« 2015年2月 | トップページ | 2015年4月 »

2015年3月

2015年3月29日 (日)

サラバ!(上)(下)

著  者:西加奈子
出版社:小学館
出版日:2014年11月3日 初版第1刷 2015年1月28日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。さらに2014年下半期の直木賞受賞作。

 主人公は、圷歩(あくつ あゆむ)。歩の母親は、その人生の多くの決定を直感で成した人で、妊娠が分かった瞬間に、名前は歩だと決めていた。本書は、歩がこの世に生を受けた瞬間から37歳までの、半生を綴ったものだ。

 歩の人生はその始まりから非凡だった。父親の赴任先であるテヘランの病院で左足から(つまり逆子の状態で)この世界に登場した。新しい世界の空気との距離を測りながらおずおずと。その後の人生を暗示するように。

 実は非凡なのは歩ではなくて、歩の家族であり周囲の人々だ。親の憲太郎は、風貌も性格も僧侶のように穏やかな人だった。母の奈緒子は、良く言えば自分に正直、悪く言えばわがままな人だった、度外れて。姉の貴子は、この世のすべての事に怒りを感じているかのような、激しさを持った子どもだった、常軌を逸して。

 物語は、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会人のそれぞれの時代の歩と、その時の家族らを描く。事実を積み重ねる描写は淡々としている。そこに描かれる出来事、特に貴子が巻き起こす事件の騒々しさとは好対照だ。歩は、自然と貴子から距離をとるようになる。家族にもその他の事にも、積極的には関わらない生き方を選ぶ。

 長い物語だった。貴子の言動を除いては取り立てて「事件」もなく、途中で何度か不安になった。この物語はどこに向かっているのか?と。

 その不安は、下巻の半分ぐらいまで来たところで解消された。たくさんあったエピソードのいくつかが、はっきりした輪郭と共に急に浮かび上がってくる。「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない」というメッセージも伝わってくる。(読むのに苦労したということは全くないけれど)読み通して良かったと思う。

 先に「長い」とは書いたけれど、一人の人間の半生を、上下巻の計700ページあまりに凝縮させるのは大変な作業だと思う。本書は著者の作家生活十周年記念作品だそうだけれど、それにふさわしい力作だと思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「サラバ!(上)(下)」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月25日 (水)

ツナグ

著  者:辻村深月
出版社:新潮社
出版日:2010年10月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2011年の吉川英治文学新人賞受賞作。2012年10月に松坂桃李さん主演で映画化。2014年2月現在で69万部のベストセラー。この前に読んだ「ハケンアニメ」が面白かったので読んでみようと思った。

 「この世」の私たちを死者と引きわせることができる者、それが「使者(ツナグ)」。本書はこの「使者」を巡る様々な人間を描いた連作短編。

 使者に「誰々に会いたい」と依頼すると、使者はそれに応じるかどうかを死者に聞いて、諾となれば面会が叶う。死者に会えるのは人生で一度きり。死者の方もそれは同様で、一度誰かに会うともう他の誰かには会うことができない。さらには死者の方から会う人を指名することもできない。

 物語では、自分を介抱してくれたアイドルに会いたい女性、亡くなった母親に会いたい男性、親友だった同級生に会いたい女子高校生、自分の元から急に姿を消した恋人に会いたい男性、などが登場する。

 「人生で一度きり」というルールが要になって、物語を締めている。「愛するあの人にもう一度会いたい」という理由だけでは「一度きり」のチャンスは使えない。秘密とか心残りとか、もっと別の理由があって、彼らは使者にコンタクトしてくる。時にその理由は業の深いものだったりする。また「使者」自身にも抱えた事情がある。

 面白かった。死者の方も「一度きり」。それを受けたのだからか、死者の方は一様に余裕がある。楽しそうでさえある。常に「死」を意識しなくてはならない物語なのに、暗い感じがしないのは、面会に来た死者が持つ明るさのせいだと思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「ツナグ」 固定URL | 2.小説, 2F.辻村深月 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月22日 (日)

億男

著  者:川村元気
出版社:マガジンハウス
出版日:2014年10月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は「電車男」「告白」「悪人」などのヒット作を手掛けた映画プロデューサー。「映画プロデューサー」がどんな仕事なのかよく知らないのだけれど、才能のある人なのだろう。

 主人公は一男。30代後半。昼間は図書館司書として働き、夜はパン工場で生地を丸めている。働きづめなのは、失踪した弟が残した3000万円の借金の返済のためだ。妻と娘とは別居中。そんな一男が宝くじで3億円を当てる。タイトルの「億男」は、億円のお金を持っている男のこと。一男は「億男」になったのだ。

 「その3億円を元手に事業を起こして、失敗をしながらもお金の使い方を覚えて成長していく」という物語ではない。帯に「お金のエンタテイメント」なんて書いてあるので、そういった話かと思ったけれど、そうではない。

 一男は、今はベンチャー企業で成功しているかつての親友を、15年ぶりに訪ねる。3億円との付き合い方を相談するためだ。行った先には昔と変わらぬ親友がいた。が、その親友が3億円と共に消えてしまう。

 「お金と幸せの答え」が本書のテーマ。これを求めて一男は何人かの人物を訪ねることになる。かつて大金を手にした人たちだ。彼らの話から「お金と幸せ」について一男は考える。もちろん読者も一緒に考える。

 フワフワして地に足が付かなくて浅い感じがする物語だった。「宝くじで3億円当たったらどうする?」という話題が、大抵は現実感を持って語られないのと同じで、フィクションの大金持ちの話なんてフワフワしたものなのかもしれないけれど。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「億男」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月18日 (水)

信州教育に未来はあるか

著  者:山口利幸
出版社:しなのき書房
出版日:2014年12月22日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 まず最初に本書のタイトルにある「信州教育」について。長野県では「信州教育」という言葉は、単に「信州(長野県)の教育」を表すだけでなく、ある種の固有名詞として扱われる。たとえて言うと「九州男児」が単に「九州の男性」を表すだけでなく、その性格を意味の中に含むように。

 ただ「九州男児」とは違って「信州教育」は、その意味が曖昧になって、具体的に何を表すのか分からなくなってきている。それでも今も、この言葉が県民、特に教育関係者の口から出る時には「(かつてあった)素晴らしいもの」「信州だけにあるもの」という気持ちがこもっている。

 著者は前長野県教育長。平成18年10月から25年3月まで、長野県の教育行政の責任者であった人だ。著者の就任の以前から今日まで、教育と子どもたちを取り巻く環境は激変し、たくさんの問題が噴出した。本書はそれらを先頭に立って対処した著者が、職を離れた後に振り返り将来を展望したものだ。

 その問題とは。ネット依存・ネットいじめなど「ネットにからめ捕らわれる子どもたち」、激増する「キレる子どもたち」、モンスターペアレント、学力問題、学校の安心・安全、教員の能力の問題、その裏返しの教員と教育現場の苦悩...

 問題点がよく整理されているし、それに対する著者と長野県教育委員会の対応の説明も丁寧で分かりやすい。その意味では教育に関心のある方はお読みになるといいと思う。しかし本書には画期的な何かが書かれているわけではない。山積した問題に対するよく効く処方箋はない。「結局どうにもならないのか」という無力感を感じることになりかねない

 ただし著者に言わせると、このような無力感こそ打ち破るべきものらしい。「あとがき」の中の言葉が帯に踊っている。「それでも、子どもに賭ける。未来に賭ける。」あきらめることは見放すこと。自分たちの子どもを、自分たちの未来を見放してはならない。

 最後に。冒頭に書いた「信州教育」について。「信州教育」という言葉を、そろそろ手放したらどうかと思うことが時々ある。そんなものはもうないと思う。ただ「信州教育」という言葉を使えば、県民に当事者意識が芽生えるという効果はある。確かにこの言葉がなければ、私は書店で本書を手に取らなかっただろう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「信州教育に未来はあるか」 固定URL | 7.オピニオン | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月15日 (日)

有頂天家族 二代目の帰朝

著  者:森見登美彦
出版社:幻冬舎
出版日:2015年2月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書を手に取って感無量だった。7年あまり前に前作の「有頂天家族」を読んだ時に、既にこの第2弾が予告されていた。その1年半後の2009年4月には、文芸誌への連載が終わったという知らせが届いた。それから待つこと数年。何度か「いよいよ」というニュースがあったが出版には至らず。著者の体調不良による休筆などもあって「もう読めないのかもしれない」とさえ思っていた。

 現代の京都で暮らす狸たちの物語。相当数の狸が人間の姿に化けて京都の街で暮らしている。狸だけではない。天狗も縄張り争いをしながら住んでいる。人間だって相当クセのあるのが跋扈している。そういう設定。

 サブタイトルの「二代目の帰朝」の「二代目」とは、前作からの主要登場人物の一人である天狗の「赤玉先生」の息子のこと。100年前に壮絶な親子喧嘩の末に敗れ、大英帝国に渡っていた。その二代目が急に帰国する。拍子抜けするほどあっさりと。物語が始まって18ページで。

 「赤玉先生」は「如意ヶ嶽薬師坊」という名の大天狗なのだけれど、今はその神通力が衰えて、プライド以外にはその往年の姿は見る影もない。100年前とは二代目との力関係が違う。その急な帰国は、狸たちの世界にも緊張感を走らせた。

 という具合に、なにやら緊迫した雰囲気で始まるのだけれど、これは長くは続かない。なにしろ狸たちは太平楽なのだ。本書の主人公の矢三郎は、中でも極めつけの阿呆と言われている。帯には「阿呆の道よりほかに、我を生かす道なし」と大書されている。

 さらには、矢三郎たち狸兄弟が父から受け継いだ遺訓は「面白きことは良きことなり」。帯の背には「波風を立てて面白くするのよ。」と書いてある。そんなわけで「面白いこと優先」で、ハチャメチャとシリアスとハートフルをかき混ぜたような物語だ。

 矢三郎の、揉めれば揉めるほど湧き上がる「阿呆の血」は、父からだけでなく母からも受け継いでいたことが分かった。前作はテレビアニメ化もされたヒット作。本書を読む前に前作を読んでおくことをおススメする。

 そして...よせばいいのに最後のページに「第三部」が予告されている。もちろん期日は書かれていない。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
 「森見登美彦」カテゴリー

 人気ブログランキング投票:「一番好きな森見登美彦さんの作品は?」
 (あなたの好きな森見作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「小説家、森見登美彦」ブログコミュニティへ
 (森見登美彦さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「有頂天家族 二代目の帰朝」 固定URL | 2.小説, 23.森見登美彦 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月11日 (水)

満願

著  者:米澤穂信
出版社:新潮社
出版日:2014年月3月20日 発行 
評  価:☆☆☆(説明)

 第27回山本周五郎賞受賞作品。本屋大賞ノミネート作品。著者の作品は単行本は「折れた竜骨」しか読んだことがないのだけれど、新潮社のアンソロジー短編集「Story Seller」シリーズ(annex)の常連なので、短編はいくつか読んだ。本書も6編が収録された短編集で、うち2編は「Story Seller」の3とannexに収録されたもの。

 6編を簡単に紹介する。「夜警」交番勤務の巡査部長の話。その交番に配属され殉職した新人警察官のことを振り返る。「死人宿」山奥の温泉宿にかつての恋人を訪ねた男の話。その宿は自殺の名所となっていた。「柘榴」その美貌と策謀で目当ての男を射止めた女の話。彼女の娘たちも美しく成長するが..。

 「万灯」(Story Seller annexにも収録)バングラデシュで天然ガス開発を目論む商社マンの話。ビジネスはきれいごとだけでは進まない。「関守」都市伝説の取材に訪れたフリーのライターの話。峠のドライブインを営むおばあさんから話を聞く。「満願」(Story Seller 3にも収録)学生時代に世話になった下宿のおかみさんの弁護をする弁護士の話。事件の真相は..。

 ミステリーでは、表面的に見えていることに別の意味があることが多い。本書の6編でもそう。ただ本書の作品に共通して特徴的なことは、その「別の意味」の全ては明らかにならなかったり、結末までは描かれていなかったりすることだ。

 そのため読み終わった後に余韻が残る。あるものはゾクゾクする寒気を伴って、あるものは苦いものを噛んでしまったような後悔と共に。こういうのが好きかどうかは好みによるだろう。

「柘榴」と表題作の「満願」が印象に残った。

 にほんブログ村「米澤穂信」ブログコミュニティへ

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「満願」 固定URL | 3.ミステリー | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月 8日 (日)

自閉症の僕が跳びはねる理由

著  者:東田直樹
出版社:エスコアール
出版日:2007年2月28日 初版第1刷 2014年10月10日 第15刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 新聞の記事で本書の事を知って、とても興味を持ったので読んでみた。その記事には本書が28か国で出版され、英国アマゾンでは発売1週間でベストセラー、米国ではニューヨーク・タイムズが書評で紹介して発売1カ月で10万部、ということが書かれていた。

 著者は、2007年の本書の出版時には14歳の中学生。重度の自閉症で人と会話をすることができない。そんな彼が、周囲のサポートと本人の努力によって、「筆談」というコミュニケーション方法を得た。これによって彼は、初めて「自分の気持ちを伝える」ことができるようになったのだ。

 内容は著者が58の質問に答える形になっている。「大きな声はなぜ出るのですか?」「どうして何度言っても分からないのですか?」「みんなといるよりひとりが好きなのですか?」...。すべての答えが「思ってもいなかった」答えで、しかも「そうなのかと納得できる」答えだった。

 例えば、大きな変な声を出しているときは、自分が言いたくて話しているのではなくて、反射のように出ているそうだ。迷惑をかけていることも分かっているし、自分も恥ずかしい思いをしている。でも、どうやれば止められるのか分からない。

 私たちは、だいたいのことを自分の意思で始めて、自分の意思でやめることができる。だから「やめなさい」と注意する。もしやめ方がわからなかったら?そして「やめ方がわからない」と伝えることもできなかったら?相手がますます怒り出したら?彼の孤独と困惑はどれほどだろう?

 「筆談」は彼にとっての光明であるだけでなく、私たちにも多くのことをもたらした。その後にはパソコンで文章が書けるようになり本書ができた。そのおかげで私たちは自閉症の人の心の中を、初めて知ることができた。それがどれだけの恩恵であるかは、世界中で本書が売れていることが示していると思う。

 東田直樹オフィシャルサイト

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「自閉症の僕が跳びはねる理由」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月 5日 (木)

火星に住むつもりかい?

著  者:伊坂幸太郎
出版社:光文社
出版日:2015年2月20日 初版1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新書き下ろし長編。

 今回の舞台は「地域安全対策地区」に指定された仙台。「地域安全対策地区」には「平和警察」という組織が設置され、「危険人物」の早期発見と犯罪の未然防止に取り組むことによって、地域の安全を守る。「早期発見」の方法は一般住民からの情報を得ること。早い話が「密告」を受け付けることだ。

 本書は3部構成になっている。第一部は、様々な事件が紹介される。上級生にいじめられる高校生。平和警察の取り調べを受ける男性。隣人が平和警察に連行された男性。...第二部は、平和警察の部署に配属された新人警察官から見た平和警察の活動。第三部は、平和警察によって監視カメラが設置された、理容店の店主を主人公とした物語。

 書誌データでは「らしさ満載、破格の娯楽小説!!」と紹介されている。「娯楽小説」なのだから楽しめばいいのだろう。でも私はあまり楽しめなかった。善良な市民を、いい加減な密告を基に連行し、人権を無視した取り調べで自白させて、首切りの公開処刑にする。「娯楽」にはできなかった。

 「火星に住むことを選びたくなるぐらい酷い世界」という含意だとは思う。こんな世界にも「正義の味方」はいて、悪の権化のような「平和警察」に立ち向かう者もいる。なかなかユニークなキャラクターも登場する。方々に伏線もある。「らしさ満載」については「満載」は言い過ぎのように思うが「らしい」とは言える。

 「らしい」で言えば、伊坂さんは時々「強大な権力」を描く(「モダンタイムス」や「ゴールデンスランバー」など)。それから「闇」や「得体のしれないモノ」を描くこともある。「黒伊坂」作品と呼ぶ人もいる。そういった作品が好き、という人もいるので、本書もそういう読者の支持を得るかも。

 コンプリート継続中!(単行本として出版されたアンソロジー以外の作品)
 「伊坂幸太郎」カテゴリー

 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(~2007年)」
 人気ブログランキング投票「一番好きな伊坂作品は?(2008年~)」
 (あなたの好きな伊坂作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「伊坂幸太郎が好き!」ブログコミュニティへ
 (伊坂幸太郎さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「火星に住むつもりかい?」 固定URL | 3.ミステリー, 31.伊坂幸太郎 | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月 1日 (日)

日本に絶望している人のための政治入門

著  者:三浦瑠麗
出版社:講談社
出版日:2015年2月20日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 日本に絶望しているわけではないけれど、新聞の広告を見て面白そうに思ったので読んでみた。

 著者は1980年生まれというから30代半ば。東京大学で法学博士号を取り、現職は日本学術振興会特別研究員。「特別研究員」というのは、わが国のトップクラスの優れた若手研究者を養成する制度。だからとても優秀な人なのだろう。専門の研究分野は国際政治学だ。

 まず冒頭に、著者の「政治に関する思想を貫くもの」が書かれている。それは「Compassion(コンパッション)」。「哀れみ」「思いやり」「同情」「共感」と訳されることが多いが、英語のニュアンスは少し違うそうだ。

 残念ながらそのニュアンスは、その後の補足を読んでもよく分からなかったけれど、「共感」が必要だ、という意味なら私もその通りだと思う。本書の帯には「左翼」「右翼」という言葉が躍っているけれど、こういう異なる二つの立場であっても、異なる意見の存在と価値を認めるぐらいの「共感」がなくては、亀裂が深くなるだけだからだ。

 そんなことで冒頭で著者の考えに「共感」を感じたので、その後の論説にも期待をした。政治的な立場はニュートラルなようで、この分野では若手だと思うので、何か清新な意見や提言を聴くことができると思った。ただし、その期待には必ずしも応えてもらえなかった。

 国際政治についての歴史的背景を含めた幅広く深い知識はすごいと思う。しかし、著者の意見のほとんどは、安倍政権の主張をなぞっているに過ぎないように感じるのだ。

 「アベノミクスは過小評価されている」「米国が攻撃された場合に日本が集団的自衛権を発動するのは「当たり前」」というのでは、著者の政治的立場を「ニュートラル」だと感じたことは誤りだったとするしかない。帯に「安倍政治の急所を衝く!」と朱書きされているけれど、これはどの部分のことを言っているのかさっぱり分からない。

 ちょっと気になったのは、「あとがき」にあった「政治家への特殊なアクセス」という言葉。何気なく使ったのだろうけれど「一般人は聞けない話を私は聞ける」という意識が見える。優秀で若い(そして美人の)国際政治学者だから、政財界の様々な人から話を聞く機会が、確かに多くあるのだろう。「自分の意見」と「誰かから聞いた話」の境界は、実は非常に曖昧。本書の論説は、著者を取り巻く人々を反映しているのかもしれない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「日本に絶望している人のための政治入門」 固定URL | 7.オピニオン | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2015年2月 | トップページ | 2015年4月 »