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2012年4月

2012年4月29日 (日)

量子力学が明らかにする存在、意志、生命の意味

著  者:山田廣成
出版社:光子研出版
出版日:2011年11月30日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「感じる科学」の記事にコメントをいただいた、著者の山田廣成さまから著書を貸していただきました。感謝。

 著者は、大学の理工学部で教鞭をとる物理学の教授。プロフィールを拝見すると、特に放射光工学の分野で数多くの発見発明を成し、学界だけでなく産業界にも大きく貢献していることが伺える。その著者が、量子力学の諸問題から発して、生命科学から経済・社会、思想・哲学にまで論を展開する。

 本書の要諦は「電子に意志がある」という主張と、そこから導かれた「対話原理」という、量子力学のミクロの現象から社会現象までに応用できる統一原理にある。「電子に意志がある」とは、電子と人間のそれぞれの振る舞いの類似性に端緒がある。

 例えば、極細のワイヤーに電子を通すと、電子は等間隔に移動するのではなく、粗密が発生する。これが、渋滞の高速道路と非常に類似している、という具合。道路で車が一様に流れないのは、車のドライバーの意志によるところが大きい。ならば、電子にも意志があるのではないか?こう考えると、その他にも類似性がたくさんある...というわけだ。

 もちろん人間と全く同じような意志を電子も持っている、というのではない。著者は科学者らしく、この概念でいう「意志」を定義している。その一つに「他者と対話し干渉を起こす実体である」というのがある。電子も他の電子と干渉して、自分の場所を決定する。これが「対話原理」へとつながっていく。

 決して読みやすい本ではないので「皆さんにおススメ」とは言えない。「電子に意志がある」と聞いて「面白そうじゃないか」と思う人でないと辛い。それから、私は門外漢ではあるが、量子力学の世界ではこうした考えは、かなり「斬新」なものだとは想像できる。この「斬新さ」を受け入れられない人にも向かない。

 最後に、この記事を著者も目にされるだろうから、こんなことを言うのは躊躇われるのだが、私は本書が主張する論理は完成したものではないように思う。そして「あとがき」を読んで、著者自身がこの論理は完成品ではなく、さらに磨いていくことを望んでいると、ほぼ確信した。

 「あとがき」には、本書がゼミのテキストとして使われ、学生が積極的に意見を出し、問題点が浮き彫りにされたことが明かされている。私が「ほぼ確信した」のは、その行間から著者の喜びを感じたからだ。本書に対して建設的な批判を多く受ければ、著者が見つけた「対話原理」を使って、この論理はさらに高みを目指せるはずだ。

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2012年4月26日 (木)

魔法の代償(上)(下)

著  者:マーセデス・ラッキー 訳:細美瑤子
出版社:東京創元社
出版日:2012年2月24日 初版
評  価:☆☆☆(説明)

 「本が好き!」プロジェクトで献本いただきました。感謝。

 「魔法の使徒」「魔法の誓約」に続く、「最後の魔法使者」シリーズ三部作の3作目、つまり完結編。このシリーズは、「ヴァルデマール年代記」と呼ばれる著者の一連の作品群の1つで、主人公ヴァニエルは、後の年代を描く作品の中では、「完全無欠にして最強」の「伝説の魔法使者」となっている。完結編の本書では、ヴァニエルが伝説化されるに至る経緯が描かれている。

 前作「魔法の誓約」の時に既に、味方の「魔法使者」が次々と命を落とし、ヴァニエルは、ヴァルデマール国になくてはならない人材となっていた。その状況は本書でも変わらず、加えて国王ランデイルが重篤な状態となり、ヴァニエルの双肩にかかる重圧はさらに大きくなっていく。

 それでも前半は、ヴァニエルに新しい恋人(ちなみにヴァニエルは同性愛者)が現れたり、父親との確執に融和が見られたりと、国のために身体と命を削るような長年の暮らしに対する、ご褒美のような平穏が訪れる。
 しかし、「完全無欠にして最強」と伝説化されるには、それなりのインパクトのある出来事があった。そしてヴァニエルは大きな代償を払うことになる。後半はそれに向けて突き進む。目を覆いたくなるようなシーンもある。

 異世界ファンタジーの世界観に、ずっぽりと浸ってしまうシリーズだった。このシリーズだけで完結しているのだけれど、恐らく「ヴァルデマール年代記」に登場する「伝説の魔法使者」ヴァニエルの実像、という意味付けをして初めて、このシリーズの本当の面白さが味わえるのだろう。「年代記」には20数作品もあるようだけれど、どうしたものだろう?

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2012年4月21日 (土)

「当事者」の時代

著  者:佐々木俊尚
出版社:光文社
出版日:2012年3月20日 初版第1刷
評  価:☆☆(説明)

 「いつから日本人の言論は、当事者性を失い、弱者や被害者の気持ちを勝手に代弁する<マイノリティ憑依>に陥ってしまったのか・・・」本書の帯のこのコピーに魅かれて、465ページと新書にしては厚いこの本を手に取った。私も同じように思うことがあるからだ。

 タレントや政治家が配慮に欠ける発言や行動して「○○の気持ちを考えれば、とてもそんなことはできないはずだ。けしからん」といってバッシングが起きる、ということが度々ある。そんな時に「どうして当事者でもない人が全権委任されたように責め立てるのか?」と思う。「○○さん自身の気持ちを確かめた方がいいんじゃないか」と。

 そして本書について。帯にはさらに「渾身の書下ろし」とあり、その言葉が発する通りの熱を感じた。しかしそれにも関わらず、期待をはぐらかされた気持ちがした。私は、現在のマスメディアやネットの言説の、著者がいう「マイノリティ憑依」の状況についての、分析や批評やあるべき姿を期待していたが、そういった論点は終章にわずかに顔を出すだけだった。

 それでは465ページも何が書いてあったのか?それは「いつごろからこうなったのか」を示すのに費やされている。 (この記事の冒頭を見返して欲しい。確かに「いつから...」と書いてある。帯に偽りはないわけだ。)

 さらに言えば、著者の新聞記者時代の経験や、戦後の左翼運動という、本題からはずいぶんと遠い所から始まる。それはそれで読み応えがあったのだけれど、もどかしさは否めない。サッカーの試合を見ようとしたら、選手が朝起きたところから細かく見せられたような感じだ。

 そして「マイノリティ憑依」の端緒がいつごろかの考察を経て、ようやく現在に至ったと思ったのが「終章」。先ほどのサッカーの例えで言うと、キックオフの笛を聞いたと思ったら終わってしまった、という気持ちだ。

 この後は書評ではなく、この本を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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2012年4月18日 (水)

おまえさん(上)(下)

著  者:宮部みゆき
出版社:講談社
出版日:2011年9月22日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 人は良いけれど、剣術も推理も並み以下で、昼間っから馴染みのお菜屋に入り浸っている、「ぼんくら」同心、井筒平四郎シリーズの第3弾。第3弾だとは読み始めるまで知らなかった。ずい分前に図書館に予約していてようやく順番が回ってきた。

 時代は江戸時代。江戸の街の庶民の慎ましくも安定した暮らしが伺えるから、時代が下ってきたころなのだろう。舞台は平四郎の担当地域の本所深川あたり。平四郎は「臨時見廻り同心」という役職で、まぁ見廻るのがお役目。見廻っているのかただブラブラしているのか分からない、というのが「ぼんくら」同心たる所以。

 物語の中心は連続殺人事件。被害者には、刀で袈裟懸けにバッサリと切られた、という共通点がある。平四郎は、若い同僚の同心の間島信之輔、岡っ引きの政五郎らと真相究明にあたる。..あたると言っても、平四郎は一見するとほとんど活躍しない。

 本書の魅力の1つは、その登場人物たちの多彩さにある。しかもそれぞれの人物が揃って魅力的だ。平四郎の甥で美形の少年の弓乃助、政五郎の子で抜群の記憶力を持つ三太郎、面倒見の良いお菜屋の女主人のお徳、信之輔の大叔父で枯れた老人の元右衛門....
 挙げていけばればキリがない。上下巻合わせて千ページを超える長編で、多くの人物が物語に絡んできて上に、政五郎の手下や町医者の先生や長屋の野菜売りのおじさん、といった端役に至るまで個性的だ。しかも揃って友達になりたいほどの「気持いい」人たちなのだ。

 上下巻の「上」は連続殺人事件の謎解きミステリー、「下」は犯人の探索行と人情話。千ページは長いが楽しみも多い。

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「おまえさん(上)(下)」 固定URL | 2.小説 | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月14日 (土)

小太郎の左腕

著  者:和田竜
出版社:小学館
出版日:2009年11月2日 初版第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 「のぼうの城」「忍びの国」に続く、著者のデビュー3作目。「のぼうの城」は、ベストセラーになって映画化され、東日本大震災による曲折を経て今秋に公開予定、と評判が高い。第2作の「忍びの国」は、それよりもさらに楽しめたので、第3作の本書は期待が大きかった。

 時代は戦国期、1556年。桶狭間の戦いの4年前、織田信長がまだ尾張国も統一していない頃で、各地で国人領主らが盟主を立てて、小競り合いを繰り広げていた時代。主人公は、そんな盟主の1つ戸沢家の重臣、林半右衛門。六尺を超す身の丈に丸太のような腕と脚、という大男。戦場では「万夫不当の勇士」と恐れられていた。

 戸沢家と敵対する児玉家にも、花房喜兵衛という豪勇の重臣がいる。半右衛門と喜兵衛は、互いを認め合いながらも、合戦、一騎打ち、籠城戦、謀略と、様々な形で激突する。そこに、小太郎という名の少年や、半右衛門の過去などが絡んでくる。

 正直に言って、物語に乗りきれなかった。功名と名誉を何より重んじ、勇猛と潔さを敬い卑怯を嫌う、命のやり取りさえカラリとやってのける。著者が「この時代の男たちは...」と言って、しつこいぐらいに繰り返す「男の美学」。本書は言わばその美学を、半右衛門と喜兵衛が体現する物語だ。

 私としては、それを貫いてくれれば良かった。その美学を危うくする事態の出来によって、物語に起伏が生まれ、登場人物の描写にも深みが増したのは分かる。こうしたことを高く評価する向きもあるだろう。ただ私はそうして欲しくなかった。

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2012年4月11日 (水)

歪笑小説

著  者:東野圭吾
出版社:集英社
出版日:2012年1月25日 第1刷
評  価:☆☆☆☆(説明)

 本書は、2011年に「小説すばる」に掲載された短編12編を収録した短編集。著者には「〇笑小説」というユーモア短編集のシリーズがあり、本書はその4番目。

 12編すべてが、小説家や編集者ら出版業界の人々の悲喜こもごもを軽妙に描いた作品。登場人物が共通していて、作品間につながりがあるので、連作短編集としても読める。

 「編集者に必要な3G」は「ゴルフ、銀座、ゴマすり」。秘技「スライディング土下座」。冒頭の作品「伝説の男」では、小説家に気に入られ、原稿をもらうためのあの手この手が次々と繰り出される。

 このような登場人物たちのいささか誇張された言動によって、ゴマスリ編集者をチクリと刺し、行き過ぎたファンをやんわりとたしなめ、本が読まれても作家に還元されない現状に異議を申立てる。そして返す刀では「普通の仕事ができないから...」「小学生以下」と、小説家つまり自身をも一刀両断する。

 全部の物語にオチが付いている。どんでん返しあり、苦笑いあり、そして「いい話」あり。出版関係者を面白おかしくこき下ろしてはいるけれど、著者はきっとこの業界が好きなんだろう。随所に小説家の先輩や、編集者たちへのリスペクトを感る。

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2012年4月 9日 (月)

本屋大賞予想

 明日10日は、本屋大賞の発表日です。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、今年は本屋大賞ノミネート作品を積極的に読んできました。それでもノミネート10作品のうち8作品止まりで、2作品は未読に終わってしまいました。

 読んだのは、「偉大なる、しゅららぼん」「くちびるに歌を」「誰かが足りない」「人質の朗読会」「ビブリア古書堂の事件手帖」「舟を編む」「プリズム」「ユリゴコロ」。読んでないのは、「ジェノサイド」「ピエタ」です。

 ブログのお友達の板栗香さんが「マロンカフェ」で、本屋大賞の予想をされてます。明日が発表という日にしかも2作未読のままで、厚顔だとは思いますが、私もマネをして予想をしてみます。

 本命:「ジェノサイド」 対抗:「くちびるに歌を」「ビブリア古書堂の事件手帖」 大穴:「ユリゴコロ」

 未読の「ジェノサイド」を本命にするという暴挙ですが、8作品読んだところで「これだ!」という作品がなかったための苦肉の策です。本読みの予想としてあるまじき行為ですが、「方々で高い評価を受けているから」というのが本命にした理由です。

 「くちびるに歌を」「ビブリア古書堂の事件手帖」は、広い読者層に安心して薦められる、という意味で、書店で売りやすいだろうと思いました。昨年の大賞作品「謎解きはディナーのあとで」と同様の、ライトノベルテイストな作品であることも理由です。(ただ、文庫本の受賞は難しいかなぁ。)

 「ユリゴコロ」は、私ならおススメする人を選びます。読書にダークなものを求めない人も多いからです。だから大賞にはしません。ただ、ノミネートされているのだから、この作品を推す書店員も多いのでしょうし、巷に「まほかるブーム」なる言葉も散見されます。

 過去にも2009年の「告白」のように、ダークな内容を含んでいても「これはスゴイよ!」という作品が支持を集めたことがあります。その他の年の大賞作品は「広い読者層に薦められる」傾向があるようなので、この両者のせめぎ合いの中で、「これはスゴイよ!」が勝れば、この作品が選ばれそうです。

-----------------

(2012.4.10 追記)

 発表されました(「本屋大賞 公式サイト」)。大賞は「舟を編む」。以下、2位「ジェノサイド」、3位「ピエタ」、4位「くちびるに歌を」、5位「人質の朗読会」、6位「ユリゴコロ」、7位「誰かが足りない」、8位「ビブリア古書堂の事件手帖」、9位「偉大なる、しゅららぼん」、10位「プリズム」。

 「舟を編む」は、名前も挙げていないわけで、予想はハズレでした。本命にした「ジェノサイド」が2位、対抗の「くちびるに歌を」が4位(3位の「ピエタ」は未読)、ということで、ほんの僅かだけどかすったことにしようと、自分に言い聞かせてます。

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2012年4月 8日 (日)

シティ・マラソンズ

著  者:三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵
出版社:文藝春秋
出版日:2010年10月30日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本書は、スポーツ用品メーカーのアシックスの「マラソン三都物語」というプロモーションで、3人の人気女性作家がそれぞれ書き下ろした短編を収録したもの。その3人というのは、三浦しをんさん、あさのあつこさん、近藤史恵さん。これは贅沢だ。

 「三都物語」の「三都」とは、ニューヨーク、東京、パリの3つ。それぞれで毎年3万5~6千人もの市民ランナーが参加する、シティマラソン大会が催されている。三浦さんが「ニューヨークシティマラソン」あさのさんが「東京マラソン」、近藤さんが「パリマラソン」。それぞれのマラソン大会を題材にした物語を書き下ろしている。

 マラソン大会当日を描いたのは、三浦さんだけ。主人公を大会の参加者にしなかったのは、あさのさんだけ。主人公が陸上経験者じゃないのは、近藤さんだけ。三者三様だ。しかし、共通するものも見える。それは「回復」の物語だ。

 3人の主人公たちは、それぞれ挫折を経験している。いや、それは挫折とも言えないかもしれない。人生のどこかに置き忘れてしまったもの。そこの部分には穴が空いているので、本人もそうと気づかないけれど満たされない思いが募っている。そんな感じ。

 その穴がマラソンに関わることで埋められる。きっと「走る」ということは、人間の欲求や感情と深く結びついているのだと思う。小さな子どもたちを広い場所に連れて行くと、意味もなく駆け出すのは、それが気持ちいいからだ。

 そう、元来「走る」ことは気持ちいい。タイムや順位に拘れば辛いことが多くなる。しかし3万5千人もの参加者の多くは、気持ちよさを求めて集うのだろう。ネットには各大会の優勝記録が載っているけれど、記録には残らない何万何十万もの参加者と、その周辺の一人ひとりに物語があることを、本書は教えてくれる。

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2012年4月 4日 (水)

プリズム

著  者:百田尚樹
出版社:幻冬舎
出版日:2011年10月5日 第1刷発行
評  価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。「ユリゴコロ」「誰かが足りない」と同じく、私にとっては著者の初めての作品。

 主人公は梅田聡子、32歳。5年ほど前に結婚した2歳年上の夫がいる。2年前に体調を崩して、勤めていた出版社を退職したが、体調も戻ってきたので家庭教師センターに登録。初めての仕事のために、成城の資産家の岩本家を訪れるところから物語は始まる。

 表題の「プリズム」というのは、小学校か中学校で使ったことがあるはずの、透明な三角形の器具のこと。そう、あの「プリズム」。光を通すと何色もの光に分散される。逆に言うと、私たちが普段見ている光は、波長の違う何色もの光が合成されたものだと分かる。

 ネタバレになるので詳しくは言えないけれど、人間だって光と同じだというわけなのだ。一人の人間が、優しいところと冷淡なところを併せ持っていることもある。そうした異なった側面や性格が合わさって、1人の人間性を形作っている。
 ただ、それが極端な形でバラバラに現れると、周囲の人は翻弄されてしまう。聡子が岩本家で出会った男は、ある時は攻撃的に、ある時は軽薄に、ある時は紳士的に聡子に接する。

 本書はジャンルとしては「恋愛小説」。「会いたくないけど待ってしまう」みたいな、揺れ動く心の様がよく描かれている。それから設定の妙によって、人間の心理の深い部分も。ただ、「何でそこで行ってしまうのかなぁ」と思う場面が何度かあり、男の私としては、聡子にはもう少し慎重に行動して欲しかった。

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