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2012年11月28日 (水)

絶望の国の幸福な若者たち

著  者:古市憲寿
出版社:講談社
出版日:2011年9月5日 第1刷 10月11日 第3刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は26歳の気鋭の社会学者による「若者論」だ。私が著者のことを初めて知ったのは、昨年12月に新聞に載ったインタビュー記事でだった。記事の見出しは「いまどきの20代は不遇?幸せですけど」。本書の内容も、この見出しに集約されている。もちろん、この「幸せですけど」には含意があって、言葉通りではないけれど。

 20代を代表とする若者が不遇だという根拠はある。内閣府の2005年の試算によると、年金や医療などの公的部門を通じた受益と負担の関係は、60歳以上世代は6500万円の得、20歳未満世代は5200万円の損。若者世代は祖父母の世代と比べると1億円以上も損しているのだ。

 他にもある。本書には書かれていないけれど、財務省の11月の発表によると、9月末の国の借金はなんと983兆円。当然このツケは将来世代に回ってくる。労働環境も非正規雇用が拡大して不安定になっている。つまりは「お先真っ暗」なのだ。

 しかし内閣府の2010年の調査によると(内閣府って、いろんな調査を行っているようだ)、20代の70.5%が、現在の生活に「満足」していると答えている。この数値は他のどの世代よりも高く、過去の20代と比べても高い。

 まぁここまでが「絶望の国」の「幸福な若者たち」の舞台設定だ。著者はここから、「若者」の定義や「若者論」の歴史、世間一般で言われる「若者」の検証、ナショナリズムについて..と論を展開する。大体は真面目に、時にユーモアたっぷりに、時にチクリと皮肉の針を刺しながら。

 著者は、あらゆるものから距離を置いている感じがした。「不遇な若者」論を唱える上の世代に対してはもちろん、著者自身が属する20代の若者にも醒めた目を向ける。研究者としては当然なのかもしれないが、「若者はもっと熱くなくっちゃ」というおじさんには評判が悪かろうと思う。

 ただ、そんな「俺たちの若い頃はなぁ」と言おうとした、おじさんたちに警告しておく。著者の論は、おじさんたちに対してはとても切れ味がいい。政府予算の10倍の借金も、不安定な労働環境も、破たん寸前の年金制度も全部、上の世代、つまりおじさんたちが作ったものなのだ。そして、おじさんたちの老後だって既に危ない。「「若者よもっと頑張れ」という前に、あんたが頑張れ」と言われたら、返す言葉がないだろう。

 ここからは書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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 著者は、「ユニクロとZARAでベーシックなアイテムを揃え...マクドナルドでランチとコーヒー、友達とくだらない話を三時間、家ではYOUTUBEを見ながら...」と、今でも若者はそこそこ楽しい日常を送れる、と言っています。

 このことを聞いて思い出したことがあります。それは先日、ショッピングセンターの、幼い子ども連れのファミリーでごった返すゲームコーナーを見た時のことです。「あぁ、日本はまだまだこんなにも余裕があるんだ」と思ったのです。ゲームへの支出は、「余裕」の最たるものに思えるからです。著者が言う「そこそこ楽しい日常を送っている」若者と重なって見えます。

 もちろん、そんな余裕のない人もいるでしょう。私は職場の採用担当もしていて、就職が相当厳しいことになっているのも実感として感じます。ですが日本全体が、世間で言われるような危機的状況とも思えない。あんなにたくさんの家族が、休日に子どもを連れてコインゲームに興じる余裕があるのだから。

 もう一歩踏み込んで考えてみます。来月には衆院選があります。「今のままでは日本は滅んでしまう」などと声高に言う声も聞こえてきます。ある政党の政策に反対すると、「じゃぁ今のままで(日本が滅んでも)いいんですか?」と半ば脅しのような反発が返ってくる、なんて場面もありました。

 私は敢えて言います。「今のままでいい」も選択肢なのではないか?と。当たり前のことなのに、このところ見落とされているように感じるのが、「変えること」=「良くなること」ではない、ということです。また、私たちは残念ながら「パーフェクトな政策」ではなく、「よりましな政策」しか選べないのです。

 選挙前なので、たくさんの人の口から様々な政策が語られています。そのどれもが今より良くなりそうになかったら、「今のままでいい」を選ぶべきではないんでしょうか?それは、とても悲しい選択かもしれないけれど。

 
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