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2014年8月10日 (日)

悟浄出立

著  者:万城目学
出版社:新潮社
出版日:2014年7月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 奈良、京都、大坂、琵琶湖と、関西の街を舞台にした奇想天外な仕掛けの物語を紡ぎ、前作「とっぴんぱらりの風太郎」で戦国時代にワープした著者。最新刊の本書では、さらに時空を越えて中国の古典の世界に飛んでいた。

 本書は、沙悟浄、趙雲、虞姫、京科、榮、のそれぞれを主人公とした5つの短編を収めた連作集。沙悟浄は「西遊記」、趙雲は「三国志」、虞姫は「項羽と劉邦」に登場する。京科は秦の国の官吏で、榮は「史記」を記した司馬遷の娘だ。

 彼らに共通するのは「脇役」ということ。特に最初の3人ははまさに物語のサブキャラクターだし、後の2人も「秦の中国統一」という物語で始皇帝の近くや、「史記」を記し本人も浮沈のある人生を歩んだ司馬遷の傍らといった位置にいた。つまり強いスポットライトの横のほんのりと明るい場所だ。

 著者の意図は分かる気がする。脇役とは言え個性的なキャラクターの持ち主である。物語を彼らの目を通して再構成することで「彼らの物語」を創作したら面白いだろう。そういうことだと思う。

 これが著者の意図だとすると、少なくとも私には成功した。沙悟浄の物語は少しホロリとした。旅の一行で先頭を歩くことのない沙悟浄の気持ちに加えて、「抜けキャラ」の猪八戒の意外な素顔まで覗ける。

 趙雲の物語も興味深かった。三国志の劉備に仕える人物で、趙雲ほど安定した活躍を見せる武将はいない、と私は思っている。それなのに知名度は、劉備、関羽、張飛、孔明、の4人からはガクンと落ちるという日陰の身。よくぞ彼に光を当ててくれたと思う。

 最後に。私は中国の歴史や物語に、学生のころから興味があって、関連の本もけっこう読んだ。今も本棚には「三国志」「項羽と劉邦」「史記」がある。だから今回、中国の古典を題材にした著者に共感を感じた。

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