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2016年9月

2016年9月29日 (木)

アンマーとぼくら

著  者:有川浩
出版社:講談社
出版日:2016年7月19日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 有川浩さんの最新刊。帯には著者自身の言葉として「これは、現時点での最高傑作です」と書いてある。ロックバンドの「かりゆし58」の曲「アンマー」に着想を得たもので、「アンマー」とは沖縄の言葉で「おかあさん」という意味。

 主人公の名前はリョウ。東京で暮らす32歳の男性。久しぶりに母が住む沖縄に帰ってきた。里帰りの目的は「おかあさんのお休みに3日間付き合う」こと。普段は忙しさにかまけて、年に1回日帰りするだけで、実家なのに泊りで帰って来るのは久しぶりだ。

 実は、リョウの実の母親はリョウが子どもの頃に亡くなっている。だからリョウには「二人の母親」がいる。沖縄にいる「おかあさん」と、亡くなった「お母さん」。この物語には主要登場人物がもうひとり。リョウの父で、こちらも何年か前に亡くなっている。

 物語は、リョウと「おかあさん」の3日間に、リョウと父親との思い出が交錯しながら進む。父親のとの思い出とは即ち、リョウと「おかあさん」を結ぶ紐帯でもある。父親の再婚が二人を結びつけたのだし、リョウが東京の大学に進学したために、二人の共通の記憶は、ほとんどが父親がいた時のものだからだ。

 読んでいる途中に「あぁ今回はこの路線か」と思った。著者としては簡単に「近い」などと言って欲しくないかもしれないけれど「旅猫レポート」に近い。「旅猫~」では「思い出の人」を巡ったけれど、本書では、観光地を巡るという形で「思い出」を巡る。巡り終わったその先は...。これ以上は言えない。

 「観光地を巡る」という意味では「県庁おもてなし課」にも近い。リョウたちが立ち寄る、沖縄のあちらやこちらが、とても生き生きと描かれている。読めば、特に残波岬には行きたいと思うだろう。本書中の「雨の日は、よそ行きじゃない土地の顔が見られますよ」は名言だ。沖縄観光の幅がぐっと拡がったに違いない。

 有川さんが大好きな「カッコいいおっさん」は出てこない。「子供みたいなおっさん」なら出てくる。

 コンプリート継続中!(アンソロジー以外の書籍化された作品)
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2016年9月25日 (日)

対岸の彼女

著  者:角田光代
出版社:文藝春秋
出版日:2007年10月10日 第1刷 2016年7月5日 第20刷
評  価:☆☆☆(説明)

 2004年下半期の直木賞受賞作。著者の代表作のひとつ。

 主人公は2人の女性で、それぞれの物語が交互に進む。一人は横浜から群馬県の田舎町に引っ越して来た高校生の葵。もう一人は結婚して仕事を辞めて専業主婦をしている小夜子。読み始めてすぐに分かるのだけれど、二つの物語は時代が違っていて、葵はずっと後になって小夜子と出会うことになる。

 葵の物語は、同級生のナナコとの交流を描く。クラスの中で「なんとなくできたグループ」から弾き出されないように懸命になっている葵と、どこのグループにも属さずにいるナナコ。共通点はあまりなかったけれど、なぜか放課後には良く二人で過ごした。

 小夜子の物語は、葵が立ち上げた会社での小夜子の働きぶりと気持ちを描く。小夜子はふとしたことがきっかけで、働こうと決意した。そして得たのは、葵の会社の新規事業である「ハウスクリーニング」の仕事だった。

 そんなわけで、本書には4人の女性が登場する。高校生の葵とナナコ、30歳半ばの小夜子と葵。もちろん葵は一人の人物なので、正確には「3人の女性」なのだけれど「高校生の葵」と「大人の葵」が、十数年の時間が間にあるとはいえ、読んでいてもどうにも繋がらない。別の人間のように思えるのだ。

 面白かった。並行して描かれる全く違う2つの物語が楽しめた。一方は、鬱屈を抱えながらも、女子高校生らしい「友情」を育む物語。それが一転して...。もう一方は、仕事に努力や工夫をしても周囲に認められない、なかなか気の晴れないつらい物語。天井の低い廊下をずっと歩いているような気持ち。

 それぞれの物語が「読ませる」完成度の高いものだった。でも、本書の醍醐味は、2つの物語をより合わせることで浮かび上がった、ほとんど描かれていない「葵の十数年」にあるように思う。「八日目の蝉」は「事件の後」を描いた秀作だった。本書の「大人の葵」も「事件の後」を描いている。同じ着眼点だと思う。

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2016年9月21日 (水)

政府はもう嘘をつけない

著  者:堤未果
出版社:KADOKAWA
出版日:2016年7月10日 初版 8月5日 再版 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の近刊の「政府は必ず嘘をつく 増補版」の続編。タイトルとしては前作の問題提起としての「嘘をつく政府」に対して、「嘘をつかせない(見抜く)」方法を考察するという主旨と読める。実際、本書の結びはそうなのだけれど、そこに至るまでの大部分は、米国発の「強欲資本主義」によって、およそあらゆるものに値札を付けてお金で買う姿が描かれる。

 第1章は、現在佳境を迎えている米国の大統領選挙がテーマ。ここで買われるのは米国の「政策」だ。オバマ大統領が2012年の選挙で集めた政治献金はなんと約1000億円。大口スポンサーは「全米貿易協議会」、シェブロンやボーイング、モンサント、ウォルマートと言ったグローバル企業からなる財界団体だ。

 「今や「政治」は非常に優良な「投資商品」」と、米国の投資アナリストは言う。ざっくりした計算で、政治献金やロビー活動費、選挙費用や天下り人件費などで、年間約2兆円だそうだ。莫大な金額にも感じるが、全米の企業利益総額の1%程度だそうで、それで自分たちに都合のいい政策を買えるのなら、確かにローリスク・ハイリターンだ。

 そして一旦値札がついたものは、グローバル市場で誰でも買えるようになる。産油国はオイルマネーで米国の政策を買っているし、実は日本だってバイヤーの一人らしい。「日本政府がTPP推進のためのロビー活動をしている」と、大手通信社ブルームバーグが報道した。このことは何を意味しているのだろう?少なくとも日本政府からの説明を聞いたことがない。

 第2章では「日本が瀕する危険な状況」が描かれる。ここで買われるのは日本の「教育」や「医療」など。「特区」で風穴があくと、そこから商品化が拡がってしまう。第3章は「海外ニュース」がテーマ。ここで買われるのは「ニュース」自体だ。「戦争広告代理店」でも明らかにされているが、国際政治ニュースは、誰かが何かの意図を持って流している。

 そして一旦値札がつけられると、米国の政策と同じで誰でも買えるようなる。そうなると資金力のあるものに都合よくコントロールされてしまう。「それでいいんですか?」と著者は問いかける。それでいいはずがない。

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2016年9月18日 (日)

陸王

著  者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2016年7月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「下町ロケット」「下町ロケット2」「ルーズヴェルト・ゲーム」など、中小中堅企業の製造業の底力を描いた「経済小説」に定評のある(もちろん「半沢直樹」でも有名な)著者の最新刊。

 今回の舞台も製造業。ただし今回は、ロケットやエレクトロニクスといった「硬い」素材ではなくて、柔らかい素材を使う企業。付け加えれば「柔らかくて強い」素材を使う。今回の舞台は「足袋」の製造メーカーの「こはぜ屋」。

 「こはぜ屋」は1913年創業、100年を超える老舗だ。洋装が主流になって久しいが、綿々と足袋を作り続けてきた。幸いなことにここまではやって来られたが、売上の減少が止まらない以上、いずれは限界が訪れるのは明らかだ。

 そんな「こはぜ屋」の社長の宮沢紘一が、新規事業として考えたのが「ランニングシューズ」業界への進出だ。健康のために走るアマチュアランナーからトップアスリートまで、競技人口は多い。足袋とシューズだから、全く関係がないわけではない。現に「こはぜ屋」にはかつて「マラソン足袋」という商品があった。

 物語は「こはぜ屋」がランニングシューズ業界に挑む一進一退が描かれる。「全く関係がないわけではない」ぐらいの関係で、何とかなるほど、ビジネスは甘くない。陸上競技はすでに巨大資本が研究開発にしのぎを削る状態だからなおさらだ。

 それでも「一退」してもそこから「一進」する。著者のこれまでの作品と同じく、事業にかける「熱量」と「技術」が重要な要素となって、「こはぜ屋」は前に進む。もうひとう忘れてはならないのは「誠実さ」か。

 著者のこのジャンルの作品の面白さには安定感がある。「マンネリ」ではなく「安定」だ。

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2016年9月15日 (木)

壇蜜日記

著  者:壇蜜
出版社:幻冬舎
出版日:2014年10月10日 第1刷 2016年7月15日 第7刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は久米宏さんと一緒に「久米書店」という、本を紹介する番組に出演されていて、何回か見たことがある。その時「あぁこの人はとても頭のいい人なんだなぁ」と思った覚えがある。

 例えば、ゲストの言葉を聞いて、それを著者が別の言葉で言い換えて確かめることが多いのだけれど、言い換えた言葉の方がうまく言えてたりするのだ。

 というわけで、著者に少し興味があったので、書店で本書を見かけた時に購入して読んでみた。

 2013年10月7日から2014年8月16日までの約10か月間、毎日の日付と共に、多い日で10行(300字ぐらい)、少ない日は1行だけの文章が並んでいる。日記だから、その日あったことや思ったことが記されている。

 内容は、コンビニで猫のコミックを買い、ドラッグストアで洗濯洗剤の詰め替え用を買う、という暮らしの一コマや、仕事で出かけた先であったことなど。「久米書店」のことも書かれていた。それから家族のことも少し。

 一見するととりとめのないつれづれ書きだ。ただ、全体としては意外と(いや予想通りに)内省的な思考を感じる。時折登場する短い日記には、底のしれない空虚さえ見える。

 ある日の日記。「そんなに価値のあるタレントじゃないのは分かっています。だけどもう少しだけ褒めたり笑ったり優しくしてもらえないでしょうか...って、となりの人に言えたら。

 著者は、生きにくい世界を生きているらしい。

(2016.9.25追記)
「久米書店」は9月25日で終了し、10月7日から曜日と時間を変えて「久米書店midnight~夜の本の虫~」という番組が始まるそうです。

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2016年9月11日 (日)

切り裂きジャックの告白

著  者:中山七里
出版社:KADOKAWA
出版日:2014年12月25日 初版 2015年4月15日 4版 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 昨年の4月にテレビ朝日系列で放送された同名のテレビ番組の原作。今月の24日にその第2弾「刑事 犬養隼人」が放送されることもあって読んでみた。

 主人公は警視庁捜査一課の刑事の犬養隼人。事件は、深川署の真向かいの公園で起きた殺人事件。若い女性が絞殺の上、内臓を抜き取られて放置されるという異常な事件。現場は凄惨を極めていた。

 この事件は、19世紀の英国で起きた、世界の犯罪史上最も有名といっても過言ではない殺人事件を想起させる。「切り裂きジャック」。その事件でも被害者たちは臓器を持ち去られていた。

 そして今回の事件の犯人から「ジャック」を名乗る犯行声明が、テレビ局に届く。こんな異常な事件をマスコミが放っておくはずがなく、恐らくは犯人の意図である「劇場型犯罪」の様相を呈していく。

 犬養はどうも「男のウソを見抜く」という特殊な能力があるらしい。今回の捜査では、あまり発揮されないようだけれど(女のウソは見抜けない)、これまでの事件では役に立ったのだろう。「捜査一課のエース」ということになっている。

 ストーリーが練られた面白い作品だった。ネタバレになるので、あまり詳しく言わないけれど、マスコミやネットの陰湿な部分や、臓器移植、生命倫理などを取り込んだ、重厚な(悪く言えば重々しい)物語になっている。

 こんな凄惨な事件の物語を、テレビでよくやったなぁ、と思う。

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2016年9月 7日 (水)

日本はなぜ、「戦争ができる国」になったのか

著  者:矢部宏冶
出版社:集英社インターナショナル
出版日:2016年5月31日 第1刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルと出版日から、昨年9月に参議院で可決した「安全保障関連法」をテーマとした本だと、想像されるがそうではない。この本が扱うのは、1950年代に遡って、旧日米安保条約の締結に至る日米両国の動きから書き起こした、戦後の「この国のあり方」の根本ともいえる内容だ。

 ただし、それはもちろん先ごろの「安全保障関連法」につながっている。あの時の議論は「集団的自衛権」を巡って錯綜していた。最終盤の参議院の委員会は、「人間かまくら」という異様で醜悪な光景を晒して、怒号の中で幕を閉じた。どうしてあんなことになったのか?

 本書の「まえがき」には、本書に書かれていることを知ると「あのとき起きていた出来事の本質は、あっけないほどかんたんに理解できる」とある。

 ここで重要なのは、太平洋戦争の戦後処理において、アメリカ軍が日本をどうしようと思っていたか?だ。それは、いろいろなことをすっ飛ばして言うと「日本が将来持つことになる軍隊は、アメリカ軍の指揮下に入れる」ということだ。

 これでは完全に従属国扱いで、独立した国家とは見なされていない。だからもちろん日本側は反発したし、旧日米安保条約はそんなことは書き込まれなかった。ただし...。この「ただし」の後と、上で「すっ飛ばした」いろいろなことが、難解な外交文書を多数扱う割には、わかりやすく書かれている。

 「まえがき」にあったことは偽りではなかった。確かにあの混乱ぶりの本質が簡単に理解できる。しかしそれは、私たちにとって、より深い混乱と絶望を招く。それで終わらずに前に進めるように、著者は提言を述べている。その提言を実現するために必要なのは、私たちの「本気度」だと思う。

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2016年9月 4日 (日)

黄金の烏

著  者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月10日 第1刷 2016年7月5日 第3刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」に続く、八咫烏シリーズの第3弾。本書で物語が大きく動き出した感じだ。これまでの2巻は、それはそれで面白かったが、シリーズが描く物語としては序章、まだ何も始まってなかったことが分かる。

 八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界。平安京にも似たその宮廷が舞台。本書の主人公は前作「烏は主を選ばない」と同じで、地方貴族の家の少年の雪哉。前作での皇太子である若宮の側仕えを終えて帰郷していた。

 事の発端は、雪哉の故郷で起きた事件。人間でいうと「クスリでもやった」ように正気を失った八咫烏が、雪哉の目の前で女性と子どもを襲った。さらにこの事件の調査の途中で「大猿が村人たちを喰らい尽くして、集落をひとつ全滅させる」という凄惨な出来事が起きる。

 物語はこの後、舞台を中央の宮廷に移して、この2つの事件を追う。そこで展開される出来事は、この八咫烏が支配する世界の存在そのものを揺るがす深刻な問題へと行き着く。

 読んでいて「あぁこう来るのか!」と思った。著者がどのように考えておられるかはわからないけれど、小野不由美さんの「十二国記」と重なる世界観を感じる。この世界は、まだまだ広がりがある、まだまだ物語は発展する、そんな予感が充満している。

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「黄金の烏」 固定URL | 1.ファンタジー, 3.ミステリー | コメント (0) | トラックバック (1)

2016年9月 1日 (木)

ドキュメント 戦争広告代理店

著  者:高木徹
出版社:講談社
出版日:2002年6月30日 第1刷 7月23日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書の紹介の前に一つ質問。次に書いた「仮定の話」を読んで、どのように感じますか?

 世界のどこかで紛争が起きました。民間の広告代理店(PR企業)が紛争当事国の一方と契約して、メディアを使ったPR戦略によって、もう一方の当事国が極悪人であるかのような印象を作り上げたとします。これによってその国は、国際連合から追放されたあげくに、首都が多国籍軍の空爆を受けて破壊されました。

 お気付きの方もいるだろうけれど、「仮定の話」とした上のことは、実は、本書に書かれた実話だ。1990年代に起きたボスニア・ヘルツェゴビナのユーゴスラビア連邦からの独立の際の紛争時のことだ。本書は、ボスニアと契約を結んだ米国のPR企業ルーダー・フィン社の「活躍」を克明に記している。

 「どのように感じますか?」という冒頭の質問に戻ると、私はひどい話だと感じだ。お金のためなら何でもやっていいのか?そうじゃないだろうと思った。ところが、誰もがそう思うわけではないらしい。

 さきほど、ルーダー・フィン社のことを「米国のPR企業」と紹介したが、日本では「広告代理店」と呼ばれる業種だけれど、両者には違いがある。具体的には、米国では他国の政府も顧客になり得るし、広告宣伝や調査だけでなく、文字通りあらゆる手段を使う。ロビー活動はもちろん、政府高官や官僚などに直接的に働きかけることもある。

 ということで、ルーダー・フィン社がボスニアと契約しても別に特別なことではない(実際、ユーゴスラビア連邦の他の国は他のPR企業を契約していた)。存在が確認されていない「強制収容所」のニュースを広めて、敵対するセルビアを貶めても、それは業務の一環だ。そのために使った写真が、全く無関係な写真だったことが後で分かったとしても、結果オーライだ。

 そしてこれは(米国人全員が共有しているとは言わないけれど)米国的価値観では、是とされているらしい。ルーダー・フィン社のこの一連の活動は、全米PR協会の年間最優秀PR賞の、部門最高位賞を受賞した。「ボスニア・ヘルツェゴビナの危機を救った」という評価だ。

 怖い怖い。これでは力のある米国のPR企業がついた方が「正義」になってしまう。あれから20年あまり、世界で紛争が絶えたことはなく、時折その当事者が「正義」と「悪」に別れたけれど、それがPR企業によってつくられたものではない、とは言い切れない。いやむしろその疑いを持ってしかるべきだろう。怖い怖い。

 実は、もっと怖いことがある。この一連の出来事の発端に、ボスニア・ヘルツェゴビナ政府が決定した「セルビアとの紛争に世界を巻き込む」という国策があるのだ。つまり「他国を戦争に巻き込もう」と考える国が実際にあって、欧米諸国はまんまとその手に乗ってしまったわけだ。

 昨年に何度も聞いた「他国の戦争に巻き込まれることはあり得ません」なんて言葉が空しく聞こえる。あれが空約束にならないことを祈る。

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「ドキュメント 戦争広告代理店」 固定URL | 5.ノンフィクション | コメント (0) | トラックバック (0)

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