナリティによるものなのか、それは分からない。けれど「そんなことを、しかもそんな聞き方する?」という質問がバンバン飛び出している。

 たとえばこんなのがある。

 これまでと現在を振り返って「俺ってやっぱすごかったんだなー、とくべつだったんだなー」みたいな気持ち、ない?これはありますでしょ、少しくらい(笑)。

 それから川上さんが「本当ですか?」と聞き返す場面も多い。たとえばこんな感じ。

 川上:「騎士団長殺し」という言葉が絵のタイトルだとわかったのはいつですか。
 村上:それはずっとあとのことです。ずっとあと(笑)。穴を開いたあとで。
 川上:それはマジですか。
 村上:マジで。

 この紹介だと「年下の女の子が、大先輩の大作家に軽いノリで聞いてる」だけ、と受け取られかねないので、付け加える。川上さんの村上作品への傾倒ぐあいと知識はハンパじゃない。村上さん本人より数段詳しい。例えば、「笠原メイっていくつでしたっけ?」って村上さんに聞かれて「笠原メイは十六歳。学校に行かなくなった高校一年生です」って、即答したぐらいだ。

 自分の作品に対する傾倒と、作家としての実力を、村上さんが認めた上で、その率直さまでも気に入ったからこそ、上に書いたような受け答えが実現したのだ。「インタビューを終えて」で村上さん自身が「「もっとこの人と長く話してみたいな」という気持ちを強く持った」と書いている。

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2017年4月26日 (水)

村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!

著  者:大森望、豊﨑由美
出版社:河出書房新社
出版日:2017年4月30日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「はじめに」で、大森望さんが「「騎士団長殺し」メッタ斬り!というタイトルの本を出す誘惑には抵抗できなかった」と書いていらっしゃるけれど、私はこのタイトルを書店で見て、読んでみたいという誘惑に抗えなかった。なんと不埒な便乗商品か。でも「私の想いに近い」という確信めいたものも感じた。

 著者のお二人は共に「書評家」。私はお二人の書評をあまり読んだことがないのだけれど、「辛口の書評」という印象がある。それはたぶん「文学賞メッタ斬り!」という作品のことを知っているからだと思う。本書も、唐突に「メッタ斬り!」なんていう企画が湧いて出たわけではなくて、これまでの「メッタ斬り!」の系譜の中にある。

 内容は、表題の「「騎士団長殺し」メッタ斬り!」のほか、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」「1Q84 Book1、2」「1Q84 Book3 女のいない男たち」のそれぞれの「メッタ斬り!」の4部構成で、全編が著者お二人の対談形式。

 すごく面白かった。何かの役に立ちそうとか、気付きがあったとか、そういうことはない。ただ「私の想いに近い」という最初の直観は正しかった。だから読んでいて楽しかった。

 本書は村上作品の欠点を指摘する本だ。ここで大事なのは「しっかり読み込んだ上で」欠点を指摘する、という点だ。豊﨑さんが行った時系列の整理は見事なものだし、俎上にあげる細かいエピソードは、その作品だけでなく、他の村上作品、さらには他の作家の作品との関わりにまで及んで分析されている。自称「ハルキスト」のどのくらいの割合の人が、これに太刀打ちできるだろう?

 最後に。「私の想いに近い」と感じた理由の一つに、著者と私の近さがある。お二人は同い年で私の2歳上という年齢の近さ。そのために人生のほぼ同じタイミングで同じ村上作品に出会っている。大学生の時に「風の歌を聴け」でハマったのも同じ。新作が発表されるのが楽しみなのも、がっかりすることがあっても「次を期待しよう」っていつも思えるのも同じ。もちろん生きてきた時代も同じだ。それで大森さんの次の言葉に深い共感を覚えた。

 僕は「ドラゴンクエストⅦ」を思い出しましたね(笑)。「ドラクエの新作は、やっぱり発売日に買って、ヨーイドンではじめないとね」って毎回楽しみにして、ずっとやってたんだけど、2000年に出た「Ⅶ」のときに初めて思ったんですよ、「あれ?・・・このゲーム何が面白いんだろう?」って

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2017年3月 5日 (日)

騎士団長殺し 第1部 第2部

著  者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2017年2月25日
評  価:☆☆(説明)

 著者7年ぶりの本格長編(「本格」にどのような意味があるのかは知らない。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は「本格」じゃないのだろうか?)

 主人公は「私」。36歳の男性で職業は肖像画家。妻に離婚を言い渡され、6年間の結婚生活にピリオドを打った。物語はその後の「私」の約9カ月のことを描く。

 傷心旅行なのか「私」は東北から北海道にかけて、車に乗っての1人旅に出る。旅行から戻って、友人の父(高名な日本画家)が使っていた、小田原の山荘に住むことになる。本人は社交的な性格ではないのだけれど、そこに色々な人が訪ねて来る。谷を挟んだ向かいに住む白髪の「免色」という名の男性とか、「騎士団長」とか...。

 私は村上春樹さんの作品のファンだ。そして村上作品には「作品に込められた隠れた意味(メタファー:暗喩)を読み解く」という楽しみ方、言い換えれば「深読み」をする人が多いことを知っている。それが結構楽しいことも。例えば私も「深読み「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という記事を書いた。

 本書もそういう「深読み」の楽しみ方ができる。「穴(井戸)」「壁」は村上作品では繰り返し登場するモチーフだし、著者自身もインタビューなどでよく言及している。「免色さん」と「色彩を持たない多崎つくる」と、「対岸の家を覗く」のは「グレート・ギャツビー」と、関係があるのかもしれない。等々。

 ただ今回は、私の方のコンディションが悪かったのか、「深読み」に気持ちが乗れなかった。「らしい」展開や人物や小物が続いて、あまりに「らし過ぎる」。「村上春樹AIが書いたんじゃないの?」なんて思ってしまった。もしくは、著者自身による「パロディ」とか?村上作品の論評に頻繁に使われる「メタファー」が擬人化して登場するし、そのメタファーに「もしおまえがメタファーなら、何かひとつ即興で暗喩を言ってみろ」とか主人公に言わせるし。

 それで「深読み」を除いてしまうと、面白みを感じられなかった。ちゃんと不思議なことが起きるので、退屈せずには読める。でも何かこう薄っぺらい感じがぬぐえなかった。☆2つは、私が楽しめなかったから付けた評価。作品の価値を表すものではないので悪しからず。

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2016年3月 3日 (木)

ラオスにいったい何があるというんですか?

著  者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2015年11月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 村上春樹さんが、旅行したり暮らしたりした世界の様々な場所について書いた、10編の紀行文集。

 ボストンと熊本の他の場所は、アイスランド、ギリシャのミコノス島よスペッツェス島、フィンランド、イタリアのトスカナ、ラオス、それからアメリカのニューヨーク、オレゴン州とメイン州のポートランド。欧米が多い中で東南アジアのラオスが目を引く。

 ラオスと聞いて、何が思い浮ぶか?浅学ゆえに私は何も思い浮かばなかった。メコン川が流れていたかな?とは思ったものの、「地獄の黙示録」のシーンが浮かんで「それはベトナムか」と思う始末(後で調べたら、メコン川はラオスもベトナムも流れていた)。まさに「いったい何があるというんですか?」という具合。

 ラオス以外の場所も含めて、村上さんの足は、いわゆる「観光地」には向かない。「取材」のという目的と、ご本人の好奇心によって、地元に分け入るようなピンポイントな訪問が多い。アイスランドの館員が一人しかいない博物館とか、フィンランドの陶芸家の工房とか..。

 劇的なことは何も起きない。最近よくあるテレビの紀行番組ほどにも起きない。まぁ退屈と言えば退屈。でも、出会う人のさりげない言葉に含蓄を感じたり、「メコン川は、まるでひとつの巨大な集合的無意識みたいに、土地をえぐり..」という比喩表現に「!」と思ったりしているだけで読み進められる。

 ちょっと長くなるけれど。2カ所抜粋する。

 アイスランドでは、みんなが多かれ少なかれ何らかの芸術活動に携わっているのだ。受信的な大量情報が中心になって動いている日本からやってくると、こういう発信情報に満ちている国はとても新鮮に見えるし..

 ルアンプラバンでは、僕らは自分が見たいものを自分でみつけ、それを自前の目で、時間をかけて眺めなくてはならない。そして手持ちの想像力をそのたびにこまめに働かせなくてはならない。

 「旅」(本書の中で村上さんは「旅」を「人生」にも例えている)は、能動的であることが大事なのだな、と思った。

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2015年10月10日 (土)

職業としての小説家

著  者:村上春樹
出版社:スイッチ・パブリッシング
出版日:2015年9月17日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 村上春樹さんは、日本では講演やスピーチをする機会がほとんどない、もちろんテレビ番組にも出られない。つまり「あまり人前に出ない作家」という位置付けかと思う。しかし、雑誌「考える人」のロングインタビューや「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」など、インタビューに応える形では、ご自分の仕事や考えについてかなり深くお話になっている。

 そして本書は、そうしたこと(つまりご自分の仕事や考え)について、「まとめて何かを語っておきたい」という気持ちから、仕事の合間に書き溜めた文章に推敲を重ねたものだそうだ。全部で12章あるうちの前半の6章は、翻訳者であり著者と親交もある柴田元幸さんが立ち上げた雑誌「Monkey」に掲載されたもの。

 小説を書く方法論を書いた「第五回 さて、何を書けばいいのか?」や、学校や教育システムについて書いた「第八回 学校について」は、著者の仕事や考えについて多くのことが語られている。「第四回 オリジナリティーについて」は、五輪のエンブレム問題を受けて、タイムリーに一つの視座を提供してくれる。

 タイムリーと言えば「今年もノーベル賞を逃した」今、「第三回 文学賞について」がまさにそうだ。ご自身のことについては「芥川賞」を例にしてお話しになっているけれど、レイモンド・チャンドラーの言葉を引いて、ノーベル賞にも触れている。マスコミは、勝手に候補にして勝手に落選させるのは、いい加減やめた方がいい。

 私が一番「そうだったのか!」と思ったのは、「第二回 小説家になった頃」。著者がご自分が経営するジャズ喫茶のキッチン・テーブルで、デビュー作の「風の歌を聴け」を書いたことは、これまでにも何度も語られていて公知のことだ。

 しかし、あの文体がどうやって生まれたのかは、本書のこの章をを読むまで、寡聞にして知らなかった(これが「初公開」というわけではないようだけれど)。そうだったのか!。(「やめた方がいい」と言ったばかりだけれど)ノーベル賞候補への道は、35年前のこの時から始まっていたんじゃないかと思う。

 この章を読んで、もう一つだけ。「奥さまあっての村上春樹さん」なのだなぁと思った。

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2015年8月23日 (日)

村上さんのところ

著  者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2015年7月24日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年の1月15日にオープンした、本書と同名の村上春樹さんと読者との交流サイトの記録。読者からの質問と、それに対する村上さんの答えが、なんと473個も収録されている。

 473という数字で驚いてはいけない。受け付け期間の17日間に3万7456個もの質問が寄せられ、村上さんはそれを全部読んで、3か月以上かけて3716個の質問に答えたそうだ。私にはとてもマネできない(しろとも言われないけれど)。降参。

 村上さんのファンならば、絶対におススメ。これまでにもインタビュー記事やスピーチなどで、気持ちや考えを垣間見ることはできた。他の作家と比べて、その機会は少なくない方だろう。

 でも、一般の人からこれだけの数の質問があると、インタビューでは聞かない(聞けない)質問が多々ある。それらの一つ一つに真摯に、時にはユーモアを持って答えてくれている。その答えを聞けたことがすごくうれしい。

 「そうなんだ!」「そうだよな!」と思った答えをいくつか。「「ハルキスト」はちゃらい感じがするので「村上主義者」と呼んでほしい」「「1Q84」には、あの前の話とあのあとの話がある。書いた方がいいのか、書かないままにしておいた方がいいのか...」

 「今年の後半に旅行記みたいなものを出す」「その年代の男ってだいたい馬鹿なんです。猿とそんなに変わりません」「昔父親から聞いた話によれば、うちの父方のルーツは、(中略)村上義清だということです」

 それからイラストのことも。村上さんの本には安西水丸さんのイラストが似合う。けれども水丸さんは昨年亡くなってしまった。そこで、本書のイラストを手掛けたのはフジモトマサルさん。フジモトさんのイラストとマンガが、本書にものすごくぴったりハマっている。素晴らしい。

 なお3716個の質問と回答をすべて収めた「村上さんのところ コンプリート版 」が、電子ブックで発売されている。

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2014年12月30日 (火)

セロニアス・モンクのいた風景

編訳者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2014年10月10日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、ジャズの愛好家としても知られる村上春樹さんが、一人のジャズピアニストについての文章を多方面から集めて編んだ本。そのピアニストの名はセロニアス・モンク。

 セロニアス・モンクは1940年代から70年代まで活躍した。後に「ビバップ」と呼ばれる即興演奏を主体にしたジャズの一形態を練り上げたとされる。ただ、彼の登場時には先進的すぎて周囲が理解できなかったようだ。ちょっと長いけれど、本書から引用する。

 「彼の音の選択はちょっとずれているみたいに聞こえた。しかし彼はそのワイルドなハーモニーの感覚を通して、ぶつ切り風のリズム感覚を通して、作曲家のユニークな構造感覚を通して、最終的にはそれぞれの音の選択を正しいものにしてしまった。それらの感覚はすべて、完全にどこまでも彼独自のものであり、非の打ち所がないのと同時に、まさに常軌を逸していいた。」

 本書中に何度もそう評されているけれど、つまり彼は「天才」だったのだ。天才は当初は理解されない。本書は、そんな中で早くから彼を理解し献身的な支援を与えた人々の、「セロニアス・モンク評」を集めている。

 正直に言って、読み始めはつらかった。ジャズはおろか音楽的な素養も知識もない私にとって、名も知らないジャズピアニストの評伝を延々と読むのは、忍耐力を試されているような感じだった。

 ただ、読み進めていくと、とても読みやすくなった。様々な人がバラバラに書いた文章なので、同じエピソードが少し角度を変えて何度も触れられる。しかしその効果として、立体的な像を結ぶように、マイルズ・デイビィスや、ジョン・コルトレーン(その名前ぐらいは私も知っている)の先を行って影響を与えた、セロニアス・モンクの姿が立ち上がってくる。

 最後に。表紙のイラストは、今年3月に急逝された安西水丸さんへのオマージュとなっている。

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2014年4月27日 (日)

女のいない男たち

著  者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2014年4月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 村上春樹さんの最新刊。「東京奇譚集」以来9年ぶりの短編集。「ドライブ・マイ・カー」「イエスタデイ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」の6編を収録。

 表題作「女のいない男たち」が書下ろし、その他は昨年の11月から今年の2月にかけて文芸誌に掲載された作品。しかしよくあるような、「短編が何本かたまったのでまとめて単行本にしました」という形態のものではない。「女のいない男たち」という言葉をモチーフとした一連の作品群として執筆されたものだ。

 正確には「女を失った」男たちの物語が綴られている。「ドライブ・マイ・カー」は妻を亡くした俳優、「独立器官」は恋人に裏切られた医師、「木野」は妻の不義が理由で離婚したバーの店主、「女のいない男たち」は昔付き合った女性を亡くした男の物語。「シェエラザード」は軟禁状態にある男が主人公で、連絡係の女性を失う予感がする。「イエスタデイ」が描く男は、失う以前にある女性を得ることができない。

 こんな感じで、モチーフが同じなので当然なのだけれど、設定が似通ったものになっている。では、似通った物語が並んでいるのかというとそうではない。それは、若者たちのユーモアを含んだ乾いた会話であったり、大人の男の少し強がった回顧であったり、キリキリとねじ込むような破滅であったり、フワフワと現実感の乏しい物語であったり、得体のしれないモノの影が見える奇譚であったりする。

 上に書いたようなバリエーションは、過去の村上作品のどれかを思い出させる。また、本書で描かれるような「欠落」は、村上作品の多くでテーマとなっていることもあり、それぞれ雰囲気がどれも違うけれど、どれも「村上春樹らしい」。だから、村上春樹ファンには馴染のある本となるだろうし、そうでない人は、長編ほどには読む負担がかからないので、気軽に読んでみたらどうだろう?

 「らしさ」をもう2つ指摘する。1つ目は、「女のいない男たち」がモチーフだから仕方ないかもしれないけれど、どれもこれもセックス絡みの物語だということ。2つ目は、短編だからそうなのかもしれないけれど、着地点のないエピソードが少なくないこと。これらの内の一つぐらいは、もしかしたら長編に取り込まれて再生されるのかもしれない、と期待している。

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2013年8月29日 (木)

「村上春樹」大好き!

編  者:別冊宝島編集部
出版社:宝島社
出版日:2012年4月19日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 タイトルから分かる通り、村上春樹さん(の作品)が好きな人々が、村上作品を思い思いに語る。裏の扉ページによると、本書は、2003年に刊行した「別冊宝島」を2004年に文庫化し、それを2012年に増補・改訂・改題したもの。

 本書は主に3つの部分からなる。1つ目が、長編・短編小説、エッセイ、翻訳小説、対談集といった、30作あまりを網羅した個々の村上作品の「解説」。2つ目が、料理、音楽、恋愛、酒といった14のキーワードを切り口にした、村上文学の「評論」。3つ目が、村上作品に登場する「場所」を訪ねて行って特定した「レポート」。

 1つ目の「解説」は役に立った。私は、村上春樹さんの作品が好きだ。(まぁそうじゃなきゃ、こんな本読まないと思う。)ここに取り上げられている小説とエッセイのほとんどを読んでいる(読んでいないのは3つ)。古いものは30年ぐらい前になるし、それほど前でなくても、内容を忘れてしまったものもある。この「解説」を読んで「あぁそうだった」と思い出したことや、まったく新しく知ったこともあった。

 3つ目の「レポート」が楽しめた。映画やテレビのアニメやドラマの舞台やロケ地を訪ねる「聖地巡礼」が、そこそこ流行っているそうだけれど、そのノリだ。「ノルウェイの森」で「僕」と直子が入ったそば屋、といった場所を探し当てている。基本的に誰でもが行ける場所なので、気が向いたら訪ねてみるのも面白い。

 本書が、2012年刊行なので、2010年にBOOK3が出た「1Q84」はカバーされているが、今年の春に出た「色彩を持たない多崎つくると~」は入っていない。また、2003年に書かれた文章には、今読むと少し違和感を覚えるものもある。

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2013年5月22日 (水)

ニューズウィーク 2013年5月21日号

 ちょっと番外編。ニューズウィーク日本版2013年5月21日号に、「日本人が知らない村上春樹」という特集が載った。80ページほどの誌面(薄い!)の中ほど、41ページから55ページまでの14ページ(途中に別の記事が1ページある)。今回は、その特集について。

 全部で7人の外国人が「村上春樹」を様々に語っている。アメリカ、韓国、フランス、ノルウェー、中国と、国が様々なら、ジャーナリスト、小説家、翻訳家、ブロガー・コラムニストと、職業も様々。強いて共通点を上げると、日本に長くお住まいであったり、日本文学の翻訳(もちろん村上作品も)をしていたりで、(一人を除いて)日本語で村上作品を読んでいること。

 ある程度は予想していたが、これらの国全部で村上作品がとても人気がある。韓国では「1Q84」は180万部、「ノルウェイの森」に至っては500万部以上売れたそうだ。韓国の人口が日本の4割にもならないことを考え合わせれば、驚きの数字だ。

 記事をよんで感じたことを雑駁に。(1)海外の村上作品は表紙がカラフルだ。日本の作品はシンプルなデザインだけれど、写真やイラストを大胆に使ったものが多い。(2)ノルウェイで「ノルウェイの森」がどう読まれたのか気になる。ノルウェイ版の「ノルウェイの森」の表紙は「日の丸」。これには苦心の後が感じられる。(3)ニューヨーク・タイムズには、「1Q84」を「あきれた作品」と酷評した書評が載ったらしい。これは健全だと思う。

 最後に。韓国や中国で日本作家の作品が、これほど受け入れられていて、その理由は「共感」だという。このことをどう解釈すればいいのか、少し戸惑った。近くて遠い国の人々は、実はやっぱり近いところにいるのかもしれない。

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「ニューズウィーク 2013年5月21日号」 固定URL | 21.村上春樹8.雑誌 | コメント (0) | トラックバック (0)

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