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2018年2月24日 (土)

とんび

著  者:重松清
出版社:角川書店
出版日:2008年10月31日 初版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の作品は、読んでいていてホロッとくる。子どもの心のひだをそっとなぞる物語が多いのだけれど、本書では「父親」を、哀切にかつ幸せに描いている。

 主人公は市川安男。みんなからは「ヤス」と呼ばれている。広島県の備後市で生まれ育った。運送会社の支店でトラックの運転や荷さばきの仕事をしている。物語はヤスの28歳からの約30年、時代としては昭和37年から平成の初めにかけてを描く。

 ヤスは直情型ですぐに頭に血が上るし、ひねくれ者なので褒められても憎まれ口をたたく。それでも付き合いの長い人たちは、それは「照れている」からで、根は真っすぐなことを知っている。だから、そんな危なっかしいヤスに子どもができたことを、みんなで喜んだのだ。

 本書は、ヤスと息子のアキラの暮らしを描く。アキラが生まれたとき、アキラが3歳のとき、アキラが小学校に上がる前、アキラが小学校5年生のとき....。アキラが大きくなるとともに、ヤスとの隙間が開いていく。それを「成長」と呼ぶことを知ってはいるものの、ヤスはうまく消化できない。

 心温まる物語だった。(多少ネタバレになるけれど)アキラの母はアキラが小さいころに亡くなってしまう。だからヤスは「男手ひとつで」アキラを育てたことになるのだけれど、実はそうではない。

 ヤスが子どものころから「ねえちゃん」と慕う、居酒屋の女将。ヤスの幼馴染の坊さんとその家族.,。後にヤスが「アキラを育ててくれる手は、ぎょうさんあったんです」と言うように、アキラはたくさんの人の手で育てられた。冒頭に「幸せに描いている」と書いたことは、その多くがアキラを育てた手の多さに依っている。

 最後に。著者の「青い鳥」という作品で、先生が「ひとりぼっちが二人いれば、それはもう、ひとりぼっちじゃないんじゃないか」と言う場面がある。ヤスの周りには、その生い立ちに「ひとりぼっち」を抱えた人が何人もいる。彼らは一様に優しい。そして互いを気遣うことで支え合っている。そのさまを見て、やはり哀切で幸せな気持ちになる。

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