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2018年6月

2018年6月23日 (土)

キッチン風見鶏

著  者:森沢明夫
出版社:角川春樹事務所
出版日:2018年6月18日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 以前に読んだ「虹の岬の喫茶店」が良かったことを覚えていて、著者の新刊が出ていたのを書店で見つけて手に取ってみた。

 物語の舞台は「キッチン風見鶏」という名の洋食屋。港町の長い坂道を9合目まで登って折れた路地の行き止まりにある。ここの従業員やお客さんなどの数人の視点が、長くても数十ページで入れ替わって、物語が進んでいく。

 その数人の一人が坂田翔平。24歳。「キッチン風見鶏」のアルバイトでウェイター。漫画家志望。あるマンガ雑誌の新人賞に応募して落選したばかり。翔平は実は「見える人」なのだ。幽霊が。このお店には、雨の日に幽霊が出る。翔平に訴えるように見つめてくる幽霊が。

 主要な人物をあと二人。一人は鳥居絵里。32歳。「キッチン風見鶏」の三代目のオーナーシェフ。プロファイリングが得意。お客の様子を見て、好みとか健康状態を当てて、料理の味を調整している。もう一人は、宮久保寿々。「港の占いの館」で占い師として働いている。実は彼女も「見える人」。相談者の守護霊と話せるので「外さない」。

 幽霊やら守護霊やらが出て来るけれど、怖くて背筋が冷える物語ではない。翔平の漫画の話、絵里と絵里に心を寄せるお客の話、余命宣告された絵里の母親の話、寿々と翔平の出会いの話、そして雨の日に出る幽霊の話。たくさんの物語が同時進行で進み、そのすべての基調にあるのは「誰かを思いやる心」だ。冷えるどころか心が温まる物語。

 最後に。心に残った言葉。「心のままに生きなさい

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2018年6月17日 (日)

ムダゼロ会議術

著  者:横田伊佐男
出版社:日経BP社
出版日:2018年5月21日 第1版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本いただきました。感謝。

 会社勤めや役所勤めをしていれば「会議」を避けては通れない。その会議を理想的なものに変える方法を、本書は教えてくれる、という。「会議」が変われば「仕事」が変わる。「仕事」が変われば「会社」が変わる。「会社」が変われば「人生」が変わる。「はじめに」で上手に煽られて、期待して読んだ。

 本書は会議における悩みを4つに絞っている。会議の「時間が長い」「中身が薄い」「何も決まらない」「発言がない」。思い当たることが多い。私がすぐに思い当たった会議は、1番と2番と3番が複合的にあてはまる。いや発言だって、指名された人がするだけだから4番もだ。

 それで、どうしたらいいのか?まず、会議「前」「中」「後」に分ける。されに「前」に①会議の人選、②論点。「中」に③ゴール設定、④シナリオ、5拡散、⑥収束。「後」に⑦議事録。全部で7つの項目に分けて「良い例」と「悪い例」を分けて説明。分かりやすい。

 例を一つだけ。会議「前」の②論点。これは議題の設定の話。そもそも「議題」があって、その「答え」を論じるのが「会議」。「答え」を論じるのなら、「議題」は「問い」でなければならない。「良い例」と「悪い例」をあげると...

悪い例:現在の営業不振について
良い例:現在の営業不振を、誰がどうやって挽回するか?

 さらに言えば、「比較」や「数字」を取り入れると、より問題の幹をつかみやすい。

良い例:目標未達の「1億円」を「3か月以内」に、誰がどうやって挽回するのか?

 どうだろうか?私の経験では「悪い例」のような議題以外見たことがない。下手をすれば「議題があるようなないような」会議もある。人間「問い」の形で出されると「答え」を求めたくなる。これだけでも、会議を有意義なものに変える力があるかもしれない。おススメ。

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「ムダゼロ会議術」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月13日 (水)

閉された言論空間

著  者:江藤淳
出版社:文藝春秋
出版日:1994年1月10日 第1刷 2016年2月5日 第13冊 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 先日の「世論」の100年前には及ばないけれど、こちらも初出は昭和57年(1982年)の雑誌連載というから、35年ほど前の著作になる。そんな前のものを読んでみようと思ったのは、今年の2月に読んだ「報道しない自由」という本で、本書のことを知ったからだ。「報道しない~」は、ほとんど得るものがない本だったけれど、そこで言及があった本書には興味が湧いた。

 本書は、作家の江藤淳さんが、米国の国立公文書館と、メリーランド大学の図書館の「プランゲ文庫」の資料を渉猟してまとめた論説。内容は、太平洋戦争の戦後の日本、つまり占領下の日本に対して米国が行った「検閲」の詳細と、それによる影響。文庫本1冊にまとめられているが、大変な労力をかけた一大事績だと思う。

 それを短く要約してしまうのは申し訳ないのだけれど、敢えて切り詰めてみる。米国は表向きには、占領下の日本の情報収集と、占領政策の安定化を目的として「検閲」を行った。しかしその真の目的は、日本人の心にはぐくまれて来た伝統的な価値体系の徹底的な組み換え、換言すれば「米国に都合のいい情報の刷り込み」だった。これが著者の主張だ。

 「報道しない~」の著者のような右派(こう言うと真正の右派の方に申し訳ないのだけれど)の論者が、本書を好んで引用するのは、著者が発見した文書に「格好のネタ」になりそうなことが書いてあるからだ。著者が発見した文書に「削除または掲載発行禁止の対象」の30項目のリストがあって、その項目に「SCAP(GHQ)が憲法を起草したことに関する批判」「朝鮮人に対する批判」「中国に対する批判」...とある。

 また、著者が「その当時起こったことが現在もなお起こりつづけている」という感覚を持っていることも、右派の共感を得ている。つまり、マスコミが「憲法改正反対」や「中国・韓国よりの記事」などの、「反日」報道をするのは、未だに占領下の米国のコントロールから脱していないから、というわけ。

 「一大事績」という気持ちに変わりはないけれど、本書には調査報告としては欠陥がある。それは「事実」と「意見」が区別されていないこと。例えば、上に書いた「真の目的は、日本人の心に~」という文章は、30項目のリストの後にあって、「一見して明らかなように」で始まっていて、まるで「事実」のように書いているけれど、どんなに読み返してみても「明らか」ではない。まぁ著者の「意見」か、それ以前の「感想」ぐらいのものだ。

 最後に。30項目のリストが記された文書について。詳しい出典が付いていたので、原文を入手したいと思い、米国国立公文書館に問い合わせたりして、国立国会図書館の憲政資料室にマイクロフィルムがあるらしいことがわかった。行って探してみると、該当する文書はあったのだけれど疑問が残るものだった。引き続き調べたい。

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「閉された言論空間」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月10日 (日)

フーテンのマハ

著  者:原田マハ
出版社:集英社
出版日:2018年5月25日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「楽園のカンヴァス」「暗幕のゲルニカ」「サロメ」「たゆたえども沈まず」。史実を巧みに取り入れた「アートミステリー」作品で異彩を放つ著者の、紀行文&エッセイ。

 タイトルの「フーテンのマハ」は著者の自称。「人生で失くした途方に暮れるものは何か?」と訊かれたら迷わず「旅」と答えるほど、旅が好きで、移動が好きだそうだ。小学校二年生の時に「男はつらいよ」を観て、それ以来、寅さんが憧れ。それで「フーテンのマハ」。

 行先を決める以外は事前に準備をしない、旅先では忙しく観光やショッピングをしたりしない、そういう旅が著者はお好みらしい。キュレーターなので「(特定の)絵を見に行く」旅もあるけれど、本書を読む限りは「おいしいものを食べる」が、旅の目的になることが多いようだ。

 著者の行き先と食べたものを並べてみると、「青森で「奇跡のリンゴ」のスープ」「金沢で蟹炒飯」「能登半島の穴水でカキ(を食べまくり)」「高松でうどん」「大阪の北新地で餃子」「高知でも餃子(桂浜も坂本龍馬の生家も行かずに)」「中国の西安でも餃子(餃子の発祥の地らしい)」。著者は殊のほか餃子が好きらしい。

 すごく楽しめた。語り口がユーモアたっぷり、いやいや語られるエピソードがそもそもユーモアたっぷりだ。冒頭から間もないところで紹介される「やってしまったヘンな買い物目録」なんて、最高に面白い。ニューヨークで買った乾電池とか、ケニアで買った太鼓とか、岐阜で買った「須恵器」とか。

 その他に「たゆたえども沈まず」を描くためのゴッホの取材の話や、デビュー作「カフーを待ちわびて」につながる出会いの話などもあって、著者の作品の読者なら間違いなく興味をそそられる。そんなエッセイを多数収録。おススメ。

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「フーテンのマハ」 固定URL | 2K.原田マハ, 4.エッセイ | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月 7日 (木)

スマホが学力を破壊する

著  者:川島隆太
出版社:集英社
出版日:2018年3月21日 第1刷 4月10日 第2刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は現在、東北大学加齢医学研究所所長。2003年に「脳を鍛える大人の計算ドリル」「~音読ドリル」を出版し、セガトイズや任天堂からソフトが発売され大ヒット、「脳トレ」ブームの嚆矢となった。

 その著者が、スマートフォンの仕様に警鐘を鳴らす。帯に「スマホをやめるだけで偏差値が10上がります」とあり、逆に言えば「スマホをやると偏差値が10下がる」ことになる。さらに「脳とスマホの驚くべき関係!」ともある。「トンデモ本」との評もある「ゲーム脳の恐怖」を思い出す。

 先に言っておくと、本書が信用に足るものなのか、「ゲーム脳の恐怖」の類書であるのか、私には分からない。統計調査をかなり精密に行っていたり、著者自身が脳機能の専門家であり、脳の活動量の測定に専門の機材をしとうしていたりと、「ゲーム脳の恐怖」とは明らかに違う。だからと言って鵜呑みにはできない。

 本書を書くきっかけとなった調査の内容を簡単に。仙台市の中学生22390名のデータ。平日のスマホ使用時間(6区分)と平日の家庭学習時間(3区分)をクロスさせた18区分で、それぞれ国数理社の平均点を算出して比較。スマホを使う時間が長いほど成績が悪い。それだけではなく、家庭学習を2時間以上しても、スマホを3時間以上使うと、家庭学習が30分未満の人より成績が悪い。

 つまりスマホを長時間使うと、家庭学習の成果がどこかに消えてしまう。「スマホを長時間使うと成績が悪いのは、その分勉強時間が短いからだ」という仮説は覆された。ちなみに「その分睡眠時間が短いからだ」も正しくない、ということが(少なくとも著者の主張では)明らかになっている。

 それから「相関関係」があるからと言って「因果関係」があるとは言えない、という反論にも著者は答えている。3年間の追跡調査を行って、スマホを持っていた人が持たなくなると成績が上がる、持っていなかった人が持つようになると下がる、という傾向を発見した。

 著者の正直なところは「こういう傾向は分かったけれど、それが何でなのかは分からない」というところだ。ただ「何でなのかは分からなくても、やめた方がいいよ」というわけだ。確かにそんな気もする。

 反論したいこともたくさんある。学習の「時間」だけに注目して「質」は考えないでいいのか?とか、3年間の追跡調査は「相関関係が推移」しただけで「因果関係の証明」にならないんじゃないのか?とか。

 まぁ、スマホを長時間使ってちゃダメそうなのは、身体感覚として分かる。でも、学力という本当は様々な要因が複雑に関係するものを、スマホの利用というたった1つの事で説明できる「分かりやすさ」に危うさや怖さを感じる。

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2018年6月 3日 (日)

追及力 権力の暴走を食い止める

著  者:望月衣塑子 森ゆうこ
出版社:光文社
出版日:2018年1月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 東京新聞の望月衣塑子記者と、自由党所属の参議院議員の森ゆうこさんの対談。望月さんは菅官房長官の会見での食い下がるような質問で有名になった。森さんは農林水産委員会で加計学園問題を問い質す姿が度々テレビのニュースで放送された。

 そのお二人が、「自分たちの原点」「森友・加計問題」「権力の暴走」「問う技術」「国難の本質」について語り合う。お二人は、安倍政権に対する厳しい姿勢だけでなく、(望月さんは2人森さんは3人のお子さんの)母親である、ということも共通している。子育ての話題はほとんどないけれど、互いに共感を感じていることはよく分かる。

 望月さんについては、以前に著書「新聞記者」を読んでいたこともあって、「新しく知る」という意味では、森さんについてが多かった。

 例えば、「基本的に答弁する人たちはみんな責任を負って対応していて、そこに対する敬意を忘れないようにしないといけない」とか、「追及される方もそれなりの事情があるわけで..」とか。相手の立場も尊重する気持ちを持って事に当たっていること。(この点では望月さんも同じ想いがある)

 例えば、小泉内閣の官房副長官だったころの安倍晋三さんや、第一次安倍内閣の総務大臣だった菅義偉さんとは、いい関係を持っていたこと。森さんにしてみれば「あのときは本当にお二人とも国民の皆さんを救おうと一所懸命でしたよね」と、今の変容をチクリと刺したいところらしい。

 森さんのところに「将来、恩返ししますから」と、高校生が奨学金の充実の陳情にきた話は、悲しく寂しかった。その他には、今治市職員の官邸訪問を示す文書の発見の一部始終とか、翻弄される官僚たちのこととか、望月さんから官邸記者クラブやありようとかの「ウラ話」的なことが話されて興味深い。

 最後に。政治的な方向性を共有して、共感を感じている二人が語り合っているのだから、その様はヌクヌクとして居心地がよさそうだ。こういう本は「シンパ」は褒めるけれど「アンチ」からは攻撃される。もうそこは変わらない。この本は両者の溝を深めるだけかもしれない、そう思うとむなしい。せめて「モリカケは、もうそろそろいいんじゃないの?」という「中間」の人に、少しでも響くといいのだけれど。

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