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2019年5月26日 (日)

ひと

著  者:小野寺史宜
出版社:祥伝社
出版日:2018年4月20日 初版第1刷 2019年3月25日 第12刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 誠実に、そして前を向いて生きていくって素晴らしい。そう思った本。

 今年の本屋大賞の第2位の作品。

 主人公は柏木聖輔。20歳。三年前に鳥取に住んでいたころ、父親が車の自損事故で亡くなった。飛び出してきた猫を避けようとしたらしい。保険金で父の多額の借金を返済。残ったお金で母親は、聖輔を東京の私立大学に進学させてくれた。そして先日、母親が病気に亡くなった。不幸が重なる。

 聖輔は大学を中退し職を探し始めるが、気持ちが切り換えられない。前を向けない。フラフラと街を歩いているうちに着いたのが江東区の砂町銀座商店街の揚げ物の総菜屋の前。所持金55円。唯一買えるのは50円のコロッケだけ。それなのに、横から来たおばあさんに1コしか残っていないコロッケを譲ってしまう。

 何が幸いするかは分からない。おばあさんにコロッケを譲ったことが、結果的に聖輔を前に進ませるきっかけになった。店主との短いやり取りの後、聖輔はこの総菜屋にアルバイトとして働くことになった。少しずつ人生の歯車がよい方に回り出す..

 世の中には「いい人」と「いい人じゃない人」がいる。本書はその対比を際立てた物語だった。

 例えば。総菜屋の店主の田野倉さんは、120円のメンチを50円にまけた上に、ハムカツをおまけしてくれた。「いろいろ事情がありまして」という聖輔を、深く尋ねずに雇ってくれた。いい人。遠縁の基志さんは「母親の葬儀を手伝った」ことを理由にお金をせびりに来る。いい人じゃない人。

 いい人じゃない人は「悪い人」とまでは言えない。基志さんだって葬儀を仕切ってくれた。もしいなかったら聖輔は途方に暮れていただろう。「悪い人」じゃなくて「ダメな人」。もう一人の「いい人はじゃない人」の例は、聖輔の同級生(女子)の青葉の元彼で有名私大の学生。「おれはちょっといい大学に行ってるけど、そんなことはなんでもない。青葉とも普通に付き合えるし、コロッケも好きだ」とかいっちゃう。やっぱり「ダメな人」

 物語は、最初は文字通りふらふらで自分を無くしていた聖輔が、「いい人」に助けられてしっかりと歩き出すまでを、温かみのある文章で綴る。他人との関りが、人の、特に若者の暮らしと成長には欠かせない。誠実に生きていれば「いいひと」が周囲に現れる。そんな気持ちを強くした。

 青葉が聖輔に言った言葉が印象的だった。「今の柏木くんが人にものをあげられるって、すごいね

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