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2016年12月11日 (日)

数の現象学

著  者:森毅
出版社:筑摩書房
出版日:2009年1月10日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 少し前に小学校の算数の指導方針について話題になったことがあり、調べ物をしている途上で見つけた本。本書の出版は2009年だけれど、元の単行本は1978年に刊行されたもので、さらにその多くは初出が1977年に書かれた雑誌の連載記事だ。

 著者の森毅さんは、1970~80年代に京都大学の名物教授として人気があった数学者。テレビや新聞、雑誌にもよく登場されていたので、私ぐらいの年齢(50代)より上の方は馴染みがあるかもしれない。実は私も先生の授業を受けたことがある。熱心な学生では全くなかったけれど。

 本書は、「数」や「数学」を、それを生み出した文化と関連付けて語る、という大きな視点と、ある演算が内包する意味を突き詰めて考える、といった細やかな視点の両方から論じたものだ。論文ではなく「数学エッセイ」という感じ。読みやすい本とは言えないけれど、堅苦しい本でもない。

 「大きな視点」では、「数量化の道を追体験しよう」という章で、ヨーロッパで質量や運動量などの概念が、数量として定義された歴史を速足でたどる。「17世紀は「現象」からいくつかの概念を析出して構成して見せるところに特徴がある。それは広義のデカルト主義とでもいったものだ」なんてことをおっしゃっている。数学とは哲学だったのだ。(ちなみに、その前には数学は「魔術」だったらしい。)

 「細かい視点」を挙げると、例えば「足し算・引き算に潜む情念」という章(まずこのタイトルが、数学が持つ理詰めのイメージに似合わないことを指摘しておく)。足し算には「お皿にピーナッツが3個ありました。そこに2個加えると何個になる?」という「添加」と、「右のお皿にはピーナッツが3個、左のお皿にはピーナッツが2個。合わせていくつ?」という「合併」の2つの場合があると言う。

 「どっちも一緒なんじゃないの?」というご感想はあるだろう。しかし「合併」を表す式は3+2でも2+3でも構わないけれど、「添加」の方は3+2であって2+3ではないのだ。「いやいや交換法則が..」というご意見はあるだろう。しかし著者は「添加」の場合は「少しも自明ではない」と言っている。

 こんなことを書いていると呆れた顔をされそうだ。それに、私の説明では袋小路に入り込みそうなので、これ以上の説明はしない。しかし、著者は多少変わってはいたが、著名な数学者で、数学教育にも関心を寄せた人だ。その人が考え抜いて記した意見・考察なのだから、一考に値すると思う。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったこと、この本を読むきっかけになった「算数の指導方針」に関係することを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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 本書を読むきっかけになった「算数の指導方針」というのは「筆算の答えとして出てきた、小数点以下末尾のゼロを消すかどうか」というものです。それに合わせて「掛け算の順序を逆に書いたらバツされた」というケースも、小学校の「奇習」と批判をされて話題になりました。

 お気づきかもしれませんが、上に書いた「足し算」の例は、そっくりそのまま掛け算の「奇習」に移し替えられます。実は本書の中でも、まさにその「掛け算の順番」について触れられています。

 ここで私が指摘したいことは2つあります。

 1つめ。1977年の文章に、掛け算の順序問題が書かれていたこと。「奇習」と批判する人の多くは「自分が子どもの頃にはそんなことなかった」とおっしゃるし、「こんなことを許していたら、子どもが人間不信になって弊害が大きい」とも言われます。

 本書の中で「数年前、新聞に..」と書かれていますから、70年代初めには既にそうした指導が行われていたわけです。50代より下で「自分が子どもの頃には..」とおっしゃる方は、単純に「忘れている」可能性が高いです。私も覚えていません。

 「弊害」についてはどうでしょう。もう40年以上もこの状態なのですから、「弊害」が相当深刻な状態を招いているはずです。そんなものあるのでしょうか?数学が苦手になった人がいる?そういうことがなかったとは言いません。ただ深刻な状態とは、私は思いません。

 2つめ。著者は「6人の子どもにミカンを4個ずつ..」の問題に式を4×6と書いたら「大学入試などだと大減点」と書いていること。「奇習」「議論の余地なし」と自信満々の人が多いですが、「6×4でも4×6でもどっちでもいい」というのは、「当たり前」でも「正しいこと」でもないのです。少なくとも「異論のある事柄」だというのが正当な評価ではないでしょうか。それとも「変わり者の大学教授の意見」として、「一考に値しない」と切り捨ててしまうのでしょうか。

 前に書いたことと繰り返しになりますが、森先生は数学教育にも関心を持たれました。本書の中でも度々小学校での学びや、段階的な理解の進め方に言及されています。その主張が、様々なことを考え合わせて突き詰めて考えた結果であることが、読めば分かります。

 私自身のことで言えば、どのような指導の仕方がいいのか分かりません。判断できる材料も知識もないので。でも、「順番はどっちでもいい」と自信満々の人に、こうは問いたいです。「あなたは、ここまで突き詰めて考えたのですか?」と。

 
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