« 2015年3月 | トップページ | 2015年5月 »

2015年4月

2015年4月29日 (水)

火花

著  者:又吉直樹
出版社:文藝春秋
出版日:2015年3月15日 第1刷 3月20日 第2刷 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 お笑い芸人の又吉直樹さんの小説としてのデビュー作。初版15万部という異例の扱いの前評判の高さに違わず、発売から1月足らずで4刷、35万部のベストセラーになっている。

 ここまでなら、有名人のデビュー作で、マスコミの露出の多さもあって、一種のお祭り状態かもしれない。しかし、4月22日には三島由紀夫賞の候補作になった。これはホンモノか?これもお祭りか?

 主人公は徳永。物語の始まりの時は20歳。職業は、売れない漫才師。熱海の花火大会の営業で先輩芸人の神谷と出会い、そこで神谷の「弟子」になった。本書は、徳永と神谷の約10年間の物語。

 「師匠と弟子」とは言っても、神谷も「売れない芸人」だ。ただ、笑いに関して独特のポリシーがあるらしい(ホントはそんなものないのかもしれない)。「(漫才は)本物の阿呆と自分は真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現できる」とか言ったりする(やっぱりポリシーなんてないのかもしれない)。

 三島由紀夫賞に値するのか?ということは私には分からない。でも、偉そうな物言いを許してもらえば、この作品には才能を感じた。特に大きな事件が起きるわけでもなく、仕掛けがあるわけでもない。それに主要な登場人物が「売れない芸人」なので、会話もギャグも「しょーもない」。それでも最後まで集中が途切れることはなかったのだから、筆の運び方が上手いんだと思う。

 筆の運び方と言えば特徴的な言い回しが目立った。「渋谷駅前は幾つかの巨大スクリーンから流れる音が激突しては混合し、(中略)一人一人が引き連れている音もまた巨大なため、街全体が叫んでいるように..」とか、「人々は年末と同じ肉体のまま新年の表情で歩いていて..」とか。

 こうした過剰に思える修飾は、読書家でも知られる著者が「純文学」をイメージした「遊び」なんだろうと思う。こうした言い回しが煩わしいようで、Amazonレビューをはじめとして、ネットには酷評が散見されるけれど、私はこの作品で充分に楽しめた。

 最後に。私が関西の生まれで、「しょーもない」会話を浴びて育ったので、「しょーもない」のがキライではないことも、この作品の評価に関係しているかもしれない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「火花」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月25日 (土)

胡蝶の失くし物 僕僕先生

著  者:仁木英之
出版社:新潮社
出版日:2009年3月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「僕僕先生」「薄妃の恋」につづくシリーズ第3弾。元ニート青年の主人公の王弁と、彼が師と仰ぐ仙人の僕僕先生の旅を描く。前作で僕僕先生が救いの手を差し伸べた、薄妃を道連れにして中国大陸を南下していく。

 僕僕先生と王弁は、行く先々で病や災害に苦しむ人々を救って来た。感謝されることはあっても、恨まれることはないはずなのだけれど、「救世主」を喜ばない人々も存在する。今回の物語の発端は、朝廷の何処かから発せられた僕僕先生の暗殺指令。

 今回も面白かった。川を司る女神、巨大な蚕の姿をした少女ななど、多彩な登場人物たちが個性的でかつ憎めない。女神とか高僧とかの恐れ多い立場の人たちも人間臭いし、殺し屋さえ心の隅に優しさを抱えている。

 仙人としての術も、剣術などの武芸も、どれを取っても超絶強い僕僕先生だから、何事が起きても危なげないのだけれど、弟子の王弁くんがいろいろやらかしてくれる。

 僕僕先生と王弁くんの関係がどうなっていくのか?本書のラストによると、旅はまだまだ続きそうだから、しばらく楽しめそうだ。

 にほんブログ村「ファンタジー」ブログコミュニティへ
 (ファンタジー小説についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「胡蝶の失くし物 僕僕先生」 固定URL | 1.ファンタジー, 1D.仁木英之(僕僕先生) | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月22日 (水)

僕は、そして僕たちはどう生きるか

著  者:梨木香歩
出版社:理論社
出版日:2011年4月 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「家守綺譚」「西の魔女が死んだ」など、私が大好きな作品の著者である梨木香歩さんの近著。

 主人公は14歳の少年のコペル。両親とは離れて一人で暮らしている。コペルというのはもちろんあだ名で、叔父のノボちゃん(これももちろんあだ名)が命名した。ノボちゃんは染色家、草木染作家をしている。

 物語は5月の連休の初日の1日を描く。その日コペルは市内を少しはずれたところにある雑木林に出かける。土壌採取して棲んでいる虫の種類を調査するためだ。そしてそこで、熱心にイタドリを刈り取るノボちゃんに会う。

 ノボちゃんがイタドリを刈り取っているのは、染色の材料に使うためだ。ではコペルの「調査」は?中学生の休日の過ごし方としては変わっていると思う。まぁ理由は後で明かされるし、彼の周囲の人々が明らかになるにつれ、その中では「そんなに変わっていない」ことも分かる。

 この後、コペルとノボちゃんは、コペルの友達のユージン(これもあだ名)の家に行く。ユージンの家は代々裕福な農家で、広い敷地はちょっとした森のようになっている。

 梨木さんの作品は植物の描写が丁寧なものが多いけれど、本書もそのひとつ。ユージンの家の森の木々や草花がひとつひとつ丁寧に紹介される。それはそれは瑞々しく描かれる。

 こんな感じで、中学生が自然の中で過ごす爽やかな休日、と思っていたら、思いのほかズッシリと重いものを受け取る。そこで読者は「僕は、そして僕たちはどう生きるか」というタイトルを思い出すことになる。

 この国が「右傾化している」と言われる今、本書が投げかけるテーマは重大な意味があると思う。少し長くなるけれど、2カ所引用する。

 「大勢が声を揃えて一つのことを言っているようなとき、少しでも違和感があったら、自分は何に引っ掛かっているのか、意識のライトを当てて明らかにする。自分が足がかりにすべきはそこだ。自分基準で「自分」をつくっていくんだ。他人の「普通」は、そこには関係ない。

 「国が本気でこうしたいと思ったら、もう、あれよあれよという間の出来事なんだ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「僕は、そして僕たちはどう生きるか」 固定URL | 2.小説, 25.梨木香歩 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月18日 (土)

残月 みをつくし料理帖

著  者:高田郁
出版社:角川春樹事務所
出版日:2012年3月18日 第1刷発行 2014年5月18日 第12刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「みをつくし料理帖」シリーズの第8作。「かのひとの面影膳」「慰め海苔巻」「麗し鼈甲珠」「寒中の麦」の4編を収録した連作短編。

 主人公の澪は、江戸の元飯田町にある「つる家」という料理屋の板前。彼女には、かつて修業した「天満一兆庵」の再興と、今は吉原にいる幼馴染の野江と昔のように共に暮らす、といった2つの望みがある。

 今回は、この2つの望みに関連して大きな出来事が起きる。「天満一兆庵」の再興には、お店の若旦那である佐兵衛を探し出す必要がある。幼馴染の野江のことについては、当然ながら野江との面会が先に立つ。バラしてしまうとこの2つの「再会」は叶う。しかしどちらも澪が望んだような形にはならなかった。

 その他にも今回は動きが多かった。支えてくれる人にが恵まれていたが、前回、前々回あたりから、澪の周りから人が離れていく。関係が断たれた人、亡くなった人、引っ越して行く人。そして新たな試練の予感。

 ところでこのシリーズのタイトルには、気候や空に関する言葉が使われている。それが物語のどこか肝心のところで登場する。今回の「残月」は十五夜の翌朝の空に残った満月。その月を見た幼い子どもの呟きが切ない。

あんな風に、どこも欠けていない幸せがあればいいのに」 それは手を伸ばしても届かない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「残月 みをつくし料理帖」 固定URL | 2.小説, 2D.高田郁 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月15日 (水)

イニシエーション・ラブ

著  者:乾くるみ
出版社:文藝春秋
出版日:2007年4月10日 第1刷 2015年3月15日 第58刷 
評  価:☆☆☆(説明)

 ずいぶん前に知り合いから薦められていた本。その時にはそれほど売れてはいなかったと思うけれど、今や150万部超(2015年4月)というミリオンセラーになっている。今年5月23日には、松田翔太さん主演の映画が公開予定。

 主人公は鈴木、大学4年生。舞台は1987年の静岡。人数合わせで参加した合コンで知り合った繭子と恋に落ちる。本書は、鈴木と繭子が織りなすラブストーリーだ。

 ラブストーリーは嫌いではないけれど、本書には抵抗があった。官能小説(エロ小説と言っしまっては品がないので)と見まがうシーンもあって、50代のオジサンの私が、自宅のリビングで読むのはどうだろう?と。

 とは言え楽しめたこともあった。著者は私と同い年で、主人公の鈴木は私の2つ下。物語は私が過ごした学生時代と重なることが多く、懐かしいものに再会したような気分だった。「クイズダービー」とか「フィーリングカップル5vs5」とか。

 それだけの小説であったなら、150万部のミリオンセラーにはならない。さらに付け加えることがある。これは「ネタバレ」に相当する情報かもしれないけれど、Amazonの紹介文にも本の裏表紙にも書いてあるので、許容範囲と判断して言う。本書には大きな仕掛けがあって、読者が読んでいる物語は、実は全然違う物語だったことが最後に分かる。

 著者はミステリー作家。だから本書も一見するとラブストーリーだけれど、実はミステリーなのだ。

 映画「イニシエーション・ラブ」公式サイト

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「イニシエーション・ラブ」 固定URL | 3.ミステリー | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月12日 (日)

資本主義の終焉と歴史の危機

著  者:水野和夫
出版社:集英社
出版日:2014年3月19日 第1刷 2014年7月14日第9刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 今年の新書大賞の第2位。ちなみに第1位は「地方消滅」。「終焉」とか「消滅」とか、マイナスイメージの言葉を含むタイトルが上位を占める。ご時世かもしれないけれど、これでいいのか?とも思う。

 著者は証券会社のチーフエコノミストや、内閣官房の審議官などを歴任した、いわば経済分析のエキスパート。その著者が「資本主義の死期が近づいている、それに伴って民主主義・国民国家という近代社会も危機に瀕している」と言うのだからショッキングな内容だ。

 詳細な数値を上げて、米国、BRICSなどの新興国、日本、ヨーロッパのそれぞれの状況が解説されている。解説そのものは少し難解で、よく読まないとしっかりと胸に落ちない。でも、もう少し大づかみな理解なら捉えやすい。

 つまりこうだ。1.資本主義は「資本の増殖」という「成長」を前提とした仕組み。2.また「周辺」から「中心」に富を集中させることで成り立っている。例えば地方から都市に、途上国から先進国に..。

 3.そして「周辺」を拡大することで「成長」を実現している。4.ところが、グローバリゼーションによって、もうこれ以上「周辺」を広げる余地がない。5.資本主義は「成長」できないと成り立たない。→「終焉」を迎える。

 理路整然としているけれど、こんな主張はエコノミストの間では少数派だろう。著者自身も「私は「変人」にしか見えないことでしょう」と書いている。

 それでも私は、すごく説得力を感じた。安倍政権をはじめ世界中の政府が「成長」を声高に叫ぶのが、著者の主張の正しさの証左ではないかと思う。しかし無理な「成長」は歪みを生む。

 その歪みが臨界点を越える前に、「成長」を必要としない次のシステムを、というのが著者の希望だけれど、...状況は絶望的だ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「資本主義の終焉と歴史の危機」 固定URL | 7.オピニオン | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月 8日 (水)

ころころろ

著  者:畠中恵
出版社:新潮社
出版日:2011年12月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「しゃばけ」 シリーズの第8作。第1作「しゃばけ」、第5作「うそうそ」に続く3作目の長編(5編の連作短編)作品。

 前作「いっちばん」で18歳になっていたはずの、廻船問屋「長崎屋の」跡取り息子で主人公の一太郎が、最初の短編「はじめての」では12歳になっていた。これはどういうことか?と思ったが、どうやら12歳のころの出来事が、今回の事件の発端となっているらしい。

 「今回の事件」とは一太郎が失明してしまうことだ。2つめの短編「ほねぬすびと」の冒頭、布団で目覚めた一太郎の目には暗闇しか映らなかった。病弱で始終寝込んでいる一太郎だけれど、今回の原因は病ではないらしい。

 そんなわけで一太郎の目に光を取り戻すことが、本書の長編としてのテーマになる。それぞれの短編は、それぞれちょっとした謎を追いかけるミステリーになっている。長短の両方の展開が楽しめる作りになっている。

 面白かった。一太郎や「長崎屋」の面々ら人間と、一太郎の周辺にたくさん集ってくる妖らといった、いつものメンバーに、今回はなんと「神さま」が加わっての騒動は、賑やかだった。

 文庫には漫画家の萩尾望都さんと著者の畠中恵さんの対談が収録されている。

 にほんブログ村「しゃばけ」ブログコミュニティへ
 (「しゃばけ」についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「ころころろ」 固定URL | 1.ファンタジー, 1B.畠中恵 | コメント (0) | トラックバック (1)

2015年4月 6日 (月)

勝手に予想!本屋大賞

 明日4月7日は本屋大賞の発表日です。今年は10作品がノミネートされていますが、そのうちの9作品を読みました。

 読んだのは「アイネクライネナハトムジーク」「怒り」「億男」「キャプテンサンダーボルト」「サラバ!」「鹿の王」「ハケンアニメ!」「本屋さんのダイアナ」「満願」、読んでいないのは「土漠の花」です。

 はなはだ厚顔ではありますが、私の予想を発表します。

 大賞:「サラバ!」 2位:「キャプテンサンダーボルト」 3~4位:「鹿の王」「ハケンアニメ!」

 「サラバ!」は、すでに直木賞を受賞しているので、販売促進の効果を考えればどうかと思いますが、作品の「熱量」のようなものが、他の作品よりアタマ一つ抜け出ているように思い「大賞」にしました。

 「キャプテンサンダーボルト」は、「サラバ!」とどちらにするか迷いました。こちらには「作家2人の合作」という話題性もあるので。ただ、どちらかを選ばないといけないので、こちらを2位にしました。

 「鹿の王」「ハケンアニメ!」は、どちらも十分に面白い(特に「ハケンアニメ!」には、私はレビュー記事で☆5つを付けています)ですが、「ファンタジー」や「ライトノベル(風)」という、ジャンル分けによって読者が限られてしまうかと思い、3~4位にしました。

----2015.4.8 追記----

大賞は「鹿の王」に決定しました。2位「サラバ!」、3位「ハケンアニメ!」です。大賞の予想は外してしまいましたが、上位3作品の名前はキッチリあがっているので、まずますかな?と思います。

まったく気にしていなかったのですが、翻訳小説部門は「その女、アレックス」が第1位になりました。レビュー記事にも書きましたが、この作品は「読むのにキツイ」本です。読まれる方はご用心を...

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「勝手に予想!本屋大賞」 固定URL | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年4月 4日 (土)

沈みゆく大国アメリカ

著  者:堤未果
出版社:集英社
出版日:2014年11月19日 第1刷 12月31日 第4刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「ルポ貧困大国アメリカ」で2008年の日本エッセイストクラブ賞、2009年の新書大賞を受賞。その後も米国の社会の歪みをレポートする著書を発表し、本書はその中の1冊。

 本書のテーマは「オバマケア」。米国のオバマ大統領が公約として掲げて、強力に推し進めた医療保険制度改革のこと。米国民全員が医療保険に加入する「国民皆保険制度」を目指したものだ。

 これを実現する法律が2014年に施行された。つまりオバマ大統領は公約を果たした。これによって無保険のために医者にかかれず、重篤になってからERに駆け込んだがすでに手遅れ、という悲劇はなくなる。オバマ大統領の大きな功績となった...はずだった。

 制度設計の失敗なのか意図的なものなのか分からないが、「オバマケア」には大きな問題がいくつもあった。私が感じる第一の問題、違和感と言い換えた方がいいかもしれないが、それは、米国民が得たのは、医療保険に加入する「権利」ではなくて「義務」だということ。日本の「国民皆保険」とは考え方が逆転している。

 米国民は、法律で定められた条件を満たした保険に加入する義務を負った。自分には必要ない項目が入っていて、それまで加入していた保険より保険料が高くて、家計を圧迫するとしてもだ。

 さらに「オバマケア」はもっと深刻な問題を抱えている。詳細は本書を読んでいただきたいが、その大元にあるのは、医療が「ビジネス」になっていることだ。だから経済性や効率が最優先される。人の健康や命さえも、採算に合わなければ切り捨てられる。

 私たちにとってさらに恐ろしいことに、この米国流の「医療ビジネス」は、すでに日本に上陸しているという。そのことを記した最終章は背筋が凍る想いがした。「無知は弱さになる」ニューヨークのハーレム地区の医師の言葉だ。私たちは自分たちの医療保険制度について、もっと知らなくてはならない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「沈みゆく大国アメリカ」 固定URL | 5.ノンフィクション | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年4月 1日 (水)

五郎治殿御始末

著  者:浅田次郎
出版社:新潮社
出版日:2009年5月1日 発行 2014年10月5日 4刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者の本を読むのは「地下鉄(メトロ)に乗って」「世の中それほど不公平じゃない」に続いて3作品目。まだそれだけ。友達から借りて読んだ。

 江戸から明治になって数年という時代を舞台にした、短編が6編収められた短編集。読んでいて「そう言えばこの時代はあまり物語になってないな」と思った。

 6編を簡単に。「椿寺まで」日本橋のお店の主の伴として八王子へ向かう奉公人の少年。途中で浪人の追いはぎに遭う。「函館証文」かつて戦場で書いた「命を助けてもらう代わりに千両払う」という証文の巡る物語。「西を向く侍」かつての幕府天文方の俊才だった男が、太陰暦から太陽暦への強引な切り替えに物申す。

 「遠い砲音」西洋定時法(1日が24アウワーズ、その60分の1がミニウト..)に慣れない陸軍中尉の物語。「柘榴坂の仇討」井伊直弼の近習だった男が、桜田門外の変で討たれた主君の仇討を悲願とする。「五郎治殿御始末」明治維新後に藩の整理に携わった桑名藩士。藩の整理を終え、孫を連れて家族と自身の整理のために旅に出る。

 とても新鮮な気持ちで読んだ。それは前述のように「この時代はあまり物語になってないな」と思ったからだ。しかし、考えてみれば「明治維新」を描く物語は少なくない。ではどうしてそう思ったか?明治の元勲を描いたものは少なくないけれど、一般の人々の暮らしを描く目線の低い物語はあまりない(と思った)からだ。

 武士がその身分と共に職業もなくなり、太陽暦の採用を初めとする西洋の文化が流入し、その激変ぶりは太平洋戦争の終戦に勝るとも劣らない。例えば、旗本(殿様)が商いを始める、武家の娘が酌婦として務めなければならない、「今年は12月2日で終わり」なんてこともあった。

 その激変にうまく順応できた人も、置いて行かれた人もいる。どちらの場合にもそこにはドラマがあったはず。それを丁寧にすくい取り、時にユーモラスに時に物悲しく描く。この短編集は秀作だと思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「五郎治殿御始末」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2015年3月 | トップページ | 2015年5月 »