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2019年1月

2019年1月30日 (水)

風と行く者 守り人外伝

著  者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2018年12月 初版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の代表作と言える 「守り人」シリーズの外伝。シリーズとしては2012年の「炎路を行く者」以来6年ぶり、小説作品としても「本屋大賞」を受賞した2014年の「鹿の王」以来4年ぶりの作品。まぁとにかく久しぶりに著者が綴る物語を読むことができてうれしい。

 主人公はシリーズ全体の主人公でもある、女用心棒のバルサ。本編の最終巻「天と地の守り人 第三部」の、タルシュ帝国との死闘から1年半。荒廃した国土で復興が始まっていた。バルサは訪れた市で、16歳の頃に養父のジグロと共に護衛をしたことがある「風の楽人」たちに出会い、再びその護衛を引き受けることになった。

 物語は、現在と16歳の頃の記憶を行き来しながら、時にはその2つが重なるように進む。今回も過去にも「風の楽人」たちは狙われていた。その頭の女性には、ある禁域の封印を解く力がある。その力を排除しようとしているらしい。背景には、氏族間の衝突と融和の歴史があり、数百年前の事件も絡んでいるようだ。

 著者の研究者としての専門分野である文化人類学的な視点を、心躍る深い物語に落とし込んでいて、まさに「上橋菜穂子らしい」作品になっている。そして「守り人」のファンであれば、多くの人が読みたいと思うであろう「ジグロとバルサ」の物語を、たっぷりと堪能できる。うれしい。

 「あとがき」によると「いさんで書きはじめて数百枚も書いたのに、とちゅうで書けなくなった物語」が、著者には数作あるそうだ。本書もそうしたもののひとつ。それが何かのきっかけを得て書けるようになることがある。その他の「書けなくなった物語」にもそんな時がくることが待ち遠しい。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された小説)
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2019年1月26日 (土)

下町ロケット ゴースト

著  者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2018年7月25日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「下町ロケット」シリーズ第3作。昨年TBS系列で放映されたテレビドラマの前半は、本書が原作となっているらしい。(私は観ていないけれど)

 今回、佃製作所が手掛けるのはエンジンの動力を伝えるトランスミッションだ。社長の佃航平が、農業用のトラクターの運転を見て、自分で実際に動かしてみて思いついた。乗り味や作業精度を決めるのは、エンジンではなくトランスミッションだと。高性能のエンジンとトランスミッション、その両方を作れるメーカーになれないか?と。

 トランスミッションのノウハウはなくても、そこに使われるバルブは得意分野だ。国産ロケットのエンジンに採用された技術力がある。そのように決まれば、佃製作所の面々の動きは早い。トランスミッション製造で、急速に業績を伸ばすベンチャー企業「ギアゴースト」の、バルブ調達のコンペに参加できることになった。

 例によって「大企業対中小企業」という図式や「特許」を巡る訴訟問題などが物語の軸になる。「ファブレス」のビジネスモデルといった、近年のトレンドも取り込んである。それから人間ドラマも少し。期待を裏切らない感じで、安心して読んでいられる。「安心」が良いこととは限らないけれど。

 あぁそうだ。「天才エンジニア」の島津裕の今後が気になる。

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2019年1月23日 (水)

花だより みをつくし料理帖 特別篇

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年9月8日 第1刷 10月28日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「天の梯」で10巻シリーズが完結した「みをつくし料理帖」の特別巻。澪や野江、種市や清右衛門先生たちが帰ってきた。うれしい。

 全部で4つの短編。シリーズ完結で、澪たちが江戸を離れて大坂に旅立ってから約4年後、江戸の種市の話「花だより」から始まる。行き倒れていたところを助けた占い師から、「来年の桜を見ることは叶いますまい」と言われた種市。澪に会おうと大坂行きを決断する。

 二つ目は「涼風あり」。小野寺数馬の妻、乙緒(いつを)が主人公。ほぼ初登場。蟻の行列を1時間眺めていても飽きない。とっても素敵な女性。数馬の母の里津も素敵だ。三つ目は「秋燕」。澪の幼馴染の野江が主人公。主要な登場人物でありながら、あまり語られることのなかった野江の半生と心根が垣間見える。

 四つ目は「月の船を漕ぐ」。満を持して澪が主人公。大阪を疫病が襲う。澪の夫の源斉は医師。手を尽くしても患者を誰ひとり救うことができない。澪も夫に対して誠心誠意尽くすが、力になれない..。つらい展開はこれまでにもあったけれど、ここまで暗い影を感じる物語は珍しい。澪はこの苦難を乗り越えられるのか。

 「ありがとう」と著者に伝えたい。野江の物語が読みたかった。野江のために文字通り命を懸けた、又次とのことが知りたかった。そんな期待に見事に応えてくれた。「涼風あり」の数馬の母の里津と、「月の船を漕ぐ」の源斉の母のかず枝、二人の「母」の心構えに心を打たれた。「料理」が主題のこのシリーズだけれど、食べ物が身体だけではなく心の養生にも大切であることが、本書では特に切々と分かった。

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2019年1月20日 (日)

安倍政治 100のファクトチェック

著  者:南彰 望月衣塑子
出版社:集英社
出版日:2018年12月19日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、朝日新聞の南彰記者と、東京新聞の望月衣塑子記者とによる「ファクトチェック」をまとめたもの。安倍首相をはじめとする安倍政権の閣僚、与野党の国会議員、官僚らによる、主に国会での発言について、正しいかどうかを検証した。

 テーマと項目数は次のとおり。第一章「森友・加計学園問題」35項目、第二章「アベノミクス」16項目、第三章「安全保障法制」21項目、第四章「憲法・人権・民主主義」19項目、第五章「官房長官会見」9項目。全部で100項目。それそれを〇△×で評価。〇が3つ、△が31、×が66。

 例えば一番最初の項目は、2017年2月27日の衆院予算員会での安倍首相の「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに(中略)一切かかわっていないということは明確にさせていただきたい」とう発言。この発言を引き出した民進党議員の質問と、首相の答弁を見開きの右ページに、解説と検証結果を左ページに紹介。

 この項目の評価は△。「えぇ~!×じゃないの?」と、私は思った。首相自身はまだしも妻の昭恵さんが関わっていたことは明らかなんじゃないの?と。解説にも「今井尚哉首相秘書官も「交渉の過程で名前があがっていたのは事実ですから、無関係とは言えません」と認めた」と書いてあるのに△。

 この一例が表しているように、本書は極めて抑制的に書かれている。他の情報によって間違いであることが証明できなければ、どんなに怪しくても△。×であっても間違いであることを述べるだけで、その発言や発言者への非難の言葉はない。数は少ないながらも、野党の国会議員の発言も検証の俎上にあげる。

 これは、議論に冷静さを欠かないための措置なのだと思う。南記者による「おわりに」にも、「ファクトチェックは政権批判の道具ではありません」と書いてある。「意見の善し悪しの評価ではなく、発言が事実に基づいているかどうか」とも。

 その冷静さが良い面もあるけれど、悪い面もある。ウソばっかりの政権運営なのに、非難の言葉の一つも投げられないので、不完全燃焼気味になる。抑制的に評価しても、100のうちの66が×。もっと怒らないとダメなんじゃないのかな?

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2019年1月16日 (水)

駄目な世代

著  者:酒井順子
出版社:角川書店
出版日:2018年12月15日 初版 発行
評  価:☆☆(説明)

 新聞広告などで見て気になったので読んでみた。気になったのは次の2つ。この「駄目な世代」が今の50代、つまり私たちの世代のことを指しているらしいこと。それから「永遠の後輩」というコピー。これには「確かにそうかもしれない」と思ったので。

 著者は15年前に「負け犬の遠吠え」というエッセイ集で話題になった酒井順子さん。「負け犬」は翌年の流行語大賞でトップテン入りしている。著者自身がそうである「30代、非婚、子なし」を女性の「負け犬」と定義した、言ってみれば「自虐ネタ」。今回はこの本も併せて読んでみた。

 本書では、「バブル景気」の時に社会人となった世代を「バブル世代」と呼ぶ。著者は昭和41年生まれで、平成元年に社会人になった。「バブル世代」のど真ん中で、本書は、その著者が「もしかして私達の世代って...、駄目なんじゃないの?」と言う本で、「自虐ネタ」という意味で、「負け犬」と同じ構図だ。

 自分たちの世代を「駄目な世代」と著者が思うのは「世のため人のためになっていない」から。それは「苦労せずに軽く生きてきたために、下の世代に何も残していない、アドバイス一つできない」ということらしい。就職は何となくしていれば内定がいくつかもらえたし、政治に関心を持たなくても世の中うまく行っていたし、と。

 「バブル世代」はこんな世代、という紹介を20章に分けて積み重ねる。「ひょうきん族」とか「オールナイトフジ」とか「夕やけニャンニャン」とかのテレビ番組や、その時代の出来事が紹介されて「懐かしいなぁ」とは思う。でも、私は多くのことに共感できなかった。

 東京の私立の女子校に通った著者と、地方の公立校で育った私は、同じテレビ番組を見ていたけれど、同じ経験をしていたわけではない。同じ「バブル景気」でも、広告代理店の社員だった著者と、メーカーの社員だった私は、違う景色を見ていたのだろう。著者が「我々」「私達」と言う度に、「私」に書き直して欲しいと思った。

 最後に。冒頭に書いた「私が気になったこと」について。私は昭和38年生まれで、著者の定義によると私は一つ前の「新人類世代」で本書の「駄目な世代」ではないらしい。良かったのか悪かったのか。「永遠の後輩」については「いつでも先輩がその場を盛り上げてくれるので、私達は「うぇーい!」と声をあげながらついていけばよかった」とのこと。もう少し掘り下げた考察があるのかと思った。

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「駄目な世代」 固定URL | 4.エッセイ | コメント (0) | トラックバック (0)

2019年1月12日 (土)

おやすみ、東京

著  者:吉田篤弘
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年6月18日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 4年ほど前に「つむじ風食堂の夜」を読んで、味わい深い物語と洒落た文章がよかった。それを覚えていたので、また読んでみようと思った。

 東京の夜を舞台にした13章からなる物語。主人公は章ごとに入れ替わる。1回だけの人もいるし、2回、3回の人もいる。例えば、映画会社の小道具倉庫の「調達屋」のミツキ、夕方から早朝まで専門のタクシー運転手の松井、電話相談室の深夜帯担当の可奈子、明け方までやっている食堂を共同経営するアヤノ..。

 深夜に働く人が多い。ミツキも監督の要請で、様々なものを探して深夜の街を彷徨する。それは本書が東京の夜、それも深夜から明け方の物語だからだ。全ての章は午前1時から始まる。タイトルは「おやすみ、東京」だけれど、街が眠った後の眠らない人々の物語。

 「つむじ風食堂の夜」と同じく、味わい深い物語だった。章ごとに別々のエピソードがつづられるのだけれど、前後の章は共通の登場人物を通してつながっている。大きな事件は起きないけれど、少しずつ進展する。ある章で主人公が出会った人が、別の章に登場する人の探し人だったり..。

 「洒落た文章」とはちょっと違うけれど、心に残る言い回しは前著と同じくあった。一つだけ紹介。

 この世に「おいしい」という言葉があってよかった。

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2019年1月 9日 (水)

「AI失業」前夜 これから5年、職場で起きること

著  者:鈴木貴博
出版社:PHP研究所
出版日:2018年7月2日 第1版第1刷 9月3日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 AIがもたらす経済・社会の問題について、過去から現在、そして5年後、最大でも10年後までの時間軸で論じた本。

 本書の特長で著者の慧眼は、この時間軸の設定にある。現在「AI」を論じる書籍や記事には、2045年に迎えると言われる「シンギュラリティ(技術的特異点)」の話が、必ずと言っていいほど出てくる。

 しかし、今、私たちが最も問題にしなければならないのは、26年後にAIが人間の知性を越えるのか越えないのか?仕事の半分ぐらいが消滅すると言うけれど本当か?なんて話ではない。これから5年とか10年という、もっと近い将来に起きることにどう対処するのか、の方が大事なはずだ。

 時間軸を「過去」に伸ばしていることも注目に値する。AIの影響は、現代社会の諸問題として既に表れている、と著者は指摘する。例えば、非正規雇用が増え続けている問題がそう。

 これまでのAI研究の成果である「エキスパートシステム」は、コンビニの発注業務をアルバイトができるようにした。小売店にとって「発注」は重要な業務で、従来は熟練の売り場社員しかできなかった。少なくとも「発注」に関しては、熟練の社員は要らなくなり、非正規雇用のアルバイトに置き換わるのは当然の成り行き、という次第。

 こんな感じで、今後についても非常にロジカルに予想する。専門性がある仕事が、AIの開発効率のよい市場の大きいものから順に置き換わる。それは運輸と金融から始まり、ホワイトカラーの仕事の多くに急速に広がる。この予想が当たるか当たらないか、それは分からないけれど、一部はすでに現実になっている。例えば、メガバンク3行は、今後10年間で数万人規模のリストラ計画を発表している。

 最後に。「AIが人間のような知能を獲得することは起きない」を論拠にして「AI失業は怖くない」という議論があるが、その落とし穴にはまらないように、と著者は警告する。その説明が胸に落ちた。「AI失業は怖くない」と思っている人は読むといいと思う。

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2019年1月 5日 (土)

0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書

著  者:落合陽一
出版社:小学館
出版日:2018年11月29日 電子書籍版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年後半から「人生100年時代」が気になっていて、もはや私の「主要なテーマ」と言ってもいいぐらいになっている。本書は友人のFacebookの投稿で知った。著者の落合陽一さんのことは気になっていたこともあって、手に取ってみた。

 人生は学校を卒業してからの方が長い。だから、社会にいながら学び続け、新しい知識を取り込めるか、新しい価値を提供し続けられるか、が鍵になる。本書には、そのためにどうすれば社会に出た後も学ぶ意欲を持ち続けられるのか?について、著者の提案が書いてある。

 全部で3章。第1章は「幼児教育から生涯教育まで「なぜ学ばなければならないのか」」の13問のQ&A。第2章は「落合陽一はこう作られた~」。幼少期から現在まで、どんな教育を受けどんな選択をしてきたか。第3章は「学び方の実践例」。「言語」「物理」「数学」「アート」の4つの要素について紹介。

 第1章には、いいことがいくつか書いてあった。例えば「なぜ勉強しなくてはいけないの?」と聞かれたら?の項。著者の答えは「新しいことを考えたり、新しいことを身につける方法を学ぶため」。「学校の勉強なんて社会に出たらまるで役に立たない」という考えは、教育の「コンテンツ」と「トレーニング」の2つ要素のうち、後者のもつ意味を正しく認識できていない、と。

 もう一つ。「根拠ある反対意見はサンプリングになる」の項。「正解か不正解かだけで判断する教育を受けていると、自分の意見に対する質問や別の意見は、すべて自分の意見を否定するものであり、その人への批判であると受け取ってしまいます」。これは今の世の中に広く見られることで、自戒を含めて本当に「なんとかずべき」ことだと思う。

 第3章には、共感することが書いてあった。「ロジカルシンキングとアカデミック・ライティング」の項。アカデミック・ライティングとは、簡単に言うと「相手が理解できる意味の明確な単語を使い、論理的に正しく意味が伝わる文章を書く」ということ。そのためには論理的な思考(ロジカルシンキング)と、それを言語化する能力が必要。上の「反対意見~」にも関連するけれど、ロジックが通じないと議論ができない。

 ここ数年は「新年最初の読書」の本は、意識して選んでいる。今年は、「人生100年時代」の自分の方向を見い出したい。

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