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2013年5月

2013年5月30日 (木)

東京バンドワゴン

著  者:小路幸也
出版社:集英社
出版日:2006年4月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 何人かの方から「面白いよ」と教えていただいていたのだけれど、タイミングが合わなかったのか、そのまま2~3年経ってしまった。今回めでたく読むことができた。面白かった。私が好きなタイプの物語だった。

 舞台はタイトルになっている「東京バンドワゴン」という名の下町の古本屋。明治18年創業というから歴史ある老舗だ。「バンドワゴン」というのは、楽隊を乗せた行列の先頭を行く車のこと。ずいぶん「ハイカラ」なネーミングだ。(もっとも「ハイカラ」という言葉は明治の後期にできたそうだから、言葉より先んじている)

 主要な登場人物が多い。「東京バンドワゴン」を営む堀田家には、店主の勘一を筆頭に4世代8人が暮らしている。そして語り手は、勘一の亡くなった妻のサチ。だから堀田家だけで9人いることになる。個性的な面々で、勘一は80歳を目前ながら90キロはある巨漢、その息子の我南人(がなと)は60歳にして金髪の「伝説のロックンローラー」。我南人には1女2男の子どもがいて、上の2人には小学生の子どもがいる。

 物語は、「東京バンドワゴン」の周辺で起きる「小さな謎」の巡るミステリー。例えば、勘一も他の誰も覚えがない百科事典が、店の棚に置かれていて、さらに夕方には忽然と消える。また、店の蔵が何者かに侵入されたり、小学生の子どもたちが付け回されたり、といった物騒な出来事も起きる。

 全体を通しての雰囲気は「昭和のホームドラマ」だ。頑固者の家長を中心にした大家族で、お互いを思いやりながらの暮らし。しかし個性のぶつかりは、時に(というか頻繁に)衝突を起こして、ドタバタとしたドラマを生む。巻末には「あの頃」のテレビドラマへの著者の言葉が記されている。

 「LOVEだねぇ」が口癖のロックンローラー我南人は、私には内田裕也さんを思わせる。特定のモデルはいない、ということになっているようだけれど。

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2013年5月26日 (日)

理系の子 高校生科学オリンピックの青春

著  者:ジュディ・ダットン 訳:横山啓明
出版社:文藝春秋
出版日:2012年3月25日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 元マイクロソフト社長の成毛眞さんが代表を務める書評サイト「HONZ」で、昨年の年間ベスト第1位となった本。本書は、インテル国際学生科学フェア(ISEF)という高校生の科学オリンピックの出場者を取材したノンフィクションだ。

 米国ではサイエンス・フェアと呼ばれる、地域や州ごとなどで開催される、中高生の自由研究の発表会が盛んなのだそうだ。日本で似たものを探せば「夏休みの自由研究」のコンクール。ISEFは、そのサイエンス・フェアの頂点に位置することになる。

 しかしISEFに出品される研究は、「夏休みの自由研究」と聞いて、多くの人が思い浮かべるものとは質的に異なる。例えば、14歳のテイラーが出品したのは「自作の核融合炉」!!!。驚きで呆然としてしまうが、さらに驚くべきことは、彼の出品が最優秀ではないことだ。

 蜂群崩壊症候群というミツバチの大量死に関する研究、馬との触れ合いによる人間の心の治療の研究、音楽を使った自閉症の子供たちへの教育プログラムの開発、カーボンナノチューブの研究による新素材の開発。例を挙げるのはもう十分だと思う。彼らの研究はレベルや実用性において、大学や企業の研究室のそれと比べて遜色ない。いや、大きく凌駕しているものさえある。

 「米国の天才」をこれでもかと紹介した本、別世界の話。ここまでの紹介では、そんな印象を持ったと思う。それは本書のほんの一部分で、多くを費やして記されているのは、彼がISEFに出品するまでの道のりだ。場合によっては2歳の頃から生い立ちを書き起こしている。

 彼らが何故その研究をしているのか?それは彼らの人生と深い関わりがある。彼らの誰一人として、何不自由なく恵まれた暮らしをしてきたわけではない。多くは並み外れた逆境を跳ね返してきたのだ。本人と家族の踏ん張りと、必要な時の必要な出会いがあって、この偉業は為されている。そこには感動と、「もしかしたら私(の子ども)も」と思えるものがある。

 最後に。ISEFは50以上の国から1500人もの参加がある。もちろん日本からの参加もある。巻末にISEF2011に参加し「地球科学部門」の第3位ほかを受賞した、千葉の田中里桜さんの「特別寄稿」が収録されている。「日本ではどうなんだろう?」という気がかりは、これで幾分晴れた。

※さらに嬉しいニュースもある。5月20日にISEF2013で、里桜さんの弟の尭さんが、同部門の最優秀賞を受賞したそうだ。
日本代表生徒初の快挙! 2013 年インテル国際学生科学技術フェアで部門最優秀賞を受賞

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2013年5月23日 (木)

「やりがいのある仕事」という幻想

著  者:森博嗣
出版社:朝日新聞出版
出版日:2013年5月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書の紹介の前に、私がこの本を読もうと思ったきっかけを紹介しようと思う。Facebookである方が私が以前に読んだ「希望のつくり方」という本のことを話題にしていた。その本の一節に「日本ではあまりにも仕事に希望を求めすぎている」ということが書いてある、と。

 実は、私もそのことは常々思っていた。この本のタイトルと、帯の「働くことって、そんなに大事?」というコピーは、そのFacebookでの話題と私の気持ちにフィットした。少し前に著者の「人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか」を読んでいたことも、プラスに作用したかもしれない。

 さらに「まえがき」に、「「自分に合った仕事に就かないと人生が台無しになる」というプレッシャーを、大人たちが与えている(中略)本当に気の毒なことだと僕は思う」と著者は書いている。これがまた、私の気持ちを代弁するかのような、モノの見方だった。

 その後、第1章「仕事への大いなる勘違い」では、「仕事」についての固定観念を次々とはぎ取っていく。「仕事をしている者は、仕事をしていない者より偉いのか?」「どんな仕事をしているかが、その人の価値なのか?」「仕事は大変なのだと大人は語りたがるが、本当にそうか?」次々と投げかけられる問いに、まっすぐに向き合うことで、本質に近づいていく予感がする。

 ただし、本書は「今現在、就職や仕事に悩んでいる人」には役に立たないかもしれない。第4章「仕事の悩みや不安に答える」で、実際に著者が受けた質問や相談に答えているのだけれど、これが(そういう指摘が既にあるそうだけれど)「身も蓋もない」のだ。「職場が殺伐としています」という悩みに、(成果を問う)仕事というものは殺伐としている(ものだ)」と答えたりしている。

 「なるほど」と思うものもあった。それは「仕事をしないでやりたいことだけをして人生を送りたい。どうしたらいいか?」という、トンデモな感じの質問への答え。スキーがしたい人は、たぶん滑るのが楽しいのだと思うけれど、その前に上まで登らなければならない。お金を得る手段としての「仕事」はそれと同じで、「やりたいこと」の「準備」や「一部」だ、というもの。

 視点を高く持って俯瞰すると、「やりたいこと」があれば、「仕事」をその一部に位置づけることができる。その考えは「仕事」に「やりがい」も「希望」も「人生」さえも預けてしまうよりも、よほど健全で安全だと思う。

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2013年5月22日 (水)

ニューズウィーク 2013年5月21日号

 ちょっと番外編。ニューズウィーク日本版2013年5月21日号に、「日本人が知らない村上春樹」という特集が載った。80ページほどの誌面(薄い!)の中ほど、41ページから55ページまでの14ページ(途中に別の記事が1ページある)。今回は、その特集について。

 全部で7人の外国人が「村上春樹」を様々に語っている。アメリカ、韓国、フランス、ノルウェー、中国と、国が様々なら、ジャーナリスト、小説家、翻訳家、ブロガー・コラムニストと、職業も様々。強いて共通点を上げると、日本に長くお住まいであったり、日本文学の翻訳(もちろん村上作品も)をしていたりで、(一人を除いて)日本語で村上作品を読んでいること。

 ある程度は予想していたが、これらの国全部で村上作品がとても人気がある。韓国では「1Q84」は180万部、「ノルウェイの森」に至っては500万部以上売れたそうだ。韓国の人口が日本の4割にもならないことを考え合わせれば、驚きの数字だ。

 記事をよんで感じたことを雑駁に。(1)海外の村上作品は表紙がカラフルだ。日本の作品はシンプルなデザインだけれど、写真やイラストを大胆に使ったものが多い。(2)ノルウェイで「ノルウェイの森」がどう読まれたのか気になる。ノルウェイ版の「ノルウェイの森」の表紙は「日の丸」。これには苦心の後が感じられる。(3)ニューヨーク・タイムズには、「1Q84」を「あきれた作品」と酷評した書評が載ったらしい。これは健全だと思う。

 最後に。韓国や中国で日本作家の作品が、これほど受け入れられていて、その理由は「共感」だという。このことをどう解釈すればいいのか、少し戸惑った。近くて遠い国の人々は、実はやっぱり近いところにいるのかもしれない。

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2013年5月19日 (日)

株式会社ネバーラ北関東支社

著  者:瀧羽麻子
出版社:幻冬舎
出版日:20011年6月10日 初版発行 2012年10月15日 4版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのはこれで4冊目。「うさぎパン」では、高校生の恋愛未満の淡い想いを、「左京区七夕通東入ル」「左京区恋月橋渡ル」では、大学生の恋バナを描いた。本書が描くのは28歳の大人の女性の心模様だ。

 主人公の名は弥生。東京の外資系証券会社で7年間、バリバリ(本人曰く「150%の力で」)働いていた。あることをきっかけに転職し、北関東にある小さな町に引っ越してきた。転職先が本書のタイトルの「株式会社ネバーラ北関東支社」。健康食品の下請メーカーで主力商品は納豆だ。

 弥生は、東京の暮らしで傷ついた心身を休める避難所的にここを選んで引っ越してきた。もちろん、ここに根づくつもりなんかない。20~30%ぐらいの力で働いていて、それでうまく回っているのだから、問題もない。物語の始めの弥生はこんな感じだった。

 何故か英語が口をついて出る杉本課長、生真面目に仕事に取り組む沢森くん、東京に憧れるマユミちゃん、駅前の居酒屋の桃子さん。職場でも外でも「善い人」に囲まれてそこに溶け込み、喜びやピンチを共有する内に、弥生の心が少しずつ変わっていく。胸の内の一部がそっと温まるような、読んでいて気持ちのいい物語だ。

 私が読んだ文庫版は、書き下ろし短編「はるのうらら」を収録。マユミちゃんが高校3年生のころの物語。「おまけ」の作品かと軽く見ていたのだけれど、そうではなかった。この短編で、私は本編で見え隠れする「テーマ」が、はっきり見えた気がした。そのテーマとは「理由」だ。

 人はいろいろなことに「理由」を求めてしまう。本編でも短編でも、町の出入りにまつわる「理由」が度々語られる。弥生が東京から来た理由。桃子さんが大阪から来た理由。そして、沢森くんとマユミちゃんが東京に行かない理由、弥生が東京に帰らない理由。「○○しない」理由が寂しくも胸に沁みる。

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2013年5月15日 (水)

ガソリン生活

著  者:伊坂幸太郎
出版社:朝日新聞出版
出版日:2013年3月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 巻末の「初出」によると、本書は、2011年11月から2012年12月まで、朝日新聞に連載された新聞小説を、大幅に加筆修正したもの。

 主人公は緑色のデミオ。そう、あのマツダのデミオ。なんと車が主人公。彼らは、車体が見える範囲、排出ガスが届くような範囲であれば、お互いに話ができる。車輪が付いていればいいらしく、列車とも話ができる。ただし、自転車とは言語が違うらしく意思疎通ができない。人間とは(基本的に)話ができない。この車の会話が、本書の魅力の1つになっている。

 物語は、デミオの持ち主である、望月家が巻き込まれた騒動を描く。母の郁子、長男の良夫(20歳)、長女のまどか(17歳)、末っ子の次男の亨(10歳)。亨は小学生ながら、家族で一番大人びていて、良夫などよりよほどしっかりしている。言い換えれば「可愛げがない」。この「可愛げのなさっぷり」も、魅力の1つ。

 発端は、良夫が運転するデミオに、かつての人気女優、荒木翠が突然乗り込んできたことだ。「逃げているの。助けてくれないかな」と言いながら。スリリングな幕開けだ。しかも、その数時間後に荒木翠が事故で亡くなってしまう。

 この荒木翠の事故を軸に、まどかの彼氏が関わった悪党の悪事や、亨の同級生のいじめや、銀行ATMの強盗事件などのエピソードを絡める。さらに、それぞれのエピソードに関連があり、細かい伏線があり、なかなかに複雑な練り込まれた物語になっている。この「練り込み」も魅力。

 実は、私は新聞連載時にも読んでいるので、ストーリーは分かっていた。そのためか、一読した時には、そんなに面白いとは思わなかった。ただ、読み返したり伏線を追ったりしている内に、面白くなってきた。

 ※ブルーバードの伏線が一番よかった。作品間リンクあります。

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2013年5月12日 (日)

七つの会議

著  者:池井戸潤
出版社:日本経済新聞社
出版日:2012年11月1日 第1刷 11月26日 第3刷
評  価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのは、直木賞受賞作の「下町ロケット」、「ルーズヴェルト・ゲーム」に続いて3冊目。前の2冊と同じく、中小中堅企業の製造業を舞台とした「経済小説」。ただし前2冊が、小さいながらも技術力をもった企業が、逆境の中を困難を乗り越えていく、「上向きのスパイラル」を描くのに対して、本書は秘匿された真実と結末に向かって、キリキリとネジを締め付けるような「下向きのスパイラル」を描く。

 舞台は、売上高1千億円の製造業、東京建電。大手総合電機メーカーのソニックの子会社で、折りたたみ椅子から、白モノ家電、住宅設備、半導体と、幅広い製品ラインアップを持つ。特定の主人公はなく、営業課の事務職から副社長まで、様々な役職の社員が章ごとに主役となって、物語を推し進めて行く。

 物語の発端は「パワハラ」。営業課の万年係長が、上司で営業のエースと目される営業課長を、社内のパワハラ委員会に訴えたのだ。実はこの会社は「営業ノルマが最優先」という体質で、上司が部下を激しく叱責する姿は日常茶飯事。この訴えも、テキトーに処理されて落着、と思われていたのだけれど、予想以上に重い処分が下された。

 このウラには、重大な秘密が隠されていた。というわけで、物語はこの秘密の周辺で起きる人間ドラマを描きながら、徐々に核心に迫っていく。まぁこの人間ドラマの殆どが、男性社員たちの確執や嫉妬を原因としたもので、彼らは揃って家庭でもギクシャクしている。その卑小さが少々類型的すぎて呆れてしまう。「またひとつ女の方が偉く思えてきた」と、古い歌の歌詞も浮かんできた。

 「下向きのスパイラル」で確執や嫉妬のドラマでは、ちょっと滅入ってしまいそうだが、それはあまり心配ない。スジを通す人もちゃんといるし、読後感は以前に読んだ2冊に劣らずスッキリとしている。心配があるとすれば、「自分だったらどうするだろうか?」と考えてしまった場合だ。不正を追及された登場人物が「この会社を守り、オレたちの生活を守るためだ」と言う。これを完全に否定する自信は、今の私にはない。 

(2013.5.15 追記)
NHKでテレビドラマ化されるそうです。東山紀之さん主演、7月13日スタート。
Yahoo!ニュース「東山紀之、NHK連ドラ主演 中間管理職のサラリーマン役

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2013年5月 9日 (木)

学生時代にやらなくてもいい20のこと

著  者:朝井リョウ
出版社:文藝春秋
出版日:2012年6月25日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「桐島、部活やめるってよ」でデビューし、「何者」で昨年度の下半期の直木賞を、戦後史上最年少で受賞した著者のエッセイ集。著者の早稲田大学在学中の体験を中心につづった20編を収録。面白い。ただし、どれもこれも他の人には、同じことをやってみれば?と、おススメできない。だから「学生時代にやらなくてもいい~」

 20編のエッセイ全部に、面白さとバカバカしさが満ちている。大学生時代の4年間に、よくもこれだけの面白いことに遭遇したものだと思う。その理由は読んでいれば分かる。正確には、面白いことに「遭遇」したのではなく、著者自身が面白いことに「なってしまっている」。自分から呼び込んだ「面白さとバカバカしさ」なのだ。

 それは著者(とその仲間)が「後先を考えずに行動する」からだ。「東京から京都まで、自転車で行こうよ」と友達に誘われ、「もちろんさ」と答える著者(ちなみに著者に長距離サイクリングの経験はない)。フェリーで8時間かかる島の花火大会に、「行くに決まってますが何か」と即答する仲間たち。無計画無鉄砲だから、こんな面白いことになる。さらに、面白いことが(壮絶な苦労と共に)向こうからもやってくるのだ。

 「今の大学生もなかなか元気じゃないか」という、おじさん目線のコメントは、あまりに陳腐すぎるかもしれない。著者と仲間たちをして「今の大学生」を語るわけにはいかない。でも、こういう学生さんたちが今も昔も変わらずいる、ということが、私の心を明るくした。早稲田大学、侮れませんね(そもそも侮れないって)

 最後に。本書は、電車の中などの公共の場では読まない方がいい。笑いを堪えられないと思うからだ。私は、家で読んでいたのだけれど、一度などは息ができないほど笑ってしまった。

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2013年5月 5日 (日)

長野県謎解き散歩

編  者:小松芳郎
出版社:新人物往来社(吸収合併によって中経出版に)
出版日:2013年2月14日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 新人物文庫の県別「謎解き散歩」シリーズの長野県版。長野県の「謎」というか特徴を「自然・地理」「産業・交通・特産物」「考古・遺跡」「歴史」「民俗」「人物」という観点から、全部で約90項目を紹介する。
 「秘密のケンミンSHOW」などで、長野県民全員が歌える、と紹介された県歌「信濃の国」には一章を割いている。「県民全員が歌える県歌」これなどは他県の人から見れば、確かに「謎」だろう。

 また「信州大学」が、県内唯一の国立大学でありながら、県名を冠していないのはなぜか?長野県が「長寿県」となった理由は?といった辺りは、同じく「謎」と言えるし、他県の人にも興味を持ってもらえそうだ。ただし、その他の多くの項目は、長野県民向きだと思う。地名や風土にある程度明るくないと、「知らない場所の知らなかった話」では、頭に残らないだろう。

 項目タイトルに「なぜ」などの疑問形になったものが多いのだけれど、内容にその答えがないものが散見される。「謎解き散歩」というシリーズ名に引きずられたのかもしれないし、週刊誌のように読者の注意を引こうと思ったのかもしれない。まぁご愛嬌だと思って欲しい。「なぜ」には答えていないけれど、書いてあることは興味深いことばかりだ。

 出版社のサイトを見ると、今年の5月で全都道府県版48冊(東京都は2冊)が揃ったようだ。上にも書いたように、基本的にはその県民向けの書籍だと思うので、それぞれの出身なり、住んでいる県のものを(長野県の人は、もちろん本書を)読んではどうだろう?きっと発見があり、愛着も湧くかもしれない。

 最後に。長野県の県民性として「成功した人に対して足を引っ張ることが多い、協調性に乏しい、組織になじみにくい、団結力が弱い、気位は高い、根回しが下手、物事をはっきりさせたがる、などだ」と書かれている。
 長野県民としては、嘆息するばかりだ。もちろん、県民全員が「信濃の国」を歌える、という「全員」には、いささか誇張があるのと同じく、ここにも誇張はある。しかし、大きく外してはいない、と思う。残念ながら。

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2013年5月 2日 (木)

ぼくは勉強ができない

著  者:山田詠美
出版社:新潮社
出版日:1993年3月25日 発行 1996年4月5日 23刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の4月の指定図書。

 1991年から92年にかけて文芸誌に掲載された連作短編を9編収録。
 主人公は時田秀美、高校性男子。週末には男と出かけてしまう美人の母親と、散歩の途中で出会うおばあちゃんにしょっ中恋をしている祖父と、3人で暮らしている。母親は「他の子供と同じような価値観を植えつけたくない」と考えて、秀美を育てた。そのためなのだろう、秀美は学校では先生との折り合いが悪く、度々衝突する。

 衝突するのは先生だけではなく、成績が学年1位の同級生や、ぶりっこ(って今も言うのだろうか?)の美少女とも衝突する。先生や優等生は、「こうあるべき」という固定的な価値観を押し付けてくるからだ。頭がよく「自分で考える」ことができる秀美は、その価値観の欺瞞や隙を察知してしまう。ぶりっこの美少女については、そのキレイな顔の下にある打算が見えてしまう。それを見逃してやることができない。

 こう書くと、あちこちでぶつかる痛々しい物語を想像するかもしれないが、そういったことはあまりない。徹底した秀美目線の描写によって、理不尽な押し付けを見事にバッサリと切ってはねのける。カッコいい。読んでいて爽快感さえ感じる。しかも、先に「あまりない」と書いたが、切った刃先で自分も傷つく痛々しさが少しはあって、それが秀美のカッコよさをさらに際立たせている。

 著者は「あとがき」で、「この本を大人の方に読んでいただきたい」と書いている。「時代のまっただなかにいる者に、その時代を読み取ることは難しい」とも。だからこの物語を、大人が読むとどのように感じるのかを知りたいそうだ。

 分からないことを分からない、おかしいことをおかしい、と言う、「自分」を貫く秀美はカッコいい。様々な理不尽を我慢している高校生の共感を呼んだことだろう。私はノホホンとした高校生だったけれど、あの頃に読んだとしたら、共感したと思う。(今の高校生も共感を感じるかどうかは不明だけれど)。

 でも、今は違う。もっと広い範囲に目が届いてしまう。例えば、成績が1番の脇山くんが、可哀想に思える。勉強を頑張ってクラス委員長を買って出る彼に、あんなひどいことをしてはいけない。
 大人や世間が押し付ける「価値観」に、秀美は反発するが、秀美だって自分の「価値観」で他人を裁いてしまう。やってることは大して変わらない。考えてみれば、「自分の「価値観」で他人を裁く」のと、「自分を貫く」とは、同じ事の裏と表で、どちらから見るかで評価が変わってしまう。

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