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2016年1月

2016年1月31日 (日)

ぼくは明日、昨日のきみとデートする

著  者:七月隆文
出版社:宝島社
出版日:2014年8月20日 第1刷 2016年2月5日 第18刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書のことは、私は新聞広告で最近知ったのだけれど、ずいぶん前から評判だったらしい。2014年の刊行以来「読書メーター」の「恋愛小説のおすすめランキング」で長く1位をキープしていたそうだ。そんなわけで現在75万部。福士蒼汰さん、小松菜奈さんの共演で映画化も決定した。

 主人公は南山高寿。京都の美術大学のマンガ学科の2年生。通学に使っている京阪電車の中で、「少し和風の清楚で品がある顔立ち」の女性と出会う。そして、一目ぼれ。

 その女性の名は福寿愛美。美容師の専門学校に通う。歳は二十歳。高寿は、普段はそんなことをしないのに、途中駅の「宝ケ池」で降りた彼女を追いかけて自分も電車を降りて声をかけた。「メアド教えてくださいっ」

 この絶望的な「ナンパ」が奇跡的にうまく行って、2人はしばらく宝が池公園を散策。用事でもう行かなくてはならなくなった愛美に、高寿が確かめる。「また会える?」。

 そうしたら愛美が泣き出した。ぽろぽろとすごい勢いで涙が落ちる。

 こんな感じで物語が始まる。「恋愛小説」が好きな人なら、この時点で物語にガッシリつかまってしまうだろう。好きでない人は...たぶん読んでられないと思う。そのくらい「甘い」予感がする。

 私は...「きらいではない」ぐらい。でも、この物語には大きな秘密というか仕掛けがあって、愛美が泣いた理由もそれで明らかになる。それがもうほんとうに切ない。私は、読んでしばらく切なさが後をひいて、なんだか心細くなってしまった。感情移入するタイプの人は、覚悟して読んだ方がいいと思う。

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2016年1月27日 (水)

朝が来る

著  者:辻村深月
出版社:文藝春秋
出版日:2015年6月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞ノミネート作品。「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞した辻村深月さんの最新刊。

 主人公は前半と後半で一人ずつ。前半の主人公は栗原佐都子。47歳の専業主婦。川崎の高層マンションに、夫の清和と6歳の息子の朝斗と3人で住んでいる。ある朝に電話がかかってきて、その相手は「子どもを、返してほしいんです」と言った。

 佐都子は、かつて不妊治療を受けていて、そのことが詳しく物語られる。それは、出口があるかどうかもわからないトンネル。「明けない夜」のようなものだった。朝斗は佐都子に「朝」を運んできた。タイトルはこのことを指している。

 後半の主人公は片倉ひかり。21歳。家族は両親と姉がいるが、何年か前に家出して今は1人で暮らしている。後半の物語は、ひかりが家族と幸せに暮らしていた子どものころから始まる。そして、中学生の時に妊娠・出産を経験する。

 私は、ひかりの物語も「明けない夜」のようだと思う。であれば、ひかりにも「朝」が訪れるのか?年齢も境遇も違う2人の女性の人生がやがて交錯する。そこにあるのは哀しみか怒りか?あるいは幸せか?それは、最後まで分からない。

 帯に「両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長編」とある。何度も泣ける。

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2016年1月23日 (土)

下町ロケット2 ガウディ計画

著  者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2015年11月10日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 2011年上半期の直木賞受賞作品の「下町ロケット」の続編。昨年TBS系列で放映されたテレビドラマの後半は、本書が原作となっているらしい。(私は先に本を読みたかったので観なかった)

 舞台は前作と同じく佃製作所という中小企業(かなり大きい方だけれど)。前作で佃製作所のバルブシステムを採用した、国産ロケットの打ち上げが成功してから約4年後。日本クラインという大企業から、バルブの試作品製造の依頼が舞い込むところから物語は始まる。

 この依頼が何とも怪しい。価格が技術的対価としては安すぎる。その後の量産を前提としなければとても受けられない。そして何よりも、何の部品であるかを教えてもらえない。黙って図面の通り作れ、というわけだ。そんな「舐めた話」でも、受ける(受けざるを得ない)のが中小企業の心意気と哀しさだ。

 ここを端緒に物語は、「技術力のある中小企業」対「横暴な大企業」の図式に、「やり手のベンチャー企業」と「白い巨塔の権力争い」が絡んで、スリリングな展開となっている。

 ただし、正直に言うと前作ほどはハラハラしなかった。途中で「悪者」が判明する。現実世界では「悪者」が勝ってしまうことだってあり得る。しかし小説でそれはないだろう?という前提に、どうしたって立ってしまって、安心して読めるからだ。

 とは言え、面白かった。スッキリ感もちゃんと味わえる。「ガウディ計画」の名前の由来がちょっと笑ってしまった。

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2016年1月20日 (水)

想像ラジオ

著  者:いとうせいこう
出版社:河出書房新社
出版日:2015年3月11日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 野間文芸新人賞受賞、キノベス!2014、ダ・ヴィンチ編集部が選ぶプラチナ本 OF THE YEAR 2013の第1位。芥川賞でも本屋大賞でも候補作になっていた。だから名前は知っていた。内容は知らなかったけれど、書店で見かけて手にとってみた。

 主人公の一人はDJアーク、本名は芥川冬助。38才。洋楽を中心にした音楽をかけるラジオのDJをしている。もう一人は作家のS。東北の震災後にボランティアに何度か通っている。

 DJアークの番組は、本書のタイトル通りの「想像上のラジオ」の番組。ラジオ局もスタジオもない。DJアークが想像力で発信し、リスナーもその想像力で受信する。誰でもが聞ける番組ではないのだ。ただDJアークには、自分の声を届けたいと強く思う人がいて、リスナーたちにはある理由があって、ラジオの声が聞こえる。

 この説明では「なんか良くわからん!それって面白いの?」と思うだろう。それは私が、大事なことを言っていないからだ。でも、大事なことだけに明かすことがためらわれる。

 その代り、「生者と死者との新たな関係を描き出してベストセラーに」裏表紙のこの言葉を手掛かりに想像して欲しい。面白いとは言わないけれど、とても深く胸を打つ物語だ。本当に必要としていれば、DJアークの声があなたにも聞こえるかもしれない。

 最後に。今年になって読んだ「ぼくらの民主主義なんだぜ」と「紙つなげ!」と本書「想像ラジオ」は、東日本大震災と関連している。20日間に3冊。まったくの偶然。でも、たくさん本を読んでいると、時々こういうことが起きる。

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2016年1月16日 (土)

日本は本当に戦争する国になるのか?

著  者:池上彰
出版社:SBクリエイティブ
出版日:2015年12月15日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 昨年の通常国会で可決、成立したいわゆる安保関連法について、私は「得ることがほとんどなく、懸念されることが大きい」という理由で、基本的に反対の意見を持っている。しかしもう一度整理をしてみようと思って本書を読んでみた。

 「戦争する国になるのか?」という、煽りの強いタイトルへの答えは、本書の中には出ていない。それはまだ「これからどうするのか」にかかっているからだろう。帯には「この国の未来を自分で判断するために」と書いてある。

 本書は「賛成派と反対派、噛み合わなかった議論」という序章から始まり、「憲法違反ってどういうこと?」「安保関連法っていったいなに?」という基本的な事項の整理に続く。そのあと「中国」「アメリカ」「反対運動」「戦後の安全保障政策」のそれぞれとの関係を解説する。コンパクトで過不足がない。

 判断は読者に預けるという主旨からか、著者の池上さんは、中立の立ち位置を取る。例えば「(安保関連法は)憲法違反ではないという立場の人」と「憲法違反だという反対派の人たち」の意見それぞれの問題点を指摘している。

 ただし「中立」と言っても、放送法の議論に出てくるような「両方の意見を同じ分量」などという本意からズレたものではない。安保関連法への賛成派、あるいは政府与党の問題点が圧倒的に多い。池上さんは「反対」とは言わないけれど「賛成していない」のは明らかだ。

 そんなわけで、もう一度整理をしてみても私の意見は変わらなかった。読まなくても同じだった、ということでは全くない。本書を読んで初めて知ったことは多い。憲法審査会のこと、関連法の11の法律のそれぞれのこと、日米安保条約のこと。勉強になった。

 最後に。池上さんも書いているけれど、昨年の安保関連法案の審議は、「憲法論議」と「安全保障論議」が、混乱した形で並行して進められた。このために「憲法」も「安全保障」も「あるべき姿」の議論ができていない。不幸だ。

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2016年1月13日 (水)

紙つなげ!彼らが本の紙を造っている

著  者:佐々涼子
出版社:早川書房
出版日:2014年6月25日 初版 7月25日 7版発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本書は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けて完全に機能停止した「日本製紙石巻工場」の復活の記録。

 1平方キロメートル(約33万坪)もの広大な工場が津波に呑み込まれ、近隣から流れ込んだガレキに埋まってしまった。その日、何があったのか?それからどうなったのか?丹念に広く関係者を取材した、優れたルポルタージュになっている。

 先の見通しがまったく立たない中で、工場長が事業の再開を決意する。しかも「半年」と期限を切った。半年でまず1台動かす。甚大な被害と荒涼とした光景を前に、多くの人が絶望していた時だ。その場に居た全員が「無理、絶対無理」と思った。

 これ以上の内容をここで説明してしまうのはもったいない。もし興味が湧いたら、ぜひ読んで感動を味わって欲しい。それより読んでいて痛切に感じたことがあるので、そのことを。私の暮らしは誰かの仕事が支えている、ということだ(缶コーヒーの宣伝みたいだけど)。

 今、私が手に持っている本は紙でできている(当たり前だ)。この紙はどこかで誰かが作ったものだ(これも当たり前だ)。当たり前すぎて私たちは意識さえしていない。

 日本製紙は出版用紙の約4割を担っているそうだ。その主力工場が機能停止すれば、出版業界への影響は必至だ。実際にそうだった。電子メディアに押されてはいるが、新聞・雑誌・書籍など「紙」は、情報を伝える媒体として、私たちの暮らしにまだまだなくてはならないものだ。

 「なくてはならないもの」私たちの方にはそんな意識はほとんどなかったけれど、製紙工場の技術者の皆さんは、そうした矜持を持って働いていらっしゃった。だからこそこの「奇跡」は起きた。そう思う。

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2016年1月 9日 (土)

やなりいなり

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2013年12月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」  シリーズの第10作。「こいしくて」「やなりいなり」「からかみなり」「長崎屋のたまご」「あましょう」の5編の短編を収録した短編集。文庫版には著者と料理家の福田浩さんの対談が巻末に付いている。

 これまで通り、江戸の大店の跡取り息子で、極端に病弱な一太郎の周りで起きる騒動を描く。一太郎の周りには数多くの妖たちが居て、ここまでシリーズが進んで、馴染のメンバーが定着しているのだけれど、本書では新たに「人ならぬ者」が多く登場するのは一つの特徴。

 「こいしくて」では、あらゆる災いを支配する「禍津日神(まがつひのかみ)」、恐ろしい流行り病の神である「疱瘡神」とか、あまりありがたくない神様たちが揃って一太郎の元を訪れる。「やなりいなり」では幽霊、「からかみなり」では雷をまき散らす「雷獣」、「長崎屋のたまご」では逢魔時に生まれた「魔」。それから布袋さまや大黒さままで。

 この「人ならぬ者」たちが妙に「人間っぽい」ことが面白い。恋したり、冷やかしたり、心配したり、さぼったり、兄弟げんかをしたり。災いをもたらす神々だって、自分の役割を果たしているだけで、悪人じゃないのだ。

 本書にはもう一つ特徴があって、それは各短編の序章に料理のレシピが載っていることだ。その料理が物語の中に登場する、という趣向。例えば表題作のタイトルの「やなりいなり」は、その料理の名前で、物語の中でさかんに食べられる。巻末の料理家の方との対談もその流れ。

 前作「ゆんでめて」も大仕掛けがある作品だった。その「解説」に続巻(つまり本書)を「括目して待て」と書いてあったのは、この「レシピ」のことだったか。これまでにも何度か言ってるけれど、このシリーズはいつも何かしら新しい趣向が楽しめる。そこも魅力になっている。

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2016年1月 6日 (水)

ぼくらの民主主義なんだぜ

編  者:高橋源一郎
出版社:朝日新聞出版
出版日:2015年5月30日 第1刷 7月10日 第5刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 終戦から18年経った日本に生まれた私には、民主主義は所与のものだった。取り立ててそれについて考える必要も感じなかった。しかし、真面目に考えないといけなくなった気がして、今年最初の1冊に本書を選んだ。某書店のフェアの「必読書50」にも、選定しなおした「49冊」にも入っている。

 本書は朝日新聞に月に一回掲載される「論壇時評」という記事をまとめたもの。「論壇時評」は、その時々の論壇誌(「中央公論」とか「世界」とか「文藝春秋」とか)の評論や論文を中心に、文芸誌やネットメディアなどからも幅広く取り上げて紹介するもの。時期としては2011年4月から2015年3月まで。全部で48本の記事を収録している。

 「時評」と名が付くだけあって、記事の一つ一つがその時の世の中を色濃く反映している。最初の2011年4月は、つまり「3.11」の翌月だ。あらゆるメディアで「震災と原発」をめぐる言葉が溢れた時。著者は「「ことば」もまた「復興」されなければならない」と結んだ。

 その後は政治の大きな流れでは、総選挙・政権交代があり、特定秘密保護法案が可決し、憲法解釈変更の閣議決定がされた。社会に目を転じると、生活保護受給者が糾弾され、ヘイトスピーチが街頭で叫ばれる。本書の終盤の2015年2月にはイスラム国による日本人人質事件が悲劇的な結末を迎える。

 読み進めていくと、次々と標的を探し出して叩く、そんな不気味な世の中に愕然とする。「愛国」や「正義」という言葉が人を傷つけている。最初の記事の「「ことば」もまた「復興」されなければならない」という著者の言葉が、それから5年経とうとしている「今」を暗示しているようだ。

 こんな紹介では絶望してしまいそうだけれど、著者が紹介するのは、その絶望的な状況に抗う「ことば」の数々で、「いったいどうやって見つけたのか?」と思うようなところからも拾っている。「9.11」の時も「シャルリー・エブド」の時も、勇気を持って皆と違うことを発信した人がいた。多様な「ことば」が民主主義につながる。

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2016年1月 1日 (金)

あけましておめでとうございます。

 皆さん、あけましておめでとうございます。

 昨年は、このブログで102作品を紹介しました。これで2010年から6年連続で100作品超えとなりました。暮らしが安定しているからこそ本が読めるわけで、本が読める幸せに感謝しています。

 このブログでは昨年の7月に、記事数が1000本になりました。今年は、紹介作品数が1000作品になる予定です。現在956作品ですので、あと44作品、順調に行けば6月には1000作品目のレビュー記事を書けることになります。それまでは這ってでも続けるつもりです(笑)。

 今年は本当に穏やかな気候の正月を迎えました。スキー場などでは困惑しているようですが、日々の暮らしは楽で助かります。今年1年、日本が、また世界が、この気候のように穏やかであることを祈っています。

 それでは、今年が、皆さんにとって良い年でありますように。

 
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