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2015年12月

2015年12月31日 (木)

2015年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。昨年までと同じく小説部門は10位まで、ビジネス・ノンフィクション部門は5位までです。
  (参考:過去のランキング 2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が4個、「☆4つ」が60個、「☆3つ」は34個、「☆2つ」が4個。です。
 「☆5つ」が4個は少ないようですが、実はランキングを作り始めた2008年以降で一番多いです。「☆4つ」が60個はちょっと多いですね。ここ何年か毎年増え続けていて、とうとう6割を占めることになってしまいました。総体的に評価が甘くなったのでしょうか?今年はよい本にたくさん巡り合ったということでしょうか?

■小説部門■

 
順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
光とともに…自閉症児を抱えて(1)~(15) / 戸部けいこ Amazon
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自閉症児の光とその家族の軌跡と周辺の出来事を描いたマンガ。光の1歳半検診から中学2年生まで、多くの「無理解」の壁を乗り越えていく姿。自閉症について実に多くのことを得られる。
ハケンアニメ / 辻村深月 Amazon商品
ページへ
「ハケンアニメ」は、そのクールで一番成功した「覇権アニメ」のこと。本書は「ハケンアニメ」を競う3人の女性の物語。アニメ業界のことが少し分かる。業界で働く人たちの「熱」も感じられる。
天の梯 みをつくし料理帖 / 高田郁 Amazon
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江戸時代の女料理人を描く10巻シリーズの最終巻。それまでの9巻で描いてきた様々な経緯や人々の思いのそれぞれに、読者がきちんと得心する着地点が与えられている。まさに大団円。
サラバ!(上)(下) / 西加奈子 Amazon
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2014年下半期の直木賞受賞作。テヘランの病院で生まれた主人公の、誕生の瞬間から37歳までの半生。常軌を逸した激しさを持つ姉に振り回される。人の半生を700ページに凝縮した力作。
天空の蜂 / 東野圭吾 Amazon
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ハイジャックされた超大型ヘリコプターが向かったのは原子力発電所。犯人は原子炉の上に墜落させるという。20年前に刊行されたとは思えない、私たちの目の前にある危機を描いた作品。
流星ワゴン / 重松清 Amazon
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「死んじゃってもいいかなぁ、もう」と思っていた主人公。そこに現れたワゴン車が、彼にとって「たいせつな場所」に連れていく。地理的にだけではなく時間的にも大切な人生の「分かれ目」に。
蜩の記 / 葉室鱗 Amazon
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2011年下半期の直木賞受賞作。「3年後に切腹」という沙汰を受けた身で、家譜(藩の記録)編纂という役目に励む武士。その人となりと暮らしを、監視役を兼ねて補佐する藩士の目から描く。
NO.6 #1~#9 / あさのあつこ Amazon
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一旦は核戦争や環境汚染で荒廃した地球に、その反省から建設された「理想都市(ユートピア)」が舞台。しかしその実態は、監視・管理された「ディストピア」。それに挑んだ若者たちの物語。
土漠の花 / 月村了衛 Amazon
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アフリカの国境地帯に派遣された、日本の陸上自衛隊の自衛官たちの物語。墜落したヘリの捜索と救助に向かったが、現地の氏族間の争いに否応なく巻き込まれる。その後は怒涛の展開。
10 僕は、そして僕たちはどう生きるか / 梨木香歩 Amazon
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一人暮らしの14歳の少年の5月の連休の1日。友人や叔父やらとの出来事を、草木の瑞々しい描写とともに描く。中学生の爽やかな休日、と思っていたら、思いのほか重いものを受け取る。

 今年の第1位は異例のマンガ作品になりました。「参考に」と言って貸してもらった15巻を読んだものです。途中で何度も涙し、また勇気付けられもしました。「無理解の壁」と書きましたが、隣合わせには「無知」があります。この本で多くのことを学べてよかったと思います。

 3位までが「☆5つ」の作品ですが、それも含めて順位は多少前後に入れ替わっていてもおかしくありません。3位の「天の梯」は、昨年同様に「みをつくし料理帖」シリーズ全体の評価でもあります。読まれる方はシリーズの1巻「八朔の雪」から順番にお読みください。

 選外の作品について言うと、伊坂幸太郎さんの「陽気なギャングは三つ数えろ」、有川浩さんの「だれもが知ってる小さな国」をランキングに入れるかどうか迷いました。このお二人は私が大好きな作家さんで もありまず。その他には、黒野伸一さんの「脱・限界集落株式会社」、森沢明夫さんの「虹の岬の喫茶店」が候補になりました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
本当の戦争の話をしよう / 伊勢﨑賢治 Amazon
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紛争地帯の武装解除にあたった著者が、福島の高校生に話した「平和」「世界の紛争の現場」「ニュースで報じられない事情」。驚きの連続。安全保障を考える前に、ぜひ読んでもらいたい。
黒島を忘れない / 小林広司 Amazon
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太平洋戦争終戦間際に、特攻機で出撃するも不時着した特攻隊員らと、彼らが不時着した島の島民の記録。「誰かに伝えたい」という著者の遺志を感じる。私も伝えなければならないと思う。
沈みゆく大国アメリカ<逃げ切れ!日本の医療> / 堤未果 Amazon
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前著「沈みゆく大国アメリカ」で明らかにした、米国の医療保険制度の問題が、日本でも対岸の火事ではないとした警鐘を鳴らす作品。TPP合意によって、その危惧はさらに現実味を帯びた。
世界を変えた10冊の本 / 池上彰 Amazon
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「アンネの日記」「聖書」「コーラン」「沈黙の春」「種の起源」..。人々の思考や行動に影響を与えた10の書物を紹介。本が「世界を変える」ことなんてあるのか?と思ったが、実際にあったのだ。
京大式 おもろい勉強法 / 山極寿一 Amazon
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京都大学総長である著者が、ゴリラ研究者としての自身の半生を綴った本。それによって、手軽な勉強法よりも大事なことを伝えている。ゴリラと比較することで、人間のことが良く分かる。

 1位の「本当の戦争の話をしよう」は、仮定で進めてしまいがちな安全保障の議論に、現場の感覚の一端を持ち込むのに良い本。紛争の当事者たちの素顔や、彼らは「日本」をどう見ているのか?示唆に富んだ話だと思う。2位の「黒島を忘れない」は、紹介されて読んだ本。「伝えたい」という気持ちのバトンを受け取りました。

 選外の作品としては「安倍政権の裏の顔」「里海資本論」「福井モデル」などが候補になりました。「安倍政権~」は、今の政権の振る舞いに危うさを感じるので、その原因の一端が見えた気がします。あとの2つは共に「次の社会モデル」を探るもの。なんとなく閉塞感のある今、必要とされていることだと思いました。

 
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2015年12月23日 (水)

絵本「旅猫リポート」

著  者:有川浩
出版社:文藝春秋
出版日:2014年3月1日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 先日読んだ「コロボックル絵物語」に続いての、有川浩さん作の絵本。著者の同名の単行本「旅猫リポート」を村上勉さんの挿絵を使って絵本にしたもの。

 単行本と同様に主人公はオス猫のナナ。しっぽがカギ型に曲がっていて、数字の7に見えるから、飼い主のサトルに名付けられた。5年間をともに暮らしたが、サトルがナナを手放すことになった。本書は、ナナの引取り先を求めてのナナとサトルの旅を描く。

 主人公だけでなく、ストーリーも単行本と同様。逆に違う点は主に2つ。1つ目は、本書は最初から最後までナナの言葉で綴られていること。単行本は人間の視点で語られる部分が多かった。2つ目は(絵本だから当然だけれど)、すべての見開きに村上勉さんの絵が描かれていること。

 ナナは知恵のある思慮深い猫で、人間が抱えるいろいろな事情がすべて分かっている。すべて分かった上で、その語り口は余計な感傷がなくて、とてもシンプル。全編がそんなナナの語りによるからだろう、実は哀しい話なのに、本書を通してすっきりした空気感がある。

 村上勉さんの絵も素敵で、ナナの語りがシンプルな分、絵が雄弁に語っている感じがする。

 ※ちなみに「旅猫リポート」は講談社青い鳥文庫にもなっていて 、単行本の文章に本書の絵が挿絵に付いている。手元に置くならこちらもおススメ。対象が「小学校高学年から」で、小学生が読んだらどんな感想を持つのかな、と思った。

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2015年12月20日 (日)

冷蔵庫が壊れた日

著  者:神津カンナ
出版社:ワック
出版日:2014年4月8日 初版 4月26日 第2刷
評  価:☆☆(説明)

 ある方からいただいて読んでみた。著者の神津カンナさんは、作曲家の神津善行さんと女優の中村メイコさんの長女で、ご自身はエッセイスト・作家。25年ほど前からエネルギー問題に関心を持って取材をされているそうだ。

 「暮らしとエネルギー」「石油の力、人間の力」「家族の風景」「しあわせの構図」の4章に分かれて、52編のエッセイが収録されている。半分の26編が「暮らしとエネルギー」のエッセイ。「エネルギー問題」が本書のメインテーマと言って差し支えないだろう。

 最初の一編が「ハンバーグで考える電源のベストミックス」で、これを読んで「おや?これは?」と思った。ひき肉やタマネギなどの具材を混ぜながら、火力や原子力、風力などの電源のことを考える。どちらも配合が肝心だというわけだ。

 ちょっとムリヤリな関連付けだと思うが、それは置いて。化石燃料は価格変動が大きいしCO2負荷が高い、自然エネルギーは気まぐれで大きな力にするのは難しい、原子力は縁の下の力持ち。電力会社の説明を聞いているようだ。私の「おや?これは?」には「原発推進のPR本なのか?」と続く。

 実はそのとおりで、基本的には「原発推進のPR本」だと思っていい。その後も同様の話が続くし、著者は「フォーラム・エネルギーを考える」という(原発推進派と目される)団体の代表を務めているし、何よりくださった方によると、本書は電力会社から届いたそうだからだ。

 だからと言って非難するつもりはない。私は、そういう位置づけの本があってもいいと思う。ただ、特定の意図を持った本は、よほどうまくやらないとその意図を見抜かれやすい。その本を電力会社が配っても構わないが、効果はあまり見込めないだろう。

 「家族の風景」「しあわせの構図」のエッセイには、とても共感を感じるものが多かった。著者と私の感性には親和性があるのだと思う。それだけに「特定の意図を持った」前半分が残念。

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2015年12月17日 (木)

天の梯 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2014年8月18日 第1刷 2015年7月8日 第4刷 発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第10作。「葛尽くし」「親父泣かせ」「心許り」「恋し粟おこし」の4編を収録した連作短編。そしてこの巻でシリーズ完結。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 前作までで、野江と共に暮らすという望みについては端緒についた。しかし、未だ雲をつかむような話で、残り1巻でどうなるものか見当がつかなかった。

 それに「天満一兆庵」の再興の方は、少し後退してしまっている。連綿と書き込まれてきた、澪の恋についてはどうなるのか?など、たくさんの気がかりを残したまま、最後の1巻になっている。

 結論を言えば、気がかりなことのすべてに、着地点が与えられている。それも読者がきちんと得心できるような結末になっている。いや、得心の上を行く鮮やかな結末だった。著者の構想力、筆力に感服した。終盤は泣けて仕方なかった。

 ※巻末の「料理番付」を見ずに本書を閉じてはいけない。

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2015年12月13日 (日)

剣と紅

著  者:高殿円
出版社:文藝春秋
出版日:2012年11月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 来月から始まる大河ドラマ「真田丸」関連の出版が相次いで、おおきな盛り上がりを感じる。そんな中でへそ曲がりにも、再来年の大河ドラマ「おんな城主 直虎」の関連本を探してみた。本書は「おんな城主 直虎」の主人公である井伊直虎の物語。

 主人公の名前は香(かぐ)、後の直虎。彼女は、遠州を領地とする井伊家の当主である直盛の一人娘。時代は戦国時代の前期、今川、武田、徳川といった大勢力が健在で、まだ天下の状勢が定まっていないころ。

 もう少し解説すると、香は徳川四天王と呼ばれた家康の側近の一人、井伊直政の養母(血縁で言うと祖父の兄弟の孫)にあたる。本書は、直政が家康に、自らの家の一世代前の物語を話して聞かせる、という形式になっている。

 面白かった。戦国時代の女性を主人公にすると、事件は遠くで起きることが多い。本書でも、一族の男たちが戦や謀略で「殺された」という知らせだけが香に届く。そのために比較的淡泊に物語が進むのだけれど、読み進めるうちに、本書には「女の戦」が描き込まれていることに、気が付く。

 タイトルの「剣と紅」の紅は「べに」、女性の化粧道具。剣は刀。帯に「紅はいらぬ。剣をもて。」と書かれている。直虎という字面と相まって、男勝りの女偉丈夫をイメージするセリフ。

 しかしそう思って読むと、そのイメージの安直さを思い知らされることになる。この「剣」と「紅」はいくつもの含意を持って、この物語を支えている。大河ドラマは本書を原作としていないけれど、主演の柴咲コウさんと本書の香とが重なって見えた。

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2015年12月 9日 (水)

コロボックル絵物語

著  者:有川浩
出版社:講談社
出版日:2014年4月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「だれもが知ってる小さな国」は、有川浩さんが佐藤さとるさんの「コロボックル物語」を書き継いだ作品で、お二人ともが大好きな私にとっては「奇跡」のような作品だけれど、その先駆けとなる本があった。それが本書。

 本書は絵本。「コロボックル物語」をストーリーに取り込んだ物語。主人公は小学生の少女、ノリコ。お父さんとお姉ちゃんとで、お母さんのお墓参りに来たノリコの目に、何か小さな影がはねるのが写って...。

 絵本なのでストーリーは長くない。「コロボックル物語」にもページが割かれている。だから、あまりたくさん紹介してしまうと、読む楽しみがなくなってしまいそうなので、あらすじはここまでにする。

 「だれもが知ってる小さな国」は、まぎれもなく「有川作品」だった(もちろんそれはそれで良い)。それに対して本書は、有川さんがあくまで「コロボックル物語」の一愛読者として、その愛着を描き込んだものだと感じた。そう考えると本書は、佐藤さんの「コロボックル物語」から、有川さんの「だれもが知ってる小さな国」への、絶妙な橋渡しとなっている。

 小学生の女の子のことが、きめ細かく描き込まれている。これはもしや有川さん自身のことではないか?と思ったが、その質問の答えは「あとがき」に書かれていた。ノリコに「だれもしらない小さな国」を貸したのはお姉ちゃん。「家族」とか「姉妹」とか、そういうのもいいなぁ、と思った。

 佐藤さとるさんと有川浩さんの対談

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2015年12月 6日 (日)

2020 狂騒の東京オリンピック

編  者:吉野次郎
出版社:日経BP社
出版日:2015年11月30日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本していただきました。感謝。

 2020年に東京でオリンピックが開催される。あと4年7カ月と少し。まぁまだ間がある。開催が決定してからも2年あまりになるので、通常は少し話題から遠のいている時期だと思う。しかしご存じのとおり、今年は一時期、東京オリンピックの話題で騒々しかった。

 新国立競技場の建設費が問題視され、結果的にデザイン・設計を白紙撤回。エンブレムの盗用疑惑が巻き起こり、これも白紙撤回。その前には東京都観光ボランティアのユニフォームにも批判が集中していた。そんなわけで「狂騒の~」という形容詞に違和感はない。

 ただし、本書は2020年の東京オリンピックにまつわる狂騒を、テーマにした本ではない。第1章「国家の”喜劇”」で新国立競技場のことを扱い、その「ズサンさ」を踏切板にして、広く「日本のスポーツとカネ」の問題に跳躍している。

 「カネ」という観点では、国立競技場の問題は「ムダ使い」の例と言える。全国には赤字垂れ流しの競技場や総合運動場がたくさんある。そういったものをいくつか指摘すれば「告発ルポ」として読み物にはなる。本書も部分的にはそうだ。

 しかし本書のキモは「ムダ使いの告発」にはない。スポーツ界はもっと「商業化」を進めて儲けろ、というのがその主張だ。実は著者が経済誌の記者で、だからというわけではないけれど「経済合理性」を重視する。高校野球は放映権料を取れば、柔道はもっとショーアップすれば、(簡単に)儲かるはずだ、どうしてそうしないのか?というわけだ。

 こう聞いておそらく多くの人は、行き過ぎた商業化が損なう「何か」を危惧するだろう。私もそうだった。腹立たしい思いさえした。最初は。

 正直に言うと、読み進めるうちに自分の考えがよく分からなくなってきた。儲けたお金を有効に使って、そのスポーツの選手の育成や底上げに使う。国の補助金頼みよりも、よほど健全に思える。一方で「(来てくれれば)プレーを観なくてもいい」という野球場のコンセプトには違和感を感じる..。

 モヤモヤしたままで読み終わってしまったけれど、ちょっと視野が広がったのは確かだ。

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2015年12月 3日 (木)

幻の声 髪結い伊三次捕物余話

著  者:宇江佐真理
出版社:文藝春秋
出版日:2000年4月10日 第1刷 2015年3月25日 第23刷」
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の宇江佐真理さんは、今年11月7日にお亡くなりになりました。合掌。

 著者の作品は「卵のふわふわ」という作品をずい分前に読んだ。それまでに私が知っていた、武士が主人公の「時代小説」とは違っていたので、印象に残っている。その後も時々思い出していたのだけれど、他の作品を読むには至らなかった。

 著者の訃報を聞いて、改めて読んでみたいと思い手に取った。本書は著者のデビュー作で、その後の代表的なシリーズとなった「髪結い伊三次捕物余話」の第1作。

 時代は江戸時代。舞台は江戸・深川あたり。主人公の伊三次は「廻り髪結い」と言って、自分の店を持たないで客のところに出向いていく髪結いを生業にしている。読んでいるともっと年嵩に感じてしまうけれど、まだ25歳だ。

 伊三次は、北町奉行所の同心の不破友之進に恩義があり、今は友之進の小者としても働いている。そんなわけで髪結いの身で「捕物余話」がシリーズになるほどたくさん生まれることとなった。

 本書には表題作の「幻の声」をはじめとして5つの短編が収められている。殺人、放火、泥棒など、それぞれの短編で事件が起きる。「捕物余話」というシリーズ名で既に明らかだけれど、その事件の解決に伊三次らが絡む。

 特徴的なのは、どの事件も人情話になっていること。登場人物がみんな「弱者」として懸命に生きていて、犯人にさえ同情してしまいそうになる。懸命に生きているのは、伊三次も友之進も同じで、伊三次の「思い女」である、お文も含めて、少し哀しい過去を抱えている。

 これはまたよいシリーズに出会った。14冊が既刊だそうだから、しばらく楽しめる。今、気が付いたのだけれど「みをつくし料理帖」の高田郁さんも女性、「しゃばけ」の畠中恵さんも女性。私と女性が描く江戸時代は相性がいいのかもしれない。

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