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2015年2月

2015年2月25日 (水)

イギリス人アナリスト日本の国宝を守る

著  者:デービット・アトキンソン
出版社:講談社
出版日:2014年10月20日 第1刷 2015年1月19日第6刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者は英国人。アンダーセン、ソロモン、ゴールドマン・サックスと、外資の超メジャーを渡り歩いた敏腕のアナリスト。確かにスゴい経歴なのだけれど、著者が異色なのは、現在は、国宝・重文の補修を手掛ける創業300年を超える日本の会社の会長兼社長だということだ。

 本書のタイトルは、上に書いたことを端的に表しているのだけれど、本書の内容を表してはいない。本書にはサブタイトルが付いていて、それは「雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言」。こちらの方が本書の内容に近い。

 日本の、経済のこと、金融業界のこと、経営者のこと、社会のことなどを、アナリストらしく数字をあげて分析していく。それらのいくつかは、私たちがよく知っている分析とは異なっていて「なるほどそうか」と思わせる。まぁ傾聴に値すると思う。

 例えばGDP。日本は戦後に急速な経済成長を成して、世界第2位の経済大国になった。私たちに耳馴染のある解説は、日本人の勤勉さや技術力の高さを理由としたもの。しかし彼の意見は「人口が多いのだから当たり前だ」とニベもない。そして確かに著者が示した人口とGDPのそれぞれの順位は、欧米と日本を見る限りは完全にイコールだ。

 ちょっとだけ自慢させていただくと、GDPと人口の相関には私も気が付いていた。GDPで中国に抜かれた時にだ。かの国は13億人超もの人がいる。日本の10倍以上だ。10分の1の生産性でチンタラと仕事していても負けてしまう。そう考えるとGDPに何の意味があるのかと思ってしまう。

 上に書いた「傾聴に値する」というのは本心だけれど、読んでいて不愉快に思うことも多かった。「痛いところを突かれた」ということもないではないけれど、相当な曲解や短絡的な見方を感じたからだ。アナリスト時代に金融の経営者たちと度々衝突したそうだけれど、その様子が想像できる。

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2015年2月22日 (日)

ハケンアニメ

著  者:辻村深月
出版社:マガジンハウス
出版日:2014年8月22日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は昨年も「島はぼくらと」でノミネートされている。それより前に「鍵のない夢を見る」で2012年上半期の直木賞を受賞している。前々から気になっていたのだけれど、著者の作品を読むのはこれが初めて。

 舞台はアニメ業界。タイトルの「ハケンアニメ」は、「そのクールで作られたたくさんのテレビアニメの中で一番成功したアニメ」のこと。つまり「覇権アニメ」。本書は、アニメ業界でその「ハケンアニメ」を競う2つの作品に関わる3人の女性の物語。

 1人目は有科香屋子。30代半ば。中堅アニメ制作会社「スタジオ・えっじ」のプロデューサー。2人目は斎藤瞳。20代半ば。大手アニメ制作会社「トウケイ動画」のアニメ監督。3人目は並澤和奈。こちらも20代半ば。新潟県のアニメ会社「ファインガーデン」で原画を描くアニメーター。

 とてもとても面白かった。装丁も内容もライトノベル風。しかし「お仕事小説」として、主人公3人の仕事に対する想いとか姿勢とかがしっかりと伝わってくる。アニメという「ひとりで楽しめるもの」が必要な人たちへの承認も感じられる。

 心に引っかかるセリフや描写も上手い。「この世の中は繊細さのない場所だよ」。瞳が知り合いの小学生に言う言葉だ。「それでもごくたまに、君を助けてくれたり、わかってくれる人はいる」と続く。ストレートなメッセージも仕込まれている。

 アニメ業界や製作の流れを少しは知らないと戸惑うかも。そんな方のために少しだけ。アニメは徹底した分業と人海戦術で製作される。原理は「パラパラアニメ」と同じだから、1秒に何枚もの絵が必要で、それらはアニメーターが手で1枚ずつ描く。

 さらに背景を描く人も別、色を付ける人も別で、もちろん1枚ずつ着色する。1つのアニメ作品に関わる人は膨大な数に上る。乱造気味に思えるアニメ作品だけれど、一つ一つの作品には、関わった人の膨大な数の想いが載せられ、されにそれに見る側の想いも重なる。

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2015年2月19日 (木)

数学する精神

著  者:加藤文元
出版社:中央公論新社
出版日:2007年9月25日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 友達がFacebookで感想を書いていたのを見て、面白そうだと思ったので読んでみた。

 「数学」と聞いて、特にひどい拒否感は覚えない代わりに好きでもない。そんな私が「面白そう」と思ったのは、「数学の美しさの要因は、整合性、シンプルさ、普遍的、背景の奥深さ、意外性」という説明に魅かれたから。「数学の美しさ」を少し感じることができるかもしれない。そう思った。

 本書を通して語られるのは「二項定理」という数学の定理。これを聞いてもピンと来ない。私の数学の知識はその程度、ということ。まぁピンと来ないのは私だけではないと思うので「二項定理」を説明する。

 それは、(x + y)のべき乗を展開した式を表すための公式。例えば(x + y)の3乗は、x3+3x2y+3xy2+y3。この展開式の係数つまり32y+xy2y3の太字の部分、という数字の並びを求める公式。とは言えその公式そのものはもう私の手に負えない。興味がある方は自分で調べてみてほしい。

図

 ところが私と同様に公式が手に負えない人にでも、この数字の並びを求める方法があるという。まず紙に1と書こう。下の段には上の段の左右の数字の和を書く。これを繰り返す。そうすると左の図のようになる。で、上で例に挙げたのは3乗の式なので3+1の4段目を見る。。ほらね。

 おお!と思った人は、数学が得意でなくても意外と本書が楽しめるかもしれない(数学の高等教育を受けている人はみんな知っているらしいから)。どうしても数式や数学用語が出てくるので、ちょっとがんばらないと置いて行かれそうになるけれど、分からないなりにも読み進めれば、何度もおお!と思わせてくれる。

 正直に言って「数学の美しさ」を感じるまでにはいかなかったけれど、数学の「広がりと奥深さ」とか、そこを逍遥する「楽しさ」を垣間見ることができたと思う。

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2015年2月16日 (月)

野に出た小人たち

著  者:メアリー・ノートン 訳:林容吉
出版社:岩波書店
出版日:1969年5月20日 第1刷 2004年4月5日 第13刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 スタジオジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」の原作「床下の小人たち」の続編。

 前作で住んでいた大きな家の床下を追い出された、小人のアリエッティと、そのお父さんのポッド、お母さんのホミリーの3人家族のその後の冒険。

 アリエッティたちは、ホミリーに兄であるヘンドリアリたちが暮らしている(はずの)アナグマの巣を目指す。それは土手を登り生垣を通り抜け果樹園を通過して...アリエッティたち小人にとっては大変な道のりだ。

 それでも何とか辿りついたけれど、それからが大変。小人たちは基本的にひっそりと隠れるように暮らしている。ヘンドリアリたちもそれは同じ。簡単には見つからない。途中で見つけた「編み上げぐつ」を家がわりにして暮らしながら、じっくりと探すことに。物語はこの間の出来事を中心に描く。

 お父さんのポッドは、ちょっと理屈っぽいけれど頼りになる。お母さんのホミリーは感情的で気ままなところがあるけれど、誰よりも家族想いだ。アリエッティは好奇心がいっぱい。デフォルメされているけれど、3人で家族のいいバランスを感じる。

 なかなかスリリングな冒険譚で楽しめた。章タイトルがアリエッティが付けていた「日記格言集」からの引用の格言になっているのだけれど、これがその章の内容にうまくはまっていたり、微妙な感じだったりする。章タイトルではないけれど、なかなか良い格言をひとつ「酒がはいれば、知恵が出ていく」

 本書だけでも楽しめるけれど、はやり前作「床下の小人たち」から順番に読んだ方がいいと思う。ちなみにシリーズは全5巻ある。

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2015年2月12日 (木)

脱・限界集落株式会社

著  者:黒野伸一
出版社:小学館
出版日:2014年12月1日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 17万部突破、NHKでドラマ化されて現在放映中の「限界集落株式会社」の続編。

 「限界集落株式会社」で、長野県幕悦町の中山間地にある「止村(とどめむら)」が、村ごと株式会社化して活性化に成功してから4年後。止村の麓の国道沿いに、「TODOME」ブランドのショッピングモールがオープンすることに。その傍らで駅前商店街はシャッター通りと化していて...という設定。

 幾人ものストーリーが並行して語られるが、主役は2人。一人は、東京から逃げ出すようにして幕悦町にやってきた健太、20歳。もう一人は、健太がバイトをしているコミュニティカフェ「コトカフェ」の主任の美穂。美穂は、前作「限界集落株式会社」でも準主役、「止村株式会社」の副社長だ。

 4年前には止村がTODOMEブランドの野菜や観光農園、キャラクター開発で成功し、この度は大きなショッピングモールがオープンして、この幕悦町は上昇気流に乗った感がある。さらには駅前の再開発の話も出てきた。止村の成功はともかく、ショッピングモールや駅前再開発は、地元の住民に幸せをもたらすのか?が本書を貫くテーマ。

 前作同様、面白かったし為にもなった。巨大資本の再開発計画に小さな商店街の有志が、どうやって太刀打ちするのか?「地方創生」なんて言葉が政府の方針の中で踊っている昨今、大きな予算の投下よりも、健太や美穂たちが必死になってやっていることの方が「実がある」んじゃないかと思う。

 少し不満も。前作よりもストーリーにムリがなくて分かりやすくなった。それは良いのだけれど、その理由は今回は「悪役」を仕立てたからだと思う。前作は「悪い人はいない」からこそ、立ちはだかる障害の克服を描くのが難しかった。今回は勧善懲悪で、分かりやすいけれど安易に流れた感がある。もちろん勧善懲悪も、エンタテイメントとしては「アリ」なんだけれど。

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2015年2月 8日 (日)

本屋さんのダイアナ

著  者:柚木麻子
出版社:新潮社
出版日:2014年4月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は昨年も「ランチのアッコちゃん」でノミネートされている。

 主人公の名は矢島ダイアナ。「大穴」と書いてダイアナと読む。元ヤンの母のティアラ(勤め先のキャバクラでの名前。本名は有香子)が「世界一ラッキーな女の子になれるように」と付けた。父はダイアナが生まれてすぐにどこかに行ってしまった。

 主人公はもう一人いる。名前は神崎彩子。ダイアナの同級生。出版社の編集者をやっている父と、家で料理教室を開いている母と、3人で英国風の庭がある大きな家に住んでいる。

 本書は、この2人の女性の小学校3年生から22歳までの物語。途中までは「親友」としての2人、その後は別々の人生を歩む2人を交互に描く。互いのことを「羨ましい」と思い、認めてもいながら、些細なすれ違いで距離が離れていく。

 「ランチのアッコちゃん」よりも、ずっと深くて読み応えのある作品だった。

 境遇の違う2人が「親友」になったのはなぜか?。それは、一つには「自分にはないもの」に魅かれあったからだろう。ダイアナは彩子の優しい父母と落ち着いた家庭に、彩子はダイアナの刺激的な暮らしぶりに。

 しかし、2人は同じものも持っていた。2人が親友となるきっかけは「不思議の森のダイアナ」という絵本。本が好きであることと、この絵本への想いを2人は共有する。自分が思い描く人生から外れてしまった時、この絵本は勇気と指針を与えてくれる。そして2人をつなぐ紐帯になる。

 幼い頃に「親友」と呼び合った相手がいるなら、その人と今は疎遠になっているなら、この本を読んでみるのもいいと思う。必ずしも共感はしないかもしれないけれど、得るものはあると思う。

 本書とは関係ないけれど、「ダイアナ」って今で言う「キラキラネーム」だなぁ、と思っていたら、先日「2014年 ベスト・オブ・キラキラネーム」が発表された。

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2015年2月 4日 (水)

蜩の記

著  者:葉室麒
出版社:祥伝社
出版日:2013年11月10日 初版第1刷 2014年9月20日 第14刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 2011年下半期の直木賞受賞作。昨年の春には役所広司さんと岡田准一さんの主演で映画化もされた。友人から借りて読んだ。

 時代は江戸時代後期1800年代初頭、舞台は九州豊後国の羽根藩。主人公は藩士の檀野庄三郎、21歳。些細な原因で城中で刃傷沙汰を起こし、死罪になるところを罪を免じられて、ある特命を受ける。それが、幽閉中の元郡奉行、戸田秋谷の監視だ。

 秋谷は、藩主の側室との密通という大不祥事を7年前に引き起こし、本来なら「家禄没収のうえ切腹」のところだが、家譜(藩の記録)編纂という役目を負って幽閉となっている。家譜編纂には厳密な期限が付いている。なんと秋谷には、10年後の8月8日に切腹、と沙汰が付いていた。つまり、3年後には死なねばならない。

 「主人公は藩士の檀野庄三郎」と書いたが、この物語の主役は秋谷だ。秋谷を庄三郎の視点から描いている。自らの命に期限を付けられた中で、人はどれだけ冷静に真摯に、お役目に家族に周囲の人々と、向き合うことができるのか?

 近国佐賀藩の山本常朝の「葉隠」の有名な一節「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」を思い出す。この後には、毎朝毎夕に改めて死ぬ覚悟をしていれば武士道の境地にする..という言葉が続く。まさに秋谷は10年間の長きにわたって「死ぬ覚悟」を続けた。

 秋谷の運命は初めに明らかにされるので、物語は「死」に向かっていくしかない。それでも暗くならないのは、抑え気味の淡々とした著者の書きぶりが、清涼な雰囲気を醸すことと、「あるかなきかの微笑み」を湛える秋谷の、静かな凛とした覚悟が伝わってくるからだ。その覚悟のほどに最後には涙が出た。

 全く違うジャンルの作品のことも思い出した。それは、有川浩さんのラブストーリー。江戸時代のこんな生真面目な武士の物語に、著者はラブストーリーを仕込んでいる。カッコいいおっさんの恋まである。

 映画「蜩の記」公式サイト

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2015年2月 1日 (日)

怒り(上)(下)

著  者:吉田修一
出版社:中央公論新社
出版日:2014年1月25日 初版発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。

 冒頭にある殺人事件が提示される。八王子郊外の新興住宅地で、男が住人の夫婦を次々と殺した。廊下に被害者の血で書かれた「怒」という文字を残して。物語はこの事件から1年後から始まる。犯人の山神一也はまだ捕まっていない。

 別々の場所に住む4人のストーリーを、それぞれ追う形で物語は進む。外房の港町の漁協で働く槙洋平と、その娘の愛子。大手通信系の会社に勤めるゲイの藤田優馬。母と共に沖縄の離島に逃げるように移住してきた高校生の小宮山泉。そして山神一也の事件を追う八王子署捜査一課の北見壮介。

 山神一也の事件から1年後に、洋平・愛子、優馬、泉のそれぞれのところに若い男性が現れる。職を探して漁港に現れた男。新宿のサウナで膝を抱えて座っていた男。沖縄の無人島で野宿をしていた男。過去も素性も定かではない男ばかりだ。

 そうであるにも関わらず、彼らは男を受け入れ る。自分たち自身が心の痛みを知っているからだ。その男によって、それぞれの暮らしに波紋が広がる。最初は戸惑いの波紋、次には安堵と喜び。しかしやがて、不審の波紋となり、それは御しきれない大波となって、彼らを翻弄する。

 著者は心に傷を負った人々を描くのがうまい。ちょっと憎らしいぐらいだ。登場人物たちは、狂気に駆られた犯人を除けば、善き人たちばかりだ。挫折や不幸を経験し、ある者はだれかに追われながら、それぞれに日々を懸命に生きている。そうしていれば、喜びを感じる瞬間もある。

 しかし、その喜びの時にさえ、物語は緊張感を湛えている。そして哀しい。洋平は愛子の幸せを願いながら、心のどこかで「この子に普通の幸せが訪れるはずがない」と怯えている。そうしたことがとてもとても哀しい。
 

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