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2017年5月

2017年5月28日 (日)

スノーデン 日本への警告

著  者:エドワード・スノーデン、青木理、井桁大介、ベン・ワイズナーほか
出版社:集英社
出版日:2017年4月19日 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書はエドワード・スノーデン氏が滞在先のロシアから参加した、2016年6月に東京大学本郷キャンパスで行われた、シンポジウムの内容を書籍化したもの。言うまでもないけれど、スノーデン氏はアメリカ政府がインターネットを通じた大規模な監視体制を、秘密裏に構築していたことを、資料と共に暴露した人だ。

 シンポジウムのタイトルは「監視の"今"を考える」。第一部がスノーデン氏へのインタビューと質疑応答、第二部が「信教の自由・プライバシーと監視社会 ~テロ対策を改めて考える」と題したパネルディスカッション。本書のそれに沿って2つの章で構成されている。

 スノーデン氏の話はどれも心に響いた。2つ紹介する。一つ目は「秘密主義は政治の意思決定のプロセスや官僚の質を変えてしまう」という話。「政府が安全保障を理由として、政策の実施過程は説明せず、単に法律に従っていると説明するだけとなれば(中略)やがて政府による法律の濫用が始まるでしょう」と語っている。現在の国会の状況を正確に予想していたかのようだ。

 二つ目は「言論の自由とプライバシー」についての話。「言論の自由やプライバシーの権利は社会全体に利益をもたらすものです(中略)異色な存在でなくとも、言論の自由やプライバシーの権利がもたらす利益を十分に享受しているのです」と言う。「普通に暮らしていてやましい事がないなら、共謀罪なんて心配しなくもいい」という考えが誤りだと分かる。

 パネルディスカッションはさらに刺激的だ。スノーデン氏が暴露したのはアメリカ政府の秘密で、幾分「対岸の火事」的な感覚がある。ところが米国と同じように、日本国内でもムスリムに対する監視が行われていたことが分かっている。イスラム教徒である、モスクに出入りしている、という理由だけで、「コンビニで何を買ったか」まで、調査されていた。

 最後に。「共謀罪」に関係して話題になった「国連の特別報告者」について。特別報告者の任命に至る経緯が書いてあった。2013年に「デジタル時代のプライバシー」という国連総会決議があり、各国の決議の実施状況を調査するために任命されている。決議にはもちろん日本も賛同している。国連からしてみれば「個人の資格で..」などと、どの口で言うのか?ということだろう。

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2017年5月24日 (水)

好調を続ける企業の経営者はいま、何を考えているのか?

著  者:鈴木博毅
出版社:秀和システム
出版日:2017年4月25日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書は、著者が8つの超成長企業の経営者にしたインタビューをまとめたもの。「超成長企業」の意味するところは、過去5年間に売上高が2~5倍、経常利益についても同水準で増加している「一部上場企業」だ。一時期よりは持ち直してはいくけれど、まだまだ経営環境は厳しい。その中で伸び続けている企業には「何かがあるはず」、それを聞き出そうという意図だろう。

 その8社は具体的には「ユーグレナ」「ディップ」「ファンコミュニケーションズ」「朝日インテック」「LIFULL」「イーブックイニシアティブジャパン」「日本M&Aセンター」「オプティム」の8社。「一部上場」というと「有名企業」というイメージがあったけれど、浅学の私は半分以上知らなかった。

 8社のすべての社長さんのお話がどれもとても刺激的だ。特に最初の「ユーグレナ」の出雲社長の話が心に残っている。社長は、ミドリムシの食用屋外大量培養に成功し、同社はその多様な商品開発を行っている。事業化のパートナーを探して500社に断られた話、エネルギー問題への取組、「世界をよい方向に変える」という理念。

 本書が魅力的なのは、「超成長企業」の社長の話の魅力に負うところが多い。ただ、それだけでは「成功事例」を集めただけになってしまう。著者は「新業態を打ち出す」「業態を変更する」という、2種類の「業態変革」を切り口にして、各社の分析を試みている。それも示唆に富んでいいと思う。

 実は私は少しだけれど株式投資をやる。基本的には東証一部の企業しか買わない(それなのに「半分以上知らなかった」のだから、恥ずかしい限りだ)。これからは、ここに載っている会社にも注目しておこうと思う。(※本書では全社が「一部上場企業」のように読めるけれど、調べてみると1社は二部のようだ) 

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2017年5月21日 (日)

ヒア・カムズ・ザ・サン

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2014年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第10弾。

 舞台は、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。前作の「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」の続き。「東京バンドワゴン」を営む堀田家の1年を描く。

 今回も、大小のミステリーと人情話が散りばめられている。ミステリーの方は、白い影が見えるとかすすり泣きが聞こえるとかの幽霊騒ぎ、近くの区立図書館に古書が置かれるという謎の事件、宮内庁からの招かざる客、等々。

 人情話の方は、ご近所の青年の恋愛がらみの騒動や、以前に堀田家に救われたかつての不良少年(今は一児の父)の話、万引き少年の更生の機会、等々。それから、今回は少し悲しい別れもいくつかある。

 前作のレビューで「子どもたちの成長が楽しみになってきた」と書いたけれど、今回はその成長をはっきりと感じることができた。高校2年生の花陽ちゃんの啖呵がよかった。そして、登場回数は多くなくても、今回の一番の主役は、中学3年生の研人くんだ。何とも甘酸っぱいことになった。

 このシリーズのタイトルは、第1作を除いてビートルズの曲名(第3作「スタンド・バイ・ミー」はジョン・レノンによるカバー)。これまではその巻のイメージに「何となく合っている」感じだった。今回は、ストーリーにうまくはまっている。

 Here comes the sun, and I say It's alright. ♪

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2017年5月18日 (木)

失敗の本質 日本軍の組織論的研究

著  者:戸部良一、鎌田伸一、野中郁次郎ほか
出版社:中央公論新社
出版日:1991年8月10日 初版 2015年5月20日 53刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は1984年の発行の後30年あまりの間に、何度か注目をされてきた。例えば東日本大震災の後の政府の対応や、それ以前の危機管理の問題点を指摘する際に、多く言及されたという。何か大きな「失敗」や「危機」を感じた時に立ち返って紐解く、そんな本らしい。

 副題に「日本軍の組織論的研究」とある。本書は大東亜戦争時の日本軍の戦い方(特に失敗した戦い方)を、組織論の観点から研究したもの。その研究成果を、現代の日本の組織への教訓として活用することを目的としている。

 第三章まであるうちの第一章は、具体的な作戦を紹介、分析している。取り上げられた作戦は「ノモンハン事件」「ミッドウェー作戦」「ガダルカナル作戦」「インパール作戦」「レイテ海戦」「沖縄戦」の6つ。

 本書のキモはこの後で、第二章で6つの事例から共通する要素を取り出して、第三章でさらに理論的な考察を深めている。例えば「あいまいな戦略目的」「主観的で帰納的な戦略策定」「属人的な組織の統合」「プロセスや動機を重視した評価」などの項目が上がっている。

 正直に言って読むのに忍耐を強いられた。特に第一章がつらい。要約や妥協をすることなく作戦を詳細に記してあり、膨大な情報量に圧倒されて一読しただけでは頭に入らない。この章はケーススタディのケースにあたる部分なので、短く要約してしまうわけにはいかないのも分かるけれど、それにしても細かい。

 最後に。本書が、著者たちの英知の結晶で大変な労作だということはよくわかる。ただ、第二章と三章で抽出された項目は、「戦略・目的はあいまいではいけませんね」といった、ごくありふれたものばかりだと思う。

 それでもなお本書が「名著」と言われるに値するのは、「大東亜戦争時の日本軍の戦い方の研究」という大仕掛けによるところが大きい。いきなり「戦略・目的は明確に」と言われてもありがたくもなんともないからだ。これってつまり「プロセスや動機を重視した評価」ってこと?というのはひねくれ過ぎか。

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2017年5月14日 (日)

ひなこまち

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2015年12月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」  シリーズの第11作。このシリーズは、巻によって長編あり短編ありのバラエティに富んでいるのだけれど、本作は5編からなる連作短編集。それぞれの短編が完結しながら、全体で一つの出来事を追う形になっている。

 1編目のタイトルは「ろくでなしの船箪笥」。主人公の一太郎は病弱のため出歩いたり遊んだりすることが少なく、友達と呼べる仲間もあまりいない。その数少ない友達の一人の七之助が来て、助けてほしいという。祖父から形見として残された船箪笥が開かない、しかもその船箪笥が来てから、気味の悪いことが起こるようになった、と言う。

 2編目は「ばくのふだ」悪夢を食べるというあの「ばく」の話。3編目は「ひなこまち」江戸で一番美しい娘を選んで、その娘をモデルにひな人形を作る、という趣向。4編目は「さくらがり」一太郎たちとしては珍しく、花見をしに上野へ出かける。5編目は「河童の秘薬」1編目の「ろくでなしの船箪笥」で河童を助けた、その恩返しにもらった秘薬が騒動を起こす。

 「河童を助けた」と、何の補足もなく書いたけれど、このシリーズでは、河童はもちろん、付喪神や貧乏神やらの人ならぬ妖(あやかし)が、特に説明もなく驚きもなく登場する。知らないうちに他人の夢の中に入り込んでしまったり..。つまり「何でもあり」になってしまうのだけれど、今回もその「何でもあり」ぶりが楽しかった。

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2017年5月11日 (木)

図書館の魔女 第一巻

著  者:高田大介
出版社:講談社
出版日:2016年4月15日 第1刷 6月28日 第5刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 講談社の公募文学新人賞である「メフィスト賞」受賞作品。つまり著者のデビュー作。文庫の帯に「「読書メーター」読みたい本ランキング(文庫部門)日間 週間 月間、すべて1位」と書いてあって、興味をひかれたので読んでみた。

 主人公は、山里で生まれ育った少年のキリヒト。舞台は西大陸と東大陸が狭い海を挟んで対峙する架空の世界。数多くの部族国家が鎬を削りあっているが、この100年ほどは安寧の時を過ごしている。本書は権謀術数が渦巻く世界を描いた、全4巻からなる異世界ファンタジーの1巻目。

 キリヒトは師に連れられて、「一ノ谷」と呼ばれる街にある「高い塔」に来る。「一ノ谷」とは東大陸の西端、諸州諸民族が行き交う要所にあって、この世界に覇権を布く王都。「高い塔」には「図書館」がある。キリヒトはその図書館を統べる「図書館の魔女」に仕えるためにやって来たのだ。

 これ、面白そうだ。図書館には叡智が詰まっている。図書館を観念的に捉えてそういう言い方をすることがある。しかし、本書では「図書館の魔女」は、その叡智を自分のものとしたかのようで、内政外交の意思決定に的確な意見を述べる。先代の「図書館の魔法使い」は、同盟諸州に書簡を送って同盟市戦争を未然に防いだことで知られている。

 「図書館」にこういう意味や役割を持たせた卓越性や、そこに配置した人々の意外性がとても興味を掻き立てる。どういう意外性かは、敢えて書かないけれど、およそその場に似つかわしくない個性が、それぞれの役割を演じる。正直に言って、壮大な遠回りをしている気がするが、それがいいのだろう。

 「面白そうだ」と推察の形にしているのは、まだ分からないからだ。全4巻の1巻目だから、ほとんど何も起きていない。それでもページを繰る手を止めることなく読めた。次巻以降に期待大だ。

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2017年5月 7日 (日)

これは経費で落ちません! 経理部の森若さん

著  者:青木祐子
出版社:集英社
出版日:2016年5月25日 第1刷 2017年2月28日 第9刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 昨年5月の発売以来、じわじわと部数を伸ばして重版を重ねて、私が購入した本を見ると、1年足らずで9刷になっていた。どうやら先月には続編も出たらしい。

 主人公は森若沙名子。27歳。天天コーポレーションという石鹸や入浴剤、化粧品などのメーカーの経理部に勤めている。社員が持ってくる領収書の経理処理をする。中には用途不明にものもあり、物語の冒頭に受け取った領収書には「4800円、たこ焼き代」と書いてあった。

 タイトルからは「たこ焼き?これは経費で落ちませんよ!」という流れが想像できるし、物語自体も「経費使い込み社員vsそれを見破る経理部員」式かと思われる。ところが「たこ焼き」は経費で落ちるし、物語もそういうものではない。

 ではどういう物語かと言えば、天天コーポレーションの営業部や秘書課や開発室で起きる、ちょっとした事件簿だ。大きな犯罪というよりは、駆け引きや行き違い。森若さん自身の恋や身の上のことも少しある。

 面白く読めた。「使い込みを見破る経理部員」の話でなくてよかった。巨悪に立ち向かう「正義」はカッコいいけれど、社内規定に合わない領収書をはねつける「正義」はウケないし(もちろん必要な正義だとは思うけれど)。

 森若さんは経理担当らしく、几帳面だし情に流されることもない。しかし「正義」の人でもない。彼女が心に留めているのは「フェア」ではなくて「イーブン」であること。互いに得るものがあれば「公正」や「公平」にはこだわらない。そういう主人公の態度が、この物語を小気味よいものにしている。

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2017年5月 3日 (水)

ニッポンの裁判

著  者:瀬木比呂志
出版社:講談社
出版日:2015年1月20日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、各地の地裁、高裁、最高裁で務めた、裁判官として30年あまりのキャリアの持ち主。2012年に大学教授に転身、その前後から著作も多い。本書は2015年に「第2回城山三郎賞」を受賞している。

 本書は、現在の日本の裁判のあり方とその問題点について、具体的な例を挙げながら論じたもの。より端的にくだけた言い方をすれば「日本の裁判はこんなにダメダメな状態になっている」ということが書いてある。

 例えば、日本の刑事司法の有罪率が99.9%であること。その背景には、身柄を拘束して精神的圧迫を利用して自白を得る「人質司法」、「ストーリー」に沿った予断を持った取り調べ、などがある。そして本書のテーマである「裁判」では、裁判官がその「ストーリー」に乗ってしまう。裁判官が正しい(社会常識に照らしてという意味だけでなく、法的な意味でも)結論を出すとは限らない。

 さらに深刻なこともある。裁判官が出す判決は「統制されている」というのだ。最高裁判所事務総局という組織が、研究会や論文発表などを通して、全国の地裁、高裁の判決をコントロールする仕組みがある。重ねて深刻なことに、このコントロールには、その時の政権の意向が大きく働いている、ということだ。

 具体例としては、2001年に名誉棄損の損害賠償額が一気に高額化した例が挙げられている。それまで100万円以下がほとんどだったものが、500万~770万円になった。これは、メディア・週刊誌の政権批判に不満を募らせた自・公両党の突き上げの結果なのだそうだ。衆議院法務委員会でのこれを裏付ける最高裁判所事務総局の答弁も残っている。

 読み終わって裁判所に裏切られた気持ちがした。私たちはイメージとして「裁判所」=「法の番人」=「正義の機関」と思っていないだろうか?三権分立の一角として「最後の砦」と思っていないだろうか?本書を読めば、そんなのは全くの思い過ごしに過ぎないことが分かる。これは相当ヤバイ。

 しかし考えてみれば、裁判所だって最高裁判所長官を頂点としたヒエラルキーなのだ。そして最高裁判所の長官は内閣の指名、判事は内閣の任命。裁判官という専門職が要所を占めていはいるが、実体は官僚組織と変わらない。国有地払下げに関する書類を「すべて廃棄した」と言い、「調査するつもりはない」とうそぶいている、あの人たちと同じなのだ。

 本書を読んだ方が「絶望」してしまわないことを祈るばかりだ。

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