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2012年6月

2012年6月30日 (土)

彷徨える女神

著  者:高橋浄恵
出版社:ヘレナ・インターナショナル出版
出版日:2012年6月3日 初版第1刷発行
評  価:☆☆(説明)

 出版社のヘレナ・インターナショナル出版さまから献本いただきました。感謝。

 著者は、この出版社の恐らく親会社にあたる総合リゾート運営会社の社長。本書が第一作だそうだ。左開きの横書きの装本。1行あたり十数文字ぐらいで改行される、叙事詩のような体裁。言葉や漢字の選択にも詩的なものを感じる。

 著者からの「はじめに」のメッセージの冒頭に、「本書は、私の心に木霊する虐げられし者、圧し拉がれ不条理に声を喪う者の魂の叫びを書いたものです。」とある。その言葉どおりに、登場人物の多くは虐げられ、不条理に痛めつけられる。主人公の少年カフカスは、母に殴られ「産むんじゃなかった」と詰られる。

 カフカスだけでなく、異母妹のハイヌヴェレも「罪の仔」と石を投げられ、(ちょっと普段は口にすることのない)酷い言葉で責め苛まれる。その他にも...。このブログでも何度か言っているように、私は、子どもがつらい目にあう話は、私自身がつらくなってしまうので苦手なのだ。物語の中とは言え、著者は何故に子どもをこんなに酷い目に合わせるのだろう。

 著者の目や心には、不条理で救いがたい世界が映っているのかもしれない。本書は、カフカスやハイヌヴェレに何かを象徴させた寓話で、それを語ることで「希望」や「生きる意味」を伝えているのかもしれない。しかし、私には不条理で哀しい気持ちが残ってしまった。カフカスの短いけれど幸せな時に見た草波に、生命の力強さと喜びを感じたことが救いだった。

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2012年6月27日 (水)

脳はすすんでだまされたがる

著  者:スティーブン・L・マクニック、スサナ・マルティネス=コンデ、サンドラ・ブレイクスリー 訳:鍛原多惠子
出版社:角川書店インターシフト
出版日:2012年3月31日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 新聞の書評欄に載っていて、面白そうだったので読んでみた。
 本書の原題は「Sleights of Mind」。「Sleight of hand」が、クロースアップマジックのような手品だそうで、恐らくはこれにひっかけた造語だろう。本書は、私たちがマジックに騙されてしまうわけを、神経科学的に解き明かそうとする本だ。

 著者は3人いて、サンドラは脳科学専門のサイエンスライターで、以前に読んだ「脳の中の身体地図」の著者。スティーブンとスサナの2人は、バロー神経学研究所のそれぞれ別の研究室の室長。この2人は本書の執筆に先立って、この研究のためにマジシャンに弟子入りしてマジックを学び、オーディションまで受けている。そして本人たちが学んだり、一流のプロマジシャンを取材して分かったマジックについて、慎重にタネ明かししながら、それを見た時に私たちの脳で起きていることを教えてくれる。

 例えば私たちは、目には映っているのに「見えない」ことがある。私たちの脳は、注目した場所に集中して、周辺部分は処理精度を抑制してしまうからだ。逆に実際には存在しないものが「見える」こともある。私たちの脳は情報が足りないと、辻褄合わせのように勝手に補ってしまうからだ。だから、手に持ったコインを堂々とポケットに入れても「見えない」し、放り投げるマネだけしたコインが「見える」

 ご法度のはずの種明かしが本書には数多くあって、こんなことして大丈夫なのか?と思ったが、それは杞憂だったと分かる。マジシャンは、話法やしぐさや視線などの修練を積んだ技によって、私たちの脳に、無いものを見せあるものを隠すのだ。タネが分かったとしても、やっぱリ欺かれてしまう(脳が勝手に見たり見なかったりしてしまうのだから)。ましてやマネなんてすぐにはできっこない。

 例えば「アンビシャスカード」という、あるカードが何度でも一番上にくるマジックがあるが、本書でそのタネが明かされている。「できるようになればカッコいいかな?」と思って、本書に興味が湧いた人もいるだろうけれど、この本を読んでできるようなる保証はない。実は私は、数年前に結構な金額でマジックの本を買って、「アンビシャスカード」を練習したことがある。...未だに、他人様に披露できるようにはならない。

 考えてみればマジックと神経科学は、同じものを表と裏から見ているようなものだ。神経科学の研究の説明は、少し難解さを免れない部分があって、ちょっと手こずるかもしれない。しかし、マジックのタネも教えてもらえるし、私たちを欺く仕組みも分かって面白い。興味のある方はどうぞ。

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2012年6月23日 (土)

三匹のおっさん ふたたび

著  者:有川浩
出版社:文藝春秋
出版日:2012年3月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 タイトルから分かる通り「三匹のおっさん」の続編。前作は、還暦を迎えたおっさん(本人たちは「じいさん」と呼ばれたくない)3人組が、町内の問題を解決する痛快物語。本書も基本路線は同じだ。

 三匹とは、剣道の先生の清田清一(キヨ)、居酒屋の主人で柔道家の立花重雄(シゲ)、工場の経営者でメカにめっぽう強い有村則夫(ノリ)の幼馴染3人。キヨが勤め先の大手ゼネコンを定年退職したのを機に「自警団」を結成、町内の夜回りなどをしている。

 上に「基本路線は同じ」と書いたのにはわけがある。前作は「おっさん萌え」の著者が書いた、ひたすらおっさんがカッコいい話だったが、本書はちょっと違う。本書でも、本屋の万引き事件などを、おっさんたちはカッコよく裁いて見せた。しかし他の幾つかの物語では、3匹は時に影の支え役に回り、時には無力でさえある。その代わりに前作では引き立て役だった、キヨの息子夫婦の健児と貴子などのサブキャラに光が当たっている。

 甘ったれ主婦だった貴子も少し成長する(「あとがき」によると、著者は「続編をやらせてもらえるとしたら貴子の話」と決めていたそうだ)。ヘタレ亭主だった健児もいいところを見せる。シゲの息子の康生も頑張っている。キヨの孫の祐希とノリの娘の早苗は元々いい子だ。

 どうやら著者は、「おっさん萌え」だけでなく、自分が作ったキャラクターたちを愛しているようだ。こんなにみんないいヤツでいいのか?と思うかもしれない。しかし、ため息をつくしかない人物も登場するし、やるせない事件も起きる。3匹のファミリーぐらいは、いいヤツばかりでもOKだと思う。

 巻末の「好きだよと言えずに初恋は、」は、以前に「野生時代」に掲載された短編。早苗の友達の潤子の物語。同級生の男の子が潤子に花の名前を教えてくれる。その理由を聞いた時にピンときた。いやゾゾ~とした。有川先生、この物語はファンへのプレゼントですね。

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2012年6月20日 (水)

太陽は動かない

著  者:吉田修一
出版社:幻冬舎
出版日:2012年4月25日 第1刷発行 
評  価:☆☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 数多くのベストセラーを世に出し、映画化、ドラマ化された作品も多い著者による、初めてのスパイ小説。
 実は私は、著者の作品を読むのは「悪人」に続いて、2冊目でしかない。(理由は特になくて、まぁ何となく機会がなくて..といったところだ。)それでも、著者がこれまでは、登場人物の心の動きを追った、人間ドラマを描いてきたことぐらいは知っている。それが今回はスパイ小説。帯によると「ノンストップ・アクション超大作!!」らしい。

 主人公は鷹野一彦。AN通信(アジアネット通信)の記者。AN通信は、表向きはアジア各地の出来事やファッション情報などをネットで配信する通信社だが、裏の実態は、命がけのスパイ活動を展開する諜報機関。鷹野は、部下の田岡亮一と共に、ベトナムの新油田開発の背後関係を探っていた。

 プロローグに、1990年代に当時NHK会長だった島桂次氏による、世界をカバーするニュースネットワークの「GNN構想」が紹介されている。この構想は、島氏自身のスキャンダルに端を発した「島おろし」によって頓挫したのだが、「海外隠し口座」の存在が指摘されている。この事実とフィクションがないまぜになったプロローグが、物語に意外な形で絡んでくる。

 諜報機関、謎の美女、韓国の諜報員、香港の実業家、中国の闇社会のボス、反政府過激派。スパイ小説の要素として、考えられるものを最大限詰め込んである。日中の政治家もCIAも出てくる。やり過ぎという意見もあるかもしれないけれど、著者のインタビューでおっしゃっていた「とにかく読んで楽しんでもらえれば..」という気持ちが伝わってくる。

 潜入あり、絶体絶命あり、間一髪の救出や脱出あり、隠された過去あり、人情と友情もあり、種明かしもあり(これもスパイ小説の常道か)。正にノンストップ・アクション。とにかく楽しめた。

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2012年6月16日 (土)

りかさん

著  者:梨木香歩
出版社:偕成社
出版日:1999年12月 初版第1刷
評  価:☆☆☆(説明)

 以前に読んだ「からくりからくさ」の蓉子が、小学生の「ようこ」だったころの物語。本書はジャンルとしては児童文学だけれど、「からくりからくさ」を読んだ時に、それと対になる作品だと知って読みたいと思っていた。さらに、薦めてくださる方も多かったのに、あれから3年余り経ってしまったけれど、ようやく読むことができた。

 タイトルの「りかさん」は、ようこがお雛祭りのお祝いに、おばあちゃんからもらった市松人形の名前。りかさんは実は人間と話すことができる。いや正確に言えば、ようこやおばあちゃんのような「人形と話せる人間」と話すことができる。

 ようこは、りかさんと話したことがきっかけで、他の人形たちの声も聞こえるようになった。また、りかさんは人形たちの記憶を、映し出してようこに見せることができる。そうして、ようこは自分の家のお雛様や、友だちの登美子ちゃんの家の人形たちの想いを知ることになる。

 「もし人形に心があったら」という前提が、すんなりと受け入れられる。ようこの家のお雛様たちがもめている、男雛がもの思いに沈んでいるのはどうしてか?は、ちょっと面白い。登美子ちゃんの家の人形たちからは、小学生のようこには手に余る想いが伝わってくる。
 人形の記憶というのは、持ち主などのその人形に関わる人間の記憶でもある。例えその人が亡くなっても、その想いは人形の中で留められて残る。児童文学とは言っても、籠められた想いはずっしりと重く深い。

 「うわ、りかちゃん、しゃべれたのかあ。」と言った時のようこが、とても微笑ましい。成長して「からくりからくさ」の蓉子になった時には、染色の道に進んでいるのだけれど、そのきっかけも描かれている。別々の出版社から同じ年に出版されたこの2冊の本は、確かに一組の物語になっている。読んで良かった。

 私の家にもお雛様があるのだけれど、毎年飾るように心がけている。箱から出して段に置いた時に、人形の表情が明るくなるように感じるのは、気のせいばかりではないと思う。

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2012年6月14日 (木)

サヴァイヴ

著  者:近藤史恵
出版社:新潮社
出版日:2011年6月30日 発行
評  価:☆☆☆☆(説明)

 著者が自転車のロードレースの世界を描くシリーズ3作目。1作目の「サクリファイス」では、新人選手の白石誓を主人公として、「エースとアシスト」という自転車ロードレース特有の世界を描き出した。2作目の「エデン」はそれから3年後、ヨーロッパに雄飛した誓が見た、より深い人間ドラマを見せてくれた。本書は、この前2作の前後を描く6つの短編からなる。

 実は6つ短編のうち、3つは既読だった。「Story Seller」「Story Seller2」「Story Seller3」という、月刊文芸誌「小説新潮」の別冊にそれぞれ収録されていたもので、順に「プロトンの中の孤独」「レミング」「ゴールよりももっと遠く」の3編。

 この度は再読になったこの3編が、私は好きだ。それは、誓が日本にいた時のチーム「チーム・オッジ」のエースの石尾と、その同期でアシストの赤城の物語。「サクリファイス」の前の時を描いたものだ。これで、著者が描き出した世界が、ぐんと厚みを増した感じがする。

 石尾が「プロトン~」では新人、その2年後の「レミング」ではエースになった直後、さらに5年後の「ゴール~」では王者としてチームに君臨している。石尾自身はあまり変わりがないのだけれど、7年の間にその立場は大きく変わっている。
 赤城は、同期とは言え3つ年上。石尾と出会う前にスペインでの3年半のキャリアもある。言うなれば石尾の先輩なのだけれど、選手生活の大半を名実ともに「石尾のアシスト」に徹してきた。2人の関係の変化と、赤城の心情が見どころだ。(今気が付いたけれど、このシリーズの半分は、赤城の物語だとも言えるぐらいだ)

 残りの3編のうちの1編は、誓の同期の伊庭が主人公。他の2編は誓が主人公。自らは勝利することのない「アシスト」。常に若い世代が背後から迫る「エース」。忍び寄る薬物の誘惑。ビジネスとしての暗部をはらんだロードレース。色々なドラマを含んだ6編はそれぞれに楽しめるけれど、やはり前2作を読んでからがいいと思う。

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2012年6月 9日 (土)

バガージマヌパナス わが島のはなし

著  者:池上永一
出版社:角川書店
出版日:2010年1月25日 初版発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の5月の指定図書。

 仲間由紀恵さん主演でNHKでドラマ化された(現在放送中のNHK総合では来週最終回)「テンペスト」の原作の著者のデビュー作。第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

 舞台は著者の出身地の沖縄・石垣島。主人公は19歳の綾乃。高校を卒業後、進学するでもなく就職するでもなく、ダラダラと日がな一日暇に暮らしている。することと言えば、道沿いにあるガジュマルの樹の木陰での、86歳になるオージャーガンマー(大謝さんちの次女という意味)ばあさんとのおしゃべりぐらい。日本的感覚で言えば、ニートの不良娘だ。

 「日本的感覚」とわざわざ書いたのは、本書は「沖縄人(ウチナンチュー)」「島人(シマンチュ)」の物語で、「日本人(ヤマトンチュー)」の物語ではないからだ。そして「島人」の感覚では、「勤勉」とか「真面目」とかを唱えるのは一種のタブーなのだ。

 しかし、その「島人」の感覚でさえ、綾乃は相当の変わり者。夢枕に立った神様にさえ、ユタ(巫女)になれと言われて、「ターガヒーガプッ(誰がやるかよ)」と返す。島の巫女は「(綾乃たちのように)あんな堕落した人生を送ることになるよ。」と言って、人々の行いを糾すぐらいだ。

 こんな綾乃の数々の不道徳・不謹慎な行いが、なぜか微笑ましい。それは、綾乃の心根が真っ直ぐだということが分かるからだろう。あるいは、心の奥では「できるならこんな風に振る舞ってみたい」と思っているからかもしれない。

 この物語では、暴力やセックスなどに対する様々なモラルが、ものすごく緩い。たぶん「島人」の感覚をデフォルメした世界観なのだろう。「モラルがものすごく緩い世界観のファンタジー」って斬新だと思う。

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2012年6月 6日 (水)

真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ

著  者:大沼紀子
出版社:ポプラ社
出版日:2011年6月5日 第1刷発行 2012年3月14日 第21刷
評  価:☆☆☆(説明)

 高1の娘が持っていた本を借りて読んだ。どうやら評判が良いらしい。特設サイトによると、本書は22刷がかかったそうだし、第2弾が出てシリーズ化され、シリーズ40万部突破、とのこと。確かに売れている。

 舞台はパン屋。「Boulangerie Kurebayashi」という名のそのパン屋のパンは、一口で魅了されるほどおいしい。一風変わっているのは、営業時間が午後11時から午前5時までということ。タイトル通り「真夜中のパン屋さん」なのだ。
 パン屋を切り盛りするのは、オーナーの暮林陽介とブランジェ(パン職人)の柳弘基の2人。そこに飛び込んできたのが、暮林の妻の腹違いの妹だという、女子高校生の篠崎希実。この3人がまぁ本書の主人公。

 本書は6つの章から成っていて、章ごとに完結する小さな物語と、全編を通して徐々に明らかになる大きな物語があり、連作短編形式になっている。章を追うごとに新たな登場人物が加わり、その登場人物が後の章でも大事な役割を担う。
 この登場人物たちが、良く言えば個性的。ストレートに言えば変な人たちだ。誰も彼もが問題を抱えていて、傍目には幸せとは言えない。夜の街をウロウロしている小学生。ワンルームに引きこもるのぞき魔の男。ホームレスのニューハーフ。ただし「問題を抱えている」という点ではパン屋の3人も同じだった。

 登場人物たちの何人かの境遇に、かなり厳しいものがあり「安心して読めない」というか、読み心地が悪い思いをした。しかし読み終わって見れば、ふんわりと暖かいなかなか良い物語になっていた。これは評判になるのも分かる。

 表紙から受ける印象通りに、分類としてはライトノベルだろう。ライトというには少し重いテーマもあるし、描いている人間模様が少し奥深い。

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2012年6月 2日 (土)

まほろ駅前番外地

著  者:三浦しをん
出版社:文藝春秋
出版日:2009年10月15日第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「まほろ駅前多田便利軒」の続編。前作は、2006年上半期の直木賞を受賞し、昨年4月には、瑛太さん、松田龍平さんの主演で映画化されている。そして本書も、テレビ東京でドラマ化され、来年放送される予定。しかも、キャストは映画と同じ2人が務めるそうだ。これは楽しみ。

 主人公は、多田啓介と行天春彦。多田は、まほろ市という架空の街(一説によると町田市がモデルらしい)の駅前で「多田便利軒」という便利屋を営む。行天は、多田の高校時代の同級生。特に多田と仲が良かったわけでもないのだけれど、「多田便利軒」の助手として居候している。

 助手としての役にほぼ立っていない行天を筆頭にして、この物語の登場人物たちは、端役に至るまで個性が豊かだ。ヤクザまがいの青年、ちょっとボケ気味なおばあちゃん、妙に大人びた食えない小学生の少年、バスの間引き運転の証拠をつかむことに執念を燃やす老人...。

 実は彼らは、前作にも登場している。本書は7つの短編からなる短編集なのだけれど、その内の4編は、前作で登場した彼らの物語なのだ。個性豊かな登場人物たちだし、それぞれにファンもいるようだ。1回登場させただけではもったいない。
 つまりこの4編は、前作の読者へのボーナストラックのようなものだ。「続編」と書いたが、タイトル中の「番外地」が醸し出すように「番外編」でもあるのだ。

 他3編を含めた7編の中で、「食えない小学生」の田村由良くんの話「由良公は運が悪い」が、私は一番楽しめた。家族で公園に行く予定の休日に、両親の都合が急に悪くなった。一人で出かけて友だちを呼び出そうと取り出した携帯電話が電池切れ...。「運が悪い」ことが続いたが、極めつけは「行天と出会ったこと」。でも由良くん、けっこう楽しかったよね。

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