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2013年4月

2013年4月29日 (月)

うさぎパン

著  者:瀧羽麻子
出版社:メディアファクトリー
出版日:2007年8月6日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」「左京区恋月橋渡ル」の著者のデビュー作。2007年「第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞」受賞作。

 母娘の間の関係には、いろいろなパターンがあっておもしろい。本書の主人公の女子高校生の優子と、その母親のミドリさん(優子は母のことを「ミドリさん」と呼ぶ)はとても仲がいい。ただ、ミドリさんと優子の間に、血のつながりはない。優子の実の母は優子が3歳の時に病死してしまった。

 物語は、優子の高校生活を軸に、様々な場面を切り取って描いていく。クラスメイトの早紀と富田くん、富田くんのお父さん、大学で物理学を学ぶ家庭教師の美和ちゃん、美和ちゃんの彼氏。優子が高校生になって出会った人たちとの会話によって、優子の想いが掘り起こされていく。

 パンがおいしそうだ。富田くんとは「パンが好き」という共通点で惹かれあっている。二人でパンツアーに出かけたりしている。タイトルの「うさぎパン」は、優子の心の中にあったパン。「動物パンと言えば断然うさぎに決まっている」と思うのだけれど、どこで売っているのか思い出せない。

 この「うさぎパン」の記憶の秘密や、ミドリさんとの関係、亡くなった実の母のことなど、物語にいろいろな仕掛けがあって面白い。文学賞への応募作でもあるし、ストーリーを練ったのだろう。女子高校生の屈託も伝わってもきて、おじさんには微笑ましい。

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2013年4月25日 (木)

子猫と権力と××× あなたの弱点を発表します

著  者:五百田達成、堀田秀吾
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2013年3月11日 初版発行
評  価:☆☆(説明)

 出版社のクロスメディア・パブリッシングさまから献本いただいました。感謝。

 私たちはいろいろなものに弱い。「限定」商品に弱い、「おいしい儲け話」にも弱い、「ランキング」にも弱い、男の人はたいてい「美人」に弱い...。本書はそうした「弱さ」を「なんだかよくわからないけれど、心が動かされてしまうこと」と定義して、その「弱さ」を克服するために、その仕組みを知り、それと向き合うための処方箋を書こうとしたものだ。

 着眼点はとてもいい。この背景には「情報の氾濫」がある。私たちは日々たくさんの情報を受け取り、知りたい情報はネットで検索すれば大抵わかる。時には「正解」をネットで探すことさえある。つまり判断まで情報に委ねてしまっている。これも「弱さ」の一つで、その心理をよく理解することは、判断を自分に取り戻すために必要なことだと思うからだ。

 告白すると、私は読んだ本の感想をブログに書いているが、他の人の感想が気になる。多くの人が感じたこととかけ離れていると、「不正解」のような気がする。そして、見てしまうと今感じていることが、本当に自分の感想なのかどうか、自分でも分からなくなってしまう。だから私は、感想を書く前には、ネットで書評や感想の記事を見ないことにした。

 このように着眼点はいいし、自分にも思い当たることがある。ただし内容はあまり役に立つとは言えなかった。「弱さ」は全部で44あり、心理学の知見を交えたりしながら、その仕組みはそれなりに説明されている。しかし、その克服のための処方箋が、お世辞にも「向き合っている」とは言い難い。端的に言えば役に立ちそうにない。

 例えば「評判の店に弱い」では、評判によってお店を決めがちな人は→たまには、自分の舌と直感に相談してみる。「黄門さま(つまり肩書き)に弱い」では、「肩書き」=「人徳」になりがちな人は→「役割」と「人柄」は別物だと考える。という具合で「○○してしまう人は→○○しないようにする」と言っているだけか、そうでなければ少し捻って(ユーモアはあるのだけれど)かわした答えが多い。

 そういった具合なので☆は2つ。ただし、元々すぐに効く特効薬などないのだ。この本に処方箋という「正解」を期待するのは、ネットに「正解」を探すのに似ている。「仕組み」が分かったら、あとは自分で考えろ、ということなのかもしれない。

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2013年4月21日 (日)

ワーク・シフト 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>

著  者:リンダ・グラットン
出版社:プレジデント社
出版日:2012年8月5日 第1刷発行 10月7日 第7刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者は、ロンドン・ビジネススクールの教授。英タイムズ紙による2011年の「世界のトップビジネス思想家15人」のひとりに選ばれた。その著書はこれまで20ヶ国語以上に翻訳されてきたが、日本語の訳書の刊行は本書が初めて。これが10万部のベストセラーになっている。

 本書はまず「2025年の働き方」を展望する。その時、私たちはどのような仕事観を持っているのか?どのような希望を抱いているのか?何に不安を感じているのか?そうしたことを「2025年のある1日」として、6つの物語に仕立てている。3つは悲観的なストーリー、3つはもう少し明るいストーリーだ。

 この6つの物語は、著者ひとりの想像の産物ではなく、「働き方の未来コンソーシアム」という、世界中から多数の企業が参加した産学協同の研究プロジェクトの成果を基にしている。そこでは未来を形づくる5つの要因として「テクノロジー」「グローバル化」「人口構成・長寿化」「社会の変化」「エネルギー・環境問題」が挙げられ、それをさらに32の現象に細分化して検討するという緻密な作業が行われている。

 ここまででも読み応えがあるのだけれど、本書のキモはこれからで、それは「悲観的なストーリー」と「もう少し明るいストーリー」が別れるのはいつで、それを決定するのは何か?に関する著者の考察だ。「いつか?」の答えは本書の1ページ目の第1行に簡潔に書いてある。「働き方の未来は今日始まる」。現在流行中の「今でしょ。」というわけだ。

 「何か?」の答えは、「仕事」に関する考え方の転換(SHIFT)だ。本書のタイトルの「ワーク・シフト」はそれを指している。その「転換」は3つあって、簡潔にいうと「広く浅く」から「複数を深く」へ、「競争」から「協力」へ、「モノ」から「経験」へ。これを私たちが、主体的に選択した場合に「もう少し明るいストーリー」になる。この「主体的に選択する」ことが、本書の主張のキーポイントになっている。

 さて、2025年と言えばあと12年、私は62歳になっている。考え方によっては、職業人生としてはゴールかゴール間近で、もう悩むこともないのかもしれない。しかし、12年と言えば長い。このまま漫然と、では済まないことは明らかだ。
 また、2025年には社会の中心的役割を担う20~30代の人や、ちょっと荷が勝つかもしれないけれど、一番影響を受けそうな10代後半ぐらいの人も読んでおいて欲しい。

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2013年4月18日 (木)

深読み「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

 この記事は、昨日レビュー記事を書いた「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を深読みした解釈を書いています。お遊びのようなものですが、よければお付き合いください。

 村上春樹さんの作品は、インタビューに応えたご本人の談によると、本来の物語からパラフレーズ(言い換え)が行われているそうです。場合によっては、その言い換えは何段階かにわたります。村上作品にはメタファー(暗喩)が多いと言われる理由でもあります。

 そこで、暗喩を探して隠された元の物語を想像する、という楽しみ方が読者にはあるわけです。今回「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んで、思いついたことがあり、私もやってみようと、気まぐれに思い立ったわけです。

 この物語の登場人物の多くの名前に、色の名前が使われています。特に重要なのが、主人公の多崎つくるの高校時代の4人の親友たちの名前。赤松慶、青海悦夫、白根柚木、黒埜恵里。「赤」「青」「白」「黒」。

 この色を眺めて、数年前に読んだある本を思い出しました。その本は、万城目学さんの「鴨川ホルモー」。京都を舞台に繰り広げられる謎の競技「ホルモー」を戦うのは、京都大学青竜会、京都産業大学玄武組、龍谷大学フェニックス(旧朱雀団)、立命館大学白虎隊。「青」「玄(黒)」「朱(赤)」「白」

 なんと!村上春樹さんは「鴨川ホルモー」から着想を得たに違いない!

 ....というのはもちろん冗談、申し訳ありません。

 まぁその可能性はゼロではないとしても、もっとあり得る仮説としては、両者が同じものから着想を得ている、ということ。「鴨川ホルモー」のチーム名は、中国の神話で天の東西南北の四方の方角を司る4つの霊獣の名です。それに倣えば、この物語の4人で「天」「世界」「宇宙」といったものを表していると考えることができます。

 さらに、この四方の中央に「黄龍」を加えたものが、五行思想に取り入れられています(「鴨川ホルモー」の外伝「ホルモー六景」には、同志社大学黄竜陣が登場します)。ここで、この物語の親友グループ5人の最後の一人。つまり主人公の多崎つくるが重要な意味を持ちます。

 つくるは、自分の名前には色がない、ひいては自分には色彩がない、つまり特長や個性がなく「空っぽ」だと思っています。しかし、彼の名前をよく見直すと?「タザツクル」。そうです、名前の中に「キ(黄)」が含まれているのです。

 つまり、彼の役割は「黄龍」、中央を司る者だったと考えられます。物語の中で5人の親友グループは「乱れなく調和する共同体」に例えられていますが、黄龍を含めた五霊獣による「宇宙・世界」の均衡のことをそう表現しているのでしょう。

 そして、中央の「黄龍」である多崎つくるを欠くことで、「宇宙・世界」は均衡を失い....という壮大な物語が、パラフレーズ(言い換え)前の「本来の物語」。

 これが私の「深読み」です。いかがでしょう?
 お付き合いありがとうございました。

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2013年4月17日 (水)

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

著  者:村上春樹
出版社:新潮社
出版日:2013年4月15日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 発売前に50万部も刷られ、発売初日に10万部、3日後には20万部の増刷決定。発行部数はすでに80万部。発売日の深夜の行列をニュースで見て、これは「お祭り」だと思った。 ネット書店で予約して発売日に手に入れた私も、このお祭りに参加したことになるのだろう。

 主人公は、タイトルにもなっている多崎つくる。36歳の独身、鉄道会社で駅舎を設計管理する部署に勤めている。大学2年生の夏休みに、高校時代の「乱れなく調和する共同体のような」親友グループから追放された。

 そのショックは大きく、彼はその後の数か月を「ほとんど死ぬことだけを考えて」生きたが、なんとかそこから抜け出て今に至っている。本書はつくるが、大学2年の夏休みの出来事に、もう一度向き合うために、かつての親友たちを訪ねる(一義的にはそれが「巡礼」なのだろう)道程を描く。

 まず、率直な感想。「物足りない」。言葉の選択とかリズムとかが良いのだろう。読むこと自体が心地いい。だから先へ先へと読みたくなる。そしてどんどん読める。これはスゴイことだと思う。ただ言い換えれば、大きな引っ掛かりもヤマもない。平坦な道のりを気持ちよく歩いてゴール、そんな感じ。

 次に、著者の過去の作品との関連で、分析的なことを。当たり前だけれど「らしい」ところと「らしくない」ところがある。音楽がストーリーと深く関わっていること、主人公を「導く」女性が登場することなどは「らしい」ところだ。

 「らしくない」のは、人智を超えた不思議な出来事がなく、「1Q84」のリトルピープルのような正体不明のモノ(「考える人」のロングインタビューで、著者は「地下から這い出してくるやつ」と表現している)も出てこないこと。(読者が想像すれば、それを感じることはできる)。

 つまり、本書は「ノルウェイの森」と同じく、著者としては珍しいリアリズムの手法で書かれた作品だということだ。「ノルウェイの森」については、上述のロングインタビューで、著者自身が「本来の自分のラインにない小説」「(こういうのは)もう十分だと思った」とおっしゃっているのだけれど...

(2013.4.18 追記)
この物語を深読みした、深読み「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という記事を書きました。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2013年4月14日 (日)

人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか

著  者:森博嗣
出版社:新潮社
出版日:2013年3月20日 発行 4月5日 2刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 何とも曖昧模糊としたタイトルだ。「私たちは」とかでなく「人間は」とやけに広範囲だし、「いろいろな問題」ではどんな問題のことだか分からない。「もう少し本の内容を具体的に表して欲しい」と思う人に、この本は新たな気付きをもたらしてくれる(かもしれない)。

 世間一般には、「具体的」が良くて、「抽象的」はダメなもの役に立たないもの、という意識がある。「もっと具体的に話せ」と言われる場面は多くても、「もっと抽象的に話せ」と言われたという話はなかなか聞かない。上に書いた「もう少し本の内容を具体的に...」というのも、それに沿ったものだ。

 ところが本書は、問題の解決のためには「抽象的な思考」が必要で、その思考を鍛えるにはどうしたらいいか?を書いたものなのだ。いわば世間一般の「具体的」信奉に楯突くもので、そういう考え方を知るのは「気付き」なのではないかと思ったのだ。

 本書の主張を要約する。例えば「抽象的」は曖昧な分カバーする範囲が広い。何かを買ってきてもらうのに、具体的な商品を指定すれば誤りは少ないが、その商品がなければ買ってきてもらえない。目的を伝えて「○○のようなもの」と抽象的に伝えれば、代わりのものを買ってきてくれるかもしれない。

 また「具体的」は「主観的」に通じやすい、という問題がある。原発の存廃や領土問題についての人々の反応が、本書執筆のきっかけの一つらしい。そこには主観の衝突が生じていて(というかそれしかない)、相手の意見を聞くことすらタブーだというのでは、解決の余地がない。

 さらに「もうちょっと考えよう」。著者に言わせれば「全然考えていない人が多すぎる」。いつからか私たちは、分からないことがあると「検索」するようになった。判断に迷う時にも「検索」。あなたの意見はあなたが「考えた」ものではなく「選択」したものじゃないですか?という指摘に、私は自信を持ってNoと言えない。

 最後に。著者は「スカイ・クロラ」他に多くのヒット作がある人気作家で、大学の助教授でもあったが、数年前にどちらも引退した。貯金が「一生かかっても使い切れない額」になったからだ。今は、ガーデニングと工作という趣味に費やす自由な暮らしをしている。「恵まれた暮らしをしているから、そんなことを言えるんですよ」という気持ちが勝ってしまうと、本書からは何も得られない。冒頭に「(かもしれない)」と書いたのは、そういう懸念からだ。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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2013年4月10日 (水)

左京区恋月橋渡ル

著  者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2012年4月28日 初版第1刷発行 5月20日 第2刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」の続編。出版社は「姉妹編」と呼んでいるようだ。

 「続編」でなく「姉妹編」なのは、恐らく主人公が違うからだと思う。前作の主人公は、おしゃれな女子大学生の花だったけれど、本書の主人公は前作では花の彼氏の友達、という脇役だった山根クンだ。山根クンは京都の大学の工学部の大学院生。学生寮に住み、専門は「爆薬」。密かな楽しみは鴨川デルタ(鴨川にある三角州)での「ひとり花火」

 そんな山根クンが、実験で行き詰って気分転換のために訪れた糺の森で、白いワンピースを着た黒髪の女性と出会う。後に友人たちに「姫」と呼ばれるこの女性との出会いによって、山根クンの生活は一変してしまう。これまでの山根クンの寮生活では、「好きな昆虫」は話題になるけれど、「好きなひと」という話題はなかった。「好き」という気持ちを持て余して、何をどうすればいいのか分からない。

 とまぁ、前作に続いての「恋バナ」物語。サエないおかっぱ頭の男子大学院生の恋バナは、前作のおしゃれな女子大生のそれよりも、ずっと親しみが湧く。多少デフォルメされた不器用さと一途さに引き込まれて、気が付くとおかしくて切なくて泣き笑い。山根クン、この恋はキミの人生の糧になるよ。

 登場人物が楽しい。前作の主人公の花はもちろん、友人の龍彦や安藤クン。新たな登場人物(だと思う)の寮長は、なかなか味のある人物で、続編(姉妹編)が出るのなら活躍が楽しみだ。もう一人、物語の本筋とは関係ないのだけれど、山根クンの中学校の時の担任の理科教師が素敵だ。

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2013年4月 7日 (日)

新説 真田三代ミステリー

著  者:山田順子
出版社:実業之日本社
出版日:2013年1月29日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「ロマンはどこだ」。伊坂幸太郎さんの小説「陽気なギャングが地球を回す」の登場人物の口癖だけれど、本書の前半を読んだ私の想いもそうだった。

 様々な「戦国武将人気ランキング」で、必ず上位に食い込む真田幸村。1位ということも珍しくない。ゲームに端を発した、いわゆる「戦国ブーム」にうまく乗ったことは否定しないけれど、以前から一定の評価なり人気なりがあったことも確かだ。

 真田氏が居城の上田城で2度にわたって徳川の大軍を退けたこと。兄弟で徳川方と豊臣方に分かれて戦うことを決めた密談。豊臣への義のために14年の蟄居生活から大坂冬の陣で復活して活躍、夏の陣では家康を追い詰めながら果たせず命を散らせたこと。こうしたエピソードにドラマがあることが人気の基になっている。

 本書の目的の1つは、こうしたドラマを時代考証家の著者が検証することにある。その結論を簡単に言うと、これらには確実な史料が存在しない、後世の創作か少なくとも脚色されたものである可能性が極めて高い、ということだ。

 そこで冒頭の「ロマンはどこだ」につながる。真田幸村に限らず戦国武将のファンは、ある程度はフィクションだと知りつつ、好きになったり楽しんだりしているんだと思う。それをわざわざ「史料がありませんよ」と言うことに、どんな意味があるというのだろう?その「ロマン」はどこにあるのだろう?

 前半の感想はこうなのだけれど、後半は少し趣が違う。後半は著者が真田の郷を実際に歩き、膨大な史料に当たって導き出した様々な推測が述べられている。真田氏がこの地で台頭し、武田氏に篤く用いられた秘密は何か?そのルーツはどこか?等々。

 前半で数々のドラマに「史料が存在しない」と言って斬り込んでおいて、後半では自分の推測をとうとうと述べる。取りようによっては鼻白んでしまいそうだけれど、私は救われた想いがした。真田の郷に立って、その地の400年前の出来事に想いを馳せる。その姿にも私は「ロマン」を感じた。

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2013年4月 3日 (水)

星の牧場

著  者:庄野英二
出版社:角川書店
出版日:1976年11月20日 初版発行 1986年9月20日 5版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の3月の指定図書。

 最初の刊行は1963年に理論社から。翌年の産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、日本児童文学者協会賞を受賞。戦後児童文学の屈指の名作と言われる長編ファンタジー。1980年代にはテレビドラマや映画化もされている。

 時代は終戦後しばらくしたころ。舞台は山の牧場。主人公はモミイチという名の青年。モミイチは南方の戦線で従軍した後、復員して山の牧場に帰ってきた。ただ、マラリアの高熱と戦争の悲惨な経験のためか、従軍中の記憶をほとんど失っていた。自分が世話をしたツキスミという名の馬のこと以外は。

 物語は、モミイチが彼だけに聞こえる馬の蹄の音に、導かれるようにして山の奥に踏み入れ、そこで出会ったジプシー(山を愛して自由にさまよいながら暮らす人々)たちとの交流を描く。ジプシーたちは大勢いて、自然の恵みを得て生計を立て、音楽を愛し楽器を奏でて暮らしている。

 どうも不思議なことが重なって、このジプシーたちとのエピソードは本当のことなのか?という疑問が浮かぶ。しかし、そういうことには囚われないで、そのまま素直に受け止めた方がいい。何しろ本書は「ファンタジー」なのだ。

 モミイチが最初にジプシーと出会ったのは、山の奥に分け入って林を抜け、崖を上ったところにある一面の花畑。ここは恐らく「異界」だ。モミイチは「私たちの世界」と「異界」を行き来して、失ったものを少しづつ取り戻す。

 最後に。これは50年も前の作品。その作品で既に「あくせくはたらきすぎてくるしみがふえるようなこと」への警鐘が鳴っている。その警鐘は50年間全く生かされなかったようだ。私たちはジプシーたちの暮らしから、「幸せに暮らすために、多くのものは必要ない」ということを学ぶべきだと思う。

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