« 2013年6月 | トップページ | 2013年8月 »

2013年7月

2013年7月28日 (日)

さよならドビュッシー前奏曲 要介護探偵の事件簿

著  者:中山七里
出版社:宝島社
出版日:2012年5月24日 第1刷 2013年1月2日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 ベストセラー「さよならドビュッシー」の主人公の香月遥の祖父、香月玄太郎が主人公。本書は「さよならドビュッシー」の2年前、玄太郎が脳梗塞から緊急手術で一命を取り留める出来事から、「さよならドビュッシー」の物語が始まる当日までを、5つの短編によって描く。

 玄太郎は、脳梗塞の後遺症によって「要介護」となる。肉体の衰えは精神の衰えにもつながりがちだけれど、玄太郎に関して、それはまったく当てはまらない。本書の冒頭は「こんな不味いメシが食えるかああっ」という、玄太郎の罵声から始まる。我ままを言っているのではない。料亭の食品偽装を見抜いての激高だ。ダメなものダメ、不正や手抜きを許せない、そういう性格なのだ。

 何かある度に激高して怒鳴り散らす。最近はこんなに遠慮のない罵声を聞く機会がないので、最初は読んでいて居心地が悪い思いをしたが、その内なんだか爽快感すら感じるようなった。それは「こんなに言いたいことを言えたら気持ちいいだろうなぁ」ということはもちろんあるが、それだけではなく、玄太郎の言っていることが圧倒的に正しく、それが相手のためにもなっていることが多いからだろう。

 そんな玄太郎が、建築中の家での密室殺人や、銀行強盗、年金の不正受給などの「事件」に遭遇する。玄太郎は、己の眼力を頼りに一代で財産を築いた資産家。その眼力が、先入観に惑わされることなく、周りの者が見えないモノを見逃さず、真実を見抜いて「事件」を解決に導く。

 「安楽椅子探偵」ならぬ「車イス探偵」の玄太郎の推理は、なかなか切れ味が鋭い。物語の記述の中に犯人探しのカギが隠されているので、ミステリーとしても完成度が高い。人情話が少し織り交ぜてあるので謎解きは置いて読み物としても楽しめる。

 最後に、「前奏曲」というタイトルについて。単純に「前日譚」というだけではなく、この物語は「さよならドビュッシー」と、それから始まる「岬洋介シリーズ」への導入の役割をキッチリと果たしている。もちろん岬洋介その人も登場する。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「さよならドビュッシー前奏曲 要介護探偵の事件簿」 固定URL | 3.ミステリー, 3F.中山七里 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月25日 (木)

キアズマ

著  者:近藤史恵
出版社:新潮社
出版日:2013年4月20日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「サクリファイス」「エデン」「サヴァイヴ」に続く、自転車のロードレースの世界を描く4作目。これまでの3作は、白石誓という才能と機会に恵まれたプロレーサーが主人公。本作は別の主人公を立て、舞台も大学の自転車部に移った。新シリーズのスタート、ということだろうか。

 主人公は岸田正樹、大学の1年生。高校の3年間をフランスで過ごし、帰国してから1年浪人して入学。物語の始まりは、まだ入学から1週間にならない頃、愛車のモペット(自転車オートバイ)で下校中、自転車部の櫻井のロードバイクと小さな接触事故を起こしたことだ。

 その接触事故が発端となってさらなる事故が起き、自転車の部長の村上がケガをしてしまう。正樹に責任があるとも思えないのだけれど、彼には芯の通った生真面目さがある。村上に「自転車部に入れ」と言われ、最初は拒否するのだけれど、「1年だけなら」という条件が出て、話をしている内に心がざわめき、唇が勝手に動いていた「わかりました。それじゃ1年だけ」

 前作までのプロのレースチームとちがって、大学自転車部が舞台なためか、何があっても爽やかだ。速さを競う激しいスポーツだから、勝者と敗者を生み、そこには確執や衝突があり、トラブルにも発展する。「命を賭ける覚悟」なんて言葉も出てくる。それでも大学スポーツだから。欲得よりは速く前に進みたい純粋さが勝る、と感じるのは少し能天気に過ぎるか?

 正樹も櫻井も20歳前の若者には重い過去を背負っている。そしてあの小さな接触事故がなければ、おそらく言葉を交わすこともなかっただろう。タイトルの「キアズマ」は、細胞分裂の際に染色体の交換が起きた「X字形」のことを言うらしい。転じて「交わるはずのないものが交わった」この物語を表している。

 前3作で重要な役回りを演じた、チーム・オッジの赤城が、ちょっとだけ登場する。これはファンサービスか、今後の展開への布石か?後者であれば、さらなる続編が楽しみだ。

 にほんブログ村「近藤史恵」ブログコミュニティへ
 (近藤史恵さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「キアズマ」 固定URL | 2.小説, 2B.近藤史恵 | コメント (3) | トラックバック (0)

2013年7月21日 (日)

アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ

著  者:ジョー・マーチャント 訳:木村博江
出版社:文藝春秋
出版日:2009年5月15日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は「アンティキテラの機械」と呼ばれる、ギリシアの小島「アンティキテラ島」の沿岸の海底から引き上げられた、ブロンズ製の機械にまつわるドキュメンタリー。私は、この機会の事を昨年末のNHKの番組「古代ギリシャ 驚異の天文コンピューター」で知って、すごく魅きつけられた。そして、私が入っているSNS「本カフェ」のメンバーさんに、この本のことを教えてもらった。

 「アンティキテラの機械」のことをもう少し。1900年に海綿獲りのダイバーが、沈没船の積荷だと思われる、海底に散乱するたくさんのブロンズ像を見つける。その後、政府肝煎りの回収作業が行われ、この機械もブロンズや陶器などの美術品と共に引き上げられる。
 しばらく放置されていた、この腐蝕したブロンズと木の塊から、いくつもの歯車と古代ギリシャ文字が発見される。200ほどもの細かい歯が付いている大きな歯車。それにいくつもの歯車が精巧に組み合わされている。

 これは古代の時計、あるいは何かを計測するか計算する機械だ、と考えられた。しかし、それはあり得ないことだった。他の積荷などから、この機械は2000年は前のものだと推定されたが、我々の文明がこれだけの精巧な技術を獲得するのは、ヨーロッパの中世。1000年は後のことなのだ。

 驚きはその精巧な技術にだけではない。この機械が表しているものは、どうやら天体の運行のシミュレーションらしい。惑星の運行はもちろん、太陽と地球と月の位置関係の何十年周期の繰り返しや、日蝕月蝕が正確に表現されている。天動説の時代だから、観測から導き出したわけだけれど、その精密な観測と洞察力に驚く。

 私は「歯車」が大好きだ。回転数や力の方向を変える正確無比な動きが美しいと思う。変なヤツだと思わないで欲しい。なぜなら、そういう人は少なくないようなのだ。本書に登場するのは、この機械に魅了された数々の科学者たち。その記録を、人間臭い部分を含めて綴っている。

 X線による撮影技術やコンピュータによる画像処理の発達によって、現在ではこの機械についての解明がかなり進んでいる。ただ本書は、この機械の解説ではなく、この機械と科学者たちの100年に及ぶドキュメンタリーを主軸にしたものだ。私としては、この機械の動作や機能について、もう少し詳しく丁寧な解説が欲しかったが、それは別の機会を期待することにする。

(2013.7.29追記)
「アンティキテラの機械」の動きを再現したCGを見つけました。見とれてしまいました。
YOUTUBE「Virtual Reconstruction of the Antikythera Mechanism」

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ」 固定URL | 5.ノンフィクション | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月18日 (木)

スタンド・バイ・ミー

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2008年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」「シー・ラブズ・ユー」に続く、「東京バンドワゴン」シリーズの第3弾。

 シリーズ通して舞台となっているのが、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。登場人物もほぼ同じ、ただしだんだんと増えている。実は「東京バンドワゴン」を営む堀田家も、結婚したり子どもが生まれたりで人数が増え、今や12人と6匹という大家族になっている。

 表紙ウラに間取り図が載っていて、これを見ると仏間にも納戸にも人が暮らしていて、家のキャパシティを越えてしまっている。さらに人が増えそうな気配もあって、どうしたものか?ということが目下の問題(のひとつ)。どうにもならんでしょ?と思っていたが....なるほど。

 章ごとに小さな事件や大きな事件が起きる。例えば「年配のご婦人が、繰り返し本を3冊並べ替えて帰る」というような小さな事件、「(ロックンロールの大スターでもある)我南人の隠し子騒動が週刊誌にすっぱ抜かれる」という大きな事件。これを堀田家+周辺の仲間の総力を挙げて解決する。ちょっと「力技」もあるけれど、あまり人を傷付けることなく、何とかまあるく収まってホッとする。

 前作「シー・ラブズ・ユー」のレビューで、「東京バンドワゴン」は、女性たちによって支えられている、ということを書いたけれど、今回は、当主の勘一の孫の青の奥さん、すずみさんが魅せてくれた。京都の「いけず」のじいさん相手に「てやんでぇ」と啖呵を切って...若い女性の「てやんでぇ」に、じいさんたちといっしょに私ものけぞった。けど、カッコよかった。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「スタンド・バイ・ミー」 固定URL | 3.ミステリー, 39.小路幸也(バンドワゴン) | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月14日 (日)

神様のカルテ3

著  者:夏川草介
出版社:小学館
出版日:2012年8月13日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「神様のカルテ」「神様のカルテ2」に続く第3弾。私が読んだ昨年8月発行の初版第1刷についている帯には「累計218万部」とある。それから1年になろうとしているので、もしかしたら300万部に到達しているのかもしれない。来年には「神様のカルテ2」の映画が公開される。今は未達でも300万部超えは時間の問題だろう。

 前作から引き続き、舞台・登場人物はほぼ同じ。松本市にある民間病院が舞台で、そこの内科のお医者さん、栗原一止(いちと)が主人公。他の登場人物は、病院の医師や看護師と患者、一止の妻のハルと一止が住むボロアパート「御嶽荘」の住人ら。

 ただ、何から何まで前作と同じでは、空気が澱んでしまう。新しいドラマを生むためには、そこに外の風を入れる必要がある。その「そとの風」が、小幡奈美という内科の女医。医師になって12年目、消化器の専門家のベテランで、人当たりが良くてしかも美人。リンゴを丸かじりするのはちょっと意外だけれど、そのギャップさえも魅力的に見える。

 これだけなら、多忙を極める医療現場に吹く涼風だけれど、もちろんそんなことはない。看護師長に「意外に人を見る目がない」と言われた一止は、なかなか気が付かないけれど、小幡先生には問題があり、曲げられない信念もある。そしてその信念は、一止に影響を与えずにいない。

 「あせってはいけません。ただ、牛のように、図々しく進んでいくのが大事です。」繰り返し登場する夏目漱石の名言が心に残る。随所に「いい話」や「出会いと別れ」を入れながら、今回は物語が大きく動いた。次回はあるのだろうか?

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「神様のカルテ3」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月11日 (木)

青空のルーレット

著  者:辻内智貴
出版社:筑摩書房
出版日:2001年5月20日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の6月の指定図書。

 表題作「青空のルーレット」と、2000年の太宰治賞受賞作「多輝子ちゃん」の2編を収録。著者はデザインの専門学校を出て、しばらくソロシンガーとしてレコード会社に在籍、バンド活動を経て作家デビュー、という経歴の持ち主だ。

 私としては「青空のルーレット」の方が楽しめた。主人公はタツオ。ビルの窓拭きが彼の仕事。仲間たちと来る日も来る日も、ビルの外側をロープでぶら下がって窓を拭く。この物語は、彼ら「窓拭き」たちの汗臭くも爽やかな群像劇だ。

 窓拭きたちは、他にやりたいことがある。音楽、芝居、デザイン、写真、マンガ...。いつかそれで喰えるようになることを夢見ている。夢ではお腹に溜まらないし、家賃だって払わなければいけないから、窓を拭いている。極めてシンプルな職業観、人生観を持っているのだ。

 彼らの職業観、人生観と同じぐらい、この物語はシンプルにできている。イヤな奴はとことんイヤな奴だし、タツオの仲間たちはイイ奴らだ。「世間から見れば、少し外れているように見えるかもしれないけれど、俺たちは大事なモノは失ってないゼ」という、メッセージもシンプル。だから伝わりやすい。ラストで読者は、ためらいなく喝采を送れる。

 「あとがき」によると、著者には「窓拭き」の経験があるようだ。もしかしたらタツオには著者自身が投影されているのかもしれない。同じように「多輝子ちゃん」にも、ミュージシャンとしての著者の経験が織り込まれているようだ。その思い入れの強さをヒシヒシと感じる。もっとも強すぎて多少くどく感じたのが残念だ。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「青空のルーレット」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月 7日 (日)

時のみぞ知る(上)(下)

著  者:ジェフリー・アーチャー 訳:戸田裕之
出版社:新潮社
出版日:2013年5月1日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 英国のベストセラー作家、ジェフリー・アーチャーの最新作。詳細は不明だけれど帯には「全英1位」の文字が躍る。

 これは面白かった。著者の作品は、主人公の生涯を描く長編(サーガ)、サスペンス・ミステリー、短編集の3種類に分類されるそうだけれど、これは1番目の「サーガ」になる。これまでたくさんの著者の作品を読んだけれど、この「サーガ」作品群が一番面白いと思う。

 舞台は英国西部の港湾都市ブリストル。時代は1919年から1940年。主人公はハリー・クリフトン。物語の始まりの年には、まだ母親のお腹の中だった。そして、本書の扉ページの前には、「クリフトン家」と「バリントン家」の家系図。本書はこの両家の人々の確執や友情を描く。

 ハリーは物心がつく前に父を亡くしている。家族の話によると戦争で戦死したそうだけれど、どうもそれは真実ではないらしい。母と祖父母、伯父と一緒に暮らしているが、暮らしぶりはなかなか厳しい。ただ、そのソプラノを見出され、奨学生として聖歌隊学校に進むことになり、そこで上流階級に属するバリントン家の長男ジャイルズと出会う。

 ハリーとジャイルズはそこで友情を育む。しかしハリーの父の死には、ジャイルズの父のヒューゴーが関係しているらしい。さらにハリーの母のメイジーとヒューゴーの間には、因縁が感じられる。二人の友情がいずれ過酷な運命に直面する予感を、ヒシヒシと感じさせながら物語が進む。

 読み終わってしばらく呆然としてしまった。こんな終わり方をするとは思っていなかった。実は本書は「クリフトン年代記」という長大な物語の第1部。巻末の「訳者あとがき」によると、英国では第3部まで発売されているそうだ(そしてまだ完結していない)。まだまだ続編があることへのワクワク感と、長い道のりに足を踏み入れてしまった戸惑いを、同時に感じた。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「時のみぞ知る(上)(下)」 固定URL | 3.ミステリー, 3B.ジェフリー・アーチャー | コメント (0) | トラックバック (1)

2013年7月 4日 (木)

僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか

著  者:荻上チキ
出版社:幻冬舎
出版日:2012年11月30日 第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 タイトルを見て、自分の想いととても近いので読んでみようと思った。テレビで見る政治家や著名人の意見から、ネットに溢れるコメントまで、見渡せば「あれはこうだからダメだ」という批判ばかりが幅を利かせている。ダメだと思うことが多いからこうなっているのも事実。しかし、これでは前に進まない、もっとポジティブ(前向き)な意見交換が必要だ、と思っていた。

 著者も「はじめに」でこう書いている「他人の提案に対し、延々とダメ出しを加えるだけではなく、もっとこうしたほうがいいと提案しあう議論を加速させなくては、もうこの社会は持ちません」。「ダメ出し」に対して、ポジティブな提案を出すという意味の「ポジ出し」という言葉を作って、著者はこれを勧める。

 本書では、まず大雑把な見取り図として、1970年代以降の政治経済状況を見渡して、時代が予算を分捕って配る「配り合い」の競争から、どこの予算を減らすかの「削り合い」の競争の時代になったと見る。別のところを削らなければ、自分のところが削られるかもしれない。これが「足の引っ張り合い」、つまりダメの出し合いにつながっているわけだ。

 このあと、消費税法案、デフレ議論、生活保護、ネットカフェ条例、と次々とテーマを替えて、その問題点を浮き彫りにしていく。さらには、官僚やメディアのありようについてダメ出しする。???? 残念なことに、本書の初めから7割ぐらいまでは、色々な物事へのダメ出しが延々と続いている。タイトルとは正反対で、怒る気にさえならず呆れてしまった。そんな訳で☆は2つ。

 著者の名誉のために、そして何よりこの記事がダメ出しで終わらないために、3つ述べておく。1つ目。延々と続くダメ出しの中には「こうすべきだ」という提案も書かれている。これが著者が言う「ボジティブな提案」なのかもしれない。しかし「このやり方は間違いで、こっちの方が正しい」という言い方は、私にはダメ出しにしか思えなかった。

 2つ目。7割のダメ出しの残りの3割には、いいことも書いてあった。「倫理」と「功利」の2つのレンズと、社会疫学的なアプローチの話はその一つ。削り合い競争の中で、倫理的には必要な弱者や少数の利益は犠牲にされがちだ。しかし、疫学的なアプローチで予防的な解決策が取られれば、実は社会全体に対する功利的なメリットも大きい、といった見方だ。

 3つ目。最終的には「(読者の)あなたも何か行動しましょう」という話になる。そう言うだけあって、著者はすでに行動済みなのだ。難病や障害についての困ってることをシェアするメールマガジン「困ってるズ!」や、東日本大震災関連情報のサイト「復興アリーナ」、いじめ対策の情報サイト「ストップ!いじめナビ」。どれも有意義な試みだと思う。下にURLを紹介しておくので、興味のある方は覗いてみて欲しい。
・困ってるズ!: http://synodos.jp/komatterus/
・復興アリーナ: http://fukkou-arena.jp/
・ストップ!いじめナビ: http://stopijime.jp/

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか」 固定URL | 7.オピニオン | コメント (2) | トラックバック (0)

« 2013年6月 | トップページ | 2013年8月 »