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2017年5月 3日 (水)

ニッポンの裁判

著  者:瀬木比呂志
出版社:講談社
出版日:2015年1月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、各地の地裁、高裁、最高裁で務めた、裁判官として30年あまりのキャリアの持ち主。2012年に大学教授に転身、その前後から著作も多い。本書は2015年に「第2回城山三郎賞」を受賞している。

 本書は、現在の日本の裁判のあり方とその問題点について、具体的な例を挙げながら論じたもの。より端的にくだけた言い方をすれば「日本の裁判はこんなにダメダメな状態になっている」ということが書いてある。

 例えば、日本の刑事司法の有罪率が99.9%であること。その背景には、身柄を拘束して精神的圧迫を利用して自白を得る「人質司法」、「ストーリー」に沿った予断を持った取り調べ、などがある。そして本書のテーマである「裁判」では、裁判官がその「ストーリー」に乗ってしまう。裁判官が正しい(社会常識に照らしてという意味だけでなく、法的な意味でも)結論を出すとは限らない。

 さらに深刻なこともある。裁判官が出す判決は「統制されている」というのだ。最高裁判所事務総局という組織が、研究会や論文発表などを通して、全国の地裁、高裁の判決をコントロールする仕組みがある。重ねて深刻なことに、このコントロールには、その時の政権の意向が大きく働いている、ということだ。

 具体例としては、2001年に名誉棄損の損害賠償額が一気に高額化した例が挙げられている。それまで100万円以下がほとんどだったものが、500万~770万円になった。これは、メディア・週刊誌の政権批判に不満を募らせた自・公両党の突き上げの結果なのだそうだ。衆議院法務委員会でのこれを裏付ける最高裁判所事務総局の答弁も残っている。

 読み終わって裁判所に裏切られた気持ちがした。私たちはイメージとして「裁判所」=「法の番人」=「正義の機関」と思っていないだろうか?三権分立の一角として「最後の砦」と思っていないだろうか?本書を読めば、そんなのは全くの思い過ごしに過ぎないことが分かる。これは相当ヤバイ。

 しかし考えてみれば、裁判所だって最高裁判所長官を頂点としたヒエラルキーなのだ。そして最高裁判所の長官は内閣の指名、判事は内閣の任命。裁判官という専門職が要所を占めていはいるが、実体は官僚組織と変わらない。国有地払下げに関する書類を「すべて廃棄した」と言い、「調査するつもりはない」とうそぶいている、あの人たちと同じなのだ。

 本書を読んだ方が「絶望」してしまわないことを祈るばかりだ。

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