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2015年10月

2015年10月28日 (水)

海うそ

著  者:梨木香歩
出版社:岩波書店
出版日:2014年4月9日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 梨木香歩さんの書き下ろしの近著。一昨年に創業百年を迎えた岩波書店の「創業百年記念文芸」として出版。大自然の中で魂に触れそうな物語。

 舞台は南九州の「遅島」。時代は昭和の初め。主人公は20代半ばの人文地理学の研究者の秋野。秋野は亡くなった主任教授が残した未完了の報告書を見て、遅島に心惹かれてやってきた。遅島は古代に修験道のために開かれた島で、明治初年までは大寺院が存在していた。

 「存在していた」と過去形なのは、明治初期の廃仏毀釈の嵐によって、寺院が徹底的に破壊されたからだ。後に明らかになるけれど、今は礎石などの痕跡が残されているだけだ。この島は「喪失」を抱えている。

 物語は、フィールドワークとして、秋野がかつてあった寺院群を訪ねる山行を描く。実は、秋野も心の内に「喪失」を抱えている。一昨年に許嫁を亡くし、昨年には相次いで両親を亡くしていた。秋野が抱える「喪失」に島の自然が共鳴する。そんな物語だ。

 本書は、この物語に50年後の後日談が続いている。50年の歳月は、物語の雰囲気をガラッと変えてしまう。しかし、そこにさらなる「喪失」を描き、「再生」と「発見」を描くことで、物語世界が大きく広がっている。

 「遅島」は架空の島。冒頭に地図が載っているけれど、その姿は、鹿児島県薩摩川内市の中甑島に似ている。

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2015年10月24日 (土)

本当の戦争の話をしよう

著  者:伊勢﨑賢治
出版社:朝日出版社
出版日:2015年1月15日 初版第1刷 2月15日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 著者は、国連PKOの幹部として、まず東ティモールに、次はシエラレオネに、さらに日本政府特別代表としてアフガニスタンに派遣されて、それぞれの場所で武装解除の任務にあたった人物。

 「武装解除」というのは、紛争の当事者に武器、特に重火器を手放させること。つまり著者の任務は、最近までドンパチやっていた(場合によってはその最中の)連中の幹部に会って「もうその辺でやめたらどうだ」と説得する役目。並の胆力でできることではない。

 本書はそんな著者が2012年に、福島高校の2年生、この企画に応じた18人の生徒に話した5日間の講義をまとめたもの。「平和」について、世界の紛争の現場、ニュースでは報じられない事情などを、時にユーモアを交えて話す。

 私は、テレビのニュースを見て、新聞を読んで、それに疑問があれば調べてと、「事実」を知る努力をそれなりにしてきたつもりだ。しかし、著者が語る話は驚きの連続だった。

 例えば、紛争の現場では「正義の英雄」と「テロリスト」が容易に入れ替わること。それは国際社会が(多くの場合はアメリカが)、どちらに付くかによること。民主主義国が戦争をする前には、国家がウソをつくこと。

 思ったこと。私たちはよく「日本政府は」とか「アメリカが」とか「アルカイダは」と、国家や組織が人格と意思を持って活動しているように話すし考える。でも突き詰めれば、判断し行動するのは一人の人間なのだ。著者はPKOや政府を代表しているけれど、紛争当事者の幹部とは、お互いに一人の人間として相対することになる。

 注目した言葉。「日本人のYOUが言うんだからしょうがない」著者が武装解除の交渉をしたアフガニスタンの軍閥のリーダーの言葉です。上に書いたこととは矛盾するようだけれど、国家は個人の属性のひとつだ。「戦争をしない日本」の役割、と漫然としたイメージで語られることが、紛争の交渉の場で現実に言葉として結実している。

 最後に。著者が行った武装解除は例外なく完了したが、その地域は例外なく「平和」になっていない。また著者自身が言うように「戦争の現場の経験者だと特別視されがち。でも、実はあまりあてにならない」。だから、著者自身を100%肯定して崇めるのは間違っている(「すげぇ人だな」とは思うけれど、どこか私と相容れないものを感じる)。

 それでも、安倍政権が進める安保法制に賛成する人はもちろん、賛成しない人も、本書を読んで内容を咀嚼してから、もう一度自分の考えを整理して欲しい。だから☆5つ。

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2015年10月21日 (水)

ナイルパーチの女子会

著  者:柚木麻子
出版社:文藝春秋
出版日:2015年3月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 今年の山本周五郎賞受賞、直木賞候補作品。「ランチのアッコちゃん」「本屋さんのダイアナ」を読んで、著者の作品の女性の性格や関係性の描き方がけっこう好きだった。直木賞候補になった時に本書を知って、いつか読んでみようと思っていた。

 「これまで私が読んだ作品とはだいぶ違う」と、4分の1ぐらい読んだところで思った。これまでの作品は、足元がしっかりした見通しのいい物語だったが、本書は違った。うっかりするとぬかるみに足が取られそうだし、どこに連れていかれるのかも分からない。

 主人公は栄利子と翔子の二人。ともに30歳。栄利子は大手商社に勤める会社員。仕事はできる方でしかも美人、独身。翔子は専業主婦で「おひょうのダメ奥さん日記」というブログを書いている。ブログはランキングに入るほどには人気がある。

 翔子がカフェで、編集者とブログの書籍化のことを話しているところに、栄利子が居合わせた。前々からブログの熱心な読者であった栄利子が、翔子に声をかけて二人は出会う。そしてすぐに「友達」になった。

 栄利子が真面目な商社マンで、翔子がぐうたら主婦、という取り合わせで、共通点は女友達がいないこと。二人とも「欲しい」と思っていたので、これは幸せな出会いだった。ところが、翔子がブログの更新を怠ったことから、二人の気持ちにズレが生じて、やがて修復不可能な事態に発展する...。

 直木賞の選評で、林真理子さんが本書について「主人公の女性に女友だちがいないというのも不自然」と、言われたそうだ。「女友だちがいないのは不自然」。その言葉がまさに、栄利子や翔子の「孤独」の裏付けになっていて皮肉だ。

 本書を読んで「女はコワイ」と思うのは簡単。でも「友達」「親友」って何?とか、「正気」と「狂気」とか、考えると違う景色が見えそうだ。ぬかるみに足を取られそうだから、敢えておススメはしないけど。

 最後に。この本を女性が読むとどう感じるのだろう?

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2015年10月17日 (土)

安倍政権の裏の顔 「攻防 集団的自衛権」ドキュメント

著  者:朝日新聞 政治部 取材班
出版社:講談社
出版日:2015年9月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、序章を除くと2012年暮れの第2次安倍政権発足から、2014年7月の集団的自衛権の行使を認める閣議決定までの、約1年半の与党の動きを追った記録。タイトルからは、何やら陰謀めいたものや秘密の暴露を期待してしまうが、そういったものはない。

 「秘密の暴露はない」というのは、秘密にすべきことは書かれていないからだ。本書は「オンレコ」を原則とした取材を基に執筆されている、つまり取材対象者が「公開していい」と判断した内容だということ。著者が朝日新聞の取材班というだけで、否定的な見方をする人もいそうだけれど、これは与党の議員や関係者が話したことなのだ。

 読んで多くのことが分かったし、多くのことを思った。今回は本の感想・書評というより、この本を読んで思ったことを2つ述べる。1つめは「集団的自衛権の行使容認なんて必要なかったんじゃないか」ということだ。

 そう思った理由は次の一言に集約されている「「集団的自衛権行使に必要な事例を探せ」と言われたので、ひねり出した」。これは公明党の勉強会での、内閣官房の役人の発言。ここで「ひねり出した」という事例が、あの「赤ちゃんを抱いた母親」のイラストのパネルを使って安倍総理が説明したものだ。

 順序が逆なのだ。解決すべき問題への対処の必要という「理由」があって、集団的自衛権の行使容認という「結果」がある、というのが正しい順序だ。「結果」が先「理由」が後では本末転倒。これでは国会の答弁が混乱するはずだ。後付けの「理由」は本当に必要なのか?、それが必要でなければ「結果」も必要ない。

 思ったことのもう1つ。「「結果を出す」ことへの強迫観念」。これには少し説明が必要だと思う。

 「平和の党」の公明党は、集団的自衛権の行使を認めない立場だったが、ブレーキ役を自任し、連立離脱を封印して与党に残る。ある時から「落としどころ」を探るようになり、結果として「歩み寄って」合意する。ただし「歩み寄る」うちに一線を越えて、行使容認NOからYESへ180度変わってしまっていたわけだ。

 これについて「与党にしがみついて魂を売ってしまった」的なことを言われるけれど、それは違うらしい。主張をぶつけ合うだけでは、一歩も前進しないで「結果」がでない。実社会では「過程」より「結果」が重視され、政治の世界では特にそうだ。公明党は、だから「結果」を求めてしまった、そういうことだと思った。

 しかし、今回は「結果」を求めて「落としどころ」なんか探っちゃいけなかった。「過程」はどうあれ「結果」として、「魂を売ってしまった」感は否めないし、多くの民意に背いているからだ。

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2015年10月14日 (水)

真田丸と真田一族99の謎

著  者:戦国武将研究会
出版社:二見書房
出版日:2015年10月31日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 来年のNHK大河ドラマのタイトルは「真田丸」。信州上田を本拠とする真田氏の物語。真田氏は地方の小勢力ながら、群雄割拠の戦国時代を生き抜いた一族。中でも真田信繁(幸村)は、大坂夏の陣で家康を追いつめ、その後永らく戦国のヒーローとして勇名を馳せている。

 この大河ドラマ「真田丸」の放映を前に、「真田氏本」というジャンルができるのではないか?と思うほど、真田氏関係の出版が相次いでいる。本書もその一つで、真田一族についての様々なエピソードを紹介・検証した本。

 著者は「戦国武将研究会」という、日本史好きのライター、編集者、作家、武将マニアなどが集う団体。つまり「好き」でやっている人たちらしく、文章の端々から戦国武将への思い入れの「熱」を感じる。

 逆に言えば、歴史研究の専門家ではないので、「検証」の部分については、少し疑問を感じるものもある。ただし、荒唐無稽なものはない。あくまでも真面目に誠実に調べたものだ。真田氏については残された史料が少ないこともあって、断定できないことがあるので、そのあたりが気になっただけだ。

 実は私は、仕事で真田氏について研究者からお話を伺うことも多く、自分自身でも調べている。そんなわけで「検証」の部分に少し引っかかりを感じた。その「引っかかりがある」ことを認めた上で、本書は真田氏に関する話題が網羅的に、且つとてもコンパクトにまとまっていて良い本だと思う。大河ドラマの予習に打ってつけの一冊だ。

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2015年10月10日 (土)

職業としての小説家

著  者:村上春樹
出版社:スイッチ・パブリッシング
出版日:2015年9月17日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 村上春樹さんは、日本では講演やスピーチをする機会がほとんどない、もちろんテレビ番組にも出られない。つまり「あまり人前に出ない作家」という位置付けかと思う。しかし、雑誌「考える人」のロングインタビューや「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」など、インタビューに応える形では、ご自分の仕事や考えについてかなり深くお話になっている。

 そして本書は、そうしたこと(つまりご自分の仕事や考え)について、「まとめて何かを語っておきたい」という気持ちから、仕事の合間に書き溜めた文章に推敲を重ねたものだそうだ。全部で12章あるうちの前半の6章は、翻訳者であり著者と親交もある柴田元幸さんが立ち上げた雑誌「Monkey」に掲載されたもの。

 小説を書く方法論を書いた「第五回 さて、何を書けばいいのか?」や、学校や教育システムについて書いた「第八回 学校について」は、著者の仕事や考えについて多くのことが語られている。「第四回 オリジナリティーについて」は、五輪のエンブレム問題を受けて、タイムリーに一つの視座を提供してくれる。

 タイムリーと言えば「今年もノーベル賞を逃した」今、「第三回 文学賞について」がまさにそうだ。ご自身のことについては「芥川賞」を例にしてお話しになっているけれど、レイモンド・チャンドラーの言葉を引いて、ノーベル賞にも触れている。マスコミは、勝手に候補にして勝手に落選させるのは、いい加減やめた方がいい。

 私が一番「そうだったのか!」と思ったのは、「第二回 小説家になった頃」。著者がご自分が経営するジャズ喫茶のキッチン・テーブルで、デビュー作の「風の歌を聴け」を書いたことは、これまでにも何度も語られていて公知のことだ。

 しかし、あの文体がどうやって生まれたのかは、本書のこの章をを読むまで、寡聞にして知らなかった(これが「初公開」というわけではないようだけれど)。そうだったのか!。(「やめた方がいい」と言ったばかりだけれど)ノーベル賞候補への道は、35年前のこの時から始まっていたんじゃないかと思う。

 この章を読んで、もう一つだけ。「奥さまあっての村上春樹さん」なのだなぁと思った。

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2015年10月 7日 (水)

高校生にも読んでほしい安全保障の授業

著  者:佐藤正久
出版社:ワニブックス
出版日:2015年8月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 私はこの度の安保法制には納得のいかないことが多い(はっきり言うと反対)のだけれど、賛成の意見も知ろうと思って、本書を読んでみた。ネットやテレビでは、じっくり聞くには短すぎるためか、論理展開が雑で表現が乱暴なものばかりで参考にならない。やっぱり1冊の本ぐらいの分量は必要なのだと思う。

 それで書店に行って安保法制関連のコーナーで、何冊かパラパラと読んでみた。本書が一番ていねいで理性的に書いてあるように思った。「ヒゲの隊長」こと、参議院議員佐藤正久さんが、高校生に向けて書いた本だ。

 「集団的自衛権ってなに?」「日本の身近にある脅威とは?」「戦わずに国を守る方法はあるの?」「自衛隊員のリスクをいかに下げるか?」「スッキリわかる!安全保障Q&A」の5章建て。授業を模して1限目、2限目..と読み進むようになっている。

 一読して著者の主張はよく理解できたと思う。特に、自衛隊の隊長としてイラクに派遣された経験を基にした説明には説得力があった。そういうことであれば、私も何らかの法改正の必要性を感じる。ただしそのためには、もっとコンパクトで効果的なやり方があって、それで十分。「集団的自衛権の行使容認」というような物々しいものには、他の目論見があるように思う。

 残念なことも多い。「中国による領空侵犯のケースが増えている」というのは事実誤認(「防衛省の報道発表によると、中国機による領空侵犯は2012年の1回のみ)だろう。南シナ海の記述には誇張がある。テロの危険が増えることも、アメリカの戦争に巻き込まれる恐れも認めるけれど、それには有効な答えがない。

 それでも、著者が国会の議論に加わっていたら、違った結果になったのにと思う。著者は、上にも書いたように、テロの危険やアメリカの戦争に巻き込まれるという「リスク」を認めているからだ。もちろん自衛隊員のリスクが高まることも認めている。

 私は、衆院の特別委員会で中川防衛相が「自衛隊員のリスクは高まらない」と答弁したあたりから、国会の議論は空転してしまったと思っている。なぜならリスクを認めないとリスクを減らすための議論はできないし、抑止力という効果がリスクに見合うものかどうかも考えられないからだ。

 著者に問いたい。この安保法制で良かったんですか?と。ご子息を含む著者の後進の自衛隊員たちは、手足の縛りを少しだけ緩められて、より危険な任務に送られることになる、と思うからだ。

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2015年10月 4日 (日)

ゆんでめて

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2012年12月1日 発行 12月10日 2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」 シリーズの第9作。第1作「しゃばけ」、第5作「うそうそ」、前作「ころころろ」に続く4作目の長編(5編の連作短編)作品。しかし今回は、後述するようにとても斬新な構成になっている。

 タイトルの「ゆんでめて」は「弓手(ゆんで)馬手(めて)」で、弓を持つ「左手」と馬の手綱を握る「右手」という意味。本書の冒頭で一太郎が右の道を駆けて行く。本当は左の道を行くはずだった。ここは運命の分かれ道でもあった。

 一太郎は、兄の松之助の子どもの松太郎の祝いの席に居た。松太郎は4歳。元気いっぱいで、そのせいか松之助の店は明るさに満ちていた。ところが一太郎は元気がない。元来が病弱なので珍しいことはないのだけれど、今回は別の理由があった。友でもある妖の「屏風のぞき」が行方不明なのだ。

 こうして始まった後は、いつものようにちょっとした謎解きや、登場人物たちの大騒ぎが、楽しく綴られていく。2編目の「こいやこい」には、可愛らしいお嬢様が5人も登場して、なんとも華やかだし、3編目の「花の下にて合戦したる」は、オールスターキャストの装いで、4編目の「雨の日の客」にも懐かしい人が出てくる。本書は読者サービスの巻かと思う。

 そんな感じで楽しく読めるのだけれど、本書はそれだけでなく、とんでもない大仕掛けが仕掛けられている。冒頭の「兄の松之助の子どもの~」のくだりは、前作まで読んでいる読者が知らないことばかりで、明らかに時間が飛んでいる。実は本書は、短編を読み進めるごとに時間を遡る仕組みになっているのだ。

 「解説」にも書かれていたけれど、著者は各巻ごとに様々な工夫を凝らしている。短編集あり、連作短編集あり、長編もあり、時に主人公を変えてみたり。しかしシリーズ9作目にして、ここまで実験的な試みをするとは驚きだ。しかも「解説」によると、続巻も「括目して待て」とのことで、とても楽しみだ。

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「ゆんでめて」 固定URL | 1.ファンタジー, 1B.畠中恵 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年10月 1日 (木)

天空の蜂

著  者:東野圭吾
出版社:講談社
出版日:1998年11月15日 第1刷 2015年7月21日 第68刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 20年前に刊行された本書を原作とした、同名の映画がロードショー中。9月12日の公開前後にはCMも流れていたのでご覧になった方もいるだろう。

 時代は刊行時と同時代、つまり今から20年前。その日、防衛庁に納められる予定だった、胴体長33.7mという超大型ヘリコプター、通称「ビッグB」が何者かに盗まれる。遠隔操作という前代未聞の方法で。「ビッグB」は、敦賀半島北端にある原子力発電所に飛来し、原子炉の真上で停止する。

 犯人からの要求はシンプルだが、政府に重大な決断を迫るものだった。「稼働中、点検中の原発をすべて使用不能にすること。建設中の原発は、すべて建設を中止すること」。その要求が受け入れられない場合は「ビッグB」を原子炉に墜落させる..。

 本書は文庫本で600ページ超もある長編だけれど、ここまでわずか50ページあまり。このスピード感のまま、「ビッグB」の設計者、原発の関係者、犯人を追う警察官、そして事件の犯人その人など、多くの登場人物のストーリーを並行して描く。息をつく間もない、とはこのことだ。

 本書が投げかけるテーマは重い。福島の原発事故を予見するかのようなストーリーに寒気を覚える。犯人の最後のメッセージは私たちへの警告だ。思えば私たちは何度か警告を受け取っているのに、それを生かせていないのではないか?

 本書を多くの人に読んでもらいたい。映画も観てもらいたい。

 映画「天空の蜂」公式サイト

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