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2017年7月

2017年7月26日 (水)

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

著  者:ルトガー・ブレグマン 訳:野中香方子
出版社:文藝春秋
出版日:2017年5月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年は「AI(人工知能)」についての理解を深めようと思っている。それで、今年の初めに「人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊」という本を読んだ。その本では、2045年には「全人口の1割分の仕事しかない」社会が予想される。仕事と収入がリンクする今の制度では、9割の人が路頭に迷う。

 この本を読んで、それまでは懐疑的だった「BI(ベーシックインカム)」について「これしかないんじゃないか」と思うようになった。ちなみに「BI」とは「全ての人に生活に必要なお金を支給する制度」だ。

 本書はその「AI」と「BI」を正面から論じ、「BI」こそが「AI」時代の処方箋だと論じる本だ。著者のルトガー・ブレグマンは、オランダの歴史家でジャーナリスト。広告収入に頼らないジャーナリストプラットフォーム「De Correspondent」の創立メンバー。帯には「ピケティにつぐ欧州の新しい知性の誕生」とある。

 第1章で「過去最大の繁栄の中、最大の不幸に悲しむのはなぜか?」と、疑問を提示したのち、第2章で「福祉はいらない、直接お金を与えればいい」と、早くも「BI」の実施に切り込む。その後の章では、「BI」の可能性、批判への反論を、実に丁寧に論じていく。

 例えば「BI」への批判の最たるものに「無条件にお金を配ったりしたら、誰も働かなくなる」というのがある。「誰も」が文字通りではなくても、働かない人が大多数になったら、商品を作ったりサービスを提供したりするする人が足りなくなっては、社会が成り立たない。

 これには胸に落ちる反論がされている。実は「BI」につながる実験的な取り組みは、過去何度が行われていて、そこで結論が出ている。「無条件にお金を与えられても、人は怠惰にならない」。古くは1795年のイギリスで、その後は、1974年のカナダで、2008年のウガンダで、2009年のロンドンで。インドでブラジルでメキシコで南アフリカで...。

 最後に。この反論を無意味にしてしまうのだけれど、実は「無条件にお金を配って、働かない人が大多数になっ」たとしても問題はないのだ。思い出して欲しい。「AI」の発展によって2045年には「全人口の1割分の仕事しかない」。だから、9割の人が働かなくなっても困らない。

 「AI」の社会への影響や「BI」に興味がある方に、本書を強くおススメする。 

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2017年7月23日 (日)

パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊 カリーナ・スミスの冒険

著  者:メレディス・ルースー 訳:上杉隼人、広瀬恭子
出版社:講談社
出版日:2017年7月3日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 映画「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」に登場した天文学者、カリーナ・スミスを主人公とした物語。映画のパンフレットが本書を紹介していた。映画でもなかなか魅力的な人物であったので読んでみた。

 物語は、男が養護施設の玄関に、かごのなかで眠る女の赤ちゃんを置くところから始まる。「母親は死んだ。この子の名はカリーナ・スミス」と書いたメモと、表紙にルビーが付いた本とともに。

 その後、カリーナの施設での暮らしぶりや、奉公したお屋敷での出来事が描かれる。父から送られた本を読むためにイタリア語を学び、その内容から天文学を志すようになる。そして本書の半分を過ぎたあたりから、映画で描かれたストーリーに合流する。

 映画を観たことが前提の作品。映画のストーリー部分も含めて、全部で200ページ足らずなので、ごくあっさりとした物語だ。映画の理解に必須、ということでもない。それでも、あのちょっとぶっ飛んだ魅力的な個性のことを知るのは楽しい。

 どのような経緯でカリブ海のあの島に現れたのか?天文学の知識をなぜ、どこで身につけたのか?父親のことをどう思っていたのか?そして、ヘンリーと魅かれあったのはなぜなのか?

 物語の登場人物には、時として読者の想像を超えた、詳細な人物設定がされていることがある。本書はその一端を表しているのだろう。映画を観て、カリーナに魅かれた人は読んでみたらどうかと思う。

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2017年7月20日 (木)

この国の息苦しさの正体

著  者:和田秀樹
出版社:朝日新聞出版
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 タイトルにある「息苦しさ」とは何を指しているのか?それを示す「はじめに」の冒頭を引用する。「取るに足らないスキャンダルでいつも誰かが血祭りにあげられ、生活保護受給者がバッシングされ、タレントの他愛ない軽口や気に入らないテレビCMがネットで炎上...」。些細な失敗や少しの逸脱が許されない、そういう「空気」を「息苦しい」と言っているのだ。

 これはあえて指摘されなくても、多くの人が感じていることだと思う。著者は精神科医で、この「空気」を心理学的に解き明かそうと試みている。それができれば対応の仕方もあるし、何より少し気が楽になるはず、と言う。私もそれを期待して本書を手に取った。

 まず、著者は「日本人がきわめて感情的になっていることが原因」という仮説を立てる。「感情的」というと「カッとなって怒鳴る」ことなどをイメージしやすいが、著者が指摘するのは、こうした「怒り」の感情ではなくて、「不安」の感情に支配されている、ということだ。

 嫌われたくない、損をしたくない、失敗したくない。「不安」の感情であっても「感情」に支配されると、理性的な判断を抑え込む。認知科学の知見によると、そうなると人間は「一つの解答に飛びついてしまう」「正義か悪か、敵か味方かをはっきりさせたい」という傾向があるそうだ。

 さらに、「自己肯定感」の不足が弱者への攻撃に向かわせる。脳の老化は思考の多様性、柔軟性を失わせるので、高齢化も「息苦しさ」の一因になっている。といった指摘が続く。心理学的には、これで現状をすっきりと説明できる。

 その説明通りなら完全な悪循環に陥る(そして多分そうなのだ)。なぜなら「不安」の感情が原因となって、些細な失敗や少しの逸脱が許されない「息苦しさ」を生み、その「息苦しさ」はさらなる「不安」を招くからだ。どうにかして逆回転させないと止めどなく落ちこんでいく...。

 その逆回転の処方も書いてある。悪循環が「社会全体」のことであるのに対して、その処方は「個人」レベルの考えや行動なので、いかにも心細い限りだけれど、私たちができることはそれしかない。

 最後に。本書の内容と直接のつながりは希薄だけれど、心に残った言葉を。「私が理想とするのは、人生において輝いている時期がなるべく遅い時期にあること」。これは著者が老年医学の臨床現場で学んだことだそうだ。50歳を優に超えた私も、まだ先で輝きを得たい。

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2017年7月16日 (日)

ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2016年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第11弾。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。前作の「ヒア・カムズ・ザ・サン」の続き。「東京バンドワゴン」を営む堀田家の1年を描く。

 いつもと同じ、大小のミステリーと人情話が散りばめられている。ミステリーの方は、東京バンドワゴンの蔵に眠る「呪いの目録」を探る男、創業者の堀田達吉と名門女子大の知られざる関係、幼稚園のお友達の家に出る幽霊、等々。

 人情話の方は、お隣の今は更生したかつての不良少年と昔の仲間の話、仕事一筋に生きた翻訳家と娘の関係、還暦を過ぎたロックミュージシャンの決断、亡くなった姉への思慕を抱き続ける青年実業家、等々。

 シリーズの中で時々ある大立ち回りも今回はあった。なんと、英国の秘密情報部が、王室の秘密が書かれた古書を奪還しに、東京バンドワゴンに現れたのだ。それに対して堀田家が打った一手がすごい。当主の勘一が切った啖呵がまたカッコいい。

 前作のレビューで「今回の一番の主役」と言った研人くんは高校生になった。ミュージシャンとしても人間としても男としても、今回も一回りも二回りも成長した。

 単行本の第1刷には、初回限定特典として、語り手のサチさんの初七日を描いたショートストーリー「夢もうつつもひとつ屋根の下」がついている。

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2017年7月12日 (水)

空棺の烏

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年6月10日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」「黄金の烏」に続く、八咫烏シリーズの第4弾。出版界やファンタジー、ミステリーファンが注目するシリーズとなっている。

 八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界。平安京にも似たその宮廷を中心に、貴族政治が行われている。今回は、宗家の近衛隊の武官の養成所である「勁草院」が舞台。主人公は、勁草院に新たに入学してきた若者たち、茂丸、明留、千早、雪哉の4人が、章ごとに交代で務める。

 「勁草院」は男子のみの全寮制。同じ年頃の男子が集団で修行する。座学あり実技あり、貴族の子と平民の子が共に学ぶ。各所の説明で「ホグワーツ魔法魔術学校」に例えられることが多いようだけれど、間違えてはいないけれど、少し違和感もある。こちらは武官専門のエリート養成所だし、女子はいないから、もっと汗臭くてきな臭い。

 趣向としては青春モノ、学園モノ。出自の違いや属するグループの違いから、お互いに反目する場面もある。主人公4人が抱える事情も、ここに来た目的も違う。そうしたものを乗り越えて成長する。私は、こういうのは嫌いじゃない。

 著者を「すごい」と思うのは、本書がそれ自体で面白い上に、この一見して趣向が違う話を(実は、全作がそれぞれ趣向が違うとも言えるけれど)、シリーズの中に取り入れて、しっかりとした位置付けが感じられることだ。前作までで、この世界を危うくする危機が描かれている。本書は、それから切り離されたような学園生活が描かれる。しかし、物語はきちんと本流へと戻っていく。あの4人は、今後、重要な役割を担うに違いない。

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「空棺の烏」 固定URL | 1.ファンタジー, 1E.阿部智里(八咫烏), 3.ミステリー | コメント (0) | トラックバック (1)

2017年7月 8日 (土)

みみずくは黄昏に飛びたつ

著  者:村上春樹 川上未映子
出版社:新潮社
出版日:2017年4月25日 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 川上未映子さんが村上春樹さんに聞いたインタビュー。合計で4日間、時間にして11時間、文字数にして25万字。空前のスケールと言っていい。村上さんは、過去にも長いインタビューを受けておられて、雑誌「考える人」の2010年夏号に、70ページほどの3日間のロングインタビューが載っている。私はその長いインタビューを「すごい」と思ったが、今回はそれを超える。

 「今回はそれを超える」のは、時間や文字数といった量的なことだけでなく、聞いた内容の「特別さ」においてもそうだ。今回の聞き手は川上未映子さん。「乳と卵」で芥川賞を受賞した作家さん。つまり村上さんの同業だ。帯には「作家にしか訊き出せない、作家の最深部に迫る記録」と書かれている。

 確かに創作のこととか、メタファーのこととか、今まで聞いたことのない話がたくさんある。また川上さんは、少女時代からの村上作品の熱心な愛読者だという。作家だからなのか、愛読者だからなのか、川上さんのパーソナリティによるものなのか、それは分からない。けれど「そんなことを、しかもそんな聞き方する?」という質問がバンバン飛び出している。

 たとえばこんなのがある。

 これまでと現在を振り返って「俺ってやっぱすごかったんだなー、とくべつだったんだなー」みたいな気持ち、ない?これはありますでしょ、少しくらい(笑)。

 それから川上さんが「本当ですか?」と聞き返す場面も多い。たとえばこんな感じ。

 川上:「騎士団長殺し」という言葉が絵のタイトルだとわかったのはいつですか。
 村上:それはずっとあとのことです。ずっとあと(笑)。穴を開いたあとで。
 川上:それはマジですか。
 村上:マジで。

 この紹介だと「年下の女の子が、大先輩の大作家に軽いノリで聞いてる」だけ、と受け取られかねないので、付け加える。川上さんの村上作品への傾倒ぐあいと知識はハンパじゃない。村上さん本人より数段詳しい。例えば、「笠原メイっていくつでしたっけ?」って村上さんに聞かれて「笠原メイは十六歳。学校に行かなくなった高校一年生です」って、即答したぐらいだ。

 自分の作品に対する傾倒と、作家としての実力を、村上さんが認めた上で、その率直さまでも気に入ったからこそ、上に書いたような受け答えが実現したのだ。「インタビューを終えて」で村上さん自身が「「もっとこの人と長く話してみたいな」という気持ちを強く持った」と書いている。

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2017年7月 5日 (水)

楽園のカンヴァス

著  者:原田マハ
出版社:新潮社
出版日:2012年1月20日 発行 2013年1月15日 21刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞第6位の「暗幕のゲルニカ」の著者による2012年の作品。こちらは山本周五郎賞受賞作で、本屋大賞は第3位だ。著者は、デビュー11年で小説作品が40作あまりという多作な作家だ。その中で「暗幕のゲルニカ」と本書には多くの共通点がある。

 主人公はティム・ブラウン。30歳。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のアシスタント・キュレーター。彼の元に上司のチーフ・キュレーター宛の手紙が誤って届く。上司の名前はトム・ブラウン。差出人がタイプミスをしたらしい。その手紙には「アンリ・ルソーの未発見の作品の調査をしてもらいたい」と書いてあった。

 ティムは上司のトムに成りすまして、調査を依頼してきた「伝説のコレクター」の元に駆けつける。そこにはティムと同じように調査を依頼されたもう一人の研究者、オリエ・ハヤカワが居た。二人でそれぞれ真贋の判断と講評を行って、より優れた講評をした方に、「取り扱い権利」を譲渡する。依頼の意図はそういう趣向のゲームへの参加だったのだ。

 これは面白かった。ちなみに私は4月に本屋大賞の予想をした時に、「暗幕のゲルニカ」を「大賞」と予想している。その「暗幕のゲルニカ」とも甲乙をつけ難い。

 「多くの共通点がある」と先に書いた。それは例えば両作品とも、絵画を巡るアートミステリーであること、異なる時代を行き来してストーリーが進むこと、異なる時代は一見すると断絶しているけれど、実はつながりがあること、などなど。そして何よりも読者を絵画の世界に引き込むこと。

 実は、ティムの元に件の手紙が届くのは第二章で、物語のプロローグともいえる第一章が、(当たり前だけれど)それより前にある。そこは、第二章の17年後の日本、早川織絵(オリエ・ハヤカワ)が倉敷の大原美術館で監視員として登場する。そして、ティム・ブラウンはMoMAのチーフ・キュレーターになっている。この第一章の存在が、物語を数段面白くしている。満足。

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2017年7月 2日 (日)

15歳の寺子屋 ゴリラは語る

著  者:山極寿一
出版社:講談社
出版日:2012年8月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は、京都大学第26代総長で、ゴリラ研究の第一人者。本書は「15歳の寺子屋」というシリーズで、科学者や哲学者やスポーツ選手など、その道を究めた方々が、15歳という「大人への第一歩を踏み出す」人たちへ贈る言葉が記されている。

 15歳の人たちに対して、ゴリラの研究がどんな役に?という疑問は、まぁ、当然の疑問だ。カバーにはこんなことが書いてある。「人間がどういう生き物なのかを知りたいときに、よき鏡となってくれるのが、ぼくたちと祖先を同じくしているゴリラなのです

 続けて「恋と友情の間で悩むのは、なぜ?家族の役割って、なに?戦争をするのは、なぜ?自然が必要なのは、なぜ?そんな難しい問いに、ゴリラはヒントをくれます」 「大人への第一歩を踏み出す」人たちに話すにふさわしいテーマだと思うがどうか?

 著者の話は、著者がゴリラ一家にホームステイしていた時のことから始まる。そう、ゴリラの研究は、ゴリラ流あいさつとゴリラ語を学んで、群れと一緒に暮らして(ホームステイして)その生活を観察する。ここでは、若い6歳のゴリラと一緒に、木の洞で雨宿りした経験が紹介されている。

 その後、話は一旦著者の子ども時代に戻り、人間不信に陥った高校時代を経て、大学そして霊長類、ゴリラの研究に至る道程が語られる。最初はニホンザルの、次にゴリラのフィールドワークを経験する。ある時、その視線の使い方の違いを知って、人間は「ゴリラの世界の方に属している」と気付く。おそらく、この経験が「ゴリラを通してヒトを見る」ことにつながったに違いない。

 例として「ゴリラを通して見たヒト」を一つだけ。ヒトは食物を分けあって顔を合わせて食べるけれど、ゴリラはそうしない。というか、食物は争いの種になるので、ほとんどの動物は別々に食事をとる。これはどういうことか?著者の見解は「あえて食事をともにすることで、絆を確認し共感を深める」。人間にとってそれだけ「共感」は、必要なものだったのだ。

 最初に書いたように本書は、15歳の人たちへ書かれたもの。しかし、私のように50歳を疾うに過ぎても、分からないことだらけなのだから、こういう本を糸口にして考えを巡らせるのも悪くないと思う。

 最後に。もしこの本が気になったら、著者の近刊「ゴリラは戦わない」も読んで欲しい。

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