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2013年12月

2013年12月28日 (土)

2013年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。昨年までと同じく小説部門は10位まで、ビジネス・ノンフィクション部門は5位までです。
(参考:過去のランキング 2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が1個、「☆4つ」が49個、「☆3つ」は46個、「☆2つ」が6個。です。
 一昨年に「☆3つ」が7割を超え、多くの作品が同じ評価では☆の意味がなくなってしまうと思い、良いものは「☆4つ」、良くないものは「☆2つ」を、積極的に付けようと2年やってきました。まぁ、少しはバランスが良くなったのではないでしょうか。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
海賊と呼ばれた男 / 百田尚樹 Amazon
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出光興産の創業者・出光佐三をモデルにしたドキュメント小説。明治から昭和にかけての激動の時代を生きた、主人公の国岡鐵造の苦難と克服の一代記。圧倒的なエネルギーの傑作。
東京バンドワゴン / 小路幸也 Amazon
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下町の古本屋「東京バンドワゴン」を舞台とした大家族ホームドラマ。周囲で起きる大小さまざまな事件を、知恵と「LOVE」で見事に解決。現在8作品が刊行されている人気シリーズの第1作。
月の影 影の海(十二国記) / 小野不由美

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現代日本の高校生の陽子が、妖魔が跋扈する異世界へ突然連れ去られて経験する数々の苦難と、その後に訪れる救済。十二の国からなる世界を描く異世界ファンタジーシリーズの第1作。
政と源 / 三浦しをん Amazon
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銀行を定年まで勤め上げた国政と、職人で自由人の源二郎。墨田区Y町で暮らす御年73歳の幼馴染2人が主人公。いい歳をして喧嘩したり拗ねたり、面白くも思いやりにあふれた物語。
左京区恋月橋渡ル / 瀧羽麻子 Amazon
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京都の大学の工学部の山根クンが主人公。専門は「爆薬」、密かな楽しみは「ひとり花火」。そんなサエない男子学生の、おかしくて切ない「恋バナ」物語。「左京区七夕通東入ル」の姉妹編。
七つの会議 / 池井戸潤 Amazon
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大手総合電機メーカーの子会社で起きた、ある不祥事の隠ぺいにまつわる人間ドラマ。確執や嫉妬に抗えない男たちが悲しい。秘匿された真実と結末に向かってネジを締め付けるような展開。
ジョーカー・ゲーム / 柳広司 Amazon
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大日本帝国陸軍のスパイ養成学校「D機関」出身のスパイらを描く短編集。単純に見える事件が実は幾重にも陰謀とウソが塗り重ねられている。スパイたちの内面が垣間見えるのがニクイ。
八朔の雪 みをつくし料理帖 / 高田郁 Amazon
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舞台は江戸時代後期の江戸の町、主人公は大坂の一流料理店で修業した澪。習慣や味覚の違う町で苦労しながら、料理の腕とひたむきさと、周囲の助けとによって人生を切り拓いていく。
限界集落株式会社 / 黒野伸一 Amazon
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止村(とどめむら)という名前が表すように、山のどん詰まりの集落が舞台。さらに言えばその将来も展望がなくどん詰まり状態。そこで巻き起こった「逆転満塁ホームラン」地域活性化物語。
10 青空のルーレット / 辻内智貴 Amazon
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夢を追いながらビルの窓拭きを職業にする若者たちの物語。夢ではお腹に溜まらないから、稼ぐために窓を拭いている、極めてシンプルな人生観。同じぐらい物語もメッセージもシンプル。

 今年は、1位は唯一の☆5つの「海賊と呼ばれた男」にすんなりと決まりました。順位をつける際には1年間の読書リストを見直すのですが、この作品が頭一つ抜きん出ていたことを再確認しました。本当にいい作品でした。2位以下については9個を選ぶのはともかく、順位をつけるのには苦労しました。順位がないとランキングにならないので順番に並べていますが、それぞれに前後2位ぐらいは入れ替わっていてもおかしくありません。

 特徴的なのは、「東京バンドワゴン」「十二国記」「みをつくし料理帖」と、既に何作品も刊行されているシリーズ作品が3つ入ったこと。良いシリーズに巡り合うと、それを追いかける楽しみがしばらく続くので嬉しいです。また、少し長い目で見ると、池井戸潤さんの作品が「下町ロケット」「ルーズヴェルト・ゲーム」に続いて、3年連続ランクインしたことです。池井戸さんは今年、テレビドラマ「半沢直樹」で大ブレイクしましたが、今後の作品も楽しみです。

 選外の作品について言うと、大沼紀子さんの「真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫」、三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖4」の、2つのシリーズ作品の展開が面白くなってきました。村上春樹さんの「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は、悩みましたがランクインはしませんでした。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ / J.マーチャント Amazon
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ギリシアの小島「アンティキテラ島」沿岸の海底から引き上げられた機械にまつわるドキュメンタリー。推定2000年以上前に作られたという機械の、精巧さと機能にただただ驚くばかりだ。
理系の子 高校生科学オリンピックの青春 / J.ダットン Amazon
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中高生の自由研究の発表会の最高峰「インテル国際学生科学フェア」の出場者を取材したノンフィクション。十代の彼らの目を見張るような高度な研究に、明るい未来を見ることができる。
ワーク・シフト / リンダ・グラットン Amazon
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「2025年の働き方」を、悲観的なストーリーと少し明るいストーリーの合計6つの物語で展望。未来が分かれるのはいつで、それを決定するのは何か?を調査に基づいて緻密に考察する良書。
物語ること、生きること / 上橋菜穂子 Amazon
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ファンタジー作家であり、文化人類学者でもある著者が語った自らの半生。。代表作の「守り人」シリーズや「獣の奏者」他の創作に関わる話や、込められた想いが記されていてファン垂涎の書。
実践! 田舎力 小さくても経済が回る5つの方法 / 金丸弘美 Amazon
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「地域活性化アドバイザー」として全国を飛び回る著者による、地域おこしの実践書。成功事例だけではなく、数多くの失敗事例を知る著者の経験から導かれた手法が惜しみなく記されている。

 1位から3位までが海外の作品になりました。このことに何か意味があるのかどうか分かりませんが、ランキングを作り始めてから初めてのことです。私は大学進学で経済学を選びましたが、工作も実験も大好きなので、1位と2位の本を読んでとてもワクワクしました。

 3位と5位は、勉強した経済学や今の仕事と関係の深い本です。このランキングを作ってから気が付きましたが、5位の「実践! 田舎力」と、小説部門9位の「限界集落株式会社」は、そのテーマはもちろんですが、内容に「経済」というキーワードで響き合うものがありました。これは発見かもしれません。

 
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2013年12月26日 (木)

冬虫夏草

著  者:梨木香歩
出版社:新潮社
出版日:2013年10月30日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 名著「家守綺譚」の続編。著者の作品では「西の魔女が死んだ」が映画化もされ、読書感想文の課題図書として取り上げられることも多くて有名。しかし、私にとっては人に薦められて読んだ「家守綺譚」が、著者の作品との最初の出会いで最高の一冊。その続編が読めるのが嬉しかった。

 時は明治の中ごろ、場所は京都。主人公の綿貫征四郎は、亡き友の家を守って文筆業で生計を立てている。綿貫がそいうったものを引き寄せるのか、河童やら狸やらの人外の者と多く出会う。いや、ほんの100年前の日本は、そういったものの近くに人々の暮らしがあったのかもしれない。

 綿貫の家に居ついている犬のゴローが、ふた月も姿を見せない。ゴローは犬であるがその「人望」は厚く、人間・動物・その他の生き物の様々な事柄に関わっていて、留守にすることは珍しくない。しかし、今回はそれが気になって仕方ない。というわけで、綿貫はゴロー探索の旅に出る。

 わずかな手がかりからゴローの消息を知り。琵琶湖のほとりから鈴鹿の山中へと向かう。本書は主にその道中を39編の短編を重ねて描く。人と(もちろん人外の者とも)出会い、その人を置いて道を先へ進む。ロードムービーの趣だ。その内の何人かは後に再び出会い、何人かは真の姿が明らかになり、綿貫の道中に重要な意味を持つ。こうした仕掛けが本当に上手い。

 「紫草」「椿」「河原撫子」「蒟蒻」「サカキ」...すべての短編に植物の名前が付いている。そうした植物や風景の観察が細やかで、心が穏やかになる。一節を紹介する「...見れば、カエデの二寸程のものは、私の小指の爪先程の大きさ程しかあらぬ葉であるのに、すでに紅葉を始めている。変化はまことに斯くの如く、小さきものから始まるのだ、と感嘆する」...小さなカエデの葉に目を留める感性に瑞々しさを感じる。

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2013年12月22日 (日)

まほろ駅前狂騒曲

著  者:三浦しをん
出版社:文藝春秋
出版日:2013年10月30日第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「まほろ駅前多田便利軒」「まほろ駅前番外地」に続くシリーズ第3弾。舞台と登場人物は、これまでの2作でお馴染みの場所と人々だ。

 物語は、主人公の多田が営む便利屋「多田便利軒」に、高校時代の同級生の行天が転がり込んで、3年目を迎える正月から始まり、その年の大晦日で終わる。級生と言っても友だちではない。会話したことすらない。これまでの2年間と同様、多田は行天の言動に振り回されっ放しだ。

 今回は、「家庭と健康食品協会(略称:HHFA)」という無農薬野菜を販売する団体、バス会社の間引き運転の監視に執念を燃やす「多田便利軒」の常連客、多田が預かることになった4歳の少女の「はる」らを中心に騒動が巻き起こる。そして何と、多田にはロマンスの種が...。(星くんって、いい人だったんだね。)

 多田も行天も、自由に飄々と生きているように見えるが、実は過去の出来事によって精神にダメージを受けている。著者は、本書を「完結編」のつもりで書いたそうだ。そのためなのだろう、彼らの(特に行天の)ダメージの原因が語られ、その救済が描かれている。

 「完結編」ということだが、この終わり方で多田と行天がこのまま大人しくしているはずがない。著者もインタビューで「……どうですかね(笑)」なんて答えている。続編を希望。

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2013年12月19日 (木)

隣のアボリジニ

著  者:上橋菜穂子
出版社:講談社
出版日:2000年5月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「物語ること、生きること」を読んで著者の半生を垣間見たら、この本も読みたくなった。文化人類学者と作家という2つは、著者の別々の顔ではなく、もっと影響をしあう不可分な関係にあって、著者が研究者として書いた本書を読むことで、小説の作品をより深く味わうことができる気がしたのだ。そして、私の目論見は当たったようだ。

 本書は、1990年からの足掛け9年延べ3年の、著者がオーストラリア西部の町で、小学校の先生として暮らしながら行ったフィールドワークの報告書。ただし報告書と言っても、形式ばったものではなく、作家の著者らしい幾つかの「物語」から構成されている。

 それは例えば、身ひとつで異文化の中に降り立った著者が、戸惑ったり、手痛い拒絶に会ったりしながら進めた調査という「著者自身の物語」。また、街に暮らすアボリジニが自分と自分たちの来し方を語った「街のアボリジニの物語」。

 そこに描かれたアボリジニは、「未開の原住民」でもなく、「大自然と共に生きる野生の知性を持った民」でもない。両極とも言えるこの2つのアボリジニ像は、どちらも「私たちが彼らに見たい」と思っている姿でしかない。

 そもそもアボリジニという呼称も、オーストラリアにいた全く通じない言葉を話す、400以上の集団を一まとめにして「aborigines(原住民)」という英語で呼んだに過ぎないそうだ。つまり「アボリジニ」というくくり自体が、西欧から来た白人が作り上げたものだということだ。

 こんな感じで、研究報告としても興味深いのだけれど、著者のファンであっても誰もが興味を持つ内容でないかもしれない。ただ、小説の作品との関連を考えると面白そうだ。時期的に言えばこのフィールドワークは、初期の「精霊の木」「月の森に、カミよ眠れ」の2作品の後、「守り人」シリーズの執筆中に行われたことになる。

 上から目線で恐縮だけれども、「守り人」シリーズが徐々に、幾つもの国々の思惑が交錯する重層的な物語になったのも、その後の「獣の奏者」の、掟に反しても自分を貫く主人公エリンの姿に、フィールドワークの影響が見える(気がする)。

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「隣のアボリジニ」 固定URL | 16.上橋菜穂子 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月15日 (日)

漂流しはじめた日本の教育

著  者:宮川典子
出版社:ポプラ社
出版日:2013年12月5日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 私は、地方自治体の公営施設で地域情報化に関する仕事をしている。「教育現場のデジタル化」もその一部で、これには少し検証の必要性を感じていたので、本書の「教育現場のデジタル化は誰のため?」というサブタイトルが目を引いた。

 著者の経歴は、大学卒業→中学・高校の英語教師→松下政経塾→衆議院議員だ。現在は政権党の議員で、教育再生実行本部のメンバー、ということだから、このテーマについて、ご自分の意見を表明されて然るべき方だろう。

 第1章の出だしはとても良かった。デジタル教科書を中心として、教育現場が「ビジネス市場」になりつつある、それでいいのか?という指摘がその理由。調べてみたところ、日本の小中学生は1000万人を超えるから、何であっても教育現場への導入が決まれば大変な数になる。これは確実で有望な市場だ。

 ここで「~誰のため?」という問いが生きる。あるべき答えは「子どもたちのため」であることは明白。ところが「デジタル教科書」が、どのように子どもたちのためになるか?という研究も検証も大変に希薄なまま、「1人1台」のタブレット端末、という計画が作られる。これでは「経済のため」もっと下世話に言えば「教材会社・機器メーカーのため」でしかない。

 出だしがヒットなだけに、その後の展開が煮詰まらないのが残念。私は検証の必要性は感じるけれど、「教育現場のデジタル化」は教育を良くする推進力になると思っている。ところが、著者には情報機器への嫌悪感と不信感が全編で感じられる。それが、有意義な考察を妨げているようだ。

 例えば、デジタル教科書の導入で、「教師も子どもたちも画面を見て、視線が交わされなくなる」。それで「教師も子供たちも喜びを感じるのか」とおっしゃる。でも、その場にいる教師と子供たちが、目と目を合わせる機会はなくならないだろう。敢えて没人間性的に描いて感情に訴えようとしたのかもしれない。そういう感情論は時として目を曇らせてしまう。

 私とは合わないことも多かったが、コロコロと試験的に教育制度をいじる「試しにやってみよう」式はダメだという主張など、もっともだと思う部分もあった。「2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え」なんて近視眼的な考えで小学校3年生にも英語、ということが、文科省の「英語教育改革実施計画」に載っているのを知って、激しい幻滅を感じたばかりでもあったので。

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2013年12月12日 (木)

華胥の幽夢

著  者:小野不由美
出版社:講談社
出版日:2001年9月5日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの第7作。シリーズで初めての短編集で、5編の短編を収録。

 時代としては、「月の影 影の海」で陽子が十二国の世界に来た前後らしい。舞台となった国や登場人物は様々。これまでに語られた物語の「その後」もあれば、ほとんど触れられなかった国の物語もある。

 「冬栄」は、「風の海 迷宮の岸」の戴国の泰麒の「その後」で、「黄昏の岸 暁の天」の前日譚。幼い泰麒が訪問する、という形でこれまであまり触れられなかった漣国が描かれる。

 「その後」の物語はあと2つ。「乗月」は、「風の万里 黎明の空」の祥瓊が、公主(王の娘)の身分をはく奪された後の芳国の物語。「書簡」は、「月の影 影の海」からしばらくした、陽子と楽俊の往復書簡。

 これまでほとんど触れられなかった国の物語は2つ。「帰山」は、傾いていく柳国での物語。ただし登場するのは「図南の翼」に登場した利広と「東の海神 西の滄海」の風漢。二人ともそれぞれある国の王族なのだけれど、それを知っていてお互いに知らんぷりをしている。風漢が突然語りだす囲碁のエピソードは意味深長だ。

 「華胥」は、同じく傾いていく才国の物語。若くして傑物と言われ悪政を敷いた先王を討ち、自ら天命を受けて登極した、清廉潔白な王と有能な部下。しかし何故か国は荒んでいく...。正直言って、回りくどくて冗長で途中で飽きてしまった。ただ、ハッとする言葉にも出会った。

 「責難は成事にあらず」(人を責め非難する事は、何かを成す事ではない)

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2013年12月 8日 (日)

限界集落株式会社

著  者:黒野伸一
出版社:小学館
出版日:2011年11月30日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルの中の「限界集落」とは、65歳以上の高齢者が人口の50%以上を占め、冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になっている集落を指す。そのまま推移すればやがて消滅することが予想される。先行きの暗い言葉なのだ。

 その言葉の暗さに反して、裏表紙まで続く表紙のイラストの、緑豊かな山村の風景をバックにした人々の表情は明るい。帯には「逆転満塁ホームランの地域活性化エンタテインメント!」の言葉。

 このタイトルと表紙と帯で、内容は想像ができる。窮地に陥った山村の人々が、何かをきっかけにして一念発起、様々な困難はありながらもそれを克服して、村を救ってさらに発展させる...。きっかけは?若者か他所者かバカ者かの登場だろう。...想像通りの物語だった。

 舞台はおそらく群馬県か長野県の山間にある人口58名の集落「止村(とどめむら)」。主人公は3人。1人目は多岐川優。銀行やIT企業で華々しく活躍していた。起業の前に少しのんびりしようと、祖父が亡くなるまで住んでいた止村に来た。つまり若者で他所者というわけで、優が物語のきっかけとなる。

 残る2人は大内正登と美穂の親子。正登は一度村を出たが4年前に20年ぶりに戻って来た。美穂は正登がいない間も止村の祖父母の家で育った。物語は、この3人の視点を入れ替えながらテンポよく進む。

 想像通りだからと言って、それは面白くないとか退屈だとかいうことではない。主人公の3人はもちろん、その他の登場人物のそれぞれが物語を抱えている。それが組み合わさって、新たな物語を生む。地域活性化を描きながら、ラブストーリーがしっかり組み込まれているのは、有川浩さんの「県庁おもてなし課」に似ている。

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2013年12月 5日 (木)

物語ること、生きること

著  者:上橋菜穂子 構成・文:瀧晴巳
出版社:講談社
出版日:2013年10月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「守り人」シリーズ、「獣の奏者」シリーズなどの著者が、その生い立ちから作家になるまでを語った書。講演で自分のことを話した翌日には決まって熱をだす、恥ずかしくて自分のことを本にすると考えることすら「身震いするほど嫌」という著者が、半生を語って本にする決意をした。「作家になりたい子どもたち」の「どうやったら作家になれますか」、という問いへの答えとするために。

 著者が2歳になるかならないかの頃の、おばあさまにしていただいた昔話の数々が、著者の物語の原体験。そこから語り始めて、小学生のころの夏休みの体験、15歳の時に書いたノート、高校生のころにイギリスの作家を訪ねた話へと続く。さらに、著者のもう一つの顔である文化人類学者としての歩みをへて、デビュー作「精霊の木」の発行に至る。おそらく本書の狙いなのだろう、これが「上橋菜穂子という物語」になっている。

 私のような著者の作品のファンには、小躍りするほど嬉しい1冊だ。「守り人」や「獣の奏者」他の作品の創作に関わる話や、込められた想いが記されている。また、巻末には170余りもの「上橋菜穂子が読んだ本」というブックリストが掲載されている。これがまた心憎い。リストを追うと、同じころに同じ本を読んでいることに気が付いて心が躍ったり、今度はこの本を読んでみようという発見があったり。

 とにかく真面目な方なのだと思う。「守り人」の主人公のバルサを描くのに、ウソにならないために古武術を習ったそうだ。そもそもこの本だって「どうやったら作家になれますか」に、意味ある答えをするためには、自分がたどった道程をすべて伝えなければならない、と思ったからだというのだから。

 そして、きちんと心に残る言葉を残している。著者が新しい一歩を踏み出す時の「靴ふきマットの上でもそもそしているな!うりゃ!」という掛け声や、トールキンの言葉だったか?という「すべての道が閉ざされたときに新しい希望が生まれる」というフレーズが心に残る。私は、著者が話しかける「子どもたち」ではもちろんないけれど、すごく励まされた。

 最後に。記事中に「著者」という言葉を使ってきたが、厳密には上橋菜穂子さんがこの本を書かれたのではない。本書の文は瀧晴巳さんというライターさんが、上橋さんに対する取材を繰り返し行って書き起こしたものだ。作家からこれだけの物語を引き出したのは、瀧さんの功績だと思う。

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2013年12月 1日 (日)

マイ・ブルー・ヘブン

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2009年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第4弾。今回は、これまでの3冊とは趣向を変えて、今は亡きサチおばあちゃんが主人公の番外編。時代は昭和20年。終戦の直後。サチさんがまだ18歳の時。なんとサチさんは、五条辻咲智子という名前で子爵家の一人娘だった。

 ある日咲智子は、両親から日本の未来に関わる重要な文書を託され、すぐに家を出るように言われる。両親は直後に何者かに捕らわれ、咲智子自身も拘束されそうになる。そこに居合わせたのが勘一。現在の「東京バンドワゴン」の店主だ。

 咲智子の両親を連れ去ったのも、咲智子を拘束しようとしたのもGHQらしい。託された文書を狙って、GHQだけでなく裏社会の組織からも、咲智子は追われる。勘一の父の草平が店主を務める「東京バンドワゴン」は、そんな咲智子を全面的に支援する...

 これは面白かった。前3作のどこかほのぼのしたホームドラマとは違い、サスペンス調のエンタテインメント作品になっている。本編の昔語りで登場する面々が活き活きと活躍する姿も、読者にとっては嬉しい。こんな出会いをした勘一とサチさんが、どれほど固い絆で結ばれていたことかと思う。

 サチさんが子爵家の一人娘だったことも驚きだけれど、勘一の青年時代にも目を瞠った。きっと勘一を見る目が変わると思う。「♪せまいながらもたのしいわがや」「♪We're happy in My Blue Heaven」 ジャズの名曲「My Blue Heaven」も彩りを添える。

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