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2012年10月

2012年10月31日 (水)

「独裁」入門

著  者:香山リカ
出版社:集英社
出版日:2012年10月22日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「独裁」入門、と言っても独裁者になるための手引書ではない。本書は、日本の現状を分析し、それが現代型の独裁者(ヒーロー)を生む危険性に警鐘を鳴らす本だ。

 日本の現状とは、長らく低迷を続けた上に先行きが不透明な経済、有効な対応ができない混乱した政治、さらに震災と原発事故の痛手を受け自信を失った社会といったものだ。将来が不安で自信を失い、政治(つまり現在のリーダー)に期待できないとすれば、「誰かに何とかしてほしい」と、人々がヒーローを待望するのは自然な成り行きとも言える。

 具体的な現象の1つとして著者は、白か黒かの二項対立、あるいは二者択一が好まれる、ということを挙げている。これには数年前のことになるが、2005年の衆院選での小泉元首相の「郵政民営化、イエスかノーか」という提示に続く、自民党の圧勝が思い起こされる。こうした問いかけはとにかく分かりやすい。あの時は小泉さんに任せれば大丈夫、と思った人も多いはずだ。

 しかし著者によると、このように分かりやすい二項対立・二者択一を好むのは、精神病理学的に見ると不安や葛藤を回避する、やや不健全な防衛メカニズムの働きにも見られるそうだ。様々な条件を考慮してより良い方法を探るのには、多くの心的エネルギーを使う。そのような余裕がなければ、2つの中から(それも一方が格段に良く思える)選んだ方が楽だ。そして良い方を選んだと思うことで安心もできる。

 こんな状況の中で、分かりやすい対立を示して「私に任せなさい」という人が現れたらどうなるか?著者は仮想の人物ではなく、今や政治の中心にいると言っても過言でない橋下徹大阪市長を、現実的な脅威として示す。これには正直言って驚いたが、それは私の無知によるもので、著者と橋下氏は現在かなり先鋭的に対立しているようだ。

 残念なのは、本書の多くの部分を、この対立から生まれた論争?(あまりかみ合っていないのだけれど)における、著者の主張に割いていることだ。これで本書は「香山リカvs橋下徹」の視点からしか見られなくなってしまった。テレビの生討論の持越しを書籍で、というのは分からないではない。テレビよりも書籍の方が、正確に主張が伝えられるだろう。でも、それはしない方が良かったと思う。

 本書で展開される精神病理学的な分析は、一考に値するもので、多くの人に冷静に受け入れてもらいた。それが、対立の構図の向こう側へ押しやられてしまった。それでだけでなく、「橋下徹は是か非か」という、著者自身が問題視する二者択一に自ら陥ってしまった。

参考:「体制維新-大阪都」のレビュー記事

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2012年10月27日 (土)

お友だちからお願いします

著  者:三浦しをん
出版社:大和書房
出版日:2012年8月20日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「お友だちからお願いします」。タイトルのこの言葉を見て、私がまっ先に思ったのが「ねるとん紅鯨団」という、20年以上も前のテレビ番組のことだ。「お願いします!」-「お友だちからなら」というやり取りに、何の関係もない私もちょっと嬉しくなった。この言葉は、幸せなハニカミと結びついているのだ。(「何のことか分からん」という方もいるだろう。ゴメンナサイ。)

 本書は著者が2006年から2012年にかけて、新聞や雑誌などから依頼を受けて書いたエッセイ95編を収めたエッセイ集。著者の小説は好きで何冊か読んでいる。そしてエッセイが面白いことは聞き知っているのだけれど、これまで読む機会がなく、本書が私にとって初めてのしをんさんのエッセイ。

 「はじめに」によると、「ふだん「アホ」としか言いようのないエッセイを書いている」著者にとっては、依頼をいただいて書いた本書の作品は「よそゆき仕様」なのだそうだ。本書は「お友だち未満」の人に向ける少しすまし顔の本。そして「お友だち」から先への期待という、冒頭に書いたような幸せなハニカミを感じる本でもある。

 このように紹介すると、生真面目な印象が漂う。でも、「よそゆき仕様」からも滲み出る(著者は「地金」が出るとおっしゃっている)ものがあり、私は95編のほとんどでニヤニヤしっぱなしだった(おかげで家族から何度も変な目で見られた)。「よそゆき仕様」でこんなことを書いてしまうなんて、ふだんのエッセイはどんなものなのだろう?

 著者の作品のファンにはちょっと嬉しいこともある。「風が強く吹いている」「神去なあなあ日常」「仏果を得ず」などの作品の裏話的なエッセイもあるのだ。そして私は、新幹線で「京都あたりでお昼に食べよう」と買ったヒレカツ弁当を、品川に停車中に箸を付けてしまうしをんさんが好きになった。お友だちになりたい(その先は、ちょっと...)。

(2012.11.18 追記)
この本と1セットになる「本屋さんで待ちあわせ」も読みました。表紙の絵を並べて見ると、物語が立ち上がってきます。

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2012年10月25日 (木)

バビロンの魔女

著  者:D・J・マッキントッシュ 訳:宮崎晴美
出版社:エンジン・ルーム/河出書房新社
出版日:2012年9月30日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 発行元のエンジン・ルームさまから献本いただきました。感謝。

 本書は2007年度の英国推理作家協会デビュー・ダガー賞候補、2008年カナダ推理作家協会の未出版作品部門の最優秀賞を獲得。長編としては著者のデビュー作。

 最近の流行なのか、英語圏のミステリーの一分野なのか、ダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」以降、良く目にするようになった「古代史の謎」を題材としたアクション・ミステリー。本書が題材としているのは、旧約聖書の文書のひとつ、預言者ナホムによる「ナホム書」。と言われても、聖書に詳しくなければ馴染みがないと思う。帯の訳者の言葉によれば「(その原本の発見は)日本でいうなら卑弥呼の手紙がみつかったような話なのです」だそうだ。

 物語の発端は、2003年のイラク戦争のさなかの敗色濃厚となったバグダッド。その混乱に乗じて、古代メソポタミアの貴重な宝物を収蔵する、イラク国立博物館が略奪に逢う。しかし、盗賊から守られるように、ある石板が密かに持ち出される。

 主人公はジョン、ニューヨークの古美術商。最近、自分が運転する自動車の事故で兄を亡くしている。ある日、友人のパーティに出かけるも、その夜にその友人が麻薬の過剰摂取で亡くなる。そして、パーティで出会った美女に「隠し場所をすぐに教えなさい」と脅される。

 その美女と亡くなった友人とさらにジョンの兄までもが、イラク国立博物館から持ち出された石板によってつながるらしい。物語は、こうした枠組みを紹介した後、緩急を付けながら流れ出す。友人が残した謎解き。新しい登場人物が次々と現れるが、果たして彼らは敵か味方か?ジョンが何度も窮地に陥りながら、舞台はニューヨークからトルコ、イラクへ。

 少し物語の流れが荒く感じる部分があるし、謎解きもあまり洗練されたものとは言えない。まぁ、それは勢いで読んでしまうと良いだろう。それから、主人公の生い立ちがあまり物語に生かされていない。しかし「訳者あとがき」によると、本書は三部作の1作目で、その辺りは後の2作に期待、ということらしい。

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2012年10月20日 (土)

アーモンド入りチョコレートのワルツ

著  者:森絵都
出版社:講談社
出版日:1996年10月20日 第1刷発行 2000年3月13日 第4刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「14歳からの哲学」の記事で書いたように、現在「文学金魚」という総合文学ウェブ情報誌の「10代のためのBOOKリスト」のための準備中で、その一環として読んだ。そして「14歳からの哲学」と同じく、本書も入試問題に頻出の書でもあるらしい。

 本書は表題作「アーモンド入りチョコレートのワルツ」と、「子供は眠る」「彼女のアリア」の3編を収録した短編集。

 収録順に紹介する。「子供は眠る」は、中学2年の男の子が、年に1回だけいとこたち5人だけで別荘で暮らす2週間の物語。男の子たちの序列意識や葛藤が描かれている。「彼女のアリア」は、中学3年の男の子が、今は使われていない音楽室で、同級生の女の子と出会う物語。何とも甘酸っぱい。「アーモンド入り..」は、中学1年の女の子が、風変わりな先生のピアノ教室で風変わりなフランス人と出会う物語。

 3つの短編には共通点がいくつかある。1つ目は、ピアノ曲をテーマにしていること。2つ目は、中学生が主人公であること。3つ目は、主人公にとって特別な場所・特別な時間の、特別な経験が描かれていること。

 1つ目の共通点は分かりやすい。各短編の扉で紹介されているし、必ず物語の中でその曲が流れる。ただ、私が音楽の門外漢だからか、その選曲の意味が分からないだけかもしれないけれど(ちなみに、どの曲も試しに聞いてみた)、他の2つの共通点の方が、この短編集全体を通して流れる、清々しさと切なさを決定付けているように思う。

 「子供は眠る」では別荘での2週間、「彼女のアリア」では火曜日の放課後の音楽室、「アーモンド入り..」では木曜日のレッスンの後。その時だけのドキドキするような特別な経験。でもその時間はあまりに短い。何よりも大人への入り口をくぐる前の「中学生」という特別な時は、あっと言う間に終わってしまう。

 本書の見返しのこの一文が、そのことを良く表している。
 「十三歳・十四歳・十五歳 ---。季節はふいに終わり、もう二度とはじまらない。

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2012年10月17日 (水)

左京区七夕通東入ル

著  者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2012年4月11日 初版第1刷発行 7月10日 第3刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 京都の大学生の物語。娘から、この本を読んで「京都の大学に行きたい!」って思った友達がいる、という話を聞いて手に取ってみた。京都の大学生モノと言えば、森見登美彦さんの作品が思い浮かぶ。ただし、あちらは腐れ男子大学生で、こちらはおしゃれな女子大学生の物語だ。

 主人公は、文学部の4回生の花。試験の日の朝、朝食のヨーグルトに入れるブルーベリーをこぼして白いシャツを汚してしまう。他の服を探すもしっくりくる服が見つからない。「こういうけちの付いた日には、気分を変えてちゃんとおしゃれしたほうがいい」と、選んだのが花柄のワンピース。

 このワンピースのおかげで、花は理学部の龍彦と巡り合う。龍彦は数学科の学生で、数学の話をするとき以外は、愛想がない、というか数学の話題しか話せない。それに対して花は、それを「算数」と呼んでいたころから苦手。彼の何がいいのかさっぱりわからない。しかしドンドンと彼に魅かれていく。

 本書は、こんな感じで始まった花の「恋バナ」だ。花はおしゃれな女の子で、これまでにも何人かと付き合い、親切にしてくれる男友達もいる。そんな幸せなキャンパスライフを送る女子大生の、恋バナを読んで面白いのか?という疑問が湧くが、これがけっこう面白かった。

 まぁ花と龍彦だけでは「勝手にやってくれ」という感じになってしまうが、脇を固める龍彦や花の友だちがいい味をだしている。龍彦の友だちは、専門分野が大腸菌とか爆薬とか遺伝子とかで、偏見を承知で言えば龍彦の数学以上に全く女性の興味を引かない。その彼らが本当に愛すべきいいヤツなのだ。
 その意味では、冒頭に引き合いに出した森見作品と通じるものがある。本書は、森見作品と同じ世界を、女子大学生の視点から描いている(恋する乙女の視点なので、かなり浄化されて清潔に映っているが)と言えば分ってもらえるだろうか。

 最後に。本書を読んで思い出したことがある。ずいぶん以前に「卵のふわふわ」という本の記事に、「女性に都合のよい展開で、世の男性にとってはどうなのか?」というコメントをいただいた。本書もまさに、花にとって都合の良い展開と言える。
 そして、先ごろのコメントに対する私の答えは「器量のいい女性に都合が良い話は好きというか許せるんです。カッコいい男がモテたり都合よく成功する話よりはずっと。」だった。今も同じ気持ちだ。

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2012年10月13日 (土)

海の底

著  者:有川浩
出版社:幻冬舎
出版日:2009年4月25日 初版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者のデビュー3作目。そして「塩の街」「空の中」に続く自衛隊三部作の最後の作品。「空の中」のレビューで使った言葉をもう一度。「こんな大作だとは思ってなかった」

 舞台は横須賀。米軍基地があり、海上自衛隊の施設もある。主人公は、潜水艦「きりしお」の乗員で、実習幹部の自衛官の夏木と冬原。ある日「きりしお」に突然の出航命令が下るが、何かが挟まってスクリューが回らない。出航をあきらめ艦の外を見ると、信じがたい光景が広がっていた。無数の人間大の巨大なザリガニが上陸して...人を食っていた。

 本書は、この異常事態の中での2つの物語を描く。1つ目は、夏木と冬原の物語。他の乗員たちは艦外へ脱出したが、「きりしお」の近くで孤立していた子どもたちの救助に当たった夏木と冬原の2人は、避難のために子どもたちを艦内に収容。そのまま潜水艦に閉じ込められた形の夏木らと子どもたちを描く。

 2つ目は、横須賀の街の防衛にあたった警察に焦点を当てる。こちらの主人公は、神奈川県警警備課の明石警部。巨大なザリガニの襲来という、警察が想定する事案を遥かに超える事態に対して、懸命の文字通りに身体を張った防衛線を守る。

 「巨大なザリガニが襲来して人を食う」というショッキング出来事で幕が開ける。とてもグロテスクに思うかもしれないし、荒唐無稽さに鼻白んでしまうかもしれない。いずれにしても、少し引き加減になるが、それから始まるドラマが、もう一度読者を物語に引きつける。

 未知の生物に蹂躙される異常事態の中に、不器用な自衛隊員と気丈な女子高生を放り込む一方で、自衛隊はもちろん警察からもカッコいいおっさんを登場させる。かなり際どい話題に切り込むところも含めて、3作目にしてこんな濃い作品を出していたとは。後の著者の作品の要素が凝縮されている。

 コンプリート達成!(アンソロジー以外の書籍化された作品)
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2012年10月11日 (木)

ジェノサイド

著  者:高野和明
出版社:角川書店
出版日:2011年3月30日 初版発行 9月15日 11版発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、このミステリーがすごい!2012年版国内編の第1位。本屋大賞は「舟を編む」に大賞を譲って2位だったけれど、「週刊文春」や「本の雑誌」のランキングでも1位になり、日本推理作家協会賞などを受賞。まぁ昨年度のNo.1の話題作と言っていいだろう。

 物語は、別々の3つの場所で並行して進む。1つはアメリカ合衆国大統領の周辺、もう1つは民間の軍事会社に雇われた傭兵たちが潜入したアフリカ奥地、3つ目は何かの事件に巻き込まれた日本人の大学院生がいる東京。世界三元中継のアクションサスペンスだ。

 3つの場所の別々の物語は、もちろん関連している。最初はごく緩やかに、徐々に密接に。どうやらプロローグの合衆国大統領の日報で報告された、「人類絶滅の可能性 アフリカに新種の生物出現」、という話題が、3つの物語をつなぐ要らしい。

 基本的には、主人公たちがサバイバルを続けるいわゆるジェットコースタードラマだ。傭兵たちは、絶対絶命の包囲網を突破し、日本人大学院生は謎の追手から逃れる。それだけでもベストセラーになる要素はあるのだけれど、この物語はもう少し複雑だ。

 物語の背景には、大統領周辺の駆け引きや陰謀があり、中央アフリカの民族対立がある。これらは現在の私たちが抱える問題だ。そして、近未来の私たちに降りかかるかもしれないのが「新種の生物」という問題。これが読者に投げかける問いは思いの他に重たいものだった。それでいいのか?私ならどうする?と問わずにはいられなかった。

 世界三元中継はなかなか面白かった。時間さえ許せば一気読みしただろう。ただ、アフリカのいくつかのエピソードには、ザラリとした嫌な感触が残った。その反対に、日本のエピソードは「手順通り」な感じで、もう少し毒気があってもいいように思った。

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2012年10月 6日 (土)

14歳からの哲学 考えるための教科書

著  者:池田晶子
出版社:トランスビュー
出版日:2003年3月20日 初版第1刷 2008年7月10日 初版第21刷
評  価:☆☆☆(説明)

 本書の話の前にひと言。この度、「文学金魚」という総合文学ウェブ情報誌で、ブックレビューを書かせていただくことになった。テーマは「10代のためのBOOKリスト」。私の原稿が載るのは少し先で、現在その準備中。本書はその一環として、10代に向けた本を物色する中で読んだ。

 本書は発行された時に少し話題になったし、その頃「ニュースステーション」に著者が出演されたので、覚えている方もいるだろう。また、この本は入試問題に頻出の書でもあるらしい。その方面で知っている方もいるかもしれない。

 内容は3部構成で、第1章「14歳からの哲学A」で「自分とは誰か」「死をどう考えるか」といった根源的な問いを、第2章「14歳からの哲学B」で「家族」「社会」「仕事と生活」といった世の中のことを、第3章「17歳からの哲学」で「善悪」「人生の意味」といった大きなテーマを考える。

 読み始めて間もなく、強い戸惑いを覚えた。読んでも内容が頭に入ってこない。デカルトもカントも出てこないし、使われている言葉は平易なものばかりで、長い文章でも複雑な文章でもない。私の読解力の問題を棚上げにして言わせてもらえば「平易な言葉で書かれた難解な文章」。例えば「自分とは誰か」がさっぱり分からない。

 この戸惑いを解くカギは、「考えるための教科書」というタイトルにあった。私たちに馴染みのある教科書は「覚えるための教科書」で、そこには「正しい答え」が書いてある。「考えるための教科書」はこれに対置するもので、本書の中には「正しい答え」はないのだ。だから「答え」を期待して読むとさっぱり分からない。何も頭に入ってこない。

 では「答え」はどこにあるのか?「答え」に近づくためには(分かるとは限らない)考えることだ。「死とは何か」「家族とは何か」と、自分自身で繰り返し考えることを、著者は読者にひたすらに求める。それが分かると、本書の内容がようやく少しずつ頭に入ってくる。

 さて、14歳がこの本を読んでどう思うだろう?

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2012年10月 3日 (水)

鉄塔 武蔵野線

著  者:銀林みのる
出版社:新潮社
出版日:1997年6月1日 発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の9月の指定図書。

 第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。ちなみにこの時、池上永一さんの「バガージマヌパナス わが島のはなし」も大賞を受賞、つまりこの回は大賞作が2つということだ。

 主人公は小学校5年生の少年、見晴。舞台はタイトルから分かるとおり、武蔵野。もう少し限定すると、今の西東京市から埼玉県日高市にかけて。時は199×年の夏休み。

 物語の冒頭、見晴は家の近くの鉄塔に「75-1」という番号が付いていることに気が付く。「ということは両隣の鉄塔は「75ー0」と「75-2」なのか?」と思い、一方の隣の鉄塔へ走り出す。その鉄塔の番号は「76」。ならば次は...。こうして見晴少年の鉄塔を巡る冒険が始まる。

 見晴は「鉄塔大好き」少年だ。それは幼稚園に入る前からのことで、その頃日曜ごとに見晴はお父さんに電車に乗りに連れて行ってもらっていた。線路脇の鉄塔を見るために。ただ好きなだけではない。本を読んで、詳しくは分からないまでも専門的な知識もあり、鉄塔の形状などによって、男性型鉄塔、女性型鉄塔などの、独自の分類法を編み出している。

 上に書いた通り、本書は見晴の鉄塔を巡る冒険だ。途中から2つ年下のアキラを相棒にして、障害や小さなドラマを経て、目指すは全鉄塔を踏破し、その下(見晴は「「結界」と呼んでいる)の中心点に、手製のメダルを埋めること。...ここでこう思った方がいるかもしれない「76っていう番号があるなら、全鉄塔って少なくとも80ぐらいはあるんじゃないの?それ全部行くの?」

 もちろん見晴は行くつもりだ。自分で決めた目標は、何としても達成する。自分自身を裏切りたくない。思い出せば誰にも覚えがある、少年らしい頑なな決意がそこにあった。しかし多くの場合、その決意は大人に止められたり、「やっぱりムリだ」とあきらめたり。成就しなかった決意。これも誰にも覚えがあるだろう。見晴の決意はどのような結末を迎えるのか?

 正直に言って途中で、見晴の(つまり著者の)鉄塔に対する熱い想いについていけない気がした。鉄塔を1つ1つ思い入れを込めて語られても、受け止められない。でも、残り本数は確実に減っていく。あるところまで来ると、自分も一緒にゴールを目指しているのに気付く。

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