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2015年11月

2015年11月29日 (日)

里海資本論 日本社会は「共生の原理」で動く

著  者:井上恭介 NHK「里海」取材班
出版社:株式会社KADOKAWA
出版日:2015年7月10日 初版発行 8月10日 再版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「里山資本主義のパクリ?」タイトルを見てこう思う人もいるだろう。私もそう思った。次に、著者が同じNHK取材班だと気付いて「あぁ二番煎じか?」と考える。確かに「里山資本主義」がなければ、本書は出なかったかもしれない。しかし、パクリでも二番煎じでもないことは読めば分かる。

 本書の主な舞台は瀬戸内海。岡山から広島にかけての海だ。そのひとつの岡山県の日生(ひなせ)。縄文の昔から漁業を生業にして来たと言われる、瀬戸内有数の漁業の町だ。

 その日生の海が、1970年代に「死んだように」なり、みるみる漁獲高が減るという事態に陥る。それから試行錯誤が始まり、なんと30年におよぶ地道な努力によって、ここ数年になってようやく「以前の海」が戻って来た。

 実を結んだのは、かつては船のスクリューに絡んで邪魔者扱いだった「アマモ」という藻類の復活だった。水質の改善から取り組んで取り戻したアマモの森が、小さな生き物たちを呼び寄せ、魚たちの産卵の場所となり「海のゆりかご」の役割を果たしていた。

 本書は、ここに至る経過と、現在の海の様子を実に活き活きと描く。著者がテレビマンであるからか、その映像が目に浮かぶようだ。

 最初に講じた「稚魚の養殖と海への放流」という、「高度経済成長型」の対策はうまく行かなかった。「原料さえ供給し、機械のメンテナンスさえぬかりなくやれば、製品は予定どおり生産される」という「人工の世界」とは違うのだ。

 必要なのは「海のゆりかご」といった「命のサイクル」を修復して回すことだった。このように「人手が加わることにより生物多様性と生産性が高くなった沿岸海域」のことを「里海」という。「里海資本論」は、「循環」と「共生」によって、「生産」と「消費」のパターンを持続可能なものに変え、有限の海(世界)に無限の生命の可能性を広げるものだ。

 ちなみに「sato-umi」は、2013年にトルコのマルマリスで行われた、海洋の環境保全の国際会議で採択された「マルマリス宣言」に組み込まれている。

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2015年11月25日 (水)

京大式 おもろい勉強法

著  者:山極寿一
出版社:朝日新聞出版社
出版日:2015年11月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、京都大学理学部卒業、同大学院、助手、助教授、教授を経て、昨年10月に京都大学総長に就任。研究者としての道を一貫して京都大学で歩んでこられた。その著者が記した「京大式 おもろい勉強法」

 タイトルから想像される本書の内容は、「自由」と形容されることの多い校風の元の「実践力を付けるための授業やゼミのあり方」「研究ノートの取り方」などなど、だろう。そして本書にはそういうことは、まったく書かれていない

 本書には、ゴリラ研究者としての著者の半生が綴られている。それによって大事なことを伝えようとしている。タイトルから想像するような、「効率よく知識が身につけられる」的なお手軽な勉強法より、幅広い層、幅広い年代に役に立つ。ゴリラと比較することで、人間のことが良く分かる。

 書き起こされた著者の半生は、1978年に大学院生の時に、コンゴ民主共和国(当時のザイール)から始まる。一人で行って、一人で調査許可を得て、一人で交渉する。並外れてタフでなければできない。「タフ」という意味では「ゴリラ研究のフィールドワーク」自体が想像を絶する。

 ゴリラに慣れてもらうために「餌付け」ならぬ「人付け」というのをするそうだ。簡単に言うと、ゴリラがその存在を気にしなくなるまで、そこに居続けること。咆哮で脅されたり、突進を受けることもある。ゴリラが草を食べれば自分も食べる、昼寝をしたら自分も寝転ぶ、なんて方法を取った研究者もいるそうだ。

 私には絶対にできない。同じことをしようと考えると、そんな諦めの気持ちになってしまう。でも、もちろん同じことをする必要はない。著者もそんなつもりはないだろう。本書からはたくさんのことを教わった。

 借り物ではない「自分の考え」を持つこと、「勝つか負けるか」という単純な解決策しかないと思うことが問題であること、「時間」こそが「信頼」に必要であること、「共にいる」ことが「幸福」につながること、「食事を一緒に食べる」ことに特別な意味があること。

 「それ、おもろいな」。これがキーワード。 

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2015年11月22日 (日)

日本の反知性主義

編  者:内田樹
出版社:晶文社
出版日:2015年3月30日 初版 4月25日 4刷
評  価:☆☆☆(説明)

 編者であるフランス現代思想の研究者である内田樹さんが、「反知性主義」を主題として各界の論者に寄稿を依頼してまとめた本。依頼に応じたのは、赤坂真理、小田嶋隆、白井聡、想田和弘、高橋源一郎、仲野徹、名越康文、平川克美、鷲田清一の9人。

 「反知性主義」とは、1950年代の米国で言われ始めた言葉で、1963年には「アメリカの反知性主義」という本が出版され、その本はピューリッツア賞を受賞している。そこでは「反知性主義」は、「知識人や知識人の意見の偏重に対する反感・アンチテーゼ」というような意味で使われている(らしい。まだ読んでいないので)。

 半世紀後の現在の日本では「反知性主義」という言葉が、「知性を働かせない」という意味をはじめとして幅広く使われる。場合によっては正反対の意味にさえなっている。そのあいまいさを払拭するため、本書でも、寄稿者のそれぞれが定義を試みている。そのため、本書全体としてのまとまりを欠いた感じがした。

 編者の内田さんは、「まえがき」で、安倍政権と「反知性主義」を結び付けている。寄稿者の顔ぶれを見ると、安倍政権への批判的な立場の人が多いようなので、そのような論考が続くのかと思ったが、そうはなっていない。「反知性主義」の料理の仕方に戸惑っている感じだ。

 このような混乱があることは認めるとしても、個々の論考は興味深かった。一つ例を挙げると、白井聡さんが紹介した「B層」の話。2005年の小泉郵政解散の総選挙の際に、自民党が選挙戦略として国民を、「構造改革に肯定的か否か」「IQが高いか低いか」の2軸で、AからDの4層に分けたとされるうちのBだ。

 つまりBは「構造改革に肯定的でIQが低い」層のこと。言い換えれば「マスコミ報道でそれ(規制改革など)がよいことだと喧伝すれば、それを鵜呑みにして「賛成」と叫ぶような人」となる。小泉自民党はこのB層を支持基盤とする綿密な戦略を立てて大勝利したらしい。

 「それを鵜呑みにして...」のB層が有権者の最大のボリュームゾーン、そう見られているのだ。大変な不快感を感じるけれども、よく考えれば、これが的を射た見方だと言わざるを得ない。念のため言うと「マスコミ報道で..」の部分は、他の言葉にも置き換えられる。「ネットで..」「あの人が..」とか。

 先に書いたように「反知性主義」という主題に関してはまとまりを欠いた感があるが、共通して感じたこともある。それは「自分の頭で考えること」と「対話」の重要性だ。

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2015年11月18日 (水)

だれもが知ってる小さな国

著  者:有川浩
出版社:講談社
出版日:2015年10月27日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルを読んで「これって、もしかしたら..」と思った人は、子どものころにそれなりに豊かな読書体験を持った方が多いだろうと思う。そう本書は、佐藤さとるさんの「コロボックル物語」を有川浩さんが書き継いだものだ。

 主人公はヒコ。物語の初めには小学校の3年生だった。「はち屋(養蜂家)」の子ども。蜜が取れる花を追って、両親とともに九州から北海道までを移動しながら暮らしている。

 それぞれの土地で、巣箱を置く場所は決まっているので、毎年同じ学校に戻ることになる。1年前に転出した学校に今年は転入する。その年も北海道の同じ学校に転入した。ただし昨年と違うことがあった。もう一人転入生がいた。その女の子の名はヒメ。彼女も「はち屋」の子どもだった。

 「はち屋」の仕事が屋外の晴れの日に行われることが多いせいか、物語全体に陽光が差したような明るい雰囲気に包まれている。ヒコのところには、コロボックルのハリーが訪れ、二人は友達になる。

 物語はこの後、ヒコとヒメの二人の暮らしを微笑ましく綴る。ボーイ ミーツ ガール。いつもよりも少し年齢が低いけれど、ここは有川さんの真骨頂だ。「コロボックル物語」の世界観に、有川ワールドが溶け込んでいる。これは奇跡だ、と思う。

 この奇跡は、佐藤さとるさんと有川浩さんの対談によって生まれた。佐藤さんがこう言ったのだ「有川さん、書いてみたら」。有川さんはその言葉に見事に応えたと思う。巻末の佐藤さんによる「有川浩さんへの手紙」が、それを証明している。佐藤さんは(眼が悪いのに!)一気読みしたそうだ。

 そして有川さんの、佐藤さんと「コロボックル物語」へのリスペクトは、冒頭の二行に現れている(分かる人にしか分からないけれど)。「二十年近い前のことだから、もう昔といっていいかもしれない。ぼくはまだ小学校の三年生だった。

 二人の作家の世代を越えたエールの交換に拍手。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

 佐藤さとるさんと有川浩さんの対談

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2015年11月15日 (日)

最強のリーダー育成書 君主論

著  者:鈴木博毅
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年10月30日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 著者の鈴木博毅さまから献本いただきました。感謝。

 本書はマキアヴェリの「君主論」を読み解いて、そのエッセンスを現代のリーダー育成のためのテキストに編み直そうというもの。念のため補足すると、マキアヴェリは15~16世紀のイタリアの政治思想家。「君主論」はそれまでの様々な君主・君主国を分析した著作。

 マキアヴェリズムと言えば「目的のためには手段を選ばない」という主義のことで、「君主論」はその由来にもなっている。そのような冷徹さは「君主論」の一側面を表しているがすべてではない。約500年前の著作が、今でもこうして読み継がれているのだから、読む人を惹きつけるものが他にあるのだろう。

 そして本書について。「ケチであれ 冷酷であれ 自ら仕掛けよ」「力を求め、力を愛せ」「悪を学んで正義を行え」「誇り高き鋼の精神を養う」「運も人も正しく支配する」の5章建て。テーマに合わせて君主論の中の一節を、現代にアレンジして解説する。

 読んでいて戸惑いを感じた。マキアヴェリの分析が多岐にわたるから仕方ないのかもしれないけれど、項目が多くて散漫な感じがした。中には「軽蔑されるな」とか「決断と責任から逃げる者は君主ではない」とか、「当たり前」のことも少なくない。

 また「君主論」が念頭に置いているのは中世の君主、軍事力で侵略から国を守る(場合によっては領土を拡大する)立場の者だ。現代の「リーダー」とのギャップは相当に大きい。だからこそ著者が「アレンジ」して解説するのだけれど、会社の社長ぐらいならまだしも、部下を持つ上司に当てはめるのは難しい。その果ては、家庭とか恋人との関係まで例えとして出てくる。

 とは言え「君主論」は、上に書いたように500年も読み継がれ、今もトップリーダーたちに影響を与えているらしい。その内容が気になる方は、本書を手に取ってみてもいいかもしれない。 

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2015年11月11日 (水)

陽気なギャングは三つ数えろ

著  者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2015年10月20日 初版第1刷 10月30日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「陽気なギャングが地球を回す」「~の日常と襲撃」に続くシリーズの第3弾。

 主人公は、お馴染みの響野、成瀬、久遠、雪子の4人組の銀行強盗たち。銀行強盗は2年ぶりだと言っているし、係長だった成瀬は課長になっているし、(第1弾で)中学生だった雪子の息子の慎一くんは大学生になっている。確実に時間が流れている、ということだ。

 時間は流れても彼らは変わらない。冒頭の響野の演説で「あぁあいつらが帰って来た」と感じた。「理由や意味のあることをほとんど言わない」という響野は、強盗に入った銀行で、カウンターに登って演説をする。

 その演説の間に仕事を終えて現場からは、正確無比な体内時計と超絶運転テクニックを持った雪子の車で逃走する。それが彼らのスタイル。ところが今回は現場から立ち去る時にアクシデントがあり、それが事件の発端。

 失踪したアイドルを追う怪しい雑誌記者に関わる→雑誌記者が通う会員制ギャンブルを開くギャンググループに関わる→追われる身になる..といった「巻き込まれ型」の展開で、テンポよく物語が進む。ちょっとした伏線が後で効いてくる。これまでのシリーズの良さが、そのまま生きている。

 「あとがき」に伊坂さん自身が書いているように、伊坂作品にはシリーズものは少ない。「この先どうなるのか分からない」話を書きたい、というのがその理由のひとつだそうだ。この「陽気なギャング」シリーズだって、簡単には先は読めないのだけれど、「お馴染みの雰囲気」が楽しめるという安心感はあって、それが心地いい。

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2015年11月 8日 (日)

公共図書館の論点整理

著  者:田村俊作、小川俊彦
出版社:勁草書房
出版日:2008年2月20日 第1版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 少し前に「本が売れぬのは図書館のせい?新刊貸し出し「待った」」というニュースを見て、このことについて調べてみようと思った。探せば思いのほか多くの資料が見つかり、本書もその一つ。

 本書は2008年の発行。公共図書館に関する報告としては、1963年に「中小都市における公共図書館の運営」(略称:中小レポート)、というものが出ていて、本書は折に触れてこの報告書に言及しながら、それ以降の公共図書館に関する言論を、いくつかの論点ごとにまとめたもの。

 冒頭に書いた「本が売れぬのは~」に直接関係する論点として、第一章「無料貸本屋」論がある。ここには「中小レポート」と「市民の図書館」という1970年出版の書籍を引きながら、「貸出」を図書館サービスの中核とした運営に対する、様々な意見がまとめられている。

 その他の論点として「ビジネス支援サービス」「図書館サービスへの課金」「司書職制度の限界」「公共図書館の委託」「開架資料の紛失とBDS」「自動貸出機論争」が、それぞれ一章を割いて論じられている。

 本書は2008年の時点でそれ以前を振り返ったもので、私はそれを7年後の2015年から眺めていることになる。その視点で言うと「2008年時点の論点(敢えて言うと課題)を、そのまま引きずって現在に至っている、という感じを強く受けた。

 今回の「本が売れぬのは~」は「無料貸本屋論」からの流れが続いたものだし、「公共図書館の委託」での懸念は「TSUTAYA図書館」という形で現実のものになった。「課題を認識しながら変えられなかった」と、公共図書館の力不足を言うのは簡単だけれどそれは酷だと思う。

 公共図書館の課題は、大きな流れの中にあるように思う。これに逆らうのはなかなか骨折りだろう。ただ、そこを何とかしないといけないんじゃないかとも思う。20年後30年後の出版・読書が、少なくとも今と同じぐらいには健全であるためには。

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2015年11月 4日 (水)

NO.6 #1~#9

著  者:あさのあつこ
出版社:講談社
出版日:(1)2004.2 (2)2004.10 (3)2004.10 (4)2005.8 (5)2006.9 (6)2007.9 (7)2008.10 (8)2009.7 (9)2011.6 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルの「No.6」は、本書の舞台となる都市の名前。地球は、核戦争や環境汚染によって荒廃し、人類が住める場所は僅か6カ所になってしまった。そこに至って人々はようやく危機を悟り、武力を放棄し残された6カ所に都市を建設した。その6番目が「No.6」。叡智と科学技術を結集した、史上稀有なる理想都市だ。

 壁の中に建設された都市では、気温湿度天候などがコントロールされ、人々は快適な暮らしを送り、最高の教育と医療を約束され、なんの恐れも不満も抱くことなく暮らしていた。まさに「理想都市」。しかしながら本書は、その言葉とは正反対の意味を持つ「ディストピア小説」だ。

 どうして理想都市が「ディストピア」なのか?その理由の象徴が「壁」。快適な都市を取り囲む壁、その外には、ひどく荒んだ人々の暮らしがあった。また都市の中でも、市の幹部、一握りのエリート、その周辺、底辺の庶民と、見えない「壁」で分断され、人々は管理されていた。恐れも不満も抱くことがないのではなく、抱くことを許されなかったのだ。

 物語は主人公の青年、紫苑の12歳の誕生日から始まる。紫苑はエリート層として、快適な暮らしを送っていた。そこに、凶悪犯罪を犯して脱走中の少年ネズミが、重傷を負って転がり込んでくる。紫苑はネズミを匿ったことから、エリート層から転がり落ち、彼自身もお尋ね者に。そんな時にネズミと再会する。

 この後、物語は9巻を費やして、「No.6」と対決する紫苑とネズミの二人と、二人に関わる何組かの人々を描く。最悪の環境の中で心を通じ合った人々、哀しみの中でも強い心を失わなかった人々、そしてわずかな可能性に賭けて、強大な「No.6」に挑んだ紫苑とネズミ。ヤングアダルト向けならではのワクワク感が充満している。

 最後に。この物語の最初、紫苑の12歳の誕生日は2013年に設定されている。「No.6」との闘いはその4年後。地球が壊滅的に荒廃したのは数十年前。この物語は「近未来小説」とも、パラレルワールド(並行世界)の地球を描いたものとも言える。並行世界は私たちのこの世界の影、この世界もいつこのようになってもおかしくない。

 著者は第2巻の「あとがき」に、この物語を書くきっかけを書いている。「戦争は、飢餓は、世界は、どうなっていますか?」から始まるこの文章には、異国で起きている戦争や飢饉にコミットしてこなかった悔恨が綴られている。「だから、どうしてもこの物語を書きたかった」そうだ。

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2015年11月 1日 (日)

ヤフーとその仲間たちのすごい研修

著  者:篠原匡
出版社:日経BP社
出版日:2015年7月21日 第1版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 出版社の日経BP社さまから献本していただきました。感謝。

 本書はヤフー株式会社の人事本部長である本間浩輔氏が仕掛けた、人材育成研修の様子を記録したもの。この研修は「次世代のリーダーの育成」を目的としたもので、ヤフーだけでなく、アサヒビール、日本郵便、インテリジェンス、電通北海道といった多様な企業の幹部・リーダー候補生が参加する異業種コラボレーション研修だ。

 研修テーマは「北海道美瑛町の地域課題の解決」。数人からなるAからFまで6つのチームに分かれ、それぞれには美瑛町役場の職員も参加する。6か月で5回のセッション、全12日。その間に「効果的かつ美瑛町で実現が可能な」解決策を練り上げて提案しなくてはいけない。参加者にとってはハードルの高い研修と言える。

 期間中には様々な問題が起きる。それでも、受講者と運営サイドが持てる能力を注いで研修を前に進める。その様子と最終的な提案の内容が、要領よく描かれている。読み物としても面白い。研修を進めるためのノウハウも興味深い。

 思ったこと。求めらるのはやはり「課題解決力」なのだな、ということ。「やはり」というのは、これは私が20数年来意識してきたことだからだ。「何か起きた時にそれをどうにか解決する力」。物事を前に進めるにはそういった力が必要だ。

 しかし、それだけでは足りない。企業も地域社会も、もちろんもっと大きなくくりでも、分かりやすい「課題」を解決するだけでは立ち行かなくなっているからだ。「課題の設定」自体も難しくなっている。解決にはブレイクスルーが必要なこともある。

 そこで重要なキーワードが「ダイバーシティ」。「多様性」と訳される。この研修が異業種コラボレーションで行われたのには、多様性を確保するためらしい。「女性や外国人が入りました」というような単純なことではなく、価値観の違う「合わない人」との議論、言って見れば「摩擦」からしか得られないことがある、という。..これは大変な時代になった。 

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