1Q84 BOOK1、BOOK2
著 者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2009年5月30日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
出版社によると、発売1週間後の昨日(6月4日)現在の発行部数が、BOOK1が51万、BOOK2は45万だそうだ。敢えて指摘するまでもなく空前の売れ行きだ。出版界のみならず経済全体の景気が悪くて社会が沈鬱な現在、明るいニュースの部類にはなるのだろう。良いことには違いない。
しかし、どういった内容の本か?とか、面白いのか?という情報が皆無に近い中での雪崩のような売れ方に疑問がないわけではない。「売れている本だから買って読んでみたい」というのは自然な感情だが、ある閾値を越えると量的な違いは質的な転換を伴う。1週間で百万部という量は尋常ではない。本書との関連を指摘されるオーウェルの「1984」が描き出した思考停止の状況に思えるが、シニカルな見方すぎるだろうか。
肝心の本の中身は、少し気になる点はあったが面白かった。2冊で1000ページにもなるし、ゆっくり読もうと思っていたのに、結構なスピードで読みきってしまった。村上春樹ファンには肌になじむ感じの物語だ。かつての作品を思い起こさせる人々や出来事、ふんだんに出てくる音楽、あぁこれはランナーとしての著者の思いだなとか、これは「アンダーグラウンド」を下敷きにしたものだな、などなど。勝手な思い込みができるのも嬉しい。
そして本書は、ファンではない人にとっても親切な造りだと思う。「親切」というのは「ファン以外には付いて行けない」というほど、いわゆる村上ワールド色が強く出ていない、という意味だ。得体の知れないモノや変わった人々は出てくるが、上々のサスペンスとしても読める。私は、あまりに普通の物語なので、著者の文体に似せた誰かの手になるものなのではないかと思ったほどだ。
不満がないわけではない。多くの物事が着地しないままになっている。もっと言えば、物語に盛り上がりがない。特に主人公2人のうち一方の視点だけを見れば、「何かが起こりそう」という気配だけで実際には何も起きていない。これで終わりではないのだろう。
ところでこの物語は、主人公の1人が紡いだ物語と現実が、複雑な入れ子状態になる。実はその入れ子状態はもっと大きく、本書そのものとそれを読む読者までが組み込まれているようだ。なぜなら、著者は主人公の口から、その作品が「物語としてとても面白くできているし、最後までぐいぐいと読者を牽引していく」のなら、疑問符を残したままであることぐらい何だと言うのだ、という意味のことを言わせている。これは著者が私のような読者を予想して、それに向けた言葉に違いないからだ。
この後は、ちょっと気になったことを書いています(ネタバレの要素があります)。興味のある方はどうぞ。
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