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2013年11月

2013年11月28日 (木)

とっぴんぱらりの風太郎

著  者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2013年9月30日 第1刷発行 10月15日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「偉大なる、しゅららぼん」から2年ぶりの著者の最新作は、746ページの大長編。元は「週刊文春」に2011年から203年にかけて2年間連載したものだ。週刊誌に2年間連載だから約100回、そりゃぁ長くなるはずだ。

 時代は「大坂の陣」のころ。主人公は伊賀の忍者だった風太郎。そう、本書は著者の初めての時代小説だ。風太郎(ちなみに「ぷうたろう」と読む)は、相棒の忍者である黒弓のいい加減さを発端とした不始末で伊賀を追われ、京都に落ち着くことになる。

 忍者くずれの風太郎には仕事もなく、自堕落に暮らすのみ。そんな風太郎を不憫に思ってか、縁のある人たちが仕事を世話してくれる。それを言われるままにこなしているうちに、風太郎はとてつもなく大きな時代の渦に巻き込まれてしまう...という物語。

 週刊誌の連載だけに、小さなヤマ大きなヤマがいくつも現れる。風太郎は度々命の危険に瀕する。幼いころから共に育った忍者仲間は、信用できるようでまったく信用できない。そして信用できないようで、やっぱり一番頼りになる。このあたりが一つの落としどころになっている。終盤の展開には色々と思うところがあるけれど、なかなか魅せる物語に仕上がっている。

 時代の渦は風太郎を大坂へ誘う。そして400年の時を超えた「プリンセス・トヨトミ」へとつながる。

 蛇足。「つながる」という意味では、風太郎らは「鴨川ホルモー」の登場人物とも重なる。何となく流されてしまう風太郎は安倍に、気のいい黒弓は高村に(黒弓はマカオの生まれで、高村は帰国子女だ)...

 と思っていたら、本書の特設サイトのインタビューで、「「鴨川ホルモー」のように、また大学生くらいのボンクラ主人公を使って話を書きたいなあ、と思っていた」と著者が答えていた。

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2013年11月24日 (日)

魔性の子

著  者:小野不由美
出版社:新潮社
出版日:1991年9月25日 発行 2002年11月30日 24刷
評  価:☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの外伝。ただし本編の第1作「月の影 影の海」より前に発行されていて、発行当初は外伝であることも(本編がないのだから当然だけれど)、シリーズであることも明らかにされていなかった。「黄昏の岸 暁の天」の物語と表裏となる、私たちの世界の出来事を描いている。

 主人公は広瀬。私立の男子高校を3年前に卒業し、母校に教育実習生として戻って来た。広瀬が受け持った2年6組に、これと言って目立つわけではないのに、明らかに周囲の者とは違う、と感じる生徒がいた。彼の名前は高里。彼にはある噂がつきまとっていた。

 その噂は「高里は祟る」というもの。高里をいじめたりからかったりした者が、大けがを負ったり事故で命を落としたりしているというのだ。広瀬が学校に来て5日目にも、高里と関わった生徒2人が不可解な事故で怪我を負った。こうしたことは偶然なのか、それとも...

 「高里の祟り」は偶然ではありえないほど繰り返される。高里が直接手を下していないことは明らかでも、周囲の感情は高里を許せない。結果として悪意に包囲され、その報復は徐々にエスカレートし、それが更なる悪意を呼ぶ。

 「黄昏の岸 暁の天」の読者には、「高里の祟り」の正体が分かる。十二国の世界から見た視点で、本書のの出来事の一端が描かれていたからだ。しかし当然ながら、本書の中の人々には分からない。そうした視点で描くと、こんなにもホラー色の強い物語になる。

 本書が発行された時点で「黄昏の岸 暁の天」の物語が、すでにほぼ完成した姿で存在していたことが感じられる。細部にわたって2つの物語の関連が、齟齬を起こさずに散りばめられているからだ。それなのに「外伝」である本書を最初に出したのは、「祟りの正体を知らない視点」を読者に提供するためだったのかもしれない。

 それに対して私は「正体を知って」読んだのだけれど、それはそれで良かった。私は「怖い話」が苦手なのだけれど、その苦手意識を感じずに最後まで読めたからだ。本書では、広瀬が抱える「自分がいるべき世界は別にある」という想いや、異端に対する人々の反応など、人間の内面に関わることもテーマとなっていて、そちらに興味を向ける余裕もできた。

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2013年11月21日 (木)

「不快感」がスーッと消える本

著  者:佐藤達三
出版社:PHP研究所
出版日:2013年11月1日 第1版第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 著者の佐藤達三さまから献本いただきました。感謝。

 著者の肩書は「運気上昇トレーナー」。耳慣れない肩書き・職業だけれど、私が理解した範囲では、その人の運命や運気、能力を妨げる足かせを取り除くカウンセリングをされているらしい。その成果は目覚ましく、のべ4000人、対面でのセッションルームに来た方の9割以上の人生が好転しているそうだ。

 本書の主張の根幹はいたってシンプルだ。人間は生まれてきた時には、自由で好奇心旺盛で自信満々の、言わば「無敵」の存在だった。それが人間の本質であって、不快というものはそこにはない。だから、不快感は手放すことができる。そうすれば運気も上昇する。

 「人間の本質」の話は脇に置くと、著者の意見には共感を感じる。不快感というのは、マイナスのエネルギーを持った感情なので、それが過剰になれば運気にも影響するだろう。運気が下がると不快な出来事が起き、ますます不快感を募らせる、という悪循環。これを断ち切るには、意識的に不快感を手放すことが有効だ。

 ただし、このブログで度々同様のことを書いているが、こういった本が受け入れられて役に立ったとしたら、その人がちょうどその言葉を欲している時だったからだと思う。言い換えれば、その時以外に読んでも響かない。言い方は悪いが、捉えどころも中身もない本に思えることだろう。

 著者の対面のセッションの効果が大きいのは、そこに来る方がこうした言葉を求めている方が多いからだとも考えられる。「運気上昇トレーナー」の力を借りたい、と思う方は本書を手に取ってみるといいかもしれない。

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2013年11月17日 (日)

世の中それほど不公平じゃない

著  者:浅田次郎
出版社:集英社
出版日:2013年11月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

  本書は、著者が2012年4月から2013年8月まで「週刊プレイボーイ」で連載した人生相談コラム「人生道場」を基に単行本化したもの。日本ペンクラブ会長で、裏社会にも精通し、ヘビースモーカー、無類のギャンブル好き、という強面な印象の著者と、「週刊プレイボーイ」という軟派の象徴のような雑誌との取り合わせが面白い。

 全部で69もの相談に、著者が正面から答える。連載前には切実な、あるいは聞くに堪えない気の毒な苦悩が寄せられるのでは?と、著者は構えていたそうだ。しかし、実際に届いた相談は、あほらしいほど平和な(つまりどうでもいいような)ものばかりだ。

 例として最初の方に載っていた相談をいくつか紹介する。「彼女に結婚を迫られています、うまく切り抜ける方法を教えてください」「フランスで金髪美女の彼女をつくりたい」「貧乳より巨乳のほうがやっぱりいいですか」「胸毛が濃くて悩んでいます」...

 ..自分で文字にしていて恥ずかしい。こんな相談をいくつか受けたあと、著者が編集者に言う「なんだこの投稿のセレクトは!ほとんどろくなものがないじゃないか」。編集者はこう返した「週プレ(週刊プレイボーイ)といえば基本はだいたいこんなもんです」。..なるほど納得。

 編集者の発言を紹介したが、本書は全編にわたって、著者(浅田次郎。61歳)と、編集者(石橋太朗。27歳)の掛け合いで進んでいく。「次郎と太朗の人生相談」という趣向らしい。

 大変に楽しませてもらった。その理由の第一は、あほらしい相談にも人生の深みを感じさせる回答を返す、著者の懐の広さと引出しの多さにある。相談者はこんな回答をもらえて果報者だと思う。そして理由の第二は、編集者の絶妙な質問と合いの手だ。文学界の重鎮を向こうに回して、よくその魅力を引き出したと思う。太朗くん、グッジョブ!

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2013年11月14日 (木)

めぐらし屋

著  者:堀江敏幸
出版社:毎日新聞社
出版日:2007年4月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の10月の指定図書。

 主人公はビルの管理会社に勤める蕗子。地元の大学を出て今の会社に就職して20年近い、というから40歳ぐらい。一人暮らしの独身。以前に母親を亡くし、この度は父親が亡くなった。

 物語は、蕗子が父親の遺品整理をしていて、厚手の大学ノートを見つけたところから始まる。表紙の裏に黄色い傘の絵が描かれた画用紙の切れ端。その絵は小学生の頃の蕗子が描いたものだった。そして、そのノートの表紙には「めぐらし屋」の文字。

 物語は、このノートをきっかけにして、蕗子が父親の足跡を訪ねる様子を軸として、蕗子の仕事と、子どもの頃の回想が語られる。その3つは少しずつ交錯し始める。

 淡々とした物語の進行の中にしみじみとした良さを感じる本だった。

 亡くなった父親が「めぐらし屋」という仕事をしていたらしい、ということが分かった以外には、大きな出来事は起こらない。でも、よく観察された日々の出来事が詳細に描かれていて、少しずつ楽しい。少しずつ可笑しい。

 兄弟もいないようだから、蕗子はいわゆる天涯孤独の身。おまけに、病院で看護師に「これでよく生きてられますね」と言われるぐらい血圧が低い。心臓にはしぼんだ水風船ぐらいの力しかない。

 もうこの世とのつながりが弱くて心細い境遇なんだけれど、物語にはそういった心細さが感じられない。その理由は蕗子の自然体の生き方にある。何一つ拒むことなく自然に受け入れる。たぶん、蕗子の父親がそうだったように。そういう生き方も悪くないと思う。

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2013年11月10日 (日)

著  者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2013年10月25日 第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、2006~2007年に「小説すばる」に掲載された作品を、2008年に単行本として刊行し、さらにそれを文庫化したもの。

 巻末の吉田篤弘さんによる解説にの冒頭に、「さて、読み終えた皆様、まずは声を揃えて「まいったなぁ」と言い合いましょう」とある。吉田さんの意図とは若干意味合いが違ったが、読み終えた後の私の第一声はまさに「まいったなぁ」だった。

 著者の三浦しをんさんは私の大好きな作家さんで、最近のものに偏っているけれど、小説とエッセイを合わせて十数冊の作品を読んだ。そのほとんどが「明るく前向き」な空気が包んでいたので、そんな物語を想像していた。人間の内面をこんなに黒々と見せる作品だったとは..。

 章ごとに主人公が何人か入れ替わる。1人目は、美浜島という人口271人の島に住む中学生の信之。信之が主人公の第一章は、島ののどかな景色と暮らしから始まる。しかしその島を大きな災害が襲う。それは島の住人のほとんどの命を奪うほどの荒々しいものだった。

 その災害のさ中にもう一つの事件が起きる。信之は同級生の美花を助けるために、「そいつを殺して」という声にしたがって人を殺めてしまう。島を襲った災害とこの事件とは、信之から確実に何かを失わせてしまった。

 第二章以降はそれから20年後の物語。信之の妻の南海子(なみこ)と、信之の美浜島時代の年下の幼馴染の輔(たすく)、それから信之の3人が入れ替わりで主人公となる。災害と事件は信之らの人生を変えてしまっただけでなく、その後の人生にまで重くのしかかる。

 数多くの「悪意」が描かれる。信之や輔の「悪意」も描かれるが、それは「敬慕」やら「憐憫」やらが入り組んだ「屈折」を伴うもので、100%の「悪意」とは違う。しかし、それが折り重なることで、100%の「悪意」よりもさらに醜悪な姿を見せる。

 出版社のWebサイトに、単行本刊行時のインタビューが載っている。「何作か明るい作品が続いていたので、"当然、そうじゃない部分も当然あるよ"と作品という形でお見せできてよかったです。」とのことだ。

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2013年11月 7日 (木)

黄昏の岸 暁の天

著  者:小野不由美
出版社:講談社
出版日:2001年5月15日 第1刷発行 5月29日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの第6作。第1作の「月の影 影の海」で陽子が「慶」の国王に就いてから約2年。今回は登場人物が多い。陽子はもちろん、「東の海神 西の滄海」の主人公の尚孝と六太、「風の海 迷宮の岸」の主人公の泰麒と女武将の李斎、「風の万里 黎明の空」の祥瓊と鈴...。いわゆるオールスターキャスト。これまで線としてつながっていた物語が、面としての世界に広がった。

 オールスターキャストの中で主人公を一人挙げるなら李斎だろう。「風の海 迷宮の岸」で「戴」の国王の知遇を得た李斎は、そのまま戴国の首都州の将軍に就いた。しかしわずか半年後の政変で、国王とそれを補佐する泰麒が共に行方が分からなくなってしまった。それから数年間、王と泰麒が不在の戴国は荒廃を極めていた。

 この戴国の政変とその後の泰麒の物語と、泰麒救出を目指す慶国を中心とした物語の、数年間の時間差がある2つの物語が並行して進む。その間を繋ぐのが李斎だ。李斎は、逆賊として追われ妖魔に襲われ満身創痍で、慶国の王の陽子の助力を乞うために慶国の王宮に駈け込んで来たのだ。

 登場人物だけでなく、物語が扱うテーマも豊富だった。国の政(まつりごと)を行う難しさ、人としてどう振る舞うべきか、天の理(ことわり)と人の道のありよう、行き違いが生む悲劇、それぞれの故国への思い。ハッピーエンドとは言い難い結末が粛然とした余韻を残す。

 陽子が物語に戻ってきてうれしい。「風の万里 黎明の空」で反乱を鎮めたものの、国の復興は道半ばといったところながら、着実に進歩はしているようだ。「よそ者、バカ者、若者が改革を担う」と言われるが、異世界から来て、この世界の仕組みに不案内な、高校生だった陽子は、まさに「十二国」の改革者になりそうだ。

 本書は、このシリーズに先立って発表された「魔性の子 」と対になる作品らしい。実はそれと知ってこれまで読むのを取っておいた。ようやくここまでシリーズを読み進めたので、近々に「魔性の子」に取り掛かろうと思う。

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2013年11月 3日 (日)

日本人へ 危機からの脱出篇

著  者:塩野七生
出版社:文藝春秋
出版日:2013年10月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者のエッセイ集「日本人へ」シリーズの「リーダー篇」「国家と歴史篇」に続く第3弾。雑誌「文藝春秋」の2010年5月〜2013年10月号までに掲載された、本書と同名のエッセイ42本を収録したもの。

 「危機からの脱出篇」というタイトルは付いているものの、もともとが雑誌の月イチ連載のエッセイなので、折々の様々な話題が俎上に乗せられている。日本とイタリアの政治や社会、ヨーロッパと日本の比較文化論、日々の暮らしの中の話題...。著者がイタリア・ルネッサンスや古代ローマを書く端緒も明かされていて興味深かった。

 ローマ史の人物や出来事を引き合いにして現在社会を斬る、それも一切の留保も迷いもなくバッサリと。これが本書の、というより著者の特徴。著者の作品のファンとしては、小気味よくて好ましい。でも、現代の政治家にカエサルのようなリーダーシップやカリスマ性を求めるのは酷というものだ。また、「日本人は○○だから」式の決めつけは、なんだかとても高飛車に感じるし、「バッサリ」と白黒つけられないことの方が世の中には多い。だからとても無責任に聞こえるものもある。

 例えば日本の政治について。著者は「決められる政治」の樹立を今の日本の最重要課題としている。だから、先の参院選の自民の大勝には「良かった、と心の底から思った」となる。今は「常時」ではなく「非常時」だから、思ったことをドンドン実行すべし、というわけだ。しかし今の安倍政権に、思ったことをドンドン実行させていいのか?と問われれば、私はNoと言うしかない。

 また、著者はカエサルに惚れ込んでいる。だから危機に対して、カエサルのように決断力を持って毅然と、しかもユーモアを忘れずに振る舞うのが理想なのだろう。2010年ごろの米国でのトヨタ車の騒動で、日本人は正直すぎ、真面目すぎ、肝っ玉がないと言う。それで「ときには笑ってしまうような広告も出してはどうだろう」と...。これが何か良い結果に結びつくとは到底思えない。

 まぁもっとも著者は、自分の意見が誰にでも受け入れてもらえるなんて、思ってもいないし期待してもいない。そのことが迷いのない文章を生み出すと同時に、少々とんがり過ぎな危うさの元になっている。

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