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2013年10月

2013年10月31日 (木)

峠うどん物語(上)(下)

著  者:重松清
出版社:講談社
出版日:2011年8月18日 第1刷発行 
評  価:☆☆☆(説明)

 主人公は、中学生の淑子。よしこさんの多くがそうであるように、「よっちゃん」と親しみを込めて呼ばれている。舞台は、よっちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんが営むうどん屋。峠のてっぺんにあるから、屋号は「峠うどん」。ただ、お店を始めた頃は「長寿庵」だったけれど、20年たったころに変えたのだ。道を挟んだ向かいに市営斎場ができたからだ。斎場の向かいが「長寿庵」じゃぁ洒落にならない。

 おじいちゃんの打ったうどんは美味しいけれど、峠道を登って斎場の向かいでうどんを食べに来る人はそうそういない。そんなわけで、お客さんの大半は葬儀に出席した人たち。それも故人との距離が少しある人たち。通夜ぶるまいや精進落としには出ないけれど、すぐには気持ちが切り替わらない、まっすぐには帰れない、そんな人たち。

 お店にはたくさんの人が来るけれど、物語で描かれるのはよっちゃんの周りの人たちだ。お父さんやお母さん、学校の先生をしているお父さんの教え子たち、よっちゃんの同級生、街のお医者さん、もちろんうどん屋のおじいちゃんとおばあちゃんのことも..。中学生(物語の後半では受験生)ながら、お店の手伝いをしているよっちゃんの目を通して語ることで、残された人たちの想いが瑞々しく伝わってくる。

 これまでにも何度か書いているけれど、私は「死」と「感動」を結びつける物語に否定的な考えを持っている。しかし、いくつか例外とした作品もある。本書も正直言って微妙な感じなのだけれど、まぁ例外だ。実は例外が多いことに最近気が付いた。それで、どういうのが例外じゃないのかを少し考えてみた。「安易」に「死そのもの」を「感動的なもの」として描いているもの、そういうのはダメだ。

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2013年10月27日 (日)

「いいね!」が社会を破壊する

編  者:楡周平
出版社:新潮社
出版日:2013年10月20日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルを一見すると、Facebookを糾弾する本のように思うかもしれないけれど、そうではない。「いいね!」は、ネットや情報端末などのIT全般を代表している。本書は、ITが発達したこの社会とその行く末に警鐘を鳴らす。
 著者はいくつかの観点を挙げているのだけれど、ここでは「ネットや情報端末の発達と仕事」について紹介する。

 帯のコピーの「「便利の毒」に殺される前に」が、本書の内容を端的に表している。ITによって私たちはひたすらに「便利」や「効率」を実現させてきた。様々な労働や危険から解放されて、暮らしは良くなった(はずだ)。しかし私たちは、その「便利」や「効率」によって殺されようとしている、というのだ。

 著者が最初に挙げたのが、著者自身が15年間在籍したコダック社の例。米国本社であるイーストマン・コダック社は、かつてはエクセレント・カンパニーの1社であったが、2012年1月に日本でいう会社更生法の適用を申請した。写真のデジタル化への対応を誤ったためだ。
 それはコダック1社のことではなく、フィルムの販売・現像・プリントという、裾野の広い産業が急速に縮小している。そこで職を得ていた膨大な数の人々は、どこに行けばいいのだ?という問いかけがされている。

 私見を交えてもう少し発展させよう。コダック社の例の要因であるデジタルカメラ。「最近デジカメを使ってないな」という人も多いのでは?特にコンパクトデジカメは、スマートフォンの登場で、早晩消えてしまうだろう。デジカメだけではない。スマートフォンがあれば、携帯音楽プレーヤーもカーナビも地図もいらない。腕時計も目覚まし時計もいらない。もしかしたら書籍も雑誌も新聞もいらなくなるかもしれない。

 片手に収まる機械一つでたくさんのことができる。便利になったものだ。ただ、それによって要らなくなったものを作っていた会社はどうなる?ここにもそこで職を得ていた膨大な数の人々がいるはずなのだ。私たちは「便利」と引き換えに、自分たちの首をじわじわと絞めているんじゃないのか?

 そして、著者が「あとがき」でいうように「ならばどうしたらいいのか」を提示するのが、この手の本の常であるが、本書にはそれがない。おそらく他のどこにもない。恐ろしいことに、私たちはもう引き返せないところまで来てしまったのかもしれない。

 もう20年は前になるけれど、私は10年ほどコンピュータ会社に勤めていた。そのころ客先で「コンピュータを導入すると職を失う人が出る。それでいいのか?」という疑問を度々聞いた。「いや、人を減らそうと考えるのではなく、その人にはもっと高度な仕事してもらえばいいんですよ」と、答えていた。

 そのころは本当にそう思っていた。でも今は、あれは無責任な薄っぺらい言葉だったと思う。

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2013年10月24日 (木)

TPP 黒い条約

編  者:中野剛志
出版社:集英社
出版日:2013年6月19日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 最近TPPが気になって、少し詳しく知りたいと思って、本を探していて本書が見つかった。詳しく知りたいと思ったわけは、TPP交渉には守秘義務があるとかで、交渉内容が一切報道されない(できない)ため、何がどうなっているのか全く分からなくて不安になったからだ。

 タイトルから容易に想像できる通り、本書はTPPに反対派の立場をとる本だ。こんな本を読んだのでは不安は増すばかりだけれど、少なくとも問題点は把握できるし「最悪の事態」の想像がつく。もう当分選挙はないのだけれど、万が一の意思表示の機会のために、自分の意思をまとめておくこともできる。

 TPPは政治的な問題なのでいろいろな思惑が絡んで、表明される意見の中にはセンセーショナルに煽るだけのものもある。本書のタイトルにも、シンプルな中にTPPに対する悪意が感じられる。ただし内容は論理的な信頼に足るものだったと思う。

 本書の要旨は明快だ。TPPは、環太平洋圏の各国が互恵的な利益を得られる自由貿易のルール作りなどではなく、アメリカの輸出と雇用を増やすための「アメリカの国家戦略」なのだ、ということだ。だから当然に、それに乗っかってしまうと、日本が失うものの方が大きい。

 その「アメリカの国家戦略」を端的に言うと、「各国の市場(社会と言ってもいいかも)を、アメリカの企業がビジネスをやりやすいように変えよう」というものだ。つまりは、1980年代の「日米貿易摩擦」の際に、大規模店舗法とか自動車の厳しい安全基準を、「非関税障壁」としてやり玉にあげたのと同じことだ。

 守秘義務のために報道することがないのか、「重要5項目の関税撤廃の検証」発言が公約違反か否か、なんて大きく報じているけれど、(農家の皆さんには重大事ではあっても)関税撤廃の問題は、TPPで被る影響の一部分でしかない。そのことが分かっただけでも、本書を読んでよかったと思う。

 それにしても不思議に思う。バランスを保つために、TPPに賛成の立場の探したけれど見つからなかった。出版物を見る限りは圧倒的に反対の声が大きい。それなのにどうして政府はこんなに「前のめり」なのだろう?

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2013年10月20日 (日)

真夜中のパン屋さん 午前3時の眠り姫

著  者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2013年10月5日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 大好評シリーズの「まよパン」こと「真夜中のパン屋さん」の第4弾。

 主人公の女子高校生の希実は、真夜中だけに営業しているパン屋の居候。お客は真夜中にやってくる人たちだからか、相当に変わった人が多い。前作までにも、夜中に徘徊する小学生、でかいけれど超美人のニューハーフ、のぞき魔の変態、腹話術の人形を抱えた高校生...。毎回、新しい登場人物が物語を盛り上げる。

 今回の新しい登場人物は、希実の従姉妹の沙耶。広島から男と駆け落ちしてきたという。「金髪に眉毛なし」という風貌から、相当荒んだ生活をしていることが察せられる。果たして、元カレに付きまとわれ、あげくに命の危険まで迫ってきたために逃げてきたらしい。

 この店はこれまでにも様々な(素性の知れない)人を受け入れてきた。希実だってその一人。その日から、沙耶は希実と一つ屋根の下で寝起きすることになった。希実は、幼いころに沙耶の家に居候していた時に、沙耶にいじめられた経験がある。月日は経って、そのころのようなことはないけれど、2人で寝起きする暮らしは、希実にとって心地よいものではなかった。

 物語は、沙耶の話に嘘があって二転三転し、他の登場人物の意外な恋バナが絡んで来たりで、忙しく時にはホロリとさせながら勢いよく進む。そして、おそらくこのシリーズの核心へ向けて切り込み始める。それは希実の過去の出来事と関係がある。

 希実は、母親にそのパン屋の奥さんの美和子とは「腹違いの姉妹」だ、と言われて来た。しかし、美和子は亡くなっている。そして「姉妹」の話も嘘らしいのだけれど、希実と美和子とは何か関係があるらしい、ということが、前作で仄めかされている。本書は、その仄めかしに対する答えになっている。そこにはそれなりにヘビーな過去が明かされているので、読むときにはそのつもりで...

※4月からBSプレミアムで放送された「真夜中のパン屋さん」(滝沢秀明さん主演)が、11月5日(火)から総合テレビで放送されるそうです。私はBSの放送を見ました。ちょっと最初はキャストに違和感がありましたが、回を重ねるごとに薄れてきました。

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2013年10月17日 (木)

図南の翼

著  者:小野不由美
出版社:講談社
出版日:1996年2月5日 第1刷発行 1999年10月8日 第11刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの第5作。前作「風の万里 黎明の空」のレビュー記事で「陽子の物語で今後も押して欲しい」と書いたのだけれど、本書は別の人物を主人公に据えた、陽子が十二国にやってくる「月の影 影の海」の約90年前の物語だった。

 主人公の名は珠晶。「恭」の国の裕福な商家の娘で12歳。物語の冒頭で彼女が登場した場所は、何と首都にある家から遠く遠く離れた辺境の地の宿屋。しかも、ほとんど身ひとつで連れもいない。およそ12歳の(しかも裕福な家の)少女に対して世間が抱くありようではなかった。

 珠晶は「恭」の国王を選ぶ「昇山」に加わるためにここまで旅してきたのだ。「恭」の国は先王が崩御して27年。十二国の世界では、王がいないと国が乱れる。災厄が頻発し妖魔が人を襲うようになる。「27年も王が決まらないのは、自分がその王だからかもしれない。であればそれを確かめなくては。」というのが珠晶がここまで来た理由だ。

 これを、子どもじみたよく言えば可愛らしい、悪く言えば愚かな考えだと思うのが「大人の考え」だろう。しかも「昇山」のためには、妖魔が跋扈する荒地を何十日も旅しなければいけない。こんなことを聞いたら優しく諭してやめさせるのが、まっとうな人間の行いだと、私も思う。。

 こんな具合で物語は、珠晶が家を飛び出してから、辛苦を耐えて旅を続け、「昇山」に至るまでを描く。その途上で、大人を相手に「子どもじみた正論」を吐きまくり、そのたびに周囲の大人は苦笑いで応える。しかし、「正論」というのは正しいから「正論」という。珠晶が口にする「正論」のうちの幾つかには、ハッとするような真理が垣間見えるのだ。

 元気な少女が活躍する物語は、ファンタジーの世界では定番と言える。そうであっても(そうだからかもしれないけれど)私は、本書はとても面白かった。大人がいなくては子どもは生きてゆけないのだけれど、大人は子どもから学ぶこともある。そう思った。

 実は、珠晶は前作「風の万里 黎明の空」にも登場している。それに気が付くと、ある程度は結末が予想できてしまうのだけれど、それで興が削がれることはない。「あの珠晶はこういう子どもだったのか、なるほどね」と、分かった気になれる。

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2013年10月13日 (日)

はるひのの、はる

著  者:加納朋子
出版社:幻冬舎
出版日:2013年6月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「ささらさや」「てるてるあした」の続編。表題作「はるひのの、はる」を含む6編の短編を収録。

 主人公はユウスケ。物語の初めでは小学校に上がる前の春だった。彼は「ささらさや」「てるてるあした」のサヤの息子。その時はまだ赤ん坊だったユウ坊だ。本書は、ユウスケの成長を追って短編を重ねて、物語の終わりでは彼は高校生になる。

 「てるてるあした」の冒頭で、ユウスケのことが「不思議な赤ん坊」と書かれている。確かにユウスケの周りでは不思議なことが起きる。その訳が本書冒頭で分かる。彼には「見える」のだ。亡くなったけれどまだこの世に留まっている人たちの姿が。

 舞台は、佐々良の町を流れる佐々良川のほとりの原っぱの「はるひ野」(そう、表題作は「はるひ野の、春」という意味)。そこでユウスケは、川でうつぶせになって倒れている少女を見つける。その時、「見ちゃダメ」と言ってユウスケの手を引いた少女がいた。彼女の名は「はるひ」

 はるひはユウスケに「手伝って欲しいことがある」と言う。それはとても奇妙なお願いだったけれど、ユウスケは言うとおりにしてあげた。それ以降、はるひは数年に一度ぐらい割合で、ユウスケの前に現れては奇妙なお願いを繰り返し、すぐに姿を消す。その度に誰かが助けられる。

 各短編は、そんな感じで「いい話」で終わるのだけれど、モヤモヤしたものが残る。はるひは何のためにそんなことをしているのか?そもそも何者なのか?そういった謎が最後になって明らかになる。

 前2作は、亡くなった「見えない」人の存在を感じる不思議な物語だった。ユウスケにはそれが「見える」ので、亡くなった人の存在がリアルに感じられ、ファンタジーの要素を含んだ物語になった。「あとがき」に「シリーズ最後の作品」とされているが、それは惜しい。この言葉は反故にして構わないから、続編を希望する。

 最後に。著者が白血病と闘っておられたことは、闘病記を出版されているので知っていた。復帰第1作の本書が出版されて、私は本当に嬉しい。

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2013年10月10日 (木)

ボローニャ紀行

著  者:井上ひさし
出版社:文藝春秋
出版日:2008年3月1日 発行 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の9月の指定図書。

 2010年4月に亡くなった、小説家・劇作家の井上ひさしさんのエッセイ。タイトルを見る限りでは、イタリアのボローニャを訪れた紀行文に思える。確かに始まりは、2003年の12月に著者が初めてボローニャを訪れるシーンから始まる。しかしその後に展開されるのは、ボローニャという街を中心にイタリア全体までに視野を広げた、政治・経済・歴史・文化を活写したレポートだった。

 恥ずかしながら私はボローニャという街のことをほとんど知らなかった。サッカーの中田英寿選手がしばらく在籍していたチームに、そんな名前があったように思う、ぐらいだった。ところが、ヨーロッパでもっとも古い大学であるボローニャ大学があり(ダンテ、エラスムス、コペルニクスらが同窓生!)、工業都市としても発展し、ドゥカティやランボルギーニの本拠地で..と、イタリア有数の都市であるらしい。

 本書の要諦は、何度も繰り返し語られる「ボローニャ方式」と称される街づくりのあり方だ。これによってボローニャは、工業都市への発展と、「生まれた土地で育ち、学び、結婚し、子どもを育て、孫の顔を見ながら安らかに死ぬのが一番の幸せ」と、街の人々が愛して止まない街づくりを同時に成し遂げた。

 「ボローニャ方式」を一言でまとめるのは難しい。「古い建物を壊さずに外観を残して、中を現在の必要に合わせて改造する」というのが、第一の特長ではある。ただ、そのように目に見えるものだけではなく、「社会的協同組合」という公共性を持った組合を、企業と銀行と行政と、そして何よりも市民が支援して育てていく「共生」の精神こそが、ボローニャ方式の肝要だ。

 この方式は好循環を生んでいる。例えばある工場主は、市民に支えられて築いたものだからと、引退するときに工場を街にそっくり寄贈してしまう。そしてそこを使った新しい事業が起きる。もちろん市は無償で提供する。市民は必ず自分たちに何かの形で還元されると信じて、そこを盛り立てる。

 ひとつ驚いたことがある。イタリアの銀行法では、貯蓄銀行は最終利益の49%以上を地域の文化やスポーツに還元するように定めているそうだ。企業活動への介入として、日本やアメリカでは議論にもならないだろう。

 著者の明に暗にの巧みな誘導もあって、ボローニャの話を読みながら、日本の現状が浮かび上がる仕組みになっている。街づくり関係者、自治体、銀行の皆さんに読んでもらいたい。

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2013年10月 6日 (日)

貯金に成功した1000人みんなやっていた 貯金習慣

編  集:マルコ社
出版社:マルコ社
出版日:2013年7月31日 初版第1刷発行 9月5日 第2刷発行
評  価:☆☆(説明)

 出版社のマルコ社さまから献本いただきました。感謝。

 本書は「誰もができて、より効率的な貯金術」をテーマとした本。

 世に貯金をテーマにした本は多いけれど、「誰もができる」という内容のものではないことが多い。そこで本書は、年収300万円以下で貯金に成功している1000人にアンケートを実施して、その貯金術や節約術を調査し、1冊の本にまとめた。実際にやっている人が多ければ、それだけ「誰もができる」に近づくはずだからだ。

 ただし誠に残念なことに、本書には「これは!」というものがほとんどない。「プロが指摘するお金が貯まらない人の特徴」で、「現金が手元になくても欲しいものを買ってしまう」なんて項目があるけれど、プロでなくても分かるだろう。

 節約術も「つけっぱなし・流しっぱなしをやめる」「エアコンのフィルターはこまめに掃除する」などの光熱水費を節約する細々した定番ものと、「返却期限を守り、延滞料金を避ける」という、私には節約以前の問題に思えるものが並んでいる。

 ひとつ気が利いていると思ったのは、節約で「出ていくものを減らす」だけでなく、収入増で「入るものを増やす」という視点を提供したこと。ただしこれもあまり感心しない。「朝の時間を有効に活用」「失敗を恐れずチャレンジ」でスキルアップして出世、ではちょっと説得力がない。「リスクを考えながら投資する」のような、中途半端な投資のススメは危険でさえある。

 世に多い貯金をテーマにした本とは違うものを作ろうとした意図はいい。それなのに、世に多いHowTo本の内容をかいつまんだような本になってしまった。惜しいし残念だ。

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2013年10月 3日 (木)

風の万里 黎明の空(上)(下)

著  者:小野不由美
出版社:講談社
出版日:1994年8月5日 第1刷発行 1996年8月12日 第8刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの第4作。主人公は第1作の「月の影 影の海」の陽子と、「芳」の国の公主(王の娘)の祥瓊(しょうけい)、蓬莱の国(日本)からやってきた鈴、の3人。同じ年頃の少女たちの旅路とその先の邂逅を描く。

 時代は、「月の影 影の海」から1年。「慶」の国王に就いた陽子は苦悩していた。蓬莱から来て国の仕組みもしきたりもわからないため、王としての判断ができない。官僚たちのいいようにされ、また彼らから軽んじられていた。

 祥瓊は、父王がその悪政のために臣下の領主によって誅殺され、自身も公主の位をはく奪されて野に下り、辛酸をなめるような日々を送る。鈴は、言葉が分からず周囲に馴染めなかった。ようやく言葉が通じる飛仙に拾われたが、そこでも執拗ないじめを受ける。2人は生命の危機を乗り越え脱出に成功するが、そこでも安寧は得られなかった。

 祥瓊も鈴も、陽子が「慶」の国王に就いたことを聞き、陽子を訪ねる決心をする。一人は救ってもらえると思い、一人は自分にないものを手に入れた陽子に恨みを持って。その想いは、陽子に近づくにつれて変化していく。やがて、思わぬ形で3人の運命は交錯し始める。

 これは傑作だと思う。700ページに及ぶ長編ながら一気に読んでしまう。ドラマチックでありながら、ところどころに思慮深い諫言がちりばめられている。少女の口からこんな言葉が出る「自分がいちばん可哀想だって思うのは、自分がいちばん幸せだって思うことと同じぐらい気持ちいいことなのかもしれない」

 陽子の物語は、第1作以来3作ぶり。私としては陽子の物語で今後も押して欲しい。

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