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2017年4月

2017年4月12日 (水)

アラー世代 イスラム過激派から若者たちを取り戻すために

著  者:アフマド・マンスール 訳者:高木教之ほか
出版社:晶文社
出版日:2016年11月30日 初版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 最近は全く報じられなくなったけれど、ヨーロッパの広い範囲から、イスラム国に参加するために、若者たちがシリアに入国する事態が今も続いている。本書は、この問題に対抗するためにドイツ国内で活動する男性が記したものだ。若者たちが過激な思想を持つに至る過程が分かる。シリアに向かう若者たちに、共感はできそうにないけれど、せめてその行動の理由を理解できないのか?と思って本書を読んでみた。

 著者の名前は、アフマド・マンスール。アフマドという名前が表す通り、彼はムスリムだ。本書の中で詳述されているが、テルアビブ近郊の村で生まれ育った彼は、長じてムスリム同胞団に加わってイスラム原理主義に染まる。その後ドイツに移住し、一度は持った過激な思想を脱した、という経歴を持っているのだ。

 心理学者でもある著者が、ドイツ国内で行っている活動は、ムスリムの若者たちを対象としたワークショップや講演など。彼らの話を聞いて、彼らに話しかける地道な活動だ。その若者たちは、必ずしも過激な思想を持っているわけではない。しかし、手を差し伸べなければ危険な状態にある。タイトルの「アラー世代」はその若者たちを指していて、イスラム過激派が形作るピラミッドの底辺に位置すると見ている。

 ピラミッドの頂点はアルカイダやイスラム国など、現実に凶行に及んでいるグループ。その下にはムスリム同胞団など、イスラム原理主義を支持するグループ。その下にムスリムの若者たち。上の層は彼らを「肥沃な土壌」と見て、様々な働きかけを実際に行っている。だからそれに対抗する必要がある。

 読み終わって「これは大変だ」と思った。著者自身の経験や、その活動の中で得た事例を見ると、「敬虔なイスラム教徒」から「過激派」までが、実にシームレスにつながっている。「イスラム国に参加する」という決断までに「決定的な何か」は必要ないのだ。※誤解があるといけないので言うけれど、過激な思想を持つ可能性があるのでイスラム教徒は全員危険だ、と言いたいのではない。

 最後に。気が付いたことを。日本ではドイツのようなムスリムに関する状況はないが、似たようなことはあるのではないか?ということ。イスラム原子主義では、コーランに疑問を持ったり解釈したりしてはいけない。「イスラム」が善で「イスラム以外」は悪とされる。複雑で多様な社会状況で判断が難しい中、悩まなくてもいいシンプルな答えが歓迎されている。

 さて、日本にいる私たちにも、何かに疑問を持つだけで排斥される、あるいは排斥するような空気はないか?「私たち」と「私たち以外」に分けて、「自分たちが正しい」「相手が間違っている」という考えに安住していないか?原理主義は音もなく近付いて、もうそこまで来ているのかもしれない。

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2017年4月10日 (月)

勝手に予想!2017本屋大賞

 明日4月11日(火)が本屋大賞の発表日です。今年は10作品がノミネートされていますが、そのうちの8作品を読みました。

 読んだのは「i(アイ)」「暗幕のゲルニカ」「桜風堂ものがたり」「コンビニ人間」「ツバキ文具店」「罪の声」「蜜蜂と遠雷」「夜行」です。読んでいないのは「コーヒーが冷めないうちに」「みかづき」です。

 全部は読んでいないし、これまでいいセンは行くけれど当たったことがないのですが、今年も、私の予想を発表します。

 大賞:「暗幕のゲルニカ」 2位:「蜜蜂と遠雷」 3位:「罪の声」 4位:「桜風堂ものがたり」

 「暗幕のゲルニカ」は、19世紀と21世紀、現実とフィクションが行き来する構成が見事で、とても上質な読み物になっていました。それに加えて「反戦」を象徴した「ゲルニカ」の時代背景や制作意図を取り込むことで得た、今の時代へのメッセージ性を評価して大賞にしました。

 「蜜蜂と遠雷」は、「暗幕のゲルニカ」とどちらにするかすごく迷いました。著者の描写力の高さが発揮されていて、作品としての完成度が抜きんでていると感じました。ただし既に直木賞を受賞しているので、それを追認するのでは書店員さんが選ぶ意味がないのではないかと思いました。実際のところ、直木賞受賞作が本屋大賞を受賞した例は、これまでにはありません。

 「罪の声」は、昭和の大事件をテーマとした作品で、「本当に「こうだったかもしれない」と思わせる読み応えがありました。この作品で山田風太郎賞を受賞していますが、まだデビュー5年ということで、書店員さんが発掘して世に出た、ということになるのではないでしょうか?

 「桜風堂ものがたり」は、売れる本を発掘する才能がある書店員が主人公。同僚たちも書棚づくりに熱意を持って取り組む。まさに「本屋大賞の心」を持った人たちの物語。完成度も高く、心を打つ場面もあり、きっと上位に入ってくるでしょう。

----2017.4.12 追記----

 大賞は「蜜蜂と遠雷」に決定しました。2位「みかづき」3位「罪の声」4位「ツバキ文具店」と続きます。3位の「罪の声」が的中しましたが、その他は外れました。直木賞とのダブル受賞は、少し前までは「あるかもしれない」と思っていたのですが、ずっとないので「ないものだ」と思ってしまいました。

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2017年4月 9日 (日)

図書館が教えてくれた発想法

著  者:高田高史
出版社:柏書房
出版日:2007年12月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 よく利用する図書館に「図書館の未来(これから)を考える」と銘打ったコーナーが作られていて、そこにあった1冊。そのコーナーと本書のタイトルに引っかかりを感じて手に取った。

 図書館のアルバイトである主人公に仕事を教える、という物語の体裁で、図書館の「レファレンス・サービス」を紹介する。その主人公の名は上田彩乃、歳は21歳。ぶらりと立ち寄った図書館で、1か月半の短期アルバイトについた。志望動機は「調べものがうまくなりたくて..」

 彩乃の指導係の伊予さんが、彼女の志望動機を聞いて、図書館の仕事をしながら1日に10分ぐらいずつ、図書館での調べもの(リファレンス・サービス)について話してくれることになった。物語は、日記のように日付がついた形で、一日一日の記録として綴られている。

 図書館で調べ物をするには...。まず空間を把握。一般書のコーナー、事典などの参考図書のコーナー、児童書、雑誌、新聞、郷土資料...。次には分類番号。例えば「ニワトリ」の本を探すなら「4自然科学」「8動物」「8鳥類」「4ニワトリやハトの仲間」で、「4884」が「ニワトリ」の本の分類番号。

 こうやって「自然科学」>「動物」>「鳥類」>「ニワトリ」と「絞る発想」と同時に、「広げる発想」も必要。絞った段階を戻って「488鳥類」や「480動物全般」のところにある本に、ニワトリのことが書いてあるかもしれない。さらには「6産業」の中の「645家畜・畜産動物」も見た方がいい。調べる内容がどんな本に載っているかをイメージすることが大切だ。

 ここに書いたことは、まだ図書館の調べものの方法の入口。なかなか奥が深くて、書いてあることをすべて習得すると、図書館の調べものの達人になれそうだ。

 ただ、本書を読んでいて途中でふと思う。「これは図書館員向けの指南書なのか?」「図書館員になる予定はないので読んでもムダ?」。これら疑問への答えは半分YESで半分NO。まずは、よくできた指南書になっている。それからよく噛まないと消化できないけれど、汎用的な発想法にも応用ができる。

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2017年4月 6日 (木)

ビブリア古書堂の事件手帖7

著  者:三上延
出版社:アスキー・メディアワークス
出版日:2017年2月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 人気ベストセラーシリーズの第7巻。本書の発売に合わせて、実写とアニメの映画化が発表されている。ストーリーもキャストも公開時期さえ未発表で「詳細は後日」という異例の告知だけれど。

 「古書にまつわるミステリー」をテーマにしてきたこのシリーズは、短編ごとに別の古書が登場する短編集の巻と、1冊の本を追いかける長編の巻がある。第7巻の本書は長編の体裁。そして本書でシリーズは完結する。

 完結編の本書で、主人公の大輔と栞子が追う本は、シェイクスピアの作品集。ファースト・フォリオと呼ばれる、17世紀に出版された最初の作品集で、その1冊がサザビーズで約6億円の値が付いた、というシロモノだ。その本は栞子の祖父の因縁の品物で、母の失踪とも関係している。

 前作の第6巻は、栞子を取り巻く新たな謎を加えて、シリーズの構造をドンドン重層的に複雑にした。本書は(完結編ということもあって)、その複雑さを解きほぐす役割を持っている。だから物語が一方向に流れて行く感じなのだけれど、それでも幾つかのヤマがあって、やっぱり最後まで気が抜けなかった。

 これで完結ということで、著者には「ありがとう」と「お疲れさま」と声をかけたい。それまで1年を空けずに巻を重ねて来ていたのに、今回は2年以上も空いての発行だった。「あとがき」によると「今度こそ書けないと思う瞬間が何度もありました」ということだ。

 さらにうれしいことに「番外編やスピオンオフという形で「ビブリア」はまだ続きます」という。いつ公開されるかもわからない映画も気になるけれど、スピンオフ作品が今から楽しみだ。

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2017年4月 2日 (日)

言葉にできるは武器になる。

著  者:梅田悟司
出版社:日本経済新聞出版社
出版日:2016年8月25日 1版1刷 10月17日 5刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日本経済新聞出版社さまから献本いただきました。感謝。半年ぐらい前にいただいたのに、紹介が今日になってしまいました。陳謝。

 著者は電通の現役のコピーライター。コーヒーのジョージアの「世界は誰かの仕事でできている。」が著者の手になる作品。「言葉」それも「伝えるための言葉」のプロフェッショナルということだ。

 プロフィールからは「プロが教える言葉のテクニック」的なものを想像する。そういうすぐに使えそうな技も紹介している。「比喩・擬人」とか「反復」とか「対句」とか..。ただし分量的には後半の4割ほどで、前半ではもう少し奥深いコピーライティングのコーチが受けられる。

 「言葉には2種類ある」と著者は言う。「外に向かう言葉」と「内なる言葉」。前者はコミュニケーションツールとしての言葉。「すぐに使えそうな技」はこれを気の利いたものにする。後者は思考するときに使っている言葉。私たちは、言葉で考え、納得のできる答えを言葉で探す。著者は後者の方が大事だと言う。

 「言葉が意見を伝える道具であるならば、まず、意見を育てる必要がある」「言葉にできないということは「言葉にできるほどには、考えられていない」ということ」。正論だ。日々言葉のテクニックで勝負しているコピーライターだからこそたどり着いた、実体としての重さを感じる正論だ。

 もちろん正論だけ言われても、また心構えだけ言われても、どうしようもない。でも安心してほしい。前半の6割はこの「内なる言葉」との向き合い方を、色々な視点から説いて、そのための思考プロセスの様々な方法を紹介している。

 最後に。著者は、自分が抱えている具体的な課題を想定して、本書を読むように促す。実は今、私はそのような課題を抱えている。半年も本棚に収まったままだった本書を、今回、何気なく手に取ったのは、たぶん本が呼んでくれたのだと思う。そういうことが時々ある。

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