« 2017年10月 | トップページ | 2017年12月 »

2017年11月

2017年11月29日 (水)

川をくだる小人たち

著  者:メアリー・ノートン 訳:林容吉
出版社:岩波書店
出版日:1969年6月16日 第1刷 2004年4月5日 第13刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「床下の小人たち」「野に出た小人たち」に続く、「小人の冒険シリーズ」の3作目。ちなみに「床下の小人たち」は、スタジオジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」の原作。

 小人のアリエッティと、そのお父さんのポッド、お母さんのホミリーの3人家族は、前作「野に出た小人たち」で、野外での放浪生活と様々な危険を潜り抜けて、親戚のヘンドリアリおじさん一家が住む小屋にたどり着く。本書はその続き。

 再会を喜び合うポッドとホミリー、ヘンドリアリとその奥さんのルーピー。ただ、暮らしに余裕があるわけではないし、細かいことで関係がぎくしゃくする。再会の喜びとその後に続く同居生活は別のもの。この辺りは、妙にリアルな微妙な距離感の親戚関係が描かれる。

 こうしたことを前段にして、物語は再びポッドたち3人家族を冒険に送り出す。ナイフの箱ややかんを船にした、水の上を行く冒険。危険と隣り合わせ。小さな動物も、雨降りでさえ、ポッドたちにはなかなか厳しい。でも一番危険なのはやっぱり人間。

 3作目だけれど、巻を重ねるごとに躍動感が増している。ホミリーは気ままなところがあって、時々ちょっと困った人になるけれど、よくも悪くも「真っすぐ」な人なのだと分かった。そして一番カッコいいのは、困ったときにタイミングよく現れて助けてくれる人、ということも分かった。

にほんブログ村「借りぐらしのアリエッティ」ブログコミュニティへ
(「借りぐらしのアリエッティ」についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「川をくだる小人たち」 固定URL | 1.ファンタジー, 1Z.その他ファンタジー | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月25日 (土)

ソニー歴代トップのスピーチライターが教える人を動かすスピーチの法則

著  者:佐々木繁範
出版社:日経BP社
出版日:2017年10月17日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者はソニーの盛田昭夫会長と出井伸之社長のもとでスピーチライターを務めていた方。ソニー退社後は、コンサルタントとして、スピーチ講座や個別のコンサルティング通じて、延べ1万人以上のビジネスリーダーを指導したそうだ。

 本書は、その著者が「スピーチ上達のための12か条」を教えてくれるものだ。1か条につき1章、全部で12章で構成されている。例えば「メッセージを明確にする」「主張には理由を添える」「スピーチの構造をシンプルにする」「ストーリーを織り込む」等々。

 ノウハウを記したこうした本の常として、12か条として提示されたものに、あっと驚くような目新しいものはあまりない。私がそれなりに経験を積んできたからでもあるし、そもそも本当の意味での「秘訣」なんてそうそうないからだ。

 だからと言って、本書に価値がないかというと決してそうではない。ノウハウというのは、整理されてこそ「使える」ものになる。いくつかの項目がバラバラの状態では、自分のスピーチがいいのか悪いのかの検証も難しい。その点、こんな風に整理されていると、とても使いやすい。

 もう一つ。先に「目新しいものは「あまり」ない」と書いたけれど、実は私にとって目新しいものがあった。それは第6章の「自己開示する」という項目。「一般論ではなく経験談を」ということで、著者自身の経験談も載っているのだけれど、これで本当に具体的によく分かった。

 人の心をつかむか否かには、属人的な要素も重要なのだ。「何を話すか」と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に「誰が話しているか」に意味がある。「私という人を分かってもらうことで、物事が進みだした」そういう経験が私にもある。

 最後に。「スピーチ」なんて自分にはする機会がない、という人も多いだろう。でも、この12か条は「人に何かを伝える」時に役に立つ。プレゼンをするとき、あいさつ文を書くとき、人に何かを頼むとき。興味がわいた方は一読を。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「ソニー歴代トップのスピーチライターが教える人を動かすスピーチの法則」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月22日 (水)

アベノミクスによろしく

著  者:明石順平
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2017年10月11日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 アベノミクスの成果について、政府や国際機関が公表しているデータを基に、客観的に検証した本。タイトルはマンガの「ブラックジャックによろしく」をもじったものだけれど、アベノミクスを推進・擁護してきた人たちに「まともな経済政策をよろしくお願いします」という意味も込められている。

 本書の内容の前に。先の総選挙の際に自民党は「データで見る!アベノミクスの5年間の実績」を公表、その成果を喧伝してみせた。「名目GDP過去最高」「家計の可処分所得2年連続で増加」「正社員有効求人倍率初の1倍超え」等々。

 こうした情報が大量に投下されたことと、株高でもあることから「(安倍政権には問題はあっても)アベノミクスは成果を出している」という空気が醸されている。「野党よりマシ」という意見にもつながる。本書はそれを真っ向から否定してみせたものだ。感情論ではなく客観的なデータを使って。

 例えば「家計の可処分所得2年連続で増加」と、家計は潤っているように見える。しかし実質賃金指数は、2015年が「この22年で最低」だ。その影響で消費が落ち込み、実質民間最終支出は、2014年、2015年と「2年連続の下落」これは「戦後初めてのこと」。状況は、アベノミクスの前と比較しても極めて悪い。

 また、有効求人倍率のことも株高のことも、きっちり反証する。「名目GDP過去最高」に至っては「かさ上げ疑惑」まで指摘する。さらにアベノミクスの副作用について寒気がするような指摘が続く。正直に言って「(本書の指摘が)ウソであってくれたらいいのに」と思うほどだ。

 本書は今の日本に必要な本だと思う。たくさんの人に読んでもらいたい。特にアベノミクスを肯定的に評価している人に読んでもらって、可能なら反論を聞きたいと思う。

 ※著者は親切にも本書のダイジェストをウェブで公開している。興味を持った方は、まずはこちらをご覧になるといいと思う。 本書のダイジェストのページ

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「アベノミクスによろしく」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月18日 (土)

歴史の愉しみ方 忍者・合戦・幕末史に学ぶ

著  者:磯田道史
出版社:中央公論新社
出版日:2012年10月25日 初版 2015年9月30日 8版
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2012年初版と、少し前の本だけれども、知り合いが読んで「これはすごい」と言っていたので、購入して読んでみた。

 著者は歴史学者で、現在は国際日本文化研究センター准教授。本書を出されたころは静岡文化芸術大学におられた。NHK「英雄たちの選択」をはじめ、歴史番組でよくお顔を拝見する。

 本書には、その著者のエッセイが52編収められている。主には読売新聞に連載したものを中心にして、様々な本に掲載したものを加筆修正した。52編は「忍者の実像を探る」「歴史と出会う」「先人に驚く」「震災の歴史に学ぶ」「戦国の声を聞く」の5つの章に分けてまとめられている。

 本書を読んで「歴史学者」という存在についての認識が変わった。「歴史学者」全体がそうなのか、著者が特別なのか分からないけれど、一言でいうと「行動的」なのだ。特に大学の先生ともなれば、研究室に籠って歴史の本でもひもといているのかと思っていた。ところが著者の研究は、フィールドワークが主体なのだ。

 例えば「忍者がどこにどのように住んでいたのか」を知りたいと思った著者は「滋賀県の甲賀まで行って、甲賀忍者の子孫を訪ね歩き、根こそぎ古文書を見ていく」ことにした。そしてとうとう江戸の甲賀組屋敷の絵図を発見するのだ。さらには東京に取って返して、他の地図などと照らし合わせて、正確な位置まで割り出している。

 考えてみれば「行動的」なのは、当然なのかもしれない。物理学者は新しい物理法則を、数学者は新しい公式を、人類学者は人類の進化や歴史を、まだ知られていない事実を発見あるいは証明するのが、その存在価値だ。歴史学者にとっては、まだ知られていない歴史を発見すること。それは研究室の中でだけではできない。

 「存在価値」について深掘りする。歴史学自体の存在価値は何か?平たく言うと「何の役に立つのか?」。この問いに多くの人が納得するように答えるのは難しい。しかし本書の「震災の歴史に学ぶ」の章には、その答えが出ていると思う。それは私たちの未来に関わることだ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「歴史の愉しみ方 忍者・合戦・幕末史に学ぶ」 固定URL | 4.エッセイ | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月15日 (水)

ホワイトラビット

著  者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2017年9月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「AX(アックス)」のレビュー記事に「うれしいことに今年は伊坂幸太郎さんの新刊が3冊も出た」と書いたけれど、本書はその2冊目。

 主人公の名前は兎田孝則。2年前から「誘拐」をビジネスにしているグループで働いている。「ビジネス」だから業務分担があり、兎田は「仕入れ担当」。つまり、上から指示された人を連れ去ってくる役割。「倉庫」と呼ばれる指定場所まで人質を無事連れてくれば業務完了。

 重要な登場人物が他に2人いる。一人は宮城県警特殊捜査班の夏之目課長。この物語では、仙台市の住宅街で起きた、人質立てこもり事件の指揮を執る。もう一人は泥棒の黒澤。ひょんなことから事件に巻き込まれた。黒澤は、伊坂作品ではお馴染みの登場人物。ファンなら彼の登場はちょっとうれしいはずだ。

 物語は、夏之目課長が対応する人質立てこもり事件を中心に展開する。兎田が引き起こしたものだ。兎田の警察への要求は、「折田」という名前の人物を連れてこい、というもの。その人物が見つからないと、兎田のかわいい新妻の綿子ちゃんが、大変なことになる。

 「誘拐」をビジネスにするグループの一員とか、真っ当な人間とは言えないけれど、兎田にも憎めないところがある。その一方で、善良な市民のはずの被害者の家族が、ちょっとあやしい。あっさりと見つかった折田も、やけのクセのある人物。誰も信用できない。

 面白かった。これは伊坂さんが時々やるやつだ。いくつかの視点から出来事を描いていく。最後にそれらが「正しく」組み合わさると、思ってもみなかった真相が浮かび上がる。

 最後に。三人称で書かれた小説なので「語り」がある。その「語り」にちょっと「遊び」があって、伊坂さんとしては、たぶん新しい試みだと思うのだけれど、なかなか良かった。

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「ホワイトラビット」 固定URL | 3.ミステリー, 31.伊坂幸太郎 | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月11日 (土)

鋼の魂 僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2012年4月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「僕僕先生」シリーズの第6弾。元ニート青年の主人公の王弁と、彼が師と仰ぐ仙人の僕僕先生の旅を描く。一行は中国大陸を南へ縦断し、雲南へと差し掛かる。

 雲南は唐の版図の外にあり、その西には吐蕃(現在のチベットの王朝)がある。つまり国境地帯ということだ。漢人、雲南人、吐蕃人と多彩な民族が行き交う。政治的には複雑な関係の上に成り立っている。こういう情勢が今回の物語の底にある。

 今回は、唐の王朝から派遣された「捜宝人」という、宝探しの専門家が新たな登場人物として加わる。彼が皇帝から探すように命じられたものが「鋼で作られた神」。神話の時代に使われたものらしい。タイトルの「鋼の魂」との関係が推し量られる。

 前作の「先生の隠しごと」では、人の心の内側まで見通せる仙人の僕僕先生が、あろうことか胡散臭い王の話に取り込まれかかって危機に瀕した。今回は、そういう危なげなことはないのだけれど、大活躍するわけでもない。出番自体少ない。

 その代わり重要な役割を演じるのが、新たに加わった「捜宝人」。このシリーズは毎回ちょっとした人情噺が埋め込まれているのだけれど、今回はこの「捜宝人」を巡るもの。それも「ちょっとした」ではなくて、なかなかにドラマチックだった。

 前作で登場した医師が今回も途中で登場したので、「おやっ」と思ったのだけれど、なんと隠された素性があった。これが次回への伏線になっているらしい。続きも楽しみだ。

 にほんブログ村「ファンタジー」ブログコミュニティへ
 (ファンタジー小説についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「鋼の魂 僕僕先生」 固定URL | 1.ファンタジー, 1D.仁木英之(僕僕先生) | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月 8日 (水)

かがみの孤城

著  者:辻村深月
出版社:ポプラ社
出版日:2017年5月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 辻村美月さんの最新刊。

 「東京會舘とわたし」がすごく良かったこともあって、私の要注目の作家さん。本書の紹介の前に言ってしまうけれど、☆5つ。実は昨年は「東京會舘とわたし」、一昨年は「ハケンアニメ」で☆5つを付けている。☆5つは、1年間に多い年でも数個でゼロの年もある。「要注目」どころか「大好き」ということだ、と今さら気が付いた。

 主人公の名は「安西こころ」。中学校に入学して最初の4月だけ通って、その後、行けなくなってしまった。不登校。そして一人では外に出かけられない「ひきこもり」状態。おかあさんは「これからだよ、がんばろう!」と言ってくれるが、こころはそれに応えられるかわからない。

 そんなこころに奇跡が起きる。ある日、部屋にある姿見の鏡が光り出し、手を触れて少し力を入れると、鏡の向こう側に引きずり込まれた。そこは「お城」だった。ディズニーランドのシンデレラ城のようなお城。そしてピンクのドレスを着て、顔には狼のお面を付けた少女がいた。

 というわけで、物語はファンタジックな幕開けをする。お城には他にも6人の中学生が来ている。そして、自分の家と城を行き来して、城の中に隠されている鍵を探す。その鍵で「願いの部屋」に入った者の願いが叶う。期限は3月30日。そういうルールのゲームが始まる。ますますファンタジックだ。マンガかアニメにありそうだ。

 これでは「マンガかアニメみたいな設定」という紹介にしかならない。何がいいのか分からない。しかし、☆5つの理由を説明するには、物語の大事な部分を盛大にネタバレしないとできない。困った。本当に困った。

 そんなわけで、これ以上言えるのは、この一言だけ。

 これは「壮大な「救い」の物語」だ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「かがみの孤城」 固定URL | 2.小説, 2F.辻村深月 | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月 5日 (日)

都市と野生の思考

著  者:鷲田清一、山極寿一
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2017年8月12日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 京都市立芸術大学学長の鷲田清一さんと、京都大学総長の山極寿一さんの対談本。

 京都市の西と東に位置するそれぞれの大学のトップ、という現職の立場だけでなく、同年代(山極さんが2歳年下)で、京都大学の学生として過ごしたという青年時代、など、共通点の多いお二人。さらには、これまでにも多くの研究会で顔を合わせていたそうだ。

 しかし、鷲田さんは京都生まれで一旦京都を離れた人。山極さんは東京生まれで京都に来た人。もちろん専門も「哲学」と「ゴリラ研究」と、全く違う。この共通点と相違点の両方があることが、対談の話題に幅と面白さを与えている。山極さんから「ゴリラ」以外の深い話を伺うことができた。

 対談のテーマは「大学」「老いと成熟」「家と家族」「アートと言葉」「自由」「ファッション」「食」「教養」「AI時代の身体性」。このようにテーマは、とてもとても幅広いのだけれど、繰り返し言及される話題がいくつかある。一つは「多様性が安定性を担保する」ということだ。

 山極さんは、大学をジャングルに例える。ジャングルは陸上で生物の多様性が最も高い場所。その多様性が環境変化に対する安定性につながっている。大学も多彩な人材が集まって多様な研究を自由に行える場であるべき、という。多様性が安定性につながることは、もっと広く社会に対しても言える。

 また「自分の生活を自分で何とか築き上げる力」にも、繰り返し言及される。鷲田さんはこの力を「ブリコラージュ」という言葉で表現する。ありあわせのものを使って自分で何とかする、という意味の言葉。アーティストはそういうことをする、と鷲田さんは言う。ここでいう「アーティスト」の「アート」は「リベラル・アーツ」の「Arts」を含意して、「生きるための技術」を指すと考えていいだろう。

 実はこの「ブリコラージュ」という言葉は、文化人類学者のレヴィ=ストロースが、「野生の思考」という著書の中で使った言葉で、本書のタイトルは、この本のタイトルに「都市」をつけ足したもの。だから「ブリコラージュ」は本書のキーワードと言えるだろう。

 余談。帯にお二人の顔写真に重ねて「哲学者×ゴリラ」と書いてある。鷲田さんは「哲学者」だけれど、山極さんは「ゴリラ」ではない。でも違和感はない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「都市と野生の思考」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月 1日 (水)

アキハバラ@DEEP

著  者:石田衣良
出版社:文藝春秋
出版日:2004年11月25日 第1刷 2006年6月15日 第7刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 友人が私のために選んでくれた本。感謝。

 著者は著名であるし多作でもあるのだけれど、これまであまり読んでいなかった。単行本では「愛がいない部屋」を初めて読んで、そのあと「親指の恋人」で、それで終わり。それから9年も経っている。私には「あまり合わない」、そう思っていた。

 主人公は、ページ、ボックス、タイコとお互いを呼び合う、秋葉原のオタク、いや「ギーク」たち。ページはライターとして、ボックスはグラフィックデザイン、タイコはデスクトップミュージックで、指名の仕事が入るほどの腕がある。ただ3人とも、ちょっとした困りごとを抱えている。ページは吃音、ボックスは強度の潔癖症・女性恐怖症、タイコは体が硬直する発作を起こすことがある。

 この3人に、天才ハッカーのイムズ、元引きこもり(今は家に帰れない「出っ放し」!?)のダルマと、紅一点の武闘派美少女のアキラを加えた6人で、「アキハバラ@DEEP」という会社を作る。物語は、彼らが開発した人工知能による検索エンジン「クルーク」を巡る攻防を描く。

 これは面白かった。前途に立ちはだかる強大な大企業に、一歩も引かない姿が危うくて痛快だった。物語終盤の予言的な言葉が本書をよく表している。「不適応者の群れが、新しい時代のチャンピオンになる。最弱の者が、次の世で最強に生まれ変わる」

 他の作品を「あまり合わない」と感じて、著者を敬遠していたのだけれど、本書はそんなことはなかった。友人が「私に合う」と思って薦めてくれたわけで、改めて感謝する。

 実は、主人公たちが開発した「クルーク」は、自己学習によってパーソナライズされ、まさにこの「私に合う」ものを(GoogleやAmazonのレコメンド機能なんかとは違う次元で)選んでくれる、良きパートナーのような検索エンジン。まぁ私には友人がいるのでいいのだけれど、ちょっと欲しい気もする。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「アキハバラ@DEEP」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年10月 | トップページ | 2017年12月 »