« 2013年5月 | トップページ | 2013年7月 »

2013年6月

2013年6月30日 (日)

シー・ラブズ・ユー

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2007年5月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「東京バンドワゴン」シリーズの第2弾。舞台は前作と同じで、東京の下町にある古本屋&カフェの「東京バンドワゴン」。登場人物もほぼ同じで、章ごとに少しずつ新しい登場人物が加わっていく。

 「文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」、これは今の店主の勘一の父が記したもので、「東京バンドワゴン」を営む堀田家の家訓で、古本屋の壁に墨文字で書かれている。家訓が実質的な意味を持つ時代ではないけれど、堀田家の面々はそれをできるだけ守ろうとしている。

 この家訓が関係するのか、堀田家には近隣の諸問題を引き寄せる何かがあるらしい。例えば、カフェに赤ちゃんが置き去りにされたり、持ち込まれた本に細工がされていたり、謎の紳士が自分で売った本を変装して買い戻しに来たり..。そして、勘一をはじめとする堀田家の面々は家訓を守って、こうした「事件」に首を突っ込んでいく。

 今回は様々な「過去」が明らかになった。例えば、店の常連のIT会社の社長の過去。それは思いのほか重いもので、社長の現在と未来まで変えてしまうものだった。勘一の息子の我南人の亡くなった妻、秋実についても語られた。それは「東京バンドワゴン」の過去、とも言えるエピソードだった。

 2冊を読んで、チラリと感じたのは、堀田家には良い嫁さんに恵まれていること。勘一の妻でこの物語の語り手のサチ、我南人の妻の秋実、我南人の息子の紺の妻の亜美、同じく我南人の息子の青の妻すずみ。「東京バンドワゴン」は、女性たちによって支えられている(男性陣もがんばってはいるけれど)。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「シー・ラブズ・ユー」 固定URL | 3.ミステリー, 39.小路幸也(バンドワゴン) | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月27日 (木)

図解 90分でわかる!日本で一番やさしい「アベノミクス」超入門

著  者:永濱利廣
出版社:東洋経済新報社
出版日:2013年4月18日 第1刷発行 2013年6月3日 第4刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 今さら言うまでもないことだけれど「アベノミクス」とは、現在の第2次安倍内閣の一連の経済政策の通称。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3つを、「3本の矢」に例えたりして、なかなかネーミングセンスが良いらしく、今年の流行語大賞候補として取り沙汰されてもいる。

 著者はエコノミストで、プロフィールには「テレビ出演多数」とある。このテレビ出演などで「理解してもらえなかった」と感じることが多々あったことが、本書執筆のきっかけになったそうだ。理解してもらうために本を一冊書こうというのだから、真面目な方なのだろう。

 「真面目な方」らしく、良く言えば曖昧さやいい加減さがない、悪く言えば面白味や親近感の湧かない説明だった。きっと「日本一やさしい」ということはないだろう。経済を勉強中の学生さん、つまり基本的な経済用語の知識がある方、が読むのに良いぐらいかと思った

 本書の内容はまず、日本がデフレである理由、アベノミクスの狙い、アベノミクスへの反対意見、をそれぞれ1章を設けて解説する。そして、最終章のタイトルは「2~3年でデフレは終わり、日本経済は復活します」とくる。そう、著者は「アベノミクスは成功する」と考える一人であるらしい。

 「成功するのか」と安心するのは早い。「2~3年で...復活します」となっていることに、注目して欲しい。私たちが効果を実感できるまでに3年かかる。具体的には、月々の給料が上がるのは2016年ぐらいからだそうだ。私たちがそれまで我慢できなければ、「アベノミクス」は頓挫してしまう。

 本書の随所に「期待の醸成」という言葉が出てくる。「これから経済が良くなる」という「期待」こそが経済を良くする。「経済は感情で動く」という本があるが、その言葉どおりで「期待」という感情のエンジンが止まると、そこで終わってしまう。けっこう頼りない基盤の上に乗った政策なのだ。

 もちろんこんなことは著者も十分承知している。我慢してもらうためには「その後には必ず効果が実感できる」という、未来予想図を示す必要がある。本来はそれは政治の役割だが、誰もやらないので、それを自分でやることにしたのだろう。著者は「アベノミクスは成功する」というより、「成功して欲しい」と痛切に願っているのだと思う。

 その痛切な願いは著者だけのものではない。「デフレを脱却して、経済を活性化して、暮らしを明るくして欲しい」というのは、今の日本の国民の共通した願いだろう。その成否はあなたの我慢にかかっている、と言われたらどうするだろうか?私は我慢しようと思うのだけれど、さて我慢しきれるだろうか?

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「図解 90分でわかる!日本で一番やさしい「アベノミクス」超入門」 固定URL | 6.経済・実用書 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月23日 (日)

知の逆転

著  者:吉成真由美
出版社:NHK出版
出版日:2012年12月10日 第1刷発行 2013年5月20日 第11刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 DNAの二重らせんを解明したジェームズ・ワトソン、「人工知能の父」と呼ばれるマービン・ミンスキー、ニューヨーク・タイムズに「生きている人の中でおそらく最も重要な知識人」と評された言語学者ノーム・チョムスキー、「誰も知らないインターネット上最大の会社」アカマイ社のトム・レイトン、映画「レナードの朝」の原著者で神経学者のオリバー・サックス、『銃・病原菌・鉄』で人類と文明の発展について新たな知見を表したジャレド・ダイアモンド。現代の「叡智」とも言える6人へのインタビュー集。

 「知の逆転」というタイトルは、この6人について「限りなく真実を追い求め、学問の常識を逆転させた」という評価をして付けたものらしい。「常識を逆転」という評価には首肯しかねるが、「真実を追い求め」の部分は、確かにそうだと思った。この人たちは「自ら考えそれを検証する」ということを実践してきた。そのことが自信となって表れている。

 私はコンピュータ関連の仕事をしていることもあって、人口知能学者のマービン・ミンスキーと、アカマイ社のトム・レイトンの2人のインタビューが、特に印象に残った。

 ミンスキー氏は、事故後の福島原子力発電所でロボットに作業させることができなかったことに、深い失望と憤りを感じたそうだ。30年前のスリーマイル島事故の後に、「たとえ知能ロボットを作ることができなくても、リモコン操作できるロボットを..」という記事を書いた彼は、30年後に同じ事態に遭遇した。「チェスには勝ててもドアさえ開けられないコンピュータ」に、何の意味があるのか?というわけだ。

 レイトン氏のアカマイ社は、インターネット上の効率的な経路決定の技術を持っていて、グーグル、ヤフーなどの主要なサーチ・ポータルサイトのすべてと、メジャーなサイトの多くを顧客に持っている。推計ではインターネットの総情報量の15~30%が、アカマイ社を通して流れているらしい。

 「悪い奴になるほうがいい奴になるより簡単」というご時世で、セキュリティの攻防は熾烈を極めている。インタビューは、そのことについて詳しいのだけれど、私は別のところに目が留まった。それは、以前に読んだ「理系の子」の舞台となった、インテル国際学生科学フェア(ISEF)に、レイトン氏も出場した、という一文だ。少し誇張を許していただければ、その時の氏の経験が今のインターネットを支えている、と言える。

 6人全員に「特に若い人たちにどのような本を薦めますか」という、同じ質問をしている。どのような意図を持った質問なのか分からないが、それまでのインタビューとの脈絡がなく唐突な感じだ。ただその答え方が、それぞれの人の「素顔」が垣間見られるようで、意外とナイスな質問だったかもしれない。

  ナイスと言えば、インタビュアーを務めた著者も、いい仕事をしていると思った。「そんなのは当然」なのかも知れないけれど、しっかり準備をして臨んでいるようだった。さらに、このインタビューができることを喜んでいるようにも感じたけれど、さすがにそれは深読みが過ぎるか。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「知の逆転」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月20日 (木)

思考の整理学

著  者:外山滋比古
出版社:筑摩書房
出版日:1986年4月24日 第1刷発行 2013年4月25日 第91刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 30年前の1986年に発行され、この4月現在で175万部突破。つまりロングセラーにしてベストセラー。すでに数多くの評価や引用がなされているので、「今さら感」があるのだけれど、前から気になっていたので読んでみた。

 本書はもともとは、さらに3年遡った1983年に「ちくまセミナー」という叢書の1冊として刊行された同名の本を文庫化したもの。絶版となっている叢書の他の本には、田原総一朗さん、竹内宏さん、金田一春彦さんらが著者として名を連ねている。著者やタイトルから察するに、ビジネスマン向けの知的読み物だったようだ。

 内容は、英文学者、言語学者である著者の、情報の整理法や発想法、教育論、時評など、全部で33編を収めたエッセイ集。「整理学」よりは「整理術」と言ったほうがしっくりとくる。例えば、「アイデアが浮かんだら、これを一旦寝かせておく。そのためには安心して忘れる必要がある。安心して忘れるために記録する。」という論法で来て、記録するカードやノートの書き方の具体例を説明してくれる。

 教育論として、今の学校教育は、自力では飛べない「グライダー人間」の訓練所で、自力で飛び上がる「飛行機人間」は作れない、という。何げなく「今の学校教育は..」と書いたが、この本は30年以上前に書かれた本だ。さらに時評として、コンピュータに仕事を奪われる様までが鮮やかに描き出されている。まさに慧眼。これはほとんど「予言の書」だ。

 最後に。帯に「東大・京大で5年間販売冊数第1位」と書いてあって、このコピーが販売部数に大きく寄与していると思う。大学生協の調べで「第1位」にもちろんウソはないと思うけれど、東大・京大で売れるのもこのコピーの効果だろう。つまりこのコピーが、好循環を生む「良くできたコピー」だということで、それが内容を保証するわけではない。私は「なるほど」と思うところも「そうなんだよ」と共感するところもあった。しかし公平に言って、大きな期待は禁物かと思う。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「思考の整理学」 固定URL | 4.エッセイ, 6.経済・実用書 | コメント (2) | トラックバック (1)

2013年6月18日 (火)

深読み「聖なる怠け者の冒険」

 先日読んだ「聖なる怠け者の冒険」が、著者の前著の「宵山万華鏡」「有頂天家族」とつながっていることをレビュー記事に書きました。このことは著者による「あとがき」でも明らかにされています。しかし私は、さらに強いつながりが、「聖なる怠け者の冒険」と「有頂天家族」の間にあるように思ったので、ここに書くことにしました。

 そんなわけでこれから書くことは、「有頂天家族」をお読みの方でないとよく分からないと思います。また、物語の核心には関わりませんが、両方の作品の内容にも触れます。何の先入観もなく物語を読みたいと思う方は、読み終わってからで良いので、是非ともこの記事に戻ってきて読んでいただけるとうれしいです。

 「聖なる怠け者の冒険」の浦本探偵は「有頂天家族」の矢二郎ではないかと思うのです。

 そのわけは、浦本探偵のセリフに矢二郎と重なることが多いからです。

1.俺には弟がいるんだけど、こいつがへんな騒動ばかり起こすやつでね。でも憎めないやつなんだ。メチャメチャに事態が紛糾するほど生き生きとしてくる...(P203)
 矢二郎はタヌキの四兄弟の次男で、弟の矢三郎は「有頂天家族」の主人公で、まさにそういう性格でした。

2.ずいぶん長い間、引き籠って暮らしていたことがありましてね。その時代には、身の上相談をやっていた(P203)
 矢二郎はあることにショックを受けて以来、カエルの姿で寺の井戸の底に籠っていました。そこで家族や従妹たちの愚痴や相談を聞いていました。

3.俺は知ってるけど言わないでおこう。命が惜しいもの(P205)
 これは、偽電気ブランというお酒をどこで作っているかを聞かれての答です。そのお酒は矢二郎の叔父が製造していて、矢二郎たちと叔父は激しく敵対しているんです。

4.俺ならそんなに疲れる前に、蛙になって井戸に籠もるなあ(P319)
 上の2.に書いたとおり、矢二郎はカエルの姿で井戸に籠っていたことがあります。

いかがでしょう?これは間違いない、と思いませんか?

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
 「森見登美彦」カテゴリー

 人気ブログランキング投票:「一番好きな森見登美彦さんの作品は?」
 (あなたの好きな森見作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「小説家、森見登美彦」ブログコミュニティへ
 (森見登美彦さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「深読み「聖なる怠け者の冒険」」 固定URL | 2.小説, 23.森見登美彦 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月16日 (日)

何者

著  者:朝井リョウ
出版社:新潮社
出版日:2012年11月30日 発行 2013年1月25日 4刷
評  価:☆☆☆(説明)

 2012年度下半期の直木賞受賞作。1989年生まれの著者は、2012年の春に大学を卒業して就職している。大学生の就職活動を題材にした本書は、最近の著者自身の経験が反映していると考えて間違いないだろう。

 主人公は二宮拓人、就活中の大学生。以前は劇団をやっていたらしい。その他に主な登場人物が4人。神谷光太郎、バンドのボーカルで拓人の同居人。田名部瑞月、光太郎の元彼女、1年間アメリカに留学していた。小早川理香、瑞月の友だちで同じく留学経験あり、拓人のアパートの1つ上の階に住んでいる。宮本隆良、理香の彼氏で同棲中で、就活には興味がないらしい。

 主な登場人物は、隆良も含めて5人全員がいわゆる就活生。この5人が出会って、再来年の春の就職を目指して、就活のスタートを切ったところから物語は始まる。ES(エントリーシート)を書いたり、大学のキャリアセンターに通ったり、模擬面接をやったり....。

 「今のこの時代で団体に所属するメリットって何?」などと言い放ってしまう隆良を除いて、残りの4人は同じ就活生として、協力したり励まし合ったりしながら、ままならない日々を過ごす。「自分で何もしなかったら今のまま。何者にもならない」。そんな人生初めての経験。

 大学生の就活を、自身の経験が鮮やかな内に書き留めただけあって、セリフや描写が瑞々しい。ただこの物語は協力し励まし合う清々しいだけの青春物語ではない。就活は「早抜けのゲーム」のようなものでもある。昨日励ました相手が、明日には内定を自分より早く得るかもしれない。

 その時に「おめでとう」の言葉を口にすることはできても、先を越された想いと折り合いを付けるのは難しい。セリフや描写の瑞々しさは、時には刃物のような鋭さを見せる。ちりばめられたツイッターの書き込みが、実況中継のように彼らの気持ちを伝える。しかし、一皮めくるともう一段下に秘された心理があった。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「何者」 固定URL | 2.小説, 2G.朝井リョウ | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月12日 (水)

聖なる怠け者の冒険

著  者:森見登美彦
出版社:新潮社
出版日:2011年1月30日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 森見登美彦さん3年ぶりの長編小説。2009年から2010年にかけて、朝日新聞に連載された同名の作品を全面改稿したもの。私は、新聞連載を欠かさず読んでいたが、全面改稿の「全面」に誇張はなく、全く違う物語に生まれ変わっている。発売に当たって朝日新聞に掲載されたインタビュー記事によると、なんと6回も書き直したそうだ。

 主人公は小和田君、京都郊外の化学企業の研究所に勤める若者。夢で「アア僕はもう、有意義なことは何もしないんだ」と呟き、その夢の中でさらに眠ってしまう、という怠け者。同僚たちに「田んぼのタニシと良い勝負」と言われるぐらい、静かな生活を送っている。

 そんな小和田君に、タヌキのお面に黒マントの変てこな怪人「ぽんぽこ仮面」が、「自分の跡を継げ」と言って付きまとう。さらに「ぽんぽこ仮面」を捕まえようと、得体のしれない組織が追いかけまわしているらしい。

 この「小和田くんに付きまとうぽんぽこ仮面」と「ぽんぽこ仮面を追う謎の組織」という2つの追いかけっこが、絡まりあって物語が進む。そこに可愛らしい探偵助手の「玉川さん」や、やたらと明るい「恩田先輩」とその彼女の「桃木さん」、スキンヘッドの「後藤所長」ら、個性的な登場人物が絡む。もう絡まりあって何だか分からなくなってくる(笑)

 この物語は「有頂天家族」と「宵山万華鏡」とつながっている。舞台が祇園祭の宵山の京都、という共通点もあって、雰囲気が「宵山万華鏡」に似ている。つまり「きつねのはなし」から連なる、京都の「妖しさ」が見え隠れする物語。著者お得意の「腐れ大学生モノ」とは別の系統の作品。私はどちらかと言えば、この「妖しい」系統の作品が好きだ。

 ファンには周知のことだけれど、著者は体調を崩して休筆していた。復帰作とも言えるこの本が出版されて、私はとても嬉しい。クライマックスにかけてのハチャメチャぶりには、「ちょっとガンバリ過ぎじゃないの?」と心配してしまったけれど、元気になられた証だと思うことにした。

 嬉しいお知らせが続く。本書に「森見新聞」というチラシが挟み込んであって、それによると、TVアニメ「有頂天家族」が7月7日から各局で放映開始、「有頂天家族2(仮)」が秋に幻冬舎から、「夜行」が冬に小学館から、それぞれ刊行予定。

(2013.6.18 追記)
この物語を深読みした、深読み「聖なる怠け者の冒険」という記事を書きました。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された作品)
 「森見登美彦」カテゴリー

 人気ブログランキング投票:「一番好きな森見登美彦さんの作品は?」
 (あなたの好きな森見作品の投票をお待ちしています。)
 にほんブログ村「小説家、森見登美彦」ブログコミュニティへ
 (森見登美彦さんについてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「聖なる怠け者の冒険」 固定URL | 2.小説, 23.森見登美彦 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 9日 (日)

商店街はなぜ滅びるのか

著  者:新雅史
出版社:光文社
出版日:2012年5月20日 初版1刷 9月20日 8刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 親しくしている人の中に、商店街の活性化のために頑張っている人が何人かいる。彼女たちが見たら(多分見ることになるのだけれど)目を剥きそうなタイトルだ。「商店街活性化」には、私も少し関わっている。書店で本書を見た時にはクラクラした。「滅びるのが既定路線かよ?」と、宙に向かってツッコミを入れてしまった。

 例えば、以前読んだ「日本でいちばん元気な商店街」のような例もあるのだ。(ただし、この本については様々な方から教えていただいたり、私も実際に見学に行って、「本には書かれていないこと」もあることが分かった。)

 また、本書のサブタイトルも紹介しておきたい。「社会・政治・経済史から探る再生の道」。つまり、著者も「何とかしたい」と思う一人だったわけだ。「あとがき」に詳しいが、著者の実家は北九州市の酒屋で、15年ほど前にコンビニに転業したそうだ。本書に書かれている「商店街のこれまで」を間近に見て育ち、「これから」を憂える気持ちを、人一倍お持ちなのだろう。

 生意気を言うけれど、本書はなかなかの意欲作だと思う。「商店街」を語る本はたくさんあるけれど、成功事例(集)か調査レポートが多い(「日本でいちばん~」のように)。時間的には「今」、空間的には「商店街と周辺」に限られた狭い範囲の議論に終始している。その点本書は、およそ100年前の商店街の成立に遡り、その後の社会・政治・経済情勢の遷移の中に商店街を位置づけて読み解こうとしている。引用されるデータや書籍・論文の幅広さが、著者の意欲と苦労を物語っている。

 もちろん「いや大事なのは「今、どうするか?」であって、100年前のことはあまり関係がない」という指摘はもっともだと思う。実際読んでいて、とても遠回りをしている感じはした。しかし、今に至る経緯を知らずに議論しても、見当違いなものになる恐れが高い。商店街の凋落の原因がどこにあるのかを探る作業を疎かにしてはならない。

 詳しい内容は本書を読んでもらうとして「なるほど」と思った点を1つ挙げる。本書を貫く「両翼の安定」という考え方だ。これは「雇用の安定」と「自営業の安定」の2つの安定が、戦後日本の社会を支えた、というもの。しかし、現在は「雇用の安定」が最重要課題になり、「正社員」になることが暮らしの安定につながる、という考えが大勢を占めてしまっている。

 私の意見として少し補足すると、今現在存在する「自営業者の経営の安定」を図る(つまりは資金援助をする)政策はたくさんある。しかし「自営業の安定」とは、そういった政策が無くても継続可能な状況を言うはず。はっきり言ってしまうと、今の政策は「自営業の安定」には、害ばかりあって役に立っていない。

 最後に。意欲作なのだけれど残念なこともある。著者自身が「あとがき」で言うように、将来展望を提示する試みが不十分に終わっている。そのため、読み終わった後しばらくすると、タイトル通りに「商店街が滅びる理由」だけが残ってしまう。著者には次作を期待したい。また、私を含めた読者が答えを導くべきなのかもしれない。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「商店街はなぜ滅びるのか」 固定URL | 9.その他 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 5日 (水)

海賊と呼ばれた男(上)(下)

著  者:百田尚樹
出版社:講談社
出版日:2012年7月11日 第1刷発行 12月6日 第12刷発行
評  価:☆☆☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞受賞作品。この本は面白かった。私は本屋大賞とは相性がいいらしく、2012年の三浦しをんさんの「舟を編む」も、2011年の東川篤哉さん「謎解きはディナーのあとで」も、たいへん面白く読んだ。そして、2010年の冲方丁さんの「天地明察」以来3年ぶりに大賞受賞作に☆5つを付けた。

 本書は、国岡鐵造という名の明治生まれの石油商人の一代記。染め物業を営む家の8人兄弟の一人(恐らく次男)として生まれる。神戸高等商業学校(現・神戸大学)を出た後、小さな商社を経て機械油販売店の「国岡商店」を創業する。

 この国岡商店の発展の歴史が、鐵造の人生そのものになる。それは苦難の連続。明治から大正、昭和と、日本の歴史を振り返れば、急速な近代化の後に、関東大震災、相次ぐ恐慌、満州事変から太平洋戦争、そして敗戦と、大きく揺れる。さらに「石油」はその時の国際情勢に依存する。国岡商店は、これらに翻弄され何度も危機を迎える。

 本書は、その危機と克服を克明に描く。正直に言うと、危機の克服の仕方は、鐵造の「(困難ではあっても)この道が正しい」という判断と、それに続く社員の凄まじい頑張り、のワンパターンで、少し白けてしまう。(鐵造の「ツルの一声」で重役たちが黙ってしまう場面の何と多いことか)

 「そりゃムリでしょ」ということが成功する。つまり、「リアリティに欠ける」。しかし、その気持ちはある時点で掻き消えてしまった。それは「日章丸」というタンカーの名を目にした時だった。「日章丸事件」それは実際にあった事件だ。私が生まれる10年も前の出来事だけれど、私はその事件を知っていた。

 もしや、と思って本の表紙や帯を見返すと「出光興産の創業者・出光佐三をモデルにしたドキュメント小説」の文字。もちろん小説としての脚色はあるにしても、鐵造が為した強烈な成果は、出光佐三が実際に成し遂げたこと、つまり「実際にあったこと」なのだ。「リアリティに欠ける」などと、賢しらなことを思った自分を恥じた。

 「実際にあったこと」となれば、この物語から受け取るエネルギーは圧倒的だった。「正義と信念」。最近は何となく虚ろに響くこの言葉を、もう一度力強く感じることができた。

 ※下のリンクは、先日新聞に掲載された広告です。写真は「日章丸」。この写真に感じる力強さや「真っ直ぐに道を切り拓く感じ」が伝わって来る物語です。
出光興産:広告ギャラリー

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「海賊と呼ばれた男(上)(下)」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年6月 2日 (日)

ねぇ、委員長

著  者:市川拓司
出版社:幻冬舎
出版日:2012年3月10日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 娘が通う高校の「図書館だより」で紹介されていた本。幻冬舎の隔月誌「パピルス」に掲載された短編2編と、書き下ろしの1編の3つの物語が収録されている。どれも中高生の「恋」を描いている。

 1編目の短編「Your song」の主人公は、高校の陸上部の長距離選手の女子。体育館の物置で、同級生男子の魅力的な歌声を聴く。彼は、授業中にいなくなったと思うと、向かいの校舎の屋上で、気持ちよさそうに歌を唄っていたりする。まぁ「自由」ではあるけれど、生徒からも先生からも疎まれている。

 2編目は「泥棒の娘」。30ページ足らずの短い作品。こちらの主人公は中学生の男子の「ぼく」。彼は転校してきた学校で、彼より前に転校してきた「彼女」と出会う。「彼女」は、いつも小さなラッパ(コルネット)を持ち歩き、授業中にも歌を口ずさんだ。だから目立ち過ぎていて、多くの生徒たちに嫌われていた。

 3編目は、本書の表題作の「ねぇ、委員長」。書き下ろしの130ページの中編。主人公は、成績優秀な学級委員長の女子高校生。発作を起こして通学路で座り込んでいるところを、通りがかった同級生の男子に介抱される。彼は「学校一の問題児」。

 並べると一目瞭然。主人公が恋する相手が、周囲から疎まれている「問題児」、という物語の構成が全く同じだ(加えて3編とも「主人公の昔語り」で、物語が語られる)。統一感があると言えばいいのだけれど、正直に言うとワンパターンに倦んでしまいそうだった。男の子たちのセリフが、妙にキマっているのも、少し興ざめだった。

 ただ、表題作「ねぇ、委員長」は、比較的長い作品だったこともあって、主人公の心情が良く描けていて良かった。「昔語り」も、他の作品よりも活きている。この設定では「優等生が大人びた問題児に魅かれて恋に落ちる」というだけの、何とも底の浅い陳腐な話になってしまいがちだけれど、2人の境遇を描きこむことによって、かろうじてその陥穽を免れている。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

 
Yahoo!ブックマークに登録 livedoorクリップに登録 このエントリーをはてなブックマークに追加 Evernoteにクリップ

「ねぇ、委員長」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2013年5月 | トップページ | 2013年7月 »